ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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14話 下僕達の力

この強烈なプレッシャー。

野獣のようなオーラ、それもかなり濃密だ。

 

奴の放つものによって地面が揺れ、歩を進める度に亀裂が入っている。

 

前回は拳を交えずに終わったが………ここで、こいつが出てくるのか。

 

美羽が静かに口を開く。

 

「お兄ちゃん………もしかして、あの人が?」

 

「ああ、そうだ。奴がアセムが従える四人の内の一人。名は―――――」

 

俺がそこまで言いかけると、それを遮って目の前の巨漢は不敵な笑みを浮かべた。

 

「おうよ! 俺が親父殿の息子が一人ィ! 『破軍(バリアント)』のラズルだぁ! よろしく頼むぜ、シリウスの娘さんよぉ! ガハハハハ!」

 

奴――――ラズルは改めて名乗ると豪快に笑った。

 

相変わらず元気のいいおっさんだ。

声もでかいし。

 

アセムの下僕達は全員何らかの能力を持っている。

 

武器庫(アセナル)』のヴィーカは木場のように創造し、貯蔵した武器を使用する。

創造できる武器は槍や剣といったものからガトリングガンという現代兵器までと、幅が広い。

しかも、そこに属性まで加えられるというもの。

 

絵師(マーレライ)』のベルは描いたものを具現化することが主な能力だとアセムは言っていた。

俺が目の当たりにしたのは触れた相手の力を解析し、複製するというもの。

実際に俺の力を複製された。

ベルには他の能力もあるのかもしれない。 

 

俺が知っているのはこの二人だけ。

目の前のラズルと『覗者(ヴォアエリスムス)』のヴァルスの能力はまだ知らない。

 

俺は能力を警戒しながら口を開く。

 

「おまえがここに現れたのは………俺狙い、だよな?」

 

「そうだぜ。前にも言ったはずだ。シリウスを倒し、ロスウォードをも倒した勇者殿に俺は――――挑みに来たんだよ!」

 

なんて気迫だ………。

オーラが更に膨れ上がりやがった。

 

ラズルは言う。

 

「そのためにあの量産型邪龍とかいうザコ邪龍が片付くのを待ってたんだ。あんなもんいたら、邪魔でしょうがねぇからな」

 

なるほど………こいつはサシで真正面からやりあうタイプか。

どこまでも真っ直ぐに強者との戦いを臨む典型的なバトルマニアってところか。

 

その時、複数の気配が俺達を囲むように現れる。

 

「もぉー、先々行かないでよ。邪龍が消えるなり突貫するなんて急ぎすぎよ」

 

俺達の右手側に浅黒い肌に長い白髪の美女。

『武器庫』のヴィーカ!

 

「言っても無駄ですよ。ラズルですから」

 

左手側には長身痩躯で、茶髪を後ろで括った男性。

『覗者』のヴァルス!

 

そして、俺達の背後には中学生くらいの背丈の少女。

真っ白な肌に足元まである真っ白な髪。

何もかもが白い少女がいて、

 

「………おしっこ、したい」

 

『絵師』のベル!

 

アセムの下僕達が勢揃いしやがった!

 

つーか、またか!?

またおしっこか!?

 

ヴィーカがベルの元に猛ダッシュで駆け寄った!

 

「もう! だから、来る前に済ませておきなさいといったでしょ!?」

 

「………だって、皆が行っちゃうから」

 

「ラーズールゥ! あなたが先に行くからよ!?」

 

「俺のせいかよ!?」

 

「まぁ、そうでしょうね」

 

「ヴァルス!? おまえもそっち側!?」

 

「いえ、そっち側とかあっち側とかではありません。どう見てもラズルのせいでしょう」

 

「そうよそうよ!」

 

んんんんんん!?

なんか内輪揉め始まったぞ!?

 

俺達、囲まれているのに蚊帳の外なんですけど!?

 

これ、攻撃するチャンスなの!?

全然攻撃出来ないよ、空気的に!

 

ギャーギャーと三人が口論を続けるなか、ベルがヴィーカのそでを引っ張った。

 

「………ヴィーカ」

 

「とうしたの、ベル?」

 

ヴィーカが問うとベルは潤んだ瞳で一言。

 

「………もれる」

 

その瞬間――――――俺達の間で戦慄が走った。

 

時が止まったような感覚に陥り、ベルの言葉が脳内で反復する。

 

 

………もれる。

 

………もれる?

 

………え、もれるの?

 

………あ、もれるんだ。

 

 

それって―――――

 

 

ラズルが叫ぶ!

 

「おいぃぃぃぃ! なんとかしろぉぉぉぉ!」

 

「我らの妹が危機です! ヴィーカ! 早くお手洗いに!」

 

「ええええ!? こ、この辺りにトイレってあるのかしら!? 勇者くん!?」

 

「俺に振るのかよ!? 敵に助けを求める気か!?」

 

「仕方がないでしょう!? 今は敵とか味方とか言ってる場合じゃないの! このままではロリッ子のお漏らしプレイを見ることになるわよ!? それとも見たいの!? なんて鬼畜!」

 

「誰もそんなこと言ってねぇぇぇぇぇぇ!」

 

おまえら、シリアス返せぇぇぇぇえ!

 

なんで、緊張感溢れる戦場が別の戦場に変わってんだよ!?

 

人のことシリアスブレイカーとか言ってたけど、おまえらも十分シリアスブレイカーじゃねぇか!

 

「………限界………出る」

 

ああっ!?

ベルがスカートを抑えながら腰をくねらせたぞ!?

 

これ、マジなやつだ!

ヤバイやつだ!

 

すると、ヴィーカがベルを抱き抱えて俺達から距離を取った。

 

そこにラズルとヴァルスも集まると、ラズルは穴を掘り、ヴァルスが魔法で塀を作り始める。

 

腰の高さくらいになった塀の向こうからヴィーカの声が聞こえてくる。

 

「もうここでしちゃいなさい! 今なら誰も見てないから!」

 

「勇者殿! しばし休戦を!」

 

「頼む! 今は色々ピンチなんだ!」

 

なんか懇願されちゃったよ!

 

妹分のピンチに休戦申し込まれたよ!

 

これ、おまえ達が仕掛けてきた戦いなの分かってる!?

 

「………なんかアットホームだね」

 

「ええ。ここまでアットホームな敵って始めてだわ」

 

美羽とアリスの呟きが小玉する。

 

この後、水の流れるような音が聞こえてきたのだが、俺は美羽とアリスに耳を塞がれた。

 

 

………とりあえず、木場呼ぶか。

 

 

 

 

 

 

「えーと、何があったんだい?」

 

こちらに駆けつけてくれた木場が開口一番にそう言った。

 

その視線の先ではヴィーカ達がベルの下着を変えるという戦場ではまずあり得ない光景があったからだ。

 

どうやら、微妙に間に合わなかったらしい。

 

俺は木場の肩に手を置いて言う。

 

「とりあえず、あれについては触れないでいてあげてくれ。敵とはいえ、女の子だから」

 

「あ………うん。見なかったことにしておくよ」

 

流石はイケメン紳士木場!

瞬時に状況を理解して、頷いてくれた!

 

事を終えたヴィーカ達が額の汗を拭う。

 

「ベル、次は出撃前にちゃんとトイレに行くこと。いい?」

 

「………うん」

 

可愛くコクりと頷くベル。

 

ラズルとヴァルスがこちらに手を振ってくる。

 

「いやー、待たせて悪かったな。こっちでも想定外過ぎる事態でよ」

 

「シリアスを壊してしまい、大変申し訳ありません。………これでは私達も人のことは言えませんね」

 

全くもってその通りだよ!

 

これからは俺達のことをシリアスブレイカーと呼ぶのは止めてもらおうか!

 

ま、まぁ、とにかくだ。

これで戦闘が始められるんだよな?

 

ラズルは腕をぐるぐる回した後、首をコキコキ鳴らす。

 

「そんじゃ、色々あったが、始めるとするか。おまえら、勇者殿の相手は俺がする。いいな?」

 

「私は別に構わないわ。私はつるぺたちゃんとするし♪」

 

「つるぺたじゃないもん! もう少しあるもん!」

 

ヴィーカの言葉に反論するアリス。

 

そろそろそれはいいんじゃない?

 

ヴァルスが木場に視線を向ける。

 

「では、私は聖魔剣の彼とやりましょう。剣士同士………まぁ、私は魔法も使いますが、ここは一つ尋常に」

 

「………じゃあ、ベルはあのお姉さん?」

 

ベルが美羽を指差して可愛く首を傾げた。

 

 

俺とラズル。

 

アリスとヴィーカ。

 

木場とヴァルス。

 

美羽とベル。

 

全員一対一か。

まぁ、いきなり数で不利だったから木場を呼んだのもあるんだけどね。

 

俺達も互いに頷きあって、それぞれの相手の前に立つ。

 

まず動いたのはアリスとヴィーカだった。

 

「こんの巨乳娘! 今度こそその胸もいでやる!」

 

「ウフフ、やってごらんなさい!」

 

前回同様………いや、前回よりも激しい撃ち合いが始まる。

 

アリスは既に領域(ゾーン)に入っており、ヴィーカの剣戟と銃撃を潜り抜けながら、攻撃を仕掛けていく。

 

「はぁぁぁっ!」

 

「おっと、危ない危ない♪」

 

あれから、アリスは相当腕を上げたというのにヴィーカは余裕の表情だ。

 

アリスの鋭い一撃を受け止め、流し、その隙をつく。

 

やはり、次々に得物を変えられると間合いが取りづらいようで今回も苦戦しているな。

 

ただ、前回である程度覚えたのか、今は拮抗できている。

 

激しい金属音を鳴らせながらヴィーカは笑む。

 

「うんうん。やるようになったじゃない。彼のために負けられない?」

 

「そうね。もうあいつの足を引っ張るのはごめんだわ!」

 

二人は激しい攻防を繰り返しながら、この場から遠ざかっていった。

 

その様子を見ながら木場と対峙しているヴァルスが剣を抜いた。

 

「ヴィーカも張り切っているようで。私もやりましょうか――――聖魔剣の木場祐斗殿」

 

ヴァルスの言葉に応えるように木場もオーラを高めていく。

 

白と黒、聖と魔の力が高まり、木場を覆う。

 

オーラが静まり現れるのは黒いコートを羽織り、日本刀の形状をした聖魔剣を握る木場の姿。

 

禁手第二階層―――――双覇の騎士王。

 

この状態になるとスピードが数段上がるほか、剣戟に破壊力が乗り、複数の属性の攻撃を一振りで繰り出すことができる。

テクニックタイプである木場の能力を更に伸ばした形態だ。

 

木場はまだ領域(ゾーン)には至れていないけど、幅の広い能力で上手く立ち回ってもらいたいところ。

 

木場は剣を構えると言う。

 

「イッセーくん、ここは何とかして抑えるよ」

 

「頼む」

 

木場は頷くと前に飛び出した!

 

幾重にも残像を作り出し、ヴァルスの周囲を取り囲む。

 

あれは………高速移動による残像だけじゃないな。

剣による幻術効果も含まれているのか!

 

既に百………いや、それ以上の残像がヴァルスを包囲。

目で追うには辛い数になっている。

 

それを見てヴァルスが感心したように呟く。

 

「なるほど。噂以上の腕前のようですね」

 

そう言うとヴァルスは剣を前に突き出して、目を閉じた。

 

そして次の瞬間――――――

 

 

ギィィィィィンッ!!!

 

 

激しい金属音が鳴り響いた。

 

後方から仕掛けた木場の一撃がヴァルスの剣に防がれている!

 

「惜しい」

 

「………ッ!」

 

不敵に笑むヴァルスに戦慄する木場。

 

だが、そこは流石の木場。

 

受け止められたと同時に刀身から冷気を発生させ、ヴァルスの剣を凍らせようとする。

 

ヴァルスは剣を引いてそれを回避するも、木場は追撃をしかけていく!

 

前から、左右から、時には背後から。

あらゆる属性も交えてヴァルスに斬りかかる。

 

………強い。

 

それは木場じゃない。

ヴァルスの方だ。

 

もちろん木場も強い。

だけど、木場が全力を出しているのにも関わらず、ヴァルスは微笑みながら、木場の斬戟を流しているんだ。

 

しかも―――――

 

「………どういうつもりだい?」

 

木場がヴァルスに問う。

 

問われたヴァルスは首を傾げる。

 

「どういうつもり、とは?」

 

「君はさっきから受けてばかりで、自分から仕掛けてこない。それに………君は元の立ち位置からほとんど動いていないじゃないか」

 

そう、木場の超高速の連戟を受けながらもヴァルスは戦闘を開始した場所からほとんど動いていない。

 

剣とほんの僅かな体捌きで全ての攻撃をいなしている。

 

木場の問いを受けて―――――ヴァルスはニッコリと笑んだ。

 

「いや、申し訳ない。実はあなたの疑問は聞く前に分かっていました」

 

ヴァルスは自身の胸に手を当てると、俺の方に視線を移す。

 

「勇者殿は先程から私がどんな能力を使っているのか気になっているようですね」

 

「ああ」

 

「実はもう使っているのですよ」

 

「っ!?」

 

もう能力を使っている!?

 

そんな………一体どこで………。

俺は木場の戦いを見ていたが何も感じられなかったぞ?

 

ヴァルスは苦笑する。

 

「私の能力はヴィーカやベルほど派手なものではありません。私の能力は二つ。相手の心の内を探る能力と一瞬先の未来を見る能力です。………あまり強そうには見えないでしょう?」

 

………強そうには見えない、だと?

 

何を言ってやがる………!

滅茶苦茶厄介な能力じゃねぇか!

 

心の内を読むと言うことはこちらの手が全て読まれるということ。

つまり、どんな攻撃を仕掛けようか考えれば、それは相手に筒抜けになっているということだ。

 

それに一瞬先の未来を見るって能力。 

こちらも面倒だ。

 

攻撃が当たるのは偶然、というときもある。

それが勝負の決め手になったりもするのだが………ヴァルスにはそれが通じない。

 

一見、地味な能力ではあるが非常に強力な能力であることには違いない。

 

………それに奴の強さはそれだけじゃない。

 

剣術、体術もかなりレベルが高い。

おまけに魔法も使える。

 

「いやぁ、そこまで見ていただけているとは光栄です」

 

「心の内を読まないでくれる!?」

 

クソッ、戦闘以外でも使えるのかよ!

 

作戦立てても直ぐにバレるじゃねぇか!

 

「ええ、仰る通りですよ。学校の地下シェルターで新たに転移用魔法陣を構築していることも知っています」

 

「仮に隠密で接近しても………」

 

「私には無意味ですね」

 

地味そうな能力だけど面倒過ぎる!

 

ジミーって呼ぶぞ、この野郎!

 

「それは酷い! これでも傷つきやすいんですよ!?」

 

「心の内聞いて傷つくってなに!?」

 

「ガラスのハートなのです!」

 

ダメじゃん!

 

なにこいつ、心の中で悪口言ったら倒せるんじゃない!?

 

やーい、ジミー!

 

「うぅっ………ジミーって言わないでください!」

 

「木場! 今なら倒せるぞ!」

 

「ははは………」

 

 

ドォォォォォォン!

 

 

少し離れたところで轟音が鳴り響いた。

 

そちらに視線を向けると美羽がベルに向けて極大の魔法砲撃をぶっ放していた。

 

「この!」

 

風、炎、雷とあらゆる属性の魔法がベルに降り注ぐ。

 

ベルは防御魔法陣を展開して、全て防ぎきっているようだ。

 

防御魔法陣で防いでいる間にベルは魔力で宙に何かを描いていく。

あれは………何か獣のようにも見える。

それが複数体。

 

描き終わるとベルは呪文を口にする。

 

「形なきところより、形なせ。我が空想より、姿を現せ」

 

ベルが描いた獣の絵が輝きを放ち―――――大地が激しく揺れた!

立つことも難しいほどの揺れだ!

 

いったい、何をしやがったんだ!?

 

すると、ベルの足元の地面が盛り上がり始める。

 

それはどんどん大きくなっていき―――――――

 

 

『ゴガァァァァァァァァァァァッ!』

 

 

巨大な魔獣を生み出した!

 

人形の魔獣、獅子の魔獣、それから鳥の魔獣。

現れた三体の魔獣は全てが巨大で、体長は百メートルほどだ。

 

………まるで魔獣騒動の時の超巨大魔獣みたいだ。

 

それが美羽の前に立ちはだかった!

 

「こんなものをあんな一瞬で………!」

 

美羽も目を見開き、その表情は驚愕に包まれていた。

 

それもそうだ。

あんな短時間でこれだけの魔獣を生み出したんだからな!

 

人形の獣が拳を振り上げ、美羽に襲い掛かる!

 

腕を振り下ろす動作で地響きが響き渡った。

 

「美羽!」

 

「分かってる………よっ!」

 

美羽は悪魔の翼を広げると同時に風の魔法で素早く宙を飛ぶ。

 

そこへ巨大な鳥の魔物が大きな嘴を開けて突っ込んでいく!

巨体のくせに想像していたよりも速い!

 

「くっ!」

 

避けきれないと判断した美羽は咄嗟に手元に幾重にも魔法陣を展開。

 

魔法陣に七色の光が集束し―――――巨大な一撃を放った!

 

現時点の美羽の最高火力、スターダスト・ブレイカー。

 

七色の光は鳥の魔物を貫き、撃ち落とした。

 

危機をだっしたものの、肩で息をする美羽。

 

しかし―――――

 

「………まだまだ作れる、よ?」

 

新たに絵を描き、追加で魔獣を生み出すベル。

 

撃ち落とした鳥に代わり、今度は巨大なドラゴンを二体。

 

減るどころか逆に増えた魔獣に流石の美羽も焦りの表情を浮かべていた。

 

「なんなの、この能力………! こんなの続けられたら、もたないよ!」

 

あれがアセムの下僕の中で最強と言われるベルの力………!

魔獣を生み出しながらベル自身も魔法攻撃を放ってやがる!

 

いくら美羽でもあれはキツい!

 

「お兄ちゃん! ボクは少し離れるよ! ここじゃ、学校にまで被害がいっちゃう!」

 

「………っ! 分かった! だけど、無理はするな! ヤバくなったら退けよ!」

 

「うん!」

 

そう言うと美羽はここから更に南側へと移動。

ベルと生み出された魔獣達もそれについていった。

 

アリス、木場、美羽………なんとか持ちこたえてくれよ!

 

三人の無事を祈りながら、俺は目の前の巨漢――――ラズルと向かい合う。

 

ラズルは笑みを浮かべる。

 

「そろそろ俺達もやりあおうぜ!」

 

「さっさと終わらせるぜ。こいつは色々とヤバそうだからな!―――――天武(ゼノン)ッ!」

 

俺は鎧を天武へと変え構え、ラズルも構えを取った。

 

俺とラズルの荒々しいオーラがぶつかり合い、地面を深く抉っていく。

 

前に出たのは―――――俺だ。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』 

 

拳にオーラを集中させ、全てを砕く勢いで殴り付ける!

 

こいつの能力が何なのかは知らないが、早く終わらせないと皆がヤバい!

 

「おうおう! やっぱ、真正面から来るよなぁ! それでこそだぁぁぁぁぁ!」

 

ラズルも嬉々として前に出る!

 

互いの拳が衝突する!

 

「であぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

俺達の拳は拮抗―――――しなかった。

 

俺はラズルの拳の勢いに負け、吹き飛ばされた!

地面を大きくバウンドして、家屋を突き抜けていく!

 

家屋をいくつも倒壊させた後、ようやく止まったが………ダメージが大きい………!

 

俺は血反吐を吐きながら驚きを隠せないでいた。

 

「ガッ………ハッ………天武の拳が押し負けた………!?」

 

俺だって鎧を纏えば魔王クラスの力を発揮できる。

それの格闘戦特化の鎧を纏った俺が押し負けた。

 

これはあまりに衝撃だった。

 

瓦礫を押し退けながら立ち上がろうとした時だった。

 

―――――体が引っ張られる。

何かに吸い寄せられるように。

 

俺の体が勝手に浮き、吹き飛ばされた場所へと戻っていく。

 

これは………っ!

 

「驚いたか! こいつが俺の能力! 引力と斥力を操るのさ! ガハハハハハ!」

 

ラズルは拳を振り上げ――――――引き寄せた俺の顔面を殴り付ける。

 

あまりの威力に兜が砕け、脳が揺れた!

 

「ぐあっ………!」

 

ラズルは俺の首を掴んで言う。

 

「言っとくがさっきの拳は何の能力でもないぜ? ただの拳だ。―――――我が拳は幾千、幾万の兵を凪ぎ払うってな。俺の拳は一振りで神をも殺す。それ故に俺は『破軍』を与えられたのさ」

 

 


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