ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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10話 ゼノヴィア、吹っ切れます!  

翌日。

 

教会の戦士達との決闘が明日の午前0時。

そんでもって、俺が冥府に向かうのが今日の夜九時頃だ。

 

早く奪還したいという声もあるが、慌てていくと痛い目を見るのはこちらだ。

出来るだけベストな状態で事に取り組まないと取り返すどころか、逆に失ってしまう。

 

俺がサーゼクスさん達に伝えた切り札のこともある。

さてさて、どういう布陣で行くべきか………。

 

そんなことを考えながらも俺はいつものように学校に登校。

旧校舎の一室を借りて、選挙当日に行うスピーチの内容を確認していた。

 

「えー、私が生徒会長に立候補した理由は………」

 

プリントを確認しながら、暗記するように呟いていくゼノヴィア。

その横ではアーシア、イリナ、桐生の姿もあって三人でゼノヴィアの言葉をチェックしている。

当日に話すポイント、公約の重要性、話す順番はどうなるかの予想など思い付く限りの案を出してホワイトボードにメモっていく。

 

ゼノヴィアはもちろんのこと、サポートの三人の表情も真剣そのものだ。

 

話もある程度まとまったところで一旦休憩となる。

 

俺はお茶の用意する桐生に何となく聞いてみた。

 

「桐生もさ、悪魔が実在するって知ったときは驚いたか?」

 

「そりゃそーでしょ。今までアニメ、漫画、ゲームの中の存在だと思ってたのよ? ファンタジーすぎるでしょ、あんたら」

 

ま、それもそうだ。

 

俺も昔は桐生と同じように………ってか、それが一般常識で、悪魔とか天使とかってのは創造の産物、フィクションだと思ってたよ。

 

俺の場合はドライグがいて、そういうことを教えてくれていたから、初めて異形と呼ばれる存在に会っても動揺しなかったけど。

 

いや、それ以前に異世界の経験もあるか。

今思えば俺の存在ってそのファンタジーの中でも更にファンタジーなんだよなぁ。

 

「悪魔が生徒会長になること、おまえはどう感じる?」

 

悪魔が生徒会長をする学校、それがこの駒王学園だ。

前会長のソーナもそうだし、これからなろうとしてるゼノヴィアも花戒さんも悪魔だ。

 

一般生徒である桐生はそれをどう思うのか。

 

ただ、こうしてゼノヴィアを手伝ってくれているということは、俺の心配も杞憂だと思うんだけどね。

 

俺の問いに桐生は即答した。

 

「別に良いんじゃない? ゼノヴィアっちも花戒さんも私達を取って食おうなんて思ってないだろうし。あんたらも悪魔っていうけど、そういうわけじゃないんでしょ? というか、アーシアなんか逆に食べられそうじゃん」

 

「それ意味違くね?」

 

「あ、そっか。あんたが食べたんだっけ?」

 

「おぃぃぃぃぃ! なんで知ってる!?」

 

「ふっふっふー! 私の目は誤魔化せないわ! そんなのアーシア達の雰囲気見れば分かるのよ」

 

な、なんて奴だ…………!

まさか、こいつは見ただけで処女かそうでないか分かるというのか!?

 

桐生は俺の肩に手を置くとスケベな笑みを浮かべて、

 

「で? 感想は?」

 

「…………美味しくいただきました。めっちゃ、可愛かったです」

 

「だってさ。良かったわね、アーシア」

 

話を振られるアーシアだが、その顔は真っ赤だった!

 

だよね!

そうなるよね!

俺も恥ずかしすぎて死にそう!

 

顔真っ赤の俺達の様子を楽しむように眺める桐生はニパッと笑う。

 

「話を戻すけどさ、人間とか悪魔とかって生物的な違いな訳でしょ? 人間社会に準じようとしているところなんて健気というか、ありがたい話じゃん。何より、人間よりめちゃ強い悪魔さんがいざというときに守ってくれるかもしれないんだからさ、私は大アリだと思うわよ?」

 

桐生はアーシア、ゼノヴィア、イリナの教会トリオを見渡す。

 

「ゼノヴィアっちもアーシアもイリナちゃんも友達よ。悪魔だって聞いて驚きはしたけどそこまで。それ以外は何も変わらないわ。だって、あの三人はあの三人じゃない。あんたのことだってスケベな奴って認識は変わらないし」

 

「それ以外の認識は!?」

 

「んー………あんたが世界のために戦ってるって聞いたけどスケール大き過ぎて追いつけないって言うか………。ま、どのみちスケベってのはハズレてないしいいじゃん」

 

俺の評価酷ぇ………いや、スケベってのはハズレてないけど。

 

しかし、桐生が好意的に俺達を見てくれているのは嬉しかった。

悪魔だと知ってもアーシア達を変わらず友達と言ってくれる。

 

種族が違っていてもこうして分かり合える。

こっちの世界でもそれを感じることができた。

異形と異形だけでなく、異形と人間もこうして―――――。

 

いつかは俺達異形の存在と人間が互いを認めあう日が来るのかもな。

 

「桐生」

 

「ん?」

 

「ゼノヴィアのサポート、これからも頼むわ」

 

「任せなさいよ。最善は尽くしてあげる」

 

 

 

 

帰宅した俺は一度シャワーを浴びて汗を流すと、自室に一人籠っていた。

 

さっき、アザゼル先生から連絡が入った。

どうやら冥府へ入る許可が正式にギリシャ勢力から下りたらしい。

まぁ、昨日の段階で俺の冥府入りはほぼ決まっていたようなものだし、今更な報告だったんだけどね。

 

俺はベッドに寝転んだ状態で、掌を天井に向けた。

 

………いまいちアセムのやりたいことが分からない。

最初はリゼヴィムと手を組んでいる時点でとんでもない悪だと思ってたし、あいつの言動も悪そのものだった。

 

ただ………今までの行動を思い返すとどうだろうか?

 

吸血鬼の町では、崩壊していく町を見て笑い、邪龍に変えられた吸血鬼達を嘲笑っていた。

まぁ、あれは吸血鬼の上役達の自業自得とも言える行動だったけどさ。

 

次に冥界のアウロス学園。

ベルが複製した俺の力を使って町全体に結界張るは魔法使い達を封印するわで散々やってくれた。

町の防衛戦ではラズル達が出てきて戦うことになったし、あれで相当消耗することになった。

しかも、最後に量産した俺の複製体までぶつけてきやがった。

 

先日の天界での件。

ラズル達は………まぁ、置いておく。

あいつらピクニックしに来てただけだから。

アセムは『システム』の中に入り込み、その中身を探った。

 

そして、冥府。

今度は奴自身が出向き、ハーデスを消滅の一歩手前まで痛め付け、冥府を蹂躙するというとんでもないことをしてくれた。

 

どれもこれもが世界を混乱に貶める行為。

 

しかし………冥府の件を除けば、実質的な被害を出しているのは殆どリゼヴィム率いるクリフォトじゃないのか?

 

リゼヴィムに協力はしているのだろうが、アセムからすれば微々たる力だろう。

本気でリゼヴィムに協力していれば、もっと酷い被害が出ているはずだ。

少なくとも吸血鬼の町もアウロス学園も天界も壊滅は免れなかったと思う。

 

 

――――僕はこの世界において、理不尽の一つになる。

 

 

天界でイグニスの言葉を聞いたアセムはそう言った。

 

理不尽の一つになる…………圧倒的な力で世界征服でもしようと言うのかね?

その足掛かりが冥府なのか?

 

「分からねぇ………。あいつの目的が…………俺に何を期待しているのか………」

 

今回の冥府入りでその辺りを聞き出せればいいが………。

 

ふと時計を見ると出発まであと四時間ほどたった。

 

今は体を休めて、万全の状態に持っていかないとな。

そういうわけで、一眠りしようとした俺だったが………。

 

『イッセー、いるかい?』

 

「ゼノヴィア?」

 

扉を開けて入ってきたのは部屋着姿のゼノヴィアだった。

短パンにタンクトップとかなりラフな格好で、ベッドに寝転がる俺のところに寄ってきた。

 

「選挙活動の話し合いは終わったのか?」

 

「とりあえずはね。アーシア達の助けもあって順調に進んでいるよ」

 

「そっか。そりゃ良かった」

 

「ああ。………美羽達はいないのかい?」

 

「美羽とアリス、それからレイヴェルは風呂だ。俺はさっき上がってきたところ。今のうちにある程度体を休めておかないといけないからな」

 

「………そうか。イッセー達は夜に出るんだったな」

 

俺達赤龍帝眷属が冥府に向かうことはリアス達はもちろん、他の『D×D』メンバーも知っている。

アセム達と戦うことを知って不安になったのか、かなり心配してくれた。

 

一応、大丈夫とは伝えているけど………気休めにもならないか。

 

ゼノヴィアもそれは同じで、

 

「私は実際に戦ったことはないが、木場がやられた件やイッセー達の話でどれだけの相手なのかは分かるつもりだ。………本当に大丈夫なのか?」

 

「百パーセント大丈夫とは言えないけど、絶対に帰ってくるさ。つーか、おまえも戦わなきゃいけない相手がいるんだから、そっちに集中しろよ。確かに今回のは内輪揉めで、殺し合いになんてならないと思う。でも、実際に剣を交える以上、もしものことも考えられるんだ。一瞬の油断が生死を分けることになるのはおまえも知っているだろう?」

 

「それは分かっている。相手はあのストラーダ猊下だ。油断なんて出来ない………」

 

「不安か?」

 

俺が問うと、ゼノヴィアは真剣な表情で訊いてきた。

 

「………私は超えられるだろうか? ソーナ前会長を、ストラーダ猊下を」

 

ゼノヴィアが越えなければならない相手。

ソーナもヴァスコ・ストラーダも強敵だろうな。

 

「私は………やる以上は前任者を超えたいと思っている。戦士としても、駒王学園の生徒としても」

 

不安には思っているけど、やるからには勝つって顔をしている。

こいつはいつも勝ち気で何事にも全力で突っ込んでいくからな。

 

「今更なんだけどさ、どうして生徒会長になりたいなんて思ったんだ?」

 

本当に今更だけど俺は訊いてみた。

 

今までゼノヴィア達の選挙活動を見て来たし、ちょっとした手伝いもしてきたけど肝心なところを訊いてなかったんだよね。

ゼノヴィアがあまり自分からそういうことを話さないってこともあるんだけどさ。

 

ゼノヴィアは暫しの沈黙の後に口を開いた。

 

「………私は教会で育った。だから、学校に通うのは初めてだったんだ。授業も、休み時間にクラスメイトと話すことも、部活動も、学校の行事も修学旅行も全てが新鮮でやりがいがあって楽しかった。私はあの学園が………駒王学園が大好きなんだと思う。あんな楽しい場所があっていいのだろうかとさえ思ってしまうんだ。私は………恩返しがしたいんだと思う。いや、私はあの学校に何かを残したいんだ。それで生徒会長になって、学校のために尽力したいと思ったんだ」

 

学校に通うことは俺にとっては当たり前のことだった。

小学校、中学校、そして高校と、授業を受けてクラスメイトと話して。

それが当たり前だった。

 

でも、ゼノヴィアにとってはそうじゃなかった。

教会で育ち、戦士として育成された彼女にとって学校はそれほどまでに楽しいと感じられるものだったんだ。

 

ゼノヴィアがベッドの上に大の字になって寝転がる。

その表情は何かに気づいた様子だった。

 

「そうか。これを皆に伝えればいいんだ―――――私の想いを。回りくどいことなんて、必要なかったんだ………」

 

「不安は消えたか?」

 

「ああ」

 

「そっか」

 

短い言葉で返す俺達。

 

ゼノヴィアがそう言うんなら、俺は何も言わない。

ただこいつを信じるだけだ。

 

俺はゼノヴィアの頭をワシャワシャ撫でると微笑んだ。

 

「頑張れ。おまえなら出来る」

 

「ああ、私はやるぞ。………ところで、イッセー」

 

「ん? おわっ!?」

 

ゼノヴィアに腕を引っ張られ、ベッドの上に転ばされる俺!

そして、俺の上にまたがるゼノヴィア!

 

なんだなんだ!?

 

ゼノヴィアはおかしそうに笑う。

 

「ふふっ、隙だらけだったぞ? イッセーは油断が多すぎるな」

 

「家でくらい油断させてくれよ………」

 

ゼノヴィアの言い分に俺は唇を尖らせる。

 

家くらいゆっくりしたいもんですよ。

ま、まぁ、油断しすぎて色々と事故が起こる時もあるけど。

 

「私は本気だ。会長になることも、戦士としても、そして恋もな。いつか私はイッセーと本気の子作りをする!」

 

「最後ので良いセリフが台無しだぞ!?」

 

ったく、本当にこいつは…………。

こいつらしいと言えばそうだけど。

 

ただ、ゼノヴィアが本気だと言ってくれることは嬉しいかな。

 

「ゼノヴィア」

 

「どうした、イッセー…………っ!?」

 

俺はゼノヴィアの肩を掴むとそのまま抱き寄せると、ちょうどゼノヴィアの顔が俺の胸の位置にくるように体が重なった。

 

ニヤリと笑みを浮かべながら言う。

 

「さっきのお返しだ」

 

「むぅ………やるな」

 

自身の油断を突かれたことが少し悔しいのか、ゼノヴィアの頬がぷくっと膨らむ。

こいつのこういうところって滅茶苦茶可愛いと思うんだ。

 

俺はゼノヴィアの青い髪を撫でながら時計を見る。

 

「さてさて………俺はこの後、冥府だし、予定通り一眠りとするか」

 

「ならば、私も付き合おう。というより、イッセーに抱き締められていたい。ここでイッセー成分を吸収しておこう」

 

「その成分、結局なんなの………?」

 

ゼノヴィアの温かさや鼓動が心地良い。

ゼノヴィアが来る前まではアセムのことで色々と考え込んでいたけど、そんなものは初めから無かったかのように、この温もりにかき消されていく。

 

俺はゼノヴィアを抱き締めたまま瞼を閉じた―――――。

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

駒王町にはグリゴリの施設がある。

 

そこは俺のラボだったり、堕天使側の事務所的な場所で簡単に言うとグリゴリの駒王町支部ってやつだ。

 

そこで俺はとある者達を迎え入れていた。

数は二人………いや、正確には四人か。

 

「まさかあんた達が来てくれるとはな。だが、助かる。これ以上ない戦力だろうよ」

 

俺がそう言うと、四人のうちの一人、中年の男が笑みを浮かべながら返してくる。

 

「なーに気にするこたぁねぇ。こっちもかなり世話になったんだ。これくらい当然だ」

 

「ええ。それにあの子のお願いとなれば聞かないわけにはいきません」

 

男に続き、微笑む若い女。

 

イッセーの奴め、やってくれる。

確かにこれほどの戦力ならどんな事態にも対処してくれるだろうよ。

 

なんせ俺は実際にこいつらの実力を目の当たりにしている。

その腕は信用できるものだ。

 

ただ気になるのは残る二人…………いや、二人とカウントして良いものだろうか。

 

「こいつらは一体?」

 

俺が指差すと、残る二人のうち一人が言ってきた。

 

「こいつって言わないでくれる? それに人を指で指しちゃいーけないんだ! おっさん!」

 

「こら。初対面の人にそんなこと言っちゃダメでしょ? 申し訳ありません、この子ったらあまり礼儀を知らないもので」

 

「あ、ああ。気にしてない。こっちこそ悪かったな…………」

 

もう一人の方が深く頭を下げて謝ってくるので、そう返すが………。

 

しかし、この二人は何なんだ?

以前はこんな奴ら見たことないんだが…………。

 

若い女は指先でその二人の頭を撫でながら答える。

 

「アザゼルさん、この子達は仲間です。こう見えても、とっても心強いんですよ?」

 

「そーだそーだ! 心強いんだぞ、おっさん!」

 

このちっこいの、初対面なのに俺のことおっさんおっさん言い過ぎじゃね!?

いや、おっさんだけどよ!

 

中年の男が訊いてくる。

 

「それで? 俺は(・・)ここに残っていざという時に出ていけば良いんだな?」

 

「ああ。教会の戦士達との戦いは言わば内輪揉めだからな。部外者であるあんた達が出ていくのは不味い」

 

そう、この男は保険だ。

クリフォトの横槍が入ってきた時にそれを真正面から潰せるだけの力を持った保険。

 

教会とのいざこざには使えない。

 

まぁ、出来ればそうならないのが一番だが、ほぼ確実に狙ってくるだろう。

 

ちなみにこのメンバーについては俺とイッセー達赤龍帝眷属しか知らない。

他の『D×D』メンバーには知らせていない。

 

というのも、他のメンバーには教会の戦士達の相手に集中してもらいたいという理由ともう一つ。

クリフォト側にこちらの余裕がないと見せるためでもある。

つまり、クリフォトの油断を誘うためだ。

 

リアス達は…………結構、顔に出るからな。

 

俺は真っ直ぐに四人の目を見る、頭を下げた。

 

「今回の件、力を借りることになる。―――――頼む」

 

『おうっ!』

 

 

[アザゼル side out ]




次回、冥府突入!

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