[木場 side]
僕達は何が起こったのか全く理解できなかった。
ヴァーリやサイラオーグ・バアル、そして戦闘中の曹操でさえ眼を見開き、驚愕に包まれていた。
聖槍に貫かれた瞬間、イッセー君の体が赤い粒子になって霧散したからだ。
イッセー君が・・・・・・消えた?
だけど、あれは聖なる力で悪魔が消滅したとか、そんなものではないだろう。
現に曹操の表情がそれを否定している。
では、イッセー君はどこに・・・・・・
全員が辺りを見渡した、その時。
「っ!」
ヴァーリが驚愕の声を漏らした。
その視線は曹操、その背後に向けられている。
そこでは先程の赤い粒子が集まって、何かを形作っていた。
そこから現れたのは――――
「おおおおおおおおっ!!!」
生身の状態のイッセー君が籠手からアスカロンを抜き放ち、曹操に斬りかかる!
あまりもの出来事に思考が付いていっていないのか、曹操は対応が遅れ、その斬戟を受けてしまった!
鮮血が宙に舞う!
あの曹操が今回の戦いで初めて大きな傷を受けた!
「ぐっ! ・・・・・・くそっ!」
曹操が例の球体を操り反撃しようとするが、イッセー君はその前に曹操の胸ぐらを掴み、頭突きを繰り出した!
鈍い音がこちらにまで聞こえてくるほどだ。
そして――――
イッセー君の渾身の左拳が曹操の顔面目掛けて放たれた。
[木場 side out]
▽
ドッゴォォォォォォオオオオオオン!!!
ビルの屋上が崩落し、大きな地響きが響き渡る。
「はっ・・・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・・」
息を荒くして、肩を上下させながら俺はその様を見ていた。
疲労が半端じゃない。
天翼どころか、禁手すら解けちまった。
一休みしたいところだが、そんな暇はない。
曹操を追いかけないと。
俺は曹操を叩きつけたビルに降りると、瓦礫に埋もれている曹操を発見した。
左肩から腹にかけて大きく斬り裂かれたおかげで、夥しいほどの出血。
剣から伝わってきた感触からして、骨まで届いてるな。
右目も血を流し完全に潰れてる。
メデューサの眼は厄介すぎるから、そこを狙わせてもらった。
「がはっ・・・・・な、んださっきのは・・・・・・・っ!」
血反吐を吐きながらぐぐっと上体を起こす曹操。
激痛に耐えながらも、先程の現象について思考を巡らせているようだ。
恐らく考えたところでその答えに行き着くことはないだろう。
ズタボロの曹操から視線を受けた俺はその疑問に答えた。
「俺の全てを気として昇華させた。一度、肉体を分解してな。名付けるなら『量子化』ってところか」
「まさか・・・・・っ!? そんなことが・・・・・いや、出来たとしてもそれは・・・・・・!」
信じられないといった表情だな。
まぁ、仕組みを理解できたなら当然の反応だ。
なんせ俺がしたことはほとんど自殺行為。
ミスをすれば体は元に戻らず、そのまま消滅してしまうだろうしな。
だけど、俺には出来ると確信できるものがあった。
「第三階層――――天翼の特性は俺が持つ剣、イグニスの能力を最大限に引き出すこと、次に攻防一体の戦闘を可能にすること。そして――――気のコントロールを極限まで高めること」
まぁ、消耗が激しい上に精神をかなりすり減らす技だからな。
天翼の状態でも、本当にここぞと言うときにしか使えない。
ロンギヌス・ライザー同様、連発は無理だ。
「・・・・・だとしたとしても、実際にそれを行うなどどうかしているとしか言いようがない」
「確信があるなら話は別だろ? それにな、あそこで泣かれたら実行するしかないだろ。死ぬわけにはいかないからな」
美羽に泣きながら「死なないで」と言われてしまった。
だとしたら、少しの危険くらい乗り越えないとダメじゃないか。
俺はアスカロンの切っ先を曹操に向けた。
「さて、どうする? フェニックスの涙を使うか? どうせ持ってるんだろ? こっちは受けた負傷の回復は済んでる」
量子化して、体を再構築する時に負った負傷は元に戻しておいた。
疲労は最高潮だが、痛みはない。
「どこまでも規格外な男だ。フェニックスの涙を使ったとしても、こちらは血を流しすぎた。普通にやればごり押しでやられるかもしれない」
曹操は聖槍を杖にして立ち上がる。
ま、そうだろうな。
あれだけの血を失えば、傷を塞いだとしてもまともに戦えるかどうか。
こっちは量子化したせいで禁手は解けてしまったが、通常の禁手くらいならまだ保てる。
・・・・・それでも数分が限度だろうけど。
「・・・・・・ならば『
――――っ!
曹操の言葉に驚愕を受ける俺。
「君が奇跡を起こしたというならば、俺も奇跡を起こして見せよう」
曹操は震える手で槍を構えると、唱え出した。
「槍よ、神を射抜く真なる槍よ―――。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ―――。汝よ、意思を語りて、輝きと化せ―――」
曹操の口にした呪文と共に聖槍の先端が大きく開ききり、そこから莫大な光が輝く。
この聖なるオーラの出力はヤバいな・・・・・・。
ヴァーリの話では『覇龍』と近くて遠い能力と言っていた。
能力はまるで分からないが・・・・・・『覇龍』は暴走をもたらす破壊の化身。
近いとするなら、曹操も莫大な力と引き換えに暴走するのか?
俺はアスカロンを構え、警戒を強める
すると―――――
徐々に槍の光が弱まっていく。
・・・・・大きく開いた槍の先端も普通の状態に戻っていった。
曹操はそれを見て―――目を見開き、絶句している。
「・・・・・発動・・・・・しない?」
不発か?
聖槍から感じられるプレッシャーが小さくなり、曹操の禁手さえ解かれてしまった。
「・・・・・なるほど、それがあなたの『遺志』か。俺の野望よりも赤龍帝を選んだというわけだな」
「どういうことだ?」
曹操の言葉の意味が分からなかった俺は怪訝な表情を浮かべながら尋ねた。
曹操は息を吐きながら答えた。
「・・・・・『覇輝』は聖書の神の『遺志』が関係する。亡き神の『遺志』はこの槍を持つ者の野望を吸い上げ、相対する者の存在の大きさに応じて、多様な効果、奇跡を生み出す・・・・・。それは相手を打ち倒す圧倒的な破壊力であったり、相手を祝福して心を得られるものであったりする。――――だが、君に対する『覇輝』の答えは静観・・・・・・いや、それどころか俺から力を奪った」
力を奪った・・・・・・。
聖槍が・・・・・・曹操を拒んだのか?
「つまりは聖槍が俺の勝ちを認めたと?」
「そう言うことだ。今後も俺の野望を見たいのなら、聖槍は俺を回復させるか、もしくは絶大な力を発動させただろうからね・・・・・・」
なるほど・・・・・・。
とにかく、その聖書の神の『遺志』とやらはこの勝負の決着はついたと言っているわけだ。
曹操の話から察するに今の奴では禁手は発動出来なさそうだな。
「一つ・・・・君に問いたい」
曹操が地面に片膝を着きながら訊いてくる。
「なんだ?」
「君は・・・・・俺が京都で自身の英雄としての在り方を語った時にそれを真っ向から否定したな。そこで君に問いたい。君にとって英雄とはどのような存在なのだ?」
―――人間の極みであり、強大な異形を倒す存在。それが英雄と呼ばれる者達だろう?―――
曹操が京都で俺に言った言葉。
英雄とは何か。
俺は曹操の意見を真っ向から全否定した。
間違っている、と。
俺が見てきた英雄はそんなものじゃなかったから。
「おまえさ・・・・・・誰かから声援をもらったことあるか?」
「・・・・・・?」
俺の唐突な問いに曹操は眉をしかめ、怪訝な表情を浮かべた。
そんな曹操に核心を付いた問いを投げ掛けた。
「おまえは誰かに『英雄』って呼ばれたか?」
「―――――っ」
眼を見開き、言葉を詰まらせる曹操。
そんな曹操に向けて俺は言葉を続ける。
「俺の中で英雄ってのはさ、自分から名乗るものじゃないんだ。いや、もっと言えば英雄は自らが望んでなるものじゃない。・・・・・・俺も英雄だなんだと言われてきたけど、自分が英雄だなんて思ったことは一度もない」
例えばアスト・アーデのこと。
皆は俺がしてきたことを偉業だと言ってくれたけど、大したことはしていないと思ってる。
そもそも、皆の力が無ければ平和には辿り着けなかったはずだ。
ここまで来れたのは皆のお陰なんだ。
「超常の存在に挑むのが英雄? それは結果だろ。その英雄達は誰かを守り、強大な敵に打ち勝った。決して自分のために力を振るったりはしなかったと思うぜ? ―――――英雄は自ら望んだ時点で英雄にはなれない。例えそれが英雄の子孫だったとしてもな」
「・・・・・聖槍に選ばれ英雄の血を引く俺は英雄でなければならない。そう考えていたのだが・・・・・俺が君に劣った理由はこれか。俺は英雄の血に拘りすぎたんだな・・・・・」
そう呟くと曹操は自虐気味に笑みを浮かべた。
その時、俺達の元に姿を現す者がいた。
純白の鎧に身を包んだ男――――ヴァーリだ。
崩壊した屋上から降りてきて、膝をつく曹操を見下ろしていた。
「・・・・・どうした曹操。以前のような覇気が感じられないな」
「やぁ、ヴァーリ・・・・・・。君のライバルは最高だな。俺の精神をことごとく砕かれてしまった」
「曹操にはやらないさ。『覇輝』は失敗したようだな。先程使ったのだろう?」
「・・・・・ああ。聖槍に眠る聖書の神の『遺志』は兵藤一誠を選んでしまったよ」
ヴァーリがそれを聞いておかしそうに笑う。
「なるほど。やはり、あの疑似空間で倒しておくべきだったな。どうやら赤龍帝兵藤一誠を倒す権利は俺にあるらしい」
「・・・・・俺が倒したかったけどな」
・・・・・・おまえら、ホモホモしいこと言って俺の取り合いとか止めてくれない?
キモい!
トドメさしちゃうぞ!?
「ああ、そうだな。兵藤一誠は俺が倒す」
「僕の友達は大人気だね」
ああっ!?
ここにきて雄度が増しやがった!
サイラオーグさんと木場まで来るのかよ!
なんてこった、嫌な空間が完成しちまった・・・・・・。
なんで・・・・・てめぇら、俺に熱い視線を送ってくるんだよぉぉぉぉおおお!!
帰りたい・・・・・・皆のところに帰りたい・・・・・・。
美羽達のところに帰りたい・・・・・・!
あー、美羽に抱きついてぎゅってしたい!
「・・・・二天龍、獅子王、聖魔剣・・・・・流石にこの状態で相手取るのは無謀か。いや・・・・・俺はもう戦えないか? レオナルドを失った時点で俺は詰んでいたかもしれないな。・・・・・それ以前に君達にちょっかいを出したのが運の尽きか・・・・・」
その時、俺達を見覚えのある霧が覆う。
霧の中から人影を視認した。
「・・・・・帰還しよう、曹操」
曹操のもとに現れたのは――――ボロボロのゲオルク。
片目と片腕を失い、左足も黒く変色している。
ギャスパーにやられた傷か・・・・・・。
「ゲオルクか・・・・・・」
「・・・・・俺達は大きくは間違ってはいなかった・・・・・だが・・・・・・」
ゲオルクが何かを言いかけるが、曹操は首を横に振った。
「・・・・・いや、俺達は初めから間違っていたようだ・・・・・。『英雄』という言葉の意味を真に理解していなかった・・・・・・。それが俺達の敗因だ・・・・・・」
「・・・・・そうか」
曹操の手を取り、転移魔法陣を展開するゲオルク。
サイラオーグさんと木場が取り押さえようとしたが―――聖槍が目映い光を発して俺達の視界を奪った。
なんだよ・・・・・奪われたとか言いながらまだこれだけの力を残してたのか。
聖なるオーラに身を焦がしながら突き出したサイラオーグさんの拳が空を切った。
聖槍の光に目をやられたせいで、僅かに遅かったようだ。
英雄の子孫達はその場から消えていた―――――。
▽
「君なら追いかけると思ったんだけどね。なぜ、曹操達を追いかけなかった?」
ヴァーリがそう尋ねてきた。
俺はアスカロンを籠手に収納した後、大きく息を吐いた。
「放っておいてもあいつは暫く立ち上がれないさ。あいつの中にあった芯はへし折ったからな」
「そうか。だが、あの男は聖槍に選ばれた者だ。再び君の前に立ちはだかるかもしれないぞ?」
「その時はまた真正面からぶん殴ってやる。英雄の意味を理解しないままにその力を振るうなら、今度こそ二度と立ち上がれない程にな」
俺も甘いというか・・・・・・。
皆には悪いけど、その時は俺が責任を持って必ず仕止める。
俺の言葉にヴァーリは笑みを浮かべるだけだ。
『ドライグ・・・・・おまえ・・・・・』
『言うな、アルビオン・・・・・・俺も泣きたいのだ・・・・・。なんで、乳で回復するんだ・・・・・・!』
うおぉい!
いきなりシリアス壊すようなこと言わないでくれるかな、ドライグさんよ!
いや、確かにドライグにとってはショッキングなことだったかもしれないけどさ!
と、新たな気配がここに現れた。
転移魔法陣から姿を見せたのは紳士な出で立ちのアーサーだった。
「ヴァーリ、皆こちらに来ています。予定通り、一暴れしてきましたよ」
「そうか、すまんな」
ヴァーリが踵を返して去っていく。
アーサーが木場に視線を送っていた。
「木場祐斗。私が探し求めていた聖王剣コールブランドの相手として、あなたが一番相応しい剣士のようです。ヴァーリが兵藤一誠との決着をつける時、私もあなたとの戦いを望みましょう。それまではお互い、無病息災を願いたいものですね」
そう言い残してアーサーはヴァーリと共に去っていった。
木場もアーサーの挑戦を受けて、不敵な笑みを見せていた。
俺は木場が腰に帯剣している魔剣達を見下ろした。
本当、こいつ短期間でどこまで力を伸ばすんだよ・・・・・。
第二階層に至るわ、魔剣はゲットするわ・・・・・・。
今度、見せてもらうか。
「さて、俺も眷属を待たせているのでな。そろそろお暇させてもらおうか」
サイラオーグさんが窓際の方に足を向ける。
「お疲れさまでした、サイラオーグさん。それではまた」
「うむ。次合うときはお前が上級悪魔になってからになるか?」
「あははは・・・・・・。受かっていればの話ですけど・・・・・」
「心配せずともおまえなら問題ないだろう。合格したらバアル領に来い。祝杯をあげよう」
そう言ってサイラオーグさんは窓から飛び降りていった。
「僕も皆を呼んでくるよ。イッセー君はここで休んでいて」
木場もそう言うなり、窓から降りていった。
一人だけになった俺はその場に座り込んだ。
「あぁ・・・・・疲れた・・・・・」
・・・・・・量子化の影響で体がメチャクチャ重い。
『当たり前だ。あのような技だ。・・・・あまり多用はするなよ?』
分かってるよ。
俺だってあんまり使いなくないしな・・・・・・。
帰還早々、ロンギヌス・ライザーに量子化か。
色々無茶したなぁ・・・・・。
とりあえず、木場が皆を呼んでくるまでここで待とう。
出来るだけ今は動きたくない。
背中を後ろに倒し、横になろうとすると後頭部に柔らかいものが・・・・・・。
「お疲れさま」
「おー、イグニスか。って膝枕してくれるのか?」
「こんな瓦礫が散らばるところで寝たら頭痛いでしょ?」
「そりゃそうか」
イグニスの意見に同意だ。
イグニスは髪をすくようにしながら俺の頭を撫でると微笑みながら言った。
「にしても昇格試験が終わってから怒濤の展開だったわね。バトル続きじゃない」
「全くだ」
暫くはゆっくりしたいところだぞ。
つーか、休ませてくれ。
試験勉強の次は激戦とかマジで怒濤だった。
その中にはイグニスのシャレにならないドッキリもあったが・・・・・・。
一度、こいつにお仕置きしてやろうか?
「赤龍帝、寝てる?」
俺の手に触れる者がいた。
見ればいつの間にかオーフィスの姿が。
「起きてるよ、オーフィス」
そういや、オーフィスも何だかんだでイグニスのドッキリに付き合ってたな・・・・・。
うん、やっぱりオーフィスにイグニスは近づけるな危険だ。
何を教えるか分かったもんじゃない。
はぁ・・・・・今後、対策を考えないとなぁ。
「帰ろうか、オーフィス。俺達の家に―――皆でな」
「我、赤龍帝の家に帰る」
オーフィスが浮かべていたのは可愛らしい笑顔だった。
何はともあれ終わったな。
後は帰って――――
あっ・・・・・ヤベ・・・・・・・
中間試験が残ってたか・・・・・・・・泣けるな。
俺は辛い現実に涙を流したのだった。
▽
[アザゼル side]
『超獣鬼』と『豪獣鬼』の殲滅に成功した報告を聞き、この場の緊張状態も収束の方向に向かいつつあった。
勝利の報告を知ったサーゼクスも滅びの魔力を消して、元の姿に戻っている。
イッセーの帰還を知ったとき、相当滅びの魔力の怒りの色を薄めていた。
ま、それは俺も同じなんだが・・・・・・。
イッセーのやつ、帰還の仕方もとんでもないが、帰還早々にやってくれるぜ。
まさか、ハーデスに宣戦布告するとはな。
グレイフィアから映像を送られた時は何事かと思ったが、まさかあんなことをするとは予想すら出来なかったぜ。
冥界の空を貫く光の柱。
映像だけでも十キロメートルはあるんじゃないかと思わせるあの巨大さ。
更にはこちらまで波動が伝わってくるほどの力。
・・・・・・神クラスをも容易に消し飛ばすことが出来るのは明らかだ。
神滅具・・・・・神をも殺す力の本領発揮ってところか。
あの映像を見たハーデスと周囲の死神共は完全に動揺していた。
他の死神はともかく、ハーデスが動揺するところなんざ、中々に見れたもんじゃない。
俺としては映像に残して各神話のトップ陣にばらまいてやりたかったね。
ヴァーリチームも一暴れしたら颯爽と退散していった。
相変わらず見事な手際だ。
うちのところの刃狗も退散させている。
もうこの場では必要ないだろうからな。
ハーデスを消滅させるような事態にならなかったのは幸いだった。
腐っていてもこいつは冥府の神。
世界には必要な存在だ。
消滅すれば各世界に大きな影響を与えてしまう。
本音?
そんなもん決まってる。
消え去れクソジジイだ。
まぁ、本音を胸の内に仕舞い込むのも大人には必要なことなんでな。
我慢はするさ。
さて、ハーデスに文句と警告だけ述べて帰ろうかというときだった。
死神が一名ハーデスに報告を述べる。
《ハーデス様、神殿内の死神の大多数が凍り漬けにされております》
《・・・・・・貴様の仕業か、ジョーカー》
ハーデスが眼孔を危険な色で輝かせる。
とうのデュリオは自身の肩を揉んでいた。
「まぁ、これくらいはね。何かしとかないとミカエル様に怒られてしまうんで。怪しい死神さんだけを凍らせちゃおうと思ったんスけどね。めんどいんで、神殿内にいるのはテキトーに凍らせてみましたよ。手癖が悪くてすんません。どーも、アーメン」
相変わらずの飄々とした態度に軽口だ。
――――しかし、強い。
このデュリオという天界の切り札は抜きん出ているな。
流石に切り札、ジョーカーに選ばれるだけはある。
何はともあれハーデスの横やりを未然に防げた。
この骸骨は絶対にやろうとしてただろう。
それを防げたのは大きい戦果だ。
「ま、サマエルの件は追々追求させてもらうぜ」
俺の宣告にハーデスは何も答えなかったが・・・・・・。
去り際にサーゼクスが口を開く。
「ハーデス殿、これで失礼します。今回は突然の訪問、誠に申し訳なかった」
サーゼクスは丁寧に非礼を詫びるが、その直後に強烈なプレッシャーを放った。
「それでもあえて言わせていただく。――――二度目はない。次はあなたを消滅させる」
《ファファファ、良い目をしよるわ。ああ、よく覚えておこう》
楽しげに笑ってるがよ、次があったら本当に消滅させられちまうぜ、骸骨爺さんよ。
うちの勇者様と紅髪の魔王をキレさせたら、それぐらい躊躇なくやっちまうだろうからな。
▽
冥界と冥府を繋ぐゲートに辿り着いた頃。
デュリオは天界に戻り、俺とサーゼクスのみとなっていた。
「俺も再就職先を見つけないとな」
俺の言葉を聞いてサーゼクスは目を細めた。
「・・・・・やはり、そうなるのか」
「ああ、オーフィスを独断でイッセー達に会わせたのはどう考えても条約違反、免職を免れない事柄だ。俺は――――総督を降りる」
「しかし、オーフィスがこちらに来た事実は大きな事態だ。偉業と言ってもいい」
「引き込んだのはイッセーだろ」
あいつの人を惹き付ける力はここまで来たかと正直驚きを隠せないでいる。
もう、いろんなものがあいつを無視できないだろう。
「だが・・・・・」
サーゼクスが何かを言おうとしたので、俺は手を突きだしそれを制した。
「良いんだよ。俺は俺だ。ちょっとばかり肩書きがかわるだけだ。それと前線に行くのはもう引退する。おまえやミカエルのおかげで良い教え子が出来たからよ。そいつらの面倒を見るだけで余生を過ごせるさ」
イッセー達オカ研メンバーにヴァーリとそのチームがいりゃ、俺が戦わなくてもいいだろうよ。
今後はあいつらのサポートに徹するとするさ。
サーゼクスが可笑しそうに吹き出した。
「急に年寄り臭くなってしまったな」
「見た目若いけど、結構年寄だぜ俺。おまえが生まれる前から存在するんだからな。そこはキミ、年長者を立てたまえ」
「そうだな。今後はそうしたいと建前上は言っておこう。・・・・・・だが、アザゼル。引退する前に嫁は取っておいた方が・・・・・」
「うるせーーーー!!」
どいつもこいつも顔を会わせりゃ二言目には嫁嫁言いやがって!
そんなに独り者を苛めたいのかクソッタレめ!
ちっ!
まぁ、いい!
とりあえず、今回の事件は終わりだ。
今度、バカ共を連れて温泉旅行にでもいくとするかね。
いや、その前に昇格試験の発表があったな。
木場と朱乃は問題ないだろう。
残るはイッセーだが・・・・・・さてさて、どうなることやら。
[アザゼル side out]