「ふわぁ~あ」
朝の通学中、俺は大きなあくびをしてしまっていた。
気だるげにする俺を俺の両サイドを歩く美羽とアーシアが心配そうに見てくる。
「お兄ちゃん、寝不足?」
「大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫………じゃないけど、大丈夫。昨日はただ、眠れなかっただけだから」
そう、眠れなかっただけだ。
昨日はあんなことがあったのだから。
眠れなくて当然だろう。
▽
「部長、それは本気ですか!?」
魔法陣で現れた部長は、いきなり処女を貰ってくれと言ってきたのだ!
混乱する俺を置いて、部長は俺に馬乗りになりながら服を脱いでいく!
「本気よ。………既成事実が出来てしまえば文句はないはず。それとも、イッセーは私ではダメかしら?」
「い、いえ! そんなことは!」
部長の初体験の相手に選ばれたんだ。
ダメなはずがない。
むしろ、光栄です!
だけどね、この展開はいきなり過ぎると思うんだ!
初体験ってこういうもんなの!?
こんな突発イベントみたいに来るもんなの!?
絶対違うよね!?
誰か、童貞の俺に教えてくれぇい!
というか、部長の言ったことで気になることがあったんだが。
既成事実が出来てしまえば文句はない………?
「そう。それは良かったわ」
疑問を浮かべる俺を無視して部長はブラのホックを外してしまう!
部長の豊かなおっぱいが目の前にぃぃぃぃぃぃぃ!
ブハッ!
飛び出す鼻血!
部長の生乳だぞ!?
興奮しないわけがないじゃないか!
部長が俺の肩に手を置いて訊いてくる。
「イッセー、あなたは経験はあるのかしら?」
「い、いえ! は、初めてです!」
知識だけならいっぱいあるけどね!
「私も初めてだから、お互いに至らない所もあるでしょうけど、何とか最後まで事を進めましょう」
部長はそう言って俺に顔を近づけてくる。
ちょ、ちょぉぉぉぉぉぉぉぉ!
マジでか………マジでこの勢いでしちゃうんですか、部長!?
俺としても初体験の相手が部長なら、最高だと思う!
唇を重ねようとする部長と俺の視線が交わり―――――俺は部長の肩を掴んでそのまま押し戻した。
俺の行動に驚く部長。
途端に悲しげな表情で訊いてきた。
「なんで? やっぱり私じゃ………嫌なの?」
「嫌なんかじゃないです! 俺だって部長となら歓迎です!」
「だったら………」
「でも、そんな顔をしている部長とするのは嫌です。というより、後で絶対に部長が後悔します」
「………っ!」
部長の眼は今からそういうことをしようとする人のものじゃなかった。
それに部長は俺のことよりも、なにか別のことに意識を持っていかれている気がしたんだ。
「部長、明らかに何か焦ってますよね? そりゃあ、俺はスケベだし、エロエロなことばっかり考えてますけど………これはそんな気持ちでしていい行為じゃない。そんなことは部長だって分かりますよね?」
「でも、こうでもしないと………」
何かを言おうとする部長。
俺は軽くため息をついて部長に向かい合った。
「部長。俺を悪魔に転生させるときに言いましたよね? 眷属は家族だ、って。悩みがあるなら言ってください。辛いなら頼ってください。俺達は仲間で家族なんでしょう?」
俺は制服の上着を部長に着せた。
すると、部長は肩を震わせて、目元にうっすら涙を浮かべていた。
「ゴメン、なさい………。私、あなたの気持ちも考えずに………」
「それはもう良いです。何があったのか、話してくれますね?」
俺がそう言った時だった。
部屋に銀色に光る魔法陣が展開される。
この魔法陣は部長が使うグレモリーのものじゃない。
眷属の誰かじゃないとすると、今度は誰が………?
魔法陣が強い光を発すると、そこから現れたのは銀色の髪をした若い女性。
メイド服を着ているってことはグレモリー家のメイドさんか?
グレモリー家は貴族だ。
メイドの一人や二人は普通にいるだろうし。
ただ、この女性………身に纏うオーラは半端じゃないな。
『そうだな。学園にいる悪魔などとは比べ物にならないほどの実力者だ』
やっぱりそうか。
佇まいに隙がなく、魔力の質も上級悪魔である部長とは別格と言っていい。
銀髪のメイドさんは部長を確認するなり、口を開いた。
その口調はどこか呆れたといった様子で、
「こんなことをして破談へ持ち込もうとしたわけですか?」
「こうでもしないと、誰も私の話を聞いてくれないでしょう? ………でも、今はもう冷静だからそんな馬鹿なことはしないのだけど」
「そうですか。それならば良いです」
そう言うと、メイドさんは俺に視線を移す。
「その龍のオーラ………。あなたがサーゼクス様が仰っていた赤龍帝を宿した………」
「兵藤一誠といいます。リアス・グレモリー様の兵士をやってます」
「私はグレモリー家に仕えるグレイフィアと申します。あなたのことはサーゼクス様から伺っております、この度はお嬢様がご迷惑をお掛けしました」
そう言って、深く頭を下げた後、メイドさん―――――グレイフィアさんは再び魔法陣を展開して部長の方を振り返る。
「お嬢様」
「ええ、分かっているわ。一度、私の根城に戻りましょう。話はそこで聞くわ。朱乃も同伴でいいかしら?」
「『雷の巫女』ですか? 私は構いません。王たる者、傍らに女王を置くのは常ですので」
「よろしい。イッセー」
部長はそう言うと俺に近寄ってきた。
「ゴメンなさい、イッセー。そして、ありがとう。あなたが止めてくれなければ、私は自分を嫌いになるところだった」
そして―――――頬に部長の唇が触れた。
お………おおおおお!?
ほっぺにキスされたぁぁぁあ!
部長のキスだとぉぉぉぉぉぉぉ!?
「今日はこれで許してちょうだい。明日、部室で会いましょう。今日のことは明日、説明するわ」
「は、はいっ」
部長は別れを告げるとグレイフィアさんとともに魔法陣の光の中に消えていった。
俺はキスされた頬をさすりながら、しばらくボーッとしてしまった。
「お兄ちゃん、お風呂上がったよ………って、どうしたの? 顔赤いけど」
美羽が部屋に入ってきたのはそれからすぐのことだった。
▽
………なんてことがあってから俺はほとんど眠れなかった。
その状態でティアとの早朝修業。
正直、かなり辛い。
いかん、足元がふらふらする………。
今日の授業、サボって保健室で寝るのアリかもしれない。
そんなことを考えながら俺達は学校へと向かっていると後ろから近づいてくる気配。
「相変わらず三人は一緒にいるのね」
「あ、おはようございます、桐生さん」
「おはよー、桐生さん」
「二人ともおはよう。朝から元気ね」
こいつは桐生藍華。
俺達のクラスメイトだ。
橙色の髪で、三つ編みをしていて、眼鏡をかけているのが特徴。
そして、俺に負けじとエロい知識が豊富だ。
「およよ? 兵藤は寝不足かい?」
「まぁな」
「んふふ~。なるほどねぇ」
ニヤニヤしながら俺達を交互に見てくる。
「な、なんだよ?」
「昨日は相当お楽しみだったのかな?」
「「お楽しみ?」」
美羽とアーシアが可愛く首を傾げている。
そんな純情な二人に桐生が眼鏡を煌めかせながら、
「つまり―――」
「説明せんでいい!」
俺は桐生から逃れるため、美羽とアーシアの手を引っ張り先を急ぐことにした。
ここではマジで勘弁してくれ、桐生よ!
▽
そして、放課後。
授業を終えた俺は美羽とアーシア、木場と共に部室へ向かっている。
「イッセー君、大丈夫かい? 顔色が優れないようだけど………」
「………ああ、ただの寝不足だ………大丈夫」
結局、俺は授業に出た。
おかげでもう限界に近い。
眠い、辛い、吐き気がする。
知ってるか?
寝不足って酷くなると吐きそうになるんだぜ?
帰ったらすぐに寝よう………。
寝なければ俺はダメになる。
いや、あそこに置かれたベンチがフカフカのベッドに見え始めた俺はもうダメなのかもしれない………。
つーか、今日早く帰れるのか?
昨日の件もあるし。
それに、グレイフィアさんの気配が旧校舎からしてるんだよなぁ。
そんなことを考えながら部室の近くまで来た時、木場がハッとしたように顔を上げた。
「………まさか僕がここに来るまでこの気配に気がつかなかったなんてね」
木場も気付いたんだろうな。
というか、グレイフィアさんとの面識あったのな。
アーシアの方は首を傾げているところを見ると何のことか分からないみたいだ。
美羽は気配は感じているようだけど、誰かまでは分からないようだな。
まぁ、会ったことないから当然だけど。
「とりあえず入ろうぜ」
そのまま進み、部室の中へ。
部室には部長、朱乃さん、小猫ちゃん、そしてグレイフィアさんがいた。
俺達の入室を確認した部長が口を開く。
「全員そろったわね。部活を始める前に話があるの」
「お嬢様、私がお話しましょうか?」
そう申し出たグレイフィアさんを首を横に振って断る部長。
部長は俺達を見渡して、
「実はね――――」
部長が何かを言おうとした時―――――部室の床に、魔法陣が出現した。
それと共に広がる熱い炎。
この魔法陣は………グレモリーじゃない?
グレイフィアさんが使っていたものとも違うようだが………。
展開された魔法陣を見て、俺の傍で木場が呟いた。
「………フェニックス」
フェニックスってあの不死鳥?
魔法陣からは炎が巻き起こり、熱気が部室の中を包む。そして、その炎の中心に男の姿があった。
派手な登場だな!
部室が火事にでもなったらどうしてくれる!
ここには俺のエロ本も置いてあるんだぞ!
『ツッコミどころはそこか。エロ本など燃えてしまえば良いんだ』
エロ本は俺のエネルギー源なんだぞ、ドライグ!
一冊とて、燃やされてたまるかよ!
炎の中から現れた男が口を開く。
「ふぅ、久々の人間界だ」
男は赤いスーツを身に付けていた。
スーツを着崩して、ネクタイをせずに胸までシャツをワイルドに開いている。
ワル系のイケメンといった感じだ。
見た目的には………ホストか?
「やぁ、愛しのリアス。会いに来たぜ」
愛しのリアス………?
やけに馴れ馴れしいが部長とどういう関係だ、こいつ?
というか、そもそもこいつは、
「誰?」
おっと、声に出してしまった。
まぁ、出てしまったものは仕方がない。
目の前のホストみたいな悪魔が俺を見てくる。
「俺を知らないとはな。リアス、下僕の教育がなってないんじゃないのか?」
「いやいや。いきなり出てきて挨拶もしない、あんたの育ちの方がなってないんじゃないの?」
俺がそう言うと不機嫌そうな顔で睨んでくる。
「あ? おまえ、俺に喧嘩売ってんのか?」
「喧嘩を売ったつもりはないよ。まぁ、こっちも初対面の相手に失礼な口を利いたのは謝るが」
寝不足の影響で言葉遣いも悪くなってんな。
うん、もう少し気を付けようか。
すると、グレイフィアさんは俺の前に来て言った。
「兵藤一誠様。この方は純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家の三男、ライザー・フェニックス様であらせられます」
上級悪魔ねぇ。
全く貴族って感じがしないが………。
グレイフィアさんはそして、と続ける。
「この方はグレモリー家次期当主、リアスお嬢様と婚約されております」
「はああああああ!?」
▽
「いやー、リアスの女王が淹れてくれたお茶は美味いものだ」
「痛み入りますわ」
朱乃さんはニコニコしてるけど、いつもの笑顔とは何処かが違う。
ソファに座る部長とその隣にはライザー。
ライザーは部長が嫌がるのも気にせず、髪を触ったり、肩やら手を触っている。
部長が嫌がっているのも楽しんでいるように見える。
「………っ!」
「美羽」
その様子を見て美羽は何か言いたそうだけど俺はそれを止めさせる。
気持ちは分かるが、ここで手を出したら部長に迷惑をかけることになる。
しかも、相手は部長の婚約者にして、貴族の三男坊ときている。
さて、どうしたものか………。
「いい加減にして頂戴! 私は前にも言ったはずよ。私はあなたとは結婚しないわ!」
部長はライザーの手を振り払って、そしてソファから立って言い放つ。
しかし、ライザーはやれやれといった表情でこう返した。
「それは以前にも聞いた。だが、そういうわけにもいかないだろう? 君のお家事情は意外と切羽詰まっているのだろう?」
「余計なお世話よ! 私は次期当主、婿くらい自分で決めるわ。私が本気で好きになった人を婿にする。それくらいの権利は私にもあるわ」
部長が自分の気持ちをハッキリとライザーに告げる。
ライザーはそれを耳にすると、舌打ちをして部長を睨み付けた。
そして、全身からプレッシャーを放ち始める。
奴の背中から炎が広がり、部室を再び熱気が包み込む。
「俺もな、フェニックスの看板を背負っているんだよ。名前に泥を塗られるわけにはいかないんだ。………俺はお前の眷属、全員を焼き尽くしてでもお前を冥界に連れて帰るぞ」
それを聞いた瞬間、俺は―――――
「今、何て言った?」
▽
[木場 side]
「今、何て言った?」
声がした方を振り向くとイッセー君が赤いオーラを発していた。
なんだ、このプレッシャーは………!?
こちらに向けられた訳でもないのに、彼の殺気に、オーラに体が震える………!
普段の彼からは考えられないほどの低い声と殺気に僕は冷や汗を流していた。
イッセー君の言葉にライザーがフンッと鼻を鳴らす。
「たかだか、転生したての下級悪魔が上級悪魔の会話に割り込んでくるとはな。それなりの覚悟は出来ているんだろうな?」
「聞いてるのは、こっちだ。俺の仲間を燃やす? ふざけるなよ、焼鳥野郎」
「なっ!? 貴様、俺を愚弄するかっ!」
「ハッ! 貴族だか、フェニックスだか知らないが随分上からものを言ってくれるじゃねぇか。あんた、そんなに大した野郎か? そうは見えねぇがな」
イッセー君からライザーに向けての殺気が強くなる。
先程、ライザーが放っていたものとは比べ物にならない!
まだ上がるというのか!
転生したての悪魔、下級悪魔の領域を遥かに越えている!
部長は先の堕天使との争いの時に、イッセー君を上級悪魔以上だと評価していたが、これはあまりに桁違いで………。
殺気を向けられているライザーの表情は驚愕に包まれ、後退りしている。
「こ、これは………な、何者なんだ!? 貴様は!」
「俺か? そう言えば名乗ってなかったな。俺はリアス・グレモリー様の『兵士』、兵藤一誠だ。良く覚えておけよ、ライザー。もし、ここで俺の仲間に手を出すというのなら俺も容赦はしない。その時は覚悟するんだな」
「くっ! 下級ごときが!」
ライザーもプライドからか、負けじと炎を体から噴き出しイッセー君に対抗する。
だけど、格が違う。
イッセー君のオーラはライザーの炎などものともしない。
ライザーの炎をオーラで押さえつけ、自身の領域を増やしていっている。
このままイッセー君とライザーが衝突するかと思われたその時、二人の間にグレイフィアさんが立った。
「おやめください、兵藤様、ライザー様」
グレイフィアさんは魔力を体から発しながら二人に告げる。
グレイフィアさんから発せられる魔力もまた、常軌を逸したレベルだ。
イッセー君、ライザー、グレイフィアさん、この三人のオーラが室内を支配しているせいで、他のメンバーは体を動かすどころか、呼吸さえ難しくなっていた。
「私はサーゼクス様の命によりここにいます故、この場に置いて一切の遠慮はしません」
グレイフィアさんの言葉を聞いて二人は睨み合いを止め、オーラの放出を止めた。
「最強の女王と称されるあなたに言われたら俺も止めざるをえない」
「まぁ、最初からやるつもりはないですよ。ここで暴れたら、どうなるかぐらい分かってますから」
どうやら、イッセー君は脅しをかけただけらしい。
確かにこんなところで二人が争えば学園は軽く消し飛ぶだろう。
イッセー君は怒りながらもその辺りは考えていたらしい。
[木場 side out]
▽
美羽には落ち着けとか言いながら、やっちゃったぜ☆
いや、ホンットごめん。
俺もね、本当はあそこまでするつもりはなかったんだよ。
でもね、寝不足やらライザーの発言やらでイライラが上限突破してだな………ホンットすいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
とりあえず、後で声に出して皆に謝っておこう!
グレイフィアさんが言う。
「グレモリー家もフェニックス家も当人の意見が食い違うことは分かっていました。ですので、もしこの場で話が纏まらない場合の最終手段を用意しました」
「最終手段? どういうことかしら、グレイフィア」
部長はグレイフィアさんにそう質問すると、グレイフィアさんは話し続ける。
「お嬢様が自らの意思を押し通すのであれば、この縁談をレーティングゲームにて決着を着けるのはいかかでしょうか?」
レーティングゲーム?
レーティングゲームは成熟した悪魔でなければ参加できないと聞いている。
部長はまだ未成年者だから、まだゲームには参加できないはずじゃ………。
しかし、俺のこの疑問はすぐに解決した。
「お嬢様もご存じのとおり、公式のレーティングゲームは成熟した悪魔しか参加できません。しかし、非公式のゲームならば、半人前の悪魔でも参加できます。この場合、多くが―――――」
「身内同士か御家同士のいがみ合いよね」
部長は嘆息しながら言葉を続ける。
「つまり、お父様方は私が拒否した時のことを考えて、最終的にゲームで今回の婚約を決めようってハラなのね? ………どこまで私の生き方を弄べば気が済むのかしら………っ!」
「では、お嬢様はゲームも拒否すると?」
「まさか。こんな好機はないわ。ゲームで決着をつけましょう、ライザー」
非公式とはいえレーティングゲームへ参加する事を了承する部長の言葉を聞き、ライザーは口元をにやけさせながらこう言った。
「へぇ、受けちゃうのか。それは構わないが、俺と俺の眷属は既に公式のゲーム経験もあるし、今のところ勝ち星も多い。眷属もこっちは十五人、フルメンバーだ。それでもやるか、リアス?」
「当然よ」
「いいだろう。そちらが勝ったら好きにするといい。だが、俺が勝ったらリアスは俺と即結婚してもらう」
激しく睨み合う両者の間に立って、グレイフィアさんが言う。
「承知いたしました。お二人のご意志は、私、グレイフィアが確認させていただきました。ご両家の立会人として、私がこのゲームの指揮を執らせていただきます。よろしいですね?」
「ええ」
「ああ」
グレイフィアさんの意思確認の言葉で一区切りとなり、部長もライザーもグレイフィアさんの言葉を了承した。
そこで、俺はグレイフィアさんに訊ねた。
「あの、グレイフィアさん。一つお願いがあるのですが………」
「なんでしょうか、兵藤様」
「そのレーティングゲームを行う前に俺達に修業期間をください」
「修業期間、ですか?」
「そうです。眷属の数もこっちが少ない上に、ゲームも未経験です。これではあまりにもこちらが不利すぎます」
そう言うと、俺の内側でドライグが俺にだけ聞こえる声で言ってきた。
『何を言う。相棒がいる時点でこちらが有利だろうに。先程のやり取りでライザーとやらの実力は分かった。相棒があれに負けるとは思えんがな』
いや、俺はレーティングゲームについて知識はほぼゼロだからね?
ルールも何も知らずに参加するのは流石にまずいだろう?
それに、レーティングゲームをすると言うことは眷属全員が関わるということだ。
俺一人が出張るわけにもいかない。
ルール次第じゃ、眷属全員のレベルアップが必要になるだろうし。
俺の意見を聞いてしばし考えるグレイフィアさん。
「なるほど、それもそうですね。ただ、こちらも余り時間をかけるつもりはございません。なので十日後。十日後にゲーム行いましょう。それでよろしいですね?」
「十分です。ありがとうございます」
グレイフィアさんは部長とライザーに視線を移す。
「お嬢様もライザー様もよろしいですね?」
その問いに二人は頷き、再度、両者の同意が得られた。
話が纏まったところで、ライザーは魔法陣を展開する。
「じゃあな、リアス。十日後のゲームで会おう」
「ええ。あなたを消し飛ばしてあげるわ!」
こうして、十日後、部長の将来をかけたレーティングゲームが行われることになった。