次話は現在、執筆中なのでもう少し早く更新出来ると思います。
「リアス先輩。現在、学園を大きな結界で覆ってます。これでよほどのことがない限りは外に被害は出ません」
匙が部長に現状報告をしていた。
匙の動きが微妙にぎこちないような………。
尻叩きの影響かな?
木場をのぞいた部員メンバー全員が今、駒王学園の前にいる。
匙の言う通り、シトリー眷属によって学園は大きな結界に覆われている。
ただ、これはあくまで、中で起きたことを外に出さないための措置。
相手はコカビエルだ。
正直、この結界では心もとない。
「これは飽くまで最小限に抑えるものです。正直言って、コカビエルが本気を出せば学園どころかこの町ごと崩壊させることも可能でしょう」
会長が匙の説明に付け加える。
やっぱりそれだけの存在なんだな、コカビエルは。
「美羽、あの魔法陣が何か分かるか?」
俺が指差す方向には校庭全体に描かれた魔法陣。
その中央には四本の剣が神々しい光を発しながら、宙に浮いている。
「うーん、ボクにも良く分からないよ。ただ………」
「ただ?」
美羽がそこで言葉を切ったので俺は聞き返した。
「あの魔法陣、凄く嫌な感じがする………」
美羽がそう言うってことはよっぽどヤバイやつなんだろうな。
さて、どうするかな………。
ドライグ、禁手の状況はどうよ?
『後十分弱と言ったところか。それくらいならティアマットの手を借りずとも何とかなるだろう』
十分………ドライグの言う通り、それくらいならコカビエルの相手をするのにティアの手を借りる必要はないか。
それに、コカビエルは俺自身の手で殴っておきたいからな。
「ありがとう、ソーナ。あとは私達がなんとかするわ」
「リアス、相手はケタ違いの化け物なのですよ?」
ソーナ会長の声を遮るように部長が言う。
「分かってる。だからこそお兄様に連絡するよう、朱乃に言っておいたわ。………朱乃、お兄様はなんて?」
朱乃さんが一歩前に出て答える。
「あと四十分程度で到着するようですわ」
「四十分………。分かりました。その間、私達シトリーで結界を張り続けて見せます」
会長が決意を示す。
だけど、俺はそれに待ったをかけた。
「会長、結界の方に美羽を回します。いけるな、美羽」
「うん、任せて」
美羽は頷くと魔法陣を展開させて結界を強化する。
これには会長は驚き、部長は感嘆の声をあげる。
「これは………。なるほど、これならかなりもちそうですね」
「流石は美羽ね。私や朱乃に魔法を教えられるだけはあるわ」
よし、これで結界の方は何とかなるはずだ。
「さあ、私達も行きましょうか。皆、死んではダメよ。生きてあの学園に通いましょう!」
「「「はい! 部長!」」」
俺たちは気合の入った返事をする。
「頼んだぞ、兵藤!」
「ああ、任せろ! 匙も結界の維持、よろしくな!」
俺と匙は拳を合わせる。
すると、今度は美羽が俺の傍に寄ってきた。
「必ず、あいつをぶちのめしてきてやる。心配すんな」
「うん!」
俺はニカッと笑みを浮かべると美羽も微笑み返す。
さて、美羽と約束した以上、絶対に負けるわけにはいかないな。
行くぜ、ドライグ!
『相手は聖書に記されしコカビエル。不足はない。奴にドラゴンの力を見せつけてやれ』
▽
堂々と正面から入り、コカビエル達の前に俺たちは立った。
目の前には魔法陣の傍にいるバルパー。
そして、宙で椅子に座って、俺たちを見下ろすコカビエル。
どうでもいいけど、椅子を浮かしてるのは堕天使の力か?
便利だな。
「こんなデカい魔法陣を敷いて何をするつもりだよ?」
疑問を口にする俺。
「四本のエクスカリバーを一つにするのだよ」
バルパーは笑みを浮かべながら答えた。
「バルパー、あとどれぐらいでエクスカリバーは統合できる?」
「五分もかからんよ、コカビエル」
「そうか。では引き続き頼む」
コカビエルはバルパーの答えを聞いた後、俺たちの方に視線を戻した。
「初めましてだな、リアス・グレモリー。その紅髪、おまえの兄にそっくりだ。忌々しくて反吐が出そうだよ。それで? 今回来るのはサーゼクスか? それともセラフォルーか?」
「魔王さまの代わりに私たちが相手になるわ!」
部長が答えた瞬間、閃光が走り、体育館を吹き飛ばした。
体育館が跡形も無くなってしまった。
「実につまらん。だがまぁ、余興にはなるか」
馬鹿デカい光の槍だな。
ドーナシークが使っていたものなんか比較にできないほどの大きさだ。
悪魔の俺が生身でくらったら即アウトかな。
『ビビったのか相棒?』
まさか。
あれくらいでビビるかよ。
「さて、俺のまずはペットと遊んでもらおうか」
コカビエルが指を鳴らす。
すると、魔法陣がいくつも展開され、十メートルはあるであろう三つ首の犬が出てきた。
数は十体は超えている。
「ギャオオオオオオオオォォォォォォンッッ!」
三つ首から発せられた咆哮が周囲を震わせる。
うるせぇ!
俺は耳を指で塞ぎながら部長に尋ねた。
「部長、あれは?」
「ケルベロス―――地獄の番犬の異名を持つ有名な魔物よ」
ケルベロスって漫画とかにも出てくるアレか。
へぇ、あれがそうなのか。
「本来は冥界に続く門の周辺に生息しているの。それを人間界に連れてくるなんて! 行くわよ、朱乃!」
「はい、部長!」
部長と朱乃さんがケルベロスに向かい飛んで行った。
よし、俺も行きますか!
俺は籠手を展開して倍加をスタート!
『Boost!』
籠手から倍加の音声が発せられる。
「アーシアは防護障壁を張って身を守ってくれ。誰かが負傷したらオーラを送って治療を頼む!」
「分かりました! 皆さんのケガは私が治します!」
うん、良い返事だ!
早速、俺の近くにいたケルベロスがうなり声をあげながら突っ込んで来た。
「アーシア、下がってろ!」
「は、はい!」
俺の指示に従いアーシアは後退する。
すると、ケルベロスはアーシアの方に狙いを変えやがった!
「ガアアアアア!!!」
「てめぇの相手は俺だよ! 駄犬!」
突進してくるケルベロスの頭を上から殴り付ける。
錬環勁気功で強化した俺の拳はケルベロスをグラウンドにめり込ませた。
「よし、次だ!」
「………地獄の番犬を一撃ですか………。やっぱりイッセー先輩は色々おかしいです」
うーん。
なんか、凄く失礼な事を言われた気がする。
というより、そう言う小猫ちゃんだって既に倒してるじゃん。
………見ると、小猫ちゃんが倒したケルベロスの体は至るところが凄い形に変型してる。
小猫ちゃん、やり過ぎだよ。
よく考えると凄い光景だよな。
ロリロリの小猫ちゃんの後ろにボコボコの魔獣が倒れてるんだぜ?
なんて恐ろしい光景なんだ。
ブォン!
小猫ちゃんがケルベロスの死骸をこっちに投げてきた!?
「なんで!?」
「………ロリって言ったからです」
「………いつも思うんだけどさ、小猫ちゃんは俺の心を読む能力でも持ってるの?」
「………」
黙らないで何か答えて!
気になるから!
「………馬鹿な事を言ってないでさっさと倒してください」
小猫ちゃんはそう言うと他のケルベロスに躍りかかる。
あー、気になる!
なぜ、小猫ちゃんがいつも俺の心を読んでくるのか!
「ガアアアア!!!」
おっと。
また、来やがった。
とりあえず、小猫ちゃんのことはまた改めて聞くとしよう。
なんか、炎を吐いてきたし。
「そんな炎で俺がやられるかよ!」
まだ、ライザーの炎の方が熱かった。
あんなしょぼい攻撃なんか屁でもねぇ!
素早く懐に入り込み、顎目掛けてアッパー!
顎が砕ける感触が拳を通じて伝わってくる。
よっしゃあ!
これで二体目!
すると、上空で俺達の戦いを眺めていたコカビエルが感嘆の声を上げる。
「ケルベロスを一撃とは………。流石は赤龍帝と言ったところか。リアス・グレモリーと他の眷属も中々やるようだ」
「当たり前だろ。俺の仲間を舐めると痛い目みるぜ?」
「それは楽しみだ。だが、赤龍帝。アレは良いのか?」
コカビエルが指差す方向にはケルベロスに襲われているアーシアの姿。
今は防御障壁で防いでいるけど、障壁にはヒビが入っている。
あれでは長くもたない。
「アーシア!」
部長の焦る声。
だけど、心配はいらない。
なぜなら―――
「遅くなりました、部長」
「加勢に来たぞ、グレモリー眷属」
首を斬り落とされ、アーシアを襲っていたケルベロスは絶命した。
そこには、魔剣を構える木場と聖剣を構えるゼノヴィアの姿があった。
▽
「遅ぇよ、イケメン王子!」
「ハハハ、ごめん」
「とりあえず、遅れた分はきっちり働いてもらうからな」
「もちろんだよ、イッセー君!」
木場はそう言うとケルベロスに斬りかかる。
騎士のスピードで翻弄して次々と斬撃を与えていく。
ゼノヴィアはというと木場同様にケルベロスに斬りかかっていた。
破壊力抜群の一撃がケルベロスの腹を割る。
傷口からは煙が立ち込め、胴体が大きく消失していく。
「聖剣の一撃は魔物に無類のダメージを与える!」
トドメの一撃を受けたケルベロスは体が塵と化して消滅した。
相性抜群だな!
「私達も負けていられませんわ!」
「ええ。一気に片付けてしまいましょう!」
朱乃さんと部長が特大の魔力を放つ!
雷と滅びの魔力が生き残っていたケルベロスを全て消滅させる。
あんなのは絶対にくらいたくないな。
まともにくらったら重傷だろうな。
『そうか? 相棒なら耐えられるんじゃないのか?』
ドライグ………おまえは俺のことをなんだと思ってるんだよ?
俺はライザーみたいに不死身じゃねぇんだよ。
『禁手ならどうなんだ?』
まぁ、それなら耐えられるかな。
「消し飛びなさい!!」
部長がコカビエルに対して滅びの魔力を放った。
さっきのやつよりもデカい。
朱乃さんもそれに続く。
よし、俺も!
『Transfer!』
気弾を手元に作り出し、力を譲渡!
「くらいやがれぇ!!」
俺達三人が放った攻撃は空中で混ざり、コカビエルを襲う!
バシィィ!!
俺達の攻撃を受け止めながらコカビエルは嬉々とした表情を浮かべる。
「フハハハ!! 良いぞおまえ達! ここまでとは思わなかった! 面白い! 実に面白いぞ!」
おいおい、マジかよ。
あいつ、今のを受け止めやがった!
しかも、笑っていやがる!
『だろうな。やつは過去の大戦で魔王、神を相手にして生き残ったのだからな。あれくらいは当然だ』
分かってたけど、とんでもねぇな。
やっぱり、あいつを相手取るには禁手じゃないとキツい………か。
「―――完成だ」
聞こえて来たのはバルパーの嬉々とした声。
神々しい光が校庭を覆う。
あまりの眩しさに俺を含めた全員が顔を手で覆った。
四本のエクスカリバーが一本に統合される。
そして、陣の中心に異形の聖剣が現れた。
「エクスカリバー………ッ!」
木場が憎々しく呟く。
エクスカリバーが統合されたことで笑みを浮かべるバルパー。
「エクスカリバーが一本になった光で下の術式も完成した。あと20分程度でこの町は崩壊するだろう。早く逃げることをオススメする」
「「「!?」」」
バルパーの言葉にこの場にいる全員が驚いた。
駒王町が崩壊!?
クソッ、美羽が嫌な感じがすると言ってたのはこれか!
皆が焦る中、木場がバルパーに近づいていく。
「バルパー・ガリレイ。僕はあなたの聖剣計画の生き残りだ。いや、正確にはあなたに殺された身だ。今は悪魔に転生したことで生き永らえている」
冷静な口調で言う木場だが、はっきりとした憎悪が木場から感じられる。
「僕は死ぬわけにはいかなかったからね。死んでいった同志のために!」
木場が剣を構えてバルパーに斬りかかる!
だが、コカビエルが木場を狙っている!
マズい!
「待て! 避けろ木場ァ!!」
ドオオォォォォォン!!
コカビエルの槍が木場を襲う!
間一髪で避けたから直撃はしていないが、攻撃の余波で木場はボロボロになってしまった。
「直撃は避けたか。赤龍帝に感謝するんだな」
「コカビエル! てめぇ!」
「ふん。フリード」
コカビエルがあのクソ神父を呼ぶ。
「はいな、ボス」
バルパーの後ろからフリードが現れた。
「陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ」
「ヘイヘイ。全く、俺のボスは人使いが荒くてさぁ。でもでも、素敵に改悪されちゃったエクスカリバーちゃんを使えるなんて、感謝感激の極み、みたいな? ウヘヘ! さーて、悪魔ちゃんでもチョッパーしますかね! いや、ここはまずイッセー君をやっちゃいましょうか!」
相変わらずふざけたことを言いながら、フリードが合体したエクスカリバーを握った。
俺をご指名かよ………執念深いやつだな。
『というより、愚かだな。あの程度で相棒を殺そうなど片腹痛い』
俺もその意見には同意するぜ、ドライグ。
フリードなんぞに俺が負けるかよ。
「うっ………」
木場が立ち上がろうとするが、その場に膝を着く。
息も荒い。
思った以上にダメージが大きい。
「被験者の一人が脱走したとは聞いていたが、卑しくも悪魔になっていたとは。それもこんな極東の国で会うとは数奇なものだ」
バルパーが木場に近づき、語りかける。
「だが、君達には礼を言う。おかげで計画は完成したのだから」
「………完成?」
「君達、被験者にはエクスカリバーを操るほどの因子はなかった。そこで、私は一つの結論に至った。被験者から因子だけを抜き出せば良い、とな」
「っ!?」
バルパーの言葉に木場は目を見開く。
バルパーは自慢げに話を続ける。
「そして、私は因子を結晶化することに成功した。これはあの時に出来たものだ。最後の一つになってしまったがね」
バルパーが懐から輝くクリスタルのようなものを取り出した。
あれが聖剣の因子なのか?
バルパーの横でフリードがおかしそうに笑う。
「ヒャハハハ!! 俺以外のやつらは途中で因子に体がついていけなくて死んじまったんだぜ! やっぱ、俺ってスペシャルなんすかねぇ!」
すると、俺の隣にいたゼノヴィアな何かに気付いたように呟いた。
「なるほど、読めたぞ。聖剣使いが祝福を受けるとき、体に入れられるアレは因子の不足を補っていたのか」
ゼノヴィアの言葉にバルパーが忌々しそうに言う。
「偽善者どもめ。私を異端として追放しておきながら、私の研究だけは利用しよって。どうせ、あのミカエルのことだ。被験者から因子を取り出しても殺してはいないだろうがな」
「………だったら、僕達も殺す必要は無かったはずだ。それなのにどうして………」
「おまえ達は極秘計画の実験材料にすぎん。用済みとなれば廃棄するのは当然だろう?」
「僕達は役に立てると信じてずっと耐えてきた………それを廃棄………」
木場は何とか立ち上がるけど、今の話を信じられないような目をしている。
俺だって信じられねぇよ。
どう考えても人のすることじゃない………!
バルパーが木場の足元に結晶を投げる。
「欲しければくれてやる。今ではより精度の高い物を量産する段階まで来ているからな」
木場は結晶を手に取って呆然と見つめた。
結晶を握り締めて、体を震わせる。
涙を流しながら。
その時だった。
結晶が淡い光を放ち、校庭を包み込むように広がった。
木場の周りにポツポツと光が湧き、人の形をとる。
………これはいったい?
「この戦場に漂う様々な力が因子の球体から魂を解き放ったのですね」
朱乃さんが言う。
木場は彼らを見つめる。
哀しそうな、懐かしそうな表情を浮かべた。
「僕は……僕はッ! ……ずっと、ずっと思っていたんだ。 僕が、僕だけが生きていいのか? って。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。それなのに、僕だけが平和な生活をしていいのかって……」
霊魂の少年の一人が微笑みながら何かを訴える。
口を動かしているが、俺には読唇術の心得はないから、何をいってるのは分からない。
すると、朱乃さんが教えてくれた。
「『自分達のことはいい。君だけでもいきてくれ』。彼らはそう言ったのです」
それが伝わったのか、木場の両眼から涙が溢れる。
魂の子供たちが一定のリズムで口をぱくぱくしだした。
「――聖歌」
アーシアがそう呟いた。
彼らは歌っている。唱っている。
木場も涙を流しながら口ずさむ。
聖歌、かれらの生きるための希望。
「ッ!」
彼らの魂が青白い輝きを放って木場を中心に眩しくなっていく。
『大丈夫』
魂たちの声が俺にも聞こえる。
『僕らは、独りだけでは駄目だった――』
『私たちでは聖剣を扱える因子は足りなかった――』
『けれど、皆が集まれば、きっと大丈夫だよ―――』
本来ならば悪魔が聖歌を聴けば、悪魔の俺たちは苦しむ。
けれど、その苦しみを今は感じない。
むしろ、温かなものを感じる。
『聖剣を受け入れよう――』
『怖くないよ――』
『たとえ、神がいなくとも――』
『神が見ていなくたって――』
『僕たちの心はいつだって――』
「『ひとつだ』」
彼らの魂が一つの大きな光となって木場を包み込んだ。
ドライグ、これは――
『ああ、相棒が思った通りだ。あの騎士は至った。所有者の想いが、願いが、この世界に漂う流れに逆らうほどの劇的な転じ方をしたとき、神器は至る。それが――』
「―――
俺はそう呟いた。
夜天の空を裂く光が木場を祝福しているかのように見えた。