ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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8話 共通点

「まさか東京に現れるなんてね。迂闊だったわ」

 

家に戻った俺とロスヴァイセさんは改めてリアスに経緯を説明。

ユーグリットとの遭遇を聞いたリアスは目を細めていた。

 

俺も白昼堂々、奴と出会うとは予想外だった。

 

「あいつらクリフォトは人間界に被害を出すことを何とも思ってなさそうだ」

 

「目的のためなら、ってことね」

 

イリナの言葉に俺は頷く。

 

今後は、この町だけじゃなくありとあらゆる場所で警戒をしておかないと、また同じことが起こりそうだ。

 

まぁ、それを行うのは中々に難しいところではあるんだが…………。

人手の問題もあるしな。

 

何らかの探索網を各地に敷ければ良いんだけど…………それでも奴らは潜り抜けてきそうだ。

 

朱乃が言う。

 

「今回の侵入で彼らへの警戒レベルは上がったわ。元々高かったものが更に過敏になった、と言うべきなんでしょうね。少くとも次、東京への侵入は難しくなっているわ」

 

一度目の侵入で警戒が強まると、当然二度目は更に難易度が上がる。

奴らも今後は東京は動きづらくなっただろう。

 

そんなことは誰にでも分かること。

 

問題は…………。

 

「あちら側はリスクを負いながらもロスヴァイセさんに接触してきた…………。それだけ、ロスヴァイセさんが学生時代に書かれた論文が彼らにとって相当な代物だということですよね?」

 

レイヴェルがロスヴァイセさんに視線を配りながら、そう呟く。

 

そう、ユーグリットはリスクをおかしてまでロスヴァイセさんの勧誘に来た。

それはつまり、ロスヴァイセさんの論文があいつらにとって、それだけの価値があるということ。

 

リアスも続く。

 

「そう考えるのが自然でしょうね。ちょうど、アザゼルから定期連絡が来る時間だから、合わせて訊いてみましょう。ロスヴァイセ、アザゼルに話してみてちょうだい」

 

「はい」

 

リアスの指示にロスヴァイセさんは頷いた。

ユーグリットと出会ってからロスヴァイセさんはずっと考え事をしているようで、難しい表情をしているのだが…………。

 

それから数分後。

アザゼル先生からの定期連絡が来た。

 

現在、アザゼル先生は冥界に戻っていて、神器のことや、クリフォトの動向についてグリゴリの研究者達と連日に亘る話し合いを続けている。

 

そのため、今はこの町にはおらず、映像越しによる連絡となる。

 

連絡用の魔法陣に映し出されるアザゼル先生に事情を一通り話してみた。

 

すると、先生は顎に手をやりながら目を細める。

 

『…………なるほど、ロスヴァイセが狙われたか』

 

「あまり驚いていないようね? こうなることが分かっていたの?」

 

先生の落ち着いた様子にアリスが問う。

 

『いや、驚いてはいる。だが、一通りの話を聞いて合点がいった。…………おまえら、名うての魔法使いが行方不明になっている事案は知っているな?』

 

「ええ、まぁ。そういう報告は受けてます」

 

先日、ゲンドゥルさんが家を訪れた時も話題にあがったしね。

 

アザゼル先生は頷くと、話を続けた。

 

『その魔法使い達には一つだけ共通点があってな。――――全員、「獣の数字」666(スリーシックス)に関する研究を行っていた。それも、一般的な見方とは違う方面から攻めた研究者達さ。集会に集う者達もそれの研究をしているそうだ』

 

…………一気に繋がったか。

 

ユーグリット曰く、ロスヴァイセさんは学生時代に666に関する論文を書いた。

そして、行方不明になっている魔法使い達の共通点も666に関する研究をしていた。

 

つまり、奴らは――――――

 

リアスが言う。

 

「つまり、彼らは『獣の数字』に関する情報を握る術者を手当たり次第に拐っているというわけね?」

 

『そういうことだ。黙示録の内容と聖書の神について知っていれば、ある程度、聖書の神が施したであろう封印術式が特定できる。一応、クリフォトの連中が解除するのに手間取っているであろう強力な封印術式は二十三まで想定が立てられてな。そこから逆算して、トライヘキサの復活までどれくらいの猶予が残されているか、こっちで協議しているところだ。復活させる気はないが、最悪のケースも念頭に置いておかないといけないからな。…………仮に復活してグレートレッドと戦い始めたら、それこそ手に終えなくなるだろう』

 

…………世界規模でヤバい事態になることは確かなんだろうな。

 

不安しか感じ得ないこの状況で陽気に微笑む人物が一人。

 

「まぁまぁ、皆も今からそんなに考えても仕方がないじゃない?」

 

イグニスだ。

一人、缶ビールを開けてグイッと豪快に飲んでいる。

 

な、なんて緊張感のないやつ…………。

 

「おまえ、呑気すぎない?」

 

「フフン。だって、今すぐ世界滅亡! なーんてことにはならないんでしょう? それなら、出来ることをするしかないじゃない? まぁ、その結果どうしようもなくなったら、その時は―――――」

 

そこで一度言葉を止めるイグニス。

 

「…………その時は?」

 

俺が問うと、イグニスはフッと微笑んで、

 

「――――私が出張るわ。とりあえず、軽く絞めれば良いのよね? まっかせなさい。まぁ、世界中が火の海になるかもしれないけど♪ まずは私自身に施した封印を解いて―――――」

 

「先生、絶対に防ぎましょう! 第三勢力がここにいます! この駄女神、何しでかすか分かりませんよ!?」

 

『お、おう…………。グレートレッド、それと同等と思われるトライヘキサ。その二体が暴れるだけでもヤバいってのに、そこの女神さままで加わったら世界終わるぞ、マジで』

 

先生は目元をヒクつかせ、この場にいるオカ研メンバーも顔面蒼白になっていた!

だって、イグニスさん、目がマジなんだもん!

 

そもそも、イグニスの全力が想像できない。

『イグニス』としての力だけでも強大すぎるのに、それはまだ本来の力の一部だって言うし…………。

 

本当の名前を解放したら、どんなことになるのか。

 

この女神は未知数過ぎる。

 

「あらら? アリスちゃん、またおっぱい大きくなったんじゃないの~?」

 

「あんっ、ちょ、やめ…………ちょっと、イッセー! この人、酔ってる! 酔ってるんですけど!? ひぁっ」

 

「うふふ♪ よいではないか、よいではないか♪」

 

「いーやー! 誰か助けてぇぇぇぇぇ!」

 

あーあ…………アリスがイグニスに捕まってしまった。

酔った状態でアリスのおっぱいを揉みまくってるし…………。

 

色んな意味で未知数だな、あの駄女神。

 

「お兄ちゃん、助けてあげないの?」

 

「…………俺も捕まるだろ」

 

捕まったら何されるか…………。

 

ほら、アリスなんて服に手突っ込まれて半脱ぎ状態になってるし。

 

他の皆も危険を察知してかイグニスから遠ざかっていく。

どうやら、皆も我が身可愛さにアリスを見捨てる方向のようだ。

 

うん、ここはアリスに頑張ってもらおう。

 

『ま、まぁ、確かに深刻になるには早いな。一応、おまえら以外にも「保険」は作る予定だ』

 

保険?

先生には何か秘策的なものがあるのだろうか?

 

『こっちの協議の末に出た答えもどこまで信用できるか見当もつかん。捕らえられた術者が持つ情報がどれほどトライヘキサの封印術式に影響を及ぼすか分からんからな…………』

 

そう言うと先生はロスヴァイセさんに視線を移す。

 

『一つだけ訊く。ロスヴァイセ、おまえは「666」の数字をどう読み解こうとした?』

 

「…………私は異説である『616』の方で研究していたんです。そちらの数字で各種関連書物、歴史上の出来事と照らし合わせながら数式、術式を組み立てていました」

 

『―――――っ! そうか、やはりな…………』

 

どうやら、先生はロスヴァイセさんの回答をある程度予想していたらしい。

 

ただ…………616って何だ?

 

666って数字が不吉な数字ってのは聞いたことがあったけど、616は初耳だ。

 

疑問符を浮かべる俺に先生が言う。

 

『数ある黙示録の研究者達は「666」という数字を本来の解釈として研究を行っている。ただ、研究者の中には異説である「616」という数字からのアプローチをする者もいてな。今回、拉致された術者の全てが「616」から「獣の数字」を調べていたもの達なのさ』

 

先生は顎を擦りながら続ける。

 

『俺達グリゴリも黙示録の研究を行ってきたが、「666」を本来の解釈とし「616」は異説としてきた。…………それでも奴らがこう動いたということは聖書の神は「616」でトライヘキサの封印術式を組んだということなのか…………?』

 

俺達に説明するというよりは、自分の仮説に驚きながらも自身に対して疑問を投げ掛けるようにぶつぶつ呟く先生。

 

しばし独り言を呟いた後、先生はロスヴァイセさんに言う。

 

『ロスヴァイセ。とりあえず、おまえが学生時代に書いたと言う論文を覚えている限り書き出してこちらに回せ。その論文がどこまでトライヘキサに関して触れているのか、こちらで調査する必要がある』

 

「…………少し前から書き起こしてありました」

 

そう言うロスヴァイセさんの手には難しい魔術文字、術式が書かれたレポート用紙の束が握られてあった。

 

帰ってきてから、さほど時間が経っていないのになんて仕事の早い…………。

これは流石と言うべきだろうか。

 

ロスヴァイセさんはレポート用紙の束を小型転移魔法陣に乗せて転移させる。

 

すると、連絡用魔法陣に映されているアザゼル先生の手元にロスヴァイセさんの書き起こした論文が光と共に現れた。

 

レポートを受け取った先生はページをパラパラと捲りながらロスヴァイセさんに言う。

 

『確かに受け取った。…………しかし、おまえも大したもんだ。自然と祖母と同じものを調べていたとはな。血は争えないというやつなんだろう』

 

…………そうか、今度の魔法使いの集まりは666について調べていた魔法使いが集まってくる。

つまり、ロスヴァイセさんのお祖母さん―――――ゲンドゥルさんも666に関する研究を行っていた。

 

そして、狙われている魔法使いの共通点は666を研究しているということ。

 

ロスヴァイセさんが複雑な表情をしていた理由の一つがこれか…………。

 

『さて、ロスヴァイセの論文とユーグリットの件はここで置いておこう。今度の魔法使いの集会についてだが―――』

 

先生が話題を切り返え、今後の予定について話を進めていく。

 

「…………」

 

しかし、ロスヴァイセさんは複雑な表情を浮かべたまま、口を開くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ミーティングを終えた後は解散となり、各自いつも通りに過ごしているのだが…………ロスヴァイセさんは自室に籠り、調べものをしているようだ。

 

おそらく、過去の論文をもとにもう一度666について調べ直しているのだろう。

今も聖書関連の書物を読み返している。

 

…………まさか、ロスヴァイセさんが学生時代に書いた論文がこういう形で使われるなんてな。

本人も予想外だっただろうに。

 

「お茶淹れたよ。はい、お兄ちゃん」

 

「サンキュー」

 

美羽は俺の前に湯飲みを置くと、俺の隣に座る。

 

俺は湯飲みに口をつけると軽く息を吐く。

 

「はぁ…………。ユーグリットとやつ、俺とロスヴァイセさんのデートを邪魔しに来るとか最悪だな。今度会ったら今日の分含めてぶちのめしてやる」

 

「アハハハ…………。いきなり過激な愚痴だね。ユーグリットと遭遇する前まではどうだったの?」

 

「ん? まぁ、それなりに楽しかったかな。…………まさか、百均で一万円も使うことになるとは思わなかったけど。明日、百個ぐらい届くからな?」

 

「…………ほんとに百均好きなんだね。いや、確かに安くて便利だけど…………」

 

美羽の言いたいことはよーく分かるぞ。

 

基本、百均で済ませようとする人だし、百均に関しては知らないことはないってくらいだ。

あの人の百均好きはマニアの域に達しているような気がする。

 

若くて美人だし、能力だって高い。

それなのに…………残念だ!

 

「あとはあれだな。ロスヴァイセさんの人生相談かな?」

 

「人生相談?」

 

人差し指を立てて言う俺に美羽は首を傾げて聞き返してくる。

 

「まぁ、人生相談って言うほどのものじゃないけどね。ロスヴァイセさんの過去を聞いて、今後のためのアドバイスをしたぐらいで。しかも、そのアドバイスもモーリスのおっさんの受け売りだし」

 

本気で人生相談するなら、アザゼル先生とかの方が良いと思うけどね。

あの人も長く生きてきて、色々なものを見てきたと思うし、何より人にアドバイスするのが上手い。

 

俺が出来るのは基本、愚痴を聞くぐらいだろう。

 

俺が苦笑していると、美羽は微笑んで言う。

 

「いいじゃん。例え誰かからの受け売りでも、それを伝えることも大切だと思うよ? …………って、これはお父さんの受け売りなんだけど」

 

…………俺達、受け売りばっかりしてるな。 

でも、その通りと言えばその通りか。

 

ここでふと気になることがある。

 

「そういや、美羽って将来の夢的なものはあるのか?」

 

「え? なんで?」

 

「ロスヴァイセさんが自分は何がしたいのか、何になりたいのか分からないって言っててな。まぁ、大半の人がそんなものだろうとは思うんだけど…………。俺なんて将来の夢なんて考えずにただがむしゃらに生きてきたからさ」

 

俺の言葉に美羽は「ああ、なるほど」と相槌を打つ。

 

美羽がこちらの世界に来てからずっと一緒にはいるけど、美羽の将来の夢って聞いたことがないんだよなぁ。

 

「こっちに来る前までは魔族の姫って立場だったし、自分の力を使いこなせるように必死だったから、これといって夢はなかったかな。昔はお父さんの後を継ぐのかな、なんて思ってたし」

 

小さい時は自分の力を上手く扱えず苦労したって言ってたし、それどころじゃなかったと言う感じか。

 

しかも、一国の姫という立場。

そう自由に決めることなんて出来なかったのだろう。

 

「でも、今はあるよ?」

 

「どんな?」

 

俺が聞き返すと美羽は満面の笑みを浮かべて、

 

「お兄ちゃんのお嫁さんかな。お兄ちゃんの側にいて、支えることが出来たら、それで幸せかなって」

 

エヘヘ、と頬を染めて恥ずかしそうにする美羽。

 

そっかそっか…………俺のお嫁さんが将来の夢か。

 

お兄さん、嬉しい!

 

ってか、それって―――――

 

「それってほとんど叶ってるような…………。もう結構支えられてるし」

 

「そう? ボクはまだまだお兄ちゃんを支えるには力不足だと思ってる。だから、もっと自分を磨いて、お兄ちゃんに相応しい人になる。これがボクの夢…………というより、今の目標なんだ」

 

うーん、美羽ちゃん、俺のことをすっごく評価してくれてるよね。

この間のゲンドゥルさんの時もそうだったし。

 

俺ってそこまで大きい人間かな?

 

「ここにいたのね、美羽ちゃん」

 

と、ここで母さんが俺達のところに現れた。

 

「あ、お母さん。どうしたの?」

 

「ちょっとね、見せたいものがあるのよ。こっち来て、こっち♪」

 

妙に弾んだ声で手招きする母さん。

 

俺と美羽は顔を見合わせて首を傾げるが、美羽は席を立って母さんに着いていく。

 

先導する母さんがスキップしてるんだが…………何があったのだろう?

 

 

 

 

 

 

美羽がリビングに戻ってきたのはそれから一時間後のことだった。

 

「なぁ、美羽。母さんの用って…………」

 

 

美羽の気配を感じたので振り返ると――――――

 

 

「うぅ………うぇ…………うぅぅぅぅぅっ!」

 

 

なんか号泣してた!?

 

 

「え、ちょ、なんで泣いてるの!?」

 

「お兄ちゃん…………ボク…………ボク…………うぇぇぇぇぇぇぇんっ!」

 

「何があったぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 


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