原作とはそこそこに流れが変わると思います!
1話 ヒーローショーと凄まじい母!
「ずむずむいやーん!」
「「「「ずむずむいやーん!」」」」
ステージに立つ俺の掛け声に客席の子供達も最高の笑顔で反応した。
学園祭を目前にして、俺は冥界の旧首都ルシファードにある大型コンサート会場のステージでヒーローショーを繰り広げていた。
もちろん、『乳龍帝おっぱいドラゴン』のヒーローショーだ。
今の掛け声は『おっぱいドラゴンの歌』なるもの歌詞の一部で、なぜか流行っている。
ちなみにこの歌だが・・・・・・
作詞:アザ☆ゼル
作曲:サーゼクス・ルシファー
ダンス振り付け:セラフォルー・レヴィアたん
となっている。
始めて知った時の感想は「あなた達、なにやってんの!?」だった。
こっちの世界の魔王様は自由で良いですね!
やりたい放題だぜ!
俺の中にある魔王像は崩壊してます!
今回のヒーローショーだが、普通は代役の人が専用のコスチュームを着てショーを執り行っている。
それなのに、俺自らが出ているのはサーゼクスさんからのオファーがあったからだ。
禍の団のテロ行為で物騒な世の中だ。
俺の姿を見せることで、子供達が元気になってくれれば、とのことだった。
サーゼクスさんも「都合が合わなければ断ってくれてかまわない」と言ってくれたけど、特に予定もなかったし、子供達が元気になれるならと思って即OKをだした。
ついでに言うなら神器の調整も終わって、俺の禁手も使えるようになってたしね。
「フハハハハ!!! 来たなおっぱいドラゴン!! 我を倒せるか!」
「舐めるなよ! いくぜ! 禁手第二階層、天武ッ!!」
ショーも大詰めになり、ラストは敵の親玉との決戦。
ここで格闘特化形態、天武になると会場の盛り上がりが一気に上がる。
「がんばれ! おっぱいドラゴン!!!」
なんて声援も飛んできて俺も結構嬉しかったりする。
禍々しいデザインの甲冑に身を包んだ役者さんと大立回りを演じて、そしてラストは定番。
「くらえ! ドラゴンキック!!!」
必殺技の飛び蹴りを親玉にくらわしてステージの外に吹き飛ばす。
もちろん演技だからね?
本気でやれば会場吹き飛ぶから。
で、最後は背後に爆発の演出がされ、俺は中央で決めポーズ!!
中々に恥ずかしい!
けど、子供達が喜ぶ姿を見てるとそれも気にならなくなってくる。
それにしても爆発の演出は完全に俺が知ってるそれなんだよね・・・・・・。
舞台裏の装置とかも本格的だし。
人間界の特撮技術を研究したんだろうなぁ。
ショーが終わると、今回出演した全員が舞台に上がる。
スイッチ姫のリアスや悪役のダークネスナイト・ファングの木場も俺の横に並ぶ。
スイッチ姫・・・・・・元ネタはアリスなんだが・・・・・・。
そのキャラクターが作られた経緯を知ったとたん、リアスに深々と謝罪してたっけな。
スイッチ姫用ドレスを着たリアスが手を振ると子供達と一緒にリアスファンの男性陣が「うおおおおおっ!」と歓声をあげる。
木場の方にはお母さん方をはじめ、多くの女性ファンが「キャアアアアアッ!! 木場きゅううううんっ!!」と叫んでいた。
ちくしょうめ!
羨ましいぜ、木場のやろう!
今度から修行のレベルを上げてやろうか!?
ま、俺の方にも声援は来るわけで、
「「「おっぱいドラゴーーーーン!!!」」」
うん、チビッ子の声援はやっぱり嬉しいぜ!!!
▽
「ふぅー」
ヒーローショーを終えた俺は舞台裏で一息ついていた。
これが終わったら次は人間界で学園祭の準備だもんなぁ。
男手が足りないから、結構大変なんだよね。
「お疲れさまです。お飲み物をお持ちしました」
「ありがとうございます。喉乾いてたんで助かります」
スタッフの人がお茶を持ってきてくれたので、お礼を言って受けとる。
ペットボトルのキャップを開けて、グイッと飲み干す。
ぷはーーー!
冷えてて美味い!
『では、おっぱいドラゴンのクイズコーナーです』
「「「「うおおおおおおっ!! ヘルキャットちゃぁぁぁぁぁん!!!」」」」
舞台ではクイズコーナーの司会を担当する小猫ちゃんに、大きなお友達の声援が向けられているようだ。
小猫ちゃんはロリ好きの人達に人気なんだよね。
まぁ、気持ちは分かる!
猫耳の小猫ちゃんだぜ?
萌える!
ってか、萌えないやつは男じゃない!
しかも、小猫ちゃんが微笑むとその可愛さは半端じゃない!
保護欲が掻き立てられるんだよ!
ま、何にしても『乳龍帝おっぱいドラゴン』は大盛況、冥界を盛り上げたいと言っていたサーゼクスさんとアザゼル先生の仕掛けは見事に大当たりってわけだ。
冥界メディアでは旧魔王派、ロキ襲来、英雄派との京都での事件もニュースで報じていて、参加していたメンバーのことを大々的に報道したようだ。
この前見た冥界の新聞やテレビでも『おっぱいドラゴン! またもお手柄!』みたいな感じだった。
冥界のチビッ子の間では特撮の中での俺と実際の俺が混同しているんだろうなぁ。
特撮の中での設定とかもあって、現実と違う部分もあるんだけどね。
俺がおっぱいをつついてパワーアップするとか。
実際におっぱいをつついてパワーアップしてみたい気持ちはあるけどね!
それにしても、人気があるのは嬉しいが・・・・・・複雑だ!
戦が珍しくなった悪魔業界で、なんで俺達がこうも次々と事件に遭遇するんだよ!
それだけは納得いきません!
誰か運命の操作でもしてるんじゃないのか!?
はぁ・・・・・。
文句を言っても仕方がないか・・・・・。
俺は子供達のヒーローとして頑張ろう。
▽
トイレに行き、控え室に戻ろうとしたときだった。
「やだぁぁぁっ!」
通路の奥から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
なんだ?
気になった俺は声がした方へと歩を進める。
見ると子供が大声で泣き叫んでいて、その子のお母さんと思われる人とスタッフの人が話していた。
「すいません。握手会とサイン会の整理券の配布は既に終わっていまして・・・・・」
スタッフの人が謝りながらそう告げる。
あー、なるほどね。
どうやら、あの親子は握手サイン会の整理券配布に間に合わなかったようだ。
ショーが始まる前の配布だったんけど・・・・・。
「そうなんですか・・・・・。もう終わっちゃったんだって」
お母さんがそう告げると、子供はいっそう目に涙を溜めて泣き叫んだ。
「やだぁぁぁっ!! おっぱいドラゴンに会いたいよ!」
ふと子供の手元を見ると鎧姿の俺を模した人形が握られていた。
・・・・・・あぁ、ダメだ。
俺は物陰で鎧を纏い、親子の前へと出ていく。
マスクだけ収納した状態だ。
「どうかしたんですか?」
俺の声に親子とスタッフが振り返った。
「おっぱいドラゴンだ!」
子供は表情を一転させて笑みを浮かべた。
スタッフが俺に事情を説明してくれる。
「あ、兵藤さん。こちらのお母さんとお子さんが整理券の配布に間に合わなかったようでして・・・・・」
まぁ、そこで聞いてたから事情は理解してたんだけどね。
一応の確認を取った後、俺は子供の前に片膝をついて訊いた。
「君の名前は?」
「・・・・・リレンクス」
「リレンクスか。今日は俺に会いに来てくれてありがとな。すいません、何か書くものありますか?」
尋ねるとスタッフがマジックペンを渡してくれた。
「この帽子にサインしても良いかな?」
リレンクスの被っている俺のデザインが入った帽子。
それを指差すとリレンクスは何度も頷いた。
俺は帽子を受け取り、サインを書いてリレンクスの頭に被せた。
輝くような笑顔でリレンクスは帽子を何度も脱いでは被っていた。
喜んでくれたみたいだ。
俺はリレンクスの頭に手を置いて言う。
「リレンクス、男の子が泣いちゃ駄目だぞ。転んでも何度も立ち上がって女の子を守れるぐらい強くならないとさ」
「・・・・・僕にもできる?」
「もちろん。俺だって最初は弱かったんだぜ? それでも、守りたいものがあったから努力して強くなったんだ。リレンクスも努力すれば強くなれる。そして、本当に守りたいものが出来た時は誰にも負けないくらい強くなれるさ」
俺はリレンクスの頭をポンポンとした後、立ち上がり、スタッフの人と共にその場を後にした。
「兵藤さん。なるべくこういうことは控えてください。すべての方に応対するのは無理なのですから・・・・・特例を作ってしまうのは・・・・・」
スタッフが困惑した表情をしながら苦言を口にした。
「すいません。気をつけます」
俺は本当に申し訳ない気持ちでスタッフに謝った。
スタッフもそれを分かってくれたのか、それ以降はなにも言わずに持ち場に帰っていった。
全ての人に夢を与えることは叶わない。
スタッフもそれを知ってて線引きしている。
そこに俺は特例を作ってしまった。
俺がしたことは全スタッフの思いを裏切る行為だ。
それでも、泣いている人を見るとね・・・・・・。
「格好よかったわよ、流石はイッセーね」
リアスの声。
振り向くとリアスが手を振りながらこちらへ向かってきていた。
リアスは俺の頬を撫でながら言う。
「少し軽率だったけど、それでもあの子の夢をあなたは守ったわ」
「部長・・・・」
俺がそう言うとリアスは頬を可愛くプクッと膨らませる。
「部長?」
「あー、いや、今はプライベートじゃないし・・・・・」
一応、今はお仕事だからね。
あれ?
ここは「リアス様」って呼んだ方が良いのかな?
うーん、と俺が悩んでいると通路の奥から見知った女性が姿を現した。
「あら? ごきげんよう、リアス、イッセーさん。ここで何をしているのかしら?」
亜麻髪のリアスそっくりな女性!
「お、お母様! ミリキャスまで! いらっしゃっていたの?」
そう、リアスのお母さん――――ヴェネラナさんだった!
▽
ヴェネラナさんとミリキャスに出会った俺とリアスは立ち話もなんだからということで、俺の控え室に戻っていた。
部屋に入るなりリアスが予め用意されていた紙コップにお茶を注いで、それを手渡してくれる。
「はい、イッセー」
「ありがとうございます、リアス様」
色々考えたけど、とりあえず、ここは「リアス様」で良いよね?
以前、リアスの家に行ったときはそう呼んでたし。
俺がそう答えるとヴェネラナさんは口に手を当てて微笑む。
「イッセーさん。私の前ではいつものように「リアス」で良いですのよ?」
「えっ?」
「この間、リアスがイッセーさんが名前で呼んでくれたと嬉しそうに話していましたから」
そうなの!?
隣に座ったリアスを見ると、それはもう顔が真っ赤になっていた。
俺が名前で呼んだ時って、東京駅のホームまでリアスが見送りに来たときだったよね?
ヴェネラナさんにそのことを言ったのはその後・・・・・。
あー、グレモリー領で暴動が起こった時だな?
報告するくらい嬉しかったんだ・・・・・・。
「イッセーさんの方から歩み寄ってくれるのは母としても嬉しく思います。やはり、リアスには年上の方が良いのかしらね?」
「アハハハ・・・・・」
確かにあの時は俺の方が年上だから甘えても良いよ的なことを言ったな。
王として振る舞おうとするリアスだって、年頃の女の子なんだからと、そう言ったんだけどね。
・・・・・・・・ん?
ヴェネラナさん・・・・・・なんで俺が年上なのを知ってるんだ?
この人からは高校二年生でリアスの後輩という風に認識されていたはずだが・・・・・・・。
その疑問に俺が固まるとヴェネラナさんは何かを理解したようで、
「あ、イッセーさんの事情は把握していますわ。サーゼクスやグレイフィア、それからイッセーさんのお母様からも話は伺っています」
「ええええええええてえっ!?」
ヴェネラナさんの言葉に驚愕する俺!
え、じゃあ、なに・・・・・・。
この人も異世界のこと知ってるのぉぉおおおお!?
マジですか!?
サーゼクスさんやグレイフィアさんはともかく、母さんからも訊いたの!?
「フフフ、先日、グレイフィアとイッセーさんのお母様の三人で母親談義に花を咲かせましたの。とても楽しかったですわ」
そんなことをしてたの!?
いつの間に・・・・・・。
ってか、母さん、貴族二人を相手に物怖じしないな!
いや、それは今更か・・・・・・。
何て言っても母さんだし。
「もちろん秘匿事項なのは理解しているので、そのあたりは安心してくださいね?」
「は、はあ、ありがとうございます・・・・・」
ま、まぁ、ヴェネラナさん達なら・・・・・。
何だかんだで付き合いも多いし、事情を知ってもらえているのは俺としても楽だ。
と、ここでヴェネラナさんはリアスに視線を移す。
「まぁ、イッセーさんは良いとして・・・・・・問題はリアスかしら?」
「っ!」
その一言にリアスが体を強ばらせる。
その緊張が隣にいる俺にまで伝わってくるぜ。
「リアス。話は聞いています。美羽さんに先を越されたと」
「ブフフゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」
俺は飲んでいたお茶を勢い良く噴き出してしまった!
この人、今何て言った!?
とんでもないこと言わなかったか!?
「ヴェネラナさん!? それをどこで!?」
「ええ、アザゼル総督から。主人とサーゼクスとアザゼル総督の四人でお酒を飲みながら雑談をしている時に」
あの人かぁぁぁあああああ!!!
なんつーことを言ってくれるんだ!
酒の席でふざけて言ったに違いない!
まさかと思うがあちこちで言いふらしてるんじゃないだろうな!?
とりあえず後で殴りに行こう!
これは殴っても許されるはずだ!
「まぁ、義理の兄妹ですし・・・・・どちらかと言えば恋人のような雰囲気だったので私は良いと思いますよ?」
フォロー!?
それはフォローなんですか、ヴェネラナさん!?
つーか、桐生みたいなこと言われたよ!
ヴェネラナさんは一度咳払いするとリアスに続ける。
「リアス。あなたがいつまでももたもたしているから出遅れたのですよ? 唯一の救いはイッセーさんがアレを望むことですが・・・・・。彼のような魅力的な殿方に他の女性が心を奪われるのは世の常。今のままではあなたは最後になることも考えられます。そこは理解していますね?」
おおっ、魅力的って言われた!
なんか嬉しい!
リアスは消え入りそうな声で返す。
「は、はい」
「まさかと思いますが、二人で出掛けたことは?」
「あ、ありません・・・・・・」
二人で買い物くらいなら行ったことあるけど・・・・・。
今の話の流れからしてそれとは違うことなんだろうなぁ。
「自分から誘ったことはないのですか?」
「よ、予定が合わなくて・・・・・」
うん、学園で会談が行われて以降はリアスも色々忙しかったしね。
ま、それは俺もだけど。
それを聞いたヴェネラナさんは額に手を当てて盛大にため息をつく。
「グレモリー家次期当主ともあろう者がなんと情けない・・・・・・。強引なところは私に似たと思ったのに、肝心なところは全然ダメじゃない・・・・・・・。イッセーさん、申し訳ないのだけれど、リアスと二人でお話がしたいの。ミリキャスを連れて席を外してもらえないかしら?」
こ、恐い・・・・・!
すごく優しい微笑みを向けてくれているが、プレッシャーが半端じゃないよ!
「わ、わかりました! ミリキャス、少し遊びに行こうか!」
「本当ですか、イッセー兄さま!」
「お、おう! だから、早く行こう!」
「はい!」
俺は直ぐ様に立ち上がりミリキャスと手を繋いで部屋からでる。
俺達を見送るヴェネラナさんは笑顔で手を振ってくれているが、リアスは涙目で「行かないで!」と首を横に振る!
でも、ゴメン!
流石に無理!
ヴェネラナさん、恐すぎる!
一時間後、部屋に戻ると涙目でグッタリしたリアスの姿があった。