ヴァルナルです!
新年初投稿です!
年末に比べると更新スピードはガクンと下がりますが、今後も完結目指して投稿していくので、よろしくお願いします!
1話 冥界の危機
[木場 side]
昇格試験から二日ほど経過した昼頃。
僕達グレモリー眷属は、グレモリー城の一角にいた。
グレモリー城の使用人をはじめ、グレモリーの私兵も慌ただしく動いている。
理由は現在冥界が危機に瀕しているからだ。
旧魔王派のトップ、シャルバ・ベルゼブブの外法によって生み出された『魔獣創造』の超巨大モンスターの群れは冥界に出現後、各重要拠点及び都市部へと進撃を開始した。
フロアに備え付けられている大型テレビでは冥界のテレビはトップニュースとして、進撃中の魔獣を映している。
『ご覧ください! 突如現れた超巨大モンスターは歩みを止めぬまま、一路都市部へと向かっております!』
魔力駆動の飛行機やヘリコプターからレポーターがその様子を恐々として報道している。
冥界に出現した『魔獣創造』の巨大な魔獣は全部で十二体。
どれもこれもが百メートルを優に超える大きさだ。
人型の二足歩行をするタイプの巨人もいれば、獣の様なタイプの四足歩行をするものもいる。
姿形は一体として同じものがいない。
人型タイプも、頭部が水生生物のものであったり、目がひとつであったり、腕が四本も生えているものもいる。一言で表すなら合成獣――――キメラのようだ。
魔獣たちはゆっくりと一歩ずつ歩みを止めぬまま進撃し、速ければ今日、遅くても明日には都市部に到達する。
さらに厄介なのが、この魔獣たちが進撃をしながらも小型のモンスターを独自に生み出している点だ。
魔獣の体の各部位が盛り上がり、そこから次々と小型のモンスターが生まれてくる。
大きさは人間サイズだが、一度に数十から百数体ほど生み出されている。
このモンスターたちは通りかかった森や山、自然を破壊し、そこに住む生き物も食らい尽していく。
人的被害は出ていないようだが、進撃先にあった町や村は丸ごと蹂躙されていった。
その巨大魔獣の中でも群を抜いて巨大なのが冥界の首都、魔王領にある首都リリスに向かっている。
一際巨大なその魔獣を冥界政府は『
その他十一体は『
これらはアザゼル先生がルイス・キャロルの創作物にちなんで付けたものだ。
テレビの向こうでは、『豪獣鬼』を相手に冥界の戦士達が迎撃を開始していた。
黒い翼を広げ、正面や側面、或いは背面からほぼ同時攻撃で魔力の火を打ち込んでいく。
周囲一帯を覆い尽くす質量の魔力が魔獣に放たれていた。
その攻撃を繰り広げたのは、最上級悪魔とその眷属だ。通常の魔獣ならそれだけでオーバーキル。間違いなく滅ぼされているだろう。
しかし―――。
『なんということでしょうか! 最上級悪魔チームの攻撃がまるで通じておりません!』
体の表面にしかダメージを与えられず、致命的な傷は一切加えることができなかった。
迎撃に出ている最上級悪魔チームはどれもがレーティングゲーム上位のチームだ。
しかし、それでも効果のある迎撃ができずじまいだった。
それだけ、魔獣が堅牢だということ。
各魔獣の撃退には堕天使が派遣した部隊と、天界側が送り込んだ『御使い』たち。
そしてヴァルハラからはヴァルキリー部隊、ギリシャからも戦士の大隊が駆け付け、悪魔と協力関係を結んだ勢力から援護を受けている。
そのおかげもあって、最悪の状況だけは脱しているのが現状だ。
・・・・・・・あくまで、現状だが。
このまま時間が過ぎればどうなるかわからない。
更に問題は山積していた。
昨夜、レーティングゲーム王者―――ディハウザー・ベリアルとその眷属チームが迎撃に出たのだが・・・・・・・
『超獣鬼』にダメージこそ与えられたものの、歩みを一時的に止めることしかできなかった。
『超獣鬼』はダメージを速効で再生、治癒してしまい、何事もなかったように進撃を再開させたのだ。
その衝撃的な事実はニュースとして冥界中を駆け巡り、民衆の不安を煽る結果となってしまった。
レーティングゲーム王者である皇帝ベリアルとその眷属が出場すれば『超獣鬼』ですら倒せると内心で信じ切っていたからだ。
皇帝べリアルの力は疑いようのないもの。
魔王クラスと称されるその力でも退けることが出来なかったのだ。
もうひとつ問題なのは、この混乱に乗じて各地に身を潜めていた旧魔王派がクーデターを頻発させている点だ。
おそらく、この魔獣たちの進撃は旧魔王派の計画通りであり、それに合わせる形で各都市部を暴れ回っている。
さらに、この混乱によって冥界各地で上級悪魔の眷属が主に反旗を翻しているのだ。
無理矢理悪魔に転生させられた神器所有者がこれを機にいままでの怨恨をぶつけているのだ。
先生風に言うなら、禁手のバーゲンセール状態。
それが冥界各地で勃発している。
魔獣群を止めなければならないうえに、冥府の神ハーデスや『禍の団』の英雄派も警戒しなければならない。
――――冥界は深刻な危機に瀕している。
「『超獣鬼』と『豪獣鬼』の迎撃に魔王さま方の眷属が出撃されるようだ」
っ!
突然の声に振り向くとそこにはライザー・フェニックスの姿。
テレビに食い入りながら考え事もしていたので、彼の接近に気づけなかった。
ライザー・フェニックスは息を吐く。
「兄貴の付き添いでな。ついでにリアスとレイヴェルの様子を見に来た。・・・・・・奴はまだ戻ってきていないのか?」
深刻な表情でライザー・フェニックスは尋ねてきた。
彼が言う奴とはイッセー君のこと。
この騒動を起こした張本人、シャルバ・ベルゼブブに拉致されたオーフィスを奪還するためにイッセー君はあの疑似空間に残ったのだが・・・・・・・。
それから二日経った今でも彼が戻ってくることはなかった。
連絡すらついていないというのが現状だ。
当然、召喚も行ったが・・・・・・彼がそれに応じることはなかった。
彼がシャルバに負けたとは考えにくい。
それにイグニスさんがついているなら、次元の狭間から抜け出すことは容易に出来るはず。
それなのに、帰ってくることも連絡も出来ないということは何か予想外のアクシデントが起こったということ。
彼が死ぬはずがない。
だけど、彼と共に異世界へと渡った僕達は一度、彼の死を経験している。
――――嫌な考えが僕達の中に過っていた。
僕は頭を振ってその考えを消し去る。
「部長とは会えましたか?」
僕の問いにライザー・フェニックスは小さく頷く。
「ああ。・・・・・といっても、寝顔だけだがな。この二日、ろくに寝てないんだろう?」
あの疑似空間から脱出した僕達はそれからすぐに行動に移った。
グレモリー領に戻った後、グレモリー領に住む人達の避難に当たり、魔獣が生み出した小型モンスターの駆逐にも出撃した。
それに加え部長は城の兵士達に状況に応じて指示を送るなど、頭と体を酷使し続けることになったんだ。
こんな事態だ。
当然、休む暇などない。
疑似空間での戦闘から休むことなく動き続けた結果、グレモリー現当主、つまり部長のお父さんに少し休むように言われ、現在、部長は自室で休息を取っていた。
体の疲労もあるのだろうが、イッセー君を心配する心労もあったのだろう。
部長は糸が切れた人形のようにベッドで眠りについている。
他のメンバーも今は体を休めるように言われている。
皆も戦闘に続く戦闘で心身ともに疲弊しきってるんだ。
「いいかね、レイヴェル。気持ちは分かるが、ここで体を壊してしまっては元も子もないだろう? フェニックス領のことは我々がすでに手を打ってある。心配はいらないよ」
フロアに二つの姿が現れる。
一人はレイヴェルさんで、もう一人は男性だった。
その男性には見覚えがある。
と言ってもテレビでだが・・・・・・。
フェニックス家の長兄にして、次期当主ルヴァル・フェニックス氏。
端正な顔立ちで貴族服を身につけている。
物腰もとても柔らかく、立っているだけで華がある。
レーティングゲームでもトップテン内に入ったこともある実力者で、近々、最上級悪魔に昇格するのではないかという噂も流れていた。
ライザー・フェニックスが兄の付き添いでここに来たと言っていたのはこのことか。
氏はレイヴェルさんをソファへ座らせた後、僕の元へ歩み寄る。
「リアスさんの『騎士』か。そうだな、君でいいだろう」
そう言うと氏は懐から小瓶を数個取り出した。
「これを君達に渡すついでに妹とリアスさんの様子を見に来たのだよ。こんな事態だ、涙をこれだけしか用意出来なかった。有望な若手である君達に大変申し訳なく思う。――――もうすぐ私も愚弟を連れて魔獣迎撃に出るつもりでね」
「・・・・・愚弟で悪かったな」
ライザー・フェニックスが兄の言葉に口を尖らせていたが・・・・・。
そうか・・・・・・・フェニックスの兄弟も魔獣の迎撃に出るのか。
確かに不死身のフェニックスが前線にいるのは心強い戦力になるだろう。
僕はルヴァル氏から涙を受け取った。
そう、僕達だって前線に行かなければならないんだ。
こんなところで休んでいる場合なんかじゃない。
――――イッセー君が今この時も戦っているかもしれないのに、僕達だけ休んでなんていられない。
「赤龍帝君については私も聞いている。レイヴェルやリアスさんの眷属を見ていればどれだけ不安を抱えているのかがわかる。・・・・・だがね、焦るのは良くない。焦りは危険を伴う。そうなれば守れるものも守れなくなってしまう。それは分かるね?」
「はい・・・・・」
ルヴァル氏は僕の焦る気持ちを見抜いたのだろう。
でも、この方が言っていることは正しいことで・・・・・・。
「・・・・アーシア先輩、大丈夫ですか?」
見れば、小猫ちゃんがゲストルームのソファで横になって休んでいるアーシアさんに声をかけていた。
アーシアさんの顔には明らかな疲労が見られる。
それもそのはず。
アーシアさんはこの二日間、避難の時に負傷した人、暴動に巻き込まれた人、魔獣と戦って負傷した兵士の人達の治療に当たっていたのだから。
フェニックスの涙が不足している現在、彼女のような神器を持った人はその力を求められる。
アーシアさんも「イッセーさんだって頑張っていますから」と休まずに力を使い続けていたのだが・・・・・。
かなりの力を使ったのだろう、やはり限界が来てしまったのだ。
神器を使いすぎたせいなのか、今は熱を出してしまっている。
「は、はい・・・・・ごめんなさい、こんな時に倒れてしまって・・・・・・」
「いえ、アーシア先輩は十分頑張りました。これ以上力を使ったら・・・・・・」
「でも・・・・・・イッセーさんだって今も・・・・・・」
「それは・・・・・・」
アーシアさんの言葉に小猫ちゃんも言葉を詰まらせていた。
小猫ちゃんも気持ちは同じなんだ。
ルヴァル氏は微笑みながら僕の肩に手を置いた。
「この二日、君達が動き続けていたことはよく知っている。先程、レイヴェルにも言ったがね、体を壊してしまっては元も子もない。君達は将来有望な若手。ここで失いたくはない」
そう言うと、ルヴァル氏はレイヴェルさんの方に視線を移した。
レイヴェルさんは小猫ちゃんのところで、アーシアさんの看病に当たってくれているようだ。
「これはお願いなんだが、レイヴェルをここに置いてくれないだろうか? 折角、友人も出来たようだしね。小猫さんとギャスパー君だったかな? 連絡用の魔法陣越しに楽しそうに話してくれていてね」
どうやら、レイヴェルさんは身内の方に駒王学園での様子を報告していたようだね。
「それと赤龍帝君のこともね。・・・・・我が家としてはレイヴェルを将来、赤龍帝君の眷属にしていただきたいんだが・・・・・・・それはこの事態が解決してからゆっくり話していけばいいだろう」
イッセー君が気づいているかどうかは知らないけれど、フェニックス家の意向は様々な面から見て取れた。
人間界に来たこともそうだし、イッセー君のマネージャーになったこともその一つなのだろうね。
「わかりました。レイヴェルさんは僕達がお預かりします。・・・・・・ありがとうございました」
僕はルヴァル氏にそう頭を下げた。
少しだけど、彼の言葉で焦っていた気持ちが静まったから。
「うむ。それでは私達は行こう。ライザー、おまえもフェニックス家の男ならば業火の翼を冥界中に見せつけておくのだ。でなければ、またタンニーン殿の山に送りつけるぞ?」
「うっ・・・・・。それは勘弁願いたいです、兄上・・・・・。じゃあな、木場祐斗。これ以上、若手だけに良い格好はさせないぜ?」
ライザー・フェニックスはそう笑むとルヴァル氏と共にこの場を去っていった。
[木場 side out]
というわけで、新年初投稿はこんな感じでした~。
原作同様、疑似空間の出来事から二日経っています。
ただ違うのはイッセーは死んだのではなく、音信不通になっているということです。
その理由が明らかになるのは三~四話以降になる予定です