ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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5話 牽制と警告

[アザゼル side]

 

 

冥府。

 

そこは冥界の下層に位置する死者の魂が選別される場所。

 

そこに俺は赴いていた。

 

冥府はギリシャ勢力の神ハーデスが統治する世界。

冥界ほどの広大さはなく、ただただ荒れ地が広がるだけの世界。

生物が棲息できない死の世界でもある。

 

まぁ、俺から言わせれば何もない、つまらない世界って感じだな。

 

冥府の深奥。

そこには古代ギリシャ式の神殿がある。

その神殿は冥府に住む死神共の住処でもあり、ハーデスの根城でもある。

 

俺は数人のメンバーと共にそこに足を踏み入れた。

 

 

レイナーレもついてくるなんてことを言っていたが、リアス達の元へと向かわせた。

 

ここに連れてくるのは危険だからな。

 

もうすぐ合流するはずだ。

 

 

入ってすぐに死神共が群がってきやがる。

敵意の視線付きでな。

 

事前連絡も無しでの訪問だ。

こいつらにとっちゃ、殆ど襲撃みたいなもんだろうな。

 

ここに来た理由は二つ。

 

ハーデスの野郎に一言物申すためと、現在危機に置かれている冥界を骸骨オヤジの好きにさせないためだ。

 

俺達堕天使と悪魔への嫌がらせのためなら何でもするあのクソ野郎のことだ、『魔獣創造』の巨大魔獣が暴れている最中にまたとんでもない嫌がらせを入れてくるに決まってる。

 

牽制という意味も含めての電撃訪問しにきてやったのさ。

 

神殿内を真っ直ぐ進むと辿り着くのは祭儀場らしき場所。

広い場内は装飾に黄金が使われるなど、冥府に不似合いなくらい豪華な作りだ。

 

祭儀場の奥からハーデスの野郎が死神をぞろぞろ引き連れてやってきた。

相変わらず嫌なオーラだ。

 

連れている死神も相当な手練れだな。

漂わせる気の質から察するに上級から最上級クラス。

 

・・・・・・先日、俺達を襲撃してきたプルートがいないのが気になるが・・・・・・

 

 

ハーデスを視認するやいなや、俺の隣にいた男が一歩前に出た。

 

「お久し振りです。冥界の魔王サーゼクス・ルシファーでございます。冥府の神ハーデス様、急な来訪申し訳ありません」

 

そう、俺と共に来たメンバーの一人はサーゼクスだ。

 

あの疑似空間から帰還した俺はオーフィスの件を始め起こったこと全てをサーゼクスに話した。

当然、イッセーが未だ帰還できていないことも。

 

リアス達を巻き込んだ上にこれだ。

許してもらえる立場ではないのは分かっていた。

だが、それでも俺はこいつに頭を下げて謝罪した。

 

俺はこいつに殴られてもいい覚悟だったが、サーゼクスは一言、俺をこう誘ってきた。

 

 

「冥府に行く。アザゼルにも同伴してほしい」

 

 

この混乱に乗じてハーデスが動き出すとサーゼクスも踏んだのだろう。

 

言っても聞かないハーデスをどう止めるか。

 

 

―――――その答えが魔王自らの訪問だった。

 

 

眼球のない眼孔を不気味に輝かせて、ハーデスは笑いを漏らす。

 

《貴殿らが直接ここに来るとは・・・・・これはまた虚を突かれたものだ》

 

そう言うわりには声には余裕がある。

 

だが、この野郎の実力は本物。

なんせ世界でもトップクラスの実力者なんだ。

俺やサーゼクスを相手取っても勝てると踏んでいるのだろう。

 

ミカエルもこちらに顔を出したいと言っていたが、流石に天使長が冥府に赴くってのは体裁的にいかがなものかと思ったので制させてもらった。

 

今は冥界への援軍として送ってもらった天使達の指揮に力を注いでもらっている。

 

《して、そちらの天使もどきは? その波動、尋常ではないな》

 

ハーデスの視線が俺達の後方にいる神父服に身を包んだ青年に送られる。

 

ブロンドの髪にグリーンの瞳そして――――十枚に及ぶ純白の翼。

 

青年は軽く会釈した。

 

「やー、これはどうも。『御使い』のジョーカー、デュリオ・ジェズアルドです。今日はルシファー様とアザゼル様の護衛の一人でして。まー、俺達いらないと思いますがね。ま、そう言うことで天使のお仕事ッス」

 

かなり軽い調子だ・・・・・・。

 

ま、噂通りの変わり者だな。

 

上位神滅具『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』の所有者にして、空を支配する『御使い』――――

 

《なるほど・・・・・噂の天界の切り札か。ファファファ、ミカエルめ、まさかジョーカーを切るとはな。やってくれるわ》

 

それだけの存在なんだよ、おまえはな。

 

一応だが、表に刃狗(スラッシュ・ドッグ)も待機させている。

 

《ファファファ、コウモリとカラスの首領、神滅具が二つ・・・・・。この老人を相手にするにはいささか苛めが過ぎるのではないか?》

 

よく言うぜ、これだけの戦力があっても退けそうな実力を持ってるくせによ。

 

《茶を飲みながらのんびりと話すのも良いが・・・・・あえて訊ねよう。何用でここに赴いた?》

 

このクソジジイ・・・・・分かってるくせによ。

どこまでもこちらをイラつかせてくれる・・・・・・!

 

 

サーゼクスはあくまで自然に答える。

 

「先日、冥界の悪魔側にあるグラシャラボラス領で事件がありました、某ホテルにて我が妹とその眷属、ここにいるアザゼル総督が『禍の団』の襲撃を受けたのです。そして―――――同時に死神からも襲撃を受けたと聞き及んでおります」

 

《ああ、それか。なんでも貴殿の妹君とアザゼル殿が結託して、オーフィスと密談をしていると耳にしてな。配下の者に調査を頼んだのだよ。せっかく、各勢力との協力体制が敷かれようと言うのに、そのような危険極まりない裏切り行為があっては問題であろう? それも和平を謳うアザゼル総督自らの行為ともなれば事は大きくなる。敬愛する総督の是非が知りたくなってなぁ。・・・・・・仮にそのような裏切り行為があった場合、最低限の警告をするようには命じたがな》

 

くそったれめが・・・・・・!

プルートが冗談半分でほざいていたことをまんま述べやがってよ!

 

あれが・・・・・・あんだけの死神を投入してきた上に伝説の死神までけしかけてきたのが最低限の警告だと・・・・・?

 

ふざけるなよ・・・・・・クソジジイ・・・・・・ッ!

 

ハーデスは肉のない顎を擦りながら続ける。

 

《だが、それは私の早とちりであった。もしそちらに被害が出てしまっていたのなら非礼を詫びよう。贖罪も望むのであれば何なりと言うがいい。私の命以外ならば大概のものは叶えてやらんこともない》

 

・・・・・・この上から目線の物言いと態度。

 

わざとなのは明らかだが・・・・・・・今の俺には効果てきめんだな。

怒りのボルテージが上がりっぱなしで、今にも骸骨オヤジに食ってかかりそうになる。

 

 

・・・・・・だが、それをしないのには理由がある。

 

 

俺のすぐ近くで濃厚なプレッシャーを放つ奴がいるからだ。

 

サーゼクス・・・・・おまえも相当魔力が内側で荒立っているようだな。

ここまで怖いおまえを見たのは初めてだ。

 

ハーデスの報告を聞いて、サーゼクスは一つだけ頷いた。

 

「なるほど、早とちり・・・・・ですか。では、もうは一つだけ確認をしたいことがございます」

 

《何か?》

 

「あなたが『禍の団』と繋がっているという報告も受けています。あなたが手を貸し、英雄派がサマエルを使用した、と。もしこれが本当だとしたら重大な裏切り行為です。サマエルについては全勢力で表には出さないと意見が一致していました。私としてもあなたの潔白を疑うつもりもないのですが、一応の確認としてサマエルの封印状況を見せていただきたいのです」

 

ハーデスの野郎がサマエルを使用したかどうかは封印術式の経過具合を調査すればすぐに割れる。

白なら大昔に施された封印術式。

黒なら最近に施された封印術式。

 

それが確認できれば、この野郎を糾弾できる口実が得られる。

 

 

もっとも、一月経てばサマエルという存在そのものが消え去っているらしいが。

 

うちの勇者様と女神様がやってくれたおかげでな。

 

サマエルの存在が消失したとなれば、それはすぐに分かる。

その時はこいつを難なく糾弾できる。

 

 

サーゼクスからの問いにハーデスは嘆息した。

 

《くだらんな。私は忙しいのだ。そのような疑惑を問われている暇などない》

 

それだけ言い捨てて、この場から去ろうとする!

 

あの野郎、逃げようってのか!

 

都合の悪いこととなれば即これかよ!

 

「わかりました。では、問うのを止めましょう。しかし、あなたに疑いがかけられているのは事実。それではこうしましょう。冥界での騒動が収まるまで、あなたには私達と共にこの場に残っていただきたいのです」

 

サーゼクスはこの場にハーデスを繋ぎ止める案を申し出た。

 

こいつは最終手段だ。

まぁ、こうなることは大体の予測はついていたがな。

 

これはハーデスが冥界の危機に横やりを入れないように事件が収まるまで魔王自らこで監視をするという案。

 

これすらも断るようであれば、この神殿ごと結界で覆うつもりだが・・・・・・・さて、どうでる?

 

ハーデスは足を止めて、その場で振り返る。

 

《面白いことを言う。そうだな・・・・・・・。それならば、お主の真の姿を見せるというのであれば、考えてやらんこともない》

 

 

―――――っ。

 

そう来たか、このクソジジイ。

 

《噂に聞いておる。サーゼクスという悪魔が何故『ルシファー』を冠するに至ったか。――――それは『悪魔』という存在を超越しているがゆえと》

 

一瞬の静寂。

 

それを裂くようにサーゼクスが頷く。

 

「――――いいでしょう。それであなたがここに留まってくれるのならば安いものだ」

 

サーゼクスは上着を脱ぎ捨て、俺達に後方へ下がるよう視線を配らせた。

 

俺は頷き、デュリオと共に数歩後退する。

 

それを確認したサーゼクスは魔力を高めていく。

 

刹那―――――

 

 

 

ドンッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

 

 

神殿が激しく振動し始めた。

 

かなり頑強に作られているはずの神殿のあちこちにヒビが走る。

 

・・・・・・・この揺れ・・・・・・まさか、神殿全体じゃなく――――この一帯の地域丸ごとサーゼクスの魔力で震えているのか・・・・・・・?

 

サーゼクスの体を滅びの魔力が覆い、やつの周囲が漏れ出した滅びの魔力によって塵も遺さずに消滅していく。

 

サーゼクスの体を紅いオーラが包み込んだ瞬間、莫大な魔力がこの祭儀場全体を包み込んだ。

 

神殿の振動が止み、祭儀場に静寂が訪れる。

 

その中央には―――――

 

 

人型に浮かび上がる滅びのオーラ。

 

『この状態になると、私の意思に関係なく滅びの魔力が周囲に広がっていく。特定の結界かフィールドが無ければ全てを無に帰してしまうが・・・・・・この神殿はまだ保つようだ』

 

滅びの化身と化したサーゼクス。

 

こいつがサーゼクスの真の姿・・・・・・・。

 

なんて魔力だよ・・・・・・・少なくとも前魔王ルシファーの十倍はあるぞ!?

 

これが悪魔というカテゴリーを大きく逸脱した存在――――『超越者』の力。

 

サーゼクスとアジュカ。

今の冥界を支える二人だけの超越者。

 

・・・・・いや、超越者と呼んでいい悪魔はもう一人だけ存在するか・・・・・。

そいつは姿をくらませて久しいんだけどよ。

 

俺としては出てきてほしくないな。

 

「・・・・・ハハハ、やっぱり護衛いらないかな」

 

後方では護衛役のデュリオが苦笑いしていた。

 

まぁ、こいつを見せられたらそう感じてしまうのも当然だ。

 

『これでご満足いただけただろうか、ハーデス殿』

 

《ファファファ、バケモノめが。前魔王ルシファーを遥かに超越した存在だ。魔王というカテゴリーすら逸脱しておる。悪魔であるのかすら疑わしい。――――お主は何なのだ?》

 

『私が知りたいぐらいですよ。突然変異なのは確かなのですけどね――――どちらにせよ、今の私ならあなたを消滅できる』

 

《ファファファ、冗談には聞こえんな。この場で争えば確実に冥府が消し去るな》

 

ああ、今のサーゼクスならハーデスに余裕で対抗できる。

こいつは嬉しい誤算だった。

 

サーゼクスを見据えるハーデスのもとに死神が一名現れ、ハーデスに耳打ちする。

 

報告を受けたハーデスは祭壇に設置されている載火台に手を向ける。

 

するとその炎の中に映像が映し出された。

 

そこに映っていたのは―――――

 

『おらおらおら! 俺っちの棒にどこまで耐えられるんでぃ、死神さんよ!』

 

如意棒を振り回す美猴の姿。

 

その近くではゴグマゴグが極太の剛腕で死神を吹き飛ばし、黒歌、ルフェイのコンビが魔法攻撃を放っていた。

アーサーが聖王剣を振るい、百単位で死神を葬り去る。

更にはフェンリルが神速の動きで大勢の死神を斬り裂いていた。

 

 

――――ヴァーリチームだ。

 

 

ヴァーリのやつは冥界に運ばれた後、初代孫悟空の力でサマエルの呪いから解放された。

 

その後、あいつらは勝手にどこかへと行ってしまったのだが・・・・・・・最高のタイミングで仕掛けてくれたな、あの悪ガキ共め!

 

超グッジョブじゃねぇか!

 

あいつらがやられっぱなしのはずがない。

やり返すなら、曹操か、旧魔王派もしくはハーデスだ。

 

なんとなくこうなるのは予想できていたが、このタイミングで暴れてくれたのは正直かなりありがたい。

 

しかも、神を殺せるだけの牙を持つフェンリル付きときたもんだ。

フェンリルの存在は確実にハーデス陣営にとってのネックになる。

 

が、見たところヴァーリの姿だけ見えないな。

何か企んでいるんだろうが・・・・・・・。

 

《・・・・・・貴様の仕業か、カラスの首領よ》

 

ハーデスが最高に不機嫌な声音でそう訊いてくる。

 

 

それだよ、それ。

俺はそいつが見たかったのさ。

 

俺は堪えきれずに嫌みに満ちた笑みを浮かべてこう言ってやった。

 

「さぁ、知らね」

 

《・・・・・・ッッ!》

 

おーおー、随分とお怒りのようで。

 

まぁ、これもおまえが散々やったことへのツケってやつだ。

 

とにかく、これでハーデスが冥界の危機に横やりを入れられなくなったのは確定だ。

 

本気のサーゼクスにヴァーリチームまでいるんだからな。

 

あの悪ガキ共を舐めるなよ?

あいつらは各勢力の追撃部隊を全て退けたバケモノ揃いなんだからよ。

 

「死神を総動員しなければ白龍皇一派を仕留めることは不可能でしょうな。それにあなたがこの場で指揮でもしないとダメでしょうねぇ」

 

俺の意見にサーゼクスが同意する。

 

『ええ。ですから、あなたにはここに留まってもらうしかないのですよ』

 

そう言うとサーゼクスは人差し指を立てる。

 

『一つだけ。これはあくまで私的なもの。ですが、これだけは言わせていただこう。――――冥府の神ハーデスよ。我が妹と義弟兵藤一誠に向けた悪意、万死に値する。この場で立ち会うことになった場合、私は一切の躊躇無く貴殿をこの世から滅ぼし尽くす』

 

・・・・・・・イッセーは義弟確定なのか。

 

いや・・・・・・リアスの嫁入り宣言を受け入れていたし、そうなるかもしれんが・・・・・・。

 

つーか、前は同志とか言ってなかったか?

 

ま、いっか。

 

俺は光の槍を出現させハーデスに突きつける。

 

「俺からも物申しとくぜ、骸骨神様よ。まぁ、俺も個人的なものだがな。―――――俺の教え子共に手ぇ出してんじゃねぇよ・・・・・・・!」

 

俺とサーゼクスの敵意を真正面から受けてもハーデスは微塵も気配を変えることはなかった。

 

これでハーデスの件はクリア。

 

後は任せたぜ、教え子共。

 

それからイッセー!

 

早く戻って来ねぇと出番が無くなっちまうぞ?

 

 

 

[アザゼル side out]

 


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