終業式が終わったその日の午後。
俺達オカ研メンバーは兵藤家の上階にあるVIPルームに集まっていた。
終業式後の仕事を終えたアザゼル先生やロセ、それとこの地域に派遣されている天界スタッフを纏めているグリゼルダさんも集合している。
とりあえず集まれるメンバーが揃ったので、イリナが代表して今回の集会の主題を口にする。
「そのようなわけで、クリスマスの日にこの駒王町の皆さんにプレゼントを配るの!」
リアスが続く。
「この町は三大勢力の和平の象徴であり、重要拠点の一つ。けれど、それ以前にこの町に住む人達の大切な場所よ。普段からこの町を利用させてもらっているのだから、お礼も兼ねてクリスマスは住民の人達をお祝いしましょう」
「そうそう! そこで天界と冥界がタッグを組んで、この町にいる皆にプレゼントを配るのよ! そして、配るメンバーが―――――」
イリナが俺達に視線を配る。
俺が言う。
「『D×D』を中心にした俺達ってわけね」
「その通り! もちろん、クリスマスらしくサンタクロースの格好で配るわ!」
この町では今年に入ってから色々なことが起きた。
下手すれば町が丸ごと消滅してもおかしくない事件も起こり、はぐれ魔法使いの一件では実際に学園の生徒が被害を受けた。
俺達がこの町にいることで住民の皆さんに多大な迷惑をかけてしまっている。
それでは本拠地を他に移せばいい………と言いたいところだが、そう簡単にはいかない。
一度、ここまで設備を展開してしまってはおいそれと引っ越こすことは難しい。
更に言えば、今の状況下で下手に動けば、その隙を突かれてしまう可能性も十分にある。
ならば、クリスマスぐらい住民にプレゼントを渡しても良いのではないか、という意見が若手を中心に案があがった。
まぁ、これぐらいで俺達がかけている迷惑をチャラにできるわけではないのだが、それでも日頃のお礼とお詫びも兼ねて何かしたい。
そういう気持ちでこのプロジェクトが企画された。
この企画は各勢力のトップ陣も快く賛同してくれていて、資金も全面的に支援してくれている。
日頃のお詫びとお礼も兼ねているので、俺達もポケットマネーから出しあっている。
プレゼントは事前にリサーチをかけて住民の欲しいものをリストアップしたかったのだが、残念ながらそこまでの時間がなく、当たり障りの無いものだけど、もらうと嬉しいものがプレゼントの中心となる。
小さい女の子だったら、児童アニメの魔女っ子変身セット。
働くお父さんにはネクタイやマッサージ店のサービス券など。
あまり大それたプレゼントを贈ってしまうと、超常現象として大騒ぎされそうなので、先生のアドバイスのもと無難な線をいくことに。
「ま、都市伝説になるぐらいの内容でいいだろう」
先生はそう付け加えるが………。
イグニスが言う。
「思春期の男の子にはお姉さんが
「却下でーす」
「ええっ!?」
「なんで驚いてんの!? ダメに決まってんだろ!?」
「夢だからギリギリセーフでしょ? 本当なら大人の階段を登らせてあげたいところなのよ? 保健体育で百点採らせてあげたいじゃない」
「バカだろ! あんた、やっぱりバカだろ! エロ女神!」
「エロこそ力! エロこそ正義よ! エロは私の力の一部!」
「どっかで聞いたな、その台詞!」
「イッセーだって、聖なる夜を性なる夜として過ごすつもりのくせに~」
「ぐっ………! それを言われると………!」
「なんでそこで詰まるのよ!?」
アリスのツッコミが部屋に響く。
うん、このエロ駄女神は放置しよう!
一々かまっていたら話が進まねぇ!
と、とにかく、プレゼント内容はそういう感じで決まった。
この企画を受けて、皆もテンション高めとなっている。
自分がサンタクロースになってプレゼントを配る側になることなんて、そうあることじゃない。
まぁ、クリスマスというものに触れたことがないアリスは首を傾げているけどね。
悪魔がサンタの格好をしてもいいのか、という疑問もあるが「たまにはいいだろう」という意見で一致した。
うーん、結構テキトーだよね、
「うふふ、こちらがサンタのコスチュームですわ」
朱乃が用意したサンタの衣装サンプル。
男性用のものと女性用のものがあり、女性用のものはスカートが長いものと短いものがある。
これはミニスカート一択だろう!
サンプルを手に取りながらゼノヴィアがイリナに訊く。
「トナカイも用意するのか?」
「トナカイって飛べるようにするんでしたっけ?」
イリナがグリゼルダさんに訊くと、グリゼルダさんは頷く。
「ええ。飛べるように魔法をかけます」
おおっ、本格的だな。
ということはソリを引きながら夜空を飛び回るトナカイの姿が見れるということだな。
「サンタクロースになれるなんて光栄だね」
「でも、サンタさんのお仕事を奪ってしまいそうで気も引けるわ。これってサンタさんにとっては営業妨害よね?」
などと話しているゼノヴィアとイリナ。
俺はふと思ったので訊いてみる。
「やっぱりサンタって実在してるんだよな? 俺、見たことないけど」
小さい頃にプレゼントもらったけど………あれって父さんだったし。
寝ている俺の枕元にそっと置いていく姿を目撃しちゃったんだよね。
………あの時の父さん、サンタのコスチューム着てたけど、今思えばあれって母さんが作ったのかね?
この間のウェディングドレスを見たらそう思えてしまう。
リアスが笑みを浮かべて言う。
「ええ、いちおうね。まぁ、その話は別の案件になってしまうから、説明は省くわ」
へー、やっぱりいるんだな。
ま、悪魔や天使もいるし、なんとなくそんな気はしてたよ。
そっか、いるのか………会ったことないけど。
「………サンタさんはエロい子のもとには来なかったんですね」
小猫ちゃんの痛烈なツッコミ!
そうだね!
エロい子供のところには来ないよね!
だって、欲しがってたのがエロ本とかエッチなDVDだもん!
サンタさんも配りにくいわ!
どんな顔して配りゃ良いのか困るよね!
リアスが俺達を見渡して言う。
「クリスマスは悪魔の稼ぎ時でもあるわ。後でそのあたりのミーティングもするから、眷属は集まってちょうだいね」
「了解」
まぁ、俺達赤龍帝眷属は別行動だろうけど。
リアス達と話し合ったら、改めてこっちでも話し合わないとな。
木場が俺に言う。
「悪魔の仕事的にもクリスマスは忙しいからね」
クリスマスの時期、忙しいのはサンタだけではない。
悪魔も中々に忙しいそうだ。
と言うのもクリスマスの時期は寂しく過ごす住民から依頼が多く届くそうだ。
それも普段の十数倍にも及ぶという。
クリスマスに悪魔を召喚するというのは何とも言えないが、それだけ暇か、それだけ寂しいということだ。
「せっかく、この日を空けてくれていたお客さんのもとには赴かないといけないわ」
リアスが微笑みながらそう言う。
まぁ、俺も去年みたいにのんびり皆と過ごしたかったけど、この分だと今年はお預けになりそうだ。
クリスマス企画と悪魔の仕事だけでいっぱいになるだろうし。
「そういや、ソーナ達は今はアウロス学園でしたっけ?」
ふと思い出した俺は先生に訊く。
ソーナ達シトリー側は今回の企画、ギリギリまで話し合いに参加できないとなっていた。
話からするにあっちはぶっつけ本番になりそうだ。
「ああ、今はアウロスの修復、修繕中だからな。魔力で形は直せても事件が起きた以上、それに対する備えも必要となる。アグレアスを奪ったから、リゼヴィム達がもう一度あそこを攻めるとは考えにくいが、今後のためにも一から改装案を練り直しているそうだ」
クリフォトの襲来によりアウロスの町は甚大な被害を受けた。
田舎町そのものの備えの見直しが必要となり、現在は兵士が駐屯で警備している。
更にはテロ対策用に術式防壁も改めて張り巡らされたので、以前よりも強固になっている。
相手が相手だけに、それでも不安はあるが………先生の言うようにもう一度あの町を攻めてくる可能性は低いだろう。
ちなみにだが、あの事件の後、アウロス学園に対する体験入学募集は以前よりも応募が殺到しているそうだ。
匙に聞いた話では、既に予約で数年待ちの状態らしい。
「あの事件は冥界全土で大々的に報道されたからな。『若手悪魔、テロリスト集団を相手に大活躍。夢と希望の学園を死守!』、こんな見出しの新聞や報道が世間を巡れば、否応にも注目を集める。特に転生悪魔であるおまえ達や魔力に乏しいサイラオーグが伝説の邪龍相手に大暴れだ。下級、中級悪魔にとっちゃ、英雄譚にも等しい。ま、上役連中は面白くないだろうがな」
先生の言うようにあの戦いを生き残り、生の戦闘を目の当たりにした父兄の人達は、その光景をメディアに向けて興奮しながら語っていた。
それもあってアウロス学園の知名度は一気に上がり、今では知らない者はいないほど。
シトリー眷属がこの企画の話し合いに参加できないのは町の改修だけでなく、メディアの取材や応募の対応に追われているのも一つの原因だったりする。
レイヴェルが息を吐く。
「こちらにも取材の申し込みは来ていますが、今のところお断りさせていただいてますわ。ソーナさまが動けなくなった状態で私達まで動けなくなるのは問題なので」
シトリー以外にもあの事件の当事者である俺達にも取材は来ている………が、レイヴェルが言うように全部お断りしている。
理由としては『D×D』として動かなければならない以上、取材に時間を費やしている暇はないからだ。
で、そのお断りの対応はデキるマネージャーにして眷属であるレイヴェルがやってくれている。
ほんっと、この子は敏腕だよね。
▽
企画についてのミーティングを行った後、当日の衣装合わせとなった。
女性陣を中心に楽しげにサンタの衣装への意見を出しあっていく。
そんな光景を見ていた先生が苦笑いしながら言う。
「働き者だよな、おまえら。体張ったり、学校行ったり、今回みたいな企画にまで参加して、その上で己の仕事もきちんとこなす。若手ながら、俺は大したもんだと賛辞を送っちまうよ」
「そう思うなら、自分も働いてくださいね? ほら、こんなに書類貯まってるんですから」
と、レイナが魔法陣を展開して山のような書類を机の上に召喚する!
ちょっと貯まりすぎじゃない!?
「おいおい! 明らかに俺の分じゃないやつもあるよな!? どういうことだよ!?」
「先日、私に投げましたよね? ねぇ? 投げましたよね? 私、今回はこっちで忙しいので私の分の書類もお願いしますね?」
「はぁ!? おまえな――――」
「――――この間、グリゴリの資金で変なロボット作ってましたよね? あれ、シェムハザさまに報告しますよ?」
「すまん、俺が悪かった。喜んで引き受けよう」
あ、あの先生がレイナに屈した!
あのレイナちゃんが先生を脅したよ!
つーか、組織の金でロボット作ったんですか!?
何やってんの!?
ガックリと肩を落とす先生。
そんな先生を放置して、レイナは試着室へ。
少しするとサンタの衣装に身を包んだレイナが現れた。
「ねぇねぇ、イッセーくん。これ、どうかな? やっぱりスカートはミニの方が可愛いかな?」
そう問われ、俺は足元からじっくりと見ていく。
スラッとした足!
ミニスカートから覗かせる眩しい太もも!
腰には布がなく、おへそが丸だし!
胸の谷間もしっかり見えてだな!
うーむ、これは可愛い!
「うんうん! よーく似合ってる! 可愛いぞ!」
「ホント? やっぱり当日はこれかな? ちょっと寒いけど、その辺りは魔法でなんとかできるし」
そう言うとレイナは俺に近づいてきて、耳元で―――――
「………この企画が終わったら、イッセーくんだけのサンタクロースになろうかな? また『休憩室』で………ね?」
頬をほんのり染めての上目使い!
俺だけのサンタさん………だと!?
しかも、また『休憩室』ですか!?
いったい、どれだけ休憩するつもりなんだ、レイナちゃんは!
また押し倒しちゃうぞ!
ちなみに、赤龍帝眷属事務所の『休憩室』は二十四時間営業中だ!
俺とレイナがそんなやり取りをしている横では先生がリアスに話しかけていた。
「リアス、グレイフィアはどうだ?」
「………なんとも言えない状況みたいね」
リアスは目を細めて、そう答える。
現在、グレイフィアさんは捕らえられたユーグリットの尋問を行っている。
実の姉が直々にというのは普通はないのだが………なんでもユーグリットが希望したらしい。
当然、冥界の上層部もその申し出には反対したそうだが、サーゼクスさんが許可したおかげで、姉弟での尋問が叶った。
「本人はとてもご機嫌だと聞いたわ。よほど、姉とのお話が楽しいのでしょうね。けれど、お義姉さまの尋問は実の弟にするとは思えない苛烈なものだと聞いたわ」
リアスはそう教えてくれるが………。
あいつ、それでも喜んでいるのかよ………。
やっぱりとんだシスコン………いや、とんだ変態だな。
「俺もシスコンだけど、あいつとは同一視されたくないな………」
「こいつ、自分で言いやがったよ………」
「だって、姉もしくは妹とは楽しくおしゃべりしたいじゃん! 先生にはそれが分からんのですか!」
「分かるか! この重度のシスコン! サーゼクスとセラフォルーと妹談義でもしてろ!」
「しますよ! 『シスコン同盟』なめんな!」
「なんだよ、その同盟!?」
「俺とサーゼクスさんとセラフォルーさんで立ち上げたただひたすらに妹を愛でる会です! あと、アーサーも誘ってます!」
「メンバーが常軌を逸してるな! ほとんど一つの勢力じゃねぇか! つーか、アーサー誘ったのか!? バカだろ、おまえらバカだろ!」
うるせーやい!
妹を愛でて何が悪い!
今は互いに時間が取れなくて妹談義できないけど、いつかは!
平和になったら、語り合うんだ!
俺達はそう決めたんだ!
先生は息を吐く。
「まぁ、シスコンは置いといてだ。ユーグリットがぽつぽつ話始めたという情報では、クリフォトの隠れ家がいくつもあるようでな。既に各勢力はエージェントをそこに送り込んでいる。そろそろ本格的な奇襲が始まるだろうな。俺もシェムハザから『殲滅』の命を出したと報告をもらった」
「それでもリゼヴィムが捕まるってことはないですよね」
「当たり前だ。隠れ家にいるのは組織の末端だ。本隊は既にアグレアスに移っているはずだ。そして、そのアグレアスが現在、行方知れずだからな………」
………今のアジトはあの浮遊島ってわけか。
都市が一つ、丸々奪われたわけだから食料から機材、兵器の類いも相当な数を持っていかれたはずだ。
そこにあいつらが持ち込んだ分、量産型の邪龍も含めると………面倒なんてレベルじゃない。
「あれだけ大きな島がどこに行ったんですかね?」
「擬態でもして風景に融け込ませているんだろう。俺達の索敵に引っ掛からない仕様で術式を組んでな」
「もしかしたら、この町の上空にいたりするかもしれませんね」
「それもありうる話だ。灯台もと暗しなんて言うしな。………アグレアスの詳細だが、それを知っているアジュカとその眷属と連絡が取れないでいる。話ではあっちもあっちでろくでもない連中に絡まれたんだと」
ろくでもない連中ね。
魔王も敵が多いってことなのかな?
「………先生はアグレアスのことで、気づいていることがあるんじゃないですか?」
俺が訊くと先生はにんまりと笑んだ。
あ、これは何かを察知している顔だわ。
「まぁな。だが、いま話したところで、俺の予想に過ぎん。正式にアジュカの報告を受けてから、俺の推察も語ってやるよ」
………あの浮遊島にどんな秘密があるのやら。
リゼヴィムが欲するくらいだから、かなりの物が隠されているとは思うが………。
と、ここでグリゼルダさんが時計を確認した後、皆に言った。
「まずはこの後、一度皆さんを天界にお連れいたします。そこで、企画の確認とミカエルさまから年を明ける前のご挨拶をいただける予定です」
そっか、この後、俺達は天界に行くんだった。
悪魔が天界に行く。
普通ならあり得ないことだが、これも三大勢力の和平のお陰ってね!
天界ってどんなところなのか気になるよね。
「んじゃ、ミカエルによろしくな」
「あれ? 先生は行かないんですか? いや、この場合は戻らないんですかって訊いた方が良いんですかね?」
「今更戻れると思うか? ま、昔の研究施設を始末させてもらえるなら、行っても良いけどよ。企画には協力するんで、あとは若者に任せるさ」
先生はそれだけ言い残して、この場を後にした。
先生が行かないとなると、行くのはオカ研メンバーだけか。
天界へは地下の魔法陣を使って行くことになっているのだが―――――。
「イッセー、私も着てみたがどうだ?」
と、声をかけられたので振り返ってみると―――――
サンタのコスチュームを着たティアとイグニスのお姉さんコンビが立っていた!
ティアのやつ、いつの間に来たんだよ!――――っとツッコミたいところだが、俺の思考は既にそんなところにない!
だって、二人が着ているサンタのコスチュームがエッチなんだもん!
おへそ丸出しの赤いチューブトップに赤いミニスカート!
布面積が少ないサンタのコスチューム!
そのコスチュームどこにあったの!?
サンプルにそんなのあったっけ!?
俺の疑問を読んだのか、ティアが口を開く。
「これはおまえの母上殿の作品だ。一瞬でこれを作り上げてしまったのだが……あれは何かの能力者か?」
龍王に能力者と疑われる母さんだった。