ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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第十六章 聖誕祭のファニーエンジェル
1話 クリスマスプレゼント貰いました!


平和な時間。

 

何でもない、ごく普通の当たり前の時間だが………これは必ずしも当たり前とは限らない。

人によってはこの平和な時間を勝ち取るために戦い続ける人もいる。

この当たり前の時間が手に入らない人もいる。

 

俺もまたこの当たり前の時間というのを得るため、日々戦い続けてる。

 

戦って戦って、やっと訪れた平和な時間。

これはかけがえのないもので、大切にしなきゃいけないんだ。

 

そして今も――――。

 

「平和だなぁ………」

 

「平和だね………」

 

「平和よね………」

 

自室のベッドで大の字になっている俺に続き、美羽とアリスが声を漏らす。

二人もベッドの上にいて、俺の左右を固めるようにして寝転がっている。

 

部屋には俺達三人しかおらず、静かな時が流れていた。

 

ただただベッドの上で寝転がるだけ。

普通ならこの時間を別のことに使えれば有意義なんだろうけど、今はこうしていたい。

 

ただ三人でのんびりしたいんだ。

 

美羽とアリスは二人とも俺の腕を枕にして、ピッタリとくっついていて、二人の呼吸が聞こえてくる。

 

美羽が言う。

 

「そろそろクリスマスだね」

 

今は十二月。

怒濤の二学期ももうすぐ終わり、冬休みが始まろうとしている。

 

となると、近づいてくるのは十二月のイベント、クリスマスだ。

 

アリスが訊いてくる。

 

「その『クリスマス』ってなんなの?」

 

あー、アリスはクリスマスを知らないんだよな。

この世界に来たのは二学期が始まってからだったし。

向こうの世界にはクリスマスなんてなかったもんな。

 

美羽がそれに答える。

 

「簡単に言うと、お祭りかな? クリスマスの日にはね、恋人と一緒に過ごしたり、家族とゆっくりしたりする人もいるんだよ。あと、小さな子供はサンタさんからプレゼントを貰えるんだ」

 

「サンタって誰?」

 

「白い髭を生やしたお爺さん」

 

「………?」

 

う、うーん、その説明でアリスに理解させるのは無理があるような………。

今の説明だと、見ず知らずのお爺さんが小さい子供に物を配るということになるわけで………。

 

「………ストーカー?」

 

ほら、こうなる!

 

違うから!

サンタさん、ストーカー違うから!

そんなサンタさんの名誉を傷つけるような発言しないで!

天界から苦情来るよ!?

 

俺は目元をひきつらせながら言う。

 

「ま、まぁ、あれだ。大切な人と過ごす日って認識でいいと思う。大切な人と一緒にいて、何か物を贈ったりするんだ。ちなみに去年、俺と美羽は普通に家族で過ごしたかな。ご馳走食べて、プレゼント贈った」

 

ちなみに俺が美羽に贈ったのはマンガ全巻セット。

美羽が読みたがってたやつを贈った。

 

俺が美羽から貰ったのは手編みのマフラーだったりする。

今でも大切に使ってる………というか俺のお宝だ。

 

「美羽は今年は何がいい?」

 

「んー、今は特に無いかな?」

 

「本当に? 何でも良いんだぞ?」

 

そう尋ねると美羽は顎に指を当てて暫く考えた後、ニッコリと微笑んだ。

 

「いつもお兄ちゃんに可愛がってもらってるし、それで十分。毎日『思い出』ってプレゼントもらってるもん」

 

ぐっ………なんて可愛いことを天使スマイルで言ってくれるんだ!

良い子過ぎる!

可愛さのあまり吐血しそうになったぜ!

 

「じゃあ、俺も毎日もらってるな。美羽とこうしているだけで十分だ」

 

「お兄ちゃん………!」

 

「美羽………!」

 

仲良く抱き合う兄妹。

美羽は俺の胸に顔を埋め、俺は美羽の頭を優しく撫でる。

 

良いなぁ!

平和だなぁ!

やっぱりこういう時間こそが大切だよね!

最高に幸せだ!

 

俺は美羽の頭を撫でながら、アリスにも訊ねてみる。

 

「アリスは何か欲しいものあるか? 何でも良いんだぞ?」

 

「私? 私も今は特にないわね」

 

うーん………この二人、無欲か。

誕生日プレゼントとかも結構考えないと難しいぞ、こりゃ。

 

などと思っていると―――――。

 

「………というか、もう貰ったし」

 

「貰った? 何かあげたっけ?」

 

「貰ったわよ。いっぱい………ね?」

 

アリスは頬を赤く染めて、自分のお腹に手を当てて撫でた。

 

あー………なるほど。

そっちか。

 

先日、俺がアリスを背負って事務所に行った日のこと。

俺はアリスと例の『休憩室』を使ったんだが………。

 

アリスが嬉しそうに呟く。

 

「ある意味、本当の初めてを貰えたわけだし………それもあんなに………」

 

「まぁ………あんなこと、言われたら………な?」

 

あの日、俺がアリスを抱こうとした時、アリスはこう言ってきたんだ。

 

 

――――イッセーの初めては私が欲しかった。

 

――――美羽ちゃんが良い子なのは分かってるし、あの子がイッセーのことを想っているのは分かってるけど………。それでも、悔しくて。素直になれなかった自分が、勇気を持てなかった自分に悔しくて………。

 

――――私、あんたの本当の初めてが………ほしいの。

 

 

潤んだ瞳であんなこと言われたから、俺は何も言えなかった。

 

そして、俺達は―――――。

 

「ありがとね………。私、すごく嬉しかった。………ただ」

 

そこまで言って、アリスは人差し指で俺の鼻を突いてくる。

 

「流石に飛ばしすぎだったわ。おかげで足腰立たなくなったじゃないの」

 

「あ、ハハハ………調子に乗ってすいませんでした」

 

………あの時は俺も半分暴走してたからね。

終わった後、アリス、立てなくなってたもんね。

 

ほんっと、ごめんね。

 

それだけ、アリスが可愛かったってことで許してください!

 

「でも………美羽ちゃんには申し訳ないわ。一番最初に勇気を出したのは美羽ちゃんなのにね」

 

アリスが申し訳なさそうな表情で謝るが、美羽は首を横に振った。

 

「気にしてないよ。ボクもアリスさんを差し置いてお兄ちゃんの初めて貰っちゃったし、お会い子かな? あ、でも、良いの? もし赤ちゃんできたら、学校は………」

 

「それは良いの。学校に通うって言ったのはイッセーとの時間を増やすためだったし」

 

アリスは頬をかきながらそう言った。

 

………目の前で改めて言われると………恥ずかしい!

 

顔から火が出そうなんですが!?

ちょっと君達、オープン過ぎませんか!?

いや、今更かもしれないけど!

 

「フッフッフッ、やはり私の案は完璧だったようね。さっそくフル活用してるじゃない」

 

と、ここでイグニスが実体化してくる。

 

うん、言い返せないね。

結果的に使ってるわけだからね。

 

イグニスの策略(?)通りになってしまった!

お仕事した後にもう一仕事してしまう!

今のところ使ったのアリスとだけだけど………。

 

「それで? あの部屋の感想は?」

 

「「………よかったです」」

 

「でしょ♪」

 

顔を真っ赤にして答える俺達にイグニスは楽しげな笑みを浮かべてブイサインを送ってきた。

 

やっぱり、最強の女神さまには敵わんね………。

 

すると、イグニスは途端に真剣な表情となる。

 

「そうそう、例の件だけど、こっちの準備は整ったわ。ついさっきね。あとはあなた達三人の都合次第よ」

 

「―――――っ!」

 

その報告に俺達は目を見開いた。

 

例の件………そうか………。

イグニスの方は準備が済んだのか。

予想より遥かに早かったな。

 

となると、時間がある日を探さないといけない。

イグニスが言うには例の件を成すには結構時間がかかるらしい。

 

ふと美羽とアリスの顔を見ると、二人とも真剣で、覚悟を決めたような雰囲気だった。

 

「なぁ、イグニス。あのさ―――――」

 

改めて確認を取ろうとした時だった。

 

部屋の扉がノックされて開かれる。

 

入ってきたのは母さんだった。

 

「いたいた。イッセー、美羽ちゃん、二人とも来てくれる? 見せたいものがあるのよ」

 

その言葉に美羽が反応する。

 

「………お母さん、もしかして―――――」

 

「ええ。ついに、ね?」

 

 

 

 

兵藤家三階。 

ここに母さんの趣味室があるんだが、その部屋の前に俺は立っていた。

 

母さんにここで待つように言われたんだが………美羽だけ中に入ることを許されたんだよね。

 

待たされてるってことは俺には見せられないということではないだろう。

となると、美羽と一緒に何かの準備をしていると考えるべきなんだろう。

 

しかし、気になるな。

 

美羽は母さんの意図が分かっていたみたいだし………二人で何をしているんだ?

 

ここで待たされてから既に十分ほどが経っている。

 

思っていたより長いので扉に耳を当てて、中の様子を伺うと―――――。

 

『わぁ! すごいすごい!』

 

『でしょ? うんうん、よく似合ってる!』

 

テンション高めの美羽と母さんの声。

 

な、何をしているんだ?

気になる!

 

「か、母さん? そろそろ入っていいかな?」

 

『あ、ごめんなさい。イッセーのことすっかり忘れてたわ』

 

「忘れてたんかい!」

 

酷ぇ!

呼んだの母さんだろ!?

普通忘れるか!?

 

それとも何か!?

息子より娘の方が可愛いですか!?

 

それはそれで納得できるが………。

 

『イッセーも入ってきなさい。うふふ、きっと驚くわ』

 

お許しが出た俺は息を吐きながら扉を開ける。

 

そこで俺を待っていたのは――――――

 

「え……?」

 

純白。

一切の曇りがない白を身に纏う女性の姿そこにあった。

綺麗で神秘的にも思えるその光景に目を奪われ、誰なのか分からなかった。

 

「え………み、美羽か………?」

 

「うん。そうだよ」

 

「それって………その、あれだよな? ウェディングドレス………だよな?」

 

そう、美羽が着ているのは純白のウェディングドレスだ。

 

チュールやレースを幾重にも重ねたスカート。

胸から胴にかけては全体的に刺繍が施され一見派手にも見えるが、清楚な雰囲気を出している。

肩紐がないデザインで首筋や胸は広く露わになっている。

頭にはヴェールを被り、首にはキラキラと輝く銀のネックレス。

 

美羽は頬をほんのり染めて、少し恥ずかしそうに訊いてきた。

 

「えっと………どう、かな?」

 

「どうって………綺麗だよ、とっても。………あれ、おかしいな………涙出てきた………」

 

なんでかよく分からないけど涙が………涙が止まらない。

 

美羽が可愛いのもあるし、綺麗なのもあるし………美羽のウェディングドレスが似合いすぎて………。

 

美羽はこちらに歩み寄ってくると、ハンカチを取り出して流れる涙を拭ってくれた。

 

「もう、お兄ちゃんったら大袈裟だよ? でも、綺麗って言われたのは嬉しいな。お兄ちゃん、あのね」

 

「なに?」

 

「ボクね、お兄ちゃんのお嫁さんになりたい。このドレス着て、小さい場所でも良いからお兄ちゃんと結婚式してね………それでね………あれ、涙出てきた………」

 

うるうると潤ませた瞳から大粒の涙を零していく美羽。

それでも、これまでにないくらい幸せそうな笑顔を浮かべていて。

 

兄妹揃って号泣する俺達を見て母さんが苦笑する。

 

「泣くのはまだ先でしょ? その涙は本番までとっておきなさい」

 

「「うん………うぇぇぇ」」

 

「いや、余計に泣いてるわよ?」

 

「「嬉し過ぎて涙が止まらない………うぅっ………グスッ」」

 

「あらあら………しょうがないわねぇ」

 

母さんは苦笑しながらも、止めどなく流れ続ける俺達の涙をハンカチで拭いていく。

 

それから少しして、ようやく落ち着いた俺は母さんに訊いた。

 

「このドレス、どうしたの?」

 

あまりの感動に訊くのを忘れていたけど、このドレスは一体どこから持ってきたのだろうか。

買ったのか………もしくはレンタルしたのか。

 

すると、母さんは得意げな笑みを見せた。

 

「ふっふっふっ、このウェディングドレスはね………私のハンドメイドよ!」

 

「な、なにぃ!?」

 

このドレス、母さんが作ったっていうのか!?

刺繍も一つ一つ自分で縫ったと!?

完成度高すぎだろ!?

 

母さんはシャキーンと裁縫道具を構えて高らかに笑う。

 

「この私、兵藤咲の手にかかれば朝飯前よ! 時間かかったのは材料集めくらいかしら?」

 

「ボクもね、この間見た時は驚いちゃって。採寸とかも一切なしでピッタリだったから」

 

「採寸なし!? よく作れたな!?」

 

「私の眼を甘く見ちゃダメよ? 私は見ただけでスリーサイズから腕の太さ、足のサイズまで把握することができるわ。前の職場では『神眼の咲さん』と呼ばれた程よ」

 

「初耳なんですけど!?」

 

母さんって能力者か何かですか!?

あるいは神器所有者!?

裏の世界でも中々いないと思うよ!?

 

「ちなみに今は第二弾製作中! 次はアリスさんよ!」

 

バンッと机を叩く母さんの手元には方眼紙が置かれてあり、ウェディングドレスのデザイン画が描かれていた!

第二弾製作!?

ということはアリスのスリーサイズも把握しているんだな!?

 

あっ、よく見たら美羽が着ているドレスとデザインが違う!

デザインから考えているのか!

しかも、絵上手!

 

裁縫が得意なのは知ってたし、結婚する前はそういうところで働いてたのも聞いてたけど………想像を遥かに越えていた!

 

うちの母さん、マジスゲェ!

 

「とりあえず目標はイッセーのお嫁さん全員のドレスを作ることかしら? ふふふ、腕が鳴るわ♪」

 

楽しそうですね!

つーか、どれだけ作る気なの!?

 

やはり、母は偉大ということなのか!

 

美羽が俺に抱きついてくる。

 

「今年のクリスマスプレゼントはこれだね♪」

 

いや、本当にそう思う。

一生の宝になるよね。

 

母さんが言う。

 

「本当はクリスマスに渡したかったんだけど、イッセー達はお仕事があるんでしょ? それで、完成した今日に披露しようかなってね」

 

母さんの言う通り、クリスマスの日は俺達はおしごとだ。

 

その仕事というのは――――――。

 

ふいに部屋の扉がノックされて開かれる。

入ってきたのはレイヴェルだ。

 

「失礼しますわ。こちらにイッセーさまがいらっしゃるとお聞きして―――――」

 

ウェディングドレスを着た美羽が俺に抱きついているというこの状況を確認したレイヴェル。

 

完全に不意打ちだったのだろう。

口をポカンと開けて硬直してしまった。

 

そして、時が経つこと三十秒後。

 

「そ、そそそそそれはもしや、ウェディング………美羽さん!?」

 

「エヘヘ………お母さんが作ってくれたんだ」

 

「なっ!?」

 

うん、そうなるよね。

驚くよね、普通。

 

再び硬直するレイヴェルの後から別の影が。

 

「イッセーくん! もうすぐクリスマス大作戦よ! さっそく話し合いを―――――」

 

はい、飛び込んできたイリナもフリーズっと。

 

分かってたよ、こうなるの。

 

で、こうなったら最後―――――

 

「ええええええええええええ!?」

 

イリナの驚愕の声が兵藤家を揺らした。

 

悲鳴を聞いたリアス達が駆けつけて、ちょっとした騒ぎになるのは当然の流れとも言えよう。

 




さりげにイッセー母の名前を出しましたwww

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