ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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3話 魔王の血

[美羽 side]

 

 

「うわっ・・・・・。あのデカい奴、また小さいモンスター出してる・・・・・・」

 

アリスさんが向こうに見える『豪獣鬼』を見て、目元をヒクつかせていた。

 

都市に入ろうとしていた小型のモンスターはさっき倒したけど・・・・・・・。

やっぱり、大本を倒さないとダメみたい。

 

 

グレモリー領内に現れたモンスターはリアスさん達と協力して何とかしたし、一般の人達の避難も大体は済んだ。

 

あとは旧魔王派と神器所有者の暴動が残っているんだけど・・・・・・リアスさんのお父さんから「私と兵士達に任せて、今は休みなさい」と言われたんだ。

 

確かにあの疑似空間での戦闘からずっと戦いが続いていたから、皆の消耗は大きい。

 

特にアーシアさんなんて、冥界に戻ってからは熱を出すほど力を使ったみたいだし・・・・・・。

他の皆も既にヘトヘトの様子だったから、休まされるのは仕方がないのかもしれない。

 

「これは・・・・・リアスさん達の回復待った方が良かったかな・・・・? 皆がいれば、結構楽になると思うんだけど・・・・・」

 

「そうも言ってられんだろう? このような事態だ。動ける者が動かないでどうする?」

 

アリスさんにそう返すのはティアさん。

 

実はティアさんを呼んだのはボクだったりする。

 

ボクとアリスさんはまだまだ余力を残してはいたけど、冥界の地理は分からないからね。

そこで、冥界について詳しいティアさんに来てもらったんだ。

 

「とにかく、こいつらをこの先へと通すわけにはいかん。美羽、結界はまだ保てるな?」

 

「うん。これくらいならまだまだ平気だよ。だけど、このまま続けても埒があかないんじゃないかな?」

 

今、ボク達が取っている行動はこう。

 

都市部に入ろうとするモンスター達を魔法で作り出した壁でその侵攻を遮る。

モンスター達が動きを止めている間にティアさんとアリスさんが攻撃を仕掛けて、モンスターを一掃するというもの。

 

今のところ、これでこの場はやり過ごせているけど・・・・・・。

 

ティアさんは手を顎にやって考え込む。

 

「・・・・・ふむ。対物理、対魔法。それに加えてあの再生能力か・・・・・・。あれが生み出すモンスター共はともかく、あれそのものは相当に厄介だぞ。強大な一撃で跡形もなく消し飛ばせば良いのだろうが、この辺りはまだ避難も済んでいないようだしな」

 

「はぁ・・・・・。あのシャルバってやつ、とんでもないことしてくれたわね! ロスウォードの眷獣よりも厄介じゃないの! あーもー! やっぱり私も残って、殴ってやれば良かったかも!」

 

アリスさんが荒れてる・・・・・・。

雷の迸り方が凄いことになってるよ・・・・・・。

 

シャルバ・ベルゼブブ・・・・・・。

旧魔王派の末裔で、今回の騒動の張本人。

 

 

そして、そのシャルバを倒すために―――――

 

 

「不安か?」

 

「えっ?」

 

ティアさんがいきなり聞いてきたので、ボクは聞き返してしまう。

 

「イッセーが心配なのだろう? まぁ、それはおまえだけに限った話ではないが・・・・・」

 

「・・・・・・うん」

 

ティアさんの問いにボクは小さく頷きを返した。

 

 

あの疑似空間にお兄ちゃんが残ってからもう二日が経った。

だけど、一向に連絡はこないし、連絡を入れても何も返ってこない。

 

お兄ちゃんが負けるわけがない。

 

 

だけど・・・・・

 

 

「イッセーは一度命を落としている。私は気を失っていたから、その瞬間を目にはしていない。だが、おまえの・・・・おまえ達の目にはその時の光景が目に焼き付いているはずだ。また同じことになるんじゃないか、そんな考えが頭にあるはずだ」

 

否定できなかった。

 

確かにお兄ちゃんが貫かれるあの瞬間はボクの頭の中から消えていない。

 

あの瞬間を思い出すだけで、体の震えが止まらなくなる時だってある。

 

それほどの衝撃だったんだ。

 

ティアさんはボクの肩に手を置くと息を吐く。

 

「無理はするなよ? 次元の狭間へ捜索に行きたければ、私のツテで―――――」

 

「大丈夫だよ、ティアさん」

 

ティアさんの言葉を遮ってボクは言った。

ティアさんの心遣いは本当に嬉しいし、今すぐにでもお兄ちゃんに会いたい気持ちもある。

でも、その必要はないんだ。

 

だって―――――――――

 

「あの空間で別れる時に約束したんだ。―――――必ず戻るって。だから待つよ、お兄ちゃんが返ってくるのを」

 

ボクが微笑を浮かべてそう言うと、アリスさんも続いた。

 

「そーいうこと。まぁ、帰ってきたらきたで、心配させた罰としてお仕置きくらいは受けてもらわないとね。っていうか、私達の約束放り出して死ぬとか絶対に許さないわ」

 

「約束? ああ、そういうことか」

 

ティアさんはニッコリと笑みを浮かべるボクとアリスさんを見て、ああと納得したように頷いた。

 

もしかして、お兄ちゃんから聞いてたのかな?

 

「イッセーから相談を受けていたんだが・・・・。サーゼクスが昇格の話をした時は少しばかり驚いたぞ。まさか、いきなりおまえ達の願いを叶える機会が来るとは思ってなかったからな」

 

「イッセーから相談? 何て?」

 

「イッセーの上級悪魔昇格。それに通るということは、イッセーは自分の眷属を持てるようになるということ。おまえ達がそれを受けて、イッセーに自分を眷属にしてほしいと願い出たらしいな。私はイッセーからおまえ達がどの駒に向いているか相談を受けていたのさ。もう大体の考えは纏まっている」

 

「本当? その結果は?」

 

アリスさんが訊くと、ティアさんはクスッと笑って人差し指を唇に当ててイタズラな笑みを浮かべた。

 

「フフッ、それはまだ内緒だ。訊きたければ、おまえ達の主となる者から直接聞くことだ。・・・・さて、そろそろお喋りは終わりだ。そろそろあのデカブツの動きを止めようか」

 

 

『ゴアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 

向こうの方に視線を移すと『豪獣鬼』が光線を目から飛ばし、空を飛んでいる悪魔の人達に攻撃を仕掛けていた。

 

あれだけ強力な光線。

悪魔の人達はもちろん、それ以外の種族でも受ければ致命傷を負ってしまう。

 

早く何とかしないと・・・・

 

でも、何か特殊な特性を持っているのか、ボク達の攻撃は通りにくい。

 

 

そうなると――――――――

 

 

「攻撃が通らなくとも、これ以上進めないようにすることはできるだろう? 足を止めてやれば良い」

 

「そうだね」

 

「同感。それなら、こいつらをどかしましょうか」

 

アリスさんは槍をクルクルと回すと地面に突き立て――――――――――

 

 

バチ バチチチチチチチチチチチチッ!!!!!

 

 

その瞬間、道を埋め尽くすほどいたモンスター達は感電したかのように体が弾けた。

閃光が止み残るのは黒こげになった炭だけ。

 

「これでOKね。さぁ、美羽ちゃん、やっちゃってよ」

 

「もう準備は出来てるよ。それじゃあ、始めるね」

 

ボクは路面に掌をかざすと呪文の詠唱を始める。

 

同時に『豪獣鬼』の足元に巨大で青く輝く魔法陣が展開された。

 

そこから出てくるのはクリアーブルーの大きな壁。

それが『豪獣鬼』を囲むようにして四枚が現れた。

 

これは結界・・・・・というより足止めに近いかな?

 

『豪獣鬼』を封印するわけでも、攻撃するわけでもない。

ただ、その足を止めるための大きな壁。

 

「『四壁封陣』。これで『豪獣鬼』はあの結界内から出られないし、生み出された小型モンスターもあの壁からは出られないよ。でも、結構力を使うから、ボクはこれに集中しなきゃいけないんだけど・・・・」

 

「十分だ。援軍も来たようだしな」

 

ティアさんが後ろに視線を送って言う。

 

すると、ボク達の背後に転移魔法陣が展開された。

この紋様は・・・・・

 

「美羽、アリスさん、それからティアマット。遅れてごめんなさい。―――――私達も戦うわ」

 

それは頼もしい援軍だった。

 

 

 

[美羽 side out]

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

僕達が駆けつけた時には小型モンスターの群れは一掃された後だった。

 

しかも、向こうの方では侵攻を続けていたはずの『豪獣鬼』が巨大な壁らしきものに囲まれ、その動きを封じられているようにも見える。

 

「なんというか・・・・かなり出遅れた感じね」

 

部長が周囲を見渡しながら唖然としていた。

 

僕達が映像を確認してからここに転移してくるまでさして時間が経っていないのに・・・・。

 

相変わらず、とんでもないメンバーだ。

 

ティアマットが部長に問う。

 

「体はどうだ、リアス・グレモリー。それから、アーシア・アルジェントも」

 

「問題ないわ」

 

「私もです。私も皆さんと一緒に戦います!」

 

「そうか。それならば、早速任せたいことがある。向こうの方、都市の方で旧魔王派の残党が暴れているようだ」

 

ここでも旧魔王派は暴れているというのか・・・・。

 

つまり、ここで僕達がしなければいけないことは―――――――

 

「私達三人はあのデカブツの相手をせねばならんのでな。あちらはおまえ達に任せよう」

 

ティアマットの言葉に部長は強く頷いた。

 

「わかったわ。心配はいらないと思うけど、三人ともくれぐれも気を付けてちょうだいね。皆、私達の任務は旧魔王派の掃討。それから一般市民の避難および救助よ。いいわね?」

 

『はいっ!』

 

 

 

 

 

 

僕が市街地に入ってから少し時間が経つ。

 

ここには旧魔王派の残党が多くはびこっていて、破壊を行っていた。

 

「あっ、貴様はグレモリーの!」

 

などと言って攻撃を仕掛けてくる者もいるが、それは迷わず斬り捨てる。

これまでに斬った数は二十は超えているが一向に減る気配がない。

 

 

いったい、どこにこれだけの数が潜んでいたのか・・・・・

 

 

それにしても気になるのが、一体どうやってここまで大きな暴動を起こせたのか。

 

今のところ、僕が相手をした旧魔王派の構成員はそれほどの手練れではなかった。

 

ここは冥界でも大きな部類に入る都市だから、配備されている兵士も多い。

『超獣鬼』や『豪獣鬼』の討伐に当たっているのだろうか?

 

もしくは神器所有者達の禁手のバーゲンセールに巻き込まれたか・・・・・。

 

どちらにしても早く捕えるなり、倒すなりしないと後々厄介なことになるね。

 

そんなことを考える僕の前に見覚えのある男性が現れる。

 

 

白髪に腰に何本もの剣を帯剣した男――――――

 

「君は―――――」

 

僕はつい声を漏らした。

 

相手も僕に気付いたのか、こちらを振り向く。

 

「やぁ、木場祐斗。君もここにいたんだね」

 

「ジークフリート・・・・。どうして君がここにいる?」

 

その男性―――――――ジークフリートは一度息を吐いて首を横に振る。

 

「なに、魔王アジュカ・ベルゼブブに僕達との同盟を持ちかけたら断られてしまってね。今はその帰りなのさ」

 

「なっ!?」

 

僕は予想外の言葉に驚きを隠せずにいた。

 

魔王に同盟を持ちかけただって!?

この情勢下でそんなことをしたというのか!?

 

いや・・・英雄派も馬鹿じゃない。

アジュカ・ベルゼブブ様が同盟を呑みうる可能性があっての行動だろう・・・・。

 

そんな僕の考えを見透かしたのか、ジークフリートは説明するかのように話し出す。

 

「アジュカ・ベルゼブブは現四大魔王でありながら、あのサーゼクス・ルシファーとは違う思想を持ち、独自の権利すらも有している。そしてその異能に関する研究、技術は他を圧倒し、超越している。一声かければサーゼクス派の議員数に匹敵する協力者を得られるという話だ」

 

その噂は僕も耳にしたことがある。

 

現魔王政府の中で魔王派は大きく分けて四つある。

その中で支持者が多いのがサーゼクス様を支持するサーゼクス派とアジュカ・ベルゼブブ様を支持するアジュカ派だ。

 

両派閥は現政府の維持という面では協力関係にあるが、細かい政治面では対立が多い。

ニュースなどの報道では両陣営の技術体系による意見の食い違いが良く目立つ。

 

傍から見ればお二人が対立しているように見えなくもない。

 

「そして僕達が一番魅力を感じていたのが―――――――彼はあのサーゼクス・ルシファーに唯一対抗できる悪魔だというところだ。サーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブは『超越者』として前魔王の血筋から最大級に疎まれ、畏れられているほどのイレギュラーな悪魔だからね。その一方が僕達に手を貸してくれるのであればこれ以上の戦力はない」

 

「だけど、アジュカ・ベルゼブブ様はそれを断った」

 

僕の言葉にジークフリートは苦笑する。

 

「常に新しい物作りを思慮している彼のことだから、こちらの有している情報と研究資料を提供すれば食いつくと思ったんだけどね。彼にとって僕達との同盟は否定しなければならないものらしい」

 

普通に考えればそうだろう。

 

冥界を支える魔王の一人。

いわば、悪魔の代表者たる者がテロリストと手を組むなんてあってはならないことだ。

 

しかし、ジークフリートの口調ではそれとは違う理由があったように思える。

 

「彼にとってサーゼクス・ルシファーとは唯一『友』といえる存在らしい。彼が魔王になったのもサーゼクス・ルシファーが魔王になったからに過ぎない、だそうだよ。僕には分からない理由だけどね」

 

アジュカ・ベルゼブブ様とサーゼクス様は旧知の間柄。

若い頃からのライバル関係だったと聞く。

 

競うべき相手であり、友でもある存在。

 

それがアジュカ・ベルゼブブ様の中で確固たるものであり、テロリストとの同盟を破棄するのも容易なものだったのだろうね。

 

 

・・・・・・そこで気になるのが、同盟を断られた今、なぜジークフリートがこうして生きているかということ。

 

アジュカ様が見逃したのだろうか?

 

「よく無事に生きて帰れたものだ」

 

「僕と共にアジュカ・ベルゼブブの元に向かった旧魔王派の残党。今ごろ彼らがアジュカと戦っているんじゃないかな? ・・・・・いや、もう終わってるかもしれないな」

 

その口調だと旧魔王派の悪魔達はアジュカ・ベルゼブブ様に倒されたと見るべきなのだろうね。

 

過去の前魔王政府とのいざこざでサーゼクス様とアジュカ・ベルゼブブ様は反魔王派のエースとして当時最前線で戦われていた英雄だ。

 

サーゼクス様は全てを滅ぼしきる絶大な消滅魔力を有し、アジュカ・ベルゼブブ様は全ての現象を数式、方程式で操りきる絶技を有すると言われている。

 

旧魔王派の悪魔達はその力にやられたのだろう。

 

 

ジークフリートの背中から龍の腕が四本出現する。

そして、帯剣している魔剣を全て抜き放った。

 

「さて、そろそろやろうか。交渉が失敗に終わった今、僕もここで何か戦果をあげておかないと部下に示しがつかないんだよ。幹部をやるのも楽じゃない」

 

それを受けて、僕も手に握る絶大な聖魔剣に龍殺しの力を付与させて構える。

 

僕の龍殺しの力が彼に通じるのは前回の一戦、あの疑似空間での戦闘で証明済みだ。

 

正直、純粋な実力としては彼の方が上だろう。

これまでは彼の虚をついて戦ってはこれたが、果たして今回はどうなるか・・・・・・。

 

倒すなら、短期戦。

龍殺しの弱点を突くのが最善だ。

 

 

そんな考えを張り巡らせている時――――

 

 

 

「と言っても、ここで君とやりあえば勝てたとしてもダメージは否めないな。君の成長は恐ろしく早い」

 

そう言うとジークフリートは懐を探りだした。

 

取り出したのはピストル型の注射器。

京都で戦った時に彼が使いかけた物だ。

 

「そういえば京都で少しだけ見せたね。これは旧魔王シャルバ・ベルゼブブの協力により完成に至ったもの。いわばドーピング剤だ。――――神器のね」

 

「神器能力を強化すると?」

 

僕の問いに彼は頷く。

 

・・・・・・そんなものまで研究していたのか。

 

オーフィスの『蛇』を神器に絡まらせることで所有者の様々な特性を無理矢理に引き出す実験をしていたのは僕も知っている。

 

ジークフリートは語る。

 

 

「聖書に記されし神が生み出した神器。それに宿敵である魔王の血を加えたらどのような結果を生み出すかがこの研究テーマだった。かなりの犠牲を払ってしまったが、その結果、神聖なアイテムと深淵の魔性は融合を果たしたのさ」

 

魔王の血を神器に・・・・・・!

 

そんな聞くだけで危険な研究を犠牲を払ってまで成し遂げたというのか!

 

ジークフリートは手に握るグラムに視線を向ける。

 

「本来、この魔帝剣グラムの力を出し切れば、僕は君を倒せていただろう。だけど、残念ながら僕はこの剣に選ばれながらも呪われていると言っていい。この意味は理解できるだろう?」

 

彼の言うことは確かに分かる。

 

戦いながらも感じていた。

彼はグラムの本来の力を発揮できていないことに。

 

伝承通りならば魔帝剣グラムは凄まじい切れ味を持った魔剣。

攻撃的なオーラを纏い、いかなるものをも断つ鋭利さを持っている。

 

加えてグラムは龍殺しの特性がある。

かの五大龍王『黄金龍君』ファーブニルを一度滅ぼすほどの。

 

つまり、魔帝剣グラムはデュランダル+アスカロンの特性を持っているのだ。

 

これらを踏まえると持ち主であるジークフリーの特徴を捉えると実に皮肉な答えが生まれてくる。

 

「君の神器は『龍の手』――――ドラゴンだ。龍殺しの特性を持つグラムとは相性は最悪と言ってもいい」

 

「そう。僕の神器は亜種だったけれど、例外にはならなくてね」

 

ジークフリートは苦笑しながらグラムをひゅんひゅんと回す。

 

「禁手状態で、こうやって攻撃的なオーラを完全に抑えて使用する分には切れ味があって強固な魔剣なんだけどね。それではこの剣の真の特性を解き放つことは出来ない。かといって力を解放すれば・・・・・・禁手状態の僕は自分の魔剣でダメージを受けてしまう。こいつは主の体を気遣うなんて殊勝なことはしてくれないさ」

 

彼が本来のグラムを使用するとなれば、それは通常時に限られる。

 

 

――――つまり、禁手を解いた時だ。

 

 

 

「グラムを使いたければ常体でやればいい。けれど、それでは君達との戦いに対応しきれない。禁手の能力を使わなければうまく相対できないからね。しかし、禁手状態でも魔帝剣グラムを使用できるとなれば、話は別だ」

 

ジークフリートは注射器を首もとに近づけ――――挿入させていく。

 

 

僅かな静寂・・・・・・・

 

 

 

刹那、ジークフリートの体が脈動する。

 

それは次第に大きくなり、体そのものに変化が訪れる。

 

 

ミチミチ・・・・・という鈍い音を立てながら、彼の背に生える四本の腕が太く肥大化していく。

五指も形を崩し、持っていた魔剣と同化していった。

 

ジークフリートの表情は険しくなり、顔中に血管が浮かび上がっていた。

 

全身の筋肉が蠢き、膨れ上がり、身に付けていた英雄派の制服が端々から破れていく。

 

 

そして、誕生したのが――――

 

 

かつての面影を残さない、怪人ともいえる存在だった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 


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