ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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4話 傀儡の女王

城までの道中、馬車から町を眺めるが、やっぱりこれといって破壊されたあとがあるわけではなかった。

住民も大騒ぎしているわけでもなく、町中を普通に歩いてる。

 

ただの平和な町って感じだ。

 

「静かですね」

 

「ああ。おそらく、住民に知られぬよう最低限の行動でクーデターを成功させたんだろう」

 

「となると、クーデターを起こした連中は内政の深くにまで侵食していたようね」

 

アリスの言葉に先生は頷く。

 

「聖杯を餌に貴族の上役を丸め込んだのかもしれないな」

 

多分、相当数の上役が反政府側についたんだろうな。

そうでなきゃ、そんなスムーズにクーデターが成功するわけがない。

 

ま、今回のクーデターで唯一誉められるのは町に住む一般の吸血鬼を巻き込まなかったことぐらいか。

余計な血を流さずに済むならそれに越したことはない。

 

・・・・この先もそうであってほしいと切に願う。

 

町を通り抜け、ツェペシュの城が近づいてくる。

巨大な正門の壁が上に上がり、馬車が入場を果たす。

 

城はグレモリー城に引けを取らない規模の大きさ。

石造りの古めかしい趣だ。

 

馬車から降りた俺達はそのまま城の内部に通されて、仰々しい扉の前に連れてこられた。

扉には魔物を象った見事なレリーフが刻まれてある。

 

「ここでしばしお待ちください」

 

案内をしてくれた執事さんがそう告げて去っていく。

 

美羽が呟く。

 

「この先が玉座なのかな?」

 

「だろうな」

 

扉の両脇には昔の騎士風の鎧を着た兵士。

これがいかにもって感じだ。

 

数分ほど待っていると、俺達のもとに声がかけられた。

 

「イッセー! 皆!」

 

そちらに顔を向けるとメイドに付き添われたリアス。

その後ろには木場の姿も。

 

俺も近寄り、とりあえずリアス達が無事でよかったと胸を撫で下ろす。

 

「リアス、木場。二人とも無事で良かった」

 

そう言うとリアスも笑顔で頷いた。

 

すると、リアスは俺の手を握って安心するように息を吐く。

 

「・・・・やっぱりダメね、私。イッセーと少し会えなかっただけで・・・・。少しイッセー成分を吸収させてもらうわ」

 

イッセー成分・・・・そんなのがあったのね。

 

まぁ、俺もリアスがいなくて寂しかったけどな。

 

リアスは少しの間、イッセー成分とやらを吸収すると頭を切り替えて、先生に言う。

 

「クーデターのことは察知したようね」

 

「何か起こるだろうと思ってな。こいつらを召喚してここまで連れてきた。文句はないだろう?」

 

「ええ。私も何とかして皆を呼ぼうと思っていたから。ただ、この城に軟禁されていて、動けない状態だったのよ。・・・・・王にお招きいただいた割りに今まで謁見もできなかったわ。そうこうしていたら、先ほど『お客さまが来たからついて来てほしい』と言われて、ここに来たというわけ」

 

それを聞いて俺が言う。

 

「それじゃあ、クーデターが起きている間、二人は結構平和だったんだな」

 

木場が肩をすくめる。

 

「拍子抜けするほど僕達には何もなかったよ。内部で争っていてこちらにまで手を出すほど、暇ではなかったんだと思う。・・・・少なくとも今の今まではね」

 

そう言いながら木場は扉の側に立つ兵士に視線を送る。

 

・・・・なるほど、役者が揃ってからまとめて面会ってわけだ。

リアスと面会しなかったのも、俺達が来ることを見越していたからかもね。

 

兵士の一人が俺達を確認すると言う。

 

「では、新たな王への謁見を―――――」

 

そう言うなり、彼らは巨大な両開きの扉を開けていく。

 

先生が先に進み、その後ろを俺達がついていく。

 

室内は広大で、足元には血のように真っ赤な絨毯。

扉の側にレリーフと同じデザインの魔物の刺繍がされていた。

 

絨毯の先、一段高いところに玉座が置かれていた。

 

玉座に座るのは若い女性。

その傍らには若い男性。

この部屋には今の二人のほか、兵士が数名と貴族服を着た者が数名。

 

あの貴族達が吸血鬼の上役なんだろうけど・・・・。

 

なるほど、やっぱり相当なところまで食い込んでいたらしいな。

それも『禍の団』の協力があってこそ、なんだろうけど。

 

再び玉座へと視線を移す。

そこには砂色の色合いが強いブロンドを一本に束ねた女性。

歳は俺と変わらないくらいか。

 

あまり派手さのないドレスに身を包み、優しそうな微笑みを浮かべていた。

 

エルメンヒルデのように人形じみた感じではなく、人間味が感じられるのは純血ではないからだろう。

美女といってさしつかえない。

 

ただ・・・・この人の目は虚ろだった。

 

女性が挨拶をくれる。

 

「ごきげんよう、皆様。私はヴァレリー・ツェペシュと申します。いちおうツェペシュの現当主――――王さまをすることになりました。以後、お見知りおきを」

 

声音もその微笑みと同じく優しさを感じられる。

 

けど、その瞳は俺達を写していない。

視界には入っているんだろうけど、見ているのは別の――――

 

彼女は唯一見知った者を捉えて視線を定めた。

 

「ギャスパー、久しぶりね。大きくなったわ」

 

「ヴァレリー・・・・。会いたかったよ」

 

「私もよ。とても会いたかったわ。近くに寄ってちょうだい」

 

招き寄せるヴァレリー。

ギャスパーは彼女に寄っていく。

 

周囲の吸血鬼も特に止めようとはしない。

 

ヴァレリーはギャスパーを抱き寄せると一言漏らす。

 

「元気そうでよかった」

 

「うん。悪魔になっちゃったけど・・・・元気だよ」

 

「ええ、報告は受けているわ。あちらでは大変お世話になったそうね」

 

「うん。友達や先輩も出来たんだ」

 

ギャスパーの視線が俺達に向けられると、ヴァレリーも俺達を見て微笑んだ。

 

「まぁ、ギャスパーのお友達なのですね。・・・・あら」

 

ヴァレリーはふとあらぬ方向に顔を向ける。

 

すると―――――

 

「―――――――。―――――――」

 

聞いたこともない言語を口にして、何もない空間に一人話しかけていた。

 

悪魔に転生した俺は全ての言語を共通のものとして捉えることができる。

それなのに、俺は全くその言葉を理解できなかった。

 

他の皆も同様のようで、怪訝な表情を浮かべている。

 

悪魔でも理解できない言語、か。

 

途端に彼女は表情を明るくさせた。

 

「そう、そうよね。・・・・・けど、それは―――――本当? そうよねぇ」

 

何もない空間に一人楽しげに話続ける恩人の姿にギャスパーも戸惑いを隠せないでいた。

 

先生がぼそりと言う。

 

「おまえ達、あれを真正面から捉えるな。聖杯に魂を引っ張られるぞ。特に教会出身のアーシア、ゼノヴィア、イリナ。おまえ達は視線を外しておけ」

 

先生の言うことを即座に理解した三人は視線を床に移す。

 

レイナが先生に訊く。

 

「あれはいったい・・・・?」

 

「・・・・あれはな、聖杯に取り憑かれた者の末路だ。決して見えてはいけないモノが見えてしまうのさ。詳しい話はあとだ」

 

パンパンと手を鳴らす音が部屋に響く。

 

手を鳴らしたのはヴァレリーの近くに待機していた若い吸血鬼の男性。

 

「ヴァレリー、その『方々』とばかり話していては失礼ですよ? きちんと王として振る舞わねばなりません」

 

男性の注意にヴァレリーは笑顔で相づちを打った。

 

そして、虚ろな瞳のまま、笑顔でこう続けた。

 

「うふふ、ごめんなさい。でも、私がツェペシュの王である以上は平和な吸血鬼の社会を作れるそうなの。ギャスパーもここに住めるわ。だーれもあなたや私をイジメることなんてしないもの」

 

今の言動は良いように騙されているのだと分かった。

言葉に心が入っていないんだ。

 

虚ろな瞳に空っぽの言葉。

 

聖杯の影響、か・・・・。

 

「・・・・ヴァレリー」

 

恩人の姿にギャスパーはただ涙を流す。

 

先生が若い吸血鬼の男性を睨んだ。

 

「よくもまあここまで仕込んだものだ。それを俺達に堂々と見せるおまえさんの趣味も悪い。この娘を使って何がしたい? 見たところ、おまえさんが今回の件の首謀者なんだろう?」

 

若い男性は人形のような端正な顔立ちを醜悪な笑みで歪ませる。

 

「首謀者といえば、そうなのでしょうね。おっと、そういえば、ごあいさつがまだでした。私はツェペシュ王家、王位継承第五位マリウス・ツェペシュと申します。暫定政府の宰相兼神器研究最高顧問を任されております。どちらかと言うと後者の法学部本職なのですが、叔父上方に頼まれましてね。一時的に宰相となっております。一応、家系図的にはヴァレリーの兄にあたりまして、ツェペシュの新たな王位となった妹をそばで見守りたいと思っているのですよ」

 

こいつも王族かよ。

で、ヴァレリーの兄だと。

 

誰が聞いても嘘だと取れるほど軽い言葉を並べてくれるぜ。

ヴァレリーを見守る?

利用するの間違いだろ。

 

先生が言う。

 

「こちらがカーミラと接触しているのは知っているのだろう? ここまで招き入れていいのかよ?」

 

「新政府はこれまでと違い、他勢力とも友好的に交渉を進めるつもりなので。といっても私は政治などに興味はありませんが。それはクーデターに乗った私の同士に任せますよ。ただ、今回はヴァレリー女王があなた方に会いたいと仰ったものですし、私もあなた方には興味があったのですよ。協力者からあなた方のお噂を伺っているものですから」

 

「協力者、ね。――――なぜクーデターを起こした? あの野郎の立案か?」

 

「私は自分が聖杯で好き勝手できる環境を整えているだけですよ。神滅具――――聖杯とは実に面白い代物でしてね、興味が尽きないのです。それで、色々と試せる環境が欲しかった。そのためには前王である父や兄上達が邪魔でしたので退陣していただきました。・・・・総督さまが仰る『あの野郎』とは、あの方を指しているのでしょうが・・・・今回は我々が起こしたことです」

 

・・・・こいつはとんだ屑だったようだ。

 

ふとヴァレリーに視線を戻すと、今のを聞いてもなお微笑みを浮かべたまま。

 

ヴァレリーの心を完全に操っているのか・・・・。

 

今の発言でこの場にいる吸血鬼の貴族達もざわついた。

 

「マリウス殿下! それはいまここで話すべきことではございませぬ!」

 

「こ、ここは仮にも謁見の間です! ざ、暫定の宰相といえど、慎んでいただきたい!」

 

「相手はグリゴリの元総督とグレモリー次期当主なのですぞ!」

 

マリウスの大胆な発言に慌てて嗜めようとする貴族達。

とうの本人は笑みを浮かべるだけだ。

 

少なくともここにいる貴族達はマリウスには頭が上がらないって感じだな。

こんな状況なのに誰一人止める者がいないってのは異常だぜ。

 

「・・・・酷いです。こんなの酷すぎます」

 

優しいアーシアはこの現状に涙を流す。

 

「ヴァレリー・ツェペシュは解放できないのね?」

 

「ええ、当然です」

 

リアスの問いにマリウスはそう返すだけ。

 

「話し合いは無駄だよ、リアス部長」

 

今までにないくらい冷たい表情で、マリウスを睨むゼノヴィア。

既に殺気に満ちていて、デュランダルを取り出そうとしていた。

 

「こいつを消してさっさと帰ろうじゃないか。このヴァンパイアは生きていても害にしかならない」

 

ついにはデュランダルを亜空間から取りだし、切っ先をマリユスへと向けた。

 

「ねぇ、イッセー。こいつら丸焦げにしてもいいかな? いいよね?」

 

アリスも既にキレていた。

ニコニコしているが、殺気が・・・・周囲で放電現象が・・・・・。

怖いよ!

笑ってるところが!

 

まぁ、でも、二人の気持ちは分かる。

 

俺も膓煮え繰り返ってるからな・・・・・!

目の前の屑野郎を今すぐ殴りたい・・・・!。

 

「おやめなさい、ゼノヴィア! ・・・・相手は宰相なのよ」

 

たしなめるリアス。

 

今ここでマリウスを始末するのは簡単だ。

 

だが、マリウスは殺気を受けても平然と笑みを浮かべるだけ。

 

「怖いですね。では、私のボディーガードを紹介しましょう。私が強気になれる要因の一つをね」

 

指を鳴らすマリウス。

 

刹那――――――

 

『――――っ!?』

 

とてつもないプレッシャーが俺達を襲った!

 

一瞬で全身の毛穴が開き、身体中を冷たいものが通り抜けていく!

 

こいつは―――――

 

視線の先に現れたのは黒いコートに身を包んだ長身の男性。

金色と黒色が入り乱れた髪。

その瞳は右が金で、左が黒というオッドアイ。

 

体に纏うオーラはとても静かなものだが、かなり濃密だ。

 

そいつは俺達・・・・いや、俺に視線を向けているようだった。

 

このオーラの質からして・・・・ドラゴンか。

 

ドライグが俺の内に語りかけてくる。

 

『(ああ、そうだ。人間の姿をしているが一目で分かったよ。―――――三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)、クロウ・クルワッハ。邪龍の中でも最強と称されるドラゴンだ)』

 

――――っ!

 

おいおい、マジかよ!

邪龍と遭遇する可能性は考えてたけど、いきなり邪龍最強ときたか!

 

『(奴の相手は相棒だけではかなり厳しいぞ)』

 

だろうな。

 

戦わなくても分かるさ。

これだけ濃密なオーラを見せられたらよ。

 

俺は息を吐きながらマリウスに言う。

 

「確かにこれだけ強力なボディーガードがいるんじゃ、強気にもなれる」

 

「でしょう?」

 

俺が納得したのを見て、得意気に笑みを見せるマリウス。

 

だがな・・・・・

 

俺は皆に視線を送るとほんの一瞬だけ、イグニスを召喚した。

それは瞬きをする間の出来事だ。

赤い光が室内を照らしたのは。

 

人的被害はないし、家具にも損害も与えていない。

 

ただ、部屋を急激な気温の上昇でかなり熱めのサウナに変えただけ。

 

「っ!?」

 

目を見開くマリウスと貴族達。

クロウ・クルワッハも興味深げにこちらを見ていた。

 

俺は挑発するような笑みを浮かべる。

 

「これは今日通してくれた礼だ。こっちは真冬で寒いだろう? 少し暖まってくれ」

 

といっても純血の吸血鬼は寒さに強いみたいだけどね。

 

ちなみに俺を除いたメンバーとヴァレリーには美羽が結界を張ってくれたのでこの温度変化は感じていない。

現にヴァレリーは俺が何をしたのか理解できていないようだからな。

 

あのロスウォードを倒せるほどの力を秘めたイグニスだ。

いかにクロウ・クルワッハが強くてもこの炎には抗えないだろう。

 

少し室温が下がったところで、俺は口を開く。

 

「ま、そういうことだ。うちのメンバーが失礼したな。あとでお仕置きしとくから、この場はここでは良いだろう?」

 

口にはしないが、よっぽどの馬鹿じゃなければ意味は分かるだろう?

 

マリウスは表情を戻して言う。

 

「ええ。今日はここまでにしましょう。これ以上いたら蒸し焼きにされそうですしね。お部屋をご用意してあります。皆さまもしばらくご滞在ください。ああ、ヴラディ家の当主様もこの城に滞在しておりますので、お会いになるといいでしょう」

 

謁見はその言葉をもって終わりを迎え、俺達は王の間から退室した。

 

部屋を出るときにチラッと見えたが、吸血鬼の貴族達は慌てて窓を開けていたよ。

よっぽど暑かったらしい。

 

それにしても、クロウ・クルワッハか。

いきなりヤバそうなのが出てきたもんだ。

 

 

 


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