ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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三連投稿アターック(笑)


9話 業

「僕があっちの神で、ロスウォードを創ったまでは理解しているね?」

 

アセムの問いに俺は小さく頷きを返す。

 

「・・・・創った理由までは理解できてないけどな。なんで自分達の世界を滅ぼすようなやつを創った? そんなことをして何の意味がある?」

 

ロスウォードを創った神々はあいつの手で殺されたと師匠から聞かされた。

 

こいつは生きていたようだが、それでも殺されかけたと言っていた。

 

そんな制御の利かないやつを創って、しかも、ロスウォードに永遠に破壊活動を行わせるような呪いをかけてまで、こいつらは何をしようとしたのか。

 

アセムは白い息を吐く。

 

「んー、まぁ、アレを創ったのは他の神が話を持ちかけてきたからなんだけどね。なんでもアスト・アーデの世界を、神層階を自分達のものにしたいとかでさ。欲が深い夢だよねぇ。・・・・いや、神だからこそなのかな? で、僕はその神々に力を貸してあげたってわけ。制御できなかったのは単なるミスかな。あそこまでの力を持ったモノが出来るとは思わなくてさー」

 

「・・・・なんでその神々に力を貸したんだ?」

 

「え? いや、楽しそうだったから」

 

「・・・・は?」

 

あっさりと返された言葉の意味を理解できなかった俺は聞き返してしまう。

 

楽しそうだったから・・・・・だと?

 

アセムはニンマリと笑みを浮かべる。

 

「だって、他人が争うところを見るとワクワクするでしょ? 僕はね、自分で戦うよりもそっちの方が好きなんだ。世界を一つ、人も魔族も神も巻き込んでの戦いって聞いただけで面白そうだと思わない?」

 

「てめぇ・・・・・!」

 

「アハハ♪ 怒った? まーまー、もう過ぎた話だし良いじゃん。で、話の続きだけどさ。僕はロスウォードに殺されかけた後、神層階から逃げるために下界へ降りたんだ。あのままじゃ、生きていても君のところの師匠あたりに拘束されていたかもだしね」

 

だろうな。

 

それだけのことをしでかしたんだ。

たとえ消滅させられなくても、他の神から拘束されるのは当然だ。

ロキですら、北欧でオーディンの爺さんやら他の神の手で拘束されているんだ。

 

しかし、それでか・・・・。

 

唯一生き残ったこいつは死にかけギリギリの体で下界へ降りた。

力の弱まった状態で神層階を出たのなら、師匠達にも感知されなかったは分かる。

 

「下界に降りたのはいいものの、全身痛いし、いつ消滅してもおかしくなかったんだよね。でもね、そこに現れたのさ。まさに九死に一生を得たってやつだったのかな?」

 

「現れた・・・・? 何が?」

 

誰かがこの野郎を助けたってのか?

死にかけのところを保護して治療した、とか?

 

しかし、こんな俺の考えは全く外れたもので――――

 

アセムは自身を指差しながら言った。

 

「この体の持ち主だよ。この体はね、君と同じくこの世界からあっちに飛ばされた人間の体なのさ」

 

「なっ!?」

 

俺と同じ・・・・?

 

人間の体・・・・?

 

待てよ・・・・それじゃあ、こいつは・・・・・

 

「おまえ、その子の体を乗っ取ったってのか!?」

 

「そういうこと♪ 代償に力を大きく失ったけどね。それでも、こうして生き延びることができた。いやー、目の前に現れてくれて助かったよ。これぞ運命! なーんてね」

 

なんてことしやがる!

こいつの体から人間の気配がするのはそのためか!

 

アセムは楽しげに語り出した。

 

「そこで僕は初めて異世界の存在に気づいたんだよ。この体のおかげで僕はこれまで何度もこちらの世界に来たりしていたからね。時間のズレはどうしようもなかったけど」

 

それからのアセムはこちらの世界とあちらの世界を研究し出したという。

自分自身を実験台に何度も行き来を繰り返す。

 

長い時の中で限界を迎えそうになった体は、体の構造を定期的に入れ換えて持たせていたとも。

 

そんなことを一人でしていた、ある時。

 

俺がアスト・アーデに飛ばされた。

 

「僕は君のような存在を待っていたんだよ。僕自身を使っての実験はしてたけど、この体の子のように自然と飛ばされた人間は現れなかったからねぇ」

 

「俺のことを待っていたと?」

 

「そーいうこと。君はあちらに飛ばされた時から僕が観察していたんだよ。君が元の世界に戻ろうとした時、『剣聖』が方法を見つけたでしょ? あれは僕が仕向けたことなんだよ。僕と同じ方法で君が本当に元の世界に戻れるのか知りたくてね」

 

なるほど・・・・どうりで都合良く見つかったわけだ。

 

そんなあるかないか分からない方法が、俺が飛ばされてから割りと早くに見つかっていたしな。

 

こいつが仕向けていたというのは事実なのだろう。

 

しかし、とアセムは続ける。

 

「まさか君が神層階に行くとは思わなかったかなー。あんな怖い目にあったんだから、すぐに戻ると思ってたんだけどね」

 

「仲間を放って逃げるわけねぇだろ」

 

「そうそう、それそれ。だから、僕は君に別の興味を抱いた。異世界とかそんなのは関係なしで、君個人に。この先、君を驚異に曝したときどうなるか・・・・。気になっているんでしょ? ロキがどうやって異世界について知ったか。ロスウォードがどうやって君のような存在を知ったか」

 

「・・・・・この状況で考えられるのは一つしかないだろ。どうせ、おまえが裏で糸を引いていたんだろ?」

 

俺がそう答えるとアセムは両手を勢い良く上にあげて、頭の上で丸を描いた。

 

「ピンポーン! 正解! ご褒美は何がいい? お菓子? アメならあるよ? サイダー味」

 

「・・・・じゃあ、くれ」

 

「あれ? 貰っちゃうんだ? 意外だね~」

 

「ああ、ちょっとイライラしてきたからな。糖分とらないと、このままおまえを殴ってしまいそうだ」

 

「怖い怖い♪ いいよー。これ、日本の百均で買ったただのアメだし。何も仕掛けてないから。毒盛ったりそんなつまらないことはしてないよ」

 

アセムはパーカーのポケットから袋を取り出すと、その中からアメを一つ取り出して俺に投げ渡してくる。

 

受け取った俺はそれをそれを少し眺めた後、口に放り込んだ。

 

うん、普通のアメだ。

普通にうまい。

シュワってしてる。

 

「日本のお菓子って美味しいよね」

 

アセムもそう言うとアメを一つ口へと運び、口の中で転がし始める。

 

とりあえず、今回、こいつと話して今まで謎だったものが大体繋がったか。

 

こっちの世界に戻るための資料が都合良く見つかった件、ロキが異世界のことを知っていた件、それからロスウォードの件。

 

まだ、少し理解できないところもあるけど、これまでのことが明らかになってきた。

 

つーか、こうもいきなり、色々話されると頭が混乱しそうになる。

アメもらっといて良かったかも。

 

無言でアメを舐め続けて数分。

 

全てを溶かしきったところで、俺は会話を再開させる。

 

「納得できないところは多いが、過去のことはこの際置いておく。・・・・・なんで、出てきた? 今までの話だと、おまえは裏でこっそり動いていたんだろう?」

 

「まぁね。僕は表立って動くことはあまり好きじゃないし。ただ、リゼ爺が面白そうなことをするって知ってね。僕もその話に乗ったってわけ。それと、僕は良い機会だと思ったんだ。君とは少しおしゃべりしたかったしね」

 

面白そうなこと、ね。

ろくでもないことは確かだ。

 

リゼヴィムにアセム。

とんでもない奴らが組んだものだ。

二人とも悪意の塊みたいなもんじゃないか。

 

この先、どんな被害が出るか分からねぇぞ・・・・!

 

俺は内側で発する危険信号を抑えながら、アセムに問う。

 

「で? 俺に会いたかったんだろ? 実際に会ってどう思った?」

 

こいつは俺に対して深い興味を持っているようだ。

異世界に飛ばされた存在としても、それを抜いた俺個人としても。

 

まぁ、男に興味を持たれるなんざ、俺としてはまっぴらごめんだけどな。

 

アセムはポケットから別の袋を取り出すと、そこからクッキーを何枚か摘まんで口に運ぶ。

 

モグモグと口を動かしながら俺の問いに答えた。

 

「やっぱり面白いと思うよ、君。ロスウォードが何を君に渡したかは知らないけど、アレから信頼されるなんてね。大したもんだよ。シリウスくんからも娘さんを託されたみたいだし? 今は美羽ちゃんだっけ? というか、まさかシリウスくんが負けるとは思わなかったな~。あの段階で君が勝てるとは思ってなかったし」

 

あの段階で、か。

 

まぁ、確かにそうだよな。

俺もイグニスのあの空間で再会するまではわからなかったけど・・・・・。

 

俺もドライグもシリウスの力を測り間違えていた。

 

俺とシリウスがまともにやり合ったのは最後のあの時だけ。

あの時、シリウスは魔王クラスだった。

 

だが、シリウスは俺と戦う前に自身の力の半分をイグニスの中に封じ込めていた。

 

つまり、あいつの本当の力は―――――

 

いや、今ここでその話をしても仕方がないか。

 

あいつはそれだけの覚悟で俺に後を託してくれた。

今はそれでいい。

 

すると、アセムは思い出したかのように相槌を打った。

 

「あ、そうだった。君には一つ確認することがあったんだよ」

 

・・・・・確認?

 

「これから僕達は色々とぶつかるだろうからね。その前に君をチェックしときたいんだ。自分のことを理解しているかをね」

 

「・・・・・?」

 

怪訝に思う俺だが、アセムはこちらを指差しながら言う。

 

「君はこれから僕やリゼ爺と正義を胸に向かってくるだろうけどね。君は自分の罪を理解しているのかな? 自分の犯してきた罪を理解しないまま正義を語る奴ほどバカな奴はいないからね。だから、今からちょっとしたテストをさせてもらうよ」

 

そう言うとアセムは指をパチンッと弾いた。

 

その瞬間―――――――世界が黒く染まった。

 

 

 

 

 

 

なんだ、これ・・・・。

 

あいつが指を鳴らしたと思ったら、急に空が、地面が真っ黒に・・・・・。

広場にあった噴水や街灯、周囲の木々も消え、完全な黒い世界。

それが俺の視界に広がっていた。

 

目の前にいたはずのアセムの姿も見えない。

 

これは結界・・・・か?

 

だとしたら、よくあんな一瞬で仕掛けることが出来たな。

広場にもそれらしい雰囲気はなかったし、俺もあいつのオーラ、行動に注意を払っていたんだけど・・・・。

 

にしても、なんなんだこいつは?

あいつはテストと言っていたけど、その意味が分からない。

 

俺の何をテストしようってんだよ。

 

そんな疑問が次々と出てくるなか、突然、ヌルリとしたものが俺の肌に触れた。

 

風だ。

 

生暖かい、気味の悪い風。

しかも、血生臭い。

気分が悪くなるほど、濃い血の臭いがその風には含まれていた。

 

 

ガシャン

 

 

俺がその場から動こうとすると何かが崩れるような音が足元から聞こえてきた。

 

視線を下に向けると――――――屍があった。

 

俺が立っていたのは数多くの屍が転がる戦場跡のような場所だった。

いや、戦場跡なのだろう。

 

壊れた鎧や剣。

大きく抉れ、赤く染まった地面。

 

そして、血塗れの兵士達。

その一人一人に俺は見覚えがあった。

 

いつの間にか赤黒く染まっていた空から声が降ってくる。

 

『そこに倒れる人達が誰だか分かるかな? そう、それはね――――――君が殺してきた人達だよ』

 

俺は周囲をぐるりと見渡してみる。

 

あの人も、この人も全て。

 

――――――俺が戦場で命を絶った人達。

 

アセムの声が四方から響いてきた。

 

『君は誰よりも前に立って戦い、その姿から多くの人に勇者と呼ばれた』

 

『君は紛れもない勇者だよ』

 

『でもね、戦場で名をあげた人は人間だろうと魔族だろうと殺人者だよ』

 

『そう、君は誰よりも数多くの魔族を殺してきたんだ』

 

『君を勇者と称える一方、恨みを持つ人もいっぱいいるとは思わない?』

 

・・・・・俺はそれを否定しなかった。

 

なぜなら、それは紛れもない事実だから。

 

皆は俺を戦争を終わらせたと、誰よりも前で戦ったと、魔王を倒した勇者だと称えてくれる。

それも事実。

 

だけど、俺が人を殺してきたというのも変わらない事実だ。

 

魔族の長老、ウルムさんは俺を認めている者もいると言ってくれた。

それも本当なのだろう。

 

それでも、俺に愛する人を奪われた人はいるわけで。

 

ガシャン、ガシャンと誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

そちらを向くと倒れていた兵士が死に体を引きずって、こちらへ手を伸ばしてきていた。

 

 

《・・・・死にたくない》

 

 

その兵士が涙を流しながら、そう呟く。

 

震えた、本当に小さな声だ。

それでも、俺の耳にはしっかり伝わってくる。

 

それを切っ掛けに倒れていた他の兵士もよろよろと弱々しく立ち上がり、苦悶の声と共に呟き始めた。

 

《・・・・父さん・・・・母さん》

 

《・・・・痛い・・・・怖い・・・・》

 

《嫌だ・・・・まだ、死にたく・・・・》

 

《家に・・・・帰り・・・・たい》

 

全員が家族の名前を、大切な人の名前を呼び、血塗れの手を俺に伸ばし、すがってきた。

 

ある者は泣き、ある者は叫び、ある者は願う。

 

その声が想いが、全て俺に向けられていた。

一般人でなくとも気が狂いそうになる光景が眼前で広がっている。

 

今の俺の心情を察したのか、アセムがクスクスと笑う。

 

『分かるかな? これが君の罪。君は多くの者を守る代わりに多くの者から奪ってきた。それを理解―――――』

 

「してるさ」

 

俺はアセムの言葉を遮って、そう答えた。

 

一度大きく息を吐く。

 

「それくらい理解してないとでも思ったか? 甘く見るなよ。確かに俺は戦場で多くの人達を手にかけてきた。それぐらい言われなくてもな、とっくにわかってんだよ」

 

そう続けると、俺は俺にすがってきていた兵士達の手を強く握る。

 

この人達の最期の声はしっかりと俺に届いている。

 

だからこそ、俺は拳を振るい続けた。

少しでも早く、平和な世界を築けるように。

 

あんな悲しみが、あれ以上続かないように。

 

俺はこの人達の分まで・・・・・託されたものを守り続けなきゃいけない。

 

俺は顔を上げ、赤黒い空に向かって言う。

 

「こいつは俺が背負うべき業だ。おまえなんぞにあれこれ言われる筋合いはねぇな」

 

 

 

その時だった―――――

 

 

 

―――――― 違うわよ、イッセー ――――――

 

 

 

バリィィィィィィィン

 

 

 

赤黒い空がガラスが砕けるような音と共に崩れ去った。

それと同時に俺にすがりついていた兵士達は消え、先程までいた元の世界に戻ってくる。

 

目の前にはニッコリと微笑むアセムの姿。

 

そして、後ろには――――――

 

「あんたが背負うべき業じゃない。私達(・・)が背負うべき業よ」

 

銀の槍を握るアリスの姿があった。

 


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