ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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21話 クリフォト

「おいおい・・・・何だよ、その能力は・・・・!?」

 

俺は眼前に立つ者を見て、驚きを隠せないでいた。

 

アセムとその下僕、『絵師』のベル。

 

そして―――――赤龍帝の鎧。

 

ベルが描いた絵から生み出されたそれは紛れもなく、赤龍帝の鎧だった。

この力の波動も正に赤龍帝のそれだ。

 

『馬鹿な・・・・!? まさか、神滅具を・・・・俺の魂を複製したというのか!?』

 

ドライグですら、この反応だ。

 

アセムがベルの手を握りながら言う。

 

「この子の主な能力はね、描いた存在を具現化することなんだよ。だから『絵師』。分かりやすいでしょ? 今のは君の、いや、君達の力とオーラを解析することで、君達のコピーを生み出したのさ」

 

『なんだと!?』 

 

「当然、この能力にも限界はあるけどね。とりあえず神格持ちはコピーできないし、勇者くんレベルの力を一度に複数召喚することはできないし」

 

『だが、俺の魂はどうなのだ!?』

 

「ドライグ君の魂は複製できていないよ? 複製したのはあくまで、解析した段階での能力と力のみだからね。ま、君がこっちの鎧に入ってくれるなら? こっちの鎧が本物になるのかな?」

 

『何を馬鹿なことを・・・!』

 

ふざけた口調で言うアセムに憤りを覚えるドライグ。

 

しかし、なんてことだ・・・!

 

俺の力を複製されただと!?

あの一瞬でそんなことが出来るのかよ!?

 

「チートかよ!」

 

「だから言ったでしょ? この子、本当に強いよ? ねー」

 

「・・・・ねー?」

 

アセムを真似てか、可愛く首を傾げるベル。

 

気のせいか、リゼヴィムもアセムも強いロリっ娘を保持しているような・・・・・。

 

リリスもオーフィスの分身だけあって強いだろうし、ベルも能力的にはチートの部類だ。

 

この光景を側で見ていたラズルが口を開く。

 

「ベルの複製能力が親父殿の試したかったことかよ? そんなもん前々から出来てたじゃねぇか」

 

「父上、私もそう思います。確かに勇者殿の能力は興味深いですが、父上が興味を抱いているのは彼そのものでしょう? 魂を複製できないのでしたら・・・・」

 

ヴァルスもそう続く。

 

「まぁ、そうなんだけどね。今回は複製だけじゃないんだよ。―――――ねぇ、ユーグリットくん?」

 

アセムがそう言うと――――――その背後に降りてくる者がいた。

 

銀髪の男性。

銀色のローブを身に付けたその男。

 

レイヴェルを拐ったはぐれ魔法使い達を指揮してやがったあのクソ野郎だ!

 

「ユーグリット! おまえがここで出てくるのか!」

 

「先日ぶりですね、赤龍帝。用事を済ませてここに来ましたら、ちょうど準備が整っていたようなので」

 

そう言うとユーグリットは冷たい視線で燃え上がる町を見渡す。

 

「しかし、因果なものです。弱点を無くしたかった吸血鬼が、邪龍となって祖国を襲っているとは。彼らは吸血鬼であることを誇りに感じながらも吸血鬼の生き方を嫌った。その結果がこれです」

 

「嫌うにしても、他の道を選べば良かったのにねー。楽に進化するなんて考えるからこうなるんだよ」

 

俺は二人の言葉に怒気を含ませながら言う。

 

「おまえらの言うことは分かる。さっきも言ったがな、吸血鬼の上役連中はろくでもない奴らばっかりだったよ。・・・・だがな、関係ない人達まで巻き込んでんじゃねぇよ!」

 

上役連中やそれに荷担した吸血鬼共は自分勝手な都合で、ギャスパーを、ヴァレリーを傷つけた。

やろうとしていたことだって、多くの人を傷つけるろくでもないことだった。

 

そんな奴らは滅んでしかるべきだ。

邪龍になったのも半分自業自得みたいなもんだ。

 

だからと言って、罪のない人達を巻き込んでいいことにはならない!

 

「俺はここでおまえらをぶちのめす! この馬鹿げた騒ぎも早急に終わらせてやる!」

 

赤いオーラを迸らせながら、俺は一歩前に出た。

 

ユーグリットは銀色のローブを脱ぐと、アセムに問う。

 

「アセムさま。よろしいですか?」

 

「うん、いいよ。僕もどうなるか見てみたいし。ベル、やってあげてよ」

 

「・・・・うん」

 

アセムに指示されたベルは魔法陣を展開。

 

俺の複製とユーグリットの背中に手を当てる。

 

赤いオーラと銀色のオーラが膨れ上がっていき、徐々に融合し始めて――――――

 

ユーグリットが赤龍帝の鎧を纏いやがった!?

 

鎧を纏ったユーグリットは鎧の感触を確かめるように手を握ったり開いたりしている。

 

ユーグリットの力が混ざったせいか、所々に銀色になっているが・・・・・。

 

アセムが言う。

 

「ふんふん、いい感じに定着したじゃん♪ 勇者くんの力はどんな感じかな?」

 

「素晴らしいですね。力が溢れてくるようです」

 

「それはそうだろうねー。なにせ、君の力に勇者くんの力も上乗せされてるんだし?」

 

マジかよ・・・・!?

 

ユーグリットに俺の力が上乗せ!?

 

ってことは、錬環勁気功まで使えるんじゃ・・・・。

 

だとしたらマズい!

こいつらのアスト・アーデ侵略が近づいてしまう!

 

内心、かなり焦る俺だが、そんな俺を見透かしたようにアセムが笑う。

 

「この複製体では、錬環勁気功は使えないよ。ベルがコピーできるのはその段階で解析対象が持ってる『力』と『能力』までだからね。錬環勁気功は能力じゃなくて『技』だ。複製の対象外だよ」

 

そ、そうか・・・・対象外なのか。

 

それを聞いて安心したぜ。

 

いや、それでもベルの能力は脅威だが・・・・。

一度、解析されれば複製せれてしまうからな。

 

「まぁ、仮に複製出来たとしても、あれは神層階で確立された神の技だ。そう簡単に使えるような技じゃない。・・・・だからこそ、それを会得した君は凄いと思うよ、本当」

 

お褒めに預り光栄ですってか・・・・。

 

いやはや、何とも面倒な・・・・。

 

こうなれば、この先の展開は自然と読めてくる。

 

アセムが掌を叩いた。

 

「さぁ、赤龍帝同士でやってみてよ。こんな機会は滅多にないよ~?」

 

やっぱ、そうくるよな。

 

ユーグリットもそれを受けて構える。

 

「ええ。私も存分にこの力を使ってみたいと思っていましたから。―――――いきますよ、兵藤一誠」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

ユーグリットの鎧から倍加の音声が鳴り渡り、奴のオーラが飛躍的に増大した!

ユーグリットが赤と銀のオーラを纏わせながら突っ込んでくる!

 

かなり早い!

 

『気をつけろ、相棒! 今のユーグリット・ルキフグスは奴の力に相棒の力が加わっている! それが事実だとすれば―――――』

 

ああ、分かってる!

 

単純計算で、今のユーグリットの方が強い!

 

だからって退けるかよ!

 

俺は鎧を天翼から格闘戦特化の天武に変えてユーグリットを迎え撃つ!

 

「でぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

俺とユーグリット、互いに突きだした拳が衝突!

 

俺達は拮抗するが、それはすぐに崩れた。

 

押し勝ったのは俺だ。

 

奴の鎧は通常の赤龍帝の鎧だ。

対して、俺はそこから更に進化させた鎧。

 

倍加の速度はこちらの方が圧倒的に速い。

 

それなら、奴が倍加してきても、力の差を埋めることが出来るはずだ。

 

そして、その予想は的中。

 

ユーグリットは押し負けたことを受けて、感嘆の声を漏らす。

 

「ふむ、これが禁手を進化させたあなただけの力ですか。今の私を押し返すとは・・・・・。ですが―――――」

 

奴がそこまで言うと、奴の周囲にスパークが飛び交い始めた。

鎧が赤と銀色の輝きを放ち、その形態を変え始める。

 

それを見て、俺は大きく眼を見開いた。

 

「それは・・・・・!?」

 

「ええ。あなたの力です。禁手第二階層、天武と言いましたか」

 

「っ!」

 

ちぃっ・・・・今日はやけにビックリドッキリイベントが多くないか!?

 

確かに俺の力を複製して作られた鎧を纏ってはいたが・・・・まさか、天武まで使えるなんて!

 

「では、もう一度拳をぶつけ合ってみましょう」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

今度は奴の鎧から加速された倍加の音声が発せられる!

 

本当に天武の性能を発揮しているのか!

 

再び、俺とユーグリットの拳がぶつかり、先程よりも強い衝突が生まれる。

余波で周囲の雪が吹き飛び、建物が崩壊するほどだ。

 

そして、今度は俺が押し負けた。

 

あまりの衝撃に吹き飛ばされ、後方の建物に突っ込んでしまう!

 

今ので右腕が痺れてしまった。

いや、恐らく骨に達してるな、この痛みは。

 

右腕を抑える俺にユーグリットが言う。

 

「姉のグレイフィアと比べても自分の力が劣ったと思ったことなどありません。そこにあなたの力が加えられれば、こうなることは必然でしょうね」

 

グレイフィアさんは魔王クラスと称される冥界最強の『女王』。

それと同等の悪魔に俺の力が加算された。

 

こいつはかなりヤバいな・・・・。

 

「天武が使えるってことは天撃も使えるんだろう?」

 

「そのようですね。ただ、あなたがつい先程まで使用していた鎧までは再現できないようですが」

 

天翼は再現できないのか?

 

近くで俺とユーグリットの戦いを見ていたベルが首を傾げながら言う。

 

「うん、そこまで解析出来なかった。だから、そこだけは省いた」

 

解析できなかった?

 

『天翼には私の力が混じってるからじゃないの?』

 

なるほど。

イグニスの力は解析出来なかったのか。

 

ま、それが分かったところで、ピンチなのは変わらないか。

 

俺は瓦礫を押し退けて立ち上がるとユーグリットを見据える。

 

まともにやり合えば、無駄に消耗するうえにこちらがやられる、か。

 

まいったね。

 

俺は鎧を天武から天翼に変えて、ユーグリットと向かい合う。

 

「鎧を変えましたか」

 

「今のままじゃ、どうやっても力負けするだろ。力で敵わないなら技で勝負だ」

 

そう言って俺はフェザービットを展開!

 

ユーグリットと共に上空へと飛翔する!

 

始まる空中戦!

 

「ドライグ、ビットの制御頼んだ!」

 

『任せろ!』

 

フェザービットを操り、あらゆる角度からの砲撃をユーグリット目掛けて放っていく。

 

逆にユーグリットが砲撃してきたら、シールドモードに変えてバリアーを張る。

 

天翼は攻防一体の力。

その仕様のおかげで天武の鎧を纏うユーグリットとギリギリのところで戦えていた。

 

しかし――――――

 

「なるほど。これは厄介です。ならば、これならどうでしょうか」

 

奴は天武の鎧を天撃に変えて全砲門を展開した!

 

六つの砲門から放たれる極大の砲撃が、フェザービットを呑み込み、次々に破壊していく!

 

俺の防御が崩れた瞬間、天武に切り換えたユーグリットが俺の懐に潜り込んできて――――――

 

俺の腹部に奴の拳がめり込んだ。

 

鎧が破壊され生身に衝撃が伝わる。

 

「ぐはっ・・・・!」

 

体をくの字に曲げながら、血を吐き出す俺。

 

凄まじい衝撃が俺の体を突き抜ける!

 

「クソッ・・・・!」

 

痛みを堪えながら、横凪ぎに腕を振るうが、ユーグリットはそれをかわして蹴りを入れてきた!

 

グレイフィアさんと同等と言うだけあって、流石に強い!

 

アセムと他の下僕との戦闘も考えて温存していたが、そんなことをしている場合じゃねぇ!

 

俺は即座に領域(ゾーン)に突入!

俺の動きが数段階上がる!

 

ユーグリットの拳を受け止め、全力で殴り返した!

 

「ここに来て動きが変わりましたね。まだ上の力があるのですか」

 

「随分余裕だな、この野郎!」

 

こっちは必死だってのによ!

 

「いえいえ、これでも動揺していますよ。なにせ、今の私とこうして渡り合える。普通に考えれば、私が圧倒できるはずなのに。流石は異世界で魔王を倒し、勇者と呼ばれるだけはあります」

 

こいつ、さっきから俺のことを誉めているのかもしれないけど・・・・・どうにも、その言葉にイラつく。

 

その言葉に何も感じられないからか・・・・?

 

そうして、格闘戦を繰り広げると、俺とユーグリットは互いの掌を合わせて押し合う形となった。

 

そこで、俺は天撃に変更!

全砲門をユーグリットに向ける!

 

「ゼロ距離だ! こいつでくたばりやがれっ!」

 

その言葉と共に砲門が鳴動し始め、オーラをチャージしていく!

 

この距離なら・・・・!

 

すると、ユーグリットも俺に合わせるように鎧を天撃に変えて砲門を展開。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!』

 

奴の鎧から加速された倍加の音声が響き渡る。

 

「ドラゴン・フル・ブラスター、でしたっけ?」

 

「てめぇ・・・・っ!」

 

ゼロ距離で放たれた二つの砲撃が空を赤と銀色に染めた―――――。

 

 

 

 

 

「ゲホッ・・・・ガハッ・・・・」

 

 

ユーグリットの砲撃に呑み込まれた俺は地上に落ちた。

 

鎧は完全に砕け散り、全身から血を吹き出している。

 

あの野郎、ほぼチャージなしでドラゴン・フル・ブラスターを呑み込むほどの攻撃を放ちやがった。

 

この威力・・・・俺の力が上乗せされているだけじゃない。

奴自身の力も強力なんだ。

 

倒れ伏す俺の前にユーグリットが降りてくる。

 

俺の攻撃も通っていたのか、奴の鎧もそれなりに損傷している・・・・が、明らかに俺よりダメージが少ない。

 

「どうやら勝負ありのようですね、兵藤一誠。私もダメージを受けてしまいましたが、あなた程ではない。そうですね・・・・あなたが倒れたら、私が赤龍帝を名乗りましょうか? 本物の赤龍帝を倒したのだから、それぐらいはいいでしょう」

 

その言葉に俺よりも先に反応する者がいた。

 

ドライグだ。

 

『・・・・貴様が赤龍帝を名乗るだと? 舐めるなよ、若僧が!』

 

激しい怒りが籠められた声。

 

その声音でドライグは俺を叱咤する。

 

『立て相棒! 確かにあの者が纏うのはおまえの複製かもしれん。だが、おまえではない! あれは偽物だ! あのような者が赤龍帝を・・・・二天龍を名乗るなど俺は許せん! 二天龍は俺とアルビオンだけでいいのだ!』

 

ドライグは怒りと共に自信の籠った声で叫ぶ!

 

『俺が見てきた相棒はこの程度では負けんっ! いいか! 俺と兵藤一誠こそが赤龍帝なりっ! 貴様ごときが赤龍帝を名乗るなど片腹痛い! 真の赤龍帝は俺達だぁぁぁぁぁ!』

 

――――っ!

 

そうだな。

そうだよな。

 

俺は・・・・俺達は今までどんな困難も乗り越えてきた!

激戦を潜り抜け、今日まで生き残ってきた!

 

俺は限界に近い体に鞭打って立ち上がる。

 

「分かるぜ、ドライグ! 俺とドライグ、二人揃っての赤龍帝だ! おまえが赤龍帝を名乗る? ふざけんじゃねぇ! ああ、こいつは負けられねぇ。 負けられねぇよ!あんなふざけたこと言われたらよ!」

 

『その通りだ! 貴様のような偽物に乳だの尻だのドラゴンSMなどで悩む俺達二天龍の辛さが理解できようはずもない! 俺はようやくアルビオンと分かり合えてきたのだ! 俺達以外の二天龍など、そんざいしていいはずがない!』

 

・・・・・格好よく吼えてるけどさ、前半の内容は違うような・・・・。

 

つーか、それここで叫ぶことなの!?

 

ツッコミ入れる俺だが――――――突然、俺の体に変化が訪れる。

 

傷だらけで限界に近かった俺の体から赤いオーラが吹き出してきた。

力が・・・・溢れてくる。

 

これは・・・・ドライグの方から流れ込んできたのか?

 

『今しがた思いの丈を吐き出した瞬間にアルビオンの声が聞こえてきたのだ。そして、こう言ってきた』

 

 

―――――我らは二体だけの二天龍。おまえの痛みは私の痛み、私の痛みはおまえの痛み。我らは一体ではない! お互いに苦難を乗り越えようぞ!

 

 

ドライグは涙声で続ける。

 

『俺は一体ではないのだ。もう乳も尻も怖くない』

 

なんか、最後に余計な言葉がついていたような・・・・。

 

ってか、おっぱいドラゴンによる辛さを二天龍で分かちあったの?

 

う、うーん・・・・ま、まぁ、それで二人の悩みが解決するなら・・・・。

 

ドライグが威厳のある言葉で言う。

 

『そういうわけだ。故に! 軽々しく天龍を名乗ろうとするあの者に敗れるなど、あってはならないのだ!』

 

そういうわけなのか・・・・・?

 

ま、あいつに負けられないってことだな!

 

意気込む俺達にユーグリットが言う。

 

「満身創痍の体で何をするつもりです? 仮に力が回復したとしても、私達の間には力の差がある。どうしようにもない」

 

「そこは気合いで乗り切る!」

 

とは言ったもののどうやって倒そうか。

 

ドライグさんが精神的に復活したけど・・・・・。

正直、スタミナが残り僅かだし、結構血を流してるんだよね。

 

・・・・今、流れてきた新たな力を試してみてもいいが、スタミナが全然足りない。

 

力が回復したとはいえ、この状況をひっくり返せるほどでもない、か。

 

俺が現状を打破する糸口を探っている時だった。

 

「――――そこまでにしようか」

 

この戦いを終わらせる声がこだました。

 

声の主はアセム。

 

未だアリスと戦闘中のヴィーカ以外の下僕を引き連れ、こちらに歩み寄っていた。

 

「アセムさま。そこまでとは?」

 

ユーグリットに問われたアセムは空を指差して笑った。

 

「いやぁ、このまま君達の戦いを見ているのも良いんだけどね? あんなのが来ちゃったら、赤龍帝対決にならないだろうし?」

 

そう言われて空を見上げると、空が闇に包まれようとしていた。

 

町が、城が、道が、建物が、全てが闇に染まっていく―――――。

 

この現象には見覚えがある!

 

さっき地下で見たばっかりだからな!

 

「ギャスパーか!?」

 

俺が周囲に目線を配ってそう口にすると、真横の空間が歪み始めた。

 

次第に空間から暗黒が出現してきて、形を成していく。

 

―――――あの闇の獣と化したギャスパーだった。

 

ギャスパーは俺の横に位置すると言う。

 

《イッセー先輩、加勢するよ》

 

「目覚めたのか?」

 

《まぁね。事情はアーシア先輩から聞いた。・・・・ゆっくりと寝てもいられないんだね》

 

怒気を孕んだ声音でそう低く発するギャスパー。

 

目が怪しく不気味に光ると―――――この一帯、城下町全体が、黒く、常闇に包まれていった。

 

・・・・な、なんつー規模だよ!?

 

この町全体を闇で支配できるのか!?

 

こりゃ、確かに神滅具クラスだわ!

 

町で暴れていた量産型の邪龍が闇の波に呑み込まれていく光景は圧倒的だった。

 

ギャスパーが邪眼を輝かせると、町中で暴れている多くの邪龍が一斉に停止してしまう。

そして、例外なく闇に呑まれていく。

 

しかも、炎まで消してる!

 

《ヴァレリーから得た力をこれ以上悪用されるのは我慢ならないからね》

 

「ああ、まったくだ」

 

ここでギャスパーが来てくれて、かなり助かった。

 

このギャスパーがいれば、ユーグリットに勝てる算段がかなり上がる。

 

「アハハ♪ いやー、これぞ本当のチートってね。あの男の娘ヴァンパイアくんがここまで凄いとはねぇ。世の中何があるかわかったもんじゃない。・・・・そこが良いんだけどね」

 

楽しげに笑うアセム。

 

「気をつけろ、ギャスパー。あいつが異世界の神だ」

 

《ということは、僕達の敵。ヴァレリーの敵なんだね》

 

ギャスパーの闇が伸びていきアセムを呑み込もうとする。

 

闇が眼前に迫ってもニコニコ顔のアセム。

笑みを浮かべたまま、ゆっくりと腕を横に薙いだ。

 

――――――その動作だけで、迫る闇をかき消した。

 

「僕は君に食べられる気はないよ」

 

《――――っ!》

 

あまりに簡単に闇を払われたことに絶句する俺とギャスパー。

 

霧使いのゲオルクですら手も足も出なかったというギャスパーの闇を・・・・・。

こいつは一体、どれだけの力を持っているんだ!?

 

「ユーグリット!」

 

こちらに向かってくる銀髪の男、リゼヴィム。

 

「リゼヴィムさま」

 

リゼヴィムはユーグリットの横に位置すると、笑いながら辺りを見渡す。

 

「そろそろ撤退じゃい。うひゃひゃひゃ、この闇はやべーな。邪龍にも襲いかかってやがるぜ。クロウ・クルワッハは?」

 

「彼はもうこの町にはいないと思いますよ」

 

「いやー、自由だねぇ、あの邪龍さんは。うひゃひゃひゃ」

 

この状況でも笑うリゼヴィム。

 

アセムがリゼヴィム問う。

 

「もういいのかい?」

 

「なんだか、うちの孫もしつこくてさ。おじいちゃん疲れちった☆」

 

「僕の方もそろそろ切り上げるつもりだったから丁度いいね。ヴィーカは先に帰ったみたいだし」

 

アセムがそう続けていると、こちらへヴァーリが光翼を煌めかせて飛び込んでくる。

 

「リゼヴィム! まだ終わってはいない!」

 

それを見てリゼヴィムがケラケラ笑った。

 

「ま、あんな感じなんだわ。町も大分壊したし、おいとましようや。ユーグリットくん、強制転移でよろしく♪」

 

ユーグリットが素早く転移魔法陣を展開させた。

 

そこへ俺とヴァーリ、ギャスパーが一気に詰め寄っていく!

 

「待て、リゼヴィム!」

 

「逃がすかよ、アセム! ユーグリット!」

 

《ヴァレリーの聖杯を返せ!》

 

三人から放たれる波動。

 

しかし、それはリゼヴィムが突きだした手に触れた瞬間に霧散していく。

 

神器無効化か!

 

リゼヴィムは指を左右に振ってチッチッチッと舐めたようにする。

 

「残念♪ その力が神器に関わっている以上、俺には効かないぜ?」

 

神器に関する力が効かない!

 

だったら――――――

 

「こいつならどうだ!」

 

俺はイグニスを召喚!

 

刀身に全てを焼き尽くす炎を纏わせて振るった!

 

こいつは神器の力じゃないから、リゼヴィムには通じる!

 

これで―――――

 

「おっと、危ない危ない♪」

 

イグニスの炎はリゼヴィム達に届く前にアセムが張った結界に遮られてしまった。

 

「うんうん、いい判断だよ。その剣って本当に強いからね。でも、完全に使いこなせていないみたいだし? 僕に届かせるなら、あの大きな怪獣を消し飛ばした技ぐらいで来ないと」

 

「んなもんここで使ったら、町が消し飛ぶわ!」

 

クソッ!

 

アセムはアセムで単純に強い!

流石はロスウォードの生みの親か!

 

転移の光に消えていく中で、リゼヴィムが最後に宣言する。

 

「あ、そうだ。俺達の名を教えとくぜ。――――『クリフォト』、いい名だろう? 『生命の樹セフィロト』の逆位置を示すものだ。セフィロトに冠する聖杯を悪用するってことで名付けてみた。悪の勢力って意味合いもあるよん♪ ちゃお☆」

 

リゼヴィム、ユーグリット、リリス。

そして、アセム達は転移の光に消えていった―――――。

 

最後の瞬間、アセムは俺に意味深な笑みを送ってきたが・・・・・。

 

ヴァーリが悔しそうに全身を怒りに震わせる。

 

「・・・・俺の夢はグレートレッドを倒すことだった。・・・・クソッ、俺の夢は奴と一緒なのか! 違う! 俺は・・・俺は・・・・あいつとは違う!」

 

ここまでの感情を吐き出すヴァーリを俺は初めて見た。

それだけ憎い相手なんだろう、あの男は。

 

俺も俺でアセム達の危険性を考えていた。

 

あいつは・・・・あいつは一体なんなんだ?

 

ユーグリットと戦っている間、奴は俺のことをずっと観察するように見ていた。

 

上手く言えないけど・・・・何かを待っているような・・・・そんな眼で。

 

「・・・・・あいつは一体、なんなんだ?」

 

小さく呟いた声が僅かにこだました。

 

 




アセムの下僕♂の能力は次章で!

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