でも、院試勉強がぁぁああああっ!!(泣)
その日の夜。
サーゼクスさんとグレイフィアさん、そしてアザゼル先生が家を訪問してきた。
今は兵藤家上階のVIPルームに集結している。
サーゼクスさんは俺と木場、朱乃、そしてリアスを前に座らせて正面から切り出した。
「先日も話した通り、イッセー君、木場君、朱乃君の三名は数々の殊勲を挙げた結果、私を含めた四大魔王と上層部の決定のもと、昇格の推薦が発せられる」
その話か!
そう、俺と木場と朱乃の三人に昇格の話が持ち上がってたんだ。
サイラオーグさんとの試合直後に少しだけ言われたんだけど・・・・・・。
なんていうか、早いよなぁ。
だって、悪魔になってから一年も経ってないんだぜ?
いずれは昇格できるだろうと思ってたけど、想像以上に早かったから驚いたよ。
今まで、テロリストと戦ったり悪神と戦ったりして、それが功績になったらしい。
まぁ、強敵だらけだったけどさ。
「昇格なのだが、木場君と朱乃君は中級悪魔、イッセー君にはいきなりだが上級悪魔の試験を受けてもらおうと思っている」
・・・・・・・・ん?
あれ?
幻聴かな?
俺だけ違う単語が聞こえたんだけど・・・・・・・。
俺は恐る恐る挙手しながら言った。
「あ、あの・・・・・、もう一度言ってもらっても良いですか? 俺、耳がおかしくなったみたいで・・・・・・」
すると、サーゼクスさんは朗らかに笑いながら、
「木場君と朱乃君には中級悪魔、そして君には上級悪魔の試験を受けてもらうよ」
木場と朱乃が中級悪魔で・・・・・・・俺が・・・・・・・上級悪魔・・・・・・・・?
「ええええええええええっ!?」
マジでか!?
俺が上級!?
驚愕する俺にアザゼル先生が酒の入ったグラスを片手に言う。
「おいおい、そんな驚くことかよ?」
「いや、驚くでしょ!? 俺が悪魔になってからそんなに経ってませんよ!? 中級でも早いなーって思ってたのにそれがいきなり上級!? つーか、なんで俺だけ上級? 木場と朱乃は?」
そう、そこも疑問だった。
昇格試験を受ける三人のうち、一番新参者の俺が飛び級なんてして良いのかよ?
サーゼクスさんがうむ、と頷く。
「確かに、君達の殊勲の内容から見ても、木場君も朱乃君も上級悪魔相当の昇格が妥当なのだが・・・・・」
「悪魔業界にも序列があるんだってよ。特に上がうるさいそうでな。おまえらに特例を認めておきながらも順序は守れと告げてきたそうだ」
先生もサーゼクスさんに続く。
それなら、余計に謎だ。
その理屈なら俺だって中級悪魔の試験を受けさせられるはずなんだけど・・・・・・。
「だがな、イッセー。おまえが中級ってのは無理がありすぎるんだよ」
「は?」
「考えてもみろ。オーフィスの蛇を使った旧ベルゼブブと旧アスモデウス、しかも大勢の手勢を連れた状態の奴らを一人で叩き潰すほどの実力だぞ? そんな奴が中級悪魔ってのはおかしいだろ。つーか、上級悪魔の肩書きでも足りねーよ」
いや、確かにシャルバとクルゼレイって奴等は一人で相手取ったけどさ・・・・・・。
それでも、早すぎる気がするんだよね。
悪魔の世界について知らないこともまだまだあるわけだし・・・・・・。
サーゼクスさんが言う。
「イッセー君。君の不安は分かる。確かに君は悪魔になって間もない。それゆえに君の上級悪魔への昇格を認めない上役もいた。だけどね、ここで君を昇格させることは今後の冥界にとっても重要なことなのだよ」
俺の昇格が冥界にとって重要・・・・・?
まぁ、俺はおっぱいドラゴンで冥界のチビッ子に人気もあるし、冥界に対しての影響力ってのはそこそこにあるとは思う。
それでも、少しメディアに取り上げられるくらいだろう。
そこまで重要なことだとは思えないんだが・・・・・・。
「いいかい? 上級悪魔になるということはそれ相応の責任感を持たなければならない。上級悪魔というのは貴族で、市民に対して手本となるようにしなければならないからね。また、市民を守れるだけの力も必要となる」
それは分かるけど・・・・・・俺、おっぱいドラゴンですよ?
おっぱいつついてパワーアップするような人が手本になれと言われても悪影響しか出さないような気がする。
「上級悪魔には常にそれらが付きまとう。しかし、それ故に様々な権限を与えられている。私を含めた四大魔王は君に上級悪魔になってもらい、君のその力をより冥界のために振るってもらいたい。そう考えているのだよ」
サーゼクスさんはそれに、と続ける。
「サイラオーグも言っていたが君は冥界の英雄になるべき存在だ。君なら上級悪魔としての務めを果たせると私は信じている」
―――――っ。
すごく真っ直ぐな瞳で言われてしまった。
この人は本当に俺なら出来ると信じてくれてるんだ。
先生は酒を飲み、笑う。
「ま、そう言うこった。それにおまえが上級悪魔になれば、今後の対テロもより活動しやすくなるだろうよ。難しく考えずに受けとけ。せっかく、お堅い上役の連中も許可してくれたんだしよ」
「そうね。イッセーなら大丈夫よ。上級悪魔としてのアドバイスは私からも出来るし、他にも頼れるメンバーはいるわ」
「私もイッセー様をサポートしますわ!」
リアスとレイヴェルにもそう言われてしまった。
う、うーむ・・・・・色々不安はある・・・・・。
だけど、皆が応援してくれるなら頑張って受けてみるしかないよな!
「分かりました! 俺、受けます! 今度の試験を乗り切って上級悪魔になってみせます!」
俺は立ち上がり、拳を握って宣言した。
予想よりもかなり早くて、まだ戸惑ってるところもあるが、こうなったらやってやる!
やり抜いて、絶対に合格してみせる!
俺の宣言にサーゼクスさんは満足そうな笑みを浮かべた。
「イッセー君ならそう言ってくれると思っていたよ。木場君と朱乃君はどうかな?」
木場と朱乃は俺同様に立ち上がり、サーゼクスさんに一礼する。
「この度の昇格の推薦、まことにありがとうございます。身に余る光栄です。リアス・グレモリー様の『騎士』として慎んでお受けいたします」
「私もグレモリー眷属の『女王』としてお受けいたします」
二人の言葉にサーゼクスさんは頷く。
「うむ。今回、二人は中級悪魔の試験となるが、これまでの殊勲とその実力を考えると、さほど時が経たない内に上級悪魔への推薦を貰えるだろう」
「他のメンバーも直に昇格の話が出るさ。おまえらはそれだけのことをやってきた。実力だってほぼ全員が上級悪魔クラスだからな。そんな下級悪魔ばっかりの眷属チームなんざ、レア中のレアだぜ?」
先生がそう言う。
そうだよな。
あれだけの激戦を潜り抜けた中で俺達だけ評価されるのもおかしな話だ。
この場にいる眷属全員が死線を越えてきたんだし。
「三人とも昇格推薦おめでとう。あなた達は私の自慢の眷属だわ。本当に幸せ者よ、私は」
リアスも満足そうな笑みを浮かべ、心底うれしそうだ。
「お兄ちゃん、木場君、朱乃さん、おめでとう!」
「三人ともおめでとう。応援するわ」
「イッセーさん、木場さん、朱乃さん、頑張ってください! 私も応援します!」
「うん、めでたいな」
「悪魔の昇格試験ってとても興味あるわ!」
「うんうん! 三人とも凄いわ!」
美羽にアリス、教会トリオにレイナも喜んでくれていた。
「僕も先輩に負けないよう精進したいですぅ!」
おおっ!
ギャスパーも前向きなコメントをくれた!
こいつも出会った頃とは大違いだぜ!
「私も早く昇格して高給で安定した生活が欲しいところです」
ロスヴァイセさんは相変わらず堅実な目標を持ってるな!
ただ、高給になったとしても百均好きは直らないだろうと思えるのは俺だけだろうか・・・・・・?
「それにしても、流石はリアス様のご眷属ですわ。短期間で三人・・・・・イッセー様に至っては飛び級ですもの。ね、小猫さん?」
レイヴェルが小猫ちゃんにそう投げ掛ける。
「・・・・・当たり前。おめでとうございます、イッセー先輩、祐斗先輩、朱乃さん」
笑顔を見せる小猫ちゃんだが、心なしか若干テンションが低い。
俺達の昇格の話は純粋に喜んでくれているようだけど・・・・・。
「イッセーが飛び級・・・・・。俺達には分からんが凄いことなのだろう。ううっ・・・・昔は性欲しか取り柄がなかったあのイッセーが・・・・・!」
「ええ、全くだわ。今まで、イッセーの性欲の強さに涙したことならあったけど・・・・・。ここ最近は嬉し涙が止まらないわ!」
父さんと母さんは喜んでくれているのか、号泣してる・・・・・・。
つーか、ここで俺の性欲について取り上げるの止めてくれる!?
流石に恥ずかしいわ!
「ふむ・・・・。流石はイッセーだ。私も悪魔業界を長く見てきたが飛び級する者などそうはいない。私の見込みに間違いはなかったな」
「でも、ティアちゃんとしてはもっと上の位が相応しいと思ってるんじゃないの?」
「まぁ、本音を言えばな。考えてもみろ、私とタンニーンを同時に相手取るレベルだぞ?」
なんてことを話してるのはティアとイグニス。
大人のお姉さんコンビだ。
この二人、いつの間にか仲良くなっていた。
昨日、二人がお茶してるのを見かけたんだけど、美女二人が並ぶ光景はとても絵になるんだよね。
皆がお祝いの言葉をぐれる中、先生が言う。
「さて、推薦を受けることが決まったわけだが、試験は来週だ。それが一番近い試験日だからな」
なぬっ!?
来週だと!?
「来週ですか。急ですね」
木場がそう言い、朱乃も続く。
「中級悪魔の試験はレポート作成と筆記と実技でしたわよね? 実技はともかく、レポートと筆記は大丈夫かしら?」
なるほど、中級悪魔の試験はレポートとかあるのか。
「あの、上級悪魔の試験の内容は?」
俺の問いにはグレイフィアさんが答えてくれた。
「上級悪魔の試験は中級悪魔の試験同様にレポート作成と筆記、実技があり、それに加えて戦術試験があります」
戦術試験がプラスされるのか・・・・・。
でも、上級悪魔になったら『悪魔の駒』を得て眷属を導かないといけないからな。
そのための試験があってもおかしくないか。
・・・・・・試験日は来週。
実技はともかく、レポートと筆記、戦術試験が問題だな。
俺が不安になる中、先生が言う。
「筆記に関しては悪魔の基礎知識と応用問題、レーティングゲーム。上級悪魔には政治学や領地の自治の内容が深く出されるだろう。戦術試験は試験官とのチェス、あとは口頭試問だったな。レポートは何を書くんだ?」
先生がグレイフィアさんに問う。
「試験の時に提出するレポートは砕いて説明しますと、『昇格したら何をしたいか』という目標をテーマに『これまで得たもの』と絡めて書いていくのがポピュラーですね」
なるほど。
目標と今までに得たものをテーマにして書けと。
ここまで聞いてると、あれだな。
「人間界の試験みたいですね」
俺がそう言うと先生がサーゼクスさんの方に視線を向けた。
「ま、倣ってるんだろう?」
「中級悪魔に昇格する悪魔の殆どが人間からの転生者なのだよ。そのため、人間界に倣ったものを参考にして、昇格試験を作成している。上級悪魔も同様。元人間が上級悪魔に昇格することは珍しいが、今後のことを見越してこちらも人間界に倣ったものへと変えたのだよ」
そっか、考えてみればそうだな。
最近は転生悪魔が多いから、昇格するのも元人間が多いんだな。
それに合わせて試験内容も決めてるわけだ。
先生は膝を叩くと俺達を見渡す。
「とにかく、レポートの締め切りが試験当日らしいから、まずはそれを優先だ。それから、イッセー!」
「は、はい?」
先生は俺に指を突き付けて言う。
「おまえはレポートの他に筆記試験の勉強をしろ! おまえはまだ悪魔業界について知らないことが多い。この一週間で可能限り詰め込め!」
「り、了解っス! え、えーと、戦術試験の勉強はどうすれば?」
「それについてはリアスからレクチャーを受けろ。まぁ、おまえが今までに経験してきたことを発揮できれば余裕だろうよ」
今まで・・・・・・。
先生が言ってる中にはアスト・アーデでの経験も含まれてるんだろうな。
まぁ、モーリスのおっさんの隣で戦ってきたから戦術についてはある程度組めると思う。
チェスだって、リアスから学べばなんとかなる・・・・・かな?
俺の肩に手を置くリアス。
「任せなさい、イッセー。私が色々教えてあげるわ」
「イッセー君、僕も改めて再確認したいから、一緒に勉強しよう」
「あらあら、じゃあ、私も一緒に勉強ね」
木場と朱乃もそう言ってくれる。
うん、スゲー心強い!
以前、学園での勉強で分からないところがあった時も、丁寧に教えてくれたしな!
よし!
いっちょう、気合い入れるか!
▽
「さて、話が纏まったところで、私は一度北欧に戻ろうと思います」
と、ロスヴァイセさんが立ち上がった。
北欧に戻る?
どういうことだ?
「例の件ね?」
どうやら、リアスは事情を知っているらしい。
リアスの言葉にロスヴァイセさんが静かに頷く。
「ええ。京都での戦い、そして先日のバアル戦で私の問題点が見つかりました。このままではいずれ私は役立たずになるでしょう。――――『戦車』の特性を高めようと思います」
『戦車』の特性を高めるために北欧に帰るってことか?
『戦車』の特性はそこ攻撃力と防御力の高さ。
ロスヴァイセさんは今でも十分な火力を持っている。
・・・・・・となると、防御面か。
先生が訊く。
「ロスヴァイセ、ヴァルハラにアテがあるのか?」
「はい、そちら専門の先輩がいましたので。ヴァルキリー候補生時代に攻撃魔法の授業を重点に単位を取っていたのがここに来てアダになりました」
「そうか。確かにリアスのチームは火力は高いが防御面では薄いところがある。ロスヴァイセが魔法で防御面を強化すれば、この先リアスのチームは一気に伸びるだろう。リアスは許可を出したのか?」
先生がリアスに訊く。
「ええ。自ら伸ばしたい点があるのなら、断る理由はないわ」
リアスも合意していた。
それを聞いて、ロスヴァイセさんは礼を口にする。
「ありがとうございます。あ、それと学園の中間テストの問題用紙は既に作成しておきましたのでご心配なく」
あ・・・・・・・。
そ、そうだった・・・・・・そろそろ、学園でもテストがあるんだった。
二年の二学期は体育祭、修学旅行、学園祭、中間テストと連続であるんだったぁぁぁああああっ!!!
「や、やべぇ! テスト勉強、してねぇぇぇえええ!!」
立ち上がって叫ぶ俺!
ヤバいよ!
マジでヤバい!
テストが二連続で来るとか最悪じゃん!
頭を抱える俺の横ではサーゼクスさんがレイヴェルに言う。
「レイヴェル、例の件は承諾してくれるだろうか?」
「もちろんですわ、サーゼクス様」
快諾するレイヴェルだが・・・・・・。
例の件?
頭に疑問符を浮かべる俺にサーゼクスさんが言った。
「実はね、レイヴェルにイッセー君のアシスタント、つまりはマネージャーをしてもらおうと思っているのだよ」
マネージャー・・・・・・。
あー、そういや、先生にも言われたっけな。
「イッセー君はこれから忙しくなるだろう。人間界の学業でも、冥界での興行でも。今はグレイフィアがグレモリー眷属全体のスケジュールを管理しているが、それでも限界がある。それならば、今のうちからイッセー君にはマネージャーをつけるべきだと思ってね。そこで冥界に精通し、人間界でも勉強中のレイヴェルを推薦したのだよ」
なるほど。
確かにレイヴェルが俺のサポートをしてくれるなら心強い。
おっぱいドラゴンのイベントでも手伝ってくれてるし、何よりレイヴェルはしっかり者だしな。
・・・・・本当にマネージャーをつける日が来るとはね。
完全に芸能人だ。
まぁ、冥界での俺は芸能人だと思うけど。
「さっそくで悪いのだが、レイヴェル。今度の試験についてイッセー君のことを任せたい」
サーゼクスさんの言葉にレイヴェルは立ち上がり、自信満々に手をあげた。
「わかりました。このレイヴェル・フェニックス、必ずやイッセー様を上級悪魔に昇格させてみせますわ! さっそく、必要なものを集めてまいります!」
そう言ってレイヴェルは部屋を飛び出していった。
めちゃくちゃ気合い入ってるな。
いや、俺だって気合い入れないと!
レイヴェルだって支えてくれるんだ。
良い結果を出さないと、申し訳がたたない!
「レイヴェルにとっちゃ、イッセーの昇格は将来の自分の生き方にも大きな意味を持つからな。そりゃ、気合いも入るわ。小猫、油断してると大好きな先輩がレイヴェルに取られちまうぞ?」
先生、小猫ちゃんをあおらないでくださいよ。
小猫ちゃん、本気でレイヴェルをライバル視しちゃうんですから・・・・・。
などと思っていたんだが―――――
「・・・・・・・」
とうの小猫ちゃんは顔を俯け、心あらずの状態だった。
皆もおかしいと思ったのか一様に首を傾げていた。
うーむ、やはり体調が悪いのだろうか・・・・・・・。