「快適」
胡座をかいた俺の上でオーフィスがお座りしている。
くつろいでいるようで・・・・・
『超獣鬼』を倒した俺達は、後のことはグレイフィアさんに任せて都市部の方に向かっていた。
そんでもって、俺と美羽、アリス、そしてオーフィスの四人はドラゴンの姿となったティアの背に乗って移動していた。
オーフィスと同じ感想になってしまうが、ティアの上は中々に快適だ。
街を見渡すと至るところから煙や火が上がっていて、道路や建物も破損しているものが多く見られる。
「敵さんも随分暴れてくれたみたいね」
「『禍の団』・・・・・グレモリー領にも旧魔王派の残党、英雄派の構成員がいたからね。向こうにとっては拠点を落とす絶好の機会だし」
アリスと美羽が街の被害状況を見ながらそう呟く。
ま、そうだろうな。
特に旧魔王派なんかは調子に乗って暴れたんだろう。
何と言ってもあのシャルバのクソ野郎が所属してた組織だし。
人の気配が感じられないのは、避難が完了したからだと思いたい。
最低でも死人は出ていて欲しくないと切に願うよ。
「・・・・・西の方」
足の上にお座りしているオーフィスがとある方向を指差してそう告げた。
「西? あー、なるほど・・・・・・確かにリアスや木場の気配が感じられるな。って、覚えていたのか?」
「アーシアとイリナの気配、覚えた」
おー。
流石は龍神様だ。
俺はオーフィスの頭を撫でながらティアに言う。
「そう言うわけでティア。西の方に頼むよ」
「了解だ。・・・・・・しかし、イッセーよ。オーフィスになつかれたのか?」
なつかれた・・・・・・・かな?
どうやらオーフィスは俺の膝の上が気に入ったみたいなんだよね。
さっきからここを離れようとしないんだ。
まぁ、俺としては可愛いからこれで良いんだけど・・・・。
小猫ちゃんみたいだ。
それから少し経った時だった。
皆のオーラを近くに感じた。
更に進むと人影が視認できた。
おー、いたいた!
リアスにアーシア、朱乃、小猫ちゃん、木場、ゼノヴィア、イリナ、レイナ、ロスヴァイセさん!
匙とソーナ!
そして、サイラオーグさんにあのでっかい獅子!
気になるのがギャスパーなんだけど・・・・・・気絶してるのか?
皆も俺達のことに気づいて上を向いた。
俺はティアの背中から飛び降り、皆の前に着地!
いやー、ようやく帰ってこれたぜ!
「悪いな、遅く―――」
俺がそこまで言いかけると、俺の元にリアス、アーシア、朱乃、小猫ちゃんが駆け寄ってきて、抱きついてきた。
「よく・・・・・帰ってきてくれたわ」
「イッセーさん! イッセーさんイッセーさんイッセーさん!」
「・・・・・私を置いていかないで・・・・・あなたのいない世界なんてもうゴメンなのだから・・・・・」
あらら、皆、大泣きしちゃってる。
美羽達の時と同じだ。
「うん、私も泣いてないぞ。私が選んだ男は死んでも死なないからな」
「なによ! 泣いてるじゃない! 私は無理せずに泣くもん! うぇぇぇぇぇんっ!」
「グスッ・・・・・良かった・・・・・本当によかったぁぁぁああ!」
ゼノヴィアとイリナとレイナは涙ぐんでいる様子だった。
心配してくれてありがとうよ!
・・・・・と、言いたいところだが・・・・・
う、うーん・・・・・・ここまで心配かけてたとなると、言いづらい。
新技使って気絶してただけだもんな・・・・・・。
いや、ここは正直に言って謝るとしよう!
「やはり無事だったのですね。流石です」
ロスヴァイセさんも俺の帰還を喜んでくれていた。
「まぁ、そう簡単には死にませんよ」
俺も笑顔でそう返す。
実際、あんな奴に殺られるほど柔な鍛え方はしてないってね。
「あの現象はやはりおまえが起こしたものなのか?」
サイラオーグさんが少し離れたところからそう尋ねてきた。
あの現象・・・・・?
サイラオーグさんが指差すのは上――――真っ赤に染まった空だ。
そういやロンギヌス・ライザーの影響がまだ残ってたな。
「ええ。さっき『超獣鬼』倒したときに少し」
にしても、あれから時間経ってるのにこれだけの範囲に影響が残り続けるってスゲーよな。
これがイグニスの力、か・・・・・・。
本来の力はどれ程のものか気になるな。
『それはイッセーが今よりももっと強くなってからよ』
今よりももっと・・・・・。
一体どれほどの力が必要になるのか、想像するだけで恐ろしい。
『あわてる必要なんてないわ。今でも十分に強いんだし、ゆっくりと鍛えていけば良いのよ』
それは分かってるんだけどさ・・・・・・
『どうかしたの?』
うん、まぁ、なんと言うか・・・・・イグニスの本当の名前ってのが気になっててさ。
いつかはその名前で呼んでみたいって思ってるんだ。
『ふふふ。そうね。私もイッセーに本当の名前で呼んでもらいたいかも。――――あなたなら、いつかはそこに辿り着ける。私はその時が来るまでのんびり待ってるから』
そっか・・・・・。
それなら、待っててくれ。
その名前で呼ぶ日が来るように俺も頑張るよ。
「やっぱりあれはイッセー君の仕業だったんだね」
声をかけてきたのはギャスパーを抱き抱えてる木場。
ギャスパーのやつはスヤスヤ寝息立ててるな。
あれ?
木場の雰囲気が変わったような・・・・・・。
あの疑似空間で別れるまでとはどこか違ってて・・・・・・。
木場が近づいてきたら急に寒気が・・・・・。
「なんか変わった・・・・・か?」
「まぁね。イッセー君や皆のお陰さ。僕も次のステージに辿り着くことが出来たよ」
――――っ!
ってことは木場も第二階層へと至ったのか。
道理で雰囲気が違うわけだ。
「やっぱりおまえはスゲーよ。禁手を得てからの成長早すぎだろ」
俺が笑いながら言うと、木場は微笑みながら首を横に振った。
「いや、まだまだだよ。僕の目標はイッセー君だからね。これからも精進していくつもりさ」
目標は俺ね・・・・・。
こいつのことだから、うかうかしてるとマジで抜かれそう・・・・・・。
お、俺も抜かれないように修行せねば!
顔で負けてる分、実力では勝っておきたい!
『やはりそこなのか相棒・・・・・』
そーだよ!
イケメン王子には一つでも多く勝っておきたい!
顔では勝てないから!
「シャルバはサマエルの血を使ってこなかったのかい?」
木場がそう尋ねてくる。
「あぁ、あの矢な。あんなもん食らうかよ。・・・・・ってか、なんでそのこと知ってるんだ?」
「ジークフリートが言っていたんだ。だからそこが気になってたんだけど・・・・・・やっぱりイッセー君は凄いや」
ジークフリートから?
あっ、木場の腰にあいつが使ってた魔剣が!
しかも、グラムまで持ってやがる!
・・・・・さっきから感じてた寒気はこれかよ・・・・・
とりあえずグラムは異空間にでも仕舞ってもらうとして、ジークフリートは木場が倒したのかな?
何にしても第二階層に至るわ、強力な魔剣はゲットするわで少し会わないうちにメチャクチャ強化されてないか!?
「ところでイッセー君はこの二日間なにを? 君がそれほど時間を要した理由が少し気になるんだけど・・・・・。あ、もしかしてあの疑似空間に残った『豪獣鬼』と戦っていたのかい?」
うっ・・・・・・
ここでそれを聞いてきますか・・・・・・。
ま、まぁ、確かに皆にも心配かけたし説明する義務はあるよね・・・・・・。
俺の後ろで美羽とアリスとティアの三人がため息ついてる・・・・・・。
と、とりあえず、初めから話そうか。
あのデッカイ怪獣と戦ったのは事実だしな。
「実はな――――」
『私とオーフィスちゃんとにゃんにゃん』
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
この後、事情を知らないオカ研女性陣から問い詰められたのは言うまでもない。
▽
「はぁ・・・・・・。なんと言うか心配してたのがバカらしくなりました」
ロスヴァイセさんが呆れたと言わんばかりの表情でため息をついていた。
「兵藤ぉぉぉぉおおお!! 俺達が必死こいて戦ってる時にそんなことを! とりあえず一発殴らせろぉぉぉおっ!!」
匙なんてキレてるし・・・・・。
こいつ・・・・・・俺がイグニスとオーフィスの二人と裸でくっついてたところしか反応してねぇ。
ま、まぁ、確かに皆が戦ってる時にアホなことしてたのは認めるしかないよね・・・・・。
ただ、俺はほとんど無実だということをご理解していただきたい!
あと、殴らせはしない。
痛いし。
「ですが、あの『豪獣鬼』や『超獣鬼』を倒すほどの技です。イッセー君が消耗するのも無理はありません。同盟軍はアジュカ・ベルゼブブ様が作られた術式が無ければダメージを与えられなかったのですから」
ソーナが俺を擁護してくれた!
うぅ・・・・・なんか嬉しいなぁ・・・・・・俺を庇ってくれる人がいた!
「イグニス達とのことはともかく、イッセーが動けなかった理由は納得できたわ。流石はイッセーね」
リアスも頷いて納得してくれたよ!
流石は俺の主様だ!
「私はイッセーさんがご無事なら大丈夫です! イッセーさんが無事に帰ってきてくれただけで嬉しいです!」
アーシアぁぁぁああ!
なんて良い子なんだ!
ついついギュって抱きしめてしまうじゃないか!
恥ずかしそうにモジモジしてるアーシアちゃん、可愛いなぁ!
心の底から癒されるぜ!
「それにしてもグレートレッドと遭遇したというのは驚きです」
ロスヴァイセさんが唸る。
うん、俺も驚いたわ。
まさか、グレートレッドと一緒に帰ってくることになるなんてな。
「――――強者を引き寄せる力か。首都リリスを壊滅させるモンスターという情景を見学しに来たら、まさか、グレートレッドと共に君が現れるなんてね」
第三者の声が聞こえてくる。
振り向けばそこには曹操の姿。
・・・・・向こうから出向いてくれたか。
皆の気を探ったときにいるのは気づいてたからな。
事情を伝えたら、こいつを殴りに行こうと思ってたんだけど・・・・・・。
行く手間が省けたようだ。
曹操は倒れる仲間を見て目を細めていた。
「・・・・・僅かな間でここまでの成長を遂げたか。グレモリー眷属の成長率、ここまで来ると異常だな。ヘラクレスはともかく、『魔人化』を使用したジャンヌ、そしてジークフリートまでやられるとはね。・・・・・・ゲオルクもやられたのか?」
そうそう、俺も皆からここまでの経緯を聞いて驚いたことがいくつかあったんだ。
その一つはもちろん、木場の進化だ。
変な薬を使ってパワーアップしたジークフリートとジャンヌを倒したって言うんだからな。
それともう一つはギャスパーについて。
俺が死んだと言う誤報をゲオルクから聞かされたギャスパーはとてつもない覚醒をしたらしく、ゲオルクを瞬く間に倒してしまったらしい。
・・・・・ただ、その力は不気味で恐ろしいものだったと聞かされた。
言動すらギャスパーのものではなかったとのこと。
ギャスパーに眠る力・・・・・・一体何だと言うんだ?
曹操の視線が俺へと移る。
「旧魔王派から得た情報ではシャルバ・ベルゼブブはサマエルの血が塗られた矢を持っていたと聞いたのだが・・・・・」
「ああ、持ってたな。だがな、俺があんなもん食らうと思うか?」
「ふっ・・・・・確かにその通りか」
曹操は俺の言葉に納得したようで笑みを浮かべていた。
さてさて、こいつとこうして出会った以上は逃がすわけにはいかねぇな。
一歩前に出て、気を高めていく。
こいつは今まで散々やってくれたからな。
ここで決着を―――――
その時、俺の視界の隅で不気味な波動が出現した。
装飾が施されたローブ、道化師のような仮面をした者が現れる――――。
あいつは・・・・・・最上級死神のプルート!
鎧を纏った先生と互角にやり合ってた死神じゃねぇか!
《先日ぶりですね、皆さま》
プルートの登場に曹操が嘆息する。
反応からして予定外の登場のようだ。
「プルート、なぜあなたが?」
《ハーデス様のご命令でして。もしオーフィスが出現したら、何がなんでも奪取してこいと》
プルートの視線が俺の隣にいるオーフィスに注がれる。
ハーデスの野郎、まだオーフィスを狙ってやがるのかよ!
執着しすぎだろ!
俺はオーフィスの前に立ってプルートに鋭い視線をぶつけた。
「オーフィスは渡さない。おまえらに連れていかれたら、ろくでもないことになるのは目に見えているからな」
《赤龍帝・・・・・。ハーデス様に宣戦布告をしたようで。なんとも傲慢な方です》
「はっ! 何とでも言いやがれ。俺はな・・・・・仲間を傷つけられるのが一番腹立つんだよ・・・・・・ッ!」
俺が放った全力の殺気で路面にヒビが入り、空気が震え出す。
曹操をやる前にまずはこのむかつく死神から片付けようか――――。
「お前の相手は俺がしよう。―――最上級死神プルート」
――――っ!
再びこの場の誰でもない者の声が聞こえてきた。
俺達と曹操、プルートの間に光の翼と共に降りてきたのは、純白の鎧に身を包む男。
「ったく、ここで登場かよ――――ヴァーリ」
「悪いな、兵藤一誠。こいつは俺がもらうぞ」
なんでこうも次々に登場してくるのかね!
俺の帰還に合わせて総登場ですか!?
俺の目の前でヴァーリがプルートに言う。
「あのホテルの疑似空間でやられた分をどこかにぶつけたくてな。ハーデスか、英雄派か、悩んだんだが、ハーデスは美侯たちに任せた。英雄派は出てくるのを待っていたらグレモリー眷属がやってしまったんでな。こうなると俺の内にたまったものを吐きだせるのがお前だけになるんだよ、プルート」
そう言うヴァーリは普段と変わらない口調だが、語気に怒りの色が見えている。
プルートは鎌をくるくると回すとヴァーリにかまえた。
《ハーデス様のもとにフェンリルを送ったそうですね。先ほど、連絡が届きました。神をも殺せるあの牙は神にとって脅威です。―――忌々しい牽制をいただきました》
「いざという時のために得たフェンリルだからな」
《各勢力の神々との戦いを念頭に置いた危険な考えですね》
「あれぐらいの交渉道具がないと神仏を正面から相手にすることが出来ないだろう?」
《まぁ、いいでしょう。しかし、真なる魔王ルシファーの血を受け継ぎ、なおかつ白龍皇である貴方と対峙するとは・・・・・・。長生きはしてみるものですね。―――貴方を倒せば私の魂は至高の頂きに達するでしょう》
歴代最強の白龍皇VS伝説の最強級死神か!
「兵藤一誠は覇龍とは全く違う力を極めようとしている。だが、俺は違う」
ドンッ!
そう叫んだヴァーリが特大のオーラを纏い始める!
この野郎、開幕全開かよ!
ヴァーリはとんでもない質量のオーラを辺り一帯に放出しながら言う。
「俺は俺だけの道を極める。ーーーー歴代所有者の意識を完全に封じた、俺だけの『覇龍』を見せてやろう」
光翼がバッと広がり、魔力を大量に放出させる。
純白の鎧が神々しい光に包まれ――――
「我、目覚めるは―――律の絶対を闇に落とす白龍皇なり―――」
各部位にある至宝から闘志を宿した声が響き渡る。
こいつは歴代の白龍皇の声か。
『極めるは、天龍の高み!』
『往くは、白龍の覇道なりッ!』
『我らは、無限を制して夢幻をも喰らう!』
恨みも妬みも吐き出さない。
その代わりに圧倒的なまでの純粋な闘志に満ちていた。
戦いという意識を通じて分かりあったのか?
「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く―――我、無垢なる龍の皇帝と成りて―――」
ヴァーリの鎧が形状を少し変化させ、白銀の閃光を放ち始める。
「「「「「「汝を白銀の幻想と魔導の極致へと従えよう」」」」」」
『Juggernaut Over Drive!!!!!!!!!!!』
そこに出現したのは、極大のオーラを放つ別次元の存在と化したヴァーリだった。
周囲の建物、乗用車も触れていないのにそのオーラに潰れていく!
凄まじい力だというのに覇龍ほどの危険な雰囲気は感じない。
ははっ・・・・・なんて野郎だよ。
ヴァーリの野郎、覇龍を昇華しやがった!
「―――『
言い放つヴァーリに斬りかかるプルート。
残像を生み出しながら高速で動き回り、紅い刀身の鎌を振るう!
しかし―――――
バリンッ!
儚い金属音が響き渡った。
《ッ!》
驚愕するプルート。
たった一発、ただの拳で鎌が難なく砕かれたからだ。
そのプルートの顎にアッパーが撃ち込まれ、プルートを上空へと浮かばせる。
ヴァーリはプルートへと右手をあげて、開いた手を握る。
「―――圧縮しろ」
『Compression Divider!!!!』
『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!!!!!!』
空中に放り投げだされたプルートの体が、縦に半分、その次に横に半分に圧縮される!
さらに縦、横と半分に―――。
プルートの体が瞬時に半分へ、また半分へと体積を減らしていく!
《こんなことが……!このような力が……ッ!》
プルート自身が信じられないように叫ぶが、ヴァーリは容赦なく言い放つ。
「―――滅べ」
目で捉えきれないほどにまで圧縮をされたプルートは、空中で生まれた振動を最後に完全に消滅した。
それが伝説の死神の最期だった――――。
▽
白銀から通常の禁手姿に戻ったヴァーリは額に流れる汗を拭った。
消耗は激しいようだが、凄まじい。
鎧状態の先生と互角だったプルートを瞬殺したんだからな。
これがヴァーリの新たな力――――『覇龍』の答え。
現時点では俺が使える三形態のどれよりも出力がずっと上だった。
消耗という点を含めば俺の方がバランスは良いと思うけど・・・・・・・。
なんつー進化をしやがるんだ、こいつはよ・・・・・。
「・・・・・恐ろしいな、二天龍は」
曹操がこちらに近づきながらにそう言う。
「ヴァーリ、あの空間でキミに『覇龍』を使わせなかったのは正解だったか・・・・・」
曹操にそう賞賛されるヴァーリだが・・・・・・奴は息を吐く。
「『覇龍』は破壊という一点に優れているが、命の危険と暴走が隣合わせだ。いま見せたのはその危険性をなるべく省いたものだ。更に『覇龍』と違い伸びしろもある。曹操、仕留められる時に俺を仕留め無かったのがお前の最大の失点だな」
ヴァーリの言葉に曹操は無言だった。
曹操は視線を俺とヴァーリの二人に向けた。
「赤龍帝兵藤一誠は禁手を進化させ、白龍皇ヴァーリ・ルシファーは覇龍を昇華させたか。どちらも前代未聞の発展を遂げているようだ。二天龍・・・・・・というより、今代の二天龍はやはり異常だよ。だが、そこが面白いところでもある」
そう言うと曹操はこちらへ聖槍の先端をこちらに向けた。
「さて、どうしようか。俺と遊んでくれるのは兵藤一誠か、それともヴァーリか、もしくはサイラオーグ・バアルか。または全員で来るか? いや、流石にそれは無理か」
挑発的な物言いをしてくれる。
前回はヴァーリと先生、それからグレモリー眷属を相手に一人で手玉に取ってたみたいだが、さっきのヴァーリを見れば勝てる見込みを算出出来ないだろう。
ま、それでもこいつは譲らないけどな。
こいつは俺の獲物だ。
俺が一歩前に出る。
その時―――――
ぐぎゅるるるるるるるるるぅぅぅぅうううう・・・・・・
「あ・・・・・・れ・・・・・・・・?」
この緊張感溢れる現場に流れてはいけない音がした。
その音は俺の腹から出ていて――――
皆の視線が俺へと向けられる。
その視線にはサイラオーグさんやヴァーリ、加えて曹操のも含まれていてだな・・・・・・。
「お、お兄ちゃん・・・・・・・?」
美羽が怪訝な表情で尋ねてくる。
俺は皆の方を振り向くと、腹に手を当てて申し訳ない気持ちで一杯になりながら言った。
「ご、ゴメン・・・・・・は、腹減って・・・・・誰か食べるもの持ってない・・・・・・?」
「え、えーと・・・・・・」
「あのさ・・・・・俺、試験会場でアリスのプリン少しもらって以降の二日間・・・・・・何も食べてないんだわ」
「あ・・・・・」
皆も俺の言葉にハッとなる。
そう、俺はこの二日間、気絶していたせいで何も食べていないんだ。
グレートレッドはオーラの回復はしてくれたものの、空腹の回復まではしてくれなかったようで・・・・・。
『無茶言うな』
で、ですよねー・・・・・・。
ここにくるまで我慢してたけど、俺の腹はもう我慢出来ないらしい。
とりあえず、曹操には待ってもらって・・・・・・その間に食べ物を腹に収めなければ・・・・・・。
「ゴメン・・・・・ボク達の手元に食べ物はないみたいなんだけど」
美羽から残酷な現実が告げられる。
う、うん・・・・・そんな気はしてたよ。
でも、誰か一人くらいは非常食でも持ってないかなーって思ったんだよね・・・・・・。
ど、どうしよう・・・・・・。
などと考えていると、アリスが俺の手を掴み引張った。
その表情は何やら決心しているようにも見える。
「ちょっとこっちに来なさい」
「アリス?」
「いいから早くしなさいよっ」
「あ・・・・・はい」
アリスの迫力に圧され、俺はそのままついていった。
▽
[木場 side]
イッセー君と曹操の戦いが始まろうとした時、イッセー君のお腹が盛大になった。
ま、まぁ、事情を聞けば納得は出来るけど、まさかこのタイミングでなるとはね・・・・・・・。
イッセー君、君も中々にシリアスブレイカーだと思うよ?
それで、アリスさんがイッセー君の手を掴んで半壊した建物の向こうに行ってしまったんだけど・・・・・・。
こちらからあの二人の姿は確認できない。
この場の全員がアリスさんの行動を怪訝に思っていた。
様子から察するにイッセー君の空腹を満たす術があるようだけど、一体何をするつもりだろう?
それから少し経った時だった。
『なっ!? おまえ、マジで言ってるのか!?』
『大きい声出すなーー!!』
バキィッ!
『ガフッ!』
驚愕に包まれたイッセー君の声と怒りの籠ったアリスさんの声、それから鈍い音が周囲にこだました。
イッセー君・・・・・アリスさんに殴られたよね。
それからも二人の会話は所々が聞き取れる程度でこちらに伝わってくる。
『だから――――じゃない? 私はスイッチ姫であんたは―――――』
『気持ちは嬉しいけど、流石に―――――』
『嫌なの?』
『嫌じゃないけど、でもさ―――――』
『もうっ! 私がここまで言ってるんだから覚悟決めなさいよ! 今なら誰も見てないから早く――――――』
う、うーん・・・・・・何やら揉めてるみたいだね。
アリスさんの提案にイッセー君が戸惑っているような雰囲気だ。
それから更に少し時間が経った。
『わ、わかった』
イッセー君の声が聞こえてきた。
どうやらアリスさんの提案を受け入れたらしい。
イッセー君を回復させる術。
イッセー君がこれほど躊躇う程のものだ。
何かリスクが伴うものなのかもしれない。
「アリスさんは自分を犠牲にして、イッセーを回復させるつもりなのかしら? ・・・・・・流石ね。出遅れたわ」
部長も少し悔しそうに言っていた。
確かにアリスさんは皆が戸惑う中、誰よりも早くその術に気付き、実行に移そうとした。
その覚悟は凄まじいものなのだろう。
その時―――――
『・・・・・・・あぁっ・・・・・・・』
・・・・・・・・・・ん?
幻聴かな?
今、戦場では絶対に聞こえないであろう声が聞こえてきたような・・・・・・
そう思う僕だけど、それは確かにきこえてきて――――
『・・・んっ・・・・・やぁっ・・・・・くっ・・・・はぁぁっ・・・・・!』
再び聞こえてくるアリスさんの声。
その声音にはどこか艶があって・・・・・・・。
見渡せば、オーフィスを除いた女性陣は何かに気づいたようで、頬を赤く染めていた。
『・・・・イ、イッセー・・・・・・そこ、かんじゃ・・・・・だ、ダメ・・・・・はぅぅ・・・・』
アリスさんがそう声を漏らすが、イッセー君は何も答えない。
まるで何かに夢中になっているように。
僕も何となく二人がしていることが分かってしまった。
だけど、あえて言おう。
お二人は戦場で一体何をしているんですか!?
サイラオーグ・バアルやヴァーリ、敵側にいる曹操でさえもあちらを見ないように視線を全く別の方向に向けているんですが!?
なんてことだ!
この場の空気が緊張からかけ離れたものになっていく!
誰か!
誰かこの空気を何とかしてくれる人はいませんか!
恐らく、この気持ちはこの場の全員が持っていることだろう!
次の瞬間――――
カッ!
赤い閃光が周囲を包み込んだ。
これは・・・・・・イッセー君の回復に成功したというのか!
イッセー君、君はどこまでおっぱいドラゴンなんだ!
それから数分後。
建物の向こうからイッセー君のアリスさんが帰ってきた。
二人とも顔がこれまでにないくらい真っ赤に染まっている。
こちらも全員が顔真っ赤だよ、イッセー君。
二人がこちらを向くと僕達の間に微妙な空気が漂うのがわかった。
この空気に耐えられなかったのだろう。
イッセー君は一度咳払いをして――――
「さ、さぁ、おっ始めようぜ!」
「「「「・・・・・・・・・・・」」」」
その言葉に誰も返すことが出来なかった。
[木場 side out]