ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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18話 黒龍、覚醒!

[アリス side]

 

 

「こん………のぉ!」

 

私が槍を振るう度に金属の打ち合う音がこだまする。

 

私、アリス・オーディリアはアスト・アーデの神アセムの下僕の一人、ヴィーカと戦闘真っ最中だった。

 

「ウフフ、今回は粘るじゃない。短期間で腕をあげてくるなんて………流石というべきかしら?」

 

ヴィーカは周囲に展開した魔法陣から創造した剣や槍を放出、私が避けたところをヴィーカ本人が攻撃してくるという戦法を取っていた。

 

前回はヴィーカの術中に嵌まり、遅れを取ってしまった。

 

だって………マシンガンとかいうこっちの世界の武器使ってくるし!

あんなの知らないわよ!

なんであんなゴツい銃あるの!?

なんであんなに撃てるのよ!?

 

おまけに、ヴィーカも得物をころころ変えてくるし!

 

ほんっと、やりにくいわね!

 

私は繰り出された槍の一撃を捌きながら言う。

 

「お誉めにあずかり光栄ってところかしら? あんたに誉められても全然嬉しくないけど!」

 

「あら残念♪」

 

ヴィーカは槍を捨てると、銃を二丁呼び出し両手で握る。

 

「じゃあ、弾丸をあげるわ。聖なる力付きでね」

 

銃の引き金が引かれ、二丁の銃が火を噴いた!

 

くっ………また、これ!

 

ただの銃なら弾切れを待つところだけど………この女の場合、それは無駄。

 

下手に受けてしまえば、悪魔になった私はダメージが大きい!

 

もう、悪魔ってめんどくさい体してるのね!

 

………あ、でも、イッセーといたくないってわけではなくて………。

 

ずっと一緒なら、それでも………って戦闘中に何考えてるのよ、私!?

 

「あああああああ! 後で一発殴ろう! うん、そうしよう!」

 

「………何、一人で騒いでるの?」

 

「なんでもないわよ! あんたには関係ないことだから気にしないで!」

 

さっきまでの思考を振りきるように私は横凪ぎに一閃。

 

穂先に雷を纏わせて振るったため、余波で前方の地面が弾け、深く抉れていく。

 

ヴィーカは大きく後ろに飛び、今のを回避していた。

 

ヴィーカが口許に手を当てて笑む。

 

「もしかして、愛しの勇者さまのことを考えてた? いゃん♪ 王女さまったらラブラブゥ!」

 

「うううううっさい!」

 

一々ムカつく女ね!

とりあえず、一発殴るまでは引けない!

 

ただ………中々それが出来ないのよね。

 

容易に突っ込めば、四方に展開された魔法陣からヴィーカが創造した武器が飛んでくる。

仮にそれを避けても、ヴィーカの卓越した戦闘技術でかわされ、下手すればカウンターをもらう。

 

どうにも攻めにくい。

 

………というより、このヴィーカという女、まだ何か隠している気がするのよね。

 

それが何か分からない内は無闇に仕掛けるのはダメ。

 

前回の轍は踏みたくない。

 

そんなことを考えているとヴィーカが口を開く。

 

「さっきから私のことジロジロ見てきてるけど………あなたまさか………」

 

どうやら、私の心の内を知られたようね。

 

ヴィーカの奥の手を探っているのがバレたとなると、彼女はどう出るか………。

 

奥の手を隠し通してくるか、もしくはこの場で披露してくるかの二択だと思うのだけれど。

 

しかし、ヴィーカが次に口にした言葉は―――――

 

「あなたまさか………レズなの?」

 

「は?」

 

「いえね、さっきから私の体を舐め回すような視線で見てくるから………。まぁ、自分で言うのもなんだけど? 私はこの通りナイスバディだし? あなたと違っておっぱいも大きいし?」

 

などと言ってヴィーカは胸を強調してくる!

腕で胸を持ち上げてこれ見よがしに谷間を見せてくる!

 

ムカつくぅぅぅぅぅぅぅぅ!

この女、ほんっとムカつくぅぅぅぅぅぅぅぅ!

 

「わ、私だってね! 胸くらい………そんな谷間くらい………………………………グスッ」

 

「………泣くくらいなら意地を張らなければ良いのに」

 

「うるさいわね! ちょっとくらい夢見ても良いでしょ!? というか、これから育つし! 大きくなるし! 谷間ぐらいできるしぃぃぃぃぃ!?」

 

言ってて悲しくなるけど、言わずにはいられない!

それでも、何か言い返したい!

 

涙目になる私を憐れむような目で見てくるヴィーカ。

 

お願いだから、そんな目で見ないで!

惨めになるから!

 

ヴィーカは息を吐く。

 

「まぁ、冗談はここまでにしておいて………。あなた、私の能力………奥の手でも探ってるんでしょ? 隠しても無駄よ。前回よりも攻めが慎重になっているもの」

 

「あら? 気づいているのなら話は早いわね。見せてもらえるのかしら?」

 

「奥の手は最後まで取っておくから奥の手なのよ? そう簡単に見せるわけないでしょ?」

 

………だと思った。

 

まぁ、そんなホイホイだすような奥の手って既に奥の手じゃないものね。

 

となると、ここからはより慎重に手を考えないといけない。

 

さて、どうしましょうか?

 

ムカつく女だけど、ヴィーカは強い。

更に他に手札があるとすれば厄介ね、ほんっとムカつくけど。

 

私は槍を構えてヴィーカと睨み合う。

 

その時、この場に近づいてくる気配があった。

 

現れたのは長身痩躯で、茶髪を後ろで括った男性。

『覗者』のヴァルス。

 

確か、木場くんと戦っていたと思うのだけど………まさか!

 

私はヴァルスが何かを担いでいることに気づいた。

 

それは―――――血塗れの木場くんだった。

 

「木場くん!?」

 

私が名前を呼ぶが、返事がない。

 

いや、返事が返ってこないことなど、ああして担がれている時点で分かっていた。

 

ヴァルスが木場くんを地面に下ろす。

 

「ご安心を。彼は死んでいませんよ。このまま放置すれば命を落とすでしょうが、今すぐ治療すれば問題ないでしょう」

 

「………っ!」

 

見たところヴァルスに傷が見当たらない。

体にも服にも一切。

 

騎士王状態の木場くんを完封したというの………?

 

ヴァルスの能力は相手の心の内を読むことに加え、一瞬先の未来を見るという反則級の能力。

 

それにしたって、木場くんの剣を掠めることもせず、ただ一方的に仕留めたその技量は恐ろしい。

 

「いえ、仕留めてはいませんから。彼は死んでいませんって」

 

「………さりげに心の内を読まないでくれる?」

 

女性の心を探るなんてデリカシーに欠けるわね、ジミー。

 

「心の内で悪口言うのやめくれませんか!?」

 

はいはい、分かったわよ、ジミー。

 

「泣きますよ!?」

 

あ、ジミーが泣いた。

 

私は地面に横たわる木場くんに視線を移す。

 

確かに呼吸はあるようだし、死んではいない。

アーシアさんの治療を受ければ問題ない。

 

だけど、この状況………。

 

私はヴィーカと戦闘中。

正直、こちらが劣勢。

 

そんな状況でヴァルスが現れた。

 

今、二対一なんてされたら、厳しいところ………。

 

すると―――――

 

「ヴィーカ、今日はここまでにしましょう」

 

ヴァルスが言った。

 

ヴィーカも頷く。

 

「ええ。彼女もそこに倒れてる子が気になってしょうがないみたいだし? ここまでにするわ」

 

そう言ってヴィーカは展開していた全ての武器を仕舞った。

 

怪訝に感じた私は二人に問う。

 

「………どういうつもり?」

 

すると、私の問いにはヴァルスが答えた。

 

「簡単に言えばあなた方を見逃した、ということですよ」

 

「なんですって?」

 

私が聞き返すとヴァルスは血塗れの木場くんを見下ろす。

 

「ここで彼を殺すのは簡単です。………が、それは惜しい。彼はこれからまだまだ伸びるでしょう。その果てを見ずしてここで絶つのは実に惜しいことです」

 

ヴィーカも続く。

 

「今のあなたは彼が気になって仕方がないんでしょ? そんな状態で十全の力は発揮できないでしょ? だから、私は帰るわ。また、手合わせしましょうね♪」

 

二人はそれだけ言い残すと、この場から去って行った。

 

………なんなのよ、あいつら。

舐めてる………って感じでもなさそうだけど………。

 

私は色々な疑問を浮かべながらも、木場くんを担ぎ、アーシアさんのところへと急いだ。

 

 

[アリス side out]

 

 

 

 

 

 

襲い来る量産型邪龍を蹴散らしながら俺、小猫ちゃん、匙、仁村さんの四人は学校の眼前に到着した。

 

俺の視界には奮闘する仲間達の姿。

 

「遅かったね、イッセーくん!」

 

「山場に駆けつけるなんて、まるで物語の主人公だな!」

 

レイナとゼノヴィアか息をあげながらも邪龍を撃退していた。

 

ふと視線をやれば、向こうの方で邪龍の一体が飛び上がった。

 

いや………飛び上がったにしては不自然だ。

 

不自然な飛び上がりをするのは一体だけではなかった。

次々と上空に打ち上がっていく。

 

巨大な邪龍達が上に投げ飛ばされたような光景が展開していて、その奇妙な現象は徐々にこちらへ近づいてくる。

 

俺の視界に―――――立ち上る極大の闘気が映り込む。

 

「待たせてすまない。アグレアスの戦闘はこちらが優勢になったのでな。俺だけでもと送り出されてきた」

 

サイラオーグさんが邪龍の群れを殴り飛ばしながら不敵に笑んだ。

 

そうか、アグレアスはこっちが優勢なのか!

それを聞いた皆も笑みをかえし、気迫に満ちた攻撃を仕掛けていく!

 

リアスがサイラオーグさんに駆け寄る。

 

「サイラオーグ! 来てくれたのね!」

 

「ああ。向こうはシーグヴァイラ・アガレス達に任せている。相手側の手が薄れたのでな。アジ・ダハーカが退いた理由が気になるのだが………」

 

サイラオーグさんは少し引っ掛かるといったような表情を浮かべていた。

 

サイラオーグさんはアジ・ダハーカと戦っていたようだけど、この言い方だと向こうが不利になったから退いたという感じでは無さそうだ。

 

俺はリアス達に言う。

 

「こっちはグレンデルを完全に倒した。うちの女神さまがやってくれたよ」

 

「どう? すごいでしょ? 魂まで燃やし尽くしたから、もう二度と復活しないわ」

 

実体化したイグニスがえっへんと胸を張る。

 

この報告に皆が歓喜する。

 

まぁ、イグニスの炎に触れたら何でも消え去るよね。

 

皆に一通りの説明をしていると、近くで白い閃光が煌めき、量産型邪龍の群れを一気に蹴散らしていった。

 

更にその近くでは巨大な竜巻が巻き起こり、邪龍達を吸い込んでいく。

 

俺達の前に姿を現したのはもちろん――――

 

「お待たせ、イッセー。こっちは何とか無事よ」

 

アリスとアーシア、ロスヴァイセさん。

それから、アリスに肩を貸してもらっている木場の姿。

 

木場のやつ、ボロボロなんだが………まさか、ヴァルスにやられたのか!?

 

「お兄ちゃん達は無事?」

 

こっちはティアに担がれている美羽とディルムッド。

三人とも疲労が激しそうで、同じくボロボロ。

 

俺は今合流してきたメンバーのもとに駆け寄り、事情を聞く。

 

アリスが言う。

 

「ヴィーカもヴァルスも帰っちゃったのよね。まぁ、あの場で帰ってくれたのはありがたかったけど」

 

「ごめん、イッセーくん。こっちは手も足も出なかったよ」

 

木場が申し訳なさそうに謝ってくる。

 

いや、木場は悪くない。

 

ヴァルスの能力が反則なだけだ。

相手の心の内を読むということはカウンターを放つことなんて簡単だし、先手を打つことも余裕だ。

 

ある意味最強のテクニック殺し。

 

木場では相性が悪すぎる。

 

かといって、俺がやって勝てるかと聞かれると微妙なところだ。

 

こちらの動きが読まれるなんて、対策のしようがない。

 

大規模攻撃で一気に吹き飛ばすことが出来れば良いが………チャージしている一瞬に斬られそうだ。

 

俺は美羽達に視線を移す。

 

「ベルは?」

 

「退いたよ。他の三人が帰ったから帰るって。あのまま続けられてたら結構不味かったかも」

 

美羽が疲弊した体でそう言った。

確かに美羽達が戦う余波は俺のところにまで届いていたけど………。

 

ベルの力はとんでもないな………。

いや、アセムの下僕全員に言えることだけどさ。

 

「…………」

 

ふとイグニスの方を見ると美羽とアリスを見つめて何か考えていた。

顎に手をやり、珍しく真剣な顔つきだ。

 

イグニスの視線に気づいた二人は怪訝な表情を浮かべて、

 

「どうしたの?」

 

と聞いてみるが、イグニスは何も答えずただじっと二人を見る。

 

………何を考えているんだ?

 

暫しの沈黙の後、

 

「ねぇ、美羽ちゃん、アリスちゃん。二人とも――――」

 

 

ドゴォォォォォォォォォォン!

 

 

イグニスがそこまで言いかけた時、轟音が鳴り響く!

 

見れば空から量産型邪龍がこれでもかというぐらいに降ってきていた!

 

「話は後だ! アリスとティアは前衛、美羽は後衛だ! 木場は消耗が大きすぎるから少し休んでいろ! ディルムッドは――――」

 

「私はマスターを守るだけだ」

 

そっけなくそう返すディルムッド。

 

俺はフッと笑みを浮かべるとその場を駆けだした。

 

 

 

 

「………消えてもらいます」

 

白装束の猫耳お姉さん――――白音モードとなった小猫ちゃんが火の輪っかを飛ばして邪龍を塵に変えていく。

 

初めて見る白音モード。

 

邪な存在は塵にされると聞いていたが、効果は抜群だな!

 

つーか、小猫ちゃんが成長するとあんなにおっぱいが大きくなるのか!

しかも超美人!

あのロリロリな小猫ちゃんがあんなお姉さんになるなんて感動だよ!

うーん、これは良いものが見られたかも!

こんな時になんだけど!

 

とりあえず、俺も負けてられねぇ!

 

「おらおらぁ! 消え去りやがれ」

 

『Highmat Full Blast!!!!』

 

天撃の鎧となっている俺は砲撃の嵐を量産型邪龍共にお見舞いして、消し飛ばしていく!

 

「ふんっ!」

 

「くらいなさい!」

 

サイラオーグさんやリアスも単独で複数の邪龍を相手取り、蹴散らしていた。

 

「イッセーくん! 剣士の誰かに譲渡を!」

 

「了解だ!」

 

ソーナはこの学校の周囲を丸ごと水の結界で維持しながら、全員に的確に指示を送っていた。

 

そのソーナを守るように回復したばかりの匙とシトリーの『僧侶』二人組である花戒さん、草下さんが配置されている。

 

「回復を!」

 

回復役のアーシアも懸命に動き、傷ついた仲間を癒していた。

こちらも疲労の色が強いが、それでも倒れずに回復の光を飛ばしてくれている。

 

戦闘が続くなか、学校の方でまばゆい閃光が溢れ出し始める。

 

あれは………転移の光!

魔法使い達の術式が完成したのか!

 

転移の光が学校全体を包み込むように大きく広がっていく。

 

転移魔法陣で避難している住民や子供達が町の外へ避難できれば、あとはこの一帯を覆う結界がなくなるまで持ちこたえればいい。

 

奴らの術式も永遠に続くというわけではないからな。

 

しかし―――――

 

「………? 転移が始まらない?」

 

美羽がそう口にした。

他の皆も一向に転移が始まらない状況に訝しげに首を傾げている。

 

「………様子がおかしいですね。下で何かあったのかもしれません」

 

ソーナが地下シェルターの魔法使いに連絡を取ろうとした時だった。

 

転移魔法陣が怪しい輝きを放ち、一筋の光をとある方向に飛ばした。

 

その光の先にあるのは――――――空中都市アグレアス!

 

予想外の光景に全員が仰天していると、高笑いが辺りに響いた。

 

その声が聞こえるのは上空。

 

そこに立つのは紫炎のヴァルブルガ!

 

「おほほほ、残念でしたわねぇ。アグレアスとここを攻めるというのは建前ですのん」

 

ソーナが何かに気づいたようだ。

 

「なるほど。本当の狙いはアグレアスそのもの、ですね? あれは旧魔王時代から存在する浮遊島です。未だ島の原理をアジュカ・ベルゼブブさまが解析中のものでした。旧魔王――――つまり、前ルシファーの息子たるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーはあの島自体を欲したということですか」

 

「おほほほ、ええ、そのとーりですのん。リゼヴィムおじさまはあの空に浮かぶ島自体に興味がおありのご様子でしてねん。今回、このような方法でいただくことにしましたのよん。―――――この町に集う名だたる魔法使いの皆さんの転移魔法を利用することで。あの魔法使い達の中には私達と通じている者がおりましてよん! 今まさに発動するというギリギリの瀬戸際で、皆で作った魔法陣をアグレアスに向けて放つように調整しましたのよーん! 作戦は成功みたいですわねん」

 

リアスが苦虫を噛み潰したように言う。

 

「………最初から計画されていたのね。このタイミングでこの一帯全てを囲うことも、この町で集会を開いたのも、全てあのアグレアスを外に転移させて奪うため………!」

 

普通にやったんじゃ、アグレアスは奪えない。

だから、集会に集まる名うての魔法使いの力を利用した。

魔法使いに奴らの仲間を潜り込ませ、その上で魔法使いの魔法を一部だけ封じてそこを囲えば、中ではなんとか脱出しようという話になる。

 

奴らが三時間と指定してきたのも転移魔法陣の完成を見越してのこと。

 

全てがアグレアスを奪うためだったのかよ………!

 

いや、でも、だからって………。

 

俺の隣にいたレイヴェルが言う。

 

「前魔王を支持する悪魔は多く、特にルシファーとなれば、惜しみなく力を貸す者が出てもおかしくありませんわ」

 

リゼヴィムが前ルシファーの息子だから力を貸したヤツがいるってか………!

あの野郎、自分の血筋をフルで使ってきやがる!

 

ソーナは花戒さんと草下さんに地下シェルターの様子を見に行かせた後、ヴァルブルガに問う。

 

「アグレアスで何をするつもりなのですか? いえ、あそこには何があるというのですか?」

 

ヴァルブルガがアグレアスの方に視線を向ける。

 

アグレアスが転移の光に包まれて―――――消えていった。

空中都市丸ごと転移させたのか!

 

「それは―――――」

 

ヴァルブルガが嬉々として話そうとしたその時だった。

 

突如、白い空にヒビが入った。

 

そのヒビは次第に広がり――――結界が砕けていった!

 

結界が壊された!

 

ディルムッドのように一時的に解除したのではなく、完全に破壊された!

 

一体誰が―――――。

 

俺達の眼前に一条の閃光が流星のごとく降った。

その閃光は学校の校庭に突き刺さる。

 

俺は校庭に突き刺さったものをみて驚愕した。

 

 

―――――黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 

 

おいおい、ここでその槍が降ってくるのかよ!?

 

そいつの宿主は―――――――。

 

しかし、いつまで経っても聖槍の持ち主は姿を見せない。

すると、聖槍は転移してこの場から消えていく。

 

またまた予想外の光景に皆が言葉を失っていた。

 

ヴァルブルガが嘆息する。

 

「………まさか、ここでこんなことになろうとは。けれど、もう遅いですわん」

 

ヴァルブルガが指を鳴らすと空に転移魔法陣が無数に展開され、新たに量産型邪龍が姿を現した!

 

「作戦が成功したのに、まだ来るの!?」

 

「わたくし、殲滅するのが大好きですのよん。お疲れのようですけれど、もう少しわたくしと遊んでくださいましねーん♪」

 

「………嫌な女!」

 

全くだ!

 

女だけど、俺、あいつ嫌いだ!

とことんまでふざけやがって!

 

サイラオーグさんが飛び出していく!

 

「やるぞ、リアス、兵藤一誠、ソーナ・シトリー! ここで止めねば末代までの恥だ!」

 

俺達は頷きサイラオーグさんに続き飛び出していく!

 

俺は邪龍の群れの中心に突貫して、内側から邪龍を吹き飛ばしていく!

 

消耗は大きいが、こいつら程度なら数がいても同じだ!

 

「作られた邪龍風情がまとわりつくな!」

 

ティアも龍王の力を使い、多くの邪龍を消滅させていった!

 

他の皆も体にむち打って立ち向かっていく。

 

その時、俺の視界に嫌な動きが映り込む。

 

ヴァルブルガが手元を―――――学校の方へ向けた!

 

刹那、校庭に紫炎の十字架が上がり、一部の施設を吹き飛ばした!

 

「学校が! ダメェェェェェ!」

 

ソーナが悲鳴に近い声を上げて校庭の方に走っていく!

 

「待て、ソーナ!」

 

俺が声を荒げるもソーナの耳には届いていない!

 

あの聖遺物の紫炎を受ければソーナは………!

 

そんなことは普段のソーナなら分かるはずだ。

しかし、いつもの冷静なソーナはそこにはいなかった。

 

宿願だった学校が目の前で燃やされる。

それがたまらなく嫌だったんだ。

 

ヴァルブルガがソーナに向けて紫炎を放つ――――――

 

 

「させるかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

大気を震わせるほどの大声をあげながら、匙がソーナと紫炎の間に入る!

 

黒い炎を身に纏い、ソーナの盾となる匙!

 

聖遺物の炎を抑え込もうとしているが、相殺しきれず――――

 

「があああああああああああああああっ!!」

 

紫炎に焼かれ、匙は苦痛の声を荒あげる!

 

「逃げなさい! サジ! このままでは死んでしまいます!」

 

ソーナが叫ぶが、匙は退かない!

 

それどころか―――――一歩前に出た。

 

その光景にヴァルブルガは笑みを浮かべる。

 

「あらあらん。さっきの悪魔くんじゃない。また私に燃え萌えさせられにきたのかしらん」

 

手を匙に向けて次々に紫炎を放っていく!

 

その全てが匙に直撃した!

次々に襲い来る紫炎に黒炎が押されていく!

 

しかし―――――

 

「退けるかよ………!」

 

匙は身を焦がしながらも前に進む。

 

よろめいても倒れず、激しい痛みの中でも鋭い眼光をヴァルブルガに向けていた。

 

「………この学校は! 会長の………俺達の夢なんだ! そう簡単に壊されてたまるかよ………っ! 」

 

押されていた黒い炎が少しずつ少しずつ、盛り返していく。

 

「俺は………『先生』になるんだ! あの子達に! あの子達に教えたいことがあるから! だから、俺は退くわけにはいかねぇんだ!」

 

「おほほほほほ! 無駄ですわよん! だって、今すぐ、あなたとその学校はわたくしに燃え萌えさせて燃え尽きてしまうんですものん。さ、燃えちゃいましょうね♪」

 

ヴァルブルガが十字架の出力を上げていく!

あいつ、本気で匙を消滅させる気だ!

 

匙を覆っていた紫炎がゴウッと音を立てて、より熱く、より巨大になっていく!

 

それでも、あいつは――――

 

「燃えるのはてめぇだ………! 俺は何が何でも守りきるぞ………! 兵藤みたいに全てを守れる力はねぇ。 だけど、それでも俺は………俺は――――――」

 

匙は思いの全てを叫ぶ!

 

「俺は惚れた女を! 惚れた女の夢を! 俺達の夢を守りたい! おまえなんかに燃やされてたまるかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

ん………?

 

んんんんんんん!?

 

あいつ………匙のやつ………公開告白しやがったぁぁぁぁあ!?

今の、完全に告白だよね!?

 

名前言ってなかったけど、誰に向けられているかは明らかだよね!?

 

ソーナも匙の後ろで一瞬ポカンとしてたけど、みるみる顔が真っ赤になっていったよ!?

 

匙の横に黒い大蛇が出現する!

ヴリトラだ!

 

『遅くなったな、我が分身よ』

 

「ヴリトラ!? 帰ってきたのか!?」

 

匙の言葉にヴリトラは目を輝かせ、不敵な笑みを作る。

 

『ああ、今しがたな。しかし、少し見ない間に随分と成長したようだ。見違えたぞ』

 

「………ああ、今ならいけそうだ。悪かったな、遅くなっちまった」

 

匙の体を異様なオーラが包み込む!

紫炎を消し去り、黒いオーラが膨れ上がる!

 

まさか………あいつ………!

 

ヴリトラが吼える!

 

『聖遺物の使い手よ! 我が分身の漆黒の炎を抑え込もうなど舐めてくれるなっ! 行くぞ、我が分身よ!』

 

「ああ、いこうぜ、ヴリトラ! 今の俺なら、おまえと―――――」

 

『さぁ、見せつけてやろうぞ! 「黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)」と称されし、邪炎の力を!』

 

匙とヴリトラが黒いオーラを爆発させ、漆黒の炎を身に纏う!

 

 

そして――――――

 

 

「『禁手化(バランス・ブレイク)』ッ!!」

 

 

黒いオーラが一気に弾け、そこに現れるのは暗黒の鎧を纏った匙。

 

全身から黒い触手のようなものをいくつも生やし、漆黒の炎をたぎらせていた。

 

暗黒の鎧を纏う匙が叫ぶ。

 

『―――――「罪科の獄炎龍王(マーレボルジェ・ヴリトラ・プロモーション)」。地獄の業火に等しい俺――――いや、俺達の黒炎とあんたの聖なる紫炎。どっちが強いか勝負といこうぜ!』

 

 

 

 




ついに匙、覚醒&公開告白!

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