1話 お願いされました!
「うーん、今日も働いたなぁ」
と、俺の胸に背中を預けながら腕を伸ばすのは美羽だ。
現在、俺達は二人で地下の大浴場にいる。
お互いの背中を流しあった後はこうして仲良く入浴中だ。
契約を取るようになってからというものの、美羽は次々に契約を取ってくるようになった。
駆け出しだった頃の俺を余裕で越える件数だ。
俺の時と同じくアンケートを依頼人に書いてもらうのだが、
『愛想が良くて可愛い』
『すごく話を聞いてくれて、親身に接してくれる』
『とにかく可愛くて優しい』
『次もお願いしたい』
という風にかなりの好評価をいただいている。
特に引きこもりの人のように人付き合いが苦手な人にとっては話し相手として美羽が良いらしい。
ギャスパーが引きこもってた時も美羽のおかげで、あいつは一歩進めたもんな。
俺は後ろから抱きしめるようにしながら美羽に訊く。
「悪魔の仕事にも慣れたか?」
「うん。悩みの相談がメインだけど、それも立派な仕事だしね。人の役に立ててるようで嬉しいかな」
「そっか」
美羽の感想を聞いて、俺は微笑みながら頭を撫でてやる。
最初は美羽が変なことさせられていないかとか不安もあったんだけどね。
そういうのは無いみたいだし、今は安心して送り出せている。
美羽も依頼人の悩みを無事に解決できているようだし、何よりだ。
美羽が誉められるとさ、ついつい頬が緩んでしまう。
「アリスさんはどんな感じなの?」
美羽に尋ねられる俺だが・・・
「あー・・・・。ま、まぁ、何とかなってるかな」
「・・・・?」
アリスも契約を取り始めている。
こちらも美羽に負けず劣らずそれなりの数を取ってくるんだ。
ただ、この間一つ問題が起きてな・・・・。
どうにも依頼人がアリスを見た瞬間に求婚して来たらしいんだよね。
当然、アリスは断ったんだが、あまりにしつこいので背負い投げしちゃったんだ。
アリスから報告を受けた俺はすぐに現場に駆けつけて事態の収集を図ったんだが・・・・大変だった。
あれは依頼人の方に問題があったから、その問題自体は直ぐに収まった。
ただ、アリスが俺の手を煩わせたって言って結構気にしちゃって・・・・そっちを何とかする方が大変だったよ。
ま、まぁ、それ以外では特に問題なく契約活動を続けている。
レイヴェルも上手くやってる・・・・っていうか、実質上、眷属全体の総監督だからな。
起きた問題に対しては大小関わらず、迅速に解決してくれている。
うーん、流石はデキるマネージャー!
眷属全体のマネージメントも完璧だよ。
改めてレイヴェルの優秀さを感じていると、美羽が尋ねてきた。
「・・・・ねぇ、あんなところに扉あったっけ?」
「へ?」
美羽が指す方向、それはこの地下大浴場の奥。
よく見ると確かに扉がある。
はて・・・・あんなところにあったかな?
少なくとも昨日はなかったと思うんだが・・・・・。
俺と美羽が怪訝に思いながら首を捻っていると、大浴場に入ってくる者がいた。
「あら、イッセーに美羽。先に入ってたのね」
リアスだった。
リアスに続いてアリス、朱乃、教会トリオ、レイナ、レイヴェル、小猫ちゃん、オーフィスが次々に入ってきた。
ちょうど良いと思った俺はリアスに尋ねてみる。
「あのさ、あそこに扉があるんだけど・・・・あれってなに?」
「え? あぁ、あれね」
リアスは見知らぬ扉を見て心当たりがあるようだった。
微笑みを浮かべて、
「入ってみましょうか。きっと面白いと思うわ」
▽
「まさか、こんなところがあったんてね・・・・」
美羽が辺りを見渡しながら感嘆の声を漏らしていた。
見知らぬ扉を潜り抜けた先にあったのは―――――新たなお風呂だった。
今まで使っていた大浴場よりも広く、天井、壁、器具に至るまで煌びやかで豪華な造り。
ジャングル風呂のように熱帯植物も繁茂している。
ドラゴンを模した彫像の口からお湯が溢れ、小さな滝ようなものまで存在する。
柱のひとつひとつにまで細かな飾りがあり、グレモリーの紋様が象徴的に新大浴場の各所に印されていた。
その神々しささえ感じる場所にリアスや朱乃、レイヴェル以外のメンバーは呆気に取られる始末だ。
リアスが微笑みながら言う。
「このお家、アジュカ・ベルゼブブさまお抱えの建築家がデザインしたらしいの。そのデザイナーはアジュカさまのように隠し要素を施すのが好きみたいなのよ」
「ってことはこの家には他にも・・・・?」
「そうね。まだまだ隠されたものがありそうよ」
マジか!
この家にはまだ俺の知らない場所があると!
他にどんな隠し要素があるのか気になるな!
「おそらく、時間の経過で開放される造りになっていたのでしょうね。ほら、もう冬なわけだし、それに併せて新たなお風呂場が出現するようになっていたのよ」
リアスはお湯に浸かりながらそう口にした。
時間経過で解禁する設備・・・・。
この家、夏に改築されたわけだけど、そんな設備がどれだけ隠されているんだよ?
まぁ、それはおいておこう。
とりあえず今は目の前の絶景を楽しもうじゃないか!
ここには全裸の女の子達がいっぱい!
いつも見ているではないかと言われればそうなるが、この光景は飽きないぞ!
背中を流し会う教会トリオの微笑ましい姿。
ゴシゴシと手を動かすたびに揺れるおっぱいは素晴らしいな!
ゼノヴィアやイリナも相変わらずいい乳をしているし、アーシアもどんどん成長している!
その近くではアリスとレイナが女子トークをしている。
珍しい組み合わせだとは思うが、これはこれでアリだな。
小猫ちゃんとレイヴェルも小さめの浴槽に浸かりながら仲良くお話し中だ。
・・・・レイヴェルとの関係は当然(?)ながらバレた。
なぜか分からないが、リアスが察知していたらしい。
温泉旅行から帰った後、色々と質問責めを受けた。
それを知った小猫ちゃんも最初は拗ねていたんだが・・・・
「・・・・おっぱいを大きくしたら、その時はお願いします」
と言って、今は普通に接している。
うーん、巨乳の小猫ちゃんか!
先日聞いた話だが、白音モードなるものを発動した小猫ちゃんは黒歌並みのナイスバディになっていたらしい。
クソッ、俺も見たかったよ!
いったいどんな美女になったというんだ、小猫ちゃん!?
消耗が激しいらしいけど・・・・今度見せてもらおうかな・・・・。
何にしても後輩二人が仲良くしているのは微笑ましい。
レイヴェルと言えば、後でルフェイとの契約について話し合わないとな。
テロリスト対策チーム『D×D』が結成されてから、黒歌とルフェイも正式にこの家に住むことになった。
・・・・ま、正直、以前とあまり変わらないんだけどさ。
基本、黒歌は自由にしてるし。
で、ルフェイとの契約だが、五年契約で組むつもりだ。
ルフェイは掛け値なしに良い娘で美羽が認めるほど優秀だ。
一、二年では短いし、十年だと俺が将来どうなっているか不安なんだ。
その辺りはルフェイも同じ様に考えているようだ。
そこで、レイヴェルの提案により五年という二人にとって調度良く感じられる期間での契約となった。
五年後もお互いに有益なら延長契約を結べばいいらしいので、その時が来たら改めて考えようってことになってる。
まぁ、俺としては契約相手がルフェイで良かったと思う。
可愛いしな!
「うふふ、やっぱり、皆でお風呂に入るのは楽しいですわね」
と、いつのまにか俺の隣に来ていた朱乃。
「うん。混浴って良いもんだよ」
俺はついつい本音で答えてしまう!
だって、こんなキャッキャッウフフな空間が広がってるんだぜ?
本音も出るさ!
うーむ、それにしても朱乃のおっぱいは相変わらずもっちりしてそうだ!
ふと視線を前方にやると、オーフィスが仰向けのまま、すいーっと浴槽内を潜水していた。
「オーフィスさん、お風呂で泳いじゃダメだよ?」
美羽が注意するものの、オーフィスはそのまま通りすぎていく。
龍神さまは自由ですね。
吸血鬼の領地で出会ったオーフィスの分身体――――リリスのことはオーフィスに話してみた。
案外反応は薄かったけど、一言だけ、
「イッセーの敵になるなら、我がどうにかしたい。友達に迷惑、かけたくない、かも」
どうにかしたい、か・・・・。
俺のことを大切に思ってくれているのは嬉しいが、それでもオーフィス同士で戦うところなんて見たくないな。
何より、オーフィスには今みたいに平和で、のんびりしていてほしい。
ただ、俺が思うにリリスはこちら側に招けると思うんだ。
リゼヴィムに利用されているけど、元がオーフィスであれば心根は同じはず。
それなら――――――
ま、そのあたりはやってみないことには何とも言えないか。
すると、俺の目に切なそうな表情のリアスが飛び込んでくる。
いつもなら、皆の入浴を微笑ましそうに見守るか、俺に甘えてくるかの二択なんだが・・・・・。
俺は何となく理由を察した。
「グレイフィアさんのこと?」
俺がそう問うと、リアスはハッと気づき苦笑いを浮かべる。
「・・・・ごめんなさいね。分かってしまうわよね。ええ、そうよ。お義姉さまのことを考えていたの」
グレイフィアさんは弟であるユーグリッドの登場により、苦しい立場が続いている。
現在はグレモリー城に軟禁状態となっているほどだ。
サーゼクスさんの公務の手伝いから、グレモリーでのメイド仕事も禁止。
現悪魔政府の政からは遠ざけられている。
こうなったのも現政府の上役達がグレイフィアさんを疑っているからだ。
弟の生死を偽り、裏では夫であるサーゼクスさんを騙しているのではないか。
リゼヴィムと繋がっているのではないか、と。
俺達からすれば馬鹿馬鹿しい考えだと思う。
そもそも、サーゼクスさんが惚れた人だぞ?
それこそあり得ないだろう。
ただ、古い悪魔達にとって旧ルシファーとそれに繋がる存在ってのはそれだけ脅威であり、畏敬の対象なんだ。
俺には理解できないが、グレイフィアさんを疑うのもそれだけ今回の事態を重く見てるってことなんだろうな。
「あれから連絡は来てないんだよな?」
「ええ。・・・・あのようなことがあったから、上役のお義姉さまへの風当たりも強いでしょうし、今はお兄さまに連絡を取ることも叶わないわ。お父さまとお母さまは心配するなと仰っているけれど・・・・」
軟禁場所がグレモリー城ってのが救いだよな。
リアスのご両親もそばにいてくれるなら安心もできる。
グレイフィアさんも寂しくはないだろう。
でも、悲しみと不安、動揺はしているだろうな。
死んでいると思っていた弟が生きていて、今はテロリストをしているわけだから。
ユーグリットは何を考えてリゼヴィム側についたのか・・・・。
そこが今一理解できない。
ユーグリット・ルキフグスか・・・・・。
「あいつは・・・・多分、また俺の前に来るだろうな」
「あっちも赤龍帝の鎧を得ているからね?」
リアスの言葉に俺は頷いた。
アセムの下僕の一人、ベルの手によって複製された赤龍帝の鎧。
通常の鎧だけでも面倒なのに、天武、天撃まで使える豪華仕様だ。
そいつをユーグリットは纏った。
あいつは妙に赤龍帝の力に関心を得ていたような・・・・そんな気がする。
それが何故だかは分からん。
ただ、言えることは――――――
俺はリアスの肩を抱き寄せ、宣言する。
「俺があの男を倒してサーゼクスさんの前に突き出す。そうすれば、グレイフィアさんもなんとかなるはずだ。だから、心配すんな。俺が何とかするさ」
ああ、あの野郎は俺がこの手でぶっ潰す。
赤龍帝の名を軽んじ、姉を悲しませるような奴は俺が―――――
「・・・・イッセー」
リアスの頬が染まり、瞳が潤む。
リアスの顔が徐々に近づいてきて――――――
「うふふ、今のイッセーくんのお顔にときめいてしまいましたわ」
むにゅんと極上の感触が俺の背中を襲った!
朱乃が抱きついてきたぁぁぁぁ!
吸い付くような柔肌が俺の背中にぃぃぃぃ!
あ、ヤバい・・・・元気になっちゃう!
リアスが朱乃に抗議する!
「ちょっと、朱乃!? 今のは私が抱きつくところでしょう!?」
「あらあら、油断は禁物よ? 私だってイッセーくんを狙っているのですもの」
「そうだとしても! ちょっとは空気を読んでちょうだい!」
アハハハ・・・・。
いつものリアスに戻ったというか何というか・・・・・。
俺が苦笑しているのをよそに二人の言い争いは激しくなっていく。
「私だってイッセーに迫りたいのに、朱乃は邪魔ばっかり!」
「私だってそうですわ! 私だってイッセーくんに抱かれたいのよ!」
おいぃぃぃぃぃ!
ちょっと落ち着こうか!
皆が見てる前でそんなこと言っちゃダメだって!
なんか、温泉から帰ってから二人の勢いが増したというか・・・・。
いや、俺はいつでもウェルカムだよ?
もう昔みたいなヘタレじゃないし!
ただ、二人が来る時ってタイミングが悪いというか・・・・。
そうこうしていると、言い争う二人の元に美羽が寄っていく。
「まぁまぁ、二人とも落ち着こうよ。お兄ちゃんはいつでもOKだからね? そんなに慌てなくても大丈夫だよ?」
「皆が次々にイッセーくんと越えていくものですから・・・・私も、と。」
「・・・・美羽は・・・・その、イッセーと何度もしてるじゃない?」
「だからそこアドバイスできることもあるよ? リアスさんも朱乃さんも、二人とも――――――」
な、なんか美羽がアドバイスしてる!
リアスと朱乃を前に俺に対する接し方をアドバイスしてる!
二人もうんうん頷いて美羽の話に聞き入ってるし!
あぁ!?
アーシア達教会トリオと小猫ちゃんもそこに参加するのか!?
「レイナさんはどうだったの?」
「え、えっと私の時は―――――」
「まぁっ、そんなことをしたのですか? そ、それは興味深いですわ」
アリスとレイナ、レイヴェルの三人は少し離れた所で俺との夜について語り合ってるし!
俺は天井を見上げ、思った。
―――――義妹によって進められるハーレム計画、か。
よくよく思い出してみれば、アリスもレイナもレイヴェルも美羽が切っ掛けを作ったようなところもある。
こりゃ、ひょっとすると・・・・・。
その時だった。
俺のもとに近寄ってくる人がいた。
それはバスタオルを巻いたロスヴァイセさんだった!
ロスヴァイセさんが混浴するなんて珍しいな。
過去に数回程度、それも偶々お風呂で遭遇した時とかは入った時もあるが、ロスヴァイセさんからこちらへ近づくなんてことはなかった。
ロスヴァイセさんってこういうの厳しいからね・・・・。
それにしてもロスヴァイセさんも見事なプロポーションをしているよ。
バスタオル越しでも分かるほどだ。
ロスヴァイセさんは少々難しい表情をしているが・・・・。
ロスヴァイセさんは美羽に言う。
「美羽さん。イッセーくんをお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「お兄ちゃんを? お兄ちゃんが良いのならボクは別に構わないよ?」
美羽がそう答えるなり、ロスヴァイセさんは俺の方へと向き直る。
「・・・・イッセーくん、お願いがあるのですが」
「え? お願い、ですか? 俺に?」
頷くロスヴァイセさん。
お願いごとをするために態々混浴してきたと?
疑問符を浮かべる俺にロスヴァイセさんが頬を赤く染めながらも真っ直ぐに告げてきた。
「わ、私の・・・・彼氏になってください」
「え・・・・・」
そのお願いにこの場の時が止まった―――――――