第四試合を終えて、それぞれの陣営の数が減ってきている。
俺達グレモリー眷属はリアスに朱乃、木場、ゼノヴィア、アーシア、ロスヴァイセさん、そして俺の七名。
対してバアル眷属は王のサイラオーグさんに女王、それから例の仮面の兵士の三名のみ。
数は俺達が圧倒的に有利。
『戦いも中盤を超えようとしているのかもしれません! バアルチームは残り三名! 対するグレモリーチームは残り七名と現在はグレモリーチームが優勢であります! しかし! バアルチームの残りのメンバーが強力です! 巻き返しとなるか必見です!』
実況が会場を盛り上げる。
サイラオーグさんが出るときは俺が行くとしてだ。
問題は――――
「相手の兵士は駒消費7だったよな?」
俺の問いに木場が頷く。
「そうだね。少なくとも今まで出てきたバアル眷属よりも強敵なのは間違いないと思うよ」
相手チームは駒価値的に単独でしか出場できないが、駒価値が大きいと言うことはそれだけの力量があること。
ルール上、俺は連続で出られないし・・・・・。
今後の出し方次第では追い込まれることもありうるか。
第五試合の出場選手を決めるためのダイスシュートが行われる。
サイラオーグさんの手元には小さな数字の眷属がいないから、場合によっては振り直しが何度か行われた。
何投かすると、互いの眷属が出られる数字となった。
リアスが4、サイラオーグさんが5の合計9。
ちょうど女王が出られる数字だ。
「あちらが出せるのは女王か兵士のみ。となると女王が出てくると思うわ」
リアスがそう言った。
俺が問う。
「なんでそう思うの?」
「サイラオーグはあの兵士を出来るだけ使いたくないと思っているように感じるのよ。いくらなんでも温存しすぎていると思わない? これまで出てくる気配が全くなかったわ。出られる試合も何度かあったと言うのに」
言われてみればそうか。
第一試合以降は出れたもんな。
特に第二試合は合計数字が10だったから、僧侶か騎士と組んで出せたんだ。
そう考えるとリアスの考えも外れてはいないように思える。
「となると、次の相手は女王ですか、部長」
「ええ、祐斗。サイラオーグの女王、クイーシャ・アバドン。『
『番外の悪魔』、アバドン家。
レーティングゲームの現役トップランカー三位もアバドン家で、しかも魔王クラスの実力者。
聞けば、アバドン家というのは相当強力な悪魔の一族だとか。
家自体は現政府と距離を取っていて冥界の隅でひっそりと住んでいるらしい。
「私が行きますわ」
朱乃がそう言って前に出る。
「相手の女王はアバドンの者よ? 記録映像を見る限り相当な手練れだったわ」
リアスの言う通り。
グラシャラボラス戦では相手の女王は絶大な魔力とアバドン家の特色という『
その『穴』ってのは、なんでもかんでも吸い込む厄介な代物で、相手の放った技とか武器とかを吸い込んでしまうんだ。
しかも、『穴』無しでも女王の実力は高く、戦い方が上手かったのを覚えてる。
「俺が行こうか?」
俺がそう言うが、朱乃は首を横に振った。
「いいえ。イッセー君は相手の王、サイラオーグ・バアルまで取っておくべきよ。相手の兵士もいる以上、あなたは最後まで控えておくべきだわ。それに、後ろに祐斗君、ゼノヴィアちゃん、ロスヴァイセさん、そしてリアスとイッセー君が控えてくれているからこそ、出来る無茶もあるんです」
ニコニコ笑顔で言われてしまった。
うーん・・・・・そこまで言われては引き留めるわけにはいかないんだよなぁ。
「ふふふ。私が負けたら、お仕置きで相手の僧侶にしたことしてくれます?」
「ブフォアッ!!」
おいおいおいおい!!
アレをしろってか!?
流石にダメだろ!
リアスが立ち上がる。
うん、今の発言にお怒りなのだろう。
ワナワナと肩を震わせて―――――
「ダメよ! ご褒美になってしまうわ!」
「そっちぃぃいいいいいい!?」
「そっちよ」
「いや、何当然のように言ってるの!?」
俺が帰ってきたとき何とも言えない表情してたじゃん!
酷いものを見たって感じだったじゃん!
俺が叫ぶと朱乃が頬に手を当てながら言う。
「まさかイッセー君があんな凄い技を持っていたなんて思いもよらなかったものですから・・・・・。少し体験してみたくて。それに・・・・・」
「・・・・・・それに?」
「鬼畜なイッセー君を味わってみたいですわ♪」
やーめーてーーーー!!
それ以上言わないで!
うちのドライグさん、泣いてるから!
『ぐっ・・・・うおおおおおおおおん!!!』
ほら!
号泣しちゃってるよ!
『まもなく開始時間です。出場選手は魔法陣へと移動してください』
アナウンスが聞こえる。
「それじゃあ、行ってきますわ」
朱乃はそう言うと表情を引き締め、真剣なものになる。
リアスが言う。
「・・・・・朱乃、お願いするわね」
「ええ、リアス。勝ちましょう、皆で」
それだけ言い残し、朱乃は転送の魔法陣の向こうへと消えた。
▽
映像に映し出された場所は無数の巨大な石造りの塔が並ぶフィールド。
朱乃はその中の塔のてっぺんにいた。
そして、その向かいの塔には金髪ポニーテールのお姉さん。
『第五試合の出場選手、グレモリー側は女王、姫島朱乃選手! バアル側は同じく女王、クイーシャ・アバドン選手! なんと女王対決となります!』
『これまでの試合からサイラオーグは兵士を出来るだけ使いたくないと見える。そうなると出すのは女王。リアスはそれを読んで朱乃を出したってところか。いや、サイラオーグもそれを読んでたかもしれんな』
実況にアザゼル先生がそう続ける。
やっぱり、先生も兵士についてはそう考えてたんだな。
サイラオーグさんの女王、クイーシャ・アバドン。
黒髪ポニーVS金髪ポニーって感じだな。
『やはり、貴女が来ましたか、雷光の巫女』
『不束者ですが、よろしくお願い致しますわ』
アバドンに不敵に返す朱乃。
物腰は柔らかいが、映像からでもその気迫が伝わってくる。
審判が出現し、両者を見据える。
『第五試合、開始してください!』
開始の合図が出される!
それと同時に朱乃とアバドンは悪魔の翼を羽ばたかせて空中へと飛び出していった!
空中で繰り広げられるのは壮絶な魔力合戦!
朱乃が炎で放てばアバドンは氷を。
さらに朱乃が水を使えばアバドンは風を使う。
今のところ、魔力による空中戦は互角。
朱乃はこれまでのトレーニングや異世界での経験を経て以前よりも強力な一撃を放てるようになった。
それに、俺が初めて修行をつけた時のように相手のペースに呑まれることなく、自分のペースを保っている。
『『はっ!』』
ドゴォォォォォォォン!!!
二人の魔力が衝突し、空中で大爆発を起こす!
その余波で周囲の塔が崩れ、崩壊していくほどの威力だ!
やっぱり、相手の女王もかなり強いな。
大質量の魔力を撃っているのに、表情には余裕がある。
・・・・・・付け加えるなら、相手は『穴』を使っていない。
『やはり、やりますわね。流石は若手最強サイラオーグ・バアルの女王ですわ』
『そちらこそ。過去の情報からもう少し楽な相手だと思っていましたが、油断は出来ませんね』
『ええ。侮ってもらっては困りますわ』
朱乃はそう言うと天に手をかざす。
魔力によって空に暗雲が作り出され、雲の合間から激しく光るものが見えた。
『雷光よ!』
暗雲から大質量の雷光が放たれる!
デカい!
ビガガガガガガガガガッ!!
閃光が走り、アバドンを雷が包んでいく。
その寸前、アバドンの周囲の空間に歪みが生じた!
歪みポッカリとおおきな『穴』が空く!
ここで使ってきたか!
大質量の雷光はそのまま、『穴』に吸い込まれ、アバドンに届くことはなかった。
しかし、これを読んでいたかのように朱乃は次の行動に移っていた。
『ここですわ! これならどうでしょう!』
その言葉と同時に天に雷光が走る!
ドガガガガガガガガガガガガッ!!
先程よりも強力な雷光!
幾重にも生み出された雷光が周囲一帯を襲う!
雷光が落ちた周囲の塔は吹っ飛び、破壊されていく!
フィールドの大半を覆うほどの雷光がアバドンを襲う!
これを受ければ、上級悪魔といえど致命傷は免れない。
これだけの広範囲攻撃だ。
避けるに避けられない。
さぁ、アバドンはどうする?
すると――――
アバドンが『穴』を広げ、更には周囲に複数の『穴』を出現させ、その全てが雷光の乱舞を難なく吸い込んでいった。
『っ!』
「なっ!?」
朱乃は目を見開き、俺の隣ではリアスが驚愕の声をあげていた。
見れば木場達も同様の反応だった。
アバドンが冷笑を浮かべながら言った。
『私の「穴」は広げる事も複数に出現させることもできます。更には吸い込んだ攻撃を分解して、放つことも出来るのです。――――このようにして』
朱乃を囲むように無数の穴が出現した。
それら全てが朱乃に向けられていて―――――
『雷光から雷だけを抜いて――――光だけ、そちらにお返しましょう』
ピィィィィィィィッ!
無数の『穴』から朱乃目掛けて一直線に幾重もの光の帯が放たれた―――――
▽
「朱乃!」
リアスが悲鳴をあげる。
悪魔にとって、光は猛毒。
あれだけの光を浴びてしまえばリタイヤするのは避けられない。
「吸い込むだけではなく、あのようにカウンターにも使えるのか」
木場が絞り出した声で言う。
俺達が得ていた情報ではアバドンの戦闘スタイルは相手の攻撃を『穴』で吸い込み、その間に自分の魔力をぶつけて相手を倒すというもの。
あのようにカウンターとして使えるというのはこちらにとっては想定外だった。
アバドンの『穴』を俺達は甘く見ていた。
しかし――――
『なっ!?』
今度はアバドンが驚愕の声をあげた。
なぜなら、
『おおっーと!! 光に包まれたはずの姫島朱乃選手! なんと無傷です!』
実況の声が会場に響く。
そう、光に当てられたはずの朱乃が平気とした顔で立っていた。
アバドンが怪訝な表情で聞く。
『あなたは光を浴びたはず。なぜ、リタイヤしないのです?』
すると、朱乃は不敵な笑みを浮かべてその答えを出した。
朱乃の背後から現れる黄金に輝く細長い龍。
バチッバチッと体からスパークを発する龍は朱乃の体を包み込むようにとぐろを巻いた。
『これが私の奥の手、雷光龍。先程の光はこれで防がせていただきました』
そう、朱乃がリタイヤしなかった理由はこれだ。
異世界に渡ったことで力を伸ばした朱乃が得た雷光の新しい使い方。
雷光によって形作られた雷光龍。
ただの雷光とは違い、変幻自在に操れる。
光が当たる直前、朱乃は雷光龍で体を包み、それを防いだんだ。
・・・・・・攻撃だけでなく、ああいう風に防御にも使えるのか。
ギリギリだったみたいだけど、間に合ってよかった。
朱乃の背中から堕天使の翼が生える。
同時に雷光龍の輝きが増した。
『後輩達が頑張っているのに先輩である私がそう簡単にやられるわけにはいきませんわ』
『なるほど。ですが、負ける訳にいかないのは私も同じ。我が主のためにも私は勝たなくてはなりません』
『ええ、分かっています。だから、ここから先は隠し事は無しにしましょう』
『いいでしょう。互いに全力。出し惜しみはなしです』
二人を覆う魔力が高まり、濃密なオーラを放つ。
一瞬の静寂
フィールドだけでなく、会場もシンッとなる。
そして―――――
カッ!
ドガアアアアアアアアアアンッ!!!
空中で二人の魔力がぶつかり合った!
それまでにチャージしていた魔力の全てをつぎ込んだ互いの一撃は破壊の嵐を巻き起こし、フィールドを揺らす!
そこから再び始まるの壮絶な魔力の撃ち合い!
今度は雷光も『穴』も含まれていて、その激しさは更に増していく!
『雷光よ! 我が刃となれ!』
朱乃がアバドンに掌を向けると、周囲に光の槍――――いや、あれは雷光の槍か?
それが複数出現する。
解説のアザゼル先生が言う。
『あれは俺達が扱う光の槍を参考にしたものか。しかも雷光の槍ときたか! バラキエルの野郎、泣いて喜ぶぞ! いや、もう泣いてるかもしれねぇな!』
ですよね!
この映像を見たバラキエルさんが号泣する姿が容易に想像出来ますよ!
雷光の槍がアバドン目掛けて飛ぶ!
速いっ!
アバドンは咄嗟に『穴』を展開して吸収を試みるが、僅かに間に合わず、一本は腕を掠めてしまう。
光の影響で傷口からは煙が上がっている。
アバドンは苦痛の表情を浮かべるが、直ぐ様に反撃移った!
『やりますね! ですが!』
今度は朱乃を包み込むように全方位に『穴』が出現。
それから、アバドンの前面に『穴』が作り出された。
アバドンは前面の『穴』へ炎と風の魔力を放つ。
すると、朱乃の周囲からぽっかりとアバドンから放たれた魔力が飛び出してきた!
『穴』を介して自分の攻撃を任意の方角から飛ばすことも出来るのかよ!
飛び出してきた炎と風の魔力は混ざり、炎の竜巻と化した。
それが四方八方から朱乃へと迫る!
『くぅっ!!』
避けきれないと判断した朱乃は雷光龍を操作してそれを防ぐが―――――
ドゴォォォォォォォン!!!
衝突した魔力が爆発を起こした。
煙が立ち込め、朱乃の姿が見えなくなる。
『はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・』
アバドンの方は激戦で消耗したせいか、息切れを起こしている。
しばらくすると、煙が晴れていき、朱乃の姿が視認できるようになった。
リタイヤはしていないが、制服はボロボロでこちらはかなりのダメージを受けてしまったようだ。
『よく今のでリタイヤしませんね』
『私も負けられないので・・・・・・。どうです? そろそろ終わらせましょうか』
『私もそう考えていました。このまま続けていても次の試合に支障が生じるでしょう。最後に一撃。それを全力で放ちましょう』
そう言うとアバドンは手元に魔力を溜めていく。
本当にこれで最後にするつもりか。
朱乃も一度瞑目すると、天に手をかざす。
手にはバチッバチッと激しく弾ける雷光。
『『はあぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!』』
そして――――――
ドガアアアアアアアアアアンッ
二人の全力の一撃がフィールドを激しく揺らした。
制したのは――――――
『リアス・グレモリー選手の女王一名、リタイヤです』
第五試合を制したのはバアルの女王、クイーシャ・アバドン。
紙一重で相手が朱乃を上回ったようだ。
この結果を受けて、リアスは
「・・・・・・ありがとう、朱乃。後は私達に任せて。――――必ず勝つわ」
というわけで、今回は朱乃が頑張りました!
原作では割りとあっさりやられたような気がしていたので、本作ではかなりねばらせてみました!
次回も来週には投稿したいと思います!