ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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初めてノーパソを購入して、ややテンション高めのヴァルナルデス!


7話 巨頭現る!

[美羽 side]

 

放課後、リアスさんや朱乃さん、ゼノヴィアさんと合流したボク達オカルト研究部。

お兄ちゃんがグリゴリの研究施設に用があるとのことで一緒じゃないのは少し残念だけど、ボク達はスイーツトークをしながら隣町の鯛焼き屋さんに向かっていた。

予定なら、皆で鯛焼きを味わいつつ、お喋りして、お兄ちゃんの分の鯛焼きも買って家路につく。

そのはずだった―――――――。

 

住宅街の一角を通り過ぎるときに感じたプレッシャー。

殺意じゃない。

それでも敵意が全くないというわけでもない。

 

「………なんだ、この感覚は………? デュダンダルが反応している………?」

 

ゼノヴィアさんの手が震えている。

右手が震え、それを左手で抑えようとするけど、その左手も小刻みに震えている。

頬を見ると汗が伝っていた。

ゼノヴィアさんも自身の異変に戸惑いを隠せないようだった。

 

その時、アリスさんがとある方に視線を向けた。

 

「………ずいぶん大胆ね。人払いの結界も張り終えてるなんて準備がいいじゃない」

 

目を細め、そう呟くアリスさん。

 

彼女の視線の先には―――――祭服を身に纏ったお爺さんが一人立っていた。

顔だけ見れば八十過ぎの外国の人。

 

でも、顔から下は老人とは思えないほど逞しい体があった。

太い首、分厚い胸板、巨木の幹のような両腕、そして一般的な男性の腰よりも太い脚。

身長も二メートルはあると思う。

 

そんなお爺さんがボク達の前に立っていた。

 

「ヴォン・ジョールノ、悪魔の子らよ。私はヴァチカンから来たヴァスコ・ストラーダというものだ」

 

――――――っ!

 

このお爺さんがクーデターを起こした大物の一人!?

確かにおっきいけど………って、そうじゃなくて。

 

その名乗りに全員が驚愕する中、お爺さんの姿が音もなく一瞬で消える!

 

そして、現れたのはボク達の正面。

かなり離れていたはずだったのに、今は手を少し伸ばせば触れられるような距離にいる。

 

―――――速い!

 

見失いそうになったけど、何とか目で追えたボク。

このメンバーの中で今の動きが見えたのはボクとアリスさんだけのようだ。

 

でも、ボクもアリスさんも驚きは隠せていない。

目では追えた。

しかし、反応できなかった。

 

油断もあったのかもしれない。

それでも、このお爺さんの動きは驚異的で、相手が武器を持っていれば、反応できていたとしても斬られていたと思う。

 

ヴァスコ・ストラーダはゼノヴィアさんに視線を送る。

 

「戦士ゼノヴィアよ。悪魔になったそうだな」

 

「お久しぶりです、ストラーダ猊下………」

 

脂汗をかきながら返すゼノヴィアさん。

いつも強気で男勝りなゼノヴィアさんが言葉を発するだけで精一杯という表情をしていた。

 

………今の動きを見ただけでわかる。

これが前デュランダル使い。

アザゼル先生が評していた通りの………ううん、それ以上の人物だ。

 

―――――強い、それも桁違いに。

これが人間、それも八十を過ぎた老人の放つプレッシャーだろうか。

 

そのしわだらけの顔は実は特殊メイクで、その下には顔の怖いおじさん………とかだったらまだ信じられるかも。

 

………とりあえず、お兄ちゃんを呼んだ方がいいよね。

ボクは不可視の魔法陣を展開するとお兄ちゃんに通信を入れる。

ついでにボクの声が聞かれないようにして、これでボクが連絡をしていることは誰にも気づかれない。

 

お爺さんに注意が行がちだけど、ボク達を囲む気配がいくつもあるしね………。

 

ヴァスコ・ストラーダは懐から何かを取り出す。

それは封筒だった。

 

「今日、ここに来た理由はこれを渡すためだ」

 

お爺さんはリアスさんに封筒を向ける。

 

リアスさんはそれを恐る恐る受け取った。

 

「こ、これは………?」

 

「挑戦状だ。私達は貴殿らに挑戦状を叩きつけに来たのだ」

 

『――――――ッ!?』

 

首謀者自ら、挑戦状!?

 

なんて豪胆で命知らずな………。

周囲に人員を配置しているようだけど、単独で姿を見せたのはボク達の度肝を抜くためか、一人でもボク達を相手どれるという自信からなのか、もしくは――――――。

 

リアスさんが肩を震わせて、怒りの声で言う。

 

「冗談ではないわ! 今がどういう状況にあるのか分かっていないわけではないでしょう!? あなたは―――――」

 

リアスさんが言い切る前にお爺さんは人差し指を向けて、その言葉を遮った。

 

「魔王の妹よ。――――若いな。若すぎる」

 

「っ!」

 

すると、指を突き出したままでいるお爺さんに問いかける者がいた。

 

アリスさんが、一歩前に出てリアスさんとお爺さんの間に入る。

 

「若い、か。あなたに比べれば私達は若いでしょう。ここにいるのはまだ十年と少しを生きた者たちだもの。最年長の私でさえ二十年よ。八十を過ぎたあなたに比べればひよっこも同然。でも、リアスさんが言うこともまた事実。様々な思惑があるとはいえ、今は各勢力が足並みを揃えてクリフォト――――――リゼヴィム・リヴァン・ルシファー、そして異世界の神アセムから力無き人達を守らなければいけない。それは教会の上役でもあるあなたも分かっているのでしょう?」

 

リゼヴィムの危険性もアセムの力も実際ったことのあるボク達だからこそ分かるものがある。

恐らく他の誰よりも理解していると思う。

 

ヴァスコ・ストラーダは頷く。

 

「確かに彼の者達の話は聞き及んでいる。魔王ルシファーの息子のことも、異世界の神のことも」

 

「そう。つまり、今回のクーデター、そしてこの挑戦状も全てを理解した上で行っていると。そういう認識で良いわけね?」

 

「その通りだとも」

 

ヴァスコ・ストラーダは再度頷くと、近づいてきた時と同様に音も無く一瞬で、かなり距離を取ったところに移動していた。

何という凄まじい身のこなしなんだろう。

 

お爺さんはとある方向に顔を向けて言った。

 

「さぁ、レグレンツィ猊下。宣言をお任せ致します」

 

その一言を受けて、この場に現れる小さな影。

 

小学生高学年ほどの黒髪の少年だった。

祭服を纏っていて、幼い顔立ちの中にも凛々しさがある。

 

しかし、ヴァスコ・ストラーダが口にした少年の名前もつい最近聞いた覚えのあるもので、

 

「あなたがテオドロ・レグレンツィ?」

 

「そうだ。私がテオドロ・レグレンツィだ」

 

リアスさんの問いに少年は頷いた。

 

つまり、あの少年がクーデターの首謀者の二人目であり、正体不明とされていた教会のナンバーツー!

まさかこんな幼い少年だったなんて!

 

驚くボク達。

 

そんなボク達に向けて、少年枢機卿は緊張で声を震わせながらも、大きな声で言ってきた。

 

「わ、私はエクソシストの権利と主張を守る! そなたらが『良い』悪魔だろうとも、『邪悪な』悪魔や吸血鬼もいるのだ! 彼らから一方的に悪を断罪する役目を奪うなど納得できない! 私達の主張が主や大天使ミカエルさまの意思に反していようともこれだけは………これだけは納得できないのだ!」

 

少年の声に呼応するように隠れていた気配が一斉に出てくる。

男性の神父もいれば女性の戦士もいて、敵意を剥き出しにしてボク達を取り囲んでいた。

 

数は数十じゃ利かない。

数多くの戦士を引き連れているとは聞いていたけど、これほどの数がいたなんてね。

 

この場で戦闘………それはまずい。

人払いの結界を張っているようだけど、ここは住宅地。

力を使えば一般の人にも被害が及ぶ。

 

かと言って、ヴァスコ・ストラーダは手加減してどうこうできる相手じゃないのは明白。

 

すると、ゼノヴィアさんが亜空間からデュランダルを抜き放って構えた。

 

「ちょ、ゼノヴィアさん――――――」

 

アリスさんが止めようとするけど、ゼノヴィアさんの耳には届いていない。

 

ゼノヴィアさんにデュランダルを向けられたお爺さんは笑みを浮かべるだけ。

 

「戦士ゼノヴィア。デュランダルは使いこなせているかね?」

 

「――――――参ります!」

 

ヴァスコ・ストラーダの一声にゼノヴィアさんはデュランダル持って突進していった!

 

「なるほど、言葉よりも行動。デュランダル使いはそれでこそだ!」

 

「こんなところでそんなの使わせる発言しないでよ!?」

 

デュランダルは破壊力の塊。

そんなデュランダルを今のゼノヴィアさんは全力で奮おうとしている。

 

こんな住宅街で使わせるわけにはいかない!

 

アリスさんがゼノヴィアさんを追いかけようとして駆けた時だった――――――――。

 

アリスさんのすぐ前に赤い魔法陣が展開される。

 

赤い光と共に転移してきたのは――――――――。

 

「ったく、こんな場所で挑戦状を叩きつけてくるなんて―――――――」

 

「イッセー!?」

 

「へ? アリス――――――」

 

 

その時、とっても鈍い音がしました。

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

「ぬ、ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」

 

「く、くぅぅぅぅぅぅぅ………」

 

地面でゴロンゴロン転がって、後頭部を抑えながらもがき苦しむ俺。

そして、おでこを抑えながら蹲るアリス。

 

美羽の報告を受けて転移してきた俺だったが、なぜかアリスが突っ込んできて、俺の後頭部に直撃。

今、頭が割れるような猛烈な痛みが俺を襲っていた。

 

俺は半分泣きながら、同じく半分泣いているアリスに抗議する。

 

「痛ってぇ! マジ痛ってぇ! なんであそこで突っ込んでくるんだよぉ!?」

 

「うっさい! あんたこそなんであそこで転移してくんのよ!? 超痛いんだけど!?」

 

「だって、クーデターの首謀者達と接触したって聞いたから! 慌てて来たんだぞ!?」

 

「だからって、私の目の前に転移してくる必要ある!?」

 

「いや、転移の光でわかるだろフツー!」

 

「あんなタイミングで避けられるわけないでしょーが! とりあえず殴らせて! 一発だけ殴らせて! それで許してあげるから!」

 

「え!? 俺が悪いの!? 俺が悪い感じなの!? マジで!?」

 

「あんたが悪いことにしておきなさいよ! 男でしょ!?」

 

「なんて理不尽な! って、ギャァァァァァァ! それ拳じゃねーし! なにちゃっかり槍構えてんの!? 刺すの!? 殴るんじゃなかったの!?」

 

「あとでアーシアさんが治療してくれるわよ! とりあえずいっぱぁぁぁぁぁぁつ!」

 

「ひぇぇぇぇぇぇ! アーシアァァァァァァ! 助けてくれぇぇぇぇぇ! ヘルプ! ヘルプミー!」

 

アリスの槍を間一髪で避けて、アーシアの背後に隠れる俺!

 

それを高速で追いかけてくるアリス!

あのやろ、白雷まで纏ってマジで追いかけてきやがる!

 

「あ、あの、イッセーさん、こんなことしてる場合じゃないと思うんですけど………」

 

アーシアが困り顔で向こうの方を指さす。

 

そこにはやたらとデカい爺さんが指先一つでゼノヴィアのデュランダルを受け止めている信じられない光景があった!

 

「あのじいさん何者だ!? つーか、ゼノヴィア! こんな街中でなんつーもん振り回してんだ!?」

 

「私が止めようとしたのよ! それをあんたが邪魔するから!」

 

「それは悪かった! けど、あれは事故だろ!?」

 

アーシアを中心にその周りをグルグル走る俺とアリス。

 

少しでも追いつかれれば、丸焦げにされる………!

 

とにかく俺は必死に逃げた。

未だズキズキする後頭部を抑えながら。

 

そんな俺達を無視してなのか、それとも関わらないようにしているのか。

状況は俺とアリスだけを放置して動いていた。

 

「猊下! 失礼を承知でいきます!」

 

イリナが白い翼を羽ばたかせてデカい爺さんに突っ込んでいく!

その手には聖剣オートクレール!

 

爺さんにイリナが攻撃を仕掛ける直前、その間に入る一つの影。

祭服を着た黒髪の中年男性が一人、正面からイリナの攻撃を受け止めた。

 

自身の攻撃を受け止めた相手に、イリナが酷く狼狽する。

 

「クリスタルディ先生ッ!」

 

クリスタルディ!?

あのクーデターを起こした首謀者三人のうちの一人、エヴァルド・クリスタルディか!

元エクスカリバーの使い手!

 

となると、デュランダルを指先で止めている爺さんが前デュランダル所有者のヴァスコ・ストラーダ!

 

エヴァルド・クリスタルディは手に持った聖なる波動を放つ剣でイリナを押し返す。

 

「視野を狭めてはいけないな、戦士イリナよ」

 

その時、飛び出していく影が一つ。

 

聖魔剣を構えた木場がエヴァルド・クリスタルディに向かって駆けていく!

 

「元エクスカリバーの使い手! いざ、勝負!」

 

おまえもかい!

 

あぁ、もう!

なんでこんな住宅街でドンパチ始めるのかね、こいつらは!

 

バカなの!?

怒るよ、俺!

 

木場はそのスピードで教会の戦士達の師に斬りかかる!

しかし、男は高速の斬戟を体捌きだけで避けていた!

無駄のない動きで、木場の剣を避け、時には剣で流してしまう!

 

第二階層じゃないとはいえ、あの木場の剣を余裕で捌ききるなんざ、並の使い手じゃ不可能だ。

 

エヴァルド・クリスタルディ、これほどの者か!

 

「聖魔剣か。君が噂の聖剣計画の生き残りだな? 良い波動だ。しかし――――――」

 

男が剣を激しく振り下ろす!

その一撃で木場は路面に叩きつけられた!

 

その余波で道路が崩れて、クレーターが生じる!

 

「が…………っ!」

 

「私をフリードのような下の下と比べてもらっても困るぞ?」

 

エヴァルド・クリスタルディは苦しむ木場を一瞥して、剣を鞘に収めた。

 

あの高速の剣捌き、木場に与えた破壊力…………。

あの剣ってもしかしてエクスカリバーに関係していたり…………?

 

あちら側の戦闘が硬直した、その一方では――――――。

 

「必殺! …………パァァァァンチッ!」

 

「ぶべらっ!? おま、技名叫ぼうとして、結局浮かばなかったな!?」

 

『パンチ』ってそのまんまじゃん!

必殺に近い威力はあるけど!

滅茶苦茶痛いっ!

 

えぇい、どんな時でもアリスパンチ半端ということか!

 

「もう! お兄ちゃん! アリスさん! 向こうとこっちで別の空気になってるよ! 向こうはシリアス継続中なのに、こっち崩壊してるからね!? ちょっと、ここで正座!」

 

「「はい…………ごめんなさいです…………」」

 

プンスカ怒る美羽の前に正座するバカ二人。

アスファルトが膝に食い込んで痛い…………。

 

あれ………前もこんな光景があったような気がする………。

 

―――――美羽のお説教開始。

 

「二人ともぶつかったタイミングは悪かったけど、今はどういう時か分かってるよね? こんな時に―――――」

 

「「はい………うん。…………うん、ごめんなさいです…………すいませんでした」」

 

『僧侶』に揃ってお説教される『王』と『女王』。

こんな光景は他の眷属では見られないだろう。

 

レイヴェルの方に視線を向けると、こっちすら向いていなかった。

うん、だよね…………。

 

ヴァスコ・ストラーダがリアスに言う。

 

「グレモリーの姫君、私達は戦争をしに来たのではない。最後の訴えをしにきたのだ。それだけは分かってもらいたい」

 

「………なら、お互いに矛は収めた方がいいでしょうね」

 

リアスもそれに応じる。

 

それを合図にあちらの戦士達は引き、朱乃達も構えを解いた。

 

元デュランダル使いと元エクスカリバー使いは傍らに立つ少年と戦士達を率いて踵を返す。

 

「では、また相まみえよう。若き悪魔の子達よ」

 

それだけ言い残すと彼らはそのまま去っていった。

 

残されたのは悔し気に肩を震わせるゼノヴィアと木場、悲し気に肩を落とすイリナの三人。

 

そして―――――――。

 

「え………っと、俺って何しにここに来たんだっけ………」

 

報告受けて、慌てて来てみれば、転移直後にアリスと頭ごっつんこして、アリスにグーパンチされて。

挙句の果てには美羽にお説教されて。

 

誰からもツッコミを入れられることなくただただスルーされた。

 

「お願い! 誰かツッコミ入れてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

夕焼けの空に虚しい叫びが響いた。




かなりふざけました………あ、いつものことか

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