ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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2話 立ち上がる若手達

[木場 side]

 

 

 

他のメンバーの様子を見に行き、フロアに戻ろうとした時だった。

 

廊下で見知った人物が前を通りかかる。

 

「―――匙君」

 

 

匙君だった。

 

僕が話しかけると匙も手を挙げる。

 

「よ、木場」

 

「どうしてここに?」

 

僕がそう訊くと、匙君は息を吐きながら言う。

 

「会長がリアス先輩の様子見と、今後のことで話しにきたんだよ。その付き添いでな。表ですれ違い様フェニックス家のヒトたちにも会ったけどな」

 

「そっか、ありがとう」

 

会長も部長の様子を見に来てくれたんだね。

 

匙君と共にフロアまで歩く。

その中で彼は決意の眼差しで言った。

 

「木場、俺も今回の一件に参加するつもりだ。都市部の一般人を守る」

 

――――っ。

 

シトリー眷属も冥界の危機に立ち上がったようだ。

 

 

実力のある若手は招集がかけられている。

大王バアル眷属と大公アガレス眷属も当然出るだろう。

 

シトリー眷属がそこに参加してもおかしくはない。

僕達にも声はかけられている。

 

「僕達も合流するよ」

 

「ああ。・・・・・だけど、大丈夫なのか?」

 

大丈夫、か。

 

正直、僕達は未だに帰ってこないイッセー君のことで頭が一杯だ。

出来れば、今すぐにでも救援に向かいたい。

 

だけど・・・・

 

僕は一度、息を吐いて返した。

 

「戦うよ。僕達はイッセー君に託された。冥界を・・・・・子供達を・・・・・・。彼がいない間は僕達が頑張らなければいけない。――――――僕達は立つよ、前線に」

 

僕は今、自分が抱えている心情を匙君に告げた。

―――――いや、僕達グレモリー眷属が抱えている心情と言った方が正しいかな。

 

匙君はニンマリと笑みを浮かべて大きく頷いてくれた。

 

「おまえならそう言ってくれると思ったぜ。だけど、無理はするなよ?」

 

笑みを浮かべていた匙君だが、一度大きく息を吐いた。

 

「実は俺さ・・・・・兵藤に憧れてるんだ」

 

「イッセー君に?」

 

僕が聞き返すと匙君は頷く。

 

「普段はスケベだけどさ、本当の兵藤は誰よりも熱くて仲間思いで、戦場では誰よりも前に出る。力だってバカみたいに強いし、戦ってる時のあいつって頭の回転も速いし。最初は・・・・・・俺と同期なのになんでここまで差があるんだって、嫉妬すら覚えた」

 

そうか・・・・。

イッセー君と匙君が悪魔に転生した時期はほぼ同じだった。

 

その時は僕達もイッセー君の過去を知らなかったし・・・・・同じ兵士である匙君がイッセー君に嫉妬や劣等感を感じてしまうのは仕方のないことだろう。

 

「あいつの過去を聞いたときはぶったまげたなんてもんじゃなかった。もちろん兵藤が経験してきたこともそうだけど・・・・・あいつが今までどんな気持ちで戦っていたのか、話を聞くまで俺はちゃんと理解してなかったことが分かってさ。あいつがどんな想いで力を手に入れたかなんて考えてすらいなかった自分が嫌になったよ」

 

「匙君・・・・君は―――――」

 

僕がそこまで言いかけると、匙君は手を突き出してそれを制する。

 

「言っとくけど、今は違うぜ? そんな気持ちを持ったままじゃあいつには追いつけない。そんなことはとっくに気付いてるよ。だから、俺はあいつを目標にすることにしたんだ。今は遠く及ばなくてもいつかはあいつに追いつきたい。そのためにも俺は今回の一件、あいつが不在の今、何が何でも一般市民を守り抜いてみせる。――――――たとえ、命を懸けてでも」

 

拳を握る匙君の瞳には強い覚悟があった。

 

「良い覚悟です。その気持ちがあれば、あなたはまだまだ強くなれますよ、サジ」

 

振り返ると、そこにはソーナ会長の姿があった。

 

「会長」

 

「ですが、命を懸けても死ぬことは許しません。わかっていますね?」

 

「はいっ! もちろんです!」

 

ソーナ会長の視線が僕に移る。

 

「私達はこれで失礼します。魔王領にある首都リリスの防衛及び都民の非難に協力するようセラフォルー・レヴィアタンさまから仰せつかっていますので」

 

最上級悪魔クラスの強者は各巨大魔獣の迎撃に回っているため、悪魔政府は有望な若手に防衛と民衆の避難を要請している。

 

グレモリー領民の避難はほぼほぼ終えているので、僕達グレモリー眷属は別の場所――――より被害の大きい場所に向かうことになるだろう。

 

「部長にお会いになられましたか?」

 

「先ほど部屋を覗いたら、眠りながら涙を流していました。よほど、無理をしていたのでしょう。揺さぶっても反応がありませんでした」

 

「・・・・この二日間、一睡もせずに事態の解決に向けて動いていましたから」

 

「肉体的な疲労もそうですが、イッセー君のことで心労が祟ったと見えます。・・・・もう少し休ませてあげてください」

 

「はい」

 

そこで会話を終え、ソーナ会長は一度背中を見せる。

 

・・・・が、何かを思い出したかのようにもう一度、こちらに顔を向ける。

 

「ああ、それともう一人、貴方達に会いに来ていますよ」

 

そう言ってソーナ会長は薄く笑うと、匙君を引き連れてその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

フロアに戻ると、ちょうどテレビで首都の様子が映し出されていた。

テレビに映る首都の子供達。

 

レポーターの女性が一人の子供に訪ねる。

 

『ぼく、怖くない?』

 

レポーターの質問に子供は笑顔で答える。

 

『平気だよ! だって、あんなモンスター、おっぱいドラゴンが倒してくれるもん!』

 

―――――――っ

 

満面の笑みでそう応える子供。

 

手には『おっぱいドラゴン』を模した人形が握られている。

 

画面の端から元気な顔と声が次々と現れてくる。

 

『そうだよ! おっぱいドラゴンがたおしてくれるもん!』

 

『おっぱいドラゴン!』

 

子供たちは不安な顔ひとつ見せず、ただただ『おっぱいドラゴン』が助けてくれると信じきっているようだった。

 

『早く来て、おっぱいドラゴン!』

 

・・・・・イッセー君、聞こえているかい?

 

君を呼ぶこの声は届いているかい?

 

皆、不安な顔一つ見せずに君が来るのを待っているよ?

 

 

もし、この声が届いているのなら――――――その顔を子供たちに見せてあげてほしい・・・・!

 

 

「俺たちが思っている以上に冥界の子供達は強い」

 

突然の声。

 

いつの間にか、僕の隣にその男はいた。

 

「あなたは!」

 

「兵藤一誠はとてつもなく大きなものを子供たちに宿したようだ。―――久しいな、木場祐斗。リアスに会いにきた」

 

サイラオーグ・バアル・・・・・。

 

ソーナ会長が言っていたのはこの人のことだったのか。

 

このタイミングでここに来たということは、やはりこの人にも事の次第は伝わっているのだろう。

 

「リアス部長は今――――――」

 

現在の部長の様子を伝えようとした時だった。

 

 

 

「ここにいたのね、祐斗」

 

 

―――――っ

 

その声に振り向くと、そこには部屋で休んでいたはずの部長。

 

目元には涙を流した痕があるが、毅然とした様子だった。

 

「もうお体の方は良いのですか?」

 

「ええ。少し休んだからもう大丈夫よ。ごめんなさいね、こんな時だというのに。・・・・サイラオーグも来ていたのね」

 

部長がサイラオーグ・バアルに声をかけた。

 

「ああ。兵藤一誠のことを耳にしたのでな。おまえ達の様子を見に来たのだが・・・・・余計な心配だったようだな」

 

イッセー君は僕達グレモリー眷属の柱。

ほとんどのメンバーは彼に依存してると言っても良い。

 

その彼が不在・・・・しかも生死不明となれば僕達は不安で一杯になる。

 

それが分かっていたのだろう。

サイラオーグ・バアルも僕達のことを気にかけてくれていたんだ。

 

部長は苦笑しながら首を横に振る。

 

「ありがとう、サイラオーグ。でも私は大丈夫。・・・・・イッセーは生きて帰ってくる。彼を信じないで彼の主は名乗れないわ。今ここで何もしなければ、あの空間に一人で残ったイッセーの想いを踏みにじることになる。そんなことはしたくないの」

 

「ほう・・・・。どうやら俺はおまえを見誤っていたらしい。おまえは俺が思っていたよりもずっと強くなっていたようだ。――――――――あの男に抱かれたか?」

 

「・・・・残念ながらまだよ。だけど、いつかは必ず―――――――。彼に幻滅されないためにも私は行くわ、戦場に。イッセーが私達に託したものを守るために」

 

「戦場に行くのはリアスだけではありませんわ。私達もです」

 

声のした方を向けば、朱乃さんに小猫ちゃん、レイヴェルさん、それにアーシアさん。

力を使い過ぎてアーシアさんは寝込んでいたけど、体調はもう大丈夫なのだろうか?

 

「朱乃、小猫、レイヴェル。アーシアはもう体はいいの?」

 

「はい。皆さんが看病してくれましたから。もう熱は下がってます」

 

「それは良かったわ。―――――そういうわけで、サイラオーグ。私達も出るわ」

 

部長の言葉を訊いて、サイラオーグ・バアルは満足そうに笑みを浮かべ、僕達を見渡す。

 

「ああ。それでこそおまえ達だ。あの男の仲間であるならばそうでなくてはな。それでは、俺は先に戦場に向かうとしよう。待っているぞ、リアス。そしてグレモリー眷属よ」

 

 

サイラオーグ・バアルが去るのを見届け、部長は僕達を見渡して何かに気付いた。

 

「そういえば美羽とアリスさんは? 彼女達の姿が見えないのだけれど・・・・・」

 

確かに、そう言われれば彼女たちの姿が見えない。

 

現在、ゼノヴィアとイリナは天界に向かってるし、ギャスパー君とロスヴァイセさんは自らの力を高めるためそれぞれグリゴリの研究施設と北欧に行っているためここにはいない。

レイナさんもアザゼル先生に着いてどこかへ行ってしまった。

 

あの二人は僕達と一緒にこの城にいるはずなんだけど・・・・・・いったいどこへ?

 

 

『ごらんください! 都市に攻め込んでいた小型モンスター達の群れが何かに遮られているようにあそこから一歩も前に進めていません! これはどういうことなのでしょうか!?』

 

テレビから聞こえる報道陣の声。

 

その声に僕達はテレビ画面を覗きこむように見る。

 

映し出されているのは冥界の中でも大きな都市。

 

カメラの向こう、都市に通じる道には『豪獣鬼』が生み出したモンスターの大群がいて、今にも都市部へと攻め込もうとしている。

 

しかし、その群れの先頭。

そこにいるモンスターはそれ以上先には進めないでいるようだった。

 

 

―――――まるで、透明な壁でもあるかのように

 

 

その時、映像に白い閃光と幾重にも放たれる光。

 

それによってモンスターの群れはことごとく消滅させられていく。

近くで戦っていた冥界の兵士達がその光景を唖然としながら見ているのが映像から分かる。

 

それはそうだろう、先ほどまでかなり手こずっていたのだ。

それが一瞬で滅されていくのだから、当然の反応と言える。

 

「まさか・・・・・」

 

部長が声を漏らす。

 

今の光景には見覚えがあった。

 

爆煙が止み、映像に現れるのは三人の女性。

 

 

『これで一先ずってところかしら?』

 

『だが、あのデカいのを何とかしなければ話になるまい』

 

『そうだね。どうにかして止めないと』

 

 

アリスさん、ティアマット、そして美羽さんは既に戦場に立っていた。

 

アリスさんと美羽さんもここで休むように言われていたはずなのだが・・・・・・

 

 

「私達もいきましょう。ーーーー彼女達に続くのよ」

 

『はいっ!』

 

 

僕達はその場を後にして、現場へと急行した。

 

 

 

[木場 side out]


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