ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝   作:ヴァルナル

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今回が夏休みラストの投稿になります。

次回は少し期間が空くことになります。


22話 禁断の力

十分ほど時はさかのぼる。

 

師匠が何か作ってくれるというので、それまで待っていた。

 

俺としては今すぐにでも皆のところに向かいたいんだけど・・・・・。

修行したばかりで消耗した状態でロスウォードとやり合うのは無謀だ。

 

 

焦る気持ちを抑えながら待つこと数分。

 

師匠がキッチンの方から出てきた。

 

「ほれ、出来たぞい」

 

と師匠が渡してきたのはお湯・・・・?

 

コップに入ってるのは透明なお湯。

見た感じ、普通のお湯だ。

 

「師匠、これは・・・・?」

 

「それは神湯(しんとう)と言っての。この神層階でしか作れん特別な水から作ったものじゃよ。効果は飲めば分かるじゃろ」

 

 

・・・・・?

 

 

色々疑問もあるけど、とりあえず飲んでみるか。

コップに口をつけて一気に飲み干す。

 

味は甘露水のように少し甘い。

でも、それ以外は何てことない普通のお湯だ。

 

「どうじゃ?」

 

「どう言われても普通の水じゃ・・・・・・・・っ!」

 

 

俺はそこまで言いかけた時に気づいた。

体の底から力が湧いてくる。

 

もしかして、これが―――――

 

 

師匠は俺の様子を見ながら顎髭をさする。

 

「すごいじゃろ? それを飲むとな体力の回復だけでなく、ケガの回復もしてくれるありがたい水じゃよ。しかも飲んでから直ぐに効果が現れるというのがすごいところなんじゃ」

 

俺は手のひらを開けたり閉じたりして、力の入り具合を確認してみる。

 

スゲぇ!

 

流石は神々が住まう場所だ!

こんなものまであったのかよ!

 

さっきまで残っていた疲れまで完全に無くなってる!

フェニックスの涙よりすごいんじゃないのか!?

 

「師匠、これいくつか貰っていっても良いですか?」

 

これがあったらアーシアの負担も減らせることが出来るし、何より体力まで回復できるところがありがたい。

 

しかし、師匠は首を横に振った。

 

「この水は神層階でも稀少なものでの。ワシが持っとる分はお主に飲ませたのが最後じゃ」

 

 

その言葉にガックリと肩を落とす。

 

マジでか・・・・・・。

せめて一人分くらいは欲しかったんだけど・・・・・・。

 

 

まぁ、無いものをねだっても仕方がない。

 

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「うむ。死ぬでないぞ」

 

「はい!」

 

 

師匠に別れを告げ、いつの間にか用意されていたエレベーターで下界に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

イッセーが下界に降りてから数分後。

 

イッセーを見送ったグランセイズは一人、動き始めていた。

 

服装もそれまで着ていたラフなものから白い胴着に着替えている。

 

「さて、ワシも動くとするかの。可愛い弟子一人に無茶をさせる訳にはいくまいて・・・・・・」

 

そう呟き、彼は小屋から出ていった。

 

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

 

現在。

 

俺はアザゼル先生が作ってくれたブレスレットの効果で俺の元へと強制転移させられた美羽を抱きかかえて、宙に浮いていた。

 

 

危なかった・・・・。

ブレスレットが無かったら、美羽は確実に胸を貫かれているところだった。

 

 

妹が死ぬところを見ずに済んだか・・・・・。

良かった・・・・・。

 

 

先生、マジでありがとう!

 

 

呆然としていた美羽が口を開く。

 

「お、お兄ちゃん・・・・?」

 

「おう。十日ぶりか? 悪いな、遅くなっちまった」

 

 

久しぶりの美羽か・・・・・。

 

最近、美羽成分が足りてなかったから、なんか安心するぜ!

 

あー、この感触、この声、この温もり!

こんな状況なのに癒されるな!

 

 

『シスコンはいいから、目の前の敵に集中しろ』

 

おっと、そうだったそうだった。

今はこんなことしてる場合じゃ無かったな。

 

 

感覚を広げて皆の安否を確認してみる。

目の前の木場とゼノヴィアは良いとして他の皆は・・・・・・

 

 

「ん? アザゼル先生とロスヴァイセさん、それにリーシャがいないな・・・・・」

 

「その三人は今はこの町にいないよ。何かを準備しているみたい」

 

なるほど・・・・・。

ってことは全員無事なわけね。

 

先生達が動いているってことは何か有効な手段でも見つかったのだろう。

 

 

と、ここでティアが俺のところに転移してきた。

 

「待っていたぞ、イッセー」

 

「ああ、遅くなってゴメンな」

 

「なーに、あの程度ならイッセーの力無しでも乗りきれる。問題は・・・・・・・」

 

ティアが下に視線を移す。

 

その先にいるのは一人佇むロスウォード。

 

 

相変わらずの濃密なオーラだ・・・・・・。

 

 

 

とりあえず、美羽を下ろすか。

 

俺は美羽を抱き抱えたまま、地面に降り、美羽をそこに下ろす。

 

 

「来たか、赤龍帝。・・・・・・力をつけたか」

 

「分かるのか?」

 

「纏うものが以前よりも僅かに強くなっている」

 

 

僅かに、か。

 

まぁ、あれからそこまで時間が経ってないから、仕方がないと言えばそうなるな。

 

ロスウォードは黒い槍を手元に作り出す。

 

それを見て、ティアと美羽が戦闘態勢に入った。

俺も鎧を纏って、いきなり天武の状態になった。

 

 

ティアが俺に問いかける。

 

「それで? 神層階でなにか得られたのか?」

 

「うーん、少し?」

 

 

正直言って、イグニスとの対話は全く出来ていない。

何度も潜っては見たものの、その成果と言えるものはほとんどない。

 

それでも師匠の元に行って得られたものはあった。

 

 

 

「よそ見している暇があるのか?」

 

 

その瞬間、ロスウォードが俺達の前から消える。

 

 

 

 

 

それと同時に、俺の視界から色が消えた―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

突然巻き起こる爆音と爆風。

僕の視界からロスウォードの姿が消えた一瞬のことだった。

 

 

衝撃が大気を震わせて、辺り一面を吹き飛ばした。

ゼノヴィアの攻撃とは比較にならない程の破壊。

 

 

「なにが起きたんだ!? イッセー達は無事なのか!?」

 

ゼノヴィアが目を見開き、叫ぶ。

 

「分からない。僕も何が起こったのか全く見えなかったからね」

 

気付いたらこの状況だ。

 

いまだに土煙が舞い上がっていて何も見えない。

 

 

それから少しすると、土煙が止み視界が開けてくる。

 

僕達の眼に入ったのは――――――

 

 

 

「ほう・・・・・」

 

 

 

瓦礫に埋まるロスウォードと拳を握りしめるイッセー君だった。

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー・・・・おまえ・・・・・」

 

驚愕するティアの声。

 

見れば皆も目を見開いていた。

 

 

まぁ、それもそうなるだろうな。

なんせ、俺達の視線の先にいるのは瓦礫に埋まってるロスウォードなのだから。

 

 

ロスウォードが視界から消えた瞬間、あいつは俺目掛けて槍を振るってきた。

俺はそれに合わせて全力のカウンターをぶっ放しただけだ。

ただそれだけ。

 

 

それでも、以前の俺なら全く反応できずに首を斬り落とされていただろう。

前回はあいつの動きを見切ることすらできなかったからな。

 

 

領域(ゾーン)。これが俺の新しい力だ」

 

 

極限集中状態。

脳への錬環勁気功の使用によって強制的にその状態へと至らせる。

 

当然、負荷は大きい。

それでも、こうしてロスウォードの動きを見切って、反撃できるほどの力を得られる。

 

まぁ、制限時間はある。

 

長時間の使用は俺の体にダメージを与えることになるから、そのあたりに注意しないとな。

 

 

ロスウォードはゆっくりと立ち上がる。

 

「俺にカウンターを入れるとはな・・・・。これは予想外だ」

 

「そうかよ。それじゃあ、予想外ついでに前回の反撃と行くぜ」

 

 

俺は後ろを振り返り、ティアと美羽に視線を送る。

 

「前衛は俺が行く。二人は援護を頼むよ。流石に一人で倒すのは無理だからな。あと、アリスとモーリスのおっさん達にも言っといてくれ」

 

「・・・・仕方がない。奴の動きを捉えられるのはイッセーだけだ。私達が前に出ても邪魔にしかならないだろう」

 

「分かったよ。お兄ちゃんはボクが支えて見せるよ」

 

「頼んだぜ」

 

美羽の頭を撫でて、ロスウォードと向かい合う。

 

 

さて、行くとするか。

 

『そうだな。前回の借りはしっかり返すとしよう。やられっぱなしでは赤龍帝の名が泣く』

 

おうよ!

 

行くぜ、ドライグ!

 

『Accel Booster!!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

全身のブースターからオーラを噴出して、ロスウォードへと突っ込む!

 

領域に入ったことで、反射速度だけじゃない。

身体機能の全てが向上されている。

 

駆けるスピードも段違いだ!

 

ロスウォードも瞬時に黒い槍を握り、俺を迎え撃つ。

 

俺の拳とロスウォードの黒い槍が激しく激突する!

 

「でぁぁぁぁあああああああああっ!!!!!」

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

一輝に倍加した力の全てを拳に込めて殴りつける!

一発一発を放つたびに倍増した力の全てを籠める!

それはロスウォードの黒い槍と打ち合えるほどの威力を生み出していた!

 

正直、こんな力の使い方では長期戦は不利だ。

だから、早い段階で勝負を決めたいところ。

 

俺の拳を軽々と受けながらロスウォードは言う。

 

「なるほど。確かに前回とは違う。今の貴様の眼には別の世界が見えているようだな」

 

「まぁな!」

 

そう叫びながら、拳と蹴りの連続技を放っていく!

 

前回はおまえの動きを捉えることすらできなかった。

それを考えるとこうして打ち合えるだけでもかなりの進歩だ。

 

手は休めない。

攻撃の手を緩めてしまえば、一気に押し切られてしまう。

 

衝突する度に巻き起こる爆風。

それは雲を消し、町の建物を崩す。

 

 

それでも、こいつが本気ではないことは一目瞭然か・・・・・

まだまだ力を残していやがる・・・・!

 

ったく、こっちはこれだけ無茶苦茶な力の使い方してるのにこれかよ!

 

 

ザシュッ

 

 

黒い槍が肩をかすった。

それだけで鎧の部分を壊して生身にダメージを与えられた!

 

分かっていたけどとんでもない威力だ!

 

直撃したら死ぬ。

そう考えても間違いじゃない。

 

 

「どうした? 俺を倒すつもりなのだろう?」

 

「ガッ・・・・!」

 

振り下ろされた二本の槍が俺の胸を十字に抉った!

咄嗟に後ろに下がったから致命傷は避けたけど、このままじゃ押し切られてしまう!

 

 

「お兄ちゃん、下がって!」

 

 

美羽の声が聞こえ、俺は瞬時に上空へ飛ぶ。

 

直後、ティアと美羽から放たれる魔法のフルバーストがロスウォードを覆った!

マシンガンのように放たれる魔法による攻撃。

しかも一発の魔法が凶悪なほどの威力を持っているのが見ただけで分かる。

 

無限に放たれる魔法の砲撃は完全にロスウォードの動きを封じ込めていた。

 

「イッセー!」

 

「私達もいきますわ!」

 

地上から放たれるのは滅びと雷光の龍。

その二つの龍は混ざり合い、強力な力を持った一体の龍となった。

 

滅びの力と雷光を併せ持つ龍。

その龍は動きを止めているロスウォードへと食らいついた!

 

流石は部長と朱乃さんだ!

最高の合わせ技じゃねぇか!

 

そこにゼノヴィアによる聖なるオーラの砲撃、イリナとレイナによる光の雨が降り注いだ!

 

 

しかし――――――――

 

 

 

バシュンッ

 

 

 

 

全ての攻撃が弾き飛ばされ、現れたのは傷一つ付いていないロスウォード。

 

ちっ、やっぱり今のじゃあいつは倒せないか・・・・・。

 

 

龍王の攻撃も混ざってるってのに。

あんなのをまともに受けたら魔王クラスでも消え去るぞ・・・・・。

 

 

 

あいつを倒すにはやっぱり―――――――

 

「来てくれ! イグニスッ!!」

 

灼熱の炎を纏いながら現れる巨大な片刃剣。

ロスウォードを倒すための鍵となる剣。

 

領域に入っている今なら、少しくらいはこいつの力を引き出せるはずだ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

『Transfer!!』

 

倍加した力をイグニスに譲渡!

 

イグニスの刀身が元の鋼色から紅く変色し灼熱化する!

シャルバ達に使った時よりも強い力を感じる!

 

 

これを見たロスウォードは目を細める。

 

「イグニス・・・・・。俺を倒すならそれを使うのが最適だろうな」

 

 

前回、初めて出会った時から感じていたんだけど・・・・・・

こいつ、もしかして―――――――――――

 

 

いや、今はそんなことを考えている場合じゃないな。

 

俺がしなきゃいけないのは、ここでこいつを倒してこれ以上の破壊を止めさせる!

それだけだ!

 

 

錬環勁気功で更に気を練り上げ、全身に循環させる。

脳にも更に気を集中させて領域の状態を持続させる。

 

ここで領域から出てしまえば、俺にはあいつの動きを捉えることが出来なくなる。

その前に、なんとしてでも!

 

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

『Ignition Booster!!!!』

 

 

 

全身のブースターからオーラが爆発し、一気にロスウォードとの距離を詰める!

音速を超えた瞬間的な動きがソニックブームを発生させて、周囲に破壊の嵐を巻き起こした!

 

だけど、ロスウォードは余裕でこの速さについてきやがる!

 

空中に激しい衝突音が響く!

錬環勁気功で残像を生み出し、ロスウォードを攪乱しながら攻撃を仕掛けていく!

 

剣と拳、剣と蹴り。

時には気弾を放ちながら、俺はロスウォードに食らいつく!

 

皆の支援砲撃もあって、俺はまだ戦い続けることが出来ているけど・・・・・・正直、押されている。

それはロスウォードが徐々に力を上げていることもある。

だけど、理由はそれだけじゃない。

 

体が俺に限界を知らせていた。

 

ヤバい・・・・・!

体中が悲鳴を上げていやがる・・・・!

 

腕や足だけじゃない。

激しい頭痛が俺を襲う!

 

『来るぞ!』

 

「っ!」

 

ドライグに言われて、咄嗟に体を反らす。

避けるのが僅かに間に合わず、黒い槍が俺の腹を少し抉った!

 

クソッ!

 

領域の状態でも動きを捉えられなくなってきやがった!

 

『奴が何故、最初から力を出してこないのかは分からん。だが、流石にこのままではマズい。奴のパワーもスピードも戦闘前よりも格段に上がっている。これ以上、力を上げられてしまっては再び手も足も出なくなるぞ』

 

分かってる!

 

一気に決めるぞ!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

「こいつで終いだ! くらいやがれぇぇぇぇ!!」

 

俺はフルスイングでイグニスを振るう!

そこから放たれるのは灼熱の斬撃!

 

この町の空を覆い尽くすような巨大な炎!

かつてない熱量がロスウォードを完全に捉えた!

 

 

更には皆の支援砲撃も降り注ぐ!

全ての砲撃はロスウォードを包み込み―――――――

 

全員の攻撃が弾けて大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・ゲホッゲホッ・・・・!」

 

 

全員の一斉攻撃によって赤く染まった空を見上げながら、俺は町に降り立った。

領域も限界が来たせいで、今は視界に色が戻っている。

 

手足が震え、立つことですらやっとの状態だった。

 

 

『仕方があるまい。戦闘中は倍加し続けている状態だった。しかも、負荷がかかる領域に入った状態でだ。まぁ、相手が相手だがな』

 

ま、まぁね・・・・・。

あ、鼻血出てきた・・・・・。

 

スケベなこと以外で鼻血出すのって久しぶりか?

 

 

「イッセー!」

 

「お兄ちゃん!」

 

声がした方を振り向くとアリスや美羽、部長達がこちらに走ってきていた。

 

「皆、無事か・・・?」

 

「それはこっちの台詞よ。アーシアさん、治療してあげてくれる?」

 

「はい!」

 

アーシアの手から淡い光が発せられて、俺の体を包み込んだ。

 

 

これは・・・・・アーシアの力が上がってるのか?

回復のスピードが前よりも上がっているような・・・・・。

 

 

それに、僅かに気の乱れと体力も治ってきてる?

 

 

アーシアの神器はケガだけを治すものだったんだけど・・・・・。

 

『こちらの世界に来たことで何かしらの変化があったのかもしれんな』

 

あー、前に言ってたやつね。

じゃあ、アーシアの神器も本来の力以上のものを発揮できるようになったのかね?

 

まぁ、何にしてもありがたいね。

 

 

モーリスのおっさんが尋ねてきた。

 

「で、ロスウォードはどうなった?」

 

「倒せてはいない。だけど、今のでそれなりのダメージを与えたと思う」

 

 

なんせ、灼熱化したイグニスの一撃をまともに受けたからな。

その上、皆の一斉攻撃だ。

 

『あんなのを受ければ大抵の神は消し炭になるぞ』

 

そっか・・・・。

 

倒してはいなくても、ダメージは与えた・・・・・・と思いたい。

 

 

「アザゼル先生は?」

 

あの人たちは何かの準備をするためにここを離れているんだろう?

 

まだできないのかよ?

 

「さっき連絡があった。どうやらもうすぐらしいぞ。かなり大がかりな術式らしいからな。手間もかかるんだろう」

 

 

なるほど・・・・。

 

まぁ、アザゼル先生のことだし、上手くいくとは思うけどさ・・・・。

だけど、もう少し急いでほしい。

 

いつ、ロスウォードが動き出すか分からないしな。

 

 

 

 

 

その時―――――

 

 

 

 

 

赤く染まっていた空が、急に暗くなった。

 

 

 

空を見上げると、直径が百メートルは軽く超えるかと思われる漆黒の球体が浮かんでいた。

 

その球体の底には僅かに血を流したロスウォード。

 

 

 

おいおい・・・・・嘘だろ・・・・。

あれを受けて、それだけしかダメージを受けてないのかよ・・・・!

 

俺は腕の一本くらいはもらったと思っていたのに・・・・!

 

 

ロスウォードは自身の体から流れる血を眺める。

 

「俺に傷を負わせたか・・・・。だが、これで限界か・・・・・」

 

 

ロスウォードは俺達の方に掌をむける。

 

それと同時に漆黒の球体はゆっくりと動き出した。

 

「終わりにしよう。貴様らは良くやった。一瞬とは言え、俺に可能性を見せたのだからな。俺としてはおまえ達が更に力をつけるまで待ちたいところなんだが・・・・・。すまんな、俺は自身に施された術式には逆らえんのだ」

 

 

ゆっくりと落ちてくる漆黒の球体。

 

あれはヤバい・・・・!

ヤバすぎる!

 

『ああ。あんなものを受けてしまえば、この町はおろか、この国そのものが消し飛ぶぞ』

 

ドライグの焦る声を聞いて、皆に戦慄が走る。

 

モーリスのおっさんが叫ぶ!

 

「アリス! 避難させた奴らを他の国に飛ばすぞ! 転移の門を開け!」

 

「分かってるわよ!」

 

「リアス! おまえ達も逃げるぞ!」

 

「でも、今からじゃ間に合わないわ!」

 

「それでもやるしかねぇだろ! あんなもん防げると思ってんのか!」

 

 

あの球体が落ちてくるまで一分もない。

 

それだと、この町の人達を転移させるまで時間がなさすぎる。

 

どうする・・・・・!

 

 

 

 

 

っ!

 

 

 

 

俺はそこでハッとなった。

 

あの攻撃を防ぐ方法。

一つだけ可能性を見つけた。

 

 

 

「祐斗はイッセーを頼む!」

 

「はい! イッセー君、僕の肩に掴まるんだ!」

 

おっさんの指示に従い、俺に肩を貸そうとする木場。

 

だけど、俺はそれを拒んだ。

 

俺の行為に木場は驚いたような表情を浮かべる。

 

「イッセー君・・・?」

 

「木場、おまえは皆と行け。アーシア、もう十分だよ、ありがとう」

 

俺は治療してくれていたアーシアに礼を言って立ち上がる。

アーシアの治療のおかげでかなりマシになった。

 

 

何かを察したようにアリスが言う。

 

「イッセー、あんたまさか・・・・!」

 

「ああ、俺は何とか時間を稼ぐ。皆は早く行ってくれ」

 

「「「っ!?」」」

 

皆は俺の言葉に驚愕した。

 

まぁ、驚くのも無理はないか・・・・・。

 

「あんた、正気!? また一人で無茶をするつもり!?」

 

「ははは・・・・。悪いな、どう考えても皆を守る方法はこれしかなかったよ」

 

 

 

 

ドライグ、頼みがある。

 

『なんだ?』

 

少しの間、歴代の怨念を抑え込むことって出来るか?

 

『っ!? それは・・・・・・!』

 

ああ、そうさ。

 

だけど、この状況切り抜けるにはそれしかねぇだろ?

 

『・・・・っ! それはそうかもしれんが・・・・』

 

大丈夫だって、ヴァーリは自身の魔力を消費することで何とかなってただろ?

俺にはそこまでの魔力は無い。

 

でもさ、生命の根源たる気なら周囲から集められる。

それを代用させてもらうさ。

 

『なるほど・・・・。だが、防げるかどうかは分からんぞ?』

 

まぁ、防げなくとも時間を稼げさえすれば良いよ。

皆が逃げる時間だけでも稼げるのなら、それでいい。

 

 

「時間がない。皆、行ってくれ!」

 

「そんなの―――――――」

 

皆が俺を引き留めようとすると、モーリスのおっさんがそれを制した。

 

おっさんと俺の視線が合う。

 

「本気なのか?」

 

「もちろん。まぁ、死ぬつもりはないよ」

 

「そうか・・・・。おまえら、ここはイッセーに任せていくぞ」

 

その言葉にアリスがおっさんに掴みかかった。

 

「どうしてよ!? イッセー一人を置いていくというの!?」

 

「ああ。ここでこうしていても時間の無駄だ。それにおまえは王女だ。この国の民を守る義務がある」

 

「だからって―――――」

 

「おまえらはイッセーの覚悟を無駄にするつもりか?」

 

「「「っ!」」」

 

「おまえらがイッセーのことを想うならここを早く離れた方が良い。こいつのことを本当に想っているのならな」

 

その一言に皆は黙ってしまった。

 

 

もし、俺がここで動かなければ一生後悔すると思う。

 

おっさんは俺の覚悟を組んでくれているんだ。

 

「それに、この場に俺達がいても出来ることは何もない。早くしろ。これ以上イッセーを困らせるな」

 

おっさんがそこまで言うとティアが皆の足元に魔法陣を開く。

 

「そういうことだ。おまえ達は邪魔だ」

 

そして、皆が何かを言う前に光が皆を覆い、強制的に転移させた。

 

 

 

ここに残ったのは俺とティア。

 

 

 

「おいおい・・・・なんでティアまで残ってんだよ?」

 

「おかしなことか? 私はおまえの使い魔だ。主に付き添うのは当然だろう? それに」

 

「それに?」

 

「私との時間を増やすと言ってくれただろう」

 

 

あ・・・・・・。

 

確かに言ったけどさ・・・・。

 

よりによってこんな状況で・・・・・。

 

まぁ、いっか。

 

ティアは言っても聞いてくれないし。

 

 

「それじゃあ、最後まで付き合ってもらうとするよ」

 

「了解だ、マスター」

 

俺とティアは互いに笑みを浮かべた。

 

 

さて、漆黒の球体も迫っていることだし、始めますか!

 

 

パンッ!

 

 

俺は両手を合わせて、気を練り始める。

自分のものだけじゃない。

 

周囲に漂う気を自身に取り込み、体内で循環と圧縮を高速に繰り返していく。

 

これが錬環勁気功の奥義の一つ。

 

俺の体を覆っていた赤いオーラが次第に黄金に変わり、輝き始めた。

 

 

 

ありったけでいくぞ、ドライグ!

 

 

『ああ! こうなったら俺もとことんまで付き合おうではないか!』

 

 

ゴウゥッ!!!!

 

 

 

俺を中心に風が吹き荒れる。

 

 

 

そして、俺は――――――

 

 

 

禁断の呪文を唱えた――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我、目覚めるは―――――――――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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