オカルト研究部の方針が決まり、ゼノヴィアの選挙活動の進捗も確認できた後のこと。
俺はレイヴェルに訊いた。
「ライザーと王者のレーティングゲームがあるだろ? やっぱり、レイヴェルはこっちに残るのか?」
先日、ライザーの復帰戦が決まった。
しかも、相手は現王者のディハウザー・べリアル。
その力は魔王に匹敵し、
本来なら、王者とライザーが対戦するなんてカードは組まれない。
それはレートに差があるからだ。
レーティングゲームは人間界のチェスのレーティングゲーム同様、レート―――――つまり、ポイントでランキングを決める。
この間、知ったんだけど、王者は3500台でぶっちぎり。
ライザーは2000台にも乗っていない。
二人の間にはこれだけの差がある。
それなのに、なぜ二人が対戦することになったのか。
それはライザーの復帰記念の意味合いと王者の『皇帝べリアル十番勝負』という特別企画が重なったからだ。
『皇帝べリアル十番勝負』という企画は、いわばエキシビションマッチ。
テロ続きで不安がっている冥界の人々に王者の勇姿を見せ、安心させようというのが狙いだ。
この報告はレイヴェルからだけでなく、ライザー本人からも受けていた。
というか、たまにだけど、ライザーの特訓に付き合わされていてだな…………。
あいつと会う機会は結構多い。
で、その時にレイヴェルとの進捗具合を聞いてきたりするんだ。
ま、まぁ、自分で言うのもなんだけど、イチャイチャしてますよ。
その辺りを報告すると、ライザーも満足そうにしていた。
うん、あいつもお兄ちゃんしてるわ。
それで話を戻すんだけど、王者とのレーティングゲームに当たって一つ問題が出てきた。
それはライザーの眷属が揃っていないことだ。
ライザーはレイヴェルか抜けた分の『僧侶』一枠が埋まっていない。
そこで、元眷属であるレイヴェルを一時的にトレードしようかという話にもなったんだが………。
なんと、ライザーはそれを断ってきた。
なんでも、
『レイヴェルはおまえの眷属で、おまえの傍にいたがっている。なら、妹といえど、俺の事情に巻き込む訳にはいかんさ』
とのこと。
そうなると、ライザーは一人足りないままの出場になってしまうが、それを言うと、
『リアスも眷属が揃っていない状態で俺とゲームをしたんだ。しかも、俺はプロ、あいつは未経験。おまえがいたとはいえ、リアスは挑んできた。それならば、俺も今のまま王者に挑むまでだ。たとえ勝てなくとも、良い試合をしてみせるさ』
そう返してきたんだ。
なんというか…………ライザーが男前になってた。
特訓で手合わせもしてみたけど、あいつの力はみるみる伸びてきている。
攻撃の一つ一つが重く、鋭くなっていた。
それに中々の格闘術を身に付け始めていて、俺(生身)と格闘戦をしてもそれなりに打ち合えるようになってきた。
最近では出来るだけ不死の特性に頼らないように特訓しているので、上達が早い。
このままいけば近い将来、最上級クラスまで上り詰めるんじゃないだろうか。
そんなことを思わせる程、今のライザーは強い。
「私はイッセーさまの『僧侶』として生きていくことを決めていますし、ライザーお兄さまも私の想いを組んでくれてます。お兄さまには申し訳ないのですけど、イッセーさまの傍にいようと思いますわ」
レイヴェルは胸に手を当てて、そう言ってくれた。
うん、そんなことを言ってくれるとね…………撫で撫でしたくなってしまう。
というわけで、早速、レイヴェルの頭を撫でる。
「エヘヘ………」
あ、今の笑顔はいかんよ………反則じゃん。
「…………」
おっと、小猫ちゃんがぶすっとし出したぞ。
レイヴェルばかり可愛がると、小猫ちゃん拗ねるんだよね。
こういう時は無言で膝上を開けると解決できるんだ。
ソファに座って、膝上をポンポン叩くと、速攻で乗ってくる。
うーむ、小猫ちゃんのお尻の感触は相変わらず、柔らかい!
「にゃあ………」
んもー、後輩二人が可愛すぎて辛いよ!
後輩二人にデレデレする俺だった。
▽
それから少し時間が経つと、リアス、朱乃、アザゼル先生に続き、シトリー眷属が部室にやって来た。
全員、表情が固めで、何かが起こったというのは明らかだ。
アーシアが別室にいるゼノヴィアとイリナを呼び、グレモリー眷属とシトリー眷属が部室に揃う。
一般人である桐生には別室で待機してもらっている。
先生が全員の顔を確認すると、重い口を開く。
「新学期早々で悪いが、あまり良くないニュースだ。最悪ってほどじゃない。………が、おまえらも知っておくべきだろう」
「何があったんですか?」
俺が問う。
まぁ、良くないってことは分かってるし、こういうことは早めに知っておきたい。
先生は一度息を吐く。
「教会側の一部の信徒………主に戦士達がクーデターを起こしたのは去年の暮れに話したよな?」
現在、教会側で戦士達を中心にしてクーデターが起こっているんだ。
三大勢力が和平を結んだ後、教会側では『悪魔、堕天使と敵対するな』というお達しが流された。
教会に属する戦士達はそれぞれ理由は異なるが、悪魔、堕天使に良くない感情を抱いて生きてきたため、このお達しには不満が出たそうだ。
不満を抱えながらも動いていたのは、吸血鬼や魔物を討伐していたため。
しかし、その吸血鬼とも和平を結ぶことになった。
これに対して安堵する者もいれば、面白くないと感じる戦士もいた。
そして、今回は戦士達の不満が爆発してクーデターに繋がったという。
先生が言う。
「教会の戦士からすれば、戦う理由を奪われたに等しい。怨敵への復讐、生活の糧、生き甲斐を奪われたのも同義だ」
「主のため、教会のため、魔の存在と戦うために生きてきた戦士が突然戦う理由を奪われたら、どう生きて良いのか分からなくなるのも仕方のないことだ」
ゼノヴィアがそう漏らす。
ゼノヴィアも元は教会の戦士。
悪魔、堕天使………魔の存在と戦うために育った彼女だからこそ、彼らがクーデターに至った理由も理解できるようだ。
しかし、これに対してうんざりな表情を浮かべる者もいる。
「…………そんなのただのワガママじゃない」
窓の外を眺めながら、小さく呟いたのはアリス。
おそらく、俺しか今の呟きを聞き取れなかったのだろう。
皆の視線は先生に集まったままだ。
………ワガママ、か。
確かにそうとも言えるな。
――――戦う理由を奪われる。
そもそも戦う理由ってなんだ?
なんで戦うんだ?
多分、俺やアリスとクーデターを起こした戦士達とではそこが違う。
戦うことに対する考え方が違うんだ。
俺は意識を先生へと戻す。
「教会側のクーデターだが、大半が収拾している。暴動を起こした者達の大勢が既に捕らえられた。しかし………クーデターの首謀者とされる大物三名は未だ逃亡中だ。多くの戦士がそれに付き従っている」
ソーナが首謀者の名を挙げる。
「首謀者は司教枢機卿であるテオドロ・レグレンツィ猊下、司祭枢機卿であるヴァスコ・ストラーダ猊下、そして助祭枢機卿であるエヴァルド・クリスタルディ猊下です」
それを聞いてリアスが顎に手をやり唸った。
「………大物ばかりね」
確か………司教枢機卿はカトリックで教皇の次に高いポスト。
司祭枢機卿がその一つ下で、助祭枢機卿が更にその一つ下。
教皇がトップとすると、教会の二番目、三番目、四番目の役職の者達が揃ってクーデターを起こしたことになる。
…………マジで大物じゃん。
この報告に教会出身のアーシア、ゼノヴィア、イリナはかなりの衝撃を受けているようだった。
特に戦士であるゼノヴィアとイリナは挙がった名前に緊張しているように見える。
ゼノヴィアが絞り出すように言う。
「…………ストラーダ猊下とクリスタルディ先生か」
「知っているのか?」
俺が問うと、ゼノヴィアから返ってきた言葉は予想外のもので、
「当然だろう。――――ストラーダ猊下はデュランダルの前所有者なのだから」
『――――っ!』
その言葉に俺を含む事情を知らない一部メンバーは言葉を失う。
…………つまり、ゼノヴィアの先輩がクーデター首謀者の一人ということか!
アザゼル先生が言う。
「ストラーダは歴代のデュランダル使いの中でも英雄ローランに迫るとも、超えたとも言われた程だ。戦士出身の中でも異例の出世をした者でもあってな。戦士教育機関の必要性を説いた男で戦士達の主導者でもある。ゼノヴィアとイリナも世話になったはずだ」
その言葉にゼノヴィアとイリナは頷く。
二人とも教会の戦士だったわけだし、ゼノヴィアに至ってはその人からデュランダルを継いだんだからな。
世話になっているのも当然か。
「ストラーダ猊下は御年八十七になられるわ」
「マジでか! 八十過ぎてクーデターとかハッスルし過ぎじゃね!?」
おじいさんなんだから、もう少し落ち着こうよ!
あれですか、『若い者にはまだまだ負けん!』的なあれですか!?
だったら、元気すぎるだろう!?
「年齢のことは忘れた方がいい。あの方は………生きる伝説だ。未だ肉体は衰えていないぞ」
「あの若造はマジで強い。昔、コカビエルが一戦交えたが、相当追い詰められていたからな。老体の今でも衰えずなら、相当な相手と見ておけ」
ゼノヴィアに続きアザゼル先生も険しい表情で告げた。
コカビエルが追いつめられるって…………つまり、最上級悪魔レベルでもボコボコに出来る力があるってことか。
そりゃ、半端じゃないな。
ストラーダという人物の力量に驚いていると。アリスが耳打ちしてくる。
「モーリスならいけるんじゃない?」
「あのおっさんはチート」
~そのころのモーリス~
オーディリア国のとある港町にて。
「あ、いたいた。ようやく見つけましたよ団…………団長!? ちょっと団長!? 何やってるんですかぁ!?」
「ん? あぁ、ちょいと新技の稽古しただけだ。大したことはしてねぇよ」
笑顔で返すモーリスの前方には―――――真っ二つに割れた海。
覗いてみると海の底すらも望める。
上を見上げると空も二つに割れ、軋むような音と共に空間が歪んでいた。
天変地異でも起こったような光景だった。
「新技って………。何したらこんな………」
「気合いだ」
「どんだけ気合い入れてんですか!? って、ここ一般の港ですよ!? 町の方で大騒ぎになってんじゃないですか! 悲鳴上がってますよ!?」
「あ、マジで? こいつぁ、ミスったな。…………よーし、面倒になる前におじさんは逃げる。後は頼んだぜ!」
「ちょ………おぃぃぃぃぃぃ! 逃げるな、クソジジイィィィィィ!」
「誰がシジイだぁぁぁぁ! まだまだ若い連中には負けねぇぇぇぇぇ!」
「若い連中であんたに勝る奴なんていないと思うけどぉぉぉぉぉぉ!?」
若い騎士を置いて逃亡するモーリスだった。
ちなみに、町の住民達を落ち着かせるのに若い騎士達がかなりの苦労をしたのは言うまでもない。
~そのころのモーリス、終~
あのおっさん、今も強くなってるだろうし…………生身じゃ勝てん。
つーか、剣技で勝てた試しがない。
気づいたら向こうの剣がこちらに届いてるなんてしょっちゅうだ。
まぁ、あのチートおじさんは置いておこう。
イリナが言う。
「個人的にはクリスタルディ先生とは会いたくないわ。私達にとって恩師だもの」
「ああ。私も先生の授業で悪魔や吸血鬼との戦い方を一から叩き込まれたな」
「ヴァチカンを訪れる度に、エクスカリバーの使い方を良く教えてもらったわ。確か、クリスタルディ先生って現役時代に六本のエクスカリバーのうち、三本を同時に使ってたって聞いたけど………」
イリナの言葉をアザゼル先生は肯定する。
「そうだ。エヴァルド・クリスタルディは俺達グリゴリの間でも話題の逸材だった。奴なら三つだけでなく、全てのエクスカリバーを使えたのではないかと言われてもいる。ヴァスコ・ストラーダとエヴァルド・クリスタルディ。この二名はどちらも怪物だよ。多くの戦士の育成したことも相まって、戦士出の聖職者としては二大巨頭だ」
教会の戦士に大きな影響を与える二人の大物。
それで、今回のクーデターに大勢の戦士が加わったのか。
しかも、大物二人は元デュランダル使いと元エクスカリバー使い。
奇妙な縁を感じてしまうな。
先生は首謀者三名のうち、最後の一人の名をあげる。
「テオドロ・グレンツィは最年少で司教枢機卿にまで上り詰めた異例の逸材だったな」
その名前に心当たりがあるのか、アーシアが口を開く。
「私もお会いしたことがないのです。カトリックの上層部でも謎多き方と耳にしました」
「私もだ」
「私も。名前だけで拝見したことはないわ。たぶん、シスター・グリゼルダも知らないと思う」
転生天使でも顔を知らないのか。
本当に謎だ。
………正体を隠す必要でもあるのか?
まぁ、その辺りは今後で明らかになるだろう。
この話にはまだ続きがあるようだからな。
そして、その内容は―――――。
「何となく察しただろうと思う。クーデターを起こした首謀者三名とそれに付き従う戦士達の狙いは―――――ここだ。捕らえた戦士によると、奴らは同盟の象徴でもある『D×D』と会ってみたいそうだからな」
「それは話し合いですか? それとも―――――」
「後者だろうな」
俺の問いに即答する先生。
うん、そんな気がしてたよ。
しかし、そうなると、もう一つの問題が出てくる。
「クリフォトは仕掛けてきますかね?」
「可能性はある。あいつらからすれば、今回の騒ぎは狙い目だからな。噂じゃ、事の始まりはリゼヴィムの野郎が教会上層部を煽ったのが原因とも言われているからな。あの男は扇動の鬼才だ。相手を焚き付けるだけなら一級品だよ」
あのクソ野郎が絡んでるってか………。
ちっ………天界で逃したのが悔しい限りだ。
俺が歯噛みしていると、匙が呟いた。
「…………この学園って、本当に聖剣と縁があるよな」
確かに。
俺もそれは感じていた。
コカビエルの件から始まり、今に至るまで。
聖剣に関する事柄や使い手が集まってくるもんな。
「…………」
ここで視界に映るのは深く考え込んでいる木場。
こいつも聖剣に関係してたな…………。
匙が罰が悪そうな表情で木場に謝る。
「わりぃ。軽率に言っちまったな」
「気にしてないよ。僕もあれ以来は吹っ切れているところもあるし、聖剣に関与する者憎さで動いたりはしない」
そう言う木場だが…………未だ聖剣に関して思うところがあると言った表情なんだよな。
先生が言う。
「聖剣に縁があるってのはその通りだろうよ。――――ゼノヴィア、イリナ、木場。聖剣に関わる者としては先達を越えてこそだ。もし、その時が来たら全力で越えて見せろ。『D×D』に名を連ねる以上、それが出来てこそ、悪どい連中への切り札となる」
その言葉に、三人は瞳に強い光を浮かべて頷いた。
この日はこれで解散となった。