「エクスカリバーの破壊って………あなた達ね………」
部長は額に手を当てる。
非常に機嫌がよろしくない表情をしている。
そして、俺と小猫ちゃんは部長の前に、匙は会長の前でそれぞれ正座をして説教を受けていた。
「サジ。あなたがこんな勝手なことをするとは思いませんでした」
会長が低い声音で匙に迫る。
怒ったときの会長、マジで怖いな………。
部長よりも怖いかも。
「ソーナ会長、待ってください。もともと、この作戦を考えたのは俺なんです。だから、罰は全て俺が受けます」
「発案者があなただとしても、それに参加をしたのはサジの意志でしょう? でしたら、サジも相応の罰は受けて貰います」
うっ………あっさり却下されてしまった。
でも、俺達が関係のない匙を巻き込んだのも事実だ。
俺が会長に食い下がろうとすると、匙に止められた。
「気にするな、兵藤! 俺は会長のお仕置きを覚悟の上で参加したんだからな! 受けるべき罰は受けるさ!」
匙………やっぱりおまえは男だよ。
「祐斗はそのバルパーを追っていったのね?」
「はい。イリナとゼノヴィアと一緒に。まぁ、フリード相手ならあの三人でも大丈夫だとは思うんですけど………」
「そう………。イッセーがそう言うならそうなのでしょうね」
そして、部長の視線が小猫ちゃんに移る。
「小猫まで、どうしてこんなことを?」
「………祐斗先輩がいなくなるのは嫌です。だから………」
小猫ちゃんは自分の想いを口にする。
部長はそれを聞いて嘆息した。
「………過ぎたことをあれこれ言うのもあれだけど、あなた達がやったことがどんなことか分かるわね?」
「はい。………すみません、部長」
「………はい。ゴメンなさい、部長」
俺と小猫ちゃんは頷き、謝った。
俺達がしようとしていたことは悪魔の世界に大きな影響を与える可能性が無いわけでは無かった。
それは分かっていた。
だからこそ、隠密に動いていたわけだけど………。
ベシッ! ベシッ!
音がする方を見ると、匙が会長に尻を叩かれていた!
しかも、魔力を籠めて!
あれ、絶対痛いって!
「あなたには反省が必要です。千回、きっちり受けて貰います!」
千回!?
えげつないな!
「兵藤ぉぉぉ! 俺は耐えるぞぉぉぉ!」
匙、頑張れ!
見てるだけでこっちの尻が痛くなる光景だ!
「イッセー、小猫」
部長が俺と小猫ちゃんの名を呼ぶ。
まさか、部長もするんですか!?
俺はつい身構えてしまう。
すると―――――部長が俺と小猫ちゃんを引き寄せ、抱き締めた。
「全く、バカな子達ね。本当に、心配ばかりかけて………。特にイッセーは一人でしようとしていたのでしょう? いくらあなたが強いといっても、あまり無茶ばかりはしないで………」
やさしい声音で部長は俺と小猫ちゃんの頭を撫でながらそう言う。
小猫ちゃんに言われたことと同じことを言われてしまった。
すいません、部長。
「さて、イッセー。お尻を出しなさい」
………え?
突然の展開に呆然とする俺。
この流れでですか!?
「下僕の躾は主の仕事だもの。あなたもお尻叩き千回よ」
部長はニッコリ微笑みながら右手に紅いオーラを溜める。
「ちょ、部長!? 何で魔力を凝縮してるんですか!?」
「あの修業後もあなたに教えてもらったことを継続しているの。これも私の修業の一環よ」
そりゃあ、継続は力なりって言うし、修業を続けているのは良いことだと思うよ。
でもね………俺を修業台にしなくてもいいんじゃないの!?
「さあ、お尻を出しなさい」
「………はい」
俺は迫る部長に逆らえず、尻を差し出した。
ちくしょう!
匙も耐えてるんだ!
俺も耐えてやらぁ!
こうして、俺の尻は死んだ。
▽
俺と部長が家に帰る頃には夜の9時を過ぎていた。
そして、俺は尻を押さえながら家路についていた。
マジで痛い。
硬気功使えばよかったかも………。
まぁ、それでも衝撃は来ただろうな。
それくらい、痛かった………。
木場とは連絡が取れていない状態だ。
バルパーを見た瞬間から怒りに流されていたからな。
連絡を取ってる余裕が無いのだろう。
幸い、今のところ堕天使の気配は感じられない。
フリードやただのはぐれ神父程度ならあの三人で大丈夫だろう。
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
俺と部長が帰宅すると、リビングから美羽とアーシアがひょっこり顔を出した。
「あ、イッセーさん、部長さん、おかえりなさい!」
「二人ともおかえりー」
なんか、二人とも顔だけ出して恥ずかしそうにしてるけど、どうしたんだ?
部長もそれに気が付いたのか訝しげな表情をしている。
すると、母さんの声が聞こえた。
「ほら、二人とも。見せなくて良いの?」
「ち、ちょっと心の準備が………」
なにやら三人で話し込んでいるようだ。
「仕方ないわねぇ。ほら」
「うわ!」
「はぅ!」
母さんに押されたのか、二人が飛び出してきた。
二人ともエプロン姿だった。
アーシアが白で、美羽は水色のエプロンだ。
可愛らしいフリルが着いている。
………ん?
なんか、肌の露出がやたらと多いような………。
こ、これは、まさかッ!!
は、裸エプロンだと!?
ちょ、ええええええ!?
アーシアァァァァァァ!
美羽ゥゥゥゥゥ!
二人ともなんて、素晴らしい――――否、いやらしい格好をっ!
「………え~と、これは………」
「同じクラスの桐生さんに教えてもらったんです………。キッチンに立つときはこれが正装だって………。こうすると、男性の方が喜ぶと・・・」
「ボクも初めて知ったよ………。まさか、下着も着けないなんて………」
二人とも顔を真っ赤にして、モジモジしながら呟く。
ぶふぁ!
やばい、鼻血が出てきやがった。
まじまじと見ると所々が透けている。
大事なところも見えそうだ!
エロいよ、エロ過ぎる!
桐生のやつめ!
アーシアと美羽に何てことを教えやがる!
二人とも俺の家族、守るべき存在なんだぞ!
そんな二人にこんな格好をさせるなんて………!
だけど、ありがとうございます!
眼福です!
クソ!
桐生、いい仕事してるぜ!
流石はエロの匠!
あいつには時折、負けを認めざるを得ないぜ!
「うふふ、可愛いでしょう? 母さん、こういうのは大賛成よ。ああ、若い頃を思い出すわぁ、父さんもあの頃は、うふふ………」
ちょっと、待てぇぇぇい!!!
今、なんと!?
若いころは、って母さんもこういうことを父さんとしてたのかよ!
ああ、やっぱり俺はあんた達の息子だよ!
遺伝子しっかり受け継いじゃってるよ!
「………なるほど、その手があったわね。まさか、二人に先手を取られるなんて………」
俺の隣で、何やら悔しそうにつぶやく部長。
な、何事ですか………?
「分かったわ。二人がそう来るなら、私もやってみようじゃない。お母様、私にも裸エプロンをお願いします!」
「了解よ、リアスさん! さぁ、こっちに!」
「はい!」
部長は気合を入れて母さんの案内に従い、この場を去った。
おーい!
何やってるんですか、部長!?
対抗しないで!
「えっと、それでどうかな? ボク達のこの格好」
俺は鼻血を大量に流しながら二人の肩に手を置く。
「ああ………! 似合ってる。スゲェ似合ってるよ、二人とも。俺は今、感動すらしているよ。ありがとうございます。眼福です」
お礼を言う俺。
そうさ、俺はこれを見ただけでエネルギーを回復できたぜ。
もう、HPどころかMPまでマックスだよ。
「なぁ、アーシア」
「はい」
「もし教会の連中が来て、アーシアを傷つけようとするなら、俺が守る。アーシアが怖いと思っているやつは全部、俺が追い払ってやる」
突然の俺の言葉にアーシアは少し驚いている。
俺もこの流れで言うのはどうかとは思った。
だけど、この思いは伝えておきた。
俺はアーシアの頭を撫でながら続ける。
「アーシアのことは俺が守る。いや、俺だけじゃないな。部長や眷属の皆だってアーシアのことを守りたいと思っているんだ。だから、心配するな」
すると、アーシアが抱き着いてきた。
アーシアちゃん!
裸エプロンでそんなことしたら、色々なところが当たってしまう!
「………私、悪魔になったことは後悔していません。今は主への思いよりも大事なものがあります。イッセーさんや美羽さん。部長さんや学校のお友達、お父さま、お母さま、皆が私にとって大事なものです。離れたくありません。………私、もう独りは嫌です」
「ああ。俺たちはアーシアを絶対に独りなんかにしないよ。これからもずっと一緒だ」
美羽はアーシアの肩に手を置いて言った。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんは約束を絶対に守ってくれるから。ボクのことも守るって言ってくれて、ずっと守ってくれた。だから、信じて」
「はい!」
アーシアは笑顔でそう答えた。
うん、やっぱり笑顔が一番だ。
すると、美羽が今度は俺の鼻に指を当てて言った。
「だけど、あまり一人で無茶をしたらダメだよ? 今回はコカビエルっていう危ない人も絡んでるんでしょ?」
あらら………。
これは、一人で動こうとしたことがバレてるな。
流石は美羽。
鋭いな。
「お兄ちゃんが強いのはボクも分かってる。………でもね、お兄ちゃんもボク達のことをもっと頼って。お兄ちゃんが傷ついたら、お兄ちゃんを想ってるボク達も傷つくんだからね?」
小猫ちゃんや部長にもいわれたな。
一人で無茶するなって。
………そうだよな。
今回、俺は一人で動こうとしすぎたのかもしれない。
コカビエルなんて大物が絡んでくる以上、誰かが死ぬかもしれない。
そんなことは嫌だった。
だけど、美羽の言った通りだ。
誰かが傷つけばその人を想って、また誰かが傷つく。
俺が傷つけば俺を想ってくれている皆が傷つく。
そんな当たり前のことが今回、俺の頭からは抜けていた。
俺は美羽の言葉で大事なことを思い出せた。
「美羽の言う通りだよな。ゴメン、気を付けるよ。それから、ありがとな。大事なことを思い出せたよ」
「うん。分かってくれたらそれでいいよ」
美羽はそう言うとニコリと笑みを見せる。
そこで、俺は一つ疑問に思った。
「ちょっと待てよ。美羽にはコカビエルについては話してなかったよな? なんで知ってるんだ?」
「ギクッ!」
俺が尋ねると、体をビクつかせる美羽。
つーか、声に出てるし。
美羽には木場や聖剣については成り行きで話した。
だけど、コカビエルについては一切話していない。
それなのに、なぜ美羽は知ってる?
すると、美羽は申し訳なさそうに答えた。
「………え~と、お兄ちゃんが早く帰れって言ったあの日。実は部室を魔法で盗聴してました………。ごめんなさい………」
美羽は深々と頭を下げて謝罪する。
驚愕の事実に俺は天を仰ぐ。
マジか。
あの日、魔法の気配なんて一切しなかったぞ………。
魔法の痕跡も感じられなかったし………。
小猫ちゃんは俺を規格外だというけど、俺からしたら美羽の方がよっぽど規格外だと思う。
流石はシリウスの娘。
おっと、感心してる場合じゃない。
ここは兄として説教せねば。
俺は視線を美羽に戻し注意しようとした。
その時、だった。
「イッセー!私も着てきたわよ、裸エプロン!」
部長が現れたのでそっちを見ると、美羽やアーシア以上にきわどい裸エプロン姿だった!
大事なところがギリギリ隠れている程度で、なんとかエプロンだと認識できる代物だ。
ブファァァ!
俺は再び鼻血を噴出した。
なんて、エロい恰好をしてるんですか、部長!
それ、本当にエプロンなんですか!?
いや、もうそんなことはどうでもいいか。
この美女美少女三人の裸エプロンが見られただけで、十分だ。
そして、俺は幸福感に包まれながら、貧血でその場に倒れた。