1話 初詣………の前に災難来ます!
元旦。
無事に新年を迎えることがてきた俺達オカルト研究部のメンバーは、どこかに初詣に行こうという話になり、正月早々から遠出することになった。
俺達が初詣に向かった場所、それは―――――
「イッセー! 久しぶりじゃな!」
鳥居の向こうから走ってきたのは金色の髪と尾を持つ少女――――九重。
俺達が訪れていたのは、京都の伏見稲荷神社だった。
ここに来るのは修学旅行以来となる。
相変わらずの鳥居の多さだ。
それに、初詣に来ている人の数も合わさって、迫力が何割か増しで見える。
流石に人目につくのはまずいので、俺達は人払いの結界の中での再会だ。
「おっす、久しぶりだな。元気だったか、九重?」
「うむ! イッセーも元気そうで何よりじゃ! 皆の参拝はここの主祭神であらせられる宇迦之御魂神大神さまもお喜びになられるに違いないぞ」
んー………俺達、悪魔だから喜んでくれるかは微妙な気がする。
あ、でも、日本神話勢とも和平交渉は上手くいってるらしいし、そこは寛大な心で迎えてもらいたいものだ。
「今日は電車ではないのか?」
「この時期は人が多いからなぁ。転移してきた方が楽なんだよ」
そういや、修学旅行の帰りは九重が新幹線のホームから見送ってくれたっけ。
あいさつを軽く済ましていると、九重が走ってきた後からお供の妖狐を複数伴った官能的なお姉さんが登場する。
九つの尾を持つ京妖怪のトップ。
そして、九重のお母さんの――――――
「遠路はるばるようお越しになられましたなぁ」
八坂さんの登場だ。
着物の間から見える胸の谷間が…………!
妖艶な美しさと合わさって、これまた…………眼福デスッ!
新年早々に拝んでしまうぜ、そのおっぱい!
「こちらこそ、いずれ改めてご挨拶をしようと思っていたところですわ。中々、都合つかずじまいでしたから、初詣の折りにご挨拶をと」
八坂さんと挨拶を交わすのは振り袖姿のリアス!
長い紅髪も結っていて、雅な雰囲気を出していた。
他の女性陣も振り袖姿で美羽、アリス、レイヴェル、朱乃、アーシア、小猫ちゃん、レイナ、イリナ、ゼノヴィア、ロセも振り袖だ!
ギャスパーまで振り袖なのはこの際置いておくが…………振り袖って良いなぁ!
和な美しさがあるよね!
振り袖組は朝から母さんに着付けてもらっていたが、お披露目の時は思わず見とれてしまったほとだ!
年末に皆の巫女服姿を見たときも思ったけど、リアスの紅髪やアーシア達の金髪も和服と合うんだよね、これが!
うんうん、皆の振り袖姿がキラキラ輝いてるぜ!
ちなみに、俺、木場は普通の格好。
伏見稲荷に行くなら、歩きやすい格好が良いとのことで意見は見事に一致。
なんとも前衛組らしい意見だと我ながら思ってしまう。
ゼノヴィアも初めは俺や木場と同じ意見で、普通の格好で行くつもりだったのだが、途中で心変わりして振り袖に。
アリスも前衛組なんだけど、それはそれ。
アリス自身もこちらの服には興味があって、本日は振り袖を選択。
リアス達同様、長い金髪は結ってある。
とりあえず、俺の言いたいこととしては皆、可愛いということかな。
お披露目の時にも素直な感想を述べたのだが、皆、顔を赤くして照れてたっけ。
…………でも、ちょっとした災厄が俺に降り注いでだな。
それは数時間ほど前のことだ。
▽
数時間前。
その時は皆の振り袖姿がちょうどお披露目されている時だった。
「お兄ちゃん、どうかな?」
「可愛いぞ、美羽! ああ………また、俺のお宝コレクションが増えてしまう!」
美羽の振り袖は去年も見た。
毎年、家族で初詣に行っているからな。
美羽が家族になってからは四人で行くのが恒例となった。
そして、思う。
―――――なんて可愛いのか、と。
幼い顔立ちと振り袖の大人な雰囲気が出す絶妙なバランスが俺の心を刺激する!
これは美羽だからそこ出せるものなのだろう!
今年も美羽の可愛い姿が見られる…………!
兄として感動です!
いや、今年から少し違うな。
兄妹として、そして―――――恋人として。
その想いが内側で高まり、爆発しそうになりそうになる。
そんな感動を覚えていると、アリスが言う。
「美羽ちゃんばかり見てないで、私達のも見てよ………」
そう言うアリスはどこか恥ずかしげな表情だ。
俺は改めてアリスの全身を見ていく。
足から、腰。
腰から胸。
胸から顔へ、じっくりと確認。
そして―――――
「母さん…………」
「どうしたの、イッセー? 何かおかしなところでもあった?」
訝しげに首を傾げる母さん。
俺は母さんの手を取り、
「―――――完璧です。さすがっす…………!」
泣いた。
新年早々に泣いた。
両目から止めどなく涙が流れていく。
おかしなところ?
そんなのあるわけがない。
『ゴッドハンド咲』の異名を持つ我が母の作品だぞ?
おかしなところを見つける方が難しい………否、そんなことは不可能だ。
俺はリアス、アーシア、朱乃、小猫ちゃん、レイヴェル、レイナ、イリナ、ロセと順に見ていくが―――――どれもこれもがパーフェクト。
泣ける…………!
感動の涙が止まらねぇ…………!
母さんが胸を張って言う。
「イッセーのお嫁さんになる子達だもの。そりゃあ、私も全力で挑むわ。この咲、娘のためなら一肌も二肌も脱ごうじゃない。ふふふふふふ………。あれ、涙出てきた。…………イッセーのお嫁さんがこんなに………! こんな可愛い娘ができるなんて………!」
あ、母さんも泣き始めた。
でも、まぁ、これだけ可愛い女の子達が娘になるって聞いたら感動するよな。
俺もこんな可愛いお嫁さん達を貰えるとなると―――――
ダァァァァァァァァァァァァァ…………
涙が………涙が止まらないぃぃぃぃぃぃ!
リアスが苦笑する。
「もう、イッセーもお母さまも大袈裟すぎます」
「大袈裟じゃないわ、リアスちゃん!」
「そうだぞ、リアス!」
俺、悪魔に転生してよかった!
上級悪魔になれてマジでよかった!
俺と母さんが感涙していると、横で見ていたゼノヴィアがふむと考えていた。
イリナが訊ねる。
「どうしたの、ゼノヴィア? 難しい顔しちゃって」
「いや、伏見稲荷に行くというので、動きやすい格好の方が良いと考えていたんだが…………。私もイリナ達と同じく振り袖にしようか………」
ゼノヴィアがそう漏らす。
なるほど、皆の振り袖姿を見て、心が揺らぎ始めたか。
ゼノヴィアの振り袖もまた可愛いんだろうなぁ。
ボーイッシュな美少女が可愛い格好をすると、違った華があると思う。
俺がそんなことを思っていると、母さんがゼノヴィアの手を掴んだ。
「よし! ならば、ゼノヴィアちゃんも着付けてあげる! さぁ、こっちに来て!」
「え………ぁぁ………母上殿?」
戸惑うゼノヴィアを他所に着付け部屋へと連行していく母さん。
母さんの横顔はもうニコニコで………。
「…………有無を言わさず、連れていったわね」
イリナの言葉がリビングにこだました。
それから待つこと数分。
母さんが引き連れ来たのは、淡いピンク色をベースにした花柄の振り袖を着たゼノヴィアだった。
ゼノヴィアの表情は呆然としていてだな…………。
多分、何かを考える間もなく、母さんに着替えさせられたんだろう。
御愁傷様、と言ってもいいかもしれないが、流石は母さん。
今のゼノヴィアは普段の男前な雰囲気からは想像できないほどに可憐だった。
ゼノヴィアは指で髪を弄りながら、訊いてくる。
「ど、どうだろう? 私にはこのような格好はあまり似合わないと思っていたのだが…………」
「いんや、そんなことはないぞ? 滅茶苦茶可愛いよ、ゼノヴィア。イケてる」
俺は親指を立ててそう返した。
イリナもどこか新鮮といった表情で、
「へぇ、あのゼノヴィアがこんな風に変わるなんて。私もビックリだわ。お化粧もしてるのよね?」
「あ、ああ」
見れば、確かに軽くお化粧もしてあった。
簡単なお化粧で済ませているようだが、それでもゼノヴィアの魅力を引き出すのには十分なほど。
「ゼノヴィアちゃんもそうだけど、素材が良いから、軽くするだけでも十分なのよね」
と、母さんも感想を述べる。
まぁ、ゼノヴィアも他の皆も誰がどう見ても美少女だもんな。
ゼノヴィアも珍しく照れているようだ。
この後、木場達と合流する予定なんだけど、時間まで少し余裕がある。
―――――この時間は皆を写真におさめるしかないんじゃかいか?
そう思い、カメラを取りに行こうとした時だった。
こたつでくつろいでいたイグニスが―――――
「どうせなら、イッセーも振り袖着てみたら? ほら、アザゼルくんの性転換銃で女の子になって」
とんでもないこと言い出したよ!
性転換!?
あれを使えってか!?
やめてくんない、その思い付きの提案!
おまえが思い付いたことは大概、とんでもないことになるんだからさ!
つーか、俺も振り袖かよ!
美羽が言う。
「それ良いんじゃない? 女の子になろう! 振り袖着ようよ、おに………お姉ちゃん!」
「おぃぃぃぃ! 今、言い直したよね!? お姉ちゃん確定か!?」
「着てみろ、イッセー。おまえなら着こなせるはずだー」
「ティア!? なんで棒読み!?」
「こたつは人を堕落させるのさ。おい、ディルムッド。ミカン食うか?」
「食う」
ティアがこたつにやられた!
そんなにこたつが気に入りましたか!?
「こたつ………こいつは危険だな。まるでブラックホールだ。私のやる気を吸いとっていく」
「あー、これってアザゼルくんの発明品だしねー。ただただ堕落するための道具なんだってー」
イグニスがとんでもないこと言ったよ!
それ、家のこたつじゃなかったの!?
アザゼル先生の発明品!?
そんな話聞いてないよ!?
イグニスが追加情報をくれる。
「今朝、送ってくれたのよ。皆でだらだらできるこたつが欲しいって言ったら作ってくれたの」
「あの人、なんつーもん作ってくれてんだァァァァァァ!」
周囲で唯一まともなドラゴン、まともなお姉さんだったティアが!
ティアがだらだらしてるぅぅぅぅぅ!
こたつでミカン剥いて、お正月のテレビ番組見てるぅぅぅぅぅ!
「ミカン、うま」
「しっかりするんだ! ティアはもっとしっかりしたお姉さんだったはずだ! ボケキャラじゃなかったはずだ!」
「もう、ツッコミ役は疲れたのさ…………。イグニスの手綱を握るのも疲れたのさ…………」
うわぁぁぁぁん!
ティア姉がぁぁぁぁ!
ティア姉がこたつにやられたぁぁぁぁ!
なんか、悟った顔してるし!
嘆く俺の横でリアスが口を開く。
「性転換銃はどこにあるのかしら?」
「俺の女体化は確定なんですか!?」
「だって…………女の子のイッセー、可愛いんだもん」
「その期待の籠った目はなに!? イタズラする気だな!?」
「もちろんですわ。女の子のイッセーくん…………ふふふ」
朱乃の笑みが怖い!
だが、この場にあの銃はないはずだ。
あれはアザゼル先生が持っていて、当の先生はこの場にいない。
ならば、俺が女体化するなど、無理な話―――――
「ここにあるわよ~」
イグニスがこたつの中から出した物を見て、俺は目を見開いた。
それは…………!
そのアニメや漫画でありそうな独特の形状の銃は…………!
紛れもなく、あの悲劇を生み出した悪魔の銃―――――。
「なんでだぁぁぁぁぁ! なんであるの!?」
「アザゼルくんから借りたから」
「なんで借りたの!?」
「イッセーで遊ぼうかなって。イッセーを女の子にして、
な、なんて恐ろしいことを………!
放送禁止用語のオンパレードじゃないか!
イグニスの計画に戦慄する俺だったが、そんな俺に銃口が向けられる!
そして――――――
ビビビビビビビビビビビビビビビビッ!
「ぎゃっ!」
銃から光が放たれ、俺に命中する!
光に覆われたと思うと、体が次第に小さく丸みを帯びていった。
光が止むと、着ていた服が大きくなっていることに気づく。
髪も腰の位置まで伸び、前髪も僅かに目にかかる。
何より目を引くのが、プルンと弾む大きなおっぱい。
俺は目をひくつかせて――――――
「またこれぇぇぇぇぇぇ!?」
俺の叫びが兵藤家に響く!
俺に抱きついてくる複数の影。
「やーん! お兄ちゃん、可愛い!」
「全くだわ! さぁ、着ましょう! 振り袖を着るのよ、イッセー!」
「うふふ、気付けは任せてください。私が手伝いますわ」
美羽、リアス、朱乃のテンションが上がってる!
いや、この三人だけじゃない。
他のメンバーも…………、
「イッセーくん! また私の服貸してあげる! 着よう! 明日も休みだし!」
「レイナちゃーん! 君は何をするつもりなのかなぁ!? 明日も休みって、夜通しで何をするつもりなのかなぁ!?」
「そ、そんなの…………恥ずかしくて言えないわ!」
「うん、わかった! 恥ずかしくて言えないことをするつもりだということは、よーくわかった!」
レイナちゃんのムッツリ!
後でお仕置きしてやる!
「イッセーさん、可愛いです。女の子のイッセーさんも魅力的だと思いますよ?」
「うんうん」
「確かに。普段とのギャップもあるのだろう」
教会トリオは純粋で良かった…………。
後で撫で撫でしよう。
「…………やっぱり納得いかないです」
「イッセー…………。なんで、あんたの胸がこんなに大きくなるのかしら? そこのところ、説明願うわ」
むんずっ
冷たい目と共に小猫ちゃんとアリスが俺のおっぱいを掴み、力を籠めてくる!
「いだだだだだだだ! もげる! 乳もげる! 小猫ちゃん!? アリスさん!?」
「「もげろ、にせ乳」」
無情な一言だった。
この後、前回と同じく、俺は皆の着せ替え人形と化した。
当然のごとく、振り袖もだ。
俺は新年早々に改めて性転換銃の恐ろしさを知ったのだった。
久々に登場、性転換銃!