お待たせしました!
明くる日の朝。
「どうだ、ミリキャス。人間界での悪魔の、俺達の生活は?」
朝食の席で味噌汁をすすりながら俺はミリキャスに訊いてみた。
一応、ミリキャスはリアスの眷属である朱乃や小猫ちゃん、ゼノヴィア、木場にギャスパー、そして俺の仕事ぶりを見てきた。
朱乃は会社の社長さんやらセレブの奥さまがお客で、悩み相談やらお茶の相手をしてストレス解消を担ってる。
アーシアと小猫ちゃんは癒しを求める人の話相手、コスプレ撮影会がメイン。
木場は働くお姉さんが主で、ストレス発散のための話相手や得意の手料理を振る舞うなど。
スケベな依頼を受けないのがもったいない!
ゼノヴィアは先日のような体を動かすタイプの依頼。
ギャスパーはパソコンでの応対だ。
人付き合いが苦手な人を対象にネットでの契約を交わしている。
まぁ、ギャスパーらしいといえばそうなるな。
ロスヴァイセさんは主婦からの依頼が多いな。
節約術からバーゲンセール必勝法を教えている。
・・・・・・・熱心に語るその姿を見てたら泣けてきた。
俺はというと、比較的まともな人からの依頼を受けて、その働きをミリキャスに見せた。
内容は・・・・・・限定フィギュアを買ってきてほしいという新人会社員からの依頼。
その日は仕事の都合で買いにいけないからと、俺に依頼が回ってきた。
・・・・・・別に悪魔に頼まなくても良いじゃん!、と思ってしまうだろうが、これも悪魔としてのお仕事だし俺の大事なお得意様だ。
断るわけにはいかないんだよね。
そういうわけで、俺はミリキャスを連れて長蛇の列に数時間並んだ。
とまぁ、こんな感じで人間界での悪魔の仕事ってそこまで悪魔って感じはしないものばかりだ。
「皆さん、楽しそうにお仕事をされていて、とても良いと思います。それに依頼人の方々も喜んでいて、お互いに気持ちの良いものだと感じました」
俺の問いにミリキャスは笑顔でそう答えた。
ま、確かに俺達の依頼人は何だかんだで満足してくれているもんな。
そんでもって、何度も依頼を出してくれている。
俺達と依頼人の間である程度の信頼が築けているからだろう。
「僕も将来は日本で活動してみたいです」
「それはいいことだわ。一度お兄様に言ってごらんなさい。きっと賛同してくれるわ」
リアスも微笑みながらミリキャスに頷いていた。
ミリキャスが日本で活動するとなると、リアスみたいに高校生になってからなんだろうな。
となると結構すぐになるのか?
小学生から高校生って早いもんな。
って、俺の場合は人より三年分長く生きているけど。
などと考えているとーーーーー
「イッセー、今日は空いているかしら?」
リアスが一つお願いをしてきた。
▽
「イッセー兄さま! 手合わせ、よろしくお願いします!」
俺と対峙するのはジャージに着替えたミリキャス。
気合いを入れている姿は中々に勇ましいものがある。
今から俺達は交流を深める意味も込めて模擬戦を行う。
「イッセー、ミリキャスと手合わせしてあげてくれないかしら? ミリキャスにも良い機会だと思うのよ」
というリアスのお願い・・・・・というよりは提案だ。
それを受けてミリキャスは「はい! ぜひお願いします!」と元気よくそれに応じた。
なんでもミリキャスは俺達やサイラオーグさんのように『修行する悪魔』という姿勢に好意的でミリキャス自身も普段からトレーニングはしているようだ。
あと、俺達が持つ『根性』に並々ならぬ関心があるとか・・・・・。
そういうわけで、この模擬戦が実現したわけだ。
他のメンバーはトレーニングルームの隅で俺達の模擬戦を見守っている。
ちなみに俺もジャージを着て動きやすい格好になってる。
流石に寝巻き姿でやるわけにもいかないしな。
「それでは、模擬戦はじめ!」
朱乃の号令で模擬戦が始まる。
俺は動かずにミリキャスの出方を待つ。
さてさて、ミリキャスはどうでてくるかな?
そう思慮しているとミリキャスが動く。
「いきます!」
「よし! どっからでもかかってこい!」
笑みを浮かべて応じる俺。
それと同時にミリキャスは地面を蹴って駆け出した。
ーーーー速い!
正直な感想だった。
子供とは思えないほどの速度で突っ込んでくる。
手元には紅いオーラ。
それをそのまま放ってくると思いきや、フェイントを混ぜ、俺のサイドから魔力を放ってくる。
それは紛れもなくリアスが使う滅びの魔力。
想像以上に魔力が濃い。
俺が半歩引いてそれをかわすと、滅びの魔力は地面に衝突しーーーー衝突した部分を丸ごと消滅させた!
地面にポッカリ空いたバスケットボール大の穴。
・・・・・子供が放つ威力じゃないな。
俺でも生身に直接受ければヤバいレベルだぞ、こいつは!
「えいっ!」
俺達が驚いている隙にミリキャスが間合いを詰め、魔力を放ってくる。
今度は散弾式か!
滅びの魔力は触れるものを消し去る魔力。
それはこんな小さな子供が放っても同じらしい。
・・・・いや、ミリキャスだからこそ、この年でここまでの力を持っているのかもしれないな。
サーゼクスさんとグレイフィアさんの子供。
あの二人の才能はミリキャスにしっかりと受け継がれているらしい。
俺は拳に気を纏わせて滅びの弾を撃ち落としていく!
普段なら俺も散弾式に打ち出すんだけどね。
今日は相手がミリキャスってこともあって自身にある程度の制限をかけることにした。
別にミリキャスを甘く見ているわけではなく、これも修行の一環として考えている。
次々と撃ち落としてく中ーーーーーミリキャスの打ち出した滅びの弾が突然軌道を変えた!
魔力の強さだけでなく、コントロールも出来ているじゃないか!
「ここで!」
ミリキャスが叫ぶと俺を取り囲むようにして滅びの弾が展開される。
「あ・・・・・・ヤベ・・・・・・」
体術に魔力制御、そして相手を追い込むこの戦い方。
才能だけじゃなく、ミリキャスの努力が伺えるな。
ミリキャスが手を突きだし、その拳を握ると俺を取り囲んでいた滅びの弾が一斉に俺へと降り注いだ。
これを一発一発撃ち落とすのは流石に数が多いか!
だから、拳に気を纏わせてーーーー一気に横に凪いだ。
ブオォォォォォォォォッ!
それにより生まれた突風が迫っていた滅びの弾を全て弾き飛ばす。
これにより、危機は脱した。
ふぅ・・・・・いやはや、ここまでとはね・・・・・・。
少し危なかったかも・・・・・・。
「相手が子供だからって油断し過ぎー」
おおっと、アリスからの厳しい一言!
うちの『女王』は手厳しい!
油断しているつもりはなかったんだけどね・・・・・・。
まぁ、それだけミリキャスが凄いってことさ。
事実、ミリキャスはこの年でここまでの実力を持っているんだから規格外と言ってもいいだろう。
当のミリキャスはというと、今ので結構な力を使ったのか少し息を切らしている。
それでも、構えを解かずに次の手を考えているようだ。
リアスの方に目をやるとこちらに微笑みを返してくる。
ーーーーー『ミリキャス派』
リアスから聞いた話に出てきた派閥の名前だ。
冥界の政治にはサーゼクスさんを支持する『サーゼクス派』なるものがあるんだが、その中に『ミリキャス派』と呼ばれる派閥もあるようだ。
既に多くの悪魔が目の前の幼い少年に注目している。
期待・・・・・・もあるんだろうが、それ以外のものまで感じてしまうのは気のせいではないだろう。
大人達の様々な思惑がこの子の背に重くのし掛かるというのなら、俺もそれを支えてやりたい。
ミリキャスの瞳を見ていると強くそう思えてくる。
俺は手を前に出して構えを取った。
「さぁ、ミリキャス! まだまだいけるな! 全力でぶつかってこい!」
「はい!」
▽
それから三十分ほどが経った。
「はぁはぁはぁ・・・・・・」
息をあげて床に座り込むミリキャス。
俺は基本的に自分から攻めることはせずにミリキャスの攻撃を流して、その隙をつくという戦法をとっていたんだが、三十分もついてこられるなんて大したもんだ。
ミリキャスは魔力が尽きるまで、あの手この手で攻撃を仕掛けてきた。
俺に何度転ばされようとも泣かずに立ち上がって向かってきた。
ところどころでアドバイスをしていたんだが、それにすぐ順応してくるのは才能の高さ故なんだろう。
「よくイッセーを相手に諦めなかったわ」
リアスからも誉められていた。
うんうん。
技や魔力もあるが、既に相当な根性が身に付いているようだった。
流石はグレモリー男子ってところかな?
「一度お風呂に入って汗を流してきなさい。イッセー、ミリキャスをお願いできるかしら?」
「いいよ。俺も結構動いたしね。行こうぜミリキャス」
「は、はいぃ・・・・・」
ハハハハ、ミリキャスもヘトヘトだな。
そんでもって、風呂の仕度を終えた俺とミリキャスは大浴場へ。
何でもない話をしながら互いの背中を流しあったんだが、なんというか弟が出来たように思えた。
妹とはまた違った感じだ。
「「あぁ~」」
と風呂に浸かり、二人で声を漏らす。
ミリキャスが言う。
「こうしてると僕に本当の兄弟ができたみたいに思えてきます」
「そうだな。俺には妹はいるけど弟はいないからな。ミリキャスみてたら弟が出来たように思えたよ」
「イッセー兄さまもですか?」
「おう」
笑みを浮かべながらミリキャスの頭に手を置く。
こういう感じは悪くない。
ミリキャスも良い子だしな。
ミリキャスは話題を変えて先程の模擬戦を振り返る。
「やっぱりイッセー兄さまは凄いです。僕の攻撃が全然当たらなくて」
うん、途中から少しだけ本気で避けてたりもしたもんね。
途中でアリスから「大人気ない」とツッコまれてしまったけど・・・・・・・。
俺は苦笑しながら言った。
「俺とミリキャスとでは経験も実力も違うからな。それは仕方がないさ。今はそうでもミリキャスだって、この先どんどん強くなってくる。そうなりゃ、俺もヤバいかもな」
「うーん、僕がイッセー兄さまに勝てるイメージがわきません・・・・・」
「最初はそんなもんさ」
俺も昔はそう思ってた。
例えばモーリスのおっさんだけど、昔はおっさんに勝てるなんて思えなかったもんな。
・・・・・今でもやり合えば危ない気はするが。
あのおっさん、チート過ぎるんだよ!
純粋な剣術だけであれだから!
「ところで、イッセー兄さまはリアス姉さまと結婚するのですか?」
「げほっ!?」
不意打ち過ぎる質問に咳き込む俺!
ちょ、ミリキャス君!?
「なんでそんなことを!?」
「この間、父さまがそのようなことを」
サーゼクスさん!?
ミリキャスに何を言ったんですか!?
リアスの嫁入り宣言は受け入れたから間違ってはいないが・・・・・・・。
ってか、なんでサーゼクスさんは知ってるの・・・・・・。
あ、そうか、アザゼル先生だな。
あの人、あの現場にいたわ。
その時、背後に野性的なオーラを感じられた。
そちらを向けば浴場の扉のところに二メートル以上はある巨漢が立っていた。
逆立ったオレンジ色の髪と分厚いコートが特徴的だ。
その男には見覚えがある。
確か――――
その男はこちらに視線を向けると笑みを浮かべた。
「おー、いたいた。若と坊っちゃんは随分仲がいいみてぇだな」
「セカンド、勝手にお風呂場に入るなんて失礼ですよ?」
次に登場したのは紅色のローブに身を包んだ男性、それから羽織を着た日本人らしき男性。
巨躯の男に一言告げたのは羽織の男性だ。
どちらにも見覚えがある。
あの魔獣騒動で力を貸してもらった人達だ!
「皆さんもこちらに来たんですね!」
ミリキャスは声を弾ませていた。
ミリキャスにとっては馴染みのメンバーなんだろうな。
だって、この人達は―――――
「先日はどうも。ルシファー眷属の皆さん」