1話 帰還します!!
俺の名前は兵藤一誠。
エロと熱血で生きる十八歳だ。
………突然なんだけど、今俺は暗い森の中を全速力で走ってる。
理由は俺を追いかけているものが原因だ。
「イッセー様! どうか城へお戻りください!」
俺を追いかけているのはメイドの格好をした女の子達。
それも三十人くらい。
彼女達の格好はコスプレではなく、彼女達は正真正銘のメイドさんだ。
普段の俺なら迷わず彼女達に飛び込んで、あの豊満なおっぱいを満喫しているところだ。
正直言うと今でも直ぐに満喫したい!
だけど………
ビュン!
風を切る音をたてながら俺の顔の真横を矢が通りすぎた。
「うおぁ!? 俺を殺す気かよ!? ガチの矢じゃねーか! せめて、鏃は外してくれませんかね!?」
『まぁ、あの者達では相棒には追い付けんからな。何処かに当たれば止まるとでも思ってるのだろう』
そう、彼女達は皆、手に槍や剣、弓矢だの色々な武器を持っている。
ちなみにさっき話してたのは俺に宿っている神器―――神滅具《
俺の相棒でもある。
神器の説明についてはまた今度するとして、まず説明しなければならないのは現在、俺が置かれている状況だろう。
なぜ、俺が武器を持ったメイドさん達に追いかけられているかと言うと………話は三年前に遡る。
▽
三年前、俺はこの世界とは別の世界にいた。
その世界が元の世界で、そこでは俺は普通の中学三年生だった。
ある日のことだ。
宿題を終え、俺は自分の部屋のベッドの上でいつも通りエロ本を読んでいた時―――――俺は何かに吸い込まれた。
これは比喩でも何でもない。
突然のことに、俺は自分に何が起きたのか認識する間もなく………。
気がついたら俺は全く知らないところにいた。
風呂………しかも、女湯に放り出された俺。
入浴中だった女の子と頭をごっつんこして、二人とも気絶することに。
まぁ、その後は俺の事情を説明するのに大変だったよ。
入浴していた女の子はある国のお姫様だったらしく、その風呂場に現れた俺は不審者として扱われ、斬首一歩手前まで行きましたよ………。
うん、怖かった!
辛かったよ!
で、どうにか俺のことを説明して、理解してもらうことに成功。
その際に、俺は自分が置かれた状況について、色々と訊ねることにしたんだが………聞いてて、混乱度合いが増した。
聞いた話をまとめるとこうだ。
この世界は俺がいた世界とは違う世界であること。
俺の目の前にいたのはオーディリアという国のお姫様で俺が現れたのはその国の城………の風呂場だったこと。
そして、この世界には勇者や魔王がいて人族と魔族の間で長い間、争いが続いていること。
今言ったことはほんの一部だが………いきなりファンタジー過ぎる世界に放り出されたんだぜ?
パニックになったのなんの。
そもそも話に現実味が無さすぎたし、どうすればいいか分からなかったんだけど………信じるしか無かったんだよね。
だって、目の前に本物のお姫様や勇者がいるんだもの。
実際に魔法も見ることになったわけだし、信じる以外にどうしろと?
元の世界に帰ろうとしたものの、当時は帰り方もわからず、状況が状況だったため、勇者やお姫様たちの計らいで俺は客人として城に住むことになった。
家族や友達に会えなかったのは少し寂しかったけど、見ず知らずの俺を王様やその家族、兵士の人も俺に優しく接してくれたし、勇者とも友達になれた。
勇者とは一緒に剣の稽古をしたり、町で買い物したり、何でもない話で盛り上がったりした。
正直、この世界にずっといてもいいかなって思った時期もあった。
だけど―――――その生活は長くは続かなかった。
俺がこの世界に来てから一年が過ぎたある日、人族と魔族との戦争が激化した。
人族と魔族の亀甲が崩れ、俺がお世話になっていた国にも魔族の軍勢が攻め込んできて………。
俺も、偶然出くわした魔族に襲われた――――しかし、俺は親友だった勇者に助けられた。
でも、俺を庇ったせいで、あいつは………。
俺の
『あなたがいなければ彼は死ななかった! 私の前から消えて………!』
仲が良かったお姫様に言われた言葉だ。
俺のせいで勇者が死んだ。
その通りだ。
でも、これは彼女の本心じゃないことはすぐに分かった。
この時は元の世界に帰る方法も見つかっていたし、元の世界に帰れば命の危険もない。
だから彼女はわざとキツイ言い方をしたんだ――――俺を守るために。
確かに逃げれば良かったのかもしれない。
だけど、俺にはそんなことは出来なかった。
皆を見捨てて俺だけ逃げるなんてことは俺の選択肢には含まれていなかった。
何より、勇者の―――――親友から最後に託されちまったからな。
あいつとの約束を守るために俺は………。
俺は彼女達のもとを離れ、一人修業の旅に出た。
師匠を見つけて《錬環勁気功》っていう気を操る戦闘技術を教えてもらい、更にドライグには赤龍帝としての戦い方を教えてもらった。
皆のもとに帰るため。
そして、皆を守るため。
血反吐を吐いても全てを守る力を手に入れるため、厳しい修業に身を投じた。
それこそ、毎日、生死の境をさ迷うほどに。
修行を始めて二年。
師匠やドライグの修業を経て強くなった俺は皆のところに戻り、なんとか魔族から国を取り戻すことに成功。
それがつい数ヶ月前の話だ。
それから俺は魔王を倒すために数人の仲間と共に各地の戦闘に参加してきた。
そして昨日――――俺は魔王との一騎討ちに勝った。
魔王を倒して、一件落着………とはいかなかった。
実は俺、魔王から娘を託されたんだ。
激戦の末、散りゆく魔王は死の直前に俺に『娘に罪はない』と言って、娘を俺に託してきた。
魔王は長きに渡り続いた戦争を止めるためにその責務を果たすため、炎の中に消えていった………。
魔王は娘に自分の跡を継がせたくなかったんだ。
もし、魔王の娘が生きていた場合、『魔王の娘が新しい戦争の火種になるんじゃないか、ならばそうなる前に消してしまおう』そう考える者も現れるだろう。
だから、魔王は人族の恐怖の対象である『魔王』を自分で最後にしたいと望んだ。
何より、娘の幸せを願って―――――。
魔王から娘を託された俺は―――――魔王の娘を連れて元の世界に帰ることにした。
▽
そして、今。
俺は大きな袋を担いで走っている。
袋の中には魔王の娘だ。
結構、揺れてるけど中は大丈夫か?
ぶつけたりしないように気を付けてるけど………なんとか我慢してくれ!
おっと、また矢が飛んできぞ。
俺は矢を交わして、追ってくるメイドさんを迎え撃つ格好となる。
すると、真上からメイドさんが二人、降ってきた。
「「勇者様、ご覚悟を!」」
「なんの!」
俺は彼女達の振り下ろした剣の間をくぐり抜けて、その隙に彼女達に触れた。
ちなみに最前線で戦い続けた俺は、人族の代表として勇者ってことになっている。
「悪いけど、今捕まるわけにはいかない! 《
そして、俺が指をならすと――――。
バババッ
彼女達の服は下着を含めてバラバラになった。
豊かなおっぱいが!
ありがとうございます!
眼福です!!
これが俺の必殺技《
男の夢が詰まった最高の技だ!
この世界に来て会得した唯一魔力を使う技でもある。
俺って魔力量と魔力関係のセンスが致命的にないらしくて、これくらいしか会得できなかったんだよね!
「「キャアアアアー!!」」
二人は大事なところを手で隠してその場に踞る。
まぁ、当然の反応だよね!
俺は彼女達の裸体を脳内保存した後、再び走り出した。
だって、後ろから武器を持ったメイドさんがいっぱい来てるし。
…………いや、待てよ。
このまま逃げるより彼女達の足を止めた方が良いかもしれない。
突如浮かんだ名案。
もしかしたらパラダイスが見れるかもしれない。
裸の女の子達がいっぱい。
素晴らしい光景じゃないか!
『相棒、それはいくらなんでも……』
うるさい!
俺は見るんだ!
この世界のおっぱいはもう見れないかもしれないんだぞ!
俺は追いかけてくるメイドの集団目掛けて走り出した。
▽
俺はメイドさん達の姿を脳内保存した後、森の奥まで走った。
いやー、中々刺激的な光景だったね!
我、超眼福なりってね!
彼女達の姿を思い出しながら進むと少し開けた空間に出る。
そこには石でできた門があり、門のなかは虹色に輝いている。
これは《異界の門》と呼ばれる門で、そこをくぐることで俺は元の世界に帰れることが出きる………らしい。
国で見つけた文献にはこれを潜ると元の世界に戻れるとあった。
門の前には先客がいた。
背は俺より少し低いくらい。
腰のところまである長い金髪をなびかせてこちらを見ている。
俺がお世話になった国のお姫様――――アリスだ。
彼女は旅の仲間でもある。
今着ている服はドレスではなく、旅の時に着ていた動きやすい服装だ。
「その様子だと彼女達は皆、裸にされちゃったのね」
「な、何でわかる!?」
「鼻血出てるわよ」
本当だ。鼻を手でぬぐうと血が付いてる。
ていうか、服まで付いてるし!
洗濯して落ちるかなこれ………。
「それで、アリスは何でこんなところにいるんだよ?」
「あんたを止めに来た、って言ったらどうする?」
「嬉しいけど、俺は帰るよ。元の世界に。今の俺はこの世界にいない方がいいしな。いつの間にか勇者なんて呼ばれてるし。………魔王を倒した勇者なんて、最初は良いけど、後々厄介者にしかならない、だろ?」
そう、俺がこの世界を去るのは魔王の娘を逃がすためだけじゃない。
魔王を倒した勇者の影響力は大きい。
勇者がいる国は他の国よりもこれからの政治を有利に進めることが出来る。
そうなると国と国との摩擦が生まれて、また戦争になる。
しかも、今度は人間同士の争いだ。
やっと戦争が終わっても、また次の戦争が始まる。
こんなの悲しすぎるじゃないか。
そんなのは俺が望むところじゃない。
でも、アリスには俺の考えは読まれてたみたいだ。
ま、まぁ、流石に魔王の娘を託されたことは気づかれてないと思うけど。
アリスはうつむきながら言った。
「やっぱり行っちゃうんだ…………」
「俺もアリスともっと一緒に居たいけどな」
「なっ!? も、もう! あんたはまたそんなこと言って!」
顔を赤くしてプイっとあっちを向いてしまうアリス。
俺はそんなアリスを見て、微笑みを浮かべる。
そして、
「とにかく俺は帰るよ」
「………また、会えるよね?」
「おう、なんかあったら俺を呼べよ。いつでも駆けつけるからさ!」
「どうやって来るつもりよ?」
「あ、どうしよう………」
アリスの言う通り、なんか方法あんのかな?
また吸い込まれれば良いのか?
いや、確か、あの文献には―――――。
顎に手を当てて、記憶を探っているとアリスは可笑しそうに笑いだした。
「フフフ。強くなってもやっぱりバカね」
「うるせーよ! 気合いでなんとかしてやる!」
「まぁ、あんたなら本当になんとかできそうね」
俺たちはそれからひとしきり笑った。
こうして、アリスと一緒に心の底から笑ったのって久し振りな気がする。
「………ボチボチ行くよ」
「ええ」
「国の再興とかで忙しくなると思うけど、体に気をつけろよアリス」
俺はそう言うとアリスに拳を差し出す。
「分かってる。イッセーも体に気をつけてね」
アリスもそう言って俺の拳に拳を合わせる。
「じゃあ、またな」
「ええ、またね」
俺達はそう言って互いに反対方向に進む。
アリスは国の方向に。
俺は門の方向に。
門を潜った俺は虹色の光に包まれていった―――――。
▽
「う……ん? ここは?」
気が付くと俺の目の前にはエロ本があった。
これは向こうの世界に飛ばされる前に読んでいたエロ本に間違いない。
他にも本棚や床に置いてあるものもそのまま。
懐かしい俺の部屋だ。
机の上に置いてある時計を見ると、日付は俺が異世界に行った日と同じ。
「もしかして夢だったとか? ん?」
一瞬、長い夢でも見ていたのかと思う俺だったが、隣にあったものを見て、それが間違いであることを認識できた。
俺の横には大きな袋。
間違いなく俺が門を潜るときに担いでいたやつだ。
どうやら夢じゃなかったらしい。
ていうことは向こうの世界で三年過ごしたけど………時間が進んでいないだと?
まさかと思うが、こっちの世界では一瞬だったってことか?
そうなると今の俺は十五歳で中学三年生のままってことになるのか?
やばい受験勉強してない。
まだ七月だし、なんとかなるか?
まぁ、それは今は置いておこう。
俺はカーテンを開けて外を見る。
俺の眼に映ったのは変わらない、俺が産まれた町だ。
「ただいま―――――駒王町」