作戦会議を行うため、地下シェルターの会議室へ向かっていると廊下で一組の男女と出会った。
おそらく、子供達の親御さんだろうが………女性の方には見覚えがある。
えーと、確か………。
男性が俺を見かけるなり、歩み寄って聞いてくる。
「あ、あの………この学校はどうなってしまうんでしょうか?」
不安げな表情と声音だ。
俺は男性の肩に手を置きながら言った。
「大丈夫ですよ。今、魔法使いの方々が転移用の魔法陣を構築してますし、その間は俺達が皆さんを守りますから。心配はいりません、必ず脱出できます」
俺の言葉を聞いて、夫婦は幾分か表情を和らげてくれた。
と、ここで、俺は女性のことを思い出した。
「えっと、確か、リレンクスのお母さんですよね?」
「は、はい。息子のこと、覚えていてくれたのですか?」
「ええ。リレンクスが一生懸命、魔法を練習していたので思い出しました」
驚くお母さんに俺は微笑む。
すると、お父さんが呟いた
「………息子が笑ったんです」
「笑った?」
「はい。………息子は生まれつき魔力に恵まれませんでした。しかし、周囲の子供は当たり前のように魔力が使える。自分が他の子供達と違うと気づいた時から、あの子から笑顔が消えたのです」
………サイラオーグさんと同じ境遇か。
悪魔なのに魔力が使えず、周囲との差を感じてしまったのか。
しかし、お父さんは涙交じりに続けた。
「けど、ここに来て………この学校に来て………笑ってくれたんです。こんなことはおっぱいドラゴンを知ったとき以来です。だから、この学校は無くならないでほしいのです………息子のためにも。私達のためにも」
魔力に恵まれなかった子を持つ親。
子供を持ったことがない俺では分からない苦労を抱いて生活してきたのだろう。
この学校はこの両親の希望になろうとしている。
こちらに近づいてくる気配がするので、振り返ると子供とロスヴァイセさんの姿があった。
その子供とはリレンクスだ。
リレンクスは両親の胸に飛び込み明るい声で言う。
「お父さん、お母さん、見て見て!」
リレンクスがその場で手を突き出すと、かすかな火が一瞬だけ現れた。
「火の魔法だよ! ほら、火が出たよ!」
両親は驚いたあと、笑みを浮かべて自分の息子を抱いた。
「あ、ああ………よくやったな」
「頑張ったわね………すごいわ、リレンクス」
夫婦の目からとめどなく流れる涙。
今の光景はいままで、この親子が見たくても見れなかったものだろう。
悪魔にとって普通であるものに、この親子は届かなかった。
それが、ようやく『普通』に届いたに違いない。
俺はリレンクスの頭を撫でてやる。
「頑張ったな。すごいぞ、リレンクス」
「うん! もっともっと頑張って、僕もおっぱいドラゴンみたいに強くなる!」
「そっか。リレンクスならきっとなれる。いや、俺なんかよりも強くなれるさ。ね、ロスヴァイセさん?」
俺は側で見ていたロスヴァイセさんに振った。
ロスヴァイセさんも微笑みながら頷いた。
「ええ。きっと強くなれます。その歳で諦めずに何度もチャレンジするなんて、とても凄いことなのですから。リレンクスくん、これからもいっぱい頑張りましょうね。私もお手伝いしますから」
「はいっ! ロスヴァイセ先生!」
元気よく返事をするリレンクス。
両親は我が子と手を繋ぎ、地下シェルターへと戻っていく。
その後ろ姿を見ながらロスヴァイセさんが言った。
「………どのような魔法でも必ず術者と他の誰かの役に立ち、この世に意味のない魔法なんてない。祖母から繰り返し聞いてきた言葉。理解できていたようで、理解できていなかったのかもしれません。………でも、今ならなんとなく、言葉の真意が分かる気がします」
どこか晴れやかな表情のロスヴァイセさんだった。
▽
リゼヴィムが指定した三時間後というタイムリミットまであと三十分となった。
俺達は最後の作戦会議を終えた後、各々戦闘準備に入っている。
俺達の戦いはシンプル。
地下で魔法使いの方々が新たに作り出している転移魔法陣が完成するまでの間、この学校を死守する。
正確には学校の地下シェルターにいる子供達やこの町の住民だ。
サイラオーグさんが言っていた通り、誰一人として死なせるわけにはいかない。
学校の外に出るため、廊下を歩いているとあるものが視界に映る。
廊下の壁だ。
そこには体験入学を終えた子供達が書き残したメッセージと絵が張り出されてあった。
『レーティングゲームのチャンピオンになりたいです!』
『この学校に通えますように!』
『おっぱいドラゴンと会えて嬉しかったです!』
『また、ここに来たい!』
『入学したいです!』
…………たまらなくなるよな、これを見ると。
絶対に守らなきゃいけない。
あの子達が笑顔でこの学校に通えるようにするためにも、絶対に負けられないな。
皆もそれを見て士気が高めていると、俺達のもとに近づくいてくる者達がいた。
兵士の鎧を着た男性達。
ただし、この町の兵士ではなく、子供達のお父さんだった。
皆、覚悟を決めた顔だった。
「我々も戦います」
「この町は戦える住民が少なく、兵も駐留していないと聞きます」
「戦闘以外でもお役に立てることがあるはずです。逃げ遅れた住民もいるかもしれませんからね」
戦闘要員は俺達だけだ。
もし、彼らの言うように逃げ遅れた住民が残っていたとしたら、そこまで対処できるかどうか分からない。
あの紫炎の十字架が町を囲んでからは気が読みづらくなった。
もしかしたら、俺でも捉えきれなかった住民がいるかもしれない。
リアスが厳しい表情で告げる。
「しかし、相手は量産型とはいえ邪龍よ。生半可な相手ではないわ。伝説の邪龍すらもいるでしょう。死戦になるわ」
その言葉を聞いても彼らは戦意を薄めず、逆に微笑んだ。
「それでも行かせてください」
「確かに私達には強大な力など持っていません。ですが、子供達ぐらいは守りたいのです」
「子供達が夢を見いだしたこの学校は私達にとっても希望となりました。命をかけるには十分でございます」
子供の夢のため、家族の希望のためにこの人達は死ぬ気で戦うつもりなんだ。
この人達はおそらく戦闘経験はない。
それでも、相手の強大さはなんとなく理解はしているはずだ。
それでも行くと言うのだ。
守るために。
その光景にアリスが苦笑する。
「これは言っても聞きそうにないんじゃない?」
「そうね…………。いいわ、けれど、一つだけ約束して」
見渡しながらリアスが強く言いつける。
「絶対に死んではダメ。あなた達はあの子達の行く末を見なければならないのだから。いいわね?」
「「「はっ!」」」
▽
見上げると、このアウロス学園の上空にも漆黒の邪龍が滞空し続けていた。
空一面、真っ黒だ。
アグレアスと同様、こちらも百や二百じゃきかない。
下手すれば千はいるんじゃないかと思える。
時間になったら、あれが一斉に襲いかかってくるとなるとげんなりする。
流石に勇ましかったお父さん達も空を埋め尽くす邪龍の群れを前にして戦慄していた。
作戦立案のソーナが一歩前に出て言う。
「作戦通り、この学園を中心に八方に散らばってもらいます。基本的にはツーマンセルで敵を迎え撃ってください」
俺達はアウロス学園を中心に散らばり、飛来してくる邪龍を迎え撃つ。
メンバーは基本、二人一組で前衛後衛で展開できるようになっている。
ソーナとギャスパーは校庭に陣を取る。
闇化したギャスパーが獣を出来るだけ量産して、ソーナの指示のもと、全方位に配る予定だ。
増援のお父さん達は家々を回ってもらい、まだ避難できていない住民がいないか見てもらう。
邪龍が襲いかかってきたら、やれる範囲で相対しなければならないが、出来るだけ逃げるように言ってある。
皆が対邪龍作戦の中で動く中、俺達赤龍帝眷属の俺、アリス、美羽は別の行動を取ることになっている。
それは――――――
「アセムの下僕が出てきたら俺達で相手をする。こう言ってしまうのは悪いが、皆では相手をするのは難しい。騎士王状態の木場でもギリギリのレベルだろう」
そう、アセムの下僕であるヴィーカ達の相手だ。
おそらく、俺を狙ってくるのだろうが、四対一は流石に無理だ。
となると、他のメンバーに相手取ってもらうことになるんだけど、リアス達では太刀打ちできない。
そこでヴィーカ達が攻めてきた場合は俺、アリス、美羽の三人で迎え撃つことにした。
それでもヤバい時は状況に応じて木場、もしくはギャスパーに駆けつけてもらう予定になっている。
ソーナが頷く。
「それが良いでしょう。アリスさんを破ったという相手の力量を考えると私達では難しいでしょうし。もし、彼らが攻撃をしてきたら、そちらを優先してください。その間に私達で邪龍を退け、手が空いた者から駆けつけます」
「それで頼むよ」
俺はそう言うと話を進めるため、ある者を出現させた。
小型船舶ほどの大きさの船。
俺の使い魔―――――龍帝丸だ。
リアスがアーシアに言う。
「アーシアはこれに乗って戦場を駆け回ってちょうだい」
「はい!」
「ただ、動き回る回復役なんて狙われやすいでしょうから、護衛は作戦通り―――――」
ロスヴァイセさんに視線を向けるリアス。
それを受けて、ロスヴァイセさんは一歩前に出る。
「私ですね。アーシアさんの盾になりつつ、後方より援護射撃しましょう」
防御魔法でアーシアを守りつつ、飛び回る龍帝丸の上から遠距離攻撃を放つ。
ロスヴァイセさんが適任だろう。
シトリーの新人、ベンニーアとルガールさんの会話が聞こえてくる。
ベンニーアが苦笑していた。
《眷属になったばかりなのに激戦続きとはついてませんぜ》
「…………それもまた宿命だ」
相変わらず表情の少ないルガールさん。
まぁ、確かについてないかもね。
宿命ってもあってる。
強敵との遭遇は俺達の中では当然みたいな感じになっているから慣れてほしいところ。
最終確認を終えたところで、校庭に魔法陣が展開される。
連絡用のものだ。
魔法陣は輝きを放つと、一人の女性を映し出した。
その女性は紫色のゴスロリ衣装を着こんでいて、ゴシック調の紫色の日傘をクルクル回している。
「…………趣味悪」
アリスがぼそりと呟いた。
うーん、オーフィスもゴスロリ衣装着てるけどあれとは違うんだよなぁ。
女性はにこりと微笑んで挨拶をくれる。
『ごきげんよう、悪魔の皆さん。わたくし、「魔女の夜」幹部のヴァルブルガと申しますのよん。以後、お見知りおきをん♪』
なるほど、この女性が『紫炎のヴァルブルガ』と呼ばれる神滅具『紫炎祭主による磔台』の所有者か。
ゲンドゥルさんから話は聞いたていたけど、こうして挨拶をしにくるとは…………。
ヴァルブルガがニッコリとしながら続ける。
『リゼヴィムのおじさまの命令で邪龍の皆さんと一緒にぃ、あなた達を燃え萌えにしにきましたわん。わたくしに萌えてくださると、燃やしがいがあるというものですわね』
耳に障るきゃぴきゃぴ声だが、身を包むオーラは悪意そのものだ。
俺の後ろではアリスが美羽に訊ねていた。
「え、なに、ああいう話し方がこっちの世界ではあるの?」
「それは違うと思うな…………」
うん、アリスは何か勘違いをしている!
こういう人も世の中にはいるってことでご理解いただきたい!
『もうじき、戦闘を開始する予定なのですが、皆さんは準備はよろしいのかしらん?』
一様にヴァルブルガを睨むメンバー。
それを見てヴァルブルガはわざとらしく怖がるふりをする。
『いやーん、怖いですわねん。悪魔の皆さん激おこですわ♪ うふふ、楽しくなりそう♪』
そう言うヴァルブルガは醜悪な笑みを見せた。
…………ああ、なるほどね。
この女は躊躇わず人を殺せる女だ。
ヴァルブルガは俺達を見渡して言った。
『ロスヴァイセさんってどなたかしら?』
…………ロスヴァイセさんだと?
なぜ、ヴァルブルガがロスヴァイセさんを探している?
指名を受けたロスヴァイセさんが口を開く。
「私ですが、何か?」
『あのねん、一応、あなただけは無事に連れてくるよう言われているのん』
「…………誰にですか?」
『ユーグリットさんよん。彼ね、あなたが欲しいんですってん。いやーん、イケメンくんのご指名なんてうらやましいわねん♪』
あの野郎、そこまでロスヴァイセさんが欲しいってか。
あいつの話し振りから察するにロスヴァイセさんを求めているのは才能があるというだけではないだろう。
俺の予想が正しければ、多分―――――。
ロスヴァイセさんは首を横に振る。
「行きません。戦います」
『ま、そうよねん♪ では、皆さん。よいバトルをしましょうねん』
ヴァルブルガがスカートの裾をあげて、別れの挨拶をすると魔法陣は消えていった。
あれが紫炎のヴァルブルガ、か。
ああいう奴は殺す相手の顔を見ておいて喜ぶタイプだ。
あの手の奴は女とはいえ、容赦はしない。
いや、容赦などをしてはいけない。
俺は皆を見渡しながら言う。
「さて、ぼちぼち始まるわけだが…………気を付けろよ? あいつら、何をしてくるか分からないからな。細心の注意をもって、事に当たってくれ」
俺の注意にオカ研メンバー、生徒会…………特にお父さん達は緊張に包まれた表情で頷く。
向こうにはリゼヴィムやアセムの他に伝説の邪龍、更にはヴァルブルガまで。
こちらを潰すためなら何でもしてきそうな奴らばかりだ。
それでも俺達は勝たなきゃいけない。
今から始まるのはただの戦いではない。
子供達の未来をかけた防衛戦だ。
敗北は許されない。
だからさ――――――
「絶対に守りきるぞ! いいな!」
「「「「はいっ!」」」」
俺達は指定のポイントに散らばっていった。
▽
俺とアリス、美羽が向かったのは学校の南側。
最も邪龍の数が多い地点だ。
『オオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!』
空から響き渡る邪龍達の咆哮。
指定された三時間になった合図だろう。
滞空してきた無数とも思える邪龍達が一斉に飛来してきた!
俺は赤いオーラをたぎらせて、この戦況に最も相応しい形態へと鎧を変える!
「禁手第二階層―――――
翼、籠手、腰に二門づつ。
計六門の砲門が一斉展開される!
やっぱ、天撃はこういう状況でこそ真価を発揮できるよな!
『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』
俺は砲門に魔力と気を高めてチャージしていく!
そして――――――
「消し飛びやがれ! ドラゴン・フルブラスタァァァァァァ!!」
『Highmat FuLL Blast!!!!』
放たれる極大の砲撃は空の向こうまで伸びていく!
六方向へと放たれた赤い光が邪龍の群れを呑み込んでいった!
今のでかなりの数を消し飛ばせたはずだ!
「一気にいくよ!」
「大掃除といきましょうか!」
俺の砲撃が終わると同時に美羽とアリスが飛び出す。
美羽は魔法陣を展開すると巨大な竜巻を発生させた。
それも一つや二つじゃない。
竜巻は地面に降り立った邪龍を土地ごと抉り、空に浮かぶ邪龍をことごとく切り裂いていった。
アリスは竜巻から逃れた邪龍に迫り、槍で頭を貫いていく。
白雷を纏ったアリスはまるで白い閃光。
光の軌跡を残しながら、量産型の邪龍を屠っていった。
吹き荒れる嵐、轟く雷鳴。
やはり戦闘となると、この二人は頼もしすぎるぜ!
遠くでもドーンドーンと激しい衝撃が巻き起こっている。
皆も大暴れしているようだ!
アグレアスの方に視線を向ければ、そちらでも数えきれないほどの爆発が巻き起こっているのが見えた。
サイラオーグさん達もあちらで戦っているのだろう。
と、俺達の影から出現する何かがあった。
闇で作られた巨大な生物が俺達三人の足元の影から現れて、邪龍と対峙していく。
ギャスパーが闇の獣を作り出して送ってくれたようだ。
闇の獣も俺達と共に邪龍へ攻撃を仕掛けてくれる!
本当ならルーマニアで見せた町を覆うほどの闇を展開できれば楽なのだが、あれは消耗が激しいらしく、そう何度も使えるものではないらしい。
相手の数を考えれば、無理に消耗してリタイヤされるよりも、闇の獣を生み出して邪龍にぶつけた方が効率がいいんだ。
俺と美羽の広範囲攻撃で一度に百以上は余裕で消せる。
そこにアリスとギャスパーの闇の獣が加われば更にだ。
…………ただ、やっぱり多いんだよなぁ。
「早く全部片付けて、他のメンバーのところに行きたいところなんだけど………もう少しかかりそうだね」
美羽が竜巻を操りながらそう呟く。
物量差でいくとこちらは圧倒的に不利。
アーシアがいるとはいえ、誰かが負傷すればこちらはたちまち推されてしまう。
それはまずい。
あ………そっか。
もっと楽に邪龍共を一掃できる方法あるじゃん。
「美羽、この周囲に出来るだけ巨大で強固な結界を展開してくれ」
「いいけど………何か手があるの?」
「ああ。最近、まともに出番がなかったからな。たまには活躍してもらう」
「?」
俺の言葉に首を傾げる美羽だが、素早く新たに魔法陣を展開する。
辺り一帯を覆うほどの巨大な魔法陣が展開され―――――そこからクリアーブルーの障壁が四枚現れる。
「四壁封陣。これを展開しちゃうと、維持するために他のことが出来なくなるんだけど………良いの?」
「おう。とりあえず、これでこの辺の邪龍共は囲めただろ? あとは俺の―――――いや、女神さまの力で焼き払う」
「それって………ボク達が危ないんじゃない?」
「だから、美羽とアリスは俺の後ろに下がっててもらう」
俺はそう言うと鎧を
同時にイグニスを展開する。
さて、イグニスさんよ。
久し振りに大暴れしてもらうぜ?
『それはいいけど、ロンギヌス・ライザーはダメよ? 邪龍どころか、この町一帯………下手すれば他の町まで地図から消えることになるわ』
いやいやいや、それはしないって!
あれ撃ったら俺もダウンするし!
それに、量産型の邪龍を片付けるのにイグニスの全力出す必要ないし!
つーか、さらっと地図から消えるとか言わないで!
怖いよ!
『だってホントだもーん』
俺は美羽とアリスに結界の外に出てもらった後、結界の中央部―――――邪龍が集中しているところに移動した。
邪龍はこの結界内から出ることは出来ない。
それが分かってか、結界の内側にいる邪龍共は全て俺に向かってくる。
全ての邪龍が俺を取り囲んだ時、俺はニッと笑みを浮かべた。
「この時を待ってたんだ! イグニス!」
『ええ! やっちゃいましょう!』
俺は地面に深々とイグニスの刀身を突き刺す!
そして――――――
「『インフェルノッ!!』」
その瞬間、俺の周囲の地面から灼熱の炎が噴き出した!
これがイグニスの力を使った新しい技『インフェルノ』。
全てを焼き尽くす紅蓮の炎が俺を中心に広がっていく広範囲用の技。
いつだったか、ゼノヴィアが木場との模擬戦で使ってみせた技を参考に編み出したんだ。
炎が僅かにかするだけで、邪龍は炭となり灰になっていく。
―――――イグニスの炎が結界の中に閉じ込められた無数の邪龍を跡形もなく消していった。
▽
美羽の結界とイグニスの炎のおかげで、学校の南側にいた邪龍の群れは一掃できた。
それも僅かな時間で。
ただ……………
「ちょっとやり過ぎじゃない?」
アリスが辺りを見渡してそう呟く。
俺達の視界に広がるのは―――――焼け野原だった。
黒く焦げ、炎が消えた今でも高熱を持つ土。
それが俺達を中心にかなり広範囲に広がっていた。
俺は土に触れながら呟く。
「これ、後で問題にならない? ここ、もう何も育たないよね?」
これだけ土が焼けてしまって、作物なんて育つのだろうか?
土がほとんど灰みたいになってるんだけど。
『大丈夫大丈夫。畑として使えなくても子供達のグラウンドとして活用できるから!』
「うわぁぁぁぁん! 後でソーナに怒られるぅぅぅぅぅ!」
俺が頭を抱えると耳に入れてたインカムから声が届く。
ソーナからだった。
『イッセーくん? 何か問題でも起こりましたか?』
「え、あ、いや………問題と言えば問題のような………で、でも、大丈夫! こっちの邪龍は一掃したから!」
『この短時間でですか? 流石です。あなたがこの場にいてくれて本当に良かった』
うっ………なんだか罪悪感が………。
俺、広大な畑を丸々焼け野原に変えちゃったんだけど………何てお詫びしようか。
ガックリと項垂れていると肩に手を置かれた。
振り向くとアリスが微笑んでいた。
「こういうとき、全てが丸く収まる方法があるの。知ってる?」
「それって………どんな?」
俺が訪ねるとアリスは数歩前に出て辺りを見渡す。
そして――――――
「全ては邪龍のせい――――そういうことにしましょう」
「不正!? 俺に不正しろってか!?」
「たまには不正も必要よ」
「よくそれで国のトップしてたな!? したんか!? 不正したんか!?」
「私は不正なんてしたことないわよ。これ言ってたのモーリス」
「あのおっさん、何教えてんだぁぁぁぁぁぁ!」
~そのころのモーリス~
「おっ、リーシャじゃねぇか。今日は休みか?」
「ええ。この間、休日出勤したので」
「そうかそうか。ところで、おまえはアリスの日記について知ってるか? この間、ニーナが発見してな」
「日記………旅の時に書いていたイッセーの観察日記のことですね? 知ってますよ。こっそり見たことがありますから。………フフフ、中々可愛いこと書いてましたね。『イッセーに胸をつつかれた。あのバカ、あとでもう一回殴ってやる』とか。『どうしよう………イッセーにお姫様だっこされちゃった! 恥ずかしいけど、すごく嬉しい!』とか」
「おまえ、内容全部覚えてるのかよ?」
「もうバッチリ☆」
リーシャは親指を立ててウインクする。
モーリスは皆の姉貴分の記憶力に苦笑するだけだった。
~そのころのモーリス、終~
とにかく、俺達が担当した地区は片付いた。
速く他のメンバーのところに向かわないと。
「ここからは三手に別れるか。俺はリアス達のところに行く。美羽は木場達のところ、アリスは小猫ちゃん達のところに行ってくれ」
「オッケー。その後は随時、連絡を取りつつってところかしら?」
「そうだな。このペースでいけば、量産型程度ならすぐに片がつく。問題は―――――」
そこまで言いかけたときだった。
――――――ッ!
俺達は一様に表情を厳しくする。
突然、凄まじいプレッシャーが俺達に向けられたからだ。
この野獣のような………強烈なプレッシャー………!
この気には身に覚えがある!
こいつは………この気は………!
「ガハハハハ! ザコ邪龍共は片付いたようだなぁ!」
大気を揺らすような大きな声。
声がした方向、そちらに視線を送れば三メートル近くある巨体を持った男が一人。
男は俺と視線が合うなり、その大きな口を開いた。
「よう! この間振りだなぁ! 俺様のこと、覚えてるかよ? ガハハハハ!」
アセムの下僕の一人――――――『