ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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12話 姉の気持ち、龍の笑み

「駐車場に死神が出現しました。相当な数です」

 

外の様子を見に行っていた木場が、全員が待機しているホテルの一室に戻ってきた。

 

「・・・・ハーデスの野郎、本格的に動き出したってわけか!」

 

先生は憎々しげに吐く。

 

曹操が去ったあと、怪我人が続出した俺達はこの疑似空間のホテル上階で陣取っていた。

 

そこで俺はことの次第を改めて先生から聞いた。

 

あの骸骨神様、英雄派と繋がっていたのかよ・・・・・!

クソッタレめ!

 

アーシアと美羽の治療で先生、ゼノヴィアと黒歌は完治しているが、黒歌はダメージが大き過ぎたようで、いまは別室で休んでいる。

ヴァーリの攻撃をまともに受けたんだ。

それも仕方がない。

 

小猫ちゃんは黒歌を心配して付き添っているみたいだ。

 

それで、ヴァーリの怪我は治ったんだが・・・・・・サマエルの呪いが解けず、黒歌同様に別室で激痛に耐えている。

 

俺も何とかしてやりたいけど、サマエルの呪いはドラゴンにとって猛毒。

俺は触れない方が良いと先生に止められた。

 

先生の話では、この空間はゲオルクが作り出した空間のようだ。

絶霧の禁手、『霧の中の理想郷』。

霧を用いて固有の結界を作り出すことができ、今のようにホテルを中心に駐車場と周囲の風景も丸ごと疑似空間に創り出すことも出来る。

 

京都の時も思ったけど、凄い再現力だ。

ホテルの内部、細かいところまで再現されている。

部屋に置かれているベッドもフカフカだ。

 

流石に電気は通ってないし、水道も流れていないみたいだけどね。

 

ルフェイが嘆息した。

 

「本部から正式に通達が来たようです。砕いて説明しますと―――『ヴァーリチームはクーデターを企て、オーフィスを騙して組織を自分のものにしようとした。オーフィスは英雄派が無事救助。残ったヴァーリチームは見つけ次第始末せよ』だそうです」

 

ルフェイの報告に驚く俺達。

 

無茶苦茶言いやがるな・・・・・・・。

 

ヴァーリがオーフィスを自分のものにしようとする?

そんなことある訳がない。

ヴァーリの野郎は他人の力を借りようなんて真似はしねーよ。

 

つーか、本物のオーフィスここにいるし!

 

「あいつらの中ではオーフィスから奪った力が『本物』で、ここにいるオーフィスは『偽物』というふうになっているんだろうな。・・・・・英雄派に狙われていた上に、オーフィスの願いを叶えようとしたヴァーリチームの末路がこれか。難儀だな」

 

先生も息を吐き、ルフェイも肩を落としていた。

 

「私たちはグレートレッドさんをはじめ、世界の謎とされるものを調べたり、伝説の強者を探しまわったり、時々オーフィスさまの願いを叶えたりしていただけなのですが・・・・・。英雄派の皆さんは力を持ちながら好き勝手に動く私たちが目障りだったようです。特にジークフリートさまは私たちのことを相当にお嫌いだったようです。なにより、元英雄派でライバルだった兄のアーサーがヴァーリさまのチームに来たのがお気に召さなかったようでして・・・・・」

 

そういういざこざもあったのな。

アーサーは元英雄派で、ヴァーリチームに移ったと。

 

まぁ、移った理由は分からなくもないかな?

 

あれ?

 

それだったら・・・・・・

 

一つ疑問に思ったので俺はルフェイに尋ねてみる。

 

「なぁ、ディルムッドって英雄派にいるだろ? あいつ、英雄派の奴らと仲悪そうだし、そもそもテロ活動ほとんどしてないみたいだし。そっちに移らないのか?」

 

「一時、そういう話もありましたが・・・・・・ディルムッドさんが断られまして・・・・・・」

 

「断わった? 何で?」

 

俺が聞き返すとルフェイから返ってきた答えは、

 

「なんでも、ご飯が英雄派の方が美味しいらしくて・・・・・・。うちにも他の派閥にも移ろうとしないんです」

 

「はぁっ!?」

 

予想外の答えに素っ頓狂な声をあげる俺。

 

え、じゃあ、なに・・・・・・あの人、ご飯に釣られて英雄派に所属してるの!?

 

あっ!

そういや、『英雄派のタダ飯ぐらい』って呼ばれてるって曹操が言ってた!

 

なんで美人さんに限って変な人が多いんだよぉぉぉおお!

 

百均ヴァルキリーのロスヴァイセさんとか、レズレズな駄女神とか!

 

もしかして、家に呼んだらテロリスト抜けるんじゃないの、あの二槍流の人!

家のご飯は三食揃って絶品だからな!

 

ルフェイは先生に訊く。

 

「それにしても総督さま、ここ最近は神滅具祭りですね。―――グリゴリにいらっしゃる『黒刃の狗神』の方は元気ですか?」

 

話しを振られた先生は顔を天井に向ける。

 

「『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』、刃狗(スラッシュドッグ)か。あいつには別任務に当たらせている。そちらもそちらで十分に厄介な事件だ。あいつ、ヴァーリのことが嫌いでなぁ」

 

「はい、お話はうかがっております」

 

ルフェイはクスクスと可愛く笑う。

 

俺は先生にふとした疑問を投げ掛けた。

 

「そういや、先生。英雄派の連中は上位神滅具四つのうち三つ保有してますよね? 残りの一つは誰が持ってるか知ってるんですか?」

 

「ああ、『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』だな。そいつは既に所有者は割れている。そいつは天界、『御使い(ブレイブ・セイント)』のジョーカーをしているが・・・・・・。イリナ、奴は何をしている?」

 

ジョーカー。

その話は以前、先生に聞いたことがあるな。

 

何でも教会最強のエクソシストがその枠に決まったとか。

 

話を振られたイリナは首を捻りながら答える。

 

「デュリオ様ですか? 今は各地を放浪しながら美味しいもの巡りをしていると聞いてますが・・・・・」

 

そいつも美味しいものかい!

 

なんだ!?

強い奴は美味しいものに惹かれる性質があるのか!?

 

その答えに先生も絶句しているようだった。

 

「なっ・・・・・。仮にもセラフ候補者に選出されるかもしれない転生天使きっての才児だろうが! ミカエル達は何してやがるんだ!?」

 

「そ、それは私に言われても・・・・・・」

 

先生の質問にイリナも困り果てているようだった。

 

すると、先生が何か思い付いたような顔をした。

 

「あ! いま俺は現世の神滅具所有者の共通点を見つけたぞ。―――どいつもこいつも考えてることがまるで分からん! おっぱい野郎に戦闘狂、妙な野望を持った自分勝手な奴らばかりだ! これはあとでメモしてやるぞ、くそったれ!」

 

最後にそうやけくそ気味に叫ぶ先生。

 

おっぱい野郎って俺のことか!?

俺のことなのか!?

 

ひでぇ!

俺はおっぱいが好きなだけだい!

 

「それともうひとつ、共通点を見つけた。―――神滅具の使い方が従来通りじゃない。ほとんどの連中が歴代所有者とは違う面を探して力を高めてやがる。現代っ子は俺たちの範疇を超えているのか? いや、しかし・・・・・」

 

あらー、また独りで考え出したよ。

自分の世界に行ってしまうと先生は中々帰ってこないからなぁ。

 

「ねぇ、ここを出るアイデア浮かんだ?」

 

と、尋ねてきたのは美羽だった。

 

美羽は今いる階と上下合わせて五階分を巨大な結界で覆っていた。

それも何重にも展開していて、外部からの侵入を防いでいる。

ちょっとやそっとの力じゃびくともしない。

 

俺は美羽の問いに首を捻りながら答えた。

 

「いや、まだ何ともな・・・・・」

 

「イグニスさんの力でもダメ?」

 

『出来るけど、相応の力を出すから皆が丸焦げになっちゃうわよ?』

 

「・・・・・別の方法を考えよっか」

 

美羽は目元をひくつかせながら考え始めた。

 

オーフィスがこの部屋に戻ってきた。

 

『この階層を見て回る』

 

と一言だけ言い残し、出かけてしまったオーフィス。

それがやっと戻ってきた。

 

「―――で、具合はどうだ、オーフィス」

 

先生がオーフィスにそう問う。

 

「弱まった。いまの我、全盛期の二天龍より二回り強い」

 

「それは・・・・・・弱くなったな」

 

「いやいや、全盛期のドライグ達よりも二回りも強いんでしょ? それで弱くなったってどんだけ!?」

 

「そりゃ全勢力で最強の存在だからな」

 

「そういえば、そうでしたね!」

 

見た目が可愛いロリっ子だからついつい忘れてました!

これでも元々は無限の龍神様だものな!

世界最強の存在だったもんな!

 

そうそう、オーフィスで思い出した。

 

木場から聞いたんだけどさ、

 

「なぁ、オーフィス。アーシアやイリナを助けてくれたんだってな? なんでだ?」

 

こいつはグレートレッドやドライグ以外は興味の対象外みたいな感じだし・・・・・・。

少し気になったんだよね。

 

オーフィスは一言だけ答えた。

 

「紅茶、くれた。トランプ、した」

 

「そ、それって家でしてたこと?」

 

オーフィスは俺の言葉に頷くだけ。

 

・・・・・・こいつ、やっぱり悪い奴じゃないんじゃないか?

 

ただただ純粋なだけなんじゃ・・・・・・?

 

オーフィスの状態を聞いて、先生は顎に手をやる。

 

「しかし、二天龍よりも二回りも強いか。妙だな。曹操は絞りかすといまのオーフィスを蔑んでいたが、正直、これだけの力が残っていれば十分とも言える」

 

それは俺も思ってた。

地上最強と呼ばれた二天龍よりも二回りも強いっていうんだから、それは相当な力だ。

 

正直、俺や先生、ヴァーリが向かっていっても勝てないレベルだ。

 

先生の言葉を聞いて、オーフィスは無言で挙手する。

 

「曹操、たぶん、気づいてない。我、サマエルに力取られる間に我の力、蛇にして別空間に逃がした。それ、さっき回収した。だからいまは二天龍よりも二回り強い」

 

――――っ!

 

オーフィスのその告白に全員が度肝を抜かれた!

 

先生が叫ぶ!

 

「おまえ、この階層を見て回るって出ていったのは別空間に逃がした自分の力を回収するためか!?」

 

オーフィスは無言でコクリとうなずく。それを見て先生は「ククク」と含み笑いをする。

 

「曹操め、あいつはサマエルでオーフィスの力の大半を奪っていたと言っていたが、オーフィスは力を奪われている間に自分の力を別空間に逃がしていた。それを回収して力をある程度回復させ、それが全盛期の二天龍の二回りの強さときたもんだ。オーフィスを舐めすぎだな、英雄派」

 

先生を尻目に、オーフィスは指先に黒い蛇を出現させる。

 

「力、こうやって蛇に変えた。これ、別空間に送った。それ、回収した。でも、ここから出られない。ここ、我を捉える何かがある」

 

いや、これには驚いたわ。

オーフィスがこんな機転を利かせるとは・・・・・・。

 

いや、馬鹿にしているわけじゃないぞ?

 

「それで、オーフィスを捉える何かってのが気になるな」

 

俺の言葉に先生も続く。

 

「ああ。恐らく『霧の中の理想郷』によって造り出された結界の作用だとは思うが・・・・。弱っているとはいえオーフィスを捉えるとは・・・・・恐るべき力だな。流石は神滅具・・・・・」

 

皆がむぅと唸る中、美羽が挙手した。

 

「ねぇ、その結界ってこれのことかな?」

 

『えっ?』

 

美羽の言葉に全員が振り返る。

 

監視カメラのような映像が美羽の手元にいくつか映し出されていて、そこには黒いローブを着た奴らが大勢。

その内の三つの映像の中心部には何かの装置が置かれている。

形は尾を口でくわえたウロボロスの像だ。

 

・・・・おいおい、これは・・・・・

 

皆が呆気にとられる中、美羽が言う。

 

「えっと、こんな状況だし・・・・色々探った方がいいかなって・・・・・」

 

「それって・・・・僕が様子を見に行った意味、無かったんじゃ・・・・」

 

うっ・・・・。

 

た、確かに、美羽の方がリアルタイムで相手の様子も探れるし情報もより共有しやすい。

態々、木場が足を運んだ意味は無かったのかもしれない・・・・。

 

気落ちする木場に美羽は慌てて言う。

 

「そ、そんなことは無いよ!? これ、展開するのに時間かかるし、一度展開したらその方向しか見れなくなるから結構不便なんだよ!?」

 

美羽、この状況ではそれはフォローになってないぞ!

明らかに木場が持ってきた情報よりも多くのことがこれで分かるし!

 

ってか、いつも思うんだけどさ・・・・・。

 

美羽って、さりげなく凄いことするよね!

 

 

「木場、ドンマイ・・・・」

 

「う、うん・・・・」

 

 

 

その後、脱出作戦を考えた俺達はその時が来るまで各自、体を休めることになった。

 

 

 

 

 

 

脱出作戦まで少し時間があるということで、俺は黒歌の部屋に見舞いにきていた。

 

ケガは治ってはいるが、ヴァーリの攻撃をまともに食らったことに加えて、兵藤家にいる間はオーフィスを狙ってくる者がいないか常に神経を尖らせていたようで、予想以上に体力と精神を使っていたらしい。

 

「よう、黒歌。調子はどうだ?」

 

ベッドに横になっている黒歌に問う。

 

黒歌はイタズラな笑みを浮かべる。

 

「あらん、赤龍帝ちん。お見舞いに来てくれるなんて優しいにゃん」

 

「ま、小猫ちゃんを助けてくれたみたいだしな」

 

「たまたまにゃん」

 

たまたまねぇ。

 

リアス達の話だとヴァーリの攻撃は本来、小猫ちゃんに受け流されたものらしい。

 

咄嗟のことで動けなかった小猫ちゃんだが、それを庇ったのが黒歌。

 

黒歌は身を挺して小猫ちゃんを守ったんだ。

 

ベッドの横には俯き気味の小猫ちゃんと二人が心配で部屋にいるレイヴェル。

 

「・・・・・どうしてですか?」

 

小猫ちゃんはそうぼそりと呟き、途端に立ち上がって叫んだ。

 

「どうして・・・・・どうして私を助けたんですか!? 姉さまにとって私は道具になる程度の認識だったはずです!」

 

「さーてね、なんのことかにゃん」

 

「茶化さないでください! あの時・・・・・私を置いていったじゃないですか! 私は・・・・・周りの人に酷いことを言われて・・・・・・! 色々辛いことがあって・・・・・! リアス部長達と出会えて幸せを感じるようになった途端に私を無理矢理連れていこうとして・・・・・・!」

 

普段、口数が少ない小猫ちゃんが内に溜まっていたもの全てを黒歌にぶつけるかように吐き出していた。

 

「私には姉さまが分かりません・・・・・・!」

 

それだけを言い残し、小猫ちゃんは部屋を飛び出していく。

 

「レイヴェル。悪いけど、小猫ちゃんを頼めるか?」

 

「はい。任せてください」

 

俺のお願いにレイヴェルは頷き、小猫ちゃんを追って部屋を出ていった。

レイヴェルなら小猫ちゃんを任せられる。

 

俺は小猫ちゃんが座っていた椅子に腰をおろす。

 

そして、ため息混じりで言った。

 

「おまえも素直じゃないねぇ」

 

「いきなり口調が爺臭くなったにゃん」

 

「うるせーよ。ま、以前から薄々感じてたけどさ。おまえ、本当はかなりのシスコンだろ?」

 

「それ、赤龍帝ちんにだけは言われたくないにゃ。現赤龍帝はシスコンで有名だからねー」

 

俺はニヤリと笑みを浮かべながら言うと、黒歌も笑みを浮かべながら返す。

 

ハハハ・・・・・そうですか。

俺はシスコンで有名ですか。

否定はしないけど・・・・・。

 

俺は笑みを止めて真面目な表情で問う。

 

「一度、聞きたかったんだけどさ。前の主と何があったんだ? 話では力に溺れて殺した、なんて聞いてるけど違うんじゃないか?」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「本当に力に溺れるような奴が誰かを庇ったりしねーよ。まぁ、中には改心する奴もいるけどさ」

 

こいつ、普段はイタズラ好きでふざけてるようにしか見えないけど、中身はしっかりしたお姉さんだと思うんだよね。

 

この間、小猫ちゃんが発情期になった時なんかが良い例だ。

 

俺の言葉を聞いて黒歌はそれまでのイタズラな笑みを止めて真面目な表情となる。

 

「私の元バカマスターね、猫魈の―――私達の力に興味を持ちすぎたのよ。眷属になった私だけならともかく、白音にまでその力を使わせようとしたの」

 

「眷属じゃないのにか?」

 

「そ。あいつは眷属の能力を上げるために無理矢理なことをしまくってたわ。眷属の身内にまでそれを強要するのは当たり前。当時の白音じゃ、命令されるまま力を使用して暴走しちゃってたかもしれないのよね」

 

黒歌が指名手配のはぐれ悪魔になったのは主を殺したから。

 

しかし、その理由は―――

 

「おまえはそいつから小猫ちゃんを守ったってわけか」

 

「そこまで大袈裟なものじゃないにゃん」

 

黒歌はそう言うが、それしかないだろう。

 

冥界で小猫ちゃんを連れていこうとしたのも、俺達・・・・・いや、正確には俺から小猫ちゃんを引き離すため。

 

・・・・・・俺は力を引き寄せる赤龍帝だから

 

そう考えれば色々納得出来る。

 

「イタズラは大好きだし、力を使うのも、面白いことも大好き。所詮、私は野良猫にゃん。自由気ままに気のあった仲間達と放浪しながら生きていく方が向いてるにゃ。でも、白音は違う。白音は飼い猫の方が合ってるにゃん。だからさ、赤龍帝ちん」

 

黒歌は真っ直ぐな瞳で俺に言った。

 

「白音のことお願いね。君が側にいてくれるなら、あの子も幸せになれるだろうしね」

 

――――っ。

 

まさか、黒歌にそんなことを頼まれるなんてな。

 

やっぱ、こいつは不器用だわ。

 

不器用で――――良いお姉さんだ。

 

俺は立ち上がり、黒歌の頭をワシャワシャと撫でた。

 

「にゃっ!? いきなりなにするにゃー!?」

 

「アハハハ! 可愛い反応するじゃないか!」

 

こうして慌てる黒歌も可愛いもんだ。

ってか、新鮮だな!

 

俺はひとしきり笑うと黒歌の肩に手を置いて言った。

 

「任せとけよ。小猫ちゃんが笑顔でいられるよう頑張るからさ」

 

俺がそう言うと黒歌は目を丸くしてポカーンとする。

 

そんな黒歌に背を向け退室しようとする俺だが、それから、と続けた。

 

「おまえももう少し素直になれ。俺も協力してやるからさ」

 

それだけ言い残し、俺は退室する。

 

部屋のドアを閉める瞬間、それは小さく俺の耳に入ってきた。

 

「あんがとね、赤龍帝ちん」

 

 

 

 

 

 

黒歌の様子を見た後、俺はその足でヴァーリが休んでる部屋にも足を向けた。

 

部屋に入るとヴァーリは上半身だけ起こしていた。

 

こちらも黒歌同様にケガは治っているが、顔色が恐ろしく悪い。

呼吸も荒く、苦痛に耐えているようで、汗もびっしょりだった。

 

サマエルの呪いがこいつの全身を蝕んでいるんだろうな。

こいつのこんな青ざめた顔色を見ることになるとは思わなかった。

 

「・・・・・・かなりキツそうだな」

 

「情けない姿を見せてしまったな。曹操を討つためにここへと来たが、このザマだ」

 

「それだけサマエルの龍殺しがすごいってことだろう? おまえが受けてそれなら、俺だって結果は同じだっただろうさ」

 

サマエルから感じ取られた負の塊と言うべきあのオーラ。

近づくだけで嫌な汗が大量に流れ、寒気が止まらなかったもんな。

 

・・・・・・イグニスがいなかったら、俺も今頃はヴァーリと同じように寝込んでいただろう。

 

「ま、情けない姿を見せたのは俺も同じだ。俺も曹操にやられかけたからな」

 

天武を使ったにも関わらず、俺は曹操に追い詰められた。

 

あの禁手に加え、俺が潰した右眼に移植されていたメデューサの邪眼。

 

聞けばアザゼル先生もあの邪眼の能力で動きを封じられた後、槍で貫かれたらしい。

 

奴は京都でやり合った時とは比べ物にならない程に強い。

 

以前、奴に深傷を負わせたのは偶然と言っても良いだろうな。

あの手はもう通用しない。

 

「曹操はゲオルクとサマエルを死守することと、あの場でド派手な攻撃をせずにオーフィスの力を奪い去ること、それを単独で行い、更には俺達を殺さずに攻撃する。この四つの高難易度の条件を抱えながら、無事に目的を果たしていった。君も奴の力は理解しているだろう? あれが人間の身でありながら、超常の存在に牙を剥く者達の首魁だ」

 

ああ、分かってる。

 

ヴァーリ、先生を手玉に取ったその技量。

グレモリー眷属とヴァーリチームを御したその力。

 

 

あいつは強敵だ。

 

それも飛びっきり危険な。

 

 

ヴァーリが言う。

 

「奴の禁手の力はその身に受けて分かっただろう。あれは独りになっても複数の超常の存在と渡り合えるように奴が研究に研究を重ねて発現させた亜種の禁手だ」

 

「加えて領域(ゾーン)もな。あいつがそこに至っているとは思ってなくてな。京都では痛い目にあった」

 

「それから奴には『覇輝(トゥルース・イデア)』というものがある」

 

「何だそりゃ?」

 

「『覇輝』とは俺達で言う『覇龍』と限りなく近い。極めて遠いとも言えるが・・・・・・。それを使えば絶大な力を得られるが、暴走と隣り合わせだろう」

 

はー、そんなものまであるのかよ。

 

あいつ、どれだけ奥の手持ってるんだよ・・・・・・。

 

と、そうそう。

 

奥の手と言えば―――――

 

「そういや、おまえ、『覇龍』を超えた力、得たのか?」

 

作戦会議を終えた時にさりげなくルフェイに聞いたところ、ヴァーリは『覇龍』を昇華させようと修行に打ち込んでいたという。

 

「だとしたらどうする?」

 

「興味はあるな。だけど、これだけは言っておきたい」

 

「なんだ?」

 

「あいつは――――曹操は俺が倒す。あいつには俺の可能性を魅せつけてやらないとな」

 

俺の言葉にヴァーリは不敵に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 


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