初日の夜。
俺達オカ研メンバーは夜、ホテルを抜け出て先生先導のもと、街の一角にある料亭に来ていた。
「料亭『大楽』・・・・・・。ここにレヴィアタン様がいらっしゃるのか」
そう、俺達はセラフォルーさんに呼び出されたんだよね。
話の内容は何となく予想はつく。
中に通され、和の雰囲気が漂う通路を抜けると個室が現れる。
戸を開けると着物姿のセラフォルーさんが座っていた。
「ハーロー! 赤龍帝ちゃんもリアスちゃんの眷属の皆も、この間以来ね☆」
いつもながらにテンション高いなぁ。
それにしても、着物姿似合ってるな。
長い髪も結っていて、すごく可愛い。
「セラフォルーさん、着物姿似合ってますね」
「ありがとう、赤龍帝ちゃん☆」
俺が誉めるとブイサインを送ってくる。
「お、兵藤たちか」
セラフォルーさんのすぐ隣では匙とシトリー眷属の二年生女子が座っていた。
どうやら先についていたようだ。
「よう、匙。そっちはどうよ? 午後はどっかに行ったのか?」
「いいや、生徒会の仕事があってな。午後は先生方の手伝いで終わったよ」
ため息混じりに言う匙。
生徒会も大変だな。
「ここのお料理、とても美味しいの。特に鳥料理は絶品なのよ☆ 赤龍帝ちゃん達もたくさん食べてね♪」
俺達が席に着くやいなや、料理をどんどん追加してくれるんだけど・・・・・・。
俺達、さっきホテルで夕食を取ったばかりなんだよね。
あ、でも美味いなこれ。
口に入れると止められない止まらない。
ついつい食が進んでしまう。
皆も俺と同じ感じだ。
この焼き鳥美味い。
串から外してあるので、とても食べやすい。
「美羽、これ食ってみろよ。美味いぞ」
「本当? じゃあ、あーん」
「仕方がないなぁ」
美羽は甘えん坊だ。
美羽が可愛らしく口を開けてきてので箸で摘まんで美羽の口に運ぶ。
「ほら、あーん」
「あーん」
パクっ
美羽はしっかり味わうように噛み、ゴクンと飲み込んだ。
「エヘヘ、美味しいね」
微笑む美羽。
あー、癒される。
京都に来て早々に運がないと思ってたけど、これを見ただけで疲れが吹き飛ぶな!
「なんというか・・・・・・兄妹というより、恋人同士に見えてきたんだけど・・・・・」
「うん、これはもうバカップルの域に入ってるね」
「シスコンもここまで来るとね」
おっと、シトリー女性陣から苦笑が聞こえてきたぞ。
なんか美羽の顔が赤くなってるし。
恋人って言われて照れてるのかね?
まぁ、正直に言うと、美羽は可愛いし優しいから恋人にしたいと思ったことは何度もあるかな。
料理も堪能してるし、美羽にも癒された。
そろそろ本題に入るとしますか。
「それでセラフォルーさんがここにいるのは?」
俺の問いにセラフォルーさんは横チェキで答える。
「京都の妖怪さん達と協力体制を得るために来ました☆」
そういえば、外交担当だっけ?
ここにいるのはお仕事しにきたのか。
しっかり京都も堪能してるみたいだけどね。
俺が納得していると、セラフォルーさんは箸を置いて、表情を少々曇らせる。
「だけどね・・・・・どうにも大変なことが起こっているみたいなのよ」
それを聞いて俺の脳裏にあの狐耳の少女が浮かび上がる。
もしかして、あれも関係しているのか?
先生が言う。
「イッセーから報告を受けてな、少し調べたんだ。そしたら、この地の妖怪を束ねていた九尾の御大将が先日から行方不明だということが分かってな」
九尾・・・・・・。
あの有名な九尾の狐か。
――――母上を返せ!
「まさか――――」
俺の考えが分かったのかセラフォルーさんと先生が頷く。
「おそらく、そういうことでしょうね。あなた達を襲ったのは九尾の娘さん」
「そして、ここのドンである妖怪が攫われたってことは、関与しているのは十中八九『禍の団』だろうさ」
二人の言葉に皆は息を飲んでいた。
ここに来てまでテロリストが絡んでくるのかよ。
そんでもって、あの狐耳の少女は俺達をさらった連中として襲撃したのか。
あの時は向こうも問答無用の構えだったから、追い返したけど・・・・・・・。
もう少し話を聞いてやれれば良かったかな・・・・・・。
あんなに小さい子供だ。
母親が誘拐されれば必死にもなる。
「お、おまえら、また厄介なことに首突っ込んでるのか?」
「悪いな、匙」
どうも俺の周囲ではトラブルが多発するようで。
いや、俺のせいじゃないからね!?
そこはしっかり認識してもらいたい!
「ったく、こちとら修学旅行で学生の面倒見るだけで精一杯だってのによ。やってくれるぜ」
先生が忌々しそうに吐き捨てる。
確か舞妓さんと遊ぶとか言ってませんでしたか?
観光する気満々でしたよね?
今キレてるのも遊べなくなるからなんじゃ・・・・・・・。
セラフォルーさんが先生の杯に酒をつぎながら言う。
「どちらにしても、まだ公にはできないわ。なんとか私達と協力してくださる妖怪の方々と連携して事の収拾を図るつもりなのよ」
「俺も独自に動くつもりだ。部下にも言って京都内を探らせている。何か手懸かりが掴めれば情報を回そう」
はぁ・・・・・・。
旅行初日から大変だ。
俺としては貴重な高校生活の修学旅行だから、無事に観光を楽しみたいんだけど・・・・・・。
そうも言ってられないか。
「それじゃあ、俺はティアにお願いしてみますよ。こっちでも色々探ってみます」
「すまんな。だが、おまえ達は修学旅行を楽しめ。この時間ってのは今しか体験できないことだ。俺達、大人が出来るだけ何とかするから、その時が来るまではこの旅行を満喫しろ」
▽
修学旅行二日目。
「よっしゃー! 着いたぜ清水寺!」
松田が大きな門の前で手を広げる。
そう、俺達が訪れたのは清水寺だ。
いざ、仁王門を潜り、寺の中へ!
「見ろ、アーシア! 異教徒の文化の粋を集めた寺だ!」
「はい! 歴史を感じます!」
「異教徒バンザイね!」
教会トリオは興奮しながら、かなり失礼なことを言っている!
特にゼノヴィアとイリナ!
異教徒とかは言わない方が良いって!
ここにも神様仏様がいるんだからさ!
「おおー、思ったより高いな」
俺は清水の舞台から下を眺めてみた。
写真とかテレビでは見たことあったけど、実際に見てみると迫力が違う。
確か、釘を一切使ってないんだっけ?
よくもクレーンとかがない時代に作れたよなぁ。
昔の人はすごいや。
「ここから落ちても助かるケースも多いらしいわよ」
桐生が解説をくれる。
落ちる人いるんだ・・・・・・。
この高さから落ちて人間でも助かるってんだから謎だ。
境内には安全と合格の祈願や恋愛成就を願う小さなお社があった。
中には『天然パーマが治りますように!』とか『魔法少女になりたいにょ』みたいな願い事まである。
二つ目のやつって・・・・・・・あの人だよね?
あの人も来たことがあるのかよ・・・・・・。
神様もビビって逃げるんじゃないかな・・・・・・。
そんな感じに他人の願い事も少し見ながら、賽銭箱に小銭を入れて願っておく。
エッチなことがたくさん起こりますように! 平和で過ごせますように! もっとおっぱいを触れますように!
少々、卑猥な願い事をしておく。
まぁ、平和で過ごせるようにってのも本心だけどね。
ところで、悪魔がお願い事しても叶うのだろうか?
「お兄ちゃん、これやってみようよ」
と美羽が指差したのは恋愛のおみくじ。
義理とはいえ、兄妹で恋愛のくじを引くってのはおかしな感じだけど・・・・・・。
まぁ、いっか。
俺と美羽はくじを引いてみる。
「お、大吉じゃん。将来安泰。・・・・・・・なんか、子に恵まれるとか書いてるけど・・・・・・。まぁ、お似合いだってさ」
「本当? やったね! ボク、本当に嬉しいよ!」
俺が内容を伝えると美羽は頬を赤く染めて大喜びしていた。
「それに・・・・・
なんか、最高潮に顔が真っ赤になってきてる!?
俺の制服の裾を摘まんでモジモジし始めたんだけど!?
喜んでもらえたのは嬉しいけど、子供に恵まれるって・・・・・・。
ってことは、俺と美羽でそういうことをするわけで・・・・・。
ついつい想像してしまうが、俺は首をブンブンと横に振った。
いかんいかん、これはあくまでくじだ。
落ち着け、俺。
こんなところで鼻血を吹き出すわけにはいかんぞ。
つーか、恋愛のくじって子宝まで書いているもんなの?
始めて見たんだけど。
いや、恋愛のくじ引くのも初めてだけどさ。
まぁ、俺達がお似合いってことだけ受け止めておくか。
正直に嬉しいし。
「よし、イッセー。私ともしてみよう」
「次は私です!」
「じゃあ、アーシアさんの次は私やるー」
「え? 皆、やるの? じゃ、じゃあ私も!」
というわけでゼノヴィア、アーシア、イリナ、レイナと順にやってみた。
結果は――――――
「ぜ、全員、大吉・・・・・・っ!?」
俺は絶句した。
何この確率!?
おかしくね!?
もしかして、このくじの中は全部大吉か!?
いや、それはないか。
俺と美羽の前にやっていた人達は中吉とか凶の人もいた。
それに今引いた人も「あちゃー! 大凶じゃん!」とか言って嘆いていたし。
そんな中でこの結果ってことはマジなのか・・・・・・!?
桐生がポンッと俺の肩を叩いた。
「ま、頑張んなさいよ」
頑張るって何を!?
「・・・・・後で分かっているな元浜?」
「おう。ホテルに帰ったら『イッセー撲滅委員会』の連中と共にイッセーを袋叩きにするぞ」
隅で男二人がとてつもない殺気を放ってる!
『イッセー撲滅委員会』って何だ!?
名前からして不吉な予感しかしねぇ!
俺達はその後、寺を一回りし、記念品を手軽く買うとバス停へと向かった。
「次は銀閣寺ね。もう十時過ぎだし、少し急ぎましょう」
▽
「銀じゃない!?」
銀閣寺に到着し、寺を見たゼノヴィアが開口一番に叫んだのがそれだった。
銀閣寺は銀じゃないってのワリと知られてることだと思うんだけど、この様子じゃ知らなかったんだな。
ポカーンと開いた口が塞がらないくらいに驚いていた。
「ゼノヴィアさんはお家でも『銀閣寺が銀で、金閣寺が金。きっと輝いているのだろうな』と言っていたものですから」
アーシアがゼノヴィアの肩を抱いて言った。
ドンマイだ、ゼノヴィア。
「建設に携わった足利義尚が死んだとか、幕府の財政難とかで銀箔を貼るのは中止になったんだって。まぁ、金閣寺は金だから、元気だしなさいよ」
桐生がそう説明しながら、ゼノヴィアを励ましていた。
ゼノヴィアも「そうか、金に期待しよう」と少し立ち直った。
▽
「金だっ! 今度こそは本当に金だ!」
金閣寺に到着し、ゼノヴィアが開口一番に叫んだのがそれだった。
銀閣寺の時とは違ってかなりテンション上がってるな。
喜んでいるのなら何よりだ。
「金だぞぉぉっ!」
両手を上げてゼノヴィアが瞳を輝かせていた。
確かに金閣寺は金ピカだ!
実際に見ると思っていたよりも輝いていて、圧倒されそうだ!
辺りには他の生徒達も来ていて、木場の姿も見えた。
「よう、木場」
「あ、イッセー君。やっぱり来ていたんだね」
「まぁな。金閣寺は名所中の名所だしな」
なんて会話をしながら俺達も写真を撮っていく。
撮った写真は部長達にも送信っと。
しっかり楽しんでいることを報告しておこう。
「金だぞぉぉぉおおおおっ!!!」
ゼノヴィアが再度叫んでいた。
うん、そろそろ落ち着こうか。
人の目が集まってきてるから。
▽
銀閣寺、金閣寺と連続で回り、お土産を買い、そして今は休憩所で一休みしている。
和服のお姉さんが淹れてくれた抹茶と和菓子を満喫しつつ、撮った写真を見返していく。
うん、バッチリバッチリ。
「・・・・・金ピカだった」
ゼノヴィアは未だに金閣寺を見た余韻に浸っていた。
よほど感動したらしいな。
にしても今日はゼノヴィアの見たところがない側面を見れた気がする。
今日、一番楽しんでたのはゼノヴィアじゃないかな?
まぁ、俺も楽しんでるけどね。
「美羽、口にきな粉がついてるぞ」
「あ、ホントだ」
なんて会話をしていると―――――ふいにケータイが鳴った。
かけてきたのは朱乃さんだ。
「もしもし。どうしたんですか、朱乃さん?」
『もしもし。イッセー君? 大したことではないのだけれど・・・・・・。小猫ちゃんが気になることを言っていたの』
「気になることですか?」
『さっき、写メを送ってくれたでしょう? 金閣寺が写ったやつ。その写真にね、写っているらしいのよ』
「写っている?」
『ええ、狐の妖怪が何体か写っているそうなの。何か起こっているの? まぁ、狐の妖怪自体は京都では珍しくないのだけれど・・・・・』
朱乃さんの少し心配げな声。
狐の妖怪、か。
さっきから感じてる視線はそれだったわけね。
敵意も感じないから放置しておいたんだけど・・・・・・。
朱乃さんや小猫ちゃんが言うなら少し警戒を強めておくか。
「いえ、大丈夫ですよ。今のところ何か起きてる訳でもありませんし」
『本当に? イッセー君がそう言うのであれば大丈夫だとは思うのだけれど・・・・・』
「まぁ、何かあったらこっちから連絡しますよ」
そこで俺は電話を切った。
先生には部長達を心配させないように、九尾のことは伏せておくよう言われてるしな。
今はこれで良いだろう。
一応、もう一度写真を確認してみたけど、特に変わったところはない。
猫又である小猫ちゃんだからこそ気づいたのかな?
ここはアーシア達にも伝えておくのが良いんだけど・・・・・・。
少し遅かったな。
お茶屋の方では松田、元浜、桐生が眠りこけている。
他の一般の観光客も同様。
起きているのは俺と美羽、アーシアにゼノヴィア、イリナとレイナだ。
ゼノヴィアが女性店員を怖い顔で睨み付けているのに気づいた。
まぁ、警戒するわな。
だって、明らかに人間ではないもんな。
頭部には獣耳で、腰には尻尾。
京都の妖怪か。
俺は立ち上がり、女性店員さんに尋ねてみる。
「俺達に何の用かな?」
すると―――――――
「ようやく見つけましたよ」
聞き覚えのある声に俺達はそちらを向く。
そこにいたのはロスヴァイセさんだった。
「ロスヴァイセさん? どうしてここに?」
「あなた達を迎えに行くようにとアザゼル先生から頼まれました」
「先生に? それにこの妖怪さん達は・・・・・」
「大丈夫です。彼らはあなた達に害をなすつもりはありません。私同様、あなた達を迎えに来たのです」
「というと?」
「つまりですね、誤解が解けました。九尾のご息女があなた達に謝りたいと言うのです」
なるほど・・・・。
そういうことか。
どうやら、先生たちが上手くやってくれたみたいだ。
納得していると、獣耳のお姉さんが前に出て深々と頭を下げてきた。
「私達は九尾の八坂に仕える狐の妖でございます。先日は申し訳ございませんでした。我らが姫君も謝罪したいと申されておりますので、どうか私達についてきてくださいませ」
「ついて来いって・・・・どこに?」
「我ら京の妖怪が住まう裏の都です。魔王様と堕天使の総督殿、それから龍王ティアマット殿も既にいらっしゃいます」
「あ、ティアもいるんですね」
俺がそう言うとロスヴァイセさんが答えた。
「はい。途中で合流することになりました。それに今回の話は彼女にも聞いてもらった方が良いと思います」
「それもそうですね。それじゃあ、案内お願いします」
「かしこまりました。それではこちらへ」
俺達は獣耳の案内を受けて、裏の都とやらに行くことになった。