ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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26話 またな!!

「・・・・・見事だ・・・・・・」

 

 

そう言って、ロスウォードは自身の胸を貫いているイグニスの刀身を撫でる。

 

 

そんなロスウォードに俺は尋ねる。

 

「なんで・・・・・避けなかったんだ・・・・・・?」

 

アザゼル先生達が発動した術式でこいつは確かに力を大きく削がれていた。

 

あの状態のロスウォードが相手なら、今の俺がそのまま戦っても勝てていただろう。

 

 

だけど、こいつは・・・・・・最後、避ける素振りすら見せなかった。

 

 

俺には自らイグニスの刃を受け入れたかのように見えた。

 

 

「赤龍帝・・・・・俺の望みは分かっているな・・・・・?」

 

「ああ・・・・・・」

 

 

こいつの望みは自分を終わらせること。

 

だけど、自身に施された呪いにも近い術式で自ら死ぬことも出来ない。

自分の意思に関係なく永遠に滅びを繰り返していく。

 

「貴様らが使ったのは俺の力を削ぐだけのものではない。俺にかけられた呪いを弱めることが出来るものだ」

 

「っ!」

 

それはつまり――――

 

「最後の最後で・・・・・俺は自分の意思で・・・・自分を終わらせることができた」

 

 

サァァァァァ

 

 

ロスウォードの体が砂がこぼれ落ちるように崩れていく。

 

 

同時に俺の方も鎧を維持できなくなり、解除された。

二分という短い時間だったとは言え、俺にロスウォードと互角の戦いをさせてくれた鎧も限界を迎えたわけだ。

 

 

「なぜ、貴様は・・・・・・泣いている・・・・・?」

 

「えっ?」

 

ロスウォードに言われて頬に触れると、涙が流れていた。

 

この涙の理由は分かってる。

 

俺は震える声で答えた。

 

「・・・・・悲しすぎるだろ・・・・・・っ。勝手に作り出されて、訳の分からない呪いをかけられて、唯一の望みが死ぬことで・・・・・・・。俺は・・・・・・」

 

「おかしな・・・・・男だ。一度は自身を殺した相手のために泣くとはな・・・・・・・」

 

ロスウォードの体は吹く風で崩壊していく。

すでに上半身しか残っていない。

 

「戦う前、貴様は俺を救うと言ったな」

 

「ああ」

 

皆を守るための力。

そして、ロスウォードを救う力と俺は言った。

 

呪いを解呪することは出来ない。

だから、俺に出来たのはロスウォードを終わらせることだけだった。

 

 

ロスウォードはフッと笑む。

 

「俺は貴様達に救われた・・・・・・。最後に忌まわしい呪いからも解放された。貴様達のおかげだ。―――――礼を言う」

 

 

っ!

 

 

このタイミングでそんな・・・・・・・反則だろうが・・・・・・・っ!

 

 

ロスウォードは涙を流す俺の額に指を当てる。

 

「俺はもう消える。その前に・・・・・・」

 

なんだ・・・・・・?

 

 

俺が訝しげに思っているとロスウォードの体は殆ど塵になっていて、俺の額に当てられた指も塵と化した。

 

残るは頭のみ。

 

そして、ロスウォードは最後に―――――

 

 

 

「去らばだ、赤龍帝」

 

 

 

それだけを言うとロスウォードの姿は完全に消えて無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

ロスウォードとの最後の戦いを終えた俺は皆の所へと戻った。

 

一度死んだせいなのか、俺の体は既に限界を迎えていた。

 

一歩一歩の足が重い・・・・・・。

普通に歩くだけで倒れそうになる。

 

すると、

 

「お兄ちゃん!!」

 

向こうの方から美羽達が走ってくるのが見えた。

 

あ、ギャスパーがこけた。

小猫ちゃんに背負われてるし・・・・・・。

 

「イッセー、大丈夫なの!?」

 

部長が俺の体を触りながら安否を確認してくる。

特に胸のあたりをメチャクチャ触ってきた。

 

ま、まぁ、胸にデカイ穴開けられたから、仕方がないと言えばそうなのかな・・・・・・。

 

つーか、くすぐったいよ・・・・・・。

 

俺は部長を宥めるように言う。

 

「落ち着いてくださいよ。俺は何とか大丈夫です」

 

「でも、胸に穴を・・・・・・」

 

「あー、まぁ、塞がってるんで。俺はこの通り生きてますよ」

 

皆も俺の胸を見たり触ったりしてくる。

完全に塞がっていることに驚きを隠せないでいるようだった。

 

 

「俺が生き返れたのはシリウスのお陰なんだ」

 

俺の言葉に真っ先に反応したのは美羽だ。

 

「お父さんが・・・・・・?」

 

「ああ。あいつはこうなることを見越して準備してたんだよ」

 

 

その時、俺の隣に黒い霧が現れる。

それは徐々に人の形を形成していく。

 

そして、それを見た美羽は目を見開いた。

 

「お父さん!?」

 

『久しぶりだな、ミュウ』

 

こうしてシリウスが出てこれたのはイグニスの力を借りたんだろうな。

 

俺と美羽がフェンリルに襲われた時もそうだったみたいだし。

 

『私はおまえの日々の暮らしを見てきた』

 

「えっ!?」

 

『ま、まぁ・・・・・おまえも年頃の娘だ。色々あるのは分かるが・・・・・・程々にな』

 

「~~~っ」

 

あ・・・・美羽の顔が過去にないほど真っ赤に・・・・・・。

 

まぁ、そうなるよね。

俺も同じだったよ・・・・・・。

 

シリウスはコホンっと咳払いする。

 

『とにかく、おまえが幸せならそれでいい』

 

「うん・・・・・。ボクは今、幸せだよ。お兄ちゃん・・・・・イッセーと皆といられて幸せだよ」

 

『そうか』

 

シリウスは息を吐く。

 

『私は・・・・・・魔王である私の娘として産まれたおまえには色々と危険がつきまとう。おまえを守るためにも最低限、自身を守れるだけの力をつけてやろう。そう考えて、おまえに厳しく接してきた。・・・・・だが、優しくしてやることは出来なかった。物心がつく前に母を病で亡くし、愛情が最も必要な時でさえ厳しくあたってしまったな。結局、私はおまえに対して父親らしいことをしてやることが出来なかった。・・・・・・すまなかった』

 

「そんなことない! ボクはお父さんの娘として産まれてきたこと後悔なんてしてないよ! お父さんが厳しくしてくれたからこそ、今のボクがあるんだよ!」

 

美羽の言葉にシリウスは目を丸くしていた。

 

 

シリウス・・・・・。

美羽は俺達が思っている以上に強いんだぜ?

俺も美羽と出会った時はこの強さに驚かされたよ。

 

 

シリウスはフッと笑った。

 

その時、シリウスの体が輝き始めた。

 

『そろそろ時間のようだ』

 

「もういくのか?」

 

俺が尋ねると、シリウスは頷いた。

 

『出来ればもう少し話をしていたいんだが、そこまでの時間はない』

 

シリウスは再び美羽の方に視線を移す。

 

『ミュウ。私はこれ以上おまえを見守ることは出来ない。たが、これからもおまえのことを想い続ける』

 

「お父さん・・・・っ」

 

美羽の瞳から涙がこぼれる。

シリウスはそんな美羽の頭を撫でて抱き締めた。

その手でしっかりと。

 

『兵藤一誠。これからも娘を頼む』

 

「任せろ。あんたの分まで俺が美羽を守り続けるよ」

 

シリウスは満足そうな表情になる。

そして、淡い光と共に消えていった。

 

 

空を見上げると、さっきまで空を覆われていた暗い雲がすっかり無くなっていた。

 

 

ありがとな、シリウス。

おまえのお陰で皆を守ることができたよ。

 

これから先は任せとけ。

 

 

 

「それじゃあ、帰ろうか・・・・・・・っと」

 

皆と向き合った瞬間、立ちくらみがした。

視界がグニャリと歪んで真っ直ぐ立つことが出来なくなる。

 

「悪い。限界みたいだ・・・・・」

 

俺はそう言うと、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ白な世界。

辺り一面何もない真っ白な世界に俺は立っていた。

 

 

目の前には一人の女性――――イグニスが微笑んでいた。

 

「お疲れさま。あなたのお陰であの子は救われたわ」

 

「まぁ、皆の力がなかったら危なかったけどな」

 

最終的には師匠やアザゼル先生、エルザ達の力が無ければやられてたかもしれない。

シリウスが俺もイグニスを繋いでいるのも限界に近かったしな。

 

「そうね。じゃあ、あの人達にもお礼を言っといてくれる?」

 

「了解だ。・・・・・にしても、寂しくなるな。シリウスがもういないってのは」

 

「ええ。二年も話し相手になってくれた人がいなくなるのはね・・・・・。でも、あの人も満足そうにしてたし、良しとするわ。今度からはあなたが私の話し相手になってね、イッセー♪」

 

「へっ? いや、いいけどさ・・・・・。つーか、俺ってまたここに来れるのか?」

 

今回は死んだ衝撃でイグニスと会えたみたいだし・・・・・。

もう一度、ここに来るとなればかなり時間かかるような気がするんだけど・・・・・。

 

イグニスは俺が考えていることを理解したようで、苦笑した。

 

「その心配はないわ。あなたは一度ここに来て、私と繋がった。ようするに経路(パス)ができたのよ。だから、会おうと思えばいつでも会えるし、私から話しかけることも出来るわ」

 

なるほど。

 

「あ、でも、私の本当の名前を教えるとかはないからね? 前にも言ったけど、それはあなたが相応しい力を得てからよ?」

 

「分かってるよ。それまではイグニスって呼ぶことにするさ」

 

「よろしい。あと、その日がくるまでは今まで通り使う度に腕が焼かれるから注意してね♪」

 

「マジですか・・・・・」

 

「マジよ♪」

 

うーん、ということはもっと修行しないといけないってことなのか・・・・・・。

 

イグニスを使いこなせるようになるって・・・・・・どれだけの修行が必要なんだ・・・・・・?

 

うん、考えるのは止めよう。

なんとかなるの精神でいくことにしよう・・・・・・。

 

あれ?

これって駄目な奴の考えなんじゃ・・・・・・。

 

 

腕組みしながら悩む俺を見て、イグニスは笑みを浮かべる。

 

「さて、そろそろ起きてあげなさい。皆も心配してるみたいよ?」

 

「皆・・・・・? あー、そっか」

 

言われて思い出したけど、俺って気絶したんだった。

 

そうだな。

そろそろ起きて皆を安心させてやるか。

 

「それじゃあ、俺は行くよ。寂しくなったらいつでも声をかけてくれ」

 

「ふふふ。案外直ぐに会うことになるかも知れないわよ? 寂しがり屋だからね」

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、俺はベッドの上に寝かされていた。

 

ここは・・・・・・城に用意されてた自室か。

 

窓からは夕焼けの光が入り込んでいて、今が夕方だということが分かった。

 

ってことは、俺は丸一日は寝てたってことか・・・・・。

 

まぁ、かなりの疲労だったしな。

つーか、一回死んだし・・・・・・。

 

 

と、ここで俺の上に僅かな重みがあるのに気づいた。

 

見れば、小猫ちゃんが猫耳を出して俺の上で丸まっていた。

横には美羽もいる。

 

何してんの、この娘達は・・・・・・。

 

 

ガチャ

 

 

 

部屋の扉が開き、アリスが入ってきた。

 

「目が覚めたのね」

 

「ついさっきな。丸一日気絶してたみたいだな、俺」

 

ハハハと苦笑しているとアリスがため息をつきながら首を横に振った。

 

「何言ってんのよ・・・・・。五日よ」

 

「は?」

 

アリスの言葉につい聞き返してしまった。

 

今、なんて言った?

 

「だーかーら、五日よ。あんたは五日も気絶してたのよ」

 

「・・・・・・・マジ?」

 

「マジよ」

 

 

い、五日も気絶してたのかよ・・・・・・。

どうりで体が重いわけだ。

 

じゃあ、ここに小猫ちゃんと美羽がいるのは―――――

 

「私達は交代であんたの看病をしてたのよ。今日はその二人が担当ってわけ。あんたが倒れた後、体を調べたら気の流れが無茶苦茶になってて、小猫さんが丸一日かけて気の流れを整えてくれたのよ。後でお礼を言っておきなさいよ?」

 

「丸一日も・・・・・・」

 

皆も消耗してたのに、俺の看病をしてくれたのか・・・・・。

 

俺は小猫ちゃんと美羽の頭を撫でる。

すると、二人は安心したような表情になった。

 

「にゃあぁ、先輩・・・・・」

 

「お兄・・・・・ちゃん」

 

ぐっ・・・・・か、可愛い・・・・・・。

寝言でそんなこと言われると・・・・・・。

 

「鼻血出てるわよ」

 

「あ、ほんとだ」

 

いかんね。

久しぶりの癒しに体が過剰反応してるぜ。

 

とりあえず、ティッシュを・・・・・・・。

 

うわー、結構出てるな。

最強レベルの癒しは俺の体には少し早かったのかね?

 

癒しのリハビリが必要だな。

 

 

あ、そういえば・・・・・・・

 

 

「アリスも看病してくれてたのか?」

 

「えっ?」

 

「いや、交代でしてたって言ってたし。なんとなくな」

 

「ま、まぁね。感謝しなさいよね。王女が看病をするなんて滅多にないんだからね」

 

「そりゃそうか。ありがとな、アリス」

 

「あ、う、うん・・・・・」

 

おいおい、どうしたよ?

顔が赤くなってるぞ?

 

アリスは大きく息を吐くと近くにあった椅子に腰かける。

 

「あんたって謎よね。なんか存在そのものが。胸に風穴開けられてる状態から復活って・・・・・・・。正直、まだ信じられないわ」

 

「ハハハハ・・・・・・」

 

返す言葉もないね。

 

生き返れたのはシリウスとイグニスのおかげだけどさ。

 

もし、俺がシリウスと出会ってなかったら・・・・・・。

もし、俺がシリウスからイグニスを託されてなかったら、俺はどうなってただろうな。

 

「そういえば他の皆は?」

 

「リアスさん達のこと? さっき、町の修復作業から帰って来てたから、今は広間でくつろいでいると思うわ。早く起きて顔を見せてあげなさい」

 

「そうだな」

 

うーむ、小猫ちゃんと美羽を起こしてしまうのは気が引けるな・・・・・・。

 

小猫ちゃんなんて俺の上に完全に乗ってる状態だしな。

起こさすにベッドから出るのは難しそうだ。

 

と、俺がいかにして二人の寝顔を守るか考えていると、アリスが立ち上がり、こっちに歩み寄ってくる。

 

「ん? どうした?」

 

俺が尋ねてもアリスは俯いたまま。

 

 

すると――――

 

 

アリスは俺の体を抱き寄せた。

 

「ありがとう。約束を守ってくれて。生きて帰ってきてくれて。私、本当に嬉しかった」

 

アリスの体から緊張が抜けていくのが分かった。

今まで貯まっていたものが全て吐き出されるように。

 

もしかしたら、俺がもう起き上がらないのではないか、そんな不安があったのかもな。

 

あの激戦の後に五日も眠ったままだったらそんな不安も抱いてもおかしくないか・・・・・・。

 

俺はアリスの背中に手を回してしっかり抱き締める。

 

俺が今こうして生きていることを実感させるために。

 

「おまえとの約束だ。破るわけにはいかないだろ」

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

 

 

他国の協力もあり、セントラルの修復はハイペースで進められた。

既に八割近くの修復が進んでいて、あと三日ほどで元通りになるとのことだった。

 

 

俺は美羽と一緒にフォレストニウムの外れにある墓地を訪れていた。

 

フォレストニウムの町よりも静かで、ここにいるだけで気持ちが安らぐ。

そんな場所にシリウスの魂を弔うための墓は建てられていた。

 

俺とシリウスの戦いの後、常に争いの中にいたシリウスには穏やかに過ごしてほしいとの願いからこの場所にウルムたちが設けたとのことだ。

 

シリウスは前線に身を置きながらも、平和を願っていた一人だからな。

こういう場所はあいつも好むだろう。

 

美羽が墓の前に花を添える。

 

「ありがとう、お父さん。皆を守ってくれて。イッセーを助けてくれて」

 

俺と美羽は墓の前でかがみ、手を合わせた。

 

 

シリウス、俺達の戦いは無駄じゃなかった。

その事が今回の件ではっきりしたな。

 

人間と魔族が手を取り合える時代が来た。

この平和が続くよう、あの世から見守っていてくれ。

 

 

美羽は先に立ち上がった。

 

「もういいのか?」

 

「うん。伝えたいことはしっかり伝えられたから」

 

「そっか」

 

美羽の言葉を確認し、俺も立ち上がる。

 

 

この日、俺達は元の世界に戻る。

 

おばちゃんの手料理も食べたし、ライトにももう一度会ってきた。

人間と魔族に平和が訪れたのも確認できた。

もう思い残すことは何もない。

 

そろそろ帰らないと父さんと母さんが心配するだろうしな。

 

 

俺と美羽はシリウスの墓に背を向け、皆が待つ場所へ向かおうとするが、三歩ほど歩を進めたところで俺は立ち止まった。

 

美羽が怪訝な表情を浮かべる。

 

「どうしたの?」

 

「いや、もう一度だけ言っとこうかなって」

 

「?」

 

頭に疑問符を浮かべる美羽。

 

俺は振り返り、美羽の肩を抱き寄せた。

一度深呼吸をして、シリウスに向かって誓いをたてる。

 

「改めて誓うぜ、シリウス。俺が美羽を幸せにする。美羽が笑って過ごせるように、おまえの分まで美羽を守り続けるよ」

 

美羽はもう俺の家族だ。

なくてはならない存在なんだ。

守ることは当たり前と言ってもいい。

 

俺が改めて誓ったのは、シリウスにもう一度、俺の気持ちを伝えたかったからだ。

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

「なぁ、美羽。俺の気持ち、あいつに伝わったかな?」

 

「伝わってるよ。だって、お父さんはボク達のことを見守っててくれてるはずだから」

 

「・・・・・・そうだな」

 

 

 

 

数分後。

 

 

俺と美羽は今回、アスト・アーデに来たときに目覚めた場所に向かっていた。

 

前回と違い、俺達は強制的に次元の渦を作り出し、こっちの世界に来た。

となると、帰る時も同じようにした方が確実だろう、というアザゼル先生の説明を受けたんだけど・・・・・・・。

 

原理を説明されても全く分からなかったのでスルーした。

 

まぁ、とにかくだ。

行くときと逆を辿れば良いということ。

あの場所で今度は俺や部長達を媒介にすれば元の世界に帰れるだろうということだ。

 

また、錬環勁気功で皆の気を同調させるから美羽も連れて帰ることができる。

 

 

森の中を少しばかり歩くと目的の場所に着いた。

そこには見送りの人達が来ていて、フォレストニウムに住む人達やアリス達も集まっていた。

 

「おーう、やっと来たか」

 

俺と美羽の姿を確認して先生が手を挙げる。

皆、準備は出来てるみたいだな。

 

「ひめさまーーーっ」

 

と魔族の子供達が走ってきて美羽を取り囲んだ。

 

人気者だな。

 

「皆もきてくれたんだね、ありがとう」

 

美羽が子供達を抱き締めていく。

 

俺の方にも来たので頭を撫でてやった。

 

 

俺はそのまま歩いていき、モーリスのおっさんの方へと歩み寄った。

 

「元気でなイッセー。また、来いよ。いつでも歓迎するぜ」

 

「そうですよ。私もいつでも待ってます」

 

と、リーシャが抱き締めてくる。

 

おっぱいが当たってる!

 

あー、このおっぱいともお別れなのか!

忘れないよう、しっかり脳内保存しておこう!

 

 

「お兄さん、鼻血出てるよ」

 

 

おっと、いかんいかん。

なんか、鼻血が出やすくなってないかい?

 

師匠のところにいる間は女の子と触れ合う機会が無かったからなぁ。

 

「ニーナも元気でな。また会いに来るぜ」

 

「うん。その時は私ももっと大人になってるから、その時は色々しようね♪」

 

 

ブファッ!

 

 

色々!?

あんなことやそんなことですか!?

 

うん、今から待ち遠しい!

 

 

『一回死んだくらいではスケベは治らんのか』

 

悪いな、ドライグ!

スケベは死んでも治らねぇよ!

 

『はぁ・・・・・。まぁ、相棒らしいか・・・・・。っと言い忘れていたんだが・・・・・・。しばらく籠手の力は使えなくなった』

 

っ!?

 

またかよ!

 

なんで!?

 

『今回の戦闘で無茶苦茶な力の使い方をしただろう? 特に覇龍を使った時にな。あれのせいで、神器がオーバロードした』

 

マジかよ・・・・・・・。

 

『まぁ、そんなに気を落とすな。しばらくはまた錬環勁気功だけで戦っていけば良いじゃないか。領域の修行にもなるだろうしな』

 

それもそうか・・・・・・。

 

了解だ。

使えるときが来たら教えてくれ。

 

『分かった』

 

やれやれ・・・・・・。

まさか、また神器が使えなくなるとは思わなかったよ・・・・・。

 

ドライグの言う通り、しばらくは錬環勁気功だけになるな。

 

 

俺はアリスの方に視線を移す。

 

どこか表情が暗いのは気のせいだろうか?

 

「それじゃあ、またなアリス。何かあったら呼んでくれよ。直ぐ駆けつけるからさ」

 

「どうやって呼ぶのよ?」

 

「うーん、気合い?」

 

「・・・・・二年前も同じようなこと言ってなかった?」

 

あ・・・・・・確かに。

 

俺ってあの時から成長してねぇな。

 

 

「イッセー、そろそろ行きましょうか。美羽も準備は出来たみたいよ?」

 

部長に言われて見てみると美羽は既に先生達の輪に入って、戻る準備を整えていた。

 

俺もそろそろ行くか。

 

「そうですね。・・・・・・じゃあ、俺は行くよ」

 

「・・・・・・うん」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「? どうしたのよ?」

 

行くと言っておきながら、その場から動かない俺を見て、アリスは怪訝な表情を浮かべた。

 

 

なんと言うか・・・・・。

 

このまま行っても良いのか、という疑問が俺の中に渦巻いていた。

 

何故か、このまま元の世界に戻ったら後悔する。

 

アリスの顔を見ていたらそんな気がした。

 

 

 

 

・・・・・・・よし、決めた。

 

 

「アリス、おまえも来いよ」

 

「は、はぁ!?」

 

俺の発言にアリスは盛大に驚く。

 

部長達も驚いているのが背を向けていても分かった。

 

「な、ななななんで!?」

 

「そんな顔してるのに置いていけるわけがないだろ?」

 

「そんな顔ってどんな顔よ!?」

 

「今にも泣きそうな顔だよ」

 

「っ!」

 

 

俺が別れを告げた瞬間、アリスは目元を潤ませて、泣きそうになっていた。

 

自分も連れていってほしい。

 

アリスがそう思ってるような気がした。

 

理由はそれだけだ。

でも、確信はある。

 

これでも互いの背中を預けあった仲だ。

なんとなく考えていることは分かるよ。

 

「あんた、正気なの!? 私は王女なのよ!? 私には国を守る義務が・・・・・・ってモーリス、あんた何してるのよ!?」

 

アリスが言ってる途中でおっさんがアリスの腕を掴んでいた。

 

おっさんはニヤッと笑う。

 

そして、何も言わずに天高くアリスをほうり投げた!

 

 

「キャアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

アリスの叫び声が森に響く!

 

俺はアリスが落下してくる前に何とかキャッチに成功する!

 

「いきなり何すんのよ!?」

 

「そうだ! 危ないだろうが!」

 

俺と俺に抱き抱えられた状態のアリスがおっさんに吠える。

 

しかし、おっさんは笑みを浮かべたままだ。

 

そして、アリスに向かって言った。

 

「行ってこいよ、アリス。国のことなんざ、俺達に任せとけばいいのさ」

 

「はぁ!?」

 

「そうだよ、お姉ちゃん。素直になりなよ。行きたいんでしょ?」

 

「何も問題はありませんよ。議会には既に話を通してあるので」

 

「ちょ、どういうことよ、リーシャ!?」

 

「こうなるであろうというのは容易に想像できたので、ニーナを中心に、議会に話を通したのですよ。アリスが何の問題もなくイッセーの世界に行けるように」

 

おいおい、マジかよ。

この三人、アリスに黙ってそんなことしてたのか・・・・・。

 

アリスも絶句してるし・・・・・・。

 

 

おっさんが続ける。

 

「まぁ、おまえが行きたくないって言うなら話は別だがな。議会にはアリスの意思しだいとも伝えてある。一応、聞いておくぜ。おまえはイッセーと共に行きたいのか、それとも行きたくないのか、どっちだ?」

 

「私は・・・・・・」

 

おっさんの問いにアリスは言葉を詰まらせる。

顔を赤くしながら、俺の方をチラッと見てきた。

 

 

はぁ・・・・・。

 

おっさんが前々から言ってた素直じゃないってのはこう言うことかよ。

 

仕方がない。

 

「アリス、俺と一緒に来てくれるか?」

 

「っ!」

 

「俺はおまえと一緒にいたいと思ってる。だから一緒に来てくれ」

 

これは俺の本心でもある。

もっとアリスと一緒にいたい。

 

 

アリスがフリーズすること数秒。

アリスは耳まで真っ赤にしながら、ボソリと呟いた。

 

「・・・・・なさいよ」

 

「ん?」

 

「・・・・・とりなさいよ」

 

「とる? 何を?」

 

「だ、だだだだだから! 王女の心を奪ったんだから、責任取りなさいって言ってるのよ!」

 

うおっ!?

 

耳がやられた!

キーンってする!

 

「ねぇ、聞いてるの!?」

 

アリスが俺の胸ぐらを掴んで揺らしてくる!

 

「ちょ、止め、首しまってるから! 危ないって!」

 

俺の叫びを聞いてアリスは手を離す。

 

あー、死ぬかと思った・・・・・・・。

 

「・・・・・で? ・・・・・・どうなのよ?」

 

責任って・・・・・・。

 

あれ?

なんか、前にもこんなやり取りをしたことがあるような・・・・・・。

 

「ま、まぁ、俺で良ければ?」

 

「なんで疑問形になってるのよ?」

 

「うっ・・・・・・」

 

 

こんな俺達のやり取りを見て、三人は笑う。

 

「じゃあ、決まりだな」

 

「そうね。ようやく素直になったってことかしら」

 

「ふふふ。イッセー、アリスのことお願いしますよ?」

 

 

三人はそう言うと俺の背中を押して、部長達の輪に押し込む。

 

アザゼル先生が苦笑していた。

 

「ったく、また女を作りやがった。ここまで来ると流石と言うべきなのかね?」

 

「うむ。これもイッセーの人徳と言えるだろう」

 

ティアは何やら納得してる表情だ。

 

「本格的にライバルになってしまうのね」

 

「ですが、それでこそイッセー君ですわ」

 

部長や朱乃さん達も仕方がないといった感じで俺を見てくる。

 

隣にいた美羽も微笑んでいた。

 

「お兄ちゃんならそうすると思ったよ」

 

「まぁ、これから色々大変だろうけどな・・・・・・」

 

なーんか、また先生にネタにされる気がするんだが・・・・・。

 

よし、考えるのは止めよう。

恐ろしい未来しか見えない。

 

 

 

キイィィィィィィィィィン

 

 

 

甲高い音が響き始める。

どうやら、そろそろのようだ。

 

俺は後ろを振り返る。

そして、見送ってくれる全員に大声で言った。

 

 

「またな!!」

 

 

 

その瞬間、俺達は完全に光に覆われた。

 

 

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

目映い光が森から消えた。

 

先程までいたはずの場所にはイッセー達はもういない。

 

「行っちまったな」

 

モーリスは苦笑しながら続ける。

 

「ニーナもそうだが、リーシャ、おまえも行きたかったんだろ?」

 

「ええ。ですが、私はこの世界でやるべきこともありますし」

 

リーシャは小さな笑みを浮かべる。

 

「それに、また会える気がするんです。だから、その時を待つことにします」

 

「そうか・・・・・。ま、確かにな」

 

モーリスは頷き、背中を伸ばす。

 

ニーナも微笑みながらイッセー達がいた場所を見つめる。

 

「じゃあ、帰ろっか」

 

ニーナ達はその場を後にして、国に戻ることにする。

アリスの幸せを願いながら。

 

 

 

 

 

 

その時―――――

 

 

 

 

「すいませんにょ。道に迷ってしまったにょ。ここが何処だか教えてほしいにょ」

 

 

 

三人の思考は完全に止まった。

 

 

 

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はアリスとイッセーの父・母との邂逅かなぁ・・・・・

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