家に戻った俺達は兵藤家に戻って、講師の方を迎える準備をしていた。
家に住んでいるメンバーだけで十分なので、木場とギャスパーには自宅で休んでもらっている。
だが…………
「マスター。こんな感じでよろしいか?」
「うん。ありがとう、ディルさん」
ディルムッドも準備を手伝っていた。
今はテキパキと手を動かし、お茶の準備などをしてくれている。
こちらとしても動いてくれるのは助かるが、なぜ英雄派では『タダ飯ぐらい』の称号を得るほどだった奴が働いているのか。
試しに聞いてみたところ―――――
「マスターが働くというのなら、私もそれに付き従うのは当然のことだろう」
とのことだ。
こいつの美羽への忠誠心は何なんだろう…………。
うーん、これも唐揚げ効果なのだろうか?
だとすれば、餌付け効果抜群だな。
と、こいつがこうして動いていることにも色々と疑問はあるが、もうひとつ気になることが。
それは―――――
「あのさ………その服、どうしたの?」
俺はディルムッドを指差して問う。
今のディルムッドの服装。
それは―――――メイド服!
黒の網タイツを履き、更にはフリフリのメイド服という、もう百点満点をあげたいほどの組合わせ!
しかも、なんかエロい!
特に露出が多いというわけではない。
だが、スカートからの覗かせるスラッとした脚!
そこに黒い網タイツが合わさり、なんともエロいことに!
ディルムッドが言う。
「これはマスターに用意していただいたのだ」
「すっごく似合ってるでしょ? イグニスさんのアドバイスもあるんだよ?」
うん、すっごく似合いすぎて怖いくらい!
ディルムッドの冷たい雰囲気と長い紫色の髪も合わさって独特の魅力を発揮してるよ!
つーか、イグニスのアドバイスなのか!
やはり、あの女神は侮れない!
流石っす!
「あら、これ美味しい」
「うまうま」
「お二人とも、それ食べちゃダメですぅ!」
「食べるならこちらにしてください!」
お客さん用のお菓子を食べるイグニスとオーフィス。
そして、それを注意するアーシアとレイヴェル。
…………和むな。
お客を迎え入れる用意が整ったちょうどその時だった。
「お客さまがいらっしゃいましたわ。地下の転移室まで行きましょう」
と、朱乃が呼びに来てくれた。
俺達はお客さんを迎えるために地下へ――――。
▽
地下の転移室へ移動した俺達。
ここには何人かいないメンバーがいる。
黒歌、ルフェイ、オーフィス、イグニスだ。
理由はルフェイを除くこのメンバーでは粗相を仕出かしかねないからだ。
ルフェイは黒歌のお目付け役として、黒歌と共に自室へ。
オーフィスとイグニスは俺の部屋にいると思うが…………何してんだろ?
~そのころのイグニスさん~
「オーフィスちゃん、勝負よ!」
「我、負けない」
「ふっふっふー。言ったわね? 最強の女神の力! 見せてあげる!」
イグニスは手を振り上げ――――
「じゃんけん、ポン! やった! 私の勝ち!」
「我、一枚脱ぐ?」
「そうそう♪ まずは―――――」
お姉さんな女神さまとロリっ子な龍神さまは暇なので野球拳をしていた。
~そのころのイグニスさん、終~
…………きっと、ろくでもないことしてんだろうな。
あの二人にも監視役をつけておくべきだったか?
ま、まぁ、お客さんを迎え入れるVIPルームには入るなと言ってあるし大丈夫かな?
転移室の床が北欧の術式で光輝いて魔法陣を作っていく。
転移の光が強くなるのを見てアリスが訊いてくる。
「今から来る人ってどんな人なの?」
すると、それにはリアスが答えた。
「今回、ここに来られるのはロスヴァイセのお祖母さまなの。魔法の使い手として、北欧の世界―――――アースガルズでも有名だと聞いているわ」
なんと、ロスヴァイセさんのお祖母さんでしたか!
そりゃ、驚きだ!
皆も驚き、ロスヴァイセさんの方に視線を向けており、視線が集まったロスヴァイセさんは複雑極まりないといった表情だ。
そうこうしている内に転移の光が強まり、一気に弾けた。
転移の光が止み、姿を表したのは紺色のローブを着た初老の女性だった。
精悍な顔つきで、背丈もロスヴァイセさんほど。
背筋もピンっとしていて、少し厳しそうな雰囲気を持つ人だった。
この人がロスヴァイセさんのお祖母さんか………。
ロスヴァイセさんのお祖母さんは俺達を見渡すと、口を開く。
「はじめまして、日本の皆さん。そこの孫がお世話になっているようで」
視線を向けられた孫のロスヴァイセさんは口元をへの字に曲げていた。
あまり歓迎していないのか、それとも緊張しているのか。
ロスヴァイセさんはお祖母ちゃん子だったそうだし、今でも仕送りをしているそうだから、苦手っていうわけではなさそうだけど…………。
ロスヴァイセさんのお祖母さんが改めて自己紹介する。
「私はゲンドゥル。ロスヴァイセの祖母です。以後、お見知りおきを」
▽
俺達はゲンドゥルさんをVIPルームへと案内。
お茶とお菓子を振舞い、互いにあいさつを済ませた。
「というわけで、ゲンドゥルさんは今度、アガレス領で行われる魔法使いの集会に参加予定なのよ」
と、リアスが説明してくれた。
なんでも、名うての魔法使い達がアガレス領で魔法について話し合う集会を開くらしい。
悪魔以外の者が冥界に行くには特別な許可が必要。
その許可を取るのもかなり高難度だ。
つまり、その集会に集まる魔法使い達はそれだけレベルが高い人達だと言うこと。
悪魔に転生する前の美羽やアリスは比較的自由に冥界に足を運んでいたが、それはちゃんとした許可を得ていたから。
グレモリーという大きな後ろ楯と信用があってこそだ。
あっ、あと父さんと母さんも冥界に来たな。
俺の昇格の儀式の時に。
母さんはヴェネラナさんとお茶をしに、たまに行ってたりするみたいだが…………。
で、その名うての魔法使いが話し合う内容は珍しい術式、古代の魔法、禁術とされるばかりだそうで、聞くだけで難しい話をすることが分かる。
「ボクも参加しようかな…………」
うん、美羽なら聞いて理解できるかもね。
美羽は美羽で興味津々と言ったところだ。
ただ、この集会の内容を聞いて、思うところがあった。
「確か、各勢力で古代の魔法、禁術レベルの魔法を知ってる術者が行方不明になってるって報告があったよな? 今回のはそれに関係してるのか?」
俺がリアスに問う。
はぐれ魔法使いが動いているのか、それとも『禍の団』――――リゼヴィムが手を引いているのかは不明だが、そういう事件が多発しているとの報告があったんだ。
リアスは頷く。
「ええ。今回の集会が開かれるようになったのは術者が一度顔を合わせて意見交換したいという意識が高まったのも一つの要因よ」
静かに口を閉ざしていたゲンドゥルさんがゆっくりと話始める。
「これも外部には出していない情報なのだけれど、実は今回の集会で、一度お互いの研究テーマ、得意としている術を一時的に封じる方向で話を進める予定なのです」
「術を………魔法を封印するということですか?」
レイヴェルの問いにゲンドゥルさんは頷く。
「己の生涯をかけて高めてきたものを誰とも知らない悪辣な者に利用されるぐらいならば、ということです。少なくとも一連の事件が解決するまでは」
ゲンドゥルさんは続ける。
「堕天使の組織、グリゴリはアンチマジックについても研究が盛んだと聞き及んでいます。今回の件で私達の術の封印を堕天使に一任させていただくつもりです。己で封印したところで、拉致され催眠をかけられては破られかねませんし、他の術者に施してもらったところで、盗まれてしまう懸念もあるでしょう。それならば、現状世界で信頼を高めている堕天使の研究機関ならば良い妥協点となります」
「はい。アザゼル前総督を始め、アンチマジック専門のアルマロスさまも動いています。私共にお任せください」
ゲンドゥルさんに視線を向けられたレイナはそう返した。
なるほどなるほど、グリゴリの評判は上がってきているのか。
でも、まぁ、今じゃ色んな勢力に和議を唱え、自分達の技術を提供しているからな。
以前の悪役的なイメージは薄れつつあるのだろう。
ゲンドゥルさんは言う。
「その封印をする前に意見交換をしようということになったのです。集会への参加を拒否した者もいますが、それでも今回の集まりは貴重な時間となるでしょう。それに私はソーナ・シトリーさんからの招待を受けておりますし」
リアスが続く。
「ゲンドゥルさんが今回、来られたのはそういうことなのよ」
ゲンドゥルさんは魔法使いの集会とソーナの学校で講師をするために来たと。
その後、今後のスケジュールの確認を行った。
ゲンドゥルさんは数日、この町で過ごした後、俺達の休日に合わせて冥界入りすることになる。
▽
予定の確認を終えた後は会話も砕けた内容となった。
「ゲンドゥルさんはヴァルキリーの一人としても数えられていたのよ」
リアスがそう教えてくれた。
ということはロスヴァイセさんはお祖母さんの影響でヴァルキリーになったんだろうな。
しかし、ゲンドゥルさんのコメントは辛口だった。
「要領が悪いのだから、向いてないと散々言ったんですよ。この子は抜けているところがありますから」
あー…………、昔からそうだったのか。
うん、学園でもロスヴァイセ『先生』じゃなくてロスヴァイセ『ちゃん』って呼ばれるくらいだしな。
たまにドジるよね。
戦闘中はそうでもないんだけど。
それを受けてロスヴァイセさんは恥ずかしそうに頬を染めて目を伏せてる。
テイーカップを置いたゲンドゥルさんはロスヴァイセさんに改めて問う。
「ロセ、私がここに来た理由のひとつ。おまえなら分かるね?」
…………ロスヴァイセさんって『ロセ』って呼ばれてるんだ。
「ここには男性が一人しかいません。彼が――――そうだと思っていいんだね?」
俺に視線を移しながらゲンドゥルさんはロスヴァイセさんに問いかける。
その瞬間、この場にいる全員の視線が俺へと向けられた。
…………お、俺ですか?
疑問符を浮かべる俺だが、ロスヴァイセさんは立ち上がって、大きく深呼吸した後に言った。
「そうです。彼が私の彼氏、兵藤一誠くんです」
…………。
……………………。
………………………………。
…………そ、そうきたかぁ。
な、なるほど、この間の風呂場の告白はここに来るわけか…………。
あれですか、故郷にいるお祖母さんにこっちで彼氏が出来たとか言ったんですか、ロスヴァイセさん!?
ゲンドゥルさんが言う。
「ロセ、おまえは勝手に家を出て、勝手に悪魔に転生し、勝手にこちらで人間界の教員など始めた。私に心配ばかりかける悪い孫娘です」
「うっ………そ、それは…………」
言い返せないでいるロスヴァイセさんをリアスが援護する。
「ゲンドゥルさん。それは私が勧誘したことも起因していますわ。ロスヴァイセばかりお責めにならないでください。責任は私にもあります」
「いいえ、リアスさま。悪魔になったことも、教職についたことも問題ではないのです。いえ、正確に言えば問題なのですが、それよりも勝手に、勢いで生き方を変える孫に一言言いたいのですよ」
「…………耳が痛いな」
クッキーをポリポリ食べてるゼノヴィアがそう呟いた。
うん、おまえはよーく聞きなさい。
勢いだらけだから。
自身の語気が強まっていることに気づいたゲンドゥルさんは一つ咳払いをする。
「まぁ、オーディンさまがおまえを忘れてきたことも原因の一つです。それに関しては私も意見を申し上げておきました。よって、不問とします」
あー、オーディンのじいさん、怒られたんだな。
自分のお付きを忘れるとか酷すぎるもんなぁ。
オーディンのじいさんが忘れずに帰ってたら今頃、ロスヴァイセさんもヴァルキリーとして活動していたはずだし。
確かに全ての元凶はあのじいさんだ。
ゲンドゥルさんはロスヴァイセさんに言う。
「私は心配なのですよ。勉強や魔法は出来ても要領が悪くて大いに抜けているおまえがこの極東の地でしっかりとやっていけているのか…………。そこで私がおまえか彼氏でも作っていれば安心できると常々言っていたのです。そうしたら、いると言うものですから…………」
…………そういう背景があったのね。
お祖母さんに心配をかけないために彼氏がいると伝えていたと…………。
う、うーん、そういうことなら事前に伝えてもらいたかった。
つーか、お祖母さんの来日が決まって、勢いで俺にしたよね!?
お祖母さんの言うとおり、この人もたいがい勢いで物事決めてるよ!
ロスヴァイセさんは俺の隣に寄り、腕に捕まってきた。
「い、イッセーくんは頼りになる男性です! で、伝説の赤龍帝だし、も、もう上級悪魔ですし…………そ、そそそそれに異世界では勇者と呼ばれる人なのですから!」
お、おいぃぃぃぃぃぃぃ!?
さ、最後の!
最後のはダメだろう!?
い、いや、異世界のことも俺のことも全勢力に知られているけどさ!
あまりそれを言わないでぇぇぇぇぇ!
「「「…………………」」」
なんか、部屋の空気が重たいことにぃぃぃぃぃぃ!?
ニコニコしてるのは美羽くらいか!?
え、なんか口パクで言ってきてるんだけど…………
なになに…………
お 嫁 さ ん が 増 え た ね…………?
それが伝わった俺はガクッと肩を落とした。
あぁ、やはり俺は妹によってハーレム計画を進められているのか!
嬉しいけど、なんか複雑!
こっちに親指立てて、グッジョブってしてるし!
「ご、ごめんなさい! お茶を取り替えてきますわ!」
朱乃が耐えきれなかったのか、辛そうな表情で立ち上がる!
「お茶ならここにあるぞ?」
あ、それをメイド姿のディルムッドが阻止しやがった!?
朱乃の逃げ道を塞いだのか!?
つーか、おまえも真面目にメイドさんの仕事してたんかぃぃぃぃ!
『英雄派のタダ飯ぐらい』はどこへ!?
俺が心の中でツッコミを入れまくっていると、ゲンドゥルさんは懐から新聞を一部取り出した。
あれは…………冥界の新聞か?
しかも日付が古い。
今日のやつじゃないのか?
この場の全員が怪訝に思っているとゲンドゥルさんは新聞を開いてテーブルに広げる。
そこには―――――デカデカと俺とアリスのキスシーンが!?
「「え、ええええええっ!?」」
俺とアリスの絶叫が重なる!
そう言えば、マグレガーさんが新聞に載ってたとか言っていたが…………あの写真はアザゼル先生が撮ったやつか!
な、なんで、ゲンドゥルさんがそれを!?
「赤龍帝殿には既に想い人がいるのではないですか? そこの彼女。赤龍帝殿の『女王』となられたとか。なのにおまえは赤龍帝殿を彼氏と言っている。これはどういうことか説明してもらいましょうか」
ですよね!
この流れだとそう来ますよね!
でも確かにあの新聞が出回っている以上、俺を彼氏として紹介はしにくい!
厳格そうなゲンドゥルさんだから「ハーレムなんて不純だ」とか言いそうだ!
「あっ…………う…………」
ロスヴァイセさんはその辺り考えてなかったの!?
言葉が出ないロスヴァイセさん!
打つ手なし、そう思われた時、美羽が挙手して口を開いた。
「大丈夫です! お兄ちゃんはハーレム王になりますから!」
爆弾投下した!?
いや、ハーレム王は目指しているよ!?
でも、相手を考えてくれ!
ロスヴァイセさんがピンチになっちゃうから!
焦る俺だが、美羽は続ける。
「この場にいる女の子達はお兄ちゃんを心から慕っています。ボクもお兄ちゃんのことが大好きで、この体も捧げました。それでも…………ボクはお兄ちゃんを独占しようなんて思いません」
「それはなぜです? 好きな人には自分だけを見てほしいと思わないのですか?」
ゲンドゥルさんが表情を変えることなく静かに問いかける。
それに美羽ははっきりとした口調で答えた。
「―――――大きすぎるから」
「大きい?」
「お兄ちゃんは心がとても大きな人なんです。この場にいる女の子全員でも受け止められるか分からないくらいに。エッチだけど、誰よりも優しくて、かっこよくて…………。それでいて、誰よりも悩んで…………それでも、今まで多くの人達を守って生きてきた。そんなどこまでも真っ直ぐな人だから。想ってくれるなら、ボクはそれだけで幸せなんです」
すると、側にいたアリスも立ち上がる。
「私も美羽ちゃんと同じ意見です。そういう人だからこそ私も兵藤一誠に心を奪われました。この場にいる全員―――――そして、ロスヴァイセさんも、きっと」
…………多分、二人ともロスヴァイセさんに助け船を出したのだろう。
だけど、二人の言葉は間違いなく本心で…………。
照れくさいような嬉しいような…………胸の奥がすごく熱くなる。
やべっ…………泣きそう。
二人の言葉に感動を覚える俺だが、ゲンドゥルさんは黙りこんだままだ。
しばらくの沈黙の後、ゲンドゥルさんが口を開く。
「…………英雄色を好む、とは言いますがそれはその男性にそれだけの魅力があってのことです」
ゲンドゥルさんは再び俺の方に視線を移す。
「彼もそれだけの魅力がある、ということなのでしょう。そうでなければ、ここまで想いの籠った言葉は出てきませんから」
あ、あれ…………?
新聞を畳んで仕舞ってしまったぞ?
ハーレムは認めてくれた感じなの?
ゲンドゥルさんはティーカップに口をつけるとロスヴァイセさんに問う。
「付き合ってどれくらいだい?」
「さ、三ヶ月です!」
「――――ということは、既に男女の関係も結んでいると思っていいんだね?」
ちょ、直球だぁ…………ドストレートだぁ…………。
ロスヴァイセさんも固まっちゃったよ!
しかし、なんとか持ちこたえて顔を真っ赤にして声を震わせる。
「そ、それは…………まだ結婚をしているわけでもないし…………。だ、だいたい! 私の貞操観念は、ばあちゃ…………お祖母さんが私に植え付けたものです!」
「私は別に嫁ぐ前に関係を持つなとは言っていない。変な男に引っ掛かって無駄に体を許すんじゃないと言ったんだよ」
すると――――――
「わ、わたすだって、男の子とエッチなことしてぇさっ!」
「そっだら、さっさと身を固めちまえばいいって言ってんでしょが!」
んんっ!?
方言!?
方言出たよ!?
祖母孫揃って方言出たよ!?
この場の空気があらぬ方向に行っていると気づいたゲンドゥルさんは再び咳払いをする。
「彼氏さん」
「は、はい!」
「その子を大切にできますか? 心から愛せますか?」
これまたドストレートな問いだな!
俺とロスヴァイセさんは付き合ってるわけじゃない。
だが、これはロスヴァイセさんがゲンドゥルさんを心配させまいと考えた末の結果だ。
しかし、この人に付き合ってるなどと俺が言えば、言葉の軽さゆえにバレるだろう。
だから、俺は本音を言うぜ。
「俺は守ると決めたものは何が何でも守り抜きます。当然、ロスヴァイセさんも必ず守ります――――命をかけて」
ロスヴァイセさんは俺の仲間で、家に住む家族みたいな存在だから。
必ず守りきる。
こいつは嘘偽りのない俺の本音。
俺の言葉を聞いたゲンドゥルさんはふっと優しげな微笑みを浮かべると一言。
「交際を許可します」
「…………へ?」
その一言にロスヴァイセさんは反応できず間の抜けた声を出す。
「へ? じゃない。私は良しと言ったのです。これで好きな男性と想いを遂げられるのだろう? ほら、今度逢い引きでもしてみんさい」
「い、いや、で、でも!」
「今度会うときに改めてその辺のことを訊くからね。おまえと彼氏さんからもね。皆さん、今日はありがとうございました。私はこれで失礼します」
それだけ告げるとゲンドゥルさんはソーナが用意しているという宿泊施設に向かうため、この場をあとにする。
お祖母さんが去ったあとは、なんとも言えない空気に。
ロスヴァイセさんが俺の手を掴み、紅潮した表情で懇願してくる。
「…………すいません。ちょっとだけでいいので、ご協力ください。…………もう後に引くことが出来ないんです…………っ!」
「あ…………はい」
こうして、俺とロスヴァイセさんはデートすることが決定。
ちなみにこの後、ロスヴァイセさんは助け船を出してくれた美羽とアリスに頭を下げてお礼を言っていた。