ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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3話 修業はじめます!!

部長率いるグレモリー眷属とライザー率いるフェニックス眷属のレーティングゲームが行われることが決定した日の翌日。

俺達はグレモリー家が人間界で所有する別荘で泊まり込みの修業を行うことになった。

 

そして、現在、俺達は別荘に向かうべく山道を歩いていた。

周囲には自然豊かな木々が生い茂り、小鳥が鳴いている。

景色も申し分ない。

 

「わぁ、良い景色だね」

 

「そうだな。都会では見れない景色だ。美羽、写真撮ってやろうか?」

 

「うん! アーシアさんも一緒に撮ろうよ」

 

「はい!」

 

そう言って向こうにある山をバックにして、美羽とアーシアはニッコリ笑ってこちらにピースサインをする。

よしよし、綺麗に撮れた。

後で父さんと母さんに見せてやろう。

絶対に喜ぶからな。

 

「い、イッセー君。余裕だね………」

 

木場が笑顔をひきつらせながら言ってきた。

 

「え? 何が?」

 

「………イッセー先輩、自分の状況を見てください」

 

小猫ちゃんに言われて自分の状況を見直してみる。

背中と肩にはリュックサック。

部長や朱乃さん、アーシア、そして美羽の荷物が入っている。

そのため、リュックサックはかなり大きい。

無駄に荷物が多いような気もするが、女の子には色々とあるのだろう。

 

木場や小猫ちゃんも同じ状況。

小柄な小猫ちゃんが体の倍以上の荷物を背負っている光景にどうツッコミを入れたら分からないが、本人が平気そうなので、良しとしよう。

 

「木場や小猫ちゃんだってリュックサック背負ってるだろ」

 

「そうじゃなくて………。今、君の体には魔法で負荷をかけているんだよね?」

 

美羽に頼んで俺の体に重力系の魔法で負荷をかけてもらっている。

ちなみに、戦車である小猫ちゃんが耐えられないくらいの重力だ。

 

「負荷をかけないと修業にならないだろ」

 

「ははは………。何て返せば良いのか分からないよ」

 

「………イッセー先輩は規格外にもほどがあります」

 

異世界で修業した時はこんなものじゃあ無かったからな。

というかね、師匠の修行が無茶苦茶すぎてね………。

 

『感覚が狂ってるのだろう』

 

ドライグ、泣いていい?

あの頃を思い出すと泣けてくるんだよ。

俺、よく生きてたなぁ………。

 

遠い過去を思い出しながら、俺は部長に言った。

 

「そんなこと言ってないで、早く来いよ。折角来たんだし、皆で写真撮ろうぜ。良いですよね、部長」

 

「そうね。それくらいは楽しんでも良いでしょう」

 

部長の承諾を得た俺は三脚を取り出し、カメラのタイマーをセットする。

 

「じゃあ皆、並んでくれ。じゃあ、いきまーす」

 

俺は並んでいる皆のところに駆け寄り、美羽の隣に立つとブイサインをカメラの方に向けた。

数秒後、カシャッとシャッター音が鳴った。

 

「お、良い感じだ。後で皆に送りますね」

 

「ありがとう、イッセー。じゃあ、写真も撮ったことだし、目的地に向かいましょう」

 

 

 

 

それから歩くこと十分弱。

目的地には着いた。

ただ、そこにあったのは………。

 

「部長、これが別荘ですか?」

 

「ええ。グレモリー家が所有する別荘よ」

 

部長に言われてもう一度、目の前の建物を見る。

 

「いや、世間一般的にはこれは屋敷と言うと思うんですけど」

 

明らかに俺達庶民が思っている別荘より大きい。

建物の横には大きなプールもある。

これ、別荘というより、セレブが住んでそうな豪邸だよね。

俺が想像する別荘って、もっとこじんまりした建物なんですけど。

 

「そう? まぁ、そんなことは置いといて、早速修業といきましょう。部屋に案内するから、各自ジャージに着替えて集合するように」

 

「部長、美羽は手伝いで来てるからジャージ持ってきてないです」

 

「じゃあ、美羽には飲み物の用意を頼めるかしら」

 

「分かりました」

 

その後、俺達はリビングに荷物を置き、案内された部屋で着替えることになったのだが………とにかく部屋の一つ一つが広い!

流石は貴族の所有する別荘ということなのか!

 

着替える前にリビングで水を飲んでいると、木場が青色のジャージを持って言ってくる。

 

「じゃあ、僕も着替えてくるよ」

 

「おう」

 

「覗かないでね」

 

「誰が野郎の着替えなんて覗くか! マジで殴るぞ、この野郎!」

 

「ははは、冗談だよ」

 

「………木場。修業、覚悟しとけよ」

 

「………」

 

木場の顔が青くなったのを横目に俺も着替えることにした。

 

 

 

 

[修業 木場編]

 

 

今回の修業での俺の主な役割は皆を鍛えることだ。

こう言うと申し訳ないのだが、俺と部長達の間では実力に差がありすぎる。

ドライグ曰く、

 

『相棒の場合、基本的な力に加えて、経験もある。しかも、師が奴だからな。そもそもの次元が違うのさ。だが、素材自体は悪くない。鍛え方次第では化けるだろうな』

 

とのことだ。

何にしても、十日という短い期間でどれだけ実力の底上げが出来るか………。

まずは、現状でどれほど戦えるのかの確認をするために、一人一人について相手をすることにした。

 

最初の相手は木場だ。

木場も《魔剣創造(ソード・バース)》という神器を持っているらしい。

あらゆる魔剣を想像できる能力があるとのことだが、まずは神器無しでどこまでやれるのかを確認するため、木刀の打ち合いをしている。

 

「いくよ、イッセー君!」

 

「来い、木場!」

 

俺の声に応じて、木場は木刀を両手で構えて突っ込んでくる。

 

はぐれ悪魔討伐の時や堕天使との一件で、木場の動きを見させてもらった。

木場の駒は『騎士』、その特性はスピードだ。

木場の戦いはそのスピードを活かした戦い方になっている。

スピードで相手を翻弄し、手数で圧倒し、隙をついて、一気に攻め落とす。

それが基本的な木場の戦法だ。

独学なのか、師匠がいるのかは知らないが、剣筋も良く、立ち回りも悪くない。

 

高速の連続攻撃を全て流す俺に木場が問う。

 

「僕の攻撃を全て流すなんてね。何処かで剣術を習っていたのかい?」

 

「昔、習っていたのさ。さて………そろそろ俺からも仕掛けるぞ」

 

防御から一転、完全に攻めに回ることにした俺。

攻めは中々だったが、守りはどうか。

俺は型のない荒々しい剣撃で木場を攻め立てる!

 

俺が振り下ろした木刀を厳しい表情で受け止める木場。

 

「速いうえに重い………ッ! ここまでとは………」

 

「このスピードならまだ着いてこれるな。じゃあ、ギアを一段階上げるぞ!」

 

「えっ!?」

 

目を見開く木場を置いて、俺はその場から姿を消す。

錬環勁気功を発動し、どんどんスピードを上げる俺を木場は追いきれていない。

 

「こっちだ」

 

「っ!」

 

背後に現れた俺に横凪ぎの一撃を放つ木場だが、木刀は虚しく空を斬るだけ。

 

更に俺は残像を生み出しながら、猛攻を仕掛けていく。

縦、横、斜めと様々な方向から木場へ木刀を叩き込んでいく。

更には突きまでも混ぜているため、木場も徐々に捌ききれなくなってきていた。

 

「こいつで終わりだ」

 

「くぅぅぅぅぅぅ!」

 

最後には木場の木刀を弾き飛ばし―――――木場の頭目掛けて木刀を降り下ろした。

木刀の切っ先が木場の髪に触れたところで、止まったので木場にダメージはないが、ここまでやられるとは思っていなかったのだろう。

木場はただ呆然としていて、

 

「………参りました」

 

木場が降参し、その場に座り込む。

かなりキツかったのか、肩で息をしている状態だ。

俺は汗だくの木場にタオルとスポーツドリンクを渡して言った。

 

「水分補給しとけ」

 

「ありがとう。………僕はスピードと剣術には自信があったんだけどね。こうも歯が立たないと少し自信を無くすよ」

 

「まぁ、世界は広いってことにしとけ。自信を持つことは良いけど、持ちすぎると油断に繋がるからな」

 

「君が言うと何処か説得力があるね」

 

「さて、少し落ち着いたところで注意点を言っておくか。おまえ、相手の動きを目で追ってるだろ?」

 

「え? イッセー君は違うのかい?」

 

「確かに目で追うことも必要だけど、それ以上に相手の気配を追うことが大切だ。それから、相手よりも一手先、二手先を読んで戦え。おまえは自分の持ち味がスピードと言ったが、今分かったとおり、おまえより速い奴は何人もいるだろう。そんな相手にスピード勝負をして勝てると思うか?」

 

「うっ………」

 

「だからこそ、目だけで追うな。五感全てを駆使して相手を追え。そうすれば例え目で追いきれなくても体が反応するからな。当面はこれを目標にしてみてくれ。それから、出来れば、相手の次の行動を予測できるようにな。木場は速さもあるし技術力もある。これを覚えれば戦い方が一段上に上がるはずだ」

 

「なるほど。………分かった、やってみるよ」

 

「よし。じゃあ、その辺りを意識しながらもう一度だ」

 

「よろしく頼むよ、イッセー君」

 

 

 

 

[修業 小猫編]

 

 

「当たってください………!」

 

木場の次は小猫ちゃんだ。

今度は木刀を使わず、素手による組手をしている。

小猫ちゃんから放たれる拳は鋭く、当たった木は折れて倒れてって………あの小さい体から撃ち出される拳とは思えねぇ!

ホンット、どこにそんなパワーがあるんですかね!

 

「………小さいって言いましたね」

 

呟きと同時に放たれる攻撃!

小猫ちゃんの拳が更に鋭くなったよ!?

ていうか、俺の心を読まないで!

 

あと、一つだけ言わせてほしい。

小猫ちゃんはコンプレックスに思っているかもしれないが、小猫ちゃんのロリは最高だと思うんだ!

 

「………殺します」

 

はうぁ!

小猫ちゃんの怒濤のラッシュがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

殴られた木がメキメキ言いながら倒れていくぅぅぅぅぅぅ!

 

コホン………ま、まぁ、この話は置いて、真面目な話をしようか。

 

小猫ちゃんは的確に中心線を狙ってくる。

相手のど真ん中を捉え、確実に破壊する拳だ。

たまに俺が攻撃をすると、それを避けて瞬時に懐に入ろうとする。

狙いも正確だ。

木場も小猫ちゃんも、前衛としてのセンスはピカイチ。

これも才能というやつなんだろうな………。

 

だが、攻撃が単調だ。

だからこそ、俺に一発を入れるどころか、掠めることすら出来ていない。

更に――――――。

 

小猫ちゃんが放った拳を俺は―――――人差し指で受け止めた。

 

「今の小猫ちゃんの拳は俺でも軽く受け止められるよ」

 

「………昇格もしていないのによく私の攻撃を受け止められますね」

 

「小猫ちゃんの攻撃は力が一ヶ所に集まっていないからだよ」

 

「………?」

 

「小猫ちゃんは戦車の特性に頼りすぎて効率良く攻撃が出来ていないんだよ。小猫ちゃんは魔力を使ってないようだしね」

 

「魔力………ですか?」

 

そう、小猫ちゃんの打撃はただ殴っているだけ。

まぁ、それだけでも威力は高いし狙いも良いんだけどね。

 

「良いかい? 力は効率的に使えば、ほんの僅かな力だけで、大きな効果をもたらすことができる。今のだって、俺の指に集めた力が小猫ちゃんの攻撃を上回ったから出来たことだ。簡単な例を出すなら………とりあえず実演してみるか」

 

そう言って俺は錬環勁気功を発動すると、拳に気を集めて、地面を殴り付けた。

すると、俺を中心にして直径五メートルくらいのクレーターが出来た。

 

「まぁ、こんな感じかな。今のは軽く殴っただけだが、それでもこれくらいの威力にはなる。小猫ちゃんもやってみてよ」

 

「魔力を拳に纏わせて………えい」

 

そう呟きながら小猫ちゃんは俺と同じように地面を殴る。

直径二十センチくらいの小さなクレーターが出来た。

俺が作ったクレーターと比較して、口許をへの字にする小猫ちゃん。

 

「難しいですね」

 

「いや、初めてにしては上出来だよ。俺が初めてやったときはクレーターすら出来なかったし」

 

「………そうですか」

 

「じゃあ、今のを意識しながら組手をしてみようか」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

[修業 朱乃編]

 

 

「それではいきますわ」

 

朱乃さんの駒は『女王』。

『女王』は『騎士』『戦車』『僧侶』の力を併せ持つ最強の駒。

朱乃さんの攻撃手段は主に魔力、魔法によるもので、特に得意としているのが雷の魔力による攻撃だ。

そこを考えると、朱乃さんは特に『僧侶』としての力が秀でているようだ。

 

俺と対峙している朱乃さんは極大の雷を放ってくる。

対魔法・対魔力の特性か、高い耐久力を持っていないと触れただけで丸焦げにされそうな威力だ。

しかも、広範囲に放ってくるから、こちらの逃げ道も塞がれる。

それにより、相手の次の行動を制限しているのは朱乃さんの作戦なのだろう。

そして、攻撃に緩急を付けているから余計に攻めにくい。

 

「スゴいですね、朱乃さん。流石は雷の巫女と呼ばれるだけはあります」

 

「あらあら、誉めてもらえて嬉しいですわ」

 

いつものニッコリ顔でそう言ってくる朱乃さん。

やっぱり美人だよなぁ!

おっぱいも大きいし!

大和撫子美人って良いよね!

 

おっと、鼻の下を伸ばしてる場合じゃないな。

今は修行に専念せねば!

 

「俺もいきますよ、朱乃さん!」

 

俺は手元に気を溜めて気弾を放つ。

迫る気弾を朱乃さんは雷で相殺して、反撃を仕掛けてくる。

俺達はそのまま砲撃戦に入ったのだが………。

 

数分が経過した頃には朱乃さんの魔力が少なくなり、息を切らしていた。

汗を拭いながら、朱乃さんが訊いてくる。

 

「………イッセー君は平気ですのね」

 

「朱乃さん、格上の相手に真正面から挑み続けるのは無理があります。途中で完全にペースが乱れてましたよ」

 

「………返す言葉もありませんわ」

 

「それと、攻撃方面は良いんですけど、防御面が弱いですね。それと、接近された時の対応が遅いです。相手が『騎士』………木場みたいにスピードで撹乱するタイプならやられてますよ」

 

俺の指摘に肩を落とす朱乃さん。

そう、朱乃さんは近距離戦に持ち込まれると弱い。

しかも、防御面が弱いため、その弱点は無視できないものになっている。

今までは眷属のチームワークで補っていたみたいだが、一対一であったり、仮に前衛メンバーが敗北した場合を考えると………。

 

「攻撃は最大の防御とは言いますけど、やっぱり防御系の魔力か魔法は覚えた方が良いですね。それと近距離での立ち回りも。………そうだ、美羽に魔法を習うってのはどうです?」

 

「美羽ちゃんに、ですか?」

 

「ええ。あいつの魔法の腕は俺が保証しますよ。簡単な防御術式を覚えるだけでも変わると思いますよ」

 

「そうですわね。お願いしようかしら」

 

「決まりですね。じゃあ、俺から美羽に言っておきます」

 

「私も行きますわ。教えてもらうのは私なのですから、私が頭を下げるのが礼儀と言うものです」

 

こうして、朱乃さんは美羽から防御術式を習うことが決まった。

 

 

 

 

 

 

[修業 リアス編]

 

 

今度は部長との修業に入る。

 

部長は手元に赤黒い魔力を作ってそれを岩目掛けて放った。

すると―――――部長の魔力に触れた部分は跡形もなく、消え去っていた!

 

「これが私が持つ《滅びの魔力》よ。触れたら本当に消し飛ぶわよ。………イッセー、続けて大丈夫なの? 当たったら、いくらあなたでも大怪我じゃ済まなくなるわ」

 

まぁ、確かに。

触れただけでアウトだもんなぁ………。

アーシアの治療でも治らないかも。

 

俺は苦笑しながら、部長に言った。

 

「まぁ、大丈夫ですよ。それくらい緊張感がないと俺も修業にならないんで。部長はそんなこと気にせずにドンドン撃ってください」

 

「分かったわ。気を付けてよ、イッセー!」

 

部長はそう言って俺に魔力弾を放ってくる。

絶え間なく強力な魔力を撃ってくるところを見ると、部長の魔力量は相当なものらしい。

更に俺が気弾を放つと華麗に避けて見せた。

 

高い魔力と高い身体能力。

流石は上級悪魔といったところなのだろう。

 

しかし、だ。

 

「部長、ストップです」

 

「どうしたの?」

 

「部長の欠点が分かりました」

 

「早いわね。教えてもらえるかしら」

 

「滅びの性質に頼りすぎです。確かに部長の魔力の性質は凶悪ですけど、攻撃に変化が無くて直線的過ぎます。それだと簡単に避けられてしまいますよ」

 

滅びの魔力は触るだけでアウトみたいなものだ。

だけど、当たらなければどうと言うことはない。

それに、無駄撃ちすると魔力が無駄に減るだけだからな。

 

「それから、部長も朱乃さんのように魔力を凝縮して放てるようにしてください。恐らく滅びの力が一気に向上すると思うので」

 

俺は更に言葉を続ける。

 

「現在の部長ではあいつにはダメージを与えることが出来ません。フェニックスは不死で何度も生き返るんですよね? だったら、その再生能力を上回るくらいの攻撃をしないとあいつには届きませんよ」

 

「なるほど。分かったわ。魔力放出後のコントロールと魔力の凝縮。この二つを目標にして修業を行いましょう」

 

 

 

 

[修業 アーシア編]

 

 

さて、最後にアーシアとの修行に入るんだけど………。

アーシアと修業っと言ってもなぁ。

アーシアは攻撃する術は持ってないし、性格からして誰かを傷つけることは出来ないだろう。

まぁ、せめて防御系の魔法を覚えてもらうとかはしてもらうとして、それは美羽に一任することになると思うし。

 

「と、いうことでアーシアの修業は戦闘ではなく神器についての修業をすることにした」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

おおっ、アーシアちゃんってば、やる気満々だな!

でもね、俺も神器については詳しくないんだよね!

修行をつける側としては泣けてくるな!

 

そこで、今回の修行はドライグの意見を参考にしてやってみることにした。

 

「アーシアの神器の効果はケガをした人の近くに行かないと治療が出来ない。今回の修業では遠くのケガ人を治療出来るようにする。これがアーシアの修業目標だな」

 

アーシアの治癒の力は相当なものだと思う。

死にそうな重傷でも、一瞬で治してしまうからな。

ならば、この限られた時間でするべきことは治癒力の向上ではなく―――――遠くにいるケガ人の回復。

これは戦術的にもかなり効果が大きい。

アーシアがこれを修得できれば、グレモリー眷属の戦術の幅が大きく広がるのは間違いない。

 

「それはどのようにして行うのでしょうか」

 

「そうだな。試しに俺がやってみるか」

 

俺はアーシアから少し距離を取って、籠手を展開する。

 

『Boost!』

 

一回だけ倍増してそのオーラを手元に集める。

そして、それをアーシア目掛けて放った。

オーラの塊がアーシアに着弾した瞬間―――――。

 

『Transfer!』

 

譲渡の音声と共にアーシアから感じられるオーラの量も増大した。

 

「まぁ、こんな風にオーラを相手に飛ばす感じだな。参考になったかな?」

 

「はい! 私、やってみます!」

 

アーシアの魔力訓練については朱乃さんに任せることにした。

俺は魔力はほとんど使わないからな。

魔力量も少ないし………。

 

それから、アーシアには最低限、自分の身は守れるように朱乃さん同様、美羽に防御魔法を教わることになった。

回復役のアーシアは敵からすれば絶対に潰しておきたいだろうからな。

ある程度の防御力を身につけておけば、なんとかなるだろう。

 

 

 

 

 

こうして、グレモリー眷属の修業一日目は終了となった。

ちなみに、俺の修業はいつも通りでティアとの神器無しでの組手だ。

この時ばかりは美羽に重力魔法を解除してもらったが………うん、負荷をかけながらティアとやり合ったらマジで死ぬ。

そうでなくても厳しい相手だし。

 

それで、修業が終わった俺達は今は夕食タイムに入っていた。

 

「旨いよ、美羽。本当に料理が上達したな」

 

食事の用意は話し合った結果、当番制となり今日の当番は美羽となった。

最初は食事の用意は手伝いで来ている美羽の役割となっていたが、魔法を美羽から教わっている以上、押し付ける訳にはいかないということで、全員平等の当番制が採用された。

今日の夕食はカレーとサラダだ。

こうしてると、小学生の時に行った自然学校を思い出すよね。

 

「うん、お兄ちゃんに『美味しい』って言ってもらいたいもん」

 

グハッ!

なんて可愛いことを言ってくれるんだ!

やっぱり、妹って最高に可愛いよね!

いや、これは美羽だからと言うべきなのか………どちらにしてもお兄ちゃん感激だよ!

 

「そんな可愛い美羽は頭を撫でてやろう」

 

「えへへ~」

 

頭を撫でた時の反応とかマジ癒し!

美羽はもうご機嫌さんだ!

 

ただ、美羽を撫でているとアーシアはぷくっと頬を膨らませて………。

これはこれで可愛いけど、拗ねないでくれ、アーシア!

俺はアーシアだって可愛いと思ってるから!

 

「アーシアも今日は修業頑張ったな」

 

俺が誉めて頭を撫でるとアーシアは笑顔を俺に向けてくれた。

 

「はい! イッセーさんと美羽さんのおかげです! 明日も頑張りたいと思います!」

 

美羽に続き、アーシアの笑顔!

ダブル妹系美少女(美羽は妹だが)のスマイルは最高に癒されるぜ!

 

「あらあら、イッセー君はモテモテですわね」

 

「まさに両手に華ね」

 

朱乃さんと部長がそう言ってくるけど、俺も自分でそう思う。

本当に美羽とアーシアは俺を癒してくれる。

一緒に寝たときなんてもう………!

 

美羽とアーシアに囲まれた生活にニヤけていると、部長が真剣な顔付きで尋ねてきた。

 

「今日一日、私たちの修業を見てもらったけどイッセーはどう思った?」

 

あー………その質問な。

やっぱり、訊いてくるよなぁ………。

 

どう答えるべきか悩んでいるとドライグが皆に聞こえる声で言った。

 

『相棒。こういうことはハッキリ言ってやった方が良い。その方がこの者達のためになる』

 

「そうね。正直に答えてちょうだい」

 

ドライグに続き部長はそう言ってきた。

 

まぁ、そうだよな。

今の実力を把握した上で、そこをどう伸ばしていくか。

それが今回の修行だし………。

 

俺は皆を見渡すと、この修行で感じたことを率直に答えた。

 

「仮に俺無しで部長達がライザーに挑んだ場合ですが………現段階の勝率はゼロです」

 

「「「っ!」」」

 

俺の言葉に部長達は声を詰まらせた。

部長が改めて訊ねてくる。

 

「理由を聞かせてもらえるかしら?」

 

「部長には修業中に言いましたが、ライザーの再生能力を越える攻撃力を持つ人がいないからです。恐らく今の状態でもライザーの眷属には対抗出来ると思いますが………」

 

実は修行の後で部長にはライザーの過去のレーティングゲームの映像を見せてもらったんだ。

映像越しの判断にはなるが、グレモリー眷属の個々の力はライザーの眷属には劣っていないだろう。

数が少ない分、こちらが不利だけど戦い方次第では勝てない相手では無い。

ただ、やはりライザーの不死の特性は今の部長達ではハードルが高すぎる。

 

それはグレモリー家やフェニックス家の人達も分かっているはず。

………どうも、仕組まれている気がする。

 

そんなことを頭の隅で考えながら、俺は皆に頭を下げた。

 

「ゴメンな皆。偉そうな言い方になってしまって」

 

俺の謝罪に皆は、

 

「良いのよ。そもそも正直に言えっていったのは私なんだし」

 

「そうですわ。イッセー君に言われて危機感を持つことが出来ました」

 

「そうだね。僕も今後の修業への覚悟を改めて持つことが出来たよ」

 

「力不足なのは私達の責任です」

 

「イッセーさんが私達のために言ってくれているのは、ここにいる全員が分かっていますよ」

 

皆がそう言ってくれて助かるよ。

 

部長はそれに、と続ける。

 

「イッセー、教わっているのは私達よ。気付いたことは遠慮せずに言ってちょうだい。このままでは私達は完全にあなたのお荷物になってしまうわ。そんなのは嫌なの」

 

「………了解です、部長。明日からの修業、より厳しくいきます」

 

「ええ、お願いするわ。美羽もよろしく頼むわね」

 

「分かりました。ボクも皆が強くなれるよう、全力でサポートするよ!」

 

 

 

 

夕食が食べ終わり、一息ついた頃。

 

「そろそろ、お風呂に入りましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」

 

温泉!

まさか露天風呂か!?

露天風呂といえば覗きだ!

俺は絶対に覗くぞ!

部長や朱乃さん達の裸………いかん、想像しただけで鼻血が出そうになる!

 

煩悩をたぎらせる俺に部長が、

 

「ねぇ、イッセー。私達と一緒に入る?」

 

な、なんですと!?

まさかまさかのお誘いだと!?

 

「そうですわね。一度、殿方の背中を流してみたいものですわ。それに稽古をつけてくれたお礼もしたいですし」

 

マジですか!?

良いんですか、朱乃さん!

是非、流してもらいたい!

 

「わ、私はイッセーさんとお風呂に入りたいです!」

 

「ボクも! 家では一緒に入ったこともあるし………良いよね?」

 

アーシアと美羽までも!?

なんて大胆な発言なんだ!

 

部長達と一緒に風呂!

まさに桃源郷じゃないか!

 

「小猫はどうかしら?」

 

部長が訊ねると小猫ちゃんは両手でバツ印をつくった。

 

「修業を見てくれたのは感謝しますが、嫌です」

 

拒否られた!

いや、何となく予想はしてたけどね!

やっぱりダメなんだね、小猫ちゃん!

 

「じゃ、なしね。残念、イッセー。祐斗と一緒に男風呂に入りなさい」

 

クスクスと悪戯っぽい笑みを浮かべながら部長が言う!

そんな………そこをなんとか!

女の子との混浴があれば、俺は明日を生きられるんです!

 

「覗いたら許しません」

 

小猫ちゃんに先手を取られた!

小猫ちゃんはいつも俺の心を読んでくるな!

ニュータイプですか!?

 

「イッセー君、修業のお礼に僕が背中を流してあげるよ」

 

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺の怒りの叫びが別荘に響き渡った。

そして、明日の木場の修行は超厳しくしてやると心に誓ったのだった。


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