ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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今回は長めです。


19話 動き出した悪意

クーデターに荷担した上役の吸血鬼達とマリウスが闇に呑まれ完全に消え失せた後。

部屋を覆っていた闇は晴れていき、残ったのは魔物と化したギャスパーだけだった。

 

先生は闇が完全に晴れたのを確認するとすぐにヴァレリーのもとに駆け寄り、小型魔法陣を展開して彼女の体を調べ始めた。

 

「・・・・なるほど。そういうことか」

 

先生が頷き、何か納得しているようだった。

 

「どうしたの?」

 

リアスが問う。

 

先生はヴァレリーを指して説明を始めた。

 

「この娘の聖杯、どうやら元々亜種のようだ。本来一つの聖杯が、この娘の中にもう一つ残ってるんだよ。つまり、ヴァレリーの聖杯は二つで一つとカウントされる特殊なもののようだ」

 

『――――――っ!?』

 

その先生の言葉に全員が驚いていた!

 

ヴァレリーの聖杯が亜種!?

しかも、二つで一つ!?

 

「神滅具でそんなのあるんですか?」

 

俺が先生に訊く。

 

いや、実際に目の前にあるようなんだけどさ・・・・。

以前聞いていた、神滅具は二つ以上存在しないってのがね・・・・・。

 

先生も顎に手を当てる。

 

「俺も驚いている。なにせ過去に前例がないからな。詳しく調べてみれば何か分かるかもしれんが・・・・。どうりで、神滅具の抜き出しにしちゃ、静かだと思ったぜ。俺の研究では神滅具の抜き出しはもっとド派手なものになると結論づいているからな。おそらく、半分しか抜き出されなかったため、比較的静かに済んだのだろう」

 

レイナが先生に訊く。

 

「では、抜き出された方を元に戻してあげれば――――」

 

「ああ、それで解決するはずだ。ヴァレリーはまだ死んだわけじゃないからな。・・・・やれやれ、本当に今世の神滅具所有者はわけがわからん」

 

息を吐く先生の言葉に皆が安堵していた。

 

なんでヴァレリーの聖杯が亜種だったのか、そんなものは俺には分からないけど・・・・・よかった。

 

ヴァレリーは死んでない。

 

それなら、ギャスパーと二人でお日さまの下を歩くこともできるし、ピクニックも行けるわけだ。

 

本当によかった。

 

「その聖杯をこちらへ。とりあえず、それを戻す」

 

先生がマリウスに抜き取られた聖杯をヴァレリーに戻す術式を始めた。

 

アリスがほっと胸を撫で下ろすと同時に呟いた。

 

「これで一件落着・・・・ってわけにはまだいかない、か・・・・」

 

「ああ。リゼヴィムが何か企んでいる分、急がないとな。アセムの野郎の言葉からして嫌な予感しかしねぇ」

 

とりあえず、ティアを外に置いてきているから対策にはなると思うけど。

 

急ぎたいところだけど、とりあえず先生の術式が終わるまではここで待機だ。

 

その間、俺は――――――

 

「でかくなったなぁ・・・・」

 

黒い獣と化したギャスパーに声をかけた。

 

ヴァレリーの復活作業を見守るギャスパーは低い声音で笑った。

 

《ふふふ、まぁね。いつも、僕はあなたを見上げる側だった》

 

「そりゃそうだ。普段のおまえはこんなもんだったしな」

 

と、俺は掌を腰の辺りで水平にして普段のギャスパーの背の丈を示す。

 

いや、あのちっこいギャスパーがなぁ・・・・。

まさか、俺を上から見下ろしてくるとは・・・・。

 

ま、まぁ、議論すべき点はそこじゃないけど・・・・。

 

リアスがギャスパーに問う。

 

「あなた、ギャスパーではないわね?」

 

《いいや。僕はギャスパーだよ。ただ、ギャスパーであり、ギャスパーでないとも言える。この少年が母体にいたときに宿ったのは、バロールの断片化された意識の一部さ》

 

それを聞いた先生が顔をひきつらせていた。

 

「バロール!? ケルト神話の魔神バロールか!?」

 

バロール・・・・バロールって確か、ギャスパーの停止の邪眼の名前にかかっているよな?

 

「先生、そのバロールってのとギャスパーの神器に関連があったりするんですか?」

 

「・・・・バロールは邪眼の持ち主として一番有名な神だ。クロウ・クルワッハを操った神としても有名だ。『停止世界の邪眼』はバロールの眼に倣って命名されたと聞く。・・・・だが、バロールが宿るなど信じられん。タスラムがおまえに反応しなかったのはレプリカだからか?」

 

《僕はバロールの意識の断片だからね。神性は既に失われて、魔の力だけが残った。本来のバロールはルー神によって滅ぼされたからね。僕はバロールであってバロールではない。『ギャスパー・ヴラディ』さ。でも、神器とは面白いものだよ。伝説のドラゴンから、魔物、そして魔神の力すら宿らせることができる。神器を作り出した「聖書の神」は本当に恐るべき存在だったんだろうね》

 

「なるほどな。全くだ」

 

う、うーん、先生は頷いているが・・・・その会話についていけている奴が何人いることか・・・・。

 

少なくとも俺は分からんかった・・・・。

 

(ね、ねぇ、どういうこと? 後で私に教えてよ)

 

(ごめん、ボクも・・・・)

 

などとアリスと美羽が耳打ちしてくるが・・・・俺に聞くない!

俺も教えてほしいわ!

 

そんな俺達を見て、ギャスパーが苦笑する。

 

《とりあえず、僕はギャスパー・ヴラディということで見てくれればいいさ》

 

「あら、そうなの」

 

「じゃあ、今まで通りギャスパーくんで」

 

き、切り替え早いなぁ、こいつら・・・・。

 

いや、俺も普通にギャスパーとして接してるけどさ。

 

だって、目の前のギャスパーは闇の獣になるまえに俺のこと『イッセー先輩』って呼んでたしな。

それだけで、こいつはギャスパーなんだなって思えた。

 

ま、少々、性格も変わっていて驚きはしたけど。

 

ギャスパーはヴァレリーの横に立つと横たわる彼女の頬を優しく撫でた。

 

《僕はなぜか、この聖杯の少女を救わないといけないと感じた。強く、強くね。それはもう一人の僕が感じている恩義とは別の感情だ。・・・・これがなんなのか、僕にもよくわからない。だけど、おそらく、聖杯の力に完全に目覚める前から、彼女はその力を無意識に使っていたのかもしれない。僕のもととなったバロールの意識の断片。それを聖杯の力で呼び出して・・・・僕を作った・・・・?》

 

「ギャスパーを生み出したのは幼い頃のヴァレリーだと言うのか? リアスがギャスパーを転生できたのも、神性を失ったバロールの断片だったからこそか・・・? 停止の邪眼がギャスパーに宿ったのはバロールの力に引き寄せられた・・・・? 模倣したものが本物に宿るなんざ、冗談のような出来事だ」

 

先生も一人でぶつぶつとこの結果にあれこれ考えているようだ。

 

ギャスパーが先生に言う。

 

《少なくともこの状態は神器とバロールの融合が生み出したものだ。禁手でもあり、そうでないとも言える。――――『禁夜と真闇(フォービトゥン・インヴェイド・) 翳の朔獣(バロール・ザ・ビースト)』とでも名付けようか》

 

「名付けるんだ」

 

「名付けるんだね」

 

それ言わないであげて!

 

俺の三形態もドライグと二人で決めてるんだからさ!

 

つーか、美羽とアリスが平常運転過ぎる!

 

先生がギャスパーの状態に目を向けてぼそりと呟く。

 

「・・・・これはもう準神滅具クラス・・・・いや、神具クラスとみていいレベルか。すでに『停止世界の邪眼』とは別の神器となっている。十四番目の神滅具か」

 

「マジっすか!?」

 

「まぁ、そのあたりはグリゴリに帰ってからになるがな」

 

と、ここで魔獣と化したギャスパーの闇が晴れていく。

 

《おっと、もう限界みたいだ。あとは皆に任せて、僕は少し眠らせてもらうよ》

 

闇が剥がれていき、いつものギャスパーに戻っていくなかで、もう一人の人格は大きな獣の口を笑ませながら話を続ける。

 

《僕は全てを闇に染める存在だ。けれど、あなた達には絶対に危害を加えないと約束する。もう一人の僕を通して、ずっと見ていたからね。――――――皆は僕の大事な仲間だから―――――》

 

それだけを伝え終わった後、闇は完全に消失して、ギャスパーはその場に倒れ、気絶してしまった。

 

いつもの姿となったギャスパーを抱き寄せるリアス。

目元を潤ませていた。

 

「・・・・その通りよ。あなたは私の眷属。とても大切な・・・・・ねぇ、ギャスパー」

 

ああ、ギャスパーは俺達の大事な仲間で、俺の大事な後輩だ。

全てを闇に染める存在だろうが、何だろうが、そこは変わらない。

 

先生の術式が終わり、目映い閃光を放ちなから、取り出された聖杯がヴァレリーの中に戻っていく。

 

「これで目を覚ますはずなんだが・・・」

 

先生はそう言うが・・・・・ヴァレリーは一向に目を覚ます気配がない。

 

先生が怪訝に思い、彼女の様子を調べる。

 

「・・・・息はある。だが、意識だけが戻らない・・・・? 何かまだ足りないのか?」

 

 

 

その時――――――

 

 

 

「あー、もしかしたら、これも戻さないと意識は戻らないかもねぇ」

 

第三者の声。

 

その者の登場にヴァーリが憤怒の形相を浮かべる。

 

「会いたかったぞ。リゼヴィム・リヴァン・ルシファーッ!」

 

俺達の前に姿を現したのは、ふざけた笑いと口調が特徴のあのおっさんだった。

 

俺達はリゼヴィムの側に浮かんでいるものを見て、目を見開いた。

 

それもそのはず。

 

――――――聖杯が奴の側にあるのだから。

 

リゼヴィムは口元を笑まして続ける。

 

「ヴァレリーちゃんが持つ亜種の聖杯は全部で三個だ。三個でワンセットっつー規格外の亜種神滅具なのよん。で、俺達が先に一個抜き出していてねぇ。マリウスくんは聖杯が複数あることさえ気づかなかったんだぜ? 自称聖杯研究者が聞いて呆れるぜ!」

 

なっ・・・・!?

聖杯が・・・・・三つ!?

しかも、リゼヴィムが既に一つ抜き出しているだと!?

 

ゲラゲラと笑うリゼヴィムは改めて軽快に挨拶し始める。

 

「んちゃ♪ うひょひょーぅ! リゼヴィムおじいちゃんだよー? じゃあ、ここから愉快なお遊戯タイムになりまーす! 良い子の皆はおじいちゃんのお話に注目してねー」

 

 

 

 

 

 

 

聖杯を側に浮かせる銀髪の中年男性、リゼヴィム。

そこ傍らにはオーフィスの分身体、リリス。

 

リゼヴィムは醜悪な笑みを浮かべてヴァーリに視線を送る。

 

とうのヴァーリは今までに見たことがない、怒りの表情を浮かべていた。

 

こいつがここまで怒っている姿は始めて見る。

 

ヴァーリの怒気を見て、リゼヴィムが哄笑をあげる。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! きゃわいい孫にそんな眼されちゃうとおじいちゃんイッちゃいそうになっちゃうよ!」

 

ヴァーリとリゼヴィムの関係。

 

それは単なる孫と祖父って関係じゃなさそうだ。

 

リゼヴィムはいったいヴァーリに何をしたんだ?

 

「先生、二人に一体何が・・・・?」

 

俺の問いに先生は険しい表情で言う。

 

「奴は自分の息子、つまりヴァーリの父親に『ヴァーリを迫害しろ』と命じたんだよ」

 

「っ! なんだよ、それ・・・・」

 

それを聞いたリゼヴィムが唇を尖らせた。

 

「聞き捨てならないにゃー。俺はバカ息子に『怖いならいじめろよ』って的確なアドバイスをしてあげただけなんだぜ? ま、魔王の血筋で白龍皇なんてもんが生まれたら、あのビビりなバカ息子の豆腐メンタルじゃ耐え切れんわな」

 

自分の息子の・・・・ヴァーリの卓越した才能に脅威を抱いたってのか?

 

リゼヴィムがせせら笑う。

 

「結局、ヴァーリきゅんはお父さんの仕打ちに耐えられずに家出しちゃったんだよねー。ま、アザゼルくんに育ててもらってよかったねぇ。アザゼルおじさんは面倒見がいいもんねー」

 

先生も憎々しげにリゼヴィムを睨んでいた。

 

ヴァーリがリゼヴィムに問う。

 

「・・・・あの男はどうした?」

 

「ん? あ、パパのことかなー? うひゃひゃひゃひゃ、俺が殺しちゃったよ! だって、ビビりなんだもん。見ててイラついちゃってさ☆ あんれー、ショックだったかな? パパ殺されて怒っちゃったー?」

 

「別に。俺も消そうとしていただけだからな。―――――ただ、俺は嬉しいよ」

 

ヴァーリの全身のオーラが戦意をもって膨らんだ。

 

「俺は貴様を一番殺したかったからな・・・・ッ。貴様は『明けの明星』と称された魔王ルシファーを名乗っていい存在ではない・・・・・!」

 

白いオーラが荒々しく燃え上がる。

 

リゼヴィムはヴァーリの強烈な殺意を受けてただ嬉しそうに笑う。

 

「いいじゃん。チョーいい目付きだ。いい育て方してんよ、アザゼルちん。ぶっちゃけ、俺の愚息よりはかなりマシじゃん。うんうん、あのメソメソ泣いてた孫がこんなにいい殺意を向ける青年にビフォーアフターなんて感動するじゃんかよ!」

 

今にも飛び出しそうなヴァーリを手で制した先生は改めてリゼヴィムに問う。

 

「・・・・リゼヴィム。聖杯を使って何をするつもりだ? 邪龍を従え、異世界の神と手を組んでまで何を企んでいる?」

 

アセムのことはこの祭儀場に来るまでに皆に話しておいた。

当然、アセムの存在に皆も驚愕するなんてもんじゃなかった。

何て言ってもあのロスウォードを創造した神の一人なんだからな。

 

そして、アセムがリゼヴィムに協力していることも。

 

・・・・ただ、こいつらが一体何をしようとしているのかまではわからない。

 

ろくでもないことは確かだが・・・・・。

 

新生『禍の団』とアセムの本当の目的とは――――――

 

リゼヴィムが聖杯に視線を向けながら高々と言う。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! その様子じゃ、アセムのお坊ちゃんには会ったのかな? でも、俺達の目的までは聞いていないようだねー。いいよいいよ、分かってんじゃん。やっぱり、こういうのはギャラリーが多いときにパーッと公開する方がいいよね!」

 

リゼヴィムは人差し指を立てると、一から解説するように話始める。

 

「初めて『異世界』の存在が明らかになったのは悪神ロキが日本に攻め込んだ時だ。ま、あんだけ盛大に叫んでりゃ、情報統制しても漏れるわな。で、そこのおっぱいドラゴンくんが『異世界』から帰還し、そこの黒髪のお嬢ちゃんを連れて帰って来ていたことが判明した」

 

ああ、そこは分かってたよ。

 

どんなに厳しく情報を制限したもしても、あれだけ大々的に言われてしまえば俺と美羽の存在はバレる。

 

今のところ、それ関係で問題が生じてこなかったのは一重に先生やサーゼクスさん達が俺達に手出しできないようにしてくれていたからだ。

 

リゼヴィムは更に続ける。

 

「この『世界』に伝わるあらゆる神話体系とは関連を持たない未知の世界。聖書でもねぇ、北欧神話でもねぇ、インド神話でもねぇ、日本神話でもねぇ、全く知らない世界だ。アスト・アーデだっけか? その『異世界』の存在ってのは異形の世界の研究者の間じゃ、こいつはかなりの衝撃だったのさ」

 

似たようなことを先生やドライグからも聞いていた。

 

下手すれば美羽に危害が及ぶ。

だからこそ、俺は俺の過去と美羽の素性を隠してきたわけだが。

 

リゼヴィムはうんうん頷きながら言う。

 

「でな、俺は思ったわけよ。―――――なら、攻め込んでみようぜ? ってな! 俺の邪龍軍団を使ってな!」

 

なっ!?

攻め込む、だと!?

 

いや、でも待てよ・・・・・。

 

俺は衝撃を受けながらも、頭を切り替えてリゼヴィムに問う。

 

「あんた正気か? アセムと関わってるってことは次元の渦なんてものも知ってるんだろ? だが、あれは偶発的に生まれるのを待つか、美羽のように向こう側に繋がりを持つ何らかの因子が必要なはずだ。仮に次元の渦に巻き込まれて、あんたが向こうに行ったとしても攻め込めるほどの戦力は連れていけないはずだ」

 

アスト・アーデにも神はいる。

ロスウォードとの戦いで数を減らしたとは言え、俺の師匠みたいにむちゃくちゃ強い神はまだまだ残ってる。

 

仮にどちらかの方法で行けるようになったとしても、師匠達を倒せるような戦力は連れていけないだろう。

 

・・・・神層階にまで攻め込むつもりがないなら、分からないけどな。

 

リゼヴィムは頬をかきながら、頷く。

 

「ま、それもそうだ。一度、そこのお嬢ちゃんを拐ってみてもいいかなーなんて考えたんだけどね。アセムくん曰く、おっぱいドラゴンくんみたいに特殊な技が使えねーと一緒に行けないらしいんだわ。そうなると向こうの世界に邪龍共を連れて行けないじゃん? かといって渦が起こるのを待つ? そんなもんかったりーわ。いやー、まいったね」

 

リゼヴィムはわざとらしくため息をつくが、再び醜悪な笑みを浮かべた。

 

「そこでよ。俺は別のルートで行くことにしたのよ。でもでも、それも今のところ叶わないんだわ。なぜなら、こちらの『世界』を守護するとんでもないドラゴンがいる。そう、グレートレッドさんです」

 

その言葉に先生が得心して叫ぶ。

 

「そうか、おまえはグレートレッドを!?」

 

先生の反応にリゼヴィムは嬉しそうに満面の笑みを作り出した。

 

「イェス! 流石はアザゼルくん! 察しがいいね! 俺はグレートレッドを倒して、あっちの世界にいく予定でーす!」

 

次元を守護するグレートレッドを除くことが出来れば、向こうの世界にも行ける・・・・?

 

でも、そんなことが可能なのか!?

あのグレートレッドを倒すなんてことが!?

 

「ま、グレートレッドを倒すなんざ俺には無理だわ。だって、めちゃめちゃ強いじゃん? オーフィスでもけしかけてぶっ倒そうにも曹操のクソバカ小僧が龍神ちゃんを半分にしちゃって、それも無理。じゃあ、分けたもん同士をくっつけりゃいいかと言われるとそう上手くならんよな?」

 

リゼヴィムはリリスの頭をポンポン撫でる。

 

リリスはずっと無表情のままで、動く気配もない。

 

「んじゃ、グレートレッドを倒せるのは誰よ? 復活させた邪龍共? 無理無理。なら、サマエル奪っちゃう? それも望み薄だわな。サマエル、フルボッコにされたみたいだしー? つーか、こっちの世界じゃ、どこの神様でも倒せんだろ、あれ。となると、一つしかねぇ。――――黙示録の一節を再現しようぜってよ?」

 

黙示録の一節を・・・・・再現?

 

今一ピンとこない話だが・・・・・唯一先生だけが、顔色を青くさせていた。

 

「・・・・『666(トライヘキサ)』・・・・!」

 

聞き覚えのない言葉を出す先生。

 

リゼヴィムはまたまた嬉しそうに先生の答えに満足していた。

 

「正解だ、アザゼルくん。座布団が欲しいか? それともアメリカ旅行? いいねぇ、回答要員って素晴らしいよね。うんうん、話しがいがあるよ。そうさ、黙示録に記された伝説の生物は赤龍神帝グレートレッドだけじゃねぇよな? ―――――『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)666(トライヘキサ)。あいつならグレートレッドといい勝負ができるとは思わないかね?」

 

俺が先生に問う。

 

「そのトライヘキサってのは?」

 

666(スリーシックス)って数字が不吉で有名なのは知っているな? それの大元になった化け物がそれさ。黙示録じゃ、グレートレッドとセットで語られている」

 

グレートレッド級のモンスターってことかよ!

 

黙示録は俺も少しだけ読んだことがあるが、確かにグレートレッドの横にデカい不気味なモンスターがいた。

 

あれがトライヘキサか!

 

先生が続けて問う。

 

「あれは存在の可能性があるだけでどこにいるのかも各勢力で議論中のはずだ!」

 

「んーふふふ、それがねぇ。いたのよ。聖杯を使って生命の理に潜った結果、俺達は見つけちゃったのよねー。だがねぇ、どうにも先にトライヘキサくんを見つけて、かたーく封印した方がいたんだなぁ、これが。誰だと思う?」

 

リゼヴィムは聖杯に投げキッスしながら言った。

 

「―――――聖書の神さまさ。あんの神さまはすごいね。俺らより先にトライヘキサ見つけて何千という神ですら死ぬ禁止級の封印術式で封じてたんだからよ。聖書の神さまの死亡原因ってこっちかもねぇ。あんなのをした後に三大勢力で戦争すりゃ、普通死ぬわな」

 

聖書の神さまが死んだのはトライヘキサを尋常じゃないレベルの封印を施したから?

 

先生がヴァレリーが横たわっている寝台の辺りに視線を送る。

 

「マリウスが抜き出しに使ったあの術式はトライヘキサの封印術式から再現したのか」

 

「おおさ! 現在、必死こいて封印をひとつひとつ解いてる途中だっぜ! 結構大変なのよ、これが。聖槍あればもうちょい楽に解けるんだろうけどよ。まぁ、聖杯と聖十字架の協力もあって事は順調に進行中ッスわ」

 

「なんてことを・・・・!」

 

先生が激しく舌打ちする。

 

マジでなんてことをしやがるんだ、こいつは・・・・!

 

グレートレッドとそれに匹敵する存在が争うことになればどれだけの被害が出ると思ってんだよ!?

 

リゼヴィムは宣言していく。

 

「つーことで! 俺達はトライヘキサくんを復活させて、グレートレッドをぶっ倒したら、トライヘキサくんと邪龍軍団を連れて異世界に行ってきまーす! これだけの戦力なら、向こうの人間も魔族も神々も蹂躙できるっしょ!」

 

嫌な笑いをあげるリゼヴィム。

 

アリスと美羽が叫ぶ。

 

「ふざけないで! あんたのそんなお子様思想で私達の故郷を無茶苦茶にしようっていうの!?」

 

「ようやく平和になれたのに、なんでそんなことするの!?」

 

アスト・アーデは長かった争いが終わって、ようやく平和になろうとしてる。

それが、こいつのくだらねぇ考えで無茶苦茶にされようって言うんだ。

 

俺だって我慢できない!

 

「おまえもそれに協力しているアセムもとんだクソ野郎だ! 絶対にさせねぇ! 俺が・・・・俺達がそのくだらねぇ企みを潰してやる! 今ここでな!」

 

させねぇ!

アスト・アーデにこいつらを行かせるわけにはいかねぇ!

ようやく取り戻した仲間の、皆をやらせるわけにはいかねぇんだ!

 

俺は掌をリゼヴィムに向けると気を溜めると同時に倍加をスタート!

 

『Accel Booster!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

突き出した右腕が赤いオーラを放ち、スパークが舞う!

 

容赦はしねぇ!

 

こいつは・・・・ここでぶっ潰す!

 

「待て、イッセー! そいつの能力は―――――」

 

先生が俺を制止させようとするが―――――極太の赤い光の奔流が放たれる!

 

本気のアグニだ!

 

消し飛びやがれっ!

 

放たれたアグニが奴を呑み込んで――――――霧散した。

 

「っ!? なん、だと・・・・!?」

 

アグニが消えた?

 

リゼヴィムに当たった瞬間、あれだけの力を籠めたアグニが消された・・・・?

 

今の感触は・・・・相殺されたとかそんな感じではなくて・・・・・。

 

驚愕する俺に先生が言う。

 

「いいか、イッセー。そいつの能力は悪魔の中で唯一の異能―――――『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』だ。神器によるいかなる特性、神器によって底上げされた力は全て奴には効かない。おまえの赤龍帝の力も、木場の聖魔剣の力も神器である以上は、その男に一切ダメージを与えられん・・・・!」

 

『―――――っ!?』

 

先生の言葉にヴァーリ以外の全員が驚愕した。

 

神器の能力が無効化される・・・・!?

そんなのアリか!?

 

ヴァーリはこのことを知っていたのか?

 

「だったら、これならどう!」

 

美羽が手元に七色の光を集束させていく。

 

スター・ダスト・ブレイカー。

 

現在、美羽が放てる最強の一撃。

 

この技は神器を使っているわけじゃない。

神器を使った攻撃が効かないなら、そう考えての攻撃だろう。

 

その考えは恐らく間違っていない。

 

しかし――――――放たれた七色の光はリゼヴィムが魔力を纏わせた手を横に凪いで弾かれた。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 残念でしたー! これでも魔王の息子だから、神器無効化がなくても結構強いんだよね!」

 

「っ!」

 

流石の美羽もこれには歯噛みしていた。

 

見れば、ヴァーリも心底悔しそうな表情だった。

俺の攻撃を見て、自分の力も効かないと判断したのだろう。

 

俺達の反応にリゼヴィムはいっそう笑みを深める。

 

「サーゼクスくんの眷属がなぜ非神器所有者で構成されてるか知ってるかな? ま、色々と理由はあるがね、その中でも一番大きな意図は俺と直接対決した時に役に立たねーからなんだよねー。おかげでおいそれとこの聖杯にも触れられないんだけどさ!」

 

そう言うなりリゼヴィムは手元の空間を歪ませて、聖杯を亜空間に収納した。

 

・・・・確かに不思議だと思ってたんだ。

あれだけ強力な力を持つサーゼクスさんの眷属には神器所有者が誰一人いなかったことに。

 

でも、理由を聞けば納得だ。

 

こいつを相手取るには神器を使わずに戦える者かつ、それだけの力量を持つ者じゃないと難しい。

 

クソみたいな野郎だが、腐っても超越者ってことかよ!

 

聖杯の奪取に苦慮する俺達を見てリゼヴィムは愉快そうに笑い、うんうんと頷いた。

 

「ま、とりあえずこのへんにして、見せたいものがあるのよ」

 

そう言ってリゼヴィムが指をならすと、この祭儀場の宙に立体映像が出現した。

 

雪が降り積もる町の光景だった。

 

この光景に見覚えがある。

 

「カーミラの城下町?」

 

リアスがそう口にする。

 

リゼヴィムが大いに頷いた。

 

「正解! カーミラの城下町でございます! さぁさぁ、ご注目! これから起こるのは楽しい楽しいライブですぞ~。俺が今から指を鳴らすとね―――――」

 

などと口にしながら、再び指を鳴らすリゼヴィム。

 

・・・・が何も起こらない。

映像に流れるのはただ静かな雪の積もる町だ。

 

リゼヴィム本人も何も起こらないためか、首を傾げる。

 

「あんれー? おっかしいなぁ。ぼちぼちのはずなんだけど・・・・あっ、来たね! うん、上手くいったじゃん!」

 

目を凝らすと、雪の風景に黒くて大きなものなひとつ、またひとつと飛び回り始めたのが確認できた。

 

それは黒いドラゴンだった。

複数の黒いドラゴンがカーミラの城下町に出現したんだ。

 

「はい! 謎の黒いドラゴンが大量に出現しましたね! ここからあの子達が大暴れしちゃいます! おっ、さっそく火を噴いた! いいねぇ!」

 

その黒いドラゴンはカーミラの町を破壊、次々に火を噴き町を焼き払い始めていた!

 

先生が問い詰める。

 

「どういうことだ、リゼヴィム!」

 

「カーミラにもな、ツェペシュの弱点のない吸血鬼になりたい!ってやつがいたのよ。そいつらには裏でカーミラの情報を流すように契約しておいて、体を強化してあけたんだわ。特典つきでね!」

 

「特典だと?」

 

「イェス! 彼らは改造されまくりでな、俺が指を鳴らすとね――――――量産型の邪龍に変身しちゃうのよ! どう? すごいっしょ!」

 

じゃあ、つまり・・・・あそこで暴れてる黒いドラゴンって・・・・。

 

「ここまで言えば分かりますね! そう! あれは伝統と血を重んじる吸血鬼くん達の成れの果てですっ! ほら、吸血鬼が起こした問題は吸血鬼が解決って言うじゃん? だから、吸血鬼の町壊すのも吸血鬼が良いかなーって。まぁ、『元』吸血鬼なんですけど!」

 

「っ! アセムが言ってやがったのはこういうことかよ!」

 

「アセムお坊ちゃんも楽しみにしてたよ。今頃、クッキーでも食べながら観戦してるんじゃないかな?」

 

やられた・・・!

まさか、こんな事態になるなんて!

 

カーミラの戦闘要員はほとんどクーデターの鎮圧に出ているそうだから、目立った戦力なんて残ってないんじゃないのか!?

 

このままじゃ、あの町は―――――

 

その時だった。

 

嫌な気配をツェペシュの町から感じ取れた。

 

「おいおい。まさかと思うが、その特典・・・・こっちでもやってるんじゃないだろうな!?」

 

俺が脂汗をかきながらそう言うとリゼヴィムはほくそ笑む。

 

「おー、さっすが勇者赤龍帝くんだ。そうそう、こっちでも豪華特典は発動するんだよ。言うの忘れてたわ。ごめんねー」

 

響いてくる轟音、地下まで聞こえてくる悲鳴。

 

なんてこった!

やっぱり、クーデター派の吸血鬼も邪龍と化して暴れてるのかよ!

 

リゼヴィムがもうひとつの立体映像を展開させる。

そこに映し出されたのはカーミラの城下町同様、炎上するツェペシュの町だった。

 

ティアがいるとは言え、この規模と数は・・・・!

 

「なんということだ・・・・!」

 

怒りに体を震わせる先生。

 

「おーおー、派手にやってるねー。こりゃ、壊滅も時間の問題だ。ま、映像だけじゃあれなんで、サービスだ。直接見に行こうぜっ!」

 

リゼヴィムが指を鳴らす。

 

すると、俺達の足元に巨大な魔法陣が展開された。

 

そして、魔法陣は目映い輝きを発して弾けた―――――。

 

 


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