ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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7話 星夜の世界

翌日。

 

俺と美羽、アリスの三人は午前中からとある場所に籠っていた。

 

ここは次元の狭間に設けられた空間で、アザゼル先生にお願いして作ってもらったものだ。

 

レーティングゲームのフィールドを参考にしていて、かなり強固な作りになっているのだが、特に広大というわけではない。

広さで言えば、改築前の俺の部屋より少し広いぐらいだろう。

 

床も壁も天井も真っ白な空間。

空間の隅に壺が一つ置かれているけど………。

 

そんな場所に俺達三人はいる。

 

いや、訂正しよう。

俺達三人に加えて――――実体化したイグニスがここにいる。

 

前に立つイグニスは俺達を見渡しながら言う。

 

「よく集まってくれたわね。それじゃあ、始めましょうか。今日ここであなた達は更なる次元へと進む」

 

真剣な表情に真剣な声音。

 

イグニスの言う通り、俺達は新たな扉を開く。

 

今のままではアセム達に対抗できない。

ラズル、ヴァルス、ヴィーカ、ベル。

アセムの下僕の力は前回、アウロス学園襲撃の時に戦ってよく分かった。

 

あいつらは強い。

能力もそうだが、単純に強いんだ。

 

一対一で戦えば、ごり押しで負ける。

 

それならば、味方と組んで戦えばいい………という考えもあるが、必ずしも近くに味方がいるとは限らない。

 

それに、あいつらは俺を標的にしているみたいだしな。

 

至り方はともかく、EXA形態が俺達の中で唯一抵抗できる力だろう。

 

だけど、あれは長くはもたない。

 

そこで、イグニスが美羽とアリスのパワーアッププランを立てた。

 

 

そのプランとは――――――

 

 

「『第一回美羽ちゃん&アリスちゃん、子作りプロジェクト! ~二人同時に孕ませちゃえ☆~』開幕ぅぅぅぅ! イエーイ!」

 

「イエーイ!………じゃねぇよ! この駄女神ぃぃぃぃ!」

 

部屋に響くツッコミ。

どこから出したのか横長の大きな段幕にデカデカと大きな文字が書かれている。

 

これはあれだ………例の『鬼畜化プロジェクト』の時と同じやつだ。

 

そんなことを思いながら、俺は更にツッコミを入れる。

 

「間違ってるよね!? これ、明らかに間違ってるよね!?」

 

「あ、もしかして回のところ? これは間違ってないわよ? だって、3Pで『生』は初めてでしょ?」

 

「もう少しオブラートに包めよ!」

 

「じゃあ、種付け?」

 

「アウトォォォォォ! つーか、俺が言いたいのそこじゃねぇし!」

 

「イッセーったら、ワガママねぇ。それじゃあ、中だ―――」

 

「おぃぃぃぃぃ! 言わせねーよ!? 絶対に言わせねぇよ!? つーか、修正する度に酷くなってるし!」

 

もうヤダ、この人!

ボケが多すぎて一人じゃ捌けないよ!

 

美羽とアリスもツッコミ入れてよ!

 

助けてもらおうと、二人の方に視線をやると――――――

 

「イグニスさん………ボク、お兄ちゃんと子作りしたい!」

 

「わ、私も! ………ま、まぁ………この前、しちゃったけど………」

 

ああっ!

二人が駄女神側に回った!

おまえらもそっち側!?

 

イグニスは二人の手を取り、慈愛に満ちた表情で告げる。

 

イグニスの背後に眩い光が見える………!

 

「あなた達の気持ちは分かっているわ。私に任せなさい。最強のお姉さんの加護をあげるから。大丈夫、二人の子供は元気いっぱいで生まれてくるわ」

 

「「おおっ………」」

 

おおっ………じゃないよ!

 

目をキラキラ輝かせている場合か!

ツッコミ入れろよ!

 

「元気な子供を生むためにも、最高の子作りをしないとね。さぁ、私に着いてきなさい。共に行きましょう――――青少年保護育成条例の向こう側へ」

 

「もう良いよね!? もう散々ボケたよね!? ぼちぼち本題に入ろうよ! 話が先に進まないから!」

 

「いい? まずはイッセーを―――――」

 

「無視かぁぁぁぁぁ! 人の話、聞けやぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

一時間後。

 

「それじゃあ、今日の本題! 『第一回美羽ちゃん&アリスちゃん神化プロジェクト』開幕ぅぅぅぅ! ドンドンパプパフ~!」

 

どこから出したのか、タンバリンを叩きながらイグニスが宣言する。

 

入り方はともかく、ようやく本題に入れた………。

 

なんだろう、この疲労感………。

一人でツッコミまくってたから………体力が………。

 

こんな調子で大丈夫なのかね………?

 

まぁ、気を取り直して。

イグニスが言っていた美羽とアリスの強化プラン。

 

それは―――――二人を『神』にすること。

 

俺も話を聞かされた時はあまりにぶっ飛びすぎた提案だったので、話が見えなかったほどだ。

 

初めは冗談を言っているのかと思ったけど、イグニスがいつになく真剣だったので詳しく話を聞いてみた。

 

それで、二人を『神』にする具体的な方法なんだけど………。

 

イグニスが説明を始める。

 

「これから美羽ちゃんとアリスちゃんにはイッセーと繋がってもらうわ。あ、言っとくけど下半身じゃないからね? まぁ、下半身繋げても良いけど………今度は私も繋がっちゃおうかしら♪」

 

「うん、それは良いから話進めてくれる?」

 

「んもー、イッセーったら冗談が通じないんだから~」

 

こいつの場合、冗談じゃないよね!

マジで繋がる気だよね!

下半身で!

 

「繋げるというのは魂――――それも魂の奥底、最も深い部分で繋げるの。でも、これは第一段階」

 

「第一段階?」

 

美羽が首を傾げる。

 

「そう、第一段階。繋がった後はイッセーの中にあるものを二人に分けるわ」

 

イグニスが言う、俺の中にあるもの。

 

それは――――――。

 

「ロスウォードがイッセーに与えたあの子が持つ神の力――――疑似神格。これを分割して二人に移す。これが今回行う儀式の大まかな流れよ」

 

疑似神格とは神が持つ神格に限りなく近いものだとイグニスは言う。

 

神は特別な存在だ。

火や水、雷といった属性から破壊や再生など、一人一人が特定の力を司り、一定の領域を守護している。

そのため一人でも消滅すれば、世界に大きな影響を与えることになる。

 

そして、神格というのは神の力、地位、存在そのものと言って良い。

 

しかし、疑似神格というのは少し違う。

何かを司ることもなければ、守護しているわけではない。

消滅しても、世界には影響しない。

 

神の波動を持ちながら、神とは異なる存在。

 

俺やアザゼル先生が初めてロスウォードに会ったとき、奴を『神』と判断したのは神が持つ特有の波動を放っていたからだ。

その波動を生み出していたのが、ロスウォードが持っていた疑似神格。

 

「あの子の疑似神格は作り出された物とは言え、他の神よりも遥かに上の波動を持っているわ。あの力を見たのだから、それは分かるでしょう? そして、あの子は最期に自分の力をイッセーに託した。恐らく、自分の生みの親とイッセーが戦うことを予期したからでしょうね。実際、その通りになった」

 

あいつはこうなることを考えて、俺に力を託した………そう言うことだったのか。

 

アセムに出会ったとき、俺の内側で騒いでいたのはロスウォードの力………いや、魂というべきか。

あいつの魂が怒り、強烈な殺意を放った。

破壊しか出来ない自分を作り出した、その恨みを籠めて。

 

イグニスが俺の両肩に手を置く。

 

「本来ならイッセーがあの子の力を解放できれば良いのだけど………それじゃあ、あなたの体がもたないわ。あの子の魂が怒っただけで、イッセーの体は悲鳴をあげた。あれはイッセーの魂があの子の力に耐えられなかったから。それは分かるわね?」

 

「ああ」

 

「体は鍛えれば強くなれる。だけど、魂というのはそうはいかない。今のイッセーの魂ではあの子の力を受け止められない。あの子の力を分割する理由は力を解放した時に一人当たりの負担を減らすためよ」

 

なるほど。

俺一人じゃ無理でも美羽とアリス、二人と合わせればなんとか受け止められると言うことなのだろう。

 

しかし………。

 

「でも、あのロスウォードの力だぞ? 俺達三人の力を合わせたところで受け止めきれるか?」

 

あれほどの力を振るったロスウォードの力だ。

『イグニス』の力を解放した状態でもギリギリだった。

あの時、アスト・アーデに住む人達や師匠達、神層階の神々の協力がなければ勝てなかっただろうし。

 

それを考えると俺達の力を合わせたところで、焼け石に水のような気もするが………。

 

「それはこれからのあなた達次第よ」

 

「………というと?」

 

俺が聞き返すと、イグニスは俺の胸に人差し指を当てた。

 

トントンと指先で叩きながら言う。

 

「イッセーの魂はまだ持てる力を解放しきれていない。これまで辿ってきた中で受けた様々な因子があなたの内に眠ってる。それを呼び覚ますことが出来れば、あなたの魂は更に上の次元へと行ける」

 

美羽が何かを察したようで、挙手する。

 

「ボク達がお兄ちゃんと繋がる理由ってもしかして………」

 

「そう。美羽ちゃんとアリスちゃんと繋がってもらうのはあの子の力を分散させる意味とイッセーと連動して二人の魂を上位へ引き上げる、この二つの意味があるの」

 

つまり、今回の儀式は俺と美羽、アリスの魂を連動できるようにすることと、ロスウォードの力を三分割するために行うと………。

 

………イグニスも何だかんだで結構考えてくれてるんだな。

 

今回の儀式の意図を理解しつつ、感心していると、イグニスはこの白い空間の隅に置かれていた壺を手にする。

 

アリスが壺を指差しながら問う。

 

「ずっと気になってたんだけど………それは?」

 

「これはね、アザゼルくんに頼んで用意してもらった水銀よ。………そういえば、言っていたものは用意してる?」

 

イグニスに問われた俺は懐を探り、あるものを取り出した。

 

それは理科の授業とかで使うガラス製の試験管。

それが三本。

 

試験管の中は三本とも赤い液体に満たされていて、ゴムで蓋をされてある。

この赤い液体は俺達の血だ。

 

一本一本にそれぞれの名前が書かれたテープが貼っているので、どの血が誰の血なのか分かるようになっている。

 

この血なんだけど、ここに来る前にアザゼル先生の研究所で抜いてもらったんだ。

 

………まぁ、美羽がまた暴れかけたんだけどね。

 

注射を見た瞬間に魔力を暴走させかけたので、俺が気絶させたけど。

 

あ、美羽のやつ、思い出して涙目になってる。

 

うーん、やっぱり、美羽には注射を克服させないとなぁ………。

注射の度に暴走してたら、またお医者さんがケガするぞ………。

 

イグニスは頷くと、俺から試験管を受けとる。

 

「イッセーのはこれね………」

 

そう呟き、俺の血が入った試験管の蓋を開け、壺の中に入れた。

壺の中に入ってた棒をくるくる回して俺の血と水銀を混ぜていく。

 

混ぜ終わると、次に美羽の血、その次にアリスの血を投入して同じように混ぜていった。

 

「これでよしっと。さて、さっそく魔法陣を描いていきましょうか」

 

そう言うとイグニスは空間の中央に立ち、目を細める。

 

壺を傾けると、壺の口から赤と銀色の混ざった液体が床に零れ落ちていった。

 

壺を持つ腕を素早く動かし、機械のような正確さで魔法陣を描いていく。

 

数分後、その魔法陣が完成したのだが………それは見たこともない複雑怪奇な魔法陣だった。

 

俺の隣で見守っていた美羽が呟く。

 

「なに………これ………。こんなの見たことないよ」

 

アスト・アーデでは最高レベルの魔法が使える美羽でさえこの反応だ。

 

俺もアリスも見たことがなくて当然だ。

 

イグニスは微笑みながら言う。

 

「それは当然よ。だって、私がこの間考えた魔法陣だもーん。私以外誰も知らないわよ」

 

「あー………やっぱり、そうなんだ」

 

「ま、そんなことはどうでも良いから。魔法陣の中に三つの円があるでしょ? そこに立ってくれる?」

 

イグニスが描いた魔法陣の中央には三角形の頂点に人一人が立てるサイズの円があり、三角形の真ん中にそれより少し大きめの円が描かれていた。

 

俺達はイグニスの指示に従い、三角形の頂点に位置する円の中に立つ。

 

それに続いてイグニスが少し大きめの円の中に立った。

 

「それじゃあ、いってみよー!」

 

「軽いな!?」

 

これ、かなり重大な儀式だよね!?

なんでそんなに軽いの!?

 

そんな俺のツッコミを無視してイグニスは何かを口にする。

そして、指を鳴らした。

 

 

すると―――――

 

 

床に描かれた魔法陣が虹色の光を放った。

 

 

 

 

――――温かい。

 

とても温かい、何かに身を包まれるような感覚。

この感覚はイグニスの中に潜った時と同じものだ。

 

………ここはイグニスの中か?

 

心地よい温かさを感じながら、ゆっくりと目を開けていく。

 

そこにはいつもの真っ白な空間――――――はなかった。

 

視界に広がるのは黒い空間。

広大な黒の世界。

 

だけど、完全な闇というわけじゃない。

 

あちらこちらに輝くものがあって、空をいくつもの光が流れていく。

 

星空………いや、宇宙にいるような感じだ。

 

あの流れていく光は流星だろうか?

 

「あれ、お兄ちゃん………?」

 

「ここは………どこなの?」

 

声がした方ので、振り返るとそこには美羽とアリスの姿。

二人ともここがどこだか分からず、少し困惑しているようだ。

 

「俺も分からないんだ。………イグニスの中だとは思うんだけど………こんな場所じゃ無かったし」

 

 

その時―――――

 

 

『ウフフ、ここはいつもの場所じゃないわ。ここはね、あそこから更に進んだ私本来の世界よ』

 

若い女性の声がこの星夜の空間にこだまする。

 

イグニスの声………でも、少し違っているような………。

 

空から虹色に輝く粒子が降ってくる。

 

それと同時にこの粒子と同じ、虹色に輝く髪を持つ女性が俺達の前に現れた。

温かな光を纏い、とても神秘的に見えた。

 

その女性はいつも見ている人と同じ顔をしていて。

 

「イグニス………なのか?」

 

そう、その女性はイグニスと同じ顔をしていた。

 

だけど、雰囲気は違うというか………。

 

女性は優しげな微笑みを見せる。

 

『そうね、いつもはそう名乗っているけど、今の私は《真焱》の《イグニス》ではないわ。私は――――の―――――よ』

 

聞き取れなかった。

 

恐らく今のがイグニスの本来の名前なのだろう。

その部分が全く聞き取れなかった。

まるで何かにかき消されたかのように。

 

見れば美羽やアリスも俺と同じだったようて、怪訝な表情を浮かべていた。

 

虹色の髪を持つその女性は微笑みながら言う。

 

『今のあなた達では私の名前は聞き取れないでしょう。それは仕方のないこと。まだその時じゃないもの。だから、いつもの様にイグニスと呼んでくれて構わないわ』

 

「………それじゃあ、イグニス。さっき言ってたけど、ここが本来の世界ということは………これが本来の力を表しているのか?」

 

俺がそう問うとイグニスは星空を見上げる。

 

『イッセー達から見て、この世界はどう感じるかしら?』

 

どうと言われてもな………。

 

俺達は当たりを見渡して考えてみる。

 

黒い空間、その中で輝く無数の星。

いつの間にか俺達の足元には大きな星があって、青く美しい光を放っていた。

 

「………絶景、かな?」

 

「うん………宇宙にいるみたい」

 

「見たことがなくて、とても綺麗だわ………。それ以外の言葉が出てこないくらいよ」

 

俺に続き、美羽、アリスと感想を述べていく。

 

本当にそれしか言葉が出てこないくらいに圧巻で、美しい光景だった。

 

『ありがとう、そう言ってもらえるのは嬉しいわ。………この世界で輝く星達はね、色々な人の心の光を表しているのよ』

 

「心の光………?」

 

『そう。人の想い、魂の輝きはどこまでも熱く、どこまでも輝ける。その人の想いが、魂が強いほど星は輝けるの』

 

イグニスはこちらに歩み寄ってくると俺達三人の手を取る。

 

『私はこれからもあなた達の心の光を見ていたい。あなた達の心はどこまでも美しくて、強い。そんな輝きをこれからも、ずっと―――――』

 

俺達の手を握るイグニスの手に光が集まってくる。

 

その光は徐々に大きくなっていき、バスケットボール大の球となった。

それが三つ。

 

三つの光の球は宙に浮かび、俺達三人の胸の前に移動してくる、

 

恐らく、これが―――――。

 

『それがあの子の――――ロスウォードがイッセーに託した力よ。これを三人に分けるわ』

 

イグニスがそう言うと光の球は俺達の中に入ってくる。

 

その時、ドクンッと俺達の体が強く脈打った。

 

ただ………それ以降は体に変化が起きたわけでもなく、力が満ちていくような感覚もない。

 

美羽とアリスも怪訝な表情で自分の体を見ている。

 

イグニスがそれを確認して言う。

 

『美羽ちゃんとアリスちゃんにも入ったわね。これで二人も疑似神格は得たわ。それを活かせるかどうかはあなた達次第よ』

 

そして、イグニスはニッコリと微笑み、俺達三人を抱き締めた。

 

『頑張りなさい。あなた達なら、その力を正しく使えると信じているわ』

 


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