それぞれの王が台の前に立ち、審判の掛け声を合図にダイスを振る。
出た数字は――――
『リアス・グレモリー選手が出した目は2!対するサイラオーグ・バアル選手が出した目は1! 合計3となりその数の価値分だけ眷属を送り出す事が出来ます!』
いきなり最小の数字かよ!
となると、俺達の陣営で出場出来るのは騎士の木場かゼノヴィア、もしくは僧侶のギャスパーかアーシアということになる。
このメンバーだと単騎で戦えるのは木場かゼノヴィアの二択になるな。
『作戦タイムは5分。その間に出場選手を選出してください。なお、兵士のプロモーションはフィールドに到着後、昇格可能となります。その都度、フィールドでプロモーションを行ってください』
五分・・・・・その間に今の二択を決めなければいけないのか。
いや、でも大体決まってるも同然か。
作戦タイムに入った瞬間、両陣営地が謎の結界に覆われた。
「これは作戦が外部に漏れないようにするためのものだね。こちらの声は結界の外には聞こえないし、外部から口元を読唇術で読まれないようにしているんだ」
木場に言われて巨大モニターを見てみると、俺達の顔にグレモリー眷属の魔法陣が覆っているようになっていた。
見ればバアル眷属も同様だ。
俺達は待機用の椅子に座ると、リアスが皆を見渡すように言った。
「ここは祐斗を出すべきでしょうね。もっとも向こうもこれは読んでいるでしょうけど」
まぁ、そうだろうな。
リアスの言葉に俺が続ける。
「アーシアとギャスパーは元々単独では出せないし、ゼノヴィアはテクニックでやられる可能性もあるしな」
「テクニックでくるなら、それ以上のパワーで押し返してみせよう」
「おいおいおい! 最近、テクニック方面が少しマシになってきたと思ってたのに・・・・・・結局それかよ!」
まぁ、ゼノヴィアらしいけどさ!
やっぱりこいつは筋金入りのパワータイプだよ!
自信満々の表情を浮かべるゼノヴィアにリアスが告げる。
「確かに今のゼノヴィアならたいていの相手は持ち前のパワーで凪ぎ払えると思うわ。だけど、序盤でエクス・デュランダルの仕様を晒すのは得策じゃない。晒すなら中盤ね。そうなると手の内を晒しても臨機応変に戦える祐斗を出すのがベストよ」
木場なら持ち前のスピードとテクニックで能力を知られていても十分に応用が利く。
ゼノヴィアは大技が多いから一度見せた場合、阻止されたり、避けられたりしてしまう可能性が大だ。
つーか、ゼノヴィアは体力の消耗とかケガもしそうなんだよね・・・・・・。
「読まれていても行かなきゃね。行ってくるよ」
木場が襟元を直しながら立ち上がる。
「負けんなよ?」
「当然勝つよ」
俺の言葉にいい笑顔で返事をする木場。
審判が告げる。
『まもなく時間です。試合に出場する選手は専用の魔法陣の上に立ってください。その魔法陣から別空間に用意されたバトルフィールドへ転送されます。なお、フィールドに転送されるまでの間、両陣営の陣地は結界により不可視の状態になります』
あの魔法陣はそういうものだったのか。
そんで、転送されるまでの間は陣地が不可視になるってのは?
小猫ちゃんが、俺の心中を察したように言う。
「・・・・不可視になるのは相手の出場選手を見て、直前に駒を変えないようにするためのものです」
あー、なるほどね。
確かに相手側の選手が分かっていれば相性の良い相手に変えるなんてことが起こりそうだしな。
そうこうしていると陣地を覆う結界が濃くなり、真っ白になった。
これで外と完全に遮断されたわけだ。
「では、行ってまいります」
耳にイヤホンマイクをつけた木場が魔法陣の上に立つ。
その瞬間、魔法陣が輝き、木場の姿が消えていった。
▽
木場が魔方陣の上に立って消えた直後、結界も元に戻り、陣地上空に映像風景が幾つも現れる。
広大な緑の平原が映され、そこに木場と全身から青白い炎を放つ馬に乗った甲冑騎士がいた。
『おおっと! 第一試合の出場選手がバトルフィールドに登場です!フィールドは見渡す限りの広大な平原! この緑広がる原っぱが第一試合の舞台となります! 合計数字3によって両陣営から選ばれたのはグレモリー眷属の神速の貴公子! 木場祐斗選手です! リアス姫のナイトが登場です!』
「「「「「「「キャァァァァァァァァァァッ!木場きゅぅぅぅぅぅぅんっ!」」」」」」」
実況に煽られて観客の女性達が黄色い歓声をあげた。
クソッ!
大人気じゃないか、うちのイケメン王子!
神速の貴公子なんて呼ばれてるしよ!
『対するバアル眷属は―――――』
実況が紹介する前にバアル眷属のランスを持った甲冑騎士が馬を歩かせ、兜のマスクを上げた。
『私は主君サイラオーグ・バアルさまに仕える騎士の一人、ベルーガ・フールカス!』
フールカス・・・・・・フールカスって確か・・・・・・
「フールカスは馬を司る家よ」
リアスがそう教えてくれた。
そうそう、それも習ったことある。
馬を司るってのが騎士っぽいな。
『僕はリアス・グレモリー様の騎士、木場祐斗です。どうぞ、よろしく』
『名高き聖魔剣の木場祐斗殿と戦う機会を主君からいただき、剣士冥利に尽きるばかり』
『こちらこそ、貴殿との一戦を楽しみだと思えます』
おおっ、不敵に返してるぜ!
女性達がまたキャーキャー言ってるよ!
『アザゼル総督、あの青白い炎に包まれた馬は?』
『「
しっかり解説してるな、あの先生は!
しかも上手くない?
解説者向いてるよ、あんた!
審判が魔法陣を介してフィールドに現れ、両者の間に入った。
『第一試合、開始してください!』
その合図と共に二人は即座に動き出す!
木場は聖魔剣を一振り作り出して地を蹴った!
『噂以上の速さ! だが、私とアルトブラウも負けん!』
ヒヒィィィィィンッ!
青い馬が鳴き、それと同時に姿を消した!
『速いっ!』
俺でも映像越しでは時たま見失うくらいの速さだ。
だけどな、うちの騎士もそれくらいの速さはあるんだ!
かましたれ、木場!
木場のスピードが上がり、フールカスと同様に映像から姿を消す。
ギィン! ギィィン!!
剣と剣が衝突する音が響き、空中に火花が散る。
衝突の瞬間だけは皆も目で追えているようだけど、それ以外はおそらく見えていない。
ついに両者が鍔競り合い、その動きを止める。
『我がアルトブラウの脚を持ってさえも互角が良いところとは・・・・・恐るべし、リアス姫のナイト!』
『そちらこそ、馬とのコンビネーションが抜群ですね。
馬を斬ろうにもランスが届き、あなたを屠ろうにも馬がそれを許さない。ならば、これならどうだろうか!』
そう言った木場の周囲には七つの剣が現れ宙に浮かぶ。
『これは・・・・・!』
あれはこっちの世界に来てからは京都の戦闘でしか使ってないからな。
バアル側に情報が行ってなくて当然だ。
宙を舞う七剣にフールカスが驚いていると馬の足元から大量の聖魔剣が咲いた!
『遠隔操作できる聖魔剣とは! だが!』
フールカスの声に合わせるように馬が空高く飛び出していく!
しかも、浮いてる!?
あの馬、空を駆けることが出きるのか!
『逃がさない!』
木場の七剣が下からフールカスを追いかけ、追撃を行う。
七つの剣が上空で縦横無尽に動き、変幻自在に攻撃していく!
しかし、フールカスがランスを振るい、馬が纏う青白い炎で七剣を捌いていく!
あれを防ぐのかよ!
本当にコンビネーションがいいよな!
そんな中、木場が聖魔剣を振りかざす!
『雷の聖魔剣よ!』
カッ!
天が光り、雷がフールカス目掛けて降り注ぐ!
しかし――――
『あまい!』
フールカスが馬の炎の鬣に手を入れて何かを取り出す。
取り出したのは二本目のランス!
フールカスは取り出した二本目のランスで、木場の雷を切り裂いた!
ドドドォォォオオオンッ!
真っ二つに裂かれた雷はそれぞれ別々の方向に飛んでいき、そのまま地面に落雷した。
『まだまだ!』
木場が手に握る聖魔剣をフールカス目掛けて投擲!
雷撃を防いで隙が出来たところを狙うつもりだ。
『その程度は対処できる!』
そう叫ぶとフールカスは雷撃を斬り裂いたランスを投げつけて飛んできた聖魔剣を弾き飛ばした。
そのままフールカスは地面に降り立ち、再び馬の鬣からもう一本のランスを引き抜いた。
・・・・・あの鬣、違う次元に繋がってるのか。
まだランスを持っているかもしれないな。
それにしても、相手も相当な実力者だ。
おそらく初見であろう木場の七剣を容易に捌いていくんだからな。
しかも、馬と連携してくるのが厄介極まりない、か・・・・・・。
流石はサイラオーグさんの眷属。
これはかなりの修行を積んでそうだ。
『次は私が貴殿に見せようか! 私とアウトブラウの技を!』
フルーカスが構え、馬が木場目掛けて駆ける。
それと同時に――――フールカスと馬が幾重にも姿を増やした!
その数は十を越えている!
木場は新たに聖魔剣を創造して構える。
ただの幻影の場合、今の木場なら気配を追って剣を振るえるが――――
『っ!』
木場が厳しい表情をしながら、剣先を鈍らせていた。
まさか、あの幻影は本物と同じ気配を持っているのか!?
数もある以上、七剣でも対応は難しい!
マズい!
複数のフールカスが縦横無尽に高速で動き回り、木場に攻撃を加えていく。
木場は聖魔剣と七剣で防いでいくが、四方八方から飛んでくる攻撃に僅ながらもダメージを受けていく!
『くっ! 刃の雨!』
木場のその声と同時に七剣が細分化。
上空から雨のように木場の周囲に降り注いだ!
あれはジークフリートとの戦闘で使ってた技だ!
あの時はかなりのダメージを与えていたみたいだが―――――
『よもや、あのような技があったとは。一瞬でも判断が遅れていれば、やられていただろう』
フールカスは木場からかなり離れた場所でランスを構えていた。
どうやらうまく避けたようだ。
幻影を戻し再び一騎になるフールカス。
木場は軽く息を吐くと不敵に笑みを浮かべた。
『今のを避けられるとはね・・・・・。流石はサイラオーグ・バアルの騎士。・・・・・強い。簡単には勝たせてはくれないか』
頬を流れる血を拭うと木場はフールカスに聖魔剣を向けた。
『この勝負、いずれ僕の剣はあなたに届く。このままでもね。けど、そのためにはかなりの体力を消耗するでしょう』
『なるほど。確かに貴殿は私とアルトブラウを上回るだろう。今までの手合わせでそれが良く分かった。だが、私とてタダではやられん。我が主のために貴殿の手足を一本でも斬り落とし、体力を奪う!』
『その覚悟があるからこそ、あなたが怖い。覚悟を持った相手ほど怖いものはありませんから。――――だから、僕は聖魔剣とは別の可能性を見せましょう』
――――っ!
あれを出すのか。
いや、確かにこの状況を打開するにはあれがもってこいか。
木場の言う通り、相手のフールカスはかなりの覚悟を持って戦っている。
このままいけば木場はダメージを受けてしまうだろう。
木場は聖魔剣を消滅させて、手元に一振りの聖剣を創る。
そして――――
『―――
その瞬間、木場が聖なるオーラに包まれていく。
地面から聖剣が生え、同時にドラゴンの兜を持つ甲冑騎士が創り出された。
現れた甲冑騎士達は地面に生えた聖剣を手に取り、木場を囲む。
甲冑騎士に囲まれる木場はまるで騎士団を仕切る団長のようだ。
それを見てフールカスは驚愕に包まれていた。
『・・・・バ、バカな!? 禁手化だと!? 貴殿の禁手化は双覇の聖魔剣のはず! 何故違う
そう、木場の禁手は双覇の聖魔剣。
ただし、それは魔剣創造の禁手だ。
あいつには後天的に得たもう一つの能力がある。
『ま、まさか、聖剣創造の禁手化か・・・・!』
フールカスの漏らした言葉に木場は静かに頷いた。
『
そう、これが木場の新しい可能性の一つだ。
木場の聖剣創造はコカビエル襲来の際に得たもの。
同胞の魂から聖剣使いの因子を譲り受け、聖剣を扱い、生み出す神器の能力も得たのさ。
それで、あの禁手だけど、ヒントは京都での戦いにあった。
英雄派のジャンヌ。
あいつは聖剣創造の持ち主で、亜種の禁手を使っていた。
それを見て木場は思い付いたんだ。
相談を受けた俺は木場の禁手発現に協力したもんだ。
聖魔剣ではなく、聖剣にした状態の木場に天武で相手したもんな。
・・・・・・何度か殺しかけてしまいそうになって、かなり焦ったけど。
うん、アーシアがいてくれて本当に良かった!
まぁ、その結果無事に至れたわけだし、良しとしよう!
木場の新能力の特徴は使い手と同じ速度と技量を龍騎士団に付与できること。
七剣と違って木場自身が持つ剣士としてのテクニックを発揮できるんだ。
まだ、完全に再現できているわけではないらしいが、伸びしろは十分にあるとのこと。
ただし、この状態では聖魔剣は創れないという。
『これに至るために自前の聖剣のみで本気のイッセー君と戦ったけど、何度も殺されかけたよ。そのおかげで二度目の禁手に至れたけど』
おまえがそうしろって言ったんだろうが!
でも、もう少し手加減すれば良かったと思ってます!
ゴメンね!
『そのお詫びの代わりにもう一つの可能性を実現させるための修行に付き合ってくれればいいかな』
「なんで俺の心の声を聞いてんだぁぁぁああ! エスパーか、おまえは!」
『酷いよイッセー君。僕は騎士だよ』
「つーか、こっちの声聞こえてるの!?」
『イヤホンマイクをしてるからね』
あ、そういやそうか。
いや、それじゃあ、心の声はどうやって読んだんだよ!?
まぁ、修行には付き合うよ。
そんなやり取りをしている中、別の映像風景では実況席の先生が面白そうな顔で顎に手をやっていた。
『本来、聖剣創造の禁手は聖剣を携えた甲冑騎士を複数創り出す
嬉々としてそう実況する先生!
やめてくださいよ、気持ち悪い!
木場が騎士団を従えてフールカスの前に立つ。
聖魔剣ほどの攻撃力は無いが、騎士団の数は二十近くいる。
それの連撃が重なれば――――
『フールカス殿! いざ参ります!』
木場が騎士団と共にその場を駆け出し、フールカスに迫る!
『まだここで終わる訳にはいかん!』
対するフールカスも馬と共に前に飛び出した!
同時に複数の幻影を作り出す!
木場の騎士団とフールカスの幻影がぶつかる!
ギィィィィィンッ!!!!
鈍い金属音が響き渡り、お互いが生み出した幻影と騎士団は消滅――――。
『・・・・・フ、フフフフ、見事だ』
フールカスの甲冑が片口から腹部にかけて砕けて、傷口からは聖剣のダメージによる煙をあげていた。
制したのは木場だ。
フールカスがリタイヤの光に包まれて消えていく。
と、同時に審判が告げる。
『サイラオーグ・バアル選手の騎士、一名リタイヤです!』