ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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18話 獅子の咆哮、赤き龍の意地!

赤と黄金のオーラがフィールドを照らす。

 

俺とサイラオーグさんは一歩、また一歩と前進していく。

 

鎧に闘気を纏わせているその姿は迫力があるな。

 

『ある意味あれが直接攻撃を重視した使い手にとって究極に近い姿だからな。力の権化である鎧を着込み、それで直接殴る。だから、どうしても果てがあのようになる』

 

ドライグが解説してくれる。

 

なるほど。

俺みたいに打撃合戦がメインの人にとってはパワーの権化ともいえる身に纏う鎧の方が攻守ともにバランスが良いのか。

 

肉薄する距離でサイラオーグさんが俺に言う。

 

「いくぞ」

 

その一言とともに放たれる黄金のオーラを纏った拳!

 

 

パシィッ!

 

 

俺はそれを受け止めるが・・・・・・重い!

 

受け止めるだけで、籠手の部分にヒビが入る!

 

枷を外したこの人も相当だったけど、鎧を纏ったこの人の拳は段違いだ!

 

俺も力を籠めた拳を放つ!

 

 

ガンッ!

 

 

しかし、サイラオーグさんの左手に受け止められてしまう!

 

サイラオーグさんが言う。

 

「これが赤龍帝の鎧を纏ったおまえの一撃か!」

 

「そっちこそ。俺の鎧にヒビ入れるとか、リアスと同世代とは思えない」

 

俺達は不敵に笑みを浮かべると、そのまま手を組んで押し合う形となる。

 

 

ドオォォォォォォォォッ!!

 

 

赤と黄金のオーラが膨れ上がり、地面を大きく抉る!

 

『獅子の鎧を纏ったサイラオーグ選手! そして、おっぱいドラゴンとなった兵藤一誠選手! 二人の力比べが再び繰り広げられております!』

 

うーん、そこは赤い鎧を纏った兵藤一誠選手じゃダメなの?

 

もう少し俺の実況も格好良くしてくれない!?

 

恥ずかしいから!

 

『Accel Booster!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

俺は恥ずかしい気持ちを我慢しながら倍加!

 

「おおおおおおおっ!!!」

 

全身のブースターからオーラを噴出させて、サイラオーグさんを押していく!

 

「ぐっ・・・・おおおおおおおっ!!!」

 

サイラオーグさんも両の腕に力を籠めて押し返してくる!

 

なんてパワーだ!

 

これが神滅具の、獅子の鎧を纏ったサイラオーグさんの力か!

 

高まるオーラのぶつかり合いがフィールドを激しく揺らしていく。

 

 

そして――――

 

 

「「おおおおおおおおおおおっ!!!!」」

 

 

目映い閃光が生まれ、周囲の風景が弾けた。

 

 

 

 

 

 

「だぁあああああああああっ!!!!」

 

「おおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

力比べから一転して、始まる超至近距離での格闘戦!!

 

ただ前に出て、殴り続ける!

 

ここから先は同じ道を歩く者として、互いの全てをぶつけ合うのみ!

 

「であっ!!」

 

俺の蹴りがサイラオーグさんの顔面を捉えると、兜が割れる!

 

それのお返しと言わんばかりにサイラオーグさんの拳が俺のボディーへと撃ち込まれる!

 

それによって、腹部の鎧が破壊される!

 

自分でいうのもアレだけど、俺の鎧を砕くやつなんてそうはいない。

 

「やっぱり、あなたは凄い!」

 

「魔力を持たずして生まれてきた俺にはこの体しかなかった! だからただひたすらに自分の体を虐めぬくしかなかった! それはおまえも同じなのだろう?」

 

「だけど、俺には師がいた! あなたは違う! あなたは一人で自らを鍛え上げた! 以前、あなたは自分のことを格好悪いと言っていたがそうは思わない! その生き様は、その背中は誰かに希望を見せることが出来るものだ!」

 

サイラオーグさんのように魔力を持たずして生まれた悪魔の子供は他にもいるだろう。

 

才能がない、あったとしても下級悪魔だと蔑まれる者もいるだろう。

 

だけど、この人はそういう人達の希望になる人だ!

 

俺の言葉を聞いて、サイラオーグさんは壮絶な殴り合いの中、高らかに笑った。

 

「ハハハハハハハッ!! おまえにそこまで言われるとは! 俺も自分の歩みを誇れるというもの! だが、容赦は無用だぞ、兵藤一誠!」

 

「当たり前だ! 俺は仲間のために、リアスのために、そして、俺を応援してくれる人達のために絶対に勝つ! たとえ、それがあなたの夢の妨げになろうとも!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

倍加した力の全てを拳に纏わせ、サイラオーグさんの腹部へと放つ!

 

 

ガギャァァァァァァァン!!

 

 

俺の拳はサイラオーグさんの鎧を砕き、生身に食い込んでいく!

 

それを食らい、サイラオーグさんが血を吐き出す。

 

『サイラオーグ様!』

 

「ガハッ・・・・・! レグルスを纏った状態でも、この男の全力には劣ると言うのか・・・・! 否! 俺はまだやれる! このような戦い、今心底味わわずに大王バアル家の次期当主は名乗れぬ!」

 

今のでかなりのダメージを与えたはずなのに、その眼光は更に鋭く、闘気はより一層燃え盛っていた。

 

すごい気合いだ・・・・・・。

 

サイラオーグさんは立ち上がり、再び拳を繰り出してくる!

 

俺はそれを受け止め――――

 

 

ガシャンッ!

 

 

「ぐっ・・・・・!」

 

受け止めた瞬間、物凄い衝撃が腕を襲った。

 

籠手が砕け、生身にダメージを受ける。

 

威力がさっきよりも増しているのか!

 

『神器は宿主の想いに応えるからな。この男の想いに獅子の神器が出力を上げたのだろう。まぁ、この場合、宿主と言って良いのかは分からんがな』

 

そうか・・・・・。

 

ってことはこの人はまだまだ強くなるってことだな。

 

今、こうして拳を交えている瞬間にも。

 

クソッ・・・・・さっきので左腕が痺れてやがる!

 

だけど、それがどうした!

 

サイラオーグさんが強くなるなら、俺も強くなればいい!

 

籠手を修復して、サイラオーグさんへと突っ込む!

 

それと同時に俺は領域に突入。

視界から色彩が消え、白黒の世界が広がる。

 

サイラオーグさんの拳を流して、その腕を掴む。

 

「どりゃああああああっ!!!」

 

拳の勢いを利用した背負い投げ!

 

サイラオーグさんを上へと放り投げる!

 

右腕を引いて拳に気を集めていく。

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

倍加によって、高められた気が赤い閃光を放ち甲高い音を出す。

 

そして、その右腕をサイラオーグさん目掛けて突き出した!

 

「アグニッ!」

 

赤い光の奔流が放たれ、サイラオーグさんを包み込む!

 

強大な爆発が生じて、フィールドに穴を開けた。

 

煙が止み、地面にできた巨大なクレーターの中央には鎧が砕け、ボロボロの状態のサイラオーグさんが倒れていた。

 

『サイラオーグ選手ダウンッ! 兵藤一誠選手の強烈な一撃がクリーンヒットォォオオオ!!』

 

実況が叫び、会場も大いに沸いた。

 

天武の状態で繰り出したアグニだ。

 

立てたとしても、戦えないだろう。

 

 

その時―――――

 

 

『立ちなさい、サイラオーグ!』

 

 

一人の女性の声が会場に響いた。

 

この大歓声の中でも聞こえるほど、しっかりと。

 

観客の目がその声の方に集まり、俺も声のした方に視線をやる。

 

そして、俺は目を見開いた。

 

そこには執事さんに支えられながら立つミスラさんの姿があったのだから。

 

昏睡から覚めたのか!

 

イグニスのあの時の光があの人の病を治したってのか!

 

『そーいうことよ。彼女の精神世界まで蝕んでいたものを完全に取り除いたのが効いたみたいね』

 

ここ最近で、一番あんたを凄いと思えたぞ。

 

悪い方ならいつも思ってるけど・・・・・・・。

 

『立ちなさい、サイラオーグ! あなたはまだ戦えるでしょう? まだその拳を握れるでしょう?』

 

ミスラさんの表情は厳しく、誇り高く、気丈なもの。

 

その声は応援ではなく、息子を叱咤する母親のそれだった。

 

その時、サイラオーグさんの指がピクリと動くのが見えた。

 

眠りから覚めたばかりだからか、ミスラさんは執事さんに支えられていても体をよろめかせる。

 

それでも、強い声で叫んだ。

 

『たとえどんな困難が立ちはだかっていようとも、それを乗り越える力があなたにはある! 何度転ぼうとも起き上がる! あなたはそうやって生きてきたではありませんか!』

 

サイラオーグさんの手が動き、腕が動き、足が動く。

 

そして、その体が持ち上がり始めた。

 

『夢を叶えるのです! たとえ生まれがどうであろうと結果的に素晴らしい力を持っていれば、誰もが相応の位置につける世界。それがあなたの望む世界のはずです! これから生まれてくるであろう冥界の子供達が悲しい思いを味わわないで済む世界! それを作るのでしょう!』

 

ついにはサイラオーグさんは両の足でしっかりと立ち上がり―――――その瞳の奥に闘志を再び燃え上がらせた。

 

それを見てミスラさんは微笑みを浮かべる。

 

『いきなさい。私の愛しいサイラオーグ。あなたは私の自慢の息子です』

 

その瞬間だった。

 

大地を大きく踏みしめて、血を撒き散らしながら、眼前の男は完全に立ち上がった。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!」

 

獅子が咆哮をあげた。

 

 

 

 

 

 

かつてないくらい目映く、荒々しい黄金のオーラがフィールドを駆け抜ける。

 

その波動は明らかに今までのものとは全くの別物。

 

俺のオーラを呑み込む勢いで膨れ上がった。

 

神器は所有者の想いに応じて力を発揮する。

 

この力はサイラオーグさんの想いそのものってわけだ。

 

血を噴き出しながらもギラギラした瞳で俺を見据えるサイラオーグさん。

 

 

その姿に俺の心は打ち震えた。

 

この人はまだ戦える。

その拳を握れるんだ。

 

まだ勝負はついてなどいない。

 

そう思うと心の底から高揚した。

 

「兵藤一誠! 俺は負けん! 俺には勝たねばならぬ理由がある! 叶えなければならないものがあるのだ!」

 

サイラオーグさんは向かってくる!

 

ボロボロの状態で、その拳を繰り出してくる!

 

「俺だって負けられない!」

 

俺もそれに呼応して飛び込む!

 

俺とサイラオーグさんの拳が同時にお互いの顔面に鋭く食い込む!

 

こんな状態で、ここまでの威力があるのか!

 

でも、ダメージが多い分、サイラオーグさんの動きが遅い。

 

俺は再び放たれてきたサイラオーグさんの拳を避けようとした。

 

しかし――――

 

 

ガゴォォォォォォォォンッ!!!

 

 

「ガッ・・・・・・・!」

 

顔面に直撃をもらってしまった。

 

兜が砕け散り、脳が揺れる!

 

確実に避けたはずだった。

それなのに俺は全力の拳を受け、相当なダメージを負ってしまった。

 

なんだ・・・・・。

 

今・・・・・サイラオーグさんの動きが速くなったような・・・・・。

 

よろめきながらサイラオーグさんの方を見ると――――

 

「おいおい・・・・・・マジかよ・・・・・!」

 

 

サイラオーグさんの目は俺や曹操が見ることが出来るものと同じ世界を見ていた。

 

 

この土壇場で領域(ゾーン)に入ったってのか!

 

サイラオーグさんは息を荒げながら言う。

 

「負けん・・・・・! 俺は負けんぞ、兵藤一誠・・・・・・!」

 

これだけフラフラなのに、どこにそんな力が眠ってやがるんだ・・・・・!

 

『まるで、相棒が初めて領域に入った時と同じだな』

 

―――――シリウスとの決着の時か。

 

俺も負けそうになってる土壇場で領域に入ったんだった。

 

絶対に負けられない、譲れないものがあって、ついには極限の果てへと至った。

 

そうか・・・・・・そこまで同じになるわけだ。

 

ハハッ・・・・・大ダメージを受けたっていうのに、自然と笑みが零れる!

 

「ああ・・・・・そうだな。あなたはまだまだ戦える! 拳を握れる! だったら、俺も最後まで徹底的にやってやる!」

 

俺も再び領域に突入する!

 

互いに極限の状態での壮絶な殴り合い!

 

しかし、俺達は避けることはせず、ただただ力の限り拳を振るい続けた!

 

相手の拳打が自分の体にめり込もうとも、痛みを忘れたように殴り続ける!

 

己の全てを拳に籠めて、相手を破壊する。

 

鎧が砕け、肉が弾けようとも構わない!

 

俺達はどれだけダメージを受けようとも前に出続けた!

 

拳がぶつかる衝撃で、フィールドが悲鳴をあげて、いたるところに穴が開く。

 

このフィールドも俺達の戦いに限界を迎えようとしているらしい。

 

「おおおおおおっ!!」

 

サイラオーグさんの拳が俺の腹に突き刺さる!

 

「ゴブッ・・・・・!」

 

血を吐き出し、よろめく俺。

 

内蔵を幾つかやられたかな・・・・・・。

骨も何本か折れてるのは確実だろう。

 

でも、倒れるわけにはいかない。

 

 

『頑張れ! おっぱいドラゴン!』

 

『負けるなーーー!!』

 

 

観客席から子供達の声援が聞こえる。

 

いや、それだけじゃない。

 

 

『お兄ちゃん、しっかり!』

 

『立ちなさい、イッセー!』

 

『イッセー君!』

 

 

美羽にアリスにイリナ。

 

 

『イッセー君、頑張って!』

 

 

実況席にいるレイナ。

 

 

「イッセー!」

 

 

フィールドにいるリアスが俺の名前を呼んでくれる。

 

そうさ、皆のこの想いに応えるためにも――――

 

「俺も・・・・・・負けるわけにはいかねぇぇぇえええ!!」

 

 

バガァァァァァアアン!!!

 

 

振り下ろした拳がサイラオーグさんの顔面を捉えた。

 

サイラオーグさんの上体が仰け反り、ついに倒れそうになる。

 

しかし――――

 

 

ザッ・・・・・・

 

 

サイラオーグさんは倒れることはなかった。

 

「倒れてなるものか・・・・・・! 俺はこの男を倒すまで倒れるわけには・・・・・・!」

 

なんて人だ・・・・・・。

 

未だに闘志が衰えを見せないなんて・・・・・・。

 

既に俺達の鎧は僅しかなく、俺は籠手、サイラオーグさんは胸にある獅子の顔の部分しか残されていなかった。

 

 

ズキンッ

 

 

「ぐあっ・・・・・!」

 

激痛が全身を襲う。

 

サイラオーグさんによって蓄積されたダメージが想像よりも大きい。

 

それでも・・・・・・!

 

俺は歯を食いしばり、踏ん張る。

 

震える拳を振り上げ、サイラオーグさん目掛けて放とうとした。

 

 

その時だった。

 

 

『もういい・・・・・もういいのです、赤龍帝・・・・・』

 

サイラオーグの鎧の胸部にある獅子が声を発した。

 

目からは涙を溢れさせている。

 

そこで俺は気づいた。

 

「サイラオーグさん?」

 

サイラオーグさんは――――拳を突き出し、俺に向かおうとしたまま意識を失っていた。

 

それでも両の瞳は戦意に満ち、ギラギラしたものを浮かべていた。

 

『サイラオーグ様は少し前から意識を失っていた・・・・・。それでも、嬉しそうに・・・・・・ただ嬉しそうに向かっていった。ただ、真っ直ぐに、あなたとの夢を賭けた戦いを真に楽しんでおられた・・・・・・』

 

意地だけでも戦っていたのか・・・・・・。

 

意識を失っても、その拳を振るい続けたと言うのかよ・・・!

 

すごいよ・・・・・すごいよ、あなたは・・・・・・!

 

『ああ・・・・・。実力は相棒の方が上だった。だが、それでもこの男は最後まで戦い抜き、遂には相棒と同じ境地にまで辿り着いた。・・・・・見事だ、サイラオーグ・バアル』

 

俺はその目の前に立つ男の体を抱き締める。

 

 

「俺はあなたと戦えて本当に良かった・・・・・! ありがとう・・・・・!」

 

 

 

『サイラオーグ・バアル選手、投了。リタイヤです。リアス・グレモリーチームの勝利です!!』

 

 

最後のアナウンスが流れ、会場が熱気に包まれた。

 

 

こうして、若手悪魔最強を決める戦いは俺達グレモリーの勝利で終わった。

 

 

 

 

 


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