ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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4話 双覇の騎士王

[木場 side]

 

 

僕の眼前に立つのは地に手が届くほどに長く巨大化した四本の腕を背に生やす怪人。

 

その姿は以前の阿修羅のような姿ではなく、全く別のもの。

 

・・・・・・・このプレッシャーの不気味なオーラは以前の比ではない。

 

変貌したジークフリートは顔面に痙攣を起こしながら笑む。

 

『―――「業魔人(カオス・ドライブ)」。この状態を僕達はそう呼称している。このドーピング剤を「魔人化(カオス・ブレイク)」と呼んでいてね、それぞれ「覇龍」と「禁手」から名称の一部を拝借しているんだよ』

 

声も低く重いものに変化している。

 

魔人と化したジークフリートが一歩足を踏み出す。

それだけで、後ずさりしてしまうほどの圧力が僕に迫ってくる。

 

魔剣と同化し、以上な進化を遂げた四本の極太な腕がしなる

 

 

――――来る!

 

 

攻撃を視認するよりも前に僕は駆け出す。

 

次の瞬間、僕がいたところに渦巻き状の鋭いオーラと氷の柱が生まれ、地面が抉れて次元の裂け目まで生じていた。

 

 

各魔剣の相乗攻撃!

 

あんなものを受けてしまえば僕の体は弾け飛ぶだろう。

 

 

――――っ!

 

 

前方から感じる異様な空気!

 

僕は聖魔剣を聖剣に変化させて、禁手の騎士団を一体だけ具現化。

それを空中で蹴って距離をおくが――――

 

 

ブォォォォォォォォォッ!!!

 

 

僕がいた空間に極大で凄まじいオーラの奔流が通りすぎていく!

足場にした龍騎士が跡形もなく消え去っていく!

 

僕はジークフリートの方に視線を向けると――――ジークフリートはグラムを振るったままの状態でいた。

 

なんという威力だ・・・・・・・。

避けたというのに、余波だけで僕の体に痛みが走り抜けていく。

 

溜めの時間も無し。

振るっただけでデュランダル並みの破壊力。

 

・・・・・これが魔帝剣グラムの真の力。

 

地面に降り立った僕は聖剣を再び聖魔剣に戻し、更に空中に七剣を造り出した。

この全てに龍殺しを付与してある。

 

僕は地面を蹴ってジークフリートとの距離を瞬時に詰める。

横凪ぎの一撃を放つが軽々と魔剣の一本に受け止められてしまった。

 

だからと言ってここで守りに転じてしまえば、僕は一気に推されてしまうだろう。

 

ここから僕は手元にもう一本の聖魔剣を造り出し、二刀流となる。

 

「はっ!」

 

再び放つ横凪ぎの一撃。

しかし、これも容易に防がれてしまう。

 

それと同時に僕の剣を受け止めている以外の魔剣が僕に降り下ろされた!

 

極太の腕から繰り出される剣戟はその一本一本が破壊力に満ちているのはさっきので分かってる。

 

受け止めるだけでもダメージは免れない!

 

そう判断して後ろに飛ぶが、そこを狙ったかのようにジークフリートがグラムを振るう!

 

極大で危険なオーラが僕を切り裂こうとする。

 

着地したところから横に飛んで回避するが・・・・・・グラムの攻撃的なオーラは僕の体にダメージを残していく。

 

僕に当たらなかったグラムの波動は地を抉りながら後方まで走っていく。

 

このままでは逃げ遅れた人を巻き込みかねないか・・・・・。

 

既に何棟もの建物が彼のグラムの波動によって倒壊している。

 

「七剣よ!」

 

僕が手を突き出すとそれに従うように七つの剣がジークフリートを襲う。

 

『それはもう効かないと言っただろう?』

 

ジークフリートが軽く魔剣を振るっただけで七剣の全てが砕かれてしまう。

 

だけど、これは想定済みだ。

 

 

僕の狙いは――――

 

 

僕はジークフリートが七剣を撃ち落とした瞬間を見逃さず、彼の懐に入る!

 

ここで彼の体に直接龍殺しを叩き込めば形勢は逆転できるはずだ!

 

僕の聖魔剣はジークフリートの体を捉え――――砕け散った。

 

「なっ・・・・・」

 

驚愕の声を漏らす僕にジークフリートが不敵に笑む。

 

『どうやら、強化された僕の肉体は回避するが君の龍殺しの聖魔剣を超えていたようだ』

 

 

 

 

 

 

ジークフリートが振るった魔剣が僕の体を斬り裂いた。

 

 

 

 

「ガッ・・・・・・・」

 

 

 

僕は膝を着き・・・・・・・・その場に倒れ伏した。

 

 

ドクドクと僕の胸の辺りから夥しいほどの血が流れ、地面を赤く染めていく・・・・・・。

 

『それほどの傷だ。立つことはできないだろう?』

 

ジークフリートが低い声音で笑う。

 

彼の言う通りだ。

 

手どころか痛みで全身に力が入らない・・・・・・・。

 

『そういえば、ここに君がいると言うことは他のグレモリー眷属もいるのだろう? ・・・・・・いや、赤龍帝はいないのか。彼は死んだみたいだしね』

 

「―――っ! どういうことだ・・・・・?」

 

僕は掠れる声で問い詰める。

 

すると、ジークフリートは僕を哀れむような目で答えた。

 

『君達は知らないのか? シャルバはサマエルの血を塗った矢を持っていたんだよ。あれから赤龍帝の気配が感じられなくなった。ということは赤龍帝もサマエルの呪いを受けた可能性が高い』

 

「サマエルの呪いを受けてイッセー君が死んだというのか・・・・・・?」

 

『そう考えるのが妥当じゃないかな? この数日、彼の姿を目撃したという報告も受けていないしね』

 

そんなバカな・・・・・・。

 

 

イッセー君が死んだ・・・・・・?

 

 

ふざけるな・・・・・・・・。

 

 

そんな訳がない・・・・・・・。

 

 

「・・・・・そんな可能性なんて・・・・・僕は・・・・・僕達は信じない。彼は生きて・・・・・・必ず帰ってくる・・・・・!」

 

そうさ。

 

僕達は信じる。

 

彼がイッセー君が帰ってくることを・・・・・!

 

たとえ、シャルバがサマエルの血を塗った矢を持っていたとしても、彼がそれを受けるだろうか?

 

そちらの方があり得ない・・・・・!

 

『そうか。確かに彼が生きている可能性も否定は出来ないね。ならば――――ここで君達グレモリー眷属を殺しておくとしよう』

 

「っ!」

 

ジークフリートの言葉に僕は目を見開いた。

 

今・・・・・彼は何て言った・・・・・・?

 

『そんなに驚くことかな? 君達は僕達にとって厄介な存在であることは変わりはない。このまま見逃せば、この先どんどん力をつけていくだろう。そうなれば、こちらも甚大な被害を被ることは間違いない。君達を殺るなら赤龍帝がいない今が絶好のチャンスだろう』

 

そう言い残すと彼は僕に背中を向けて立ち去ろうとする。

 

部長を・・・・・皆を殺すつもりなのか・・・・・・!

 

強化され、魔帝剣グラムの真の力を引き出せるようになった今の彼ならそれも出来るだろう。

 

そうはさせない・・・・・!

 

「待て・・・・・・! 僕はまだ生きている・・・・・! 戦いはまだ終わっていない・・・・・!」

 

激痛で立つことも出来ないほどの状態だけど、僕は何とか追いすがろうとする。

 

このまま彼を行かせるわけには・・・・・・!

 

僕の言葉に彼は立ち止まり、振り返る。

 

そして、立ち上がろうともがく僕を嘲笑うかのように言った。

 

『今の君に何が出来る? 今の僕には手も足も出なかったじゃないか。ましてや、その出血だ。放っておいてももうすぐ死ぬ。・・・・・・・まぁ、トドメをさして欲しいと言うなら話は別だけどね』

 

彼はそう言うとそのまま歩みを進めていく。

 

「ぐっ・・・・・」

 

痛みを堪えきれず、僕は再び倒れこむ。

 

ダメだ・・・・・・・やはり体に力が入らない。

 

手足の感覚が無くなってきている。

目も霞んできた。

 

 

 

部長・・・・・

 

朱乃さん・・・・・・

 

小猫ちゃん・・・・・・

 

アーシアさん・・・・・

 

 

グレモリー眷属の皆が危ないというのに僕は・・・・・・

 

こんなところで・・・・・・

 

 

 

 

―――― 木場! 俺がいない間、皆を頼む! オカ研男子として女の子は絶対に守れ! いいな! ――――

 

 

 

 

 

ふいに聞こえてきたのはあの時に交わした彼の言葉。

 

 

 

何を諦めているんだ僕は・・・・・!

 

僕はイッセー君と約束したはずだ!

 

皆を守ると、そう彼に誓ったじゃないか!

 

 

動け・・・・・僕の体・・・・・!

 

立ち上がって剣を握るんだ・・・・・!

 

イッセー君はどんな時だって立ち上がっていたじゃないか!

 

こんなところで寝ている場合じゃない!

 

 

僕は手元に一振りの聖魔剣を造り出すとそれを地面に突き刺し、ありったけの力を籠める。

痺れる体に無理矢理奮い立たせ、倒れ伏せていた体を持ち上げた。

聖魔剣を杖に何とかして立ち上がった僕だが足が震え、一歩すら前に踏み出せない状態だ。

 

そんな僕に気づいたのかジークフリートは再びこちらを振り向き、そして目を見開いていた。

 

『まさか・・・・・その傷で立ち上がるなんてね。少々甘く見ていたかな? 前言撤回だ。やはり君はここでトドメを刺しておこう。ここで放置していけば追いかけてくるように思えるからね』

 

そう言ってジークフリートはこちらに歩を進め、ゆっくり戻ってくる。

 

・・・・・・立ち上がったとしても剣を振れないようじゃ意味はないか。

 

 

頼む、僕の体よ。

 

魔剣創造よ。

 

ほんの少しでいい。

 

皆を守るために・・・・・・・目の前の男を倒す力を・・・・・!

 

僕の想いに応えてほしい・・・・・・!

 

僕に更なる可能性があるというのなら、目覚めるべきは今なんだ!

 

 

僕はフラフラの体で剣を天に向けて振り上げ咆哮をあげた!

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

それと同時に聖魔剣が激しいオーラを放つ!

 

白と黒・・・・聖と魔のオーラが膨れ上がり、荒々しいオーラが吹き荒れた!

 

『なんだ・・・・・!? この力は・・・・今の君のどこにこんな力が・・・・・!?』

 

かつてないほど狼狽するジークフリート。

 

さっきまで死にかけていた男が立ち上がって吠え出したんだから、それも当然の反応か。

 

そんなジークフリートに僕は叫んだ。

 

「僕はイッセー君と約束した! 部長を・・・・皆を守ると! グレモリー眷属の男子として守り抜いてみせると誓った! ここで君を行かせるわけにはいかないんだ! 僕の想いに応えろ、魔剣創造ッ!!!!」

 

聖と魔の織り成す乱舞。

それが次第に小さくなっていき、完全な静寂が訪れる。

 

僕とジークフリートの間を一迅の風が吹き、砂塵が舞った。

 

僕は先程の荒々しいオーラとはうって変わり、静かで濃密な聖と魔のオーラを纏い、そして聖魔剣を胸の辺りに引き寄せた。

 

 

 

僕は一度、息を吐く。

 

 

そして、唄を唱え始めた―――

 

 

 

 

「この剣、我が魂を映す鏡なり」

 

 

 

聖魔剣から解き放たれた黒と白のオーラが僕を覆う。

 

 

 

「強き魂を持つ者、その刃は砕けず」

 

 

 

僕を覆う黒いオーラが変化していき、黒いコートのようなものを形成する。

同時に着ていた駒王学園の制服も黒一色の服へと変化した。

 

次に白いオーラが強くなり、黒い服装に白いラインが走る。

 

 

「一太刀に全てを籠めし者、斬れぬ物無し」

 

 

 

聖魔剣も強い輝きを放つと、その形状を両刃のものから片刃――――日本刀のような形状となった。

 

 

 

「畏れるな、退くな。誓いと誇りを胸に先へと進め」

 

 

 

ありがとう、魔剣創造。

 

僕の想いに応えてくれて。

 

 

 

 

「想いを貫き、仲間(とも)を護れ」

 

 

 

ありがとう、イッセー君。

 

君がいたからこそ僕はここに辿り着くことができたよ。

 

これで少しは君に近づけたかな?

 

 

 

「駆け抜けろ、双覇の騎士よ――――――」

 

 

 

ゴオォォォォォォオオオオオ!

 

 

僕を中心に突風が吹き荒れていく。

 

荒々しく吹くその風とは正反対に僕の纏うオーラは静かなものだった。

 

 

『なんだ、その姿は・・・・・・』

 

ジークフリートが僕を異質なものを見るような目で尋ねてきた。

 

今の僕から感じられる力は先程までとは違っているだろう。

 

まぁ、見た目もかなり変わっていると思うけどね。

 

「禁手第二階層――――『双覇の騎士王(パラディン・オブ・ビトレイヤー)』。・・・・僕の中に眠っていた新たな可能性を具現化したものだよ」

 

『っ! 君は赤龍帝と同じ領域に至ったというのか!』

 

同じ領域といえばそうなるかな。

 

もちろん、イッセー君のと比べると遥かに劣るだろう。

だけど、伸び白は十分にある。

 

この先の修行しだいでいつかは、ね?

 

『だが、君の受けた傷は塞がってはいない! そんな状態であと何回剣を振れる?』

 

確かに僕が受けた傷が今ので塞がるなんてことはないし、今も出血は続いている。

 

足も手も体全体が限界を訴えかけてきている。

 

 

 

だから――――

 

 

 

「一撃だ。この一撃でケリをつけよう」

 

 

僕は手に握った新たな聖魔剣を鞘に納刀して腰を落とした。

 

僕が全力で剣を振れる回数なんて、もう無いに等しい。

 

だから、この一振りに僕の全てを載せよう。

 

『一撃とは大きくでたものだ。だが、君は本当にそれを実現してしまいそうだ。僕も油断せずにいこうか!』

 

ジークフリートも魔剣と光の剣を構え、不気味で濃密なオーラを放っていく。

 

グラムもそれに応えるように攻撃的なオーラを強烈なものにしていった。

 

 

 

目を閉じ、全感覚を研ぎ澄ませる。

 

余計なものはいらない。

 

この一振りに全てをかけよう。

 

 

 

 

 

 

 

僕は目をゆっくり開くと、その一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

そして――――――――ジークフリートとすれ違う瞬間、一筋の光が煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・バカな・・・・この僕が反応出来なかったというのか・・・・・・』

 

 

ゴブッ

 

 

そう漏らすとジークフリートは口から血の塊を吐き出した。

 

彼の胴には深い斬り傷があり、そこからも大量の血が流れ出ていた。

 

僕の剣が彼の体を斬り裂いたんだ。

 

「抜刀術『影追』」

 

『ぐっ・・・・・僕の肉体は君の龍殺しの聖魔剣を超えていたはずだ・・・・・・・。いくら速さが上がったからといって・・・・・・』

 

「君の肉体を今の僕の聖魔剣が上回った。それだけのことさ」

 

『なるほど・・・・・・ガハッ・・・・・』

 

僕の返した言葉にジークフリートは皮肉気に笑むとついに膝を着き、息も絶え絶えになる。

 

彼から流れた血が彼の周囲を赤く染めていく。

 

「どうしてフェニックスの涙を使用しないんだい? 君達英雄派は独自のルートで入手できるのだろう?」

 

彼らは京都での一戦でフェニックスの涙を使用した。

今も所持していてもおかしくない。

 

けれど、彼は使用する素振りすら見せない。

 

ジークフリートは首を横に振る。

 

『この状態になると、フェニックスの涙での回復は出来なくなるのさ・・・・・・。理由はいまだに不明だけどね・・・・・』

 

この強化状態にはそんなデメリットがあったのか。

つまり、彼らは極度のパワーアップが出来る反面、回復は望めなくなるということ。

 

これは大きな情報だ。

 

皆にも知らせないと。

 

『・・・・・・やっぱりそうさ。・・・・・あの戦士教育機関で育った教会の戦士は・・・・・・まともな生き方をしないのさ・・・・・』

 

それだけを言い残し、彼はそのまま息を引き取った。

 

そして、僕もその場で意識を失った。

 

 

 

[木場 side out]


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