ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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15話 援軍来ました!

「言っとくがさっきの拳は何の能力でもないぜ? ただの拳だ。―――――我が拳は幾千、幾万の兵を凪ぎ払うってな。俺の拳は一振りで神をも殺す。それ故に俺は『破軍』を与えられたのさ」

 

ラズルの言葉が耳に入ってくる。

 

幾千、幾万の兵を凪ぎ払う。

一振りで神をも殺す………か。

 

俺は奴の言葉を脳内でリピートしながら、あの拳の威力を思い出す。

 

格闘特化の天武(ゼノン)の拳が圧倒された。

拮抗すらしなかった。

 

繰り出した左の腕なんて痺れて上手く動かせないほどだ。

下手すりゃ、骨までいってるな。

 

「ガフッ………」

 

俺は内側から込み上げてくるものを吐き出した。

血反吐が口から流れ、俺の首を掴んでいるラズルの手の上に落ちる。

 

そんな俺の様子にラズルは口を開く。

 

「なんだぁ? もう終わりかよ? だったら期待はずれにも程があるぜ」

 

もう終わり………?

 

期待はずれ………?

 

その言葉を聞いた俺は右手をラズルの顔に向けて―――――

 

「アグニッ!」

 

ゼロ距離でアグニを放つ!

赤い極大の光がラズルを襲った!

 

回避しきれなかったラズルは後ろにぶっ飛び、俺はラズルから解放される。

 

鎧の壊れた部位を修復し、爆煙に包まれるラズルに言ってやった。

 

「舐めんな。この程度でダウンするかよ」

 

結構なダメージは受けてしまったが、戦えないほどじゃない。

 

まだ拳は握れる。

まだ体は動く。

 

この程度で倒れてるようじゃ、赤龍帝は名乗れないさ。

 

煙の向こうから笑い声が聞こえてくる。

 

「ガハハハハハ! そうこねぇとな! これしきのことでおまえが倒れるわけねぇよなぁ!」

 

巻き起こる煙を振り払いラズルが姿を現す。

 

服や肌が多少焦げてるけど………思ったよりダメージが少ないな。

 

攻撃力だけじゃなく、防御力も並外れているらしい。

 

こいつは………かなりの強敵だ。

 

俺はラズルを睨みながら、構えを取る。

 

「とんでもねぇ破壊力に引力を操る能力か。おまえ達の能力は厄介すぎるぜ」

 

「まぁな。だがよ、うちのベルに比べちゃ可愛いもんだろ?」

 

そう言うとラズルは親指で向こうの方を指差す。  

 

その先にあるのは巨大な魔獣の群れを率いるベルの姿と魔法のフルバーストをぶっ放している美羽。

 

今のところダメージを受けているようには見えないが、消耗はしているようだ。

対してベルは殆ど消耗しているように見えない。

 

あれだけの超巨大魔獣を生み出しておいてスタミナ切れしないなんてな………。

下手すりゃ、ベル一人でもまた魔獣騒動を起こせそうで恐ろしい。

 

俺はベルの能力の危険性を改めて感じながらもラズルと対峙する。

 

助けに行きたいところだが、まずは目の前の敵を何とかしないと話にならないんだよね、これが。

 

構えたまま、ジリジリと距離を詰めていく。

 

「………いくぜ!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

全身のブースターからオーラを噴出して、真正面から突っ込む!

 

倍加した力は全て推進力に回す!

領域(ゾーン)にも突入済み!

 

ラズルの攻撃をまともに受ければ、防御してもその上から砕かれる!

 

だったら――――――

 

「当たらきゃ良い話だろうがッ! おおおおおおおおっ!」

 

「うおっ! 速いな! 滅茶苦茶速ぇじゃねぇか! だが、俺も速いんだぜ!」

 

ラズルも高速で動き出す!

 

こいつも図体でかいくせになんつー速さだ!

俺に着いてきていやがる!

 

俺はラズルの巨大な拳の間を掻い潜りながら、攻撃を繰り出していく!

 

繰り出される度に暴風が巻き起こり、掠めるだけで鎧が砕けていく!

こいつをもうまともに食らうわけにはいかない!

次に食らえばこっちがもたない!

 

「おらおらどうしたぁ! こっちには大して響いてねぇぞぉ!」

 

「うるせぇ! これから砕いてやるから黙ってろッ! プロモーション『戦車』!」

 

『戦車』に昇格することで攻守が上がる!

 

ここからが俺の新しい切り札!

格闘戦特化の天武のパワーを更に向上させる!

 

「いっくぜぇぇぇぇぇ! 昇格強化!」

 

『F-Drive!!』

 

昇格強化。

ずっと探していた悪魔の駒と神器の最高の同調。

駒の昇格により、神器のパワーを最も効率よく、最大にまで引き出すための強化。

 

俺があまり駒の昇格を使わなかったのはこの同調が上手くいってなかったからだ。

 

それがつい先日、ドライグの調整が済んだことにより使用可能に。

 

「『戦車』への昇格は天武の力を更に高位の次元へと引き上げる!」

 

赤いオーラが全身から迸り、赤い稲妻が全身の宝玉から放出される!

ブースターも大きくなり、出力も数段階上の領域に至った!

 

俺はラズルの豪腕をかわして懐に入り込む!

 

「倍返しだ! この野郎ぉぉぉぉぉぉ!」

 

赤いオーラを放つ拳がラズルの顎を捉え、全身の急所に連打を撃ち込んでいく!

超高速の拳の嵐!

一発一発、的確に、抉り込むように!

 

「ぐおっ!? 拳の威力だけじゃねぇ………スピードも上がってんのか!?」

 

「ああ、そうだ! おまえみたいに頑丈で一撃が必殺になりうる奴には手を出させず、手数で圧倒するのが一番だからな!」

 

「なるほどなぁ! だがな! 俺の能力を忘れてるぜぇ!」

 

その瞬間、俺はラズルから見えない力で遠ざけられた。

ラズルが俺を殴ったわけではない。

 

この壁に押されるような感覚………こいつは!

 

「言ったろ! 俺は引力と斥力を操るってな! 斥力を操れば防御にも出来るんだよ! そんでもって―――――」

 

ラズルは屈むと掌を地に当てる。

 

すると―――――

 

俺は地面に引き付けられた。

立てなくなり、その場に膝をついてしまう。

 

体が重く、まるで錘を背負っているみたいだ………!。

 

「ぐっ………!? おまえ、まさか………!」

 

この現象の理由に気づいた俺はハッとなる。

 

その様子にラズルが笑んだ。

 

「そういうこった! 俺はな、こうして物質に引力や斥力を付与できるんだ! 地面に引力を付与すれば、それは重力となる!」

 

物質に引力と斥力を付与!?

こいつも大概反則級の能力じゃねぇか!

 

クソッ………地面に体が引かれて動きが………っ!

 

重力に引かれて動きの取れない俺にラズルが迫る。

 

「どうだ動けねぇだろ? さぁ、どうするよ勇者殿?」

 

そう言いながらゆっくりと近づいてくるラズル。

 

このまま動けなかったら俺は奴の拳の餌食になる!

それは何としてでも回避しないと、ヤバい!

 

こうなったら―――――

 

「ごめん! 町の人達! この畑、もう使い物にならなくなるかもしれない!」

 

心からの謝罪と共に俺は掌を地面に向けて―――――特大のアグニを放った!

 

俺の下にあった地面は消し飛び、谷のように深い穴が生まれる。

 

引力を付与された地面が消えたことで俺にかかっていた強烈な重力も無くなり、体が軽くなる。

 

それと同時に俺は大きく後ろに跳んでラズルとの距離を取った。

 

ラズルがニッと楽しそうに笑む。

 

「いやはや、咄嗟にそこまで頭が回るとは。流石に戦いなれているな。ま、こんだけデカい穴を開けてしまえば畑としては機能しなくなるだろうけどな。つーか、ここに学校建てるんだろ? ガキがこの穴に落ちたら死ぬんじゃねぇの? どうすんだよ?」

 

「この戦いが終わったら埋めるから良いんだよ! ………って、意外だな」

 

「意外? 何が?」

 

聞き返してくるラズル。

 

「おまえ、今、子供達の心配しただろ? なんか以外だなって思ってな」

 

なんと言ってもリゼヴィムに協力しているような奴の下僕だしな。

 

てっきり、「学校を破壊しに行く」とか言い出したりするかと思ってたんだが………。

まぁ、その場合は何がなんでも阻止するけどさ。

 

俺の言葉を聞いてラズルは頭をボリボリかきながら盛大に笑った。

 

「ガハハハハハ! なるほど、そういうことか! なぁにその辺りの心配はいらねぇよ。んな、ガキなんざ潰して何が面白い? それだったら、ガキが成長するのを待って、強くなってから潰した方が良いに決まってんだろ?」

 

ラズルはここから見えるアウロス学園の校舎を指差す。

 

「レーティングゲームの学校だっけか? 良いんじゃねぇの? 俺の楽しみは強い奴とこうしてサシで戦うことだ。あそこに通って強い奴が出てくるなら俺は大歓迎だぜ!」

 

「………心の底からバトルマニアだな、おまえ」

 

「おうよ! 言っておくが、俺だけじゃねぇぞ? ヴィーカもヴァルスも同じだ。………まぁ、ベルはちと違う気もするがな。あいつは何も考えてないというか………。ま、まぁ、とにかくだ! 俺はおまえみたいな強い奴と戦えればそれで十分! 弱い奴には興味はねぇ! ガキはガキで今のうちから鍛えとけ! そしたら、いつか楽しめる日が来るかもしれねぇからよ! ガハハハハハ!」

 

豪快に笑うラズル。

 

俺はその光景に息を吐く。

 

やれやれ………とんだバトルマニアに狙われたもんだ。

 

こいつは敵。

それも最悪とも言える奴らの仲間だ。

 

それでも、あの学校の価値を分かってくれているような………そんな気がした。

 

とりあえず、こいつを含めアセムの下僕四人があの学校に攻め込むのはなさそうだな。

まぁ、それもアセムの指示がない場合に限ると思うけど。

 

俺は深呼吸した後、首を鳴らして構えた。

 

「今の言葉信じるぜ? 子供達には手を出すなよ?」

 

「ガハハハハハ! 今しがた言ったろ! 俺は強い奴にしか興味はねぇってな! 少なくとも俺があの学校に手を出すことはねぇよ。リゼヴィムとか他の邪龍は知らねぇけどな」

 

「そうかい。なら、さっさとおまえを倒して、邪龍共を片付けないとな」

 

俺とラズルは互いに笑みを浮かべ――――――激突した。

 

 

 

 

 

 

 

[美羽 side]

 

 

 

「これならどう!」

 

ボクは手元に魔法陣を展開すると共に周囲にも魔法陣を無数に張り巡らせていく。

 

全てが攻撃魔法!

全属性フルバースト!

 

魔法陣から放たれる攻撃魔法の雨はベルとベルが生み出した超巨大魔獣に降り注いだ!

 

ボクの魔法が直撃した魔獣達は何とか倒せる。

 

今のところ、しぶとさという点では冥界の魔獣騒動の時に戦った豪獣鬼や超獣鬼の方が圧倒的だ。

 

ただ………数が多い。

 

倒しても倒してもベルが新たに生み出してしまう。

 

やっぱり倒すには本人を叩くしかない………。

 

だけど、行く手を魔獣達に阻まれ、攻撃が届いたと思ってもベルが張った防御魔法陣に防がれてしまう。

 

ベル本人も相当な魔法の使い手。

それに加えて、この能力。

 

正直言って、ボクは圧されている。

 

こっちはあの魔獣を一体倒すのにかなりの力を使う。

それなのに、向こうは平然としながら次々に生み出し、魔法攻撃をしかけてくる。

 

この戦い………明らかに向こうに分がある。

 

『グオオオオオオオオオオッ!!』

 

獅子の形をした魔獣の一体が巨大な腕を横に凪いで、襲い掛かってくる!

 

ボクは咄嗟に上空へ飛ぶが、そこにドラゴンの形をした魔獣が迫ってくる!

 

またこのパターン!

 

避けたら避けたで、追撃が止まない!

 

「こん………のぉ!」

 

ボクは手元に風の刃を作り出し、ドラゴンの首を切り落とした。

 

すると、ドラゴンは砂が崩れていくようになり、サラサラと宙に消えていく。

 

ベルが言う。

 

「………お姉ちゃん、限界?」

 

「まだだよ。ボク達は負けられないからね。ボクがここで倒れたらこっちが不利になる」

 

「………そう」

 

口数が少ない子だね。

 

………思ったんだけど、この子はあの学校には興味がない?

 

今のところ、あの学校に攻撃をしかける様子も魔獣を向かわせる素振りもない。

 

怪訝に思っていたのが表情に出ていたのか、ベルが首を傾げて聞いてくる。

 

「………どうしたの?」

 

「ううん。何でもない」

 

もしかしたら、ボクが口にすることで学校に攻撃するかもしれないし………ここは黙っておく方がいいよね、多分。

 

それにしても、どうやって攻略しようか。

今のところ完全に手詰まり。

 

何か良い方法は………。

 

ボクがこの状況を打破する作戦を考えていた時、耳に入れていたインカム代わりの魔力装置から声が届く。

 

ソーナ会長だった。

 

『北側より、聖十字架使いが襲来しました。リアス達だけでは相対するのは厳しいでしょう』

 

聖十字架使い!

あの紫炎に触れれば、悪魔は必滅するというボク達悪魔には天敵のような相手!

 

リアスさん達も強いけど、あの炎に触れたら―――――

 

『一旦、防衛範囲を狭めて四人一組もしくは三人一組を作ってください』

 

『すまん! 今は手を離せそうにない! そっちは何とかして持ちこたえてくれ!』

 

ソーナ会長の声に続き、お兄ちゃんの声がインカム代わりの魔力装置を通して聞こえてくる。

お兄ちゃんも苦戦を強いられているようだ。

 

恐らくアリスさんや木場くんも同じはず。

 

こっち側の主要戦力とも言えるメンバーがアセムの下僕四人によって身動きがとれなくなっている。

この状況はかなりマズい。

 

 

ドゴォォォォォォォン!

 

 

学園の南西方向から爆音と黒煙が上がった!

あれは十字架でもない!

 

一瞬、お兄ちゃんかアリスさんとも思ったけど、場所が違う。

 

あれは―――――

 

すると、ボクの耳に小猫ちゃんの叫び声が聞こえてくる。

 

『こちら、南西方向担当の小猫です。………邪龍グレンデルとラードゥンが出現しました!』

 

―――――ッ!

 

このタイミングで出てくるなんて!

 

いや、このタイミングだからこそ、出てきたのかもしれない。

 

北から神滅具所有者、南西からは伝説の邪龍が二体!

 

南西は小猫ちゃんと匙くんの担当!

二人だけじゃ、グレンデルともう一体の相手は無理!

 

だけど、ボクやお兄ちゃん達は目の前の敵で手が離せない!

 

とうすれば………!

 

焦るボクの足元に巨大な魔法陣が展開される。

 

白く輝くこの魔法陣は―――――

 

ベルが口元に指を当てて呪文を呟いた。

 

「白の檻、黒の沼。贄をもって、鎖せ」

 

その瞬間、ボクの足元がぬかるみ、足を引きずり込まれていった!

 

これは罠!

誰かが足を踏み入れることで発動するトラップ魔法!

 

いつの間にこんなものを………!

 

ボクは慌てて脱出しようとするが、

 

「魔法が………使えないっ!?」

 

ボクは目を見開いて驚愕した。

 

何度魔法陣を展開しようとしても展開しきる前に霧散してしまう………!

 

「………ん。お姉ちゃんの魔法、もう使えない。その魔法陣はお姉ちゃんの力を吸い取るから」

 

「そんな………!」

 

魔法を使おうとすれば力を奪われ、力を使わなければ、このまま引きずり込まれる。

 

このままじゃ、ボクは………!

 

何とかしないと………!

ここで倒れたら………皆が!

 

足掻けば足掻くほど力が奪われていく。

何も出来ないまま、膝元まで引きずり込まれた。

 

 

その時だった。

 

 

ヒュン、という風を切る音が耳に入ってきた。

 

見ればボクの目の前に――――――赤い槍が深々と突き刺さっている。

 

ボクを縛っていた魔法陣はまるでその槍に打ち消されたかのように霧散していく。

 

この赤い槍には見覚えがあった。

 

これは………この槍は――――――

 

「ご無事ですか、マスター?」

 

現れたのは女性。

 

腰まである紫色の髪。

服装はボディーラインが浮き彫りになる暗い紫色の戦闘服に黒色の袖無しのコート。 

腰には二振りの剣。

 

女性は地面に突き刺さっている赤い槍を引き抜くとボクに微笑みをくれた。

 

ボクはその人の登場に普通に驚いた。

 

「え、ええええええ!? ディルさん!? なんでここに!?」

 

ディルさん、ずっと家にいるんじゃなかったの!?

 

今朝も「昨日のお昼は明太子スパゲティを食べました!」なんて報告くれてたじゃん!

微笑ましかったよ!

 

それなのになんでここにいるの!?

というより、どうやってここに来たの!?

 

この町に張られている結界は強固だし、外と隔絶されているから結界の内側と外側で時間の流れが違うはず………。

 

それなのに、どうやって………?

 

ボクは疑問を口にする。

 

「え、えっと、どうしてここに………?」

 

すると、ディルさんは空間を歪ませてそこに手を入れた。

 

ディルさんが亜空間から出したもの。

 

それは―――――

 

「差し入れです。マスターの母上殿に持っていくよう頼まれました」

 

おにぎりの山だった!

 

お母さんんんん!?

なんてタイミングで差し入れ!?

 

「うむ、マスターの料理上手は母上殿譲りなのですね。これも美味しいです」

 

ディルさん、差し入れのおにぎりを頬張っちゃったよ!

それ、差し入れだよね!?

食べちゃダメとは言わないけど差し入れだよね、それ!?

 

ツッコミが止まらないボクの元にもう一つの気配が現れる。

 

振り替えると長い青髪を持った女性がいた。

 

「遊びに来たのだが………なんとまぁ、派手にやってくれる」

 

「ティアさん!? ティアも来てたの!?」

 

「ああ。私はディルムッドの付き添いだ。私も母上殿に頼まれてな。ほれ、手紙だ」

 

そう言うとティアさんは一通の手紙を渡してくる。

手紙というよりはメモ帳に書いて渡したという感じのものだ。

 

そこには、

 

『これ食べて授業頑張ってね♡ 母より』

 

お母さん………。

 

ありがとう、なんだかすごく元気が出たよ。

 

ボクは改めて問う。

 

「どうやって中に入ったの? というより、よくこの事態に気づけたね」

 

ティアさんが答える。

 

「気づけたのは偶々だ。元々私達は母上殿より差し入れを頼まれてここに来たのだが、なぜか中に入れなくてな。それで調べてみたところ、魔法によって結界が張られているのに気づいたのだ。そこで―――――」

 

「私がこのゲイ・ジャルグを使って一時的に結界を無効化して中に入ったのです。まぁ、すぐに修復されてしまいましたが」

 

あの赤い槍、ゲイ・ジャルグは魔法や魔術の類いを無効化する。

その力を使って結界の中に入ったと。

さっきボクを捕らえていた魔法陣もその能力で無効化したんだ。

 

「それじゃあ、あの紫炎は?」

 

ボクはこの町を囲む紫炎の壁を指差して尋ねる。

 

この町は結界と紫炎、それからアグレアスとこの町を覆う楕円形の結界の三重構成の壁によって囲まれている。

 

ゲイ・ジャルグでは結界を無効化できてもあの紫炎は無効化できないだろう。

 

ティアさんが答えた。

 

「ああ、あれな。普通にぶち抜いた。流石に全てを消すのは無理だが、私達が通るくらいの穴なら作れる。ま、あれもすぐに修復されてしまったがな」

 

うーん、流石は龍王最強!

頼りになるお姉さんだよ!

 

「………誰?」

 

ボク達の様子を魔獣の上から眺めていたベルが尋ねてくる。

 

そういえば、ベルはこの二人のことを知らないんだった。

 

吸血鬼の町にティアさんは来てたけど出会ってないし、ディルさんは家にいたし。

 

ディルさんは槍の穂先をベルに向けて告げた。

 

「私か? 私はマスター・美羽のメイドだ!」

 

「そうだったの!?」

 

「私の敬愛するマスターに刃を向けるなど万死に値する。覚悟してもらおうか」

 

あ、あれ………ディルさんの中でボクってどういう存在なんだろう?

 

なんかすごく敬われているような気がする………。

 

か、唐揚げ作っただけでここまでされると………申し訳なく思えてくるよ。

 

ティアさんが言う。

 

「私はイッセーのところへ行く。ディルムッド、ここは任せるぞ?」

 

「任された。マスターは何がなんでも守ってみせる」

 

「あははは………。ありがと、ディルさん」

 

ボクがお礼を言うとディルさんはどこか嬉しげだった。

 

 

 

[美羽 side out]

 

 

 


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