ある日の放課後。
俺達オカ研メンバー+アリスは部室に集合していた。
アザゼル先生がいないんだが、今は職員会議中らしい。
なんでも一人だけ長引いているとか。
同じ教員職のロスヴァイセさんは少し遅れてきたとはいえ、部室にいる。
あの人、何かやらかしたのかね?
とりあえず、集まった面々を見て、リアスが話し始める。
「今日集まってもらったのは、例の『魔法使い』との契約の件についてなの。皆の知っての通り、今日から契約期間に入っていくわ」
魔法使いとの契約。
悪魔にとって結構重要なことだ。
魔法使い達は基本的に自分の魔法を生涯に渡って研究し続ける言わば研究者的な存在。
黒、白、召喚、ルーン文字式、地域ごとの術式と数多くの魔法があり、彼らはその中から自分なりのテーマを決めて一生をそこに注ぐ。
研究を自分だけの秘匿にしたり、その探求の仕方も人それぞれ。
と、いうのがこの世界での魔法使いっていう者達らしい。
アスト・アーデの魔法使いってのは少し違うんだよね。
そもそも魔法が日常生活でも使えるように一般にも普及してる世界だし、そんなにガッツリ研究してる人って魔法学校の偉い先生くらいだろう。
実際、美羽は魔法の研究なんてしてないし。
独自に魔法を編み出したりはしているけど秘匿するつもりもないみたいなんだよね。
アリスに関しては魔法よりも身体的なところがメインだし。
そんな感じでアスト・アーデとこちらの世界では魔法使いの概念が違う。
それで、こちらの世界の魔法使いと俺達悪魔の関係だが――――
リアスが改めて言う。
「魔法使いが悪魔と契約する理由は大きく三つ。一つは用心棒として。いざというときにバックに強力な悪魔がいれば、いざこざに巻き込まれても解決しやすいのよ」
ヤクザみたいだな。
リアスが指の二本目を立てた。
「二つ目は悪魔の技術、知識を得たいため。魔法使いの研究に冥界の技術が役立つのよ」
それだけなら直に冥界に行って、直接手に入れるか、他の陣営を経由して手に入れれば良い。
と、思うかもしれないが、これが中々にリスクが高いそうだ。
まず前者だが、冥界に行く手段というのは限られている。
俺達なんかは気軽に行っているが、それは「上級悪魔グレモリー」という確かな後ろ楯があるからだ。
だから、悪魔になる前の美羽でも俺達について冥界にちょくちょく遊びに行くことができていた。
悪魔や堕天使以外の者が冥界に入るには特別な許可を得る必要があるということだ。
そして、後者だが、こっちは仲介料をとられるので値段がバカにならないそうだ。
下手をすれば生涯の研究で得た全財産でも足りないくらいの値をつけられてしまうとか。
だから、悪魔と契約して直接手に入れた方が安上がりになるとのことだ。
リアスが三本目の指を立てる。
「そして最後。これは単純なことよ。悪魔と契約することで己のステータスになるの。強力な悪魔と契約すればそれだけで大きな財産となるわ。私のお父さまやお母さまだって魔法使いと契約しているのよ? 何かあったときは相談事を受けるために召喚に応じるってわけね。上級悪魔とその眷属には義務の一つなの。今回の契約期間も私が適正の年齢に達したからなのよ」
そういう背景もあって俺達が魔法使いと契約する期間に突入することになったってわけだ。
ゼノヴィアが複雑そうに首をかしげた。
「まさか、私が魔法使いに呼び出される側になるとは、人生は何が起こるかわからないな」
俺もその意見に同意する。
「ま、そりゃそうだ。俺だってこうなるとは思ってなかったよ。そういや、俺ってどういう立ち位置で今回の契約を受けるんだ?」
上級悪魔、それも眷属を従える『王』ともなれば、契約する相手は変わってくるだろう。
一応、俺も昇格してるんだけど、『王』としては駆け出しもいいところだ。
しかも、まだ悪魔歴も短い。
それならリアスの眷属として契約に臨んだ方が俺にとっても契約する魔法使いの人にとっても良いと思うんだよね。
「今回、イッセーには私の眷属として契約を受けてもらうわ。イッセーはまだまだ知識が不足しているところもあるから、レイヴェルのサポートを受けながら慎重に選んでもらうわ。一度契約を交わしてしまえば簡単には反故できるものではないわけだし。他の皆も慎重にね?」
あ、やっぱりそういう感じなんだ。
リアスもその辺りは考えてくれてた訳ね。
「それから美羽とアリスさんは悪魔になったばかりだから契約はなしよ。今回は今後に向けての見学ということにしておいてちょうだい」
「うん。その方がボクも助かるかな」
「私達ってまだビラ配りだしね」
美羽とアリスはリアスの言葉に頷いていた。
二人はつい最近なったばかりで実績も無いに等しいからな。
悪魔の仕事も初めてはいるが、それもビラ配りの段階。
まだ契約したことすらない状態だ。
二人がどんな人と契約を取ってくるのか気になるところだが・・・・・・・。
そうこうしているとリアスが部室の時計を確認していた。
「そろそろ時間ね。魔法使い協会のトップが魔法陣で連絡をくださるの。皆、きちんとしていてね」
へぇ、トップ自ら連絡をしてくるのか。
魔法使い協会のトップってどんな人だろう?
イメージとしてはとんがり帽子を被った白い髭の老人って感じなんだけど。
すると、部室の床に大きな魔法陣が出現する。
「・・・・・・メフィスト・フェレスの紋様」
木場がそう呟いた。
・・・・・・・メフィスト・フェレス。
魔法陣が完成すると光が宙に立体映像を映し出した。
椅子に優雅に座った中年男性。
赤色と青色の毛が入り交じった髪で、切れ長の両目は右目が赤で左目が青というオッドアイ。
すこし強面だな。
男性は俺達を見渡すとニッコリと笑った。
『やぁ、リアスちゃん。久しいねぇ』
なんとも軽い声音だった。
リアスが挨拶に応じる。
「お久しぶりです、メフィスト・フェレスさま」
『いやー、お母さんに似て美しくなるねぇ。キミのお祖母さまもひいお祖母さまもそれはそれはお美しい方だったよ』
「ありがとうございます」
リアスと顔見知りなんだ。
ってか、リアスのひいお祖母さんも知ってるって・・・・・もしかして家族ぐるみで付き合いがあるのか?
リアスが俺達にその人を改めて紹介してくれる。
「皆、こちらの方が番外の悪魔にして、魔法使い協会の理事でもあらせられるメフィスト・フェレスさまよ」
『や、これはどうも。メフィスト・フェレスです。詳しくは関連書物でご確認を。僕を取り扱った本は世界中にあるしねぇ』
テキトーか!
軽すぎるぞ魔法使い協会のトップ!
「メフィスト・フェレスさまは悪魔の中でも最古参のお一人で活動のほとんどを人間界で過ごされているの。それとタンニーンさまの『王』でもあらせられるわ」
『そうそう。滅びそうなドラゴン種族を出来る限り救済したいと言ってきてね。その言葉に感銘を受けた僕が『女王』の駒をあげたんだ』
そいつは驚きだ!
この人がタンニーンのおっさんの『王』だったのか!
そういや、この人って旧四大魔王と同世代だっけな。
試験勉強で少し触ったから覚えてる。
なんでも、旧政府・・・・・特に旧四大魔王とは仲が悪かったらしく、仲違いして人間界に住むようになったとか。
アザゼル先生やミカエルさんもそうだけど、見た目が中年や青年でも、中身がジジイの人が多いよな。
それからもリアスとメフィストさんの昔話、世間話、昨今の魔法使い業界の話が続いていく。
「では、ソーナとは既にお話を?」
「残念だけど、彼女とは後になってしまったよ。新しい眷属を迎えてからお話をしたいと言われてね。そういうことならと、キミ達と先に話をすることにしたのさ。ちなみにサイラオーグ・バアルくんとシーグヴァイラ・アガレスちゃんとは既に話は済んだよ。いやー、キミ達『
ルーキーズ・フォー?
初めて聞く単語だな。
俺が怪訝に思っているとレイヴェルがこっそり教えてくれた。
(最近つけられたサイラオーグ・バアルさま、シーグヴァイラ・アガレスさま、リアスさま、ソーナさまの若手悪魔四人を称した名称です。近年を顧みても破格のルーキーが集まった豊作の世代と言われてます)
(へぇ、そうだったのか。でも、確かにサイラオーグさんとかめちゃくちゃ強いもんな。木場もメキメキ強くなってきてるし)
(イッセーさま、ご自身のことが抜けてますわ)
(俺?)
レイヴェルの言葉につい聞き返す俺。
会話を聞かれたのか、メフィストさんが大きく頷いていた。
『うんうん。赤龍帝くんは異例とかそういうレベルじゃないからねぇ。一年も経ってない中での飛び級だし。それに、話に聞いたけど、ハーデスに宣戦布告したそうじゃないか。キミも大胆なことするよ』
あー、あれね。
そのことを知った皆から無茶するなって言われたっけな。
我ながら大胆なことしたかなって思うよ。
後悔はないけど。
「あの神様も色々やってくれたんで。少しくらいは仕返ししても良いでしょう?」
『いいねー。ハーデスもやり過ぎてるところがあるからね。僕は賛成だよ』
そんなやり取りをしているとアザゼル先生が部室に入ってきた。
「わりぃわりぃ、俺だけ会議が長引いてな。お、メフィストじゃねぇか!」
『やーやー、アザゼル。この間ぶりだねぇ。先にリアスちゃんと話をさせてもらっていたよ』
「ああ、魔法使い協会も大変なもんだな」
『まぁね。そっちは総督の座を退いてから生き生きしてるようじゃないか』
「そうでもないさ。うるさい見張り役がいてなぁ」
「うるさい見張り役って誰のこと言ってるんですかぁ?」
おっと、レイナがニコニコ顔で先生を睨んでる!
微笑みながら青筋浮かべてる!
怖い!
レイナに睨まれた先生はコホンと咳払いしながら、苦笑していた。
総督を退いてもレイナにはしっかり監視されてるんだな。
それにしても、先生もメフィストさんとは知り合いのようだ。
旧知の仲って印象だな。
そんな俺の視線に気づいたのか、先生が言う。
「俺とメフィストは長い付き合いでな。メフィストが悪魔側の旧政府と距離を置いている時期にグリゴリは独自の接触をさせてもらったのさ」
そりゃ、抜け目が無いことで。
この人らしいな
『グリゴリの情報網は大変役に立ったよ、アザゼル。今でも世話になってるしねぇ』
「お互い様さ。俺達も魔法使いの協会とパイプを持てて損はなかったからな」
そこからは俺達を置いて、あーだこーだと業界トークを始める二人。
ぶっちゃけ、中々に難しい話をしているようで、知らない単語がいくつも出てきた。
この二人の話は次元が違いすぎる!
しばらく話し込むこと数分。
『いやー、長くなってしまって悪かったね。それでは、キミ達と契約したいと言ってる魔法使いの詳細データを魔法陣経由で送るよ』
そう言いながらメフィストさんが指をくるくる回して、こちらに向けた。
すると、新たな魔法陣が展開されて、そこから書類が大量に降ってきた!
こ、これが魔法使いのデータ・・・・・?
かなりの量なんですけど!
皆と分担して整理していくが、まだまだ降ってくる!
中身を少しばかり覗いてみると、顔写真のようなものと、魔術文字で色々と項目があって、そこには長々文章が書かれていた。
履歴書みたいなものなのか?
書面に目を落としていた俺に木場が言う。
「最近の悪魔に対する魔法使いの契約っていうのは、まず書類選考なんだ。その後の選考は僕たちに委ねられるようになってるんだよ」
「就職活動みたいだな」
「ええ。就職活動ならぬ、契約活動といったところでしょうか。今はこれが主流なんですよ。昔は抜け駆けを目指す契約合戦をして、血塗れの時代なんてものもあったそうですから」
ロスヴァイセさんが山盛りの書類を抱えてそう付け加えてくれる。
そんな時代があったのかよ。
物騒だな・・・・・・。
今はそれを反省して平和的にやってるんだろうけど。
そんなことを思いながら送られた書類を指名された者ごとに仕分けていく。
一番多かったのはリアス。
とんでもない書類の山だ。
先生はその結果に至極当たり前といった面持ちだった。
「ま、当然だろう。リアスはグレモリー眷属の『王』。リアスと契約しておけば、眷属のおまえ達を動かせるかもしれないと踏むだろうからな」
リアスと契約できれば、色々とお得ってわけだ。
次に多いのはロスヴァイセさんだった。
「なるほど。魔法を研究する上で私の北欧で得た知識を欲しているのでしょう」
当のロスヴァイセさんは自分の評価を冷静に分析していた。
北欧は魔法に長けた世界だしな。
そう言われれば納得だ。
そして次に多かったのは――――俺だった!
マジか!
「イッセーは多くの武勲をあげているし、使い魔がかのティアマットだ。しかも、悪魔になって僅かな期間で飛び級も果たしたときている。多いのは当然だ。しかし、俺としてはもう少し伸びると思ってたんだが・・・・・・」
先生がふむと考え込んでいた。
この数を見てそういう感想が出ますか・・・・・・。
先生の中での俺の予想ってどうなってたんだろう・・・・・。
メフィストさんが言う。
『それでも十分多いけどねぇ。今回、伸びなかったのは赤龍帝くんの眷属が対象外だったことがあるかな』
「なるほど、そういうことか」
先生はその言葉に何やら納得したようで、美羽とアリスの方に視線を向ける。
美羽とアリスも頭に疑問符を浮かべていた。
『赤龍帝くんの眷属、特に僧侶の子は珍しい術式を使うみたいだからねぇ。キミと契約したがってた魔法使いは結構いたよ』
「ボクとですか・・・・・?」
自分を指差す美羽とそれに頷くメフィストさん。
『そうそう。残念ながら、キミ達はつい最近悪魔になったみたいだから契約の対象から外すことになってしまったんだ。まぁ、次の機会を楽しみにしてるよ』
メフィストさんはにこやかにそう言うが・・・・・・。
これまでの戦闘やら何やらで美羽のことも色々知られてるってことか。
下手に情報が漏れて面倒なことにならなければいいけど・・・・・。
俺の次にならんだのが、アーシア→木場→朱乃→ゼノヴィア→小猫ちゃん→ギャスパーという結果だった。
俺達のオファー具合を見て先生が口を開く。
「まぁ、一部予想と違ったが、大体はこんなもんだろう。リアスと契約出来れば一気に眷属であるおまえらを引き出せると考えた魔法使いが大勢だ。というより、リアス達を指名してきた連中の大半が雑兵だろうよ。この書類の山で光る魔法使いなんて数えるほどしかいないだろう」
『ハハハハ、ま、大半が雑兵さ』
言っちゃったよ!
先生はともかく、理事がそんなこと言っていいんですか!?
下から怒られるぞ!?
『ま、とりあえず、今回の書類はそれで全てだよ。めぼしい子がいたら、連絡をいただけるとありがたいねぇ』
今回はって・・・・・・ということは次もあるのね。
次もこんだけ多いとなると流石にげんなりするぜ。
書類に目を通すだけで嫌になりそうだ。
この山盛りの資料は持ち運べるはずもないから、転移魔法陣で家に送ることになった。
そんな中、メフィストさんが皆の手伝いをしていたレイヴェルに話しかける。
『そこの女人はフェニックス家の者かな?』
「は、はい。レイヴェル・フェニックスと申します」
問われたレイヴェルは丁寧に挨拶をかえす。
その振る舞いはまさに良家のお嬢様。
メフィストさんは顎を手でさすりながら言い始める。
『・・・・・これはうちの協会だけが掴んでいる極秘情報なんだけどね。どうにも「はぐれ魔術師」の一団が「禍の団」の魔法使いの残党と手を組んでフェニックス家関係者に接触する事例が相次いでいるんだよ』
――――っ。
ここで『禍の団』の名前が出てくるか。
しかも、フェニックス家の関係者と接触しているだと?
『フェニックスの涙が裏でテロリストに流通していたのは知っているね?』
それは知っている。
実際に曹操達英雄派が所持し、使用しているところを目撃しているからな。
レイヴェルは頷く。
「はい。一部の卸業者が裏取引をしていたと。ですが、それは、もう粛清されて流通は元に戻ったはずですが・・・・・・」
『いや、今も闇のマーケットで涙は売買されているよ。それも「フェニックス家」産ではない涙がね』
『――――っ!?』
なん、だと・・・・・・!?
フェニックス家産ではない涙が流通している!?
リアスが言う。
「純正ではないもの、偽物でしたら効果がないものと思われますが・・・・・・。まさか・・・・・」
メフィストさんはリアスの反応に首を縦に振る。
『その通り。その涙は純正に等しい効果を示しているんだ。ほら、これさ』
メフィストさんの手に小瓶が現れる。
『どうやって製造しているかは知らないけど、フェニックス産ではない涙が流通し、それに呼応するかのようにはぐれ魔術師がフェニックス関係者に接触をしている。お嬢さんも狙われるかもしれないから、気を付けてほしいと思ったのだよ』
「はぐれ魔術師達の居所は?」
俺が挙手して質問する。
しかし、メフィストさんは首を横に振った。
ま、潜伏先が分かってたら苦労しないか・・・・・・。
「俺の方もグリゴリであたらせる。なーに、レイヴェルにはそれは強い王子さまがついてるんだ、問題ないだろ。それに三大勢力の拠点の一つでもあるこの周辺は強力な結界やらが張ってある。そうそう侵入はされないだろう。レイヴェルもここにいて、王子さまがそばにいれば安心だ」
俺の頭をポンポン叩く先生。
王子さまって俺かよ。
「最近入手した情報なんだが・・・・・・『禍の団』の旧魔王派、英雄派の残党、魔法使い共を纏めようとしている輩がいるようだ。そいつが実質的な現トップらしいんだが・・・・・・」
先生が表情を険しくして言った。
そんな奴まで出てきたのかよ・・・・・・。
もしかして、偽物の涙の製造もそいつの指示か?
だとしたら、また大事になりそうな気がするぞ・・・・・。
ったく、次から次へと面倒な事が起ころうとする!
どうして平和ってのは長続きしないのかね!
メフィストさんが改まる。
『話がそれて申し訳なかったね。ということで、良い契約が叶うことを願ってるよ。それじゃあ、このへんで』
立体映像が消え、メフィストさんとの話は終わった。
魔法使いとの契約もあるけど、フェニックスの件が気になるな。
メフィストさんが言っていたようにレイヴェルに接触してくる可能性も十分にある、か・・・・・・。
・・・・・・一応の対策だけはしておこう。