ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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5話 マスター・美羽

「うぅぅ・・・・・」

 

『ぐすっ・・・・・』

 

プールサイドで涙ぐむ一人と一匹。

 

あの時のことは思い出したくなかった・・・・。

俺達の反応に話を振ってきたルフェイもどこか申し訳なさそうな表情に。

 

黒歌が俺のティーカップを勝手に取って口をつけた後、訊いてきた。

 

こいつ、なにげに俺の膝上に座ってるな。

 

「ふーん、それで歴代の怨念はどうなったのかにゃ?」

 

「それ・・・・聞くのか?」

 

「だってそこが肝心じゃない」

 

「・・・・さっきも言ったけど、なんとか怨念は晴らせたよ」

 

そう、怨念は晴らせた。

だから、二度と俺を引きずり込もうとはしてこないだろう。

それはいい。

 

 

『ご主人様ぁ。もっと調教してください~』

 

『もう我慢できな~い』

 

『もっと気持ちよくしてぇぇ』

 

頭に響いてくる複数の女性の声。

歴代の女性先輩方だ。

 

あの後、俺はイグニスの指導に従って女性の先輩達に色々した・・・・・というよりさせられた。

おっぱい触ったり、揉んだり、吸ったり・・・・他にも・・・・。

 

結局、あのプロジェクトで俺は夜のテクニックを磨くことになったわけだ。

おかげで、美羽とアリスの時にはそれが実践できたと思う。

 

でも、代償は大きかった・・・・!

 

歴代は怨念から解放された女性の先輩達は俺をご主人様と呼ぶように・・・・・!

俺が神器に潜る度にお尻を振ってくるんだぞ!?

 

ま、まぁ、女性の方は割りと静かな方だから千歩くらい譲ってよしとしよう。

 

 

『長官んんんんんんっ!! 僕をぶってください!』

 

『ののしってくださいぃぃぃぃぃ!』

 

『駄犬とお呼びくださいぃぃぃぃぃ!』

 

 

さっきからうるせぇよ、ドM先輩共!

 

イグニスに鞭でぶたれ続けた男性の先輩達も変な方向に目覚めちまった!

 

こいつら定期的にイグニスとSMプレイしないと騒ぎ出すんだ!

もううるさいから眠っててくんない!?

 

『はっはっはっ。いやー、賑やかになったねぇ』

 

『ホント。これからは退屈せずにすみそうね』

 

ベルザードさんにエルシャさん!

あんたらまともな方なんだからそいつら黙らせて!

三百円あげるから!

 

『それは難しいな』

 

『私達が何言っても聞かないもんね』

 

『ねー』

 

うわぁぁぁぁぁん!

もうやだ!

 

全然頼りにならねぇ!

 

『うぅ・・・・なんでこんなことに・・・・・クズッ』

 

つーか、ドライグ!

 

おまえも何で言わなかった!

先輩があんなに変態だったことを!

 

『そんなの・・・・言えるわけがないじゃないかぁぁぁぁぁ! というより、俺が知ってる変態はあいつと相棒だけだったんだぞ!? 俺も驚きを隠せんのだぁぁぁぁぁ!』

 

さりげに俺を変態扱いしやがったな、この野郎!

俺はSMの趣味はないし、あそこまで変態じゃないやい!

おっぱいが大好きなだけだい!

 

『ウソをつくなぁぁぁぁ! 相棒だって、歴代の女共を縛ってる時、少し楽しそうな顔してたじゃないか!』

 

おまえ、奥に逃げながら見てやがったな!?

 

あの時は色々麻痺してたの!

あのおかしすぎる状況に脳ミソが完全に痺れてたの!

精神半分壊れてたの!

それぐらい分かれよ!

 

『分かりたくないわぁぁぁぁぁ!』

 

「おまえ、それでも相棒かぁぁぁぁぁ!」

 

しばらくの間、俺達のケンカは続いた。

 

 

 

 

 

 

十分後―――――

 

 

 

『ふんだ! 相棒のおっぱい野郎!』

 

「ふんだ! ドライグの赤トカゲ!」

 

俺達が未だ口論していると、向こうの方からティアとイグニスが歩いてきた。

 

二人とも水着姿で、ティアは青いビキニに腰に青いパレオ。

イグニスは赤いビキニに赤いパレオを腰に巻いていた。

 

イグニスがクスクスと笑う。

 

「なーにケンカしてるの? 仲良くしないとダメでしょ」

 

「『ほとんどおまえのせいだろうがぁぁぁぁぁ!』」

 

俺とドライグの声が重なった!

 

そーだよ!

もともとこの駄女神があんな方法取るからいけないんだ!

 

『そうだ! あの駄女神が諸悪の根源だ!』

 

分かってくれるか、ドライグ!

 

『ああ! 分かるぞ、相棒!』

 

「『俺達はあの駄女神に抗議する! 訴えてやるぅぅぅぅぅぅ!』」

 

俺達の叫びがプールに響く!

 

この挑戦を聞いてイグニスは不敵な笑みを浮かべた。

 

「ふっふっふっ! いいでしょう! 相手になってあげるわ! さぁ、縛られたいやつから前にでなさい!」

 

『・・・・スイマセン。チョーシノッテ、ホンットスイマセン』

 

ああっ!

またもドライグが屈してしまった!

 

つーか、はえーよ!

マジで何されたんだよ!?

あと、なんで片言!?

 

「フッ、ドライグは分かってるみたいね。さぁ、イッセーはどうする? 今からベッドでも行く? ――――ベッドの上で私に勝てるなんて思っちゃダ・メ・よ?」

 

なんてこと言いながらウインク送ってきやがる!

 

そんなもので、この俺が・・・・・

 

俺が屈するわけが――――

 

「・・・・すいません。ちょーし乗ってホンットすいません」

 

ごめん、屈するわ!

 

だって、勝てる気しないもん!

あのお姉さん、目がマジなんだもん!

 

くっ・・・・やはり最強のお姉さんは伊達じゃない!

 

「イッセー・・・・おまえ・・・・」

 

ティアが額に手を当ててため息をついていた。

 

はぁ・・・・なに、この無駄な疲労感。

 

「・・・・・むにゃむにゃ」

 

隣の席では黒歌が寝ていた。

よっぽど俺達のケンカがどうでも良かったんだろうな。

 

ま、しょーがないけど。

 

俺は息を吐いて改めてルフェイに言う。

 

「というわけで、歴代の怨念はなんとかなったよ」

 

「ざ、斬新なやり方ですね・・・・」

 

「ヴァーリ・・・・アルビオンには黙っててね。泣くから」

 

『俺からも頼む・・・・』

 

「は、はい」

 

俺とドライグのお願いにルフェイは快く(?)頷いてくれた。

 

とにもかくにもこれで万事解決だろう!

うん、そういうことにしよう!

 

「・・・・んにゃ・・・・泳ぐにゃ」

 

黒歌が寝ぼけながらも起き上がる。

 

ふらふらとプールの飛び込み台に移動すると、着物を大胆に脱いでしまい、全裸で温水プールに飛び込んだ!

 

ぶるんぶるん揺れる生乳に目が釘付けになってしまった!

流石にエロい!

ってか、着物の下は何もつけてないのかよ!?

 

「小猫の姉はいなくなったのだな。ちょうどいい。はぁはぁ」

 

などと、息をあげながら登場したのは競泳水着姿のゼノヴィア。

イリナとの勝負を終えたのか、びしょ濡れのまま俺達の元に足を運んできた。

 

「失礼するぞ」

 

そんなことを言うと、今度はゼノヴィアが俺の膝上に座ってきた!

足に伝わってくるゼノヴィアの柔かな太ももと尻肉の感触!

 

膝上に座るゼノヴィアは濡れた髪を弄りながら言う。

 

「イリナと勝負で賭けていたんだ。勝った方がイッセーの膝上に座るとな」

 

マジでか!

そんな賭けをしていたと!?

 

驚く俺の前に同じく競泳水着姿のイリナが登場して、水泳キャップを外す。

長い髪がファサッと現れた。

縛ってない長髪のイリナも可愛い。

 

「いいないいな! 私もイッセーくんのお膝の上に座りたいな!」

 

そんなに涙目になってまで求める価値があるのか!?

言ってくれたらいつでも座っていいんですよ!?

 

すると、イリナがテテテッと小走りで俺の背後に回ってきた。

 

そして――――

 

「えいっ!」

 

かけ声と共に後ろから抱きついてきた!

むにゅんと天使のもっちりおっぱいが背中に!

 

「背中は私がゲットよ、ゼノヴィア!」

 

「やるな、イリナ!」

 

よくわからん勝ち負けにこだわるおバカな二人。

だが、そんなところが可愛いと思える!

 

「はぅ! イッセーさんが満員御礼状態になってますぅぅ! 私もやります!」

 

アーシアが涙目で駆け寄ってきた!

 

教会トリオはいつでも一緒なんだな!

前も背中も左腕も三人に押さえられてしまった!

いやー、まいったね!

身動きが取れないぜ!

 

女の子の柔らかい感触!

いいね!

グッジョブ!

 

この最高の状況にイグニスが微笑む。

 

「ウフフ、そうしてるとハーレムの王さまね」

 

俺もそう思う!

 

美少女最高!

おっぱい万歳!

 

「しかし、眷属はどうした? 珍しいな、あの二人がいないのは」

 

と、ティアが辺りを見渡しながら怪訝な表情で言った。

 

ま、確かにあの二人が一緒にいないってのは珍しいのかもね。

 

「あの二人は買い物に行ってるよ。生活用品揃えにね」

 

「生活用品?」

 

「あっ、そっか。ティアは知らないんだっけな。実は昨日―――――」

 

俺がそこまで言いかけた時だった。

 

「ただいまー」

 

と屋内プールの入り口から声が聞こえてくる。

見ると美羽が水着に着替え、こちらに手を振りながら歩いてきていた。

 

「おかえり。買い物は終わったか?」

 

「一通りね。まぁ、最低限のものしか買えてないけど」

 

「昨日の今日だからな。・・・・あいつは?」

 

「アリスさんと一緒に水着に着替えてるよ。ボクは先に着替えて来たんだけど・・・・・あ、来たよ」

 

美羽の視線の先。

 

そこにいたのは白いビキニに着替えたアリス。

 

そして―――――

 

「マスター、お待たせしました」

 

美羽の傍らで膝を着く長く淡い紫色の髪を後ろで束ねたスリムな女性。

こちらも水着に着替えているが、髪と同じ紫色のビキニが似合っている。

 

見るとルフェイはその女性の登場に目を丸くしていた。

 

その女性の対応に美羽は苦笑を浮かべる。

 

「その『マスター』ってやめてよ。なんか固いし・・・・。そんなかしこまらなくてもいいって・・・・ディルさん」

 

そう、こいつは京都で戦った英雄派の構成員の一人。

英雄の魂を引き継いだという女性―――――ディルムッドだ。

 

「私はあなたにお仕えすると決めたのだ。あの感動は忘れられない」

 

「え、えっと・・・・そんな大層なことしてないよね?」

 

あの危険なオーラしか感じなかったディルムッドがなんで美羽にこういった態度を取っているかというと・・・・・こうなったのは昨日のことだ。

 

 

 

 

 

 

「いいかー、各自進路については考えておくよーに」

 

『はーい』

 

HRが終わり、今日一日の授業が終わった。

 

先生が教室から出ていくと同時に生徒が一斉に帰りの支度をし始め、椅子の音やら話し声やらが教室にこだましはじめた。

 

「さてさて、帰りますか」

 

俺は首をコキコキさせながら、そつ呟いた。

 

今日のオカ研の活動はない。

朱乃とレイナはグリゴリに行くらしいし、木場も用事があるとのこと。

部長も副部長もいないんじゃ、特に活動することなんてないしな。

部活動会議もない。

 

悪魔の仕事はあるけど、それにしては時間が早すぎるので今日は一旦帰ることに。

 

「アーシアさん、ゼノヴィア、今日も来るんでしょ?」

 

「はい、ご一緒します」

 

「ああ」

 

と、教会トリオが話し込んでいるのが目にはいった。

 

ここのところ教会トリオは町の教会――――天界の支部に足を運ばせているようだ。

最初はイリナの職場見学で行っていたようだが、アーシアとゼノヴィアは特例として、ミサに参加できるようになったとか。

 

まぁ、二人とも信仰心が強かったからな。

教会の儀礼に参加できるのは嬉しいんだろう。

ミカエルさんのお陰でお祈りも出来るようになったし、こういうところでも三大勢力の和平を実感できるよね。

 

今の話からだと、三人はそのまま教会か。

 

「今日は二人で帰ろっか」

 

美羽も三人の声が聞こえていたらしい。

既に支度を整えて、俺の机の前に立っていた。

 

「だな」

 

俺が頷き、支度を始めると美羽が思い出したかのようなか言う。

 

「あ、そうそう、買い物があるんだったね。帰りにスーパーに寄らないと」

 

「そうなのか? そんじゃ、買い物がてらにデートとするか? 久しぶりに」

 

「ホントに? それじゃあ、早く行こうよ。時間は限られてるんだし」

 

そう言って俺と腕を組む美羽。

 

なんか美羽のテンションが上がったなぁ。

それと同時に教室中から視線があつまってきたんだが・・・・。

 

男子の反応。

 

「よし、今度イッセーを殴ろう」

 

「うむ。これはリンチではない。制裁だ」

 

「くっそぉ、なんで俺には可愛い妹がいないんだ!」

 

どうやら、近々、俺は男子に襲われるようだ。

 

ふっ・・・・どっからでもかかってきなさい。

 

もう以前のようには逃げ回らんぞ!

兄の力、見せてくれる!

委員会がなんぼのもんじゃい!

 

で、女子の反応。

 

「やれやれ、お熱いねー」

 

「義理とはいえ、兄と妹のイチャラブ・・・いける!」

 

「兵藤くん×木場くんも捨てがたいけど・・・・・兵藤兄×兵藤妹で良いのが書けそうな気がするのよね」

 

・・・・うちの女子って変な子が多いよね。

 

つーか、俺と木場のネタはまだあったのかよ!

やめてくんない!?

男には興味ないから!

 

あと、書くってなにを!?

 

最後に悪友二人。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「こんのシスコンがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「「俺と代われぇぇぇぇぇぇぇえ!!」

 

うん、血の涙と共に殴りかかってきたな。

予想通りだ。

 

シスコン?

何とでも言うがいい。

 

だけどな―――――

 

「誰が代わるか、ボケぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

美羽は俺のだ!

誰にもやらん!

 

 

 

 

 

 

スーパーで買い物を終えた帰り道。

 

俺達は近くの公園に寄って、さっき買ったコロッケを食べていた。

揚げ立てだからアツアツのホクホクだ。

 

ベンチに座った俺達は二人とも揚げ立てゆえの熱さに少々苦戦しながらもその味を堪能している。

 

ちなみに俺のはビーフコロッケで美羽のはクリームコロッケ。

衣はサクッとしてて、ほのかな甘味があって美味い。

 

「買い食いでコロッケって、やっぱり良いもんだよな」

 

「定番だもん。それに最近は冷えてきたし、尚更美味しくなるよ」

 

「その意見に一票。ほっぺにクリームついてるぞ?」

 

俺はそう言うとティッシュで美羽の頬を拭ってやる。

 

「エヘヘ」

 

なーんか、また嬉しそうにしてるなぁ。

 

ただ、その笑顔がたまらなく可愛いんだけどね。

この笑顔に何度癒されたことか。

 

俺が癒されていると、美羽がこちらに密着してきて、頭を肩に乗せてきた。

 

「美羽?」

 

「最近は色々あって二人きりの時間って少なかったからね。こういう時にしっかり甘えとかなきゃ」

 

最近は段々お姉さんになってきたと思ってたけど、やっぱり甘えん坊なところは変わらないや。

 

まぁ、でも、確かに最近は美羽と二人っていう時間は少なくなってたかな。

アリスを含めて三人って時間は多かったけど。

 

美羽とこうしているところを見られたら、またアリスが拗ねそうだ・・・・。

 

美羽が言う。

 

「ここ、誰もいないね」

 

「んー、そうだな。夕方だし、子供も帰ったんだろ」

 

この季節の夕方だとそれなりに暗いし、風も冷たい。

 

普段は小さい子供の遊び場であり、中高校生の溜まり場になるこの公園も今は人気がない。

 

「・・・・誰も見てないなら、いいよね?」

 

美羽の顔が近づいてくる。

 

ハハハ・・・・ここでですか。

 

美羽ちゃんってば、本当に大胆だよ。

 

ま、まぁ、誰も見ていないし・・・・いいかな?

 

俺も応じるように顔を近づけていく。

 

二人の唇が重なる。

 

 

 

その時だった――――――

 

 

 

 

 

 

ぐぎゅるるるるるるるるるるるるるるる・・・・・

 

 

 

 

 

「「え?」」

 

突然聞こえてきた腹の虫。

 

「お、お兄ちゃん?」

 

「い、いや、俺じゃないって」

 

怪訝な表情で美羽が見てきたので、俺は掌を振って無罪を主張した。

 

流石に今からキスをしようかって時にそんなムードを壊すようなことはしません!

 

って、今のは美羽でもない・・・・・?

 

それじゃあ、誰が――――――

 

 

ガササッ

 

 

突然、後ろの草むらが揺れた!

 

まさか、誰かそこにいたのか!?

 

俺と美羽は互いに頷くと、その草むらを覗く。

 

そこにいたのは――――――

 

 

 

「ふむ、よく眠れたが、今度は腹が減ったな」

 

 

 

と、背中を伸ばしている女性の姿が。

 

長く淡い紫色の髪を後ろで束ねた美女。

一見モデルとも思えるような容姿だが・・・・・

 

その姿には見覚えがあった。

 

「デ、ディルムッドォ!?」

 

素頓狂な声を出す俺!

 

京都でゼノヴィアとやり合った、あの二槍使い!

 

なんで英雄派のこいつがここにいる!?

どうやって三大勢力の結界を潜ってきた!?

先日のはぐれ魔法使いの侵入以来、結界は強化されていたはずだ!

それなのにどうやって・・・・・

 

様々な疑問が次々に浮かび上がってくるが、その中でも飛びっきりに気になったことがある。

 

それは――――――

 

「なんで、ダンボールで寝てるんだよ!?」

 

夕暮れの公園に響き渡る俺のツッコミ!

 

そう、なぜかこいつはダンボールで組み立てられた家らしきもので寝ていた!

 

何度も目を擦って確認してみるが、現実は変わらない!

どう見てもあれはダンボールハウスだ!

 

ディルムッドも俺達の存在に気づいたのか、こちらに話しかけてきた。

 

「むっ、おまえは赤龍帝か。そうか、おまえはこの町に住んでいるのか? となると、ここは三大勢力の拠点、駒王町だったのか」

 

「知らなかったんかいぃぃぃぃぃ!」

 

この人、知らずに結界の内側に入ってきてたの!?

何やってんだよ!?

 

「すまんが、何か食い物はないか?」

 

「緊張感無さすぎだろ! 敵が目の前にいるんだぞ!?」

 

「腹が減ってはなんとやらだ。美味いものを頼む」

 

「贅沢だな、おい!」

 

「唐揚げが良い。好物なんだ」

 

「話聞けよ!」

 

こいつ、敵に食い物ねだってきたよ!

しかも、リクエストしてきやがった!

 

唐揚げ!?

唐揚げ好きなの、この人!?

意外すぎる!

 

いやいやいや、そんなところにツッコミを入れてる場合じゃない!

それ以上に聞かないといけないことがある!

 

俺は警戒を強めながらディルムッドに尋ねた。

 

「質問に答えてもらうぜ? どうやって結界の内側に入った? 侵入すれば、三大勢力のスタッフに気づかれるはずだ。それからもう一つ。この町に来た目的は?」

 

「さっきからうるさい男だな。まぁ、いい」

 

ディルムッドは息を吐くと、手を前に突き出す。

 

すると、そこの空間が捻れていき―――――赤い槍がディルムッドの手に握られた。

 

「ゲイ・ジャルグ。この槍の能力は魔術や魔法の類いを無効化することだ。この能力を使えば他者に感知されずに結界内に入り込むことなど造作もない」

 

魔術、魔法を無効化する槍、か。

美羽やロスヴァイセさんには最悪の相性だな。

 

「で? この町に来た目的は? さっきの反応からするに俺とやり合いに来たってわけじゃないんだろう?」

 

最初は俺が狙いだとも思った。

京都ではこいつと曹操で俺の取り合いをしてたからな。

 

だけど、こいつはこの町が俺が住む町だと知らなかったようだった。

そもそも、ここが駒王町だと言うことも知らなさそうだったけど・・・・。

 

ディルムッドが再び口を開く。

 

「英雄派が瓦解してからは私の食事処が消えてな。各地を転々としていたらこの町についた。それだけだ」

 

う、うーん・・・・

 

そういや、ルフェイが言ってたな。

ディルムッドは英雄派の飯が美味いから所属してるって。

 

それを考えれば納得できるようなできないような・・・・・

 

今度は美羽が尋ねた。

 

「え、えーと、なんでダンボールで寝ていたの?」

 

「生憎、どこかに泊まる宿賃も無くてな。仕方がなくこれで寝ていたんだが・・・・・ダンボールは良いものだぞ? 組み立て方次第では適度に暖かく、寝心地も悪くないからな」

 

ギャスパーみたいなこと言ってるし!

 

ダンボールヴァンパイアの次はダンボール娘かよ!

 

勘弁してくれ!

ダンボールキャラはもう間に合ってるから!

 

 

 

ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

 

 

 

 

「うっ・・・・だが、ダンボールでは空腹は満たされない」

 

「そりゃそうだろ!? まさか、食った!? ダンボール食ったのか!?」

 

「何をバカなことを。ここ最近の私の食事はファミレスで済ませている」

 

「ファミレス!?」

 

「やはり日本の食事は美味い」

 

おいおいおい!

またキャラに合わないことを!

おまえはゼノヴィアか!

 

つーか、ファミレス行く金はあるのかよ!

 

・・・・・初対面の時のあの強烈な殺気はどこへやら。

 

残念だ!

残念すぎる!

残念美人だ!

 

「ね、ねぇ、よかったら家、来る? 今日の夕食、唐揚げだし・・・・・」

 

「み、美羽!? おまえ――――」

 

「是非ともお邪魔させてもらおう」

 

「即決か! おまえ、ここが敵地なの理解してる!?」

 

「腹が減ってはなんとやらだからな」

 

「それ、さっきも聞いた!」

 

あー、もう!

マジで何なのこの人!

 

俺が頭を抱えていると美羽が言った。

 

「流石に女の子がダンボールで寝るのもどうかと思うし・・・・お腹すいてるみたいだし・・・・。それに、多分悪い人じゃないよね?」

 

「・・・・・頭は悪いみたいだけどな」

 

まぁ、美羽が言わんとすることも分からなくはない。

 

こいつはテロ活動にはほとんど参加せず、所属していた英雄派からは『タダ飯ぐらい』の称号を得ているほどだ。

このまま放っといても害はないだろう。

 

ただ・・・・女の子が屋外でダンボールハウスで寝るという、あってはいけないような絵。

これは放置しておくわけにはいかない。

 

俺は深くため息をついた。

 

「ったく、美羽に感謝しろよ?」

 

俺はディルムッドを家に招くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると案の定の結果になった。

 

「イッセー! おまえは何を考えているんだ!」

 

突っかかってくるゼノヴィア。

 

こいつは実際に戦ってるからな。

この反応も納得だ。

 

「まーまー、落ち着けって」

 

「イッセーくん、これは私もどうかと思いますよ? なぜ英雄派のメンバーを家に招き入れているのですか?」

 

ロスヴァイセさんもこの反応。

 

うん、分かってた。

こうなるのは分かってたよ。

 

だって、たとえテロ活動に参加してなくても、テロ組織に属していたのは変わらないしね。

下手すれば色々と問題になる行動だ。

 

でもなぁ・・・・流石に女性がダンボール暮らしをしているところを見ると・・・・・。

 

俺が皆から質問攻めにあっていると美羽が言った。

 

「お兄ちゃんは悪くないよ。悪いのは言い出したボクだから・・・・お兄ちゃんを責めないで」

 

庇ってくれる美羽だが、俺は首を横に振った。

 

「いや、最終的に決めたのは俺だ。責任は俺にあるさ。・・・・・皆もここは目を瞑ってくれないか? 確かにディルムッドはそれほど悪いやつじゃないと思うんだ」

 

俺はそう言って頭を下げた。

 

しかし―――――

 

「うむ! この沢庵は美味いぞ! おかわりをくれ!」

 

「は、はい」

 

冷蔵庫から引っ張り出してきた沢庵をつつきながら、アーシアにご飯のおかわりを要求してるディルムッド!

 

「俺が頭下げてんのに何してんだ、おまえはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「見れば分かるだろう? ご飯のおかわりをしている」

 

「俺が言ってるのはそういうことじゃねーよ!」

 

なに、家に着くなり勝手に飯食ってんの!?

さっきから沢庵ポリポリさせてさ!

 

いい加減にしないと摘まみ出すぞ!

 

アーシアもご飯よそがなくて良いから!

 

「・・・・いいんじゃない? 私は大丈夫だと思う」

 

イリナがそう呟いた。

 

いいの!?

今ので納得してくれたの!?

 

もしかして、俺の説得いらなかった!?

 

「ですね」

 

「うん、いいんじゃないか」

 

あれ!?

 

ロスヴァイセさん!?

ゼノヴィア!?

 

今の今まで反対してたじゃん!

なんで、もうどうでもいいみたいな顔してるんだ!?

 

「ところで唐揚げはまだか?」

 

 

 

 

 

 

それから少しして―――――

 

 

「っ! これは・・・・・!」

 

夕食の席。

 

いつもとは少し違ったメンバーで囲む食卓でそれは起こった。

 

ディルムッドが唐揚げを口に入れると、目を見開き箸を落としたんだ。

 

その様子を皆が怪訝な表情で見ている。

 

な、なんだ・・・・・?

 

すると、ディルムッドは立ち上がり、俺達を見渡しながら言う。

 

「この唐揚げを作ったのは誰か」

 

か、唐揚げ?

 

それを作ったのは・・・・・

 

「え、えっと、ボクだけど・・・・口に合わなかった?」

 

美羽が恐る恐る手を上げ、そう答えた。

 

美羽の唐揚げが不味かった?

いや、そんなことは無いはずだ。

この唐揚げは絶品で、俺の好物でもある。

皆も美味い美味い言いながら食べてるし・・・・・。

 

ディルムッドの視線が美羽に移る。

その瞳には何やら熱いものが宿っているように見えた。

 

ディルムッドはテーブルの反対側に座る美羽の元まで来ると――――――膝をついた。

 

「今後、私のことはディルとお呼びください、マスター。私はあなたの下僕となりましょう」

 

 

 

その時、食卓の時が止まった気がした。

いや、確かに止まった。

 

 

 

 

・・・・今、こいつ、なんて言った?

 

 

 

・・・・マスター?

 

 

 

美羽が・・・・・マスター?

 

 

 

はっ!?

 

 

 

「えええええええええええええええええええ!?」

 

美羽の驚愕の声が家に響き渡った。

 

 

 

 


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