テレビらしきものにしがみつく白髪頭の老人。
画面には女性のエッチな動画が流されていた。
「うんうん! たまらんわぃ!」
俺のことなど気づきもしないでただただスケベ顔を浮かべている。
これが俺の師匠、拳神グランセイズ・・・・・・なんだけど・・・・・
『・・・・・帰ろうか』
おぉーとぉっ!
早くも出ました、ドライグさんの帰りたい発言!
いやいやいや、早いよ!
俺達、まだ何も成し遂げてないからね!?
小屋の扉開けて、爺さんのスケベ顔見ただけだからね!
そんなことをするためだけに来たわけじゃないから!
と、とりあえず、声かけてみるか・・・・・・
「師匠」
「ふむふむ、この娘もいいのぅ!」
「師匠!」
「うほほほほほ! こんなところまで!」
「師匠!!!!」
「やかましい!!! ジジイの楽しみを邪魔するでないわ!」
ゴンッ!!
「ガフッ!!!」
師匠が投げた鍋が俺のおでこに直撃した・・・・・・・・
▽
「誰かと思えば弟子が帰ってくるとはのぅ」
「あははは・・・・・・お久しぶりです、師匠・・・・・。相変わらずお元気そうで・・・・・・」
腫れたおでこに氷を当てながら苦笑する俺。
酷い再会だよ・・・・・。
『だから言ったではないか。帰ろうと』
うん、少し後悔してるよ。
あー、おでこが痛い・・・・・。
アーシアに治療してほしい・・・・・・。
「いやー、すまんのぅ! ちょうど良いところだったのでのぅ! あの女子がのぉ、良い感じじゃったんじゃよ!」
愉快そうに笑う師匠。
どんな感じだったんだよ!?
絶対に悪いことしたなんて思ってないよね!
まだ顔がニヤけてるしな!
つーか、何でタンクトップ?
何で短パン穿いてんの?
どうみても、そこらへんにいる爺さんにしか見えねぇよ。
前の仙人が着てそうな白い胴着はどうしたんだよ?
「何て言うか・・・・・色々、変わりました・・・・?」
「む? この服のことかの? これは前から持ってたぞぃ。普段はこんな感じじゃよ」
「えっ!? だって、俺がいるときは」
俺がここにいる時はいつも白い胴着来て、パッと見は仙人みたいな格好してたじゃん!
師匠は笑いながら頭をポリポリかく。
「流石に弟子がいるときは真面目な格好するわい。だって、その方がそれっぽいじゃろ?」
そんな理由ですか!?
いや、確かにタンクトップに短パン姿の人のところで修行するとか全く絵にならないけど!
それでも、その事実は知りたくなかった・・・・・・!
二年間も共に過ごした師匠の姿は偽りの姿だったというのか・・・・・・!
『内面はそうでもなかろう?』
あ、それもそうか。
スケベなところは変わってないわ。
何も変わらない、師匠の姿だった・・・・・・。
『感動的なセリフのつもりだろうが、スケベジジイだからな、あれ』
うん・・・・・・・そうだね。
「ドライグも相変わらずだの」
『ふん。その言葉、そのまま返してくれる』
「更にワシはそれを投げ返す」
『いや、それを更に俺がバットで打ち返す』
「いーや、更にそれをワシが殴り返す」
『それでは、こちらはブレスで吹き飛ばす』
「なーに、ワシはそれを」
「二人とも止めてくれよ。キリがねぇよ」
この二人、仲が良いのか悪いのか分からんね。
再会早々これかよ。
まぁ、二人とも良い人にはかわりないけどさ。
それにしても―――――
「師匠、この小屋もえらく変わりましたね」
そう言って小屋の中を見渡す。
建物外観は以前と同じ。
だけど内装は全く別物になっていた。
以前は畳とご飯を炊く釜。
それから部屋を仕切る襖しかなかったこの山小屋。
人一人が暮らすには十分なスペースはあるものの、やや寂しい空間だった。
まぁ、仙人が住んでいそうな空間だったことには間違いない。
なんということでしょう。
畳みはフローリングに変わり、ベッド、ソファまで完備!
釜があった場所には炊飯器と冷蔵庫にキッチン!
さっき使っていたテレビらしきもの。
あんなのは前はなかった。
前にあったのは水を張った石造りの桶。
そこに映像を写し出すという、中々に仙人が持ってそうな感じのものだった。
それが今では薄型テレビと化している。
部屋の空間も以前より広くなったような・・・・・・・。
何があった!?
俺がここを去ってから一体何があったんだよ!?
何でこんなハイテクな暮らししてんの!?
さっきの煙突の意味は!?
「あー、これかの? リフォームっちゅうやつじゃ」
「リフォーム?」
「昔、お主のいた世界の話を聞いたじゃろ?」
「えぇ、まぁ」
確かに話した。
俺の普段の生活とか、どんなものがあるとか。
元の世界のことは修行の合間に話をした記憶はある。
「もしかして、それで?」
尋ねると師匠は頷く。
「なんか、その話聞いたら態々火を起こして米炊くのとかめんどくさくなっちゃった」
なっちゃった、じゃねぇよ!
やべぇよ!
俺、ロスウォードの気持ち分かっちゃったよ!
愚か者だよ、この人!
「それにあんな石の桶で見るよりもこれで見た方が画質良いし、女子の動きもクッキリハッキリじゃ!」
ああああああああっ!!!!
ダメだ、この人!
ここまで来たら武術の神でもなんでもねぇよ!
どうみても、クソジジイだよ!
さっきからツッコミどころしかねぇ!
誰か俺の変わりにツッコミ入れてくれぇぇええええ!
ドライグ、ヘルプ!
『却下』
つ、冷たい!
「して、その手に持っとる袋はなんじゃ?」
「あ、お土産のエロ本です」
▽
「まぁ、せっかく来たんじゃ。ゆっくりしてゆけ。ココアで良いかの?」
「あ、はい」
つーか、神層階にココアなんてあんの?
初耳なんだけど。
『知らん』
師匠は最新式のキッチンに立って湯を沸かす。
よく見たらIHじゃん。
おかしい・・・・・
色々おかしいって・・・・・
数分後、師匠がココアの入ったコップを持ってくる。
「ほれ」
「ありがとうございます」
恐る恐る飲んでみる。
あ、本当にココアだこれ。
神層階ってカカオでも実ってるのか?
師匠も俺の向かいに座り、茶を啜る。
「さて、とりあえずは人間と魔族との争いを終わらせたこと。誉めておこうかの。良くやったぞい、イッセー」
「見てたんですか?」
「まぁの」
そういえば、前にあった石の桶で下界の様子を見ることが出来たっけな。
もしかして、このテレビでも見れるのか?
「まぁ、俺の力だけじゃ無理でしたけどね」
「白雷姫、剣聖、赤瞳の狙撃手。皆の力があってこそというわけじゃな」
「ええ」
俺と師匠は笑む。
師匠が下界の様子を見ていたというなら話は早い。
今起こっていることも知っているはずだ。
「師匠、下界の現状。ご存じですよね?」
「ロスウォードのことじゃな? やはり、お主がワシを訪ねてきたのは・・・・・・」
「はい。師匠ならあいつのことを知っているのではと思ったので」
師匠は難しい顔をして、むぅと唸る。
この様子だと、師匠はロスウォードについて何か知っている・・・・・?
色々聞きたいことはあるけど、まず、あいつのことについて俺は知りたい。
「ロスウォードは自分を作られた、と言っていました。それに神々を恨んでいるような目をしていました」
「そうか・・・・・・。やはり、奴は・・・・・」
「教えてください、師匠。あいつは一体誰に作られたんです?」
俺が問うと師匠は茶を啜って一息つく。
――――そして衝撃の事実を語りだす。
「簡潔に言うと、奴は神層階に住まう一部の神々の外法によって産み出されたのじゃ」
「なっ!?」
神層階の神々が作った!?
どういうことだよ!?
「お主も知っておるじゃろ。神には善神もいれば悪神もおる。・・・・・・・一部の悪神が集まり、この世界を自分達のものにしようと考えた末に作り出したのがロスウォードという存在。まぁ、結局はその悪神共も奴を制御仕切れず、殺されてしまったんじゃがの」
既に神を・・・・・・、
いや、あの強さならそれも可能か・・・・・。
ったく、とんでもない奴を産み出してくれたもんだな・・・・・!
ろくな神じゃねぇ・・・・・!
しかも、制御仕切れずに殺されてるんじゃ世話ねぇぜ。
師匠もため息を吐く。
「全く、いらぬことをしてくれたものじゃ。それで、そのことを知ったワシを含めた他の神々は奴を倒すべく、戦いを挑んだ」
「それで、結果は?」
「現状を見れば分かるじゃろ。・・・・・ワシらは敗北した。多くの神々が奴に消滅させられてしもうたわい。・・・・・奴にもかなりの手傷は負わせたんじゃが・・・・・下界に逃げられてしもうた」
「奴を追うことはしなかったんですか?」
「それも考えた。じゃが、お主も知っておる通り、神々が下界に降りることは禁じられておる。それに、仮に追って奴と再戦したら、それこそこの世界は終わってしまうわい」
「どういうことですか?」
「良いか? 神というのはこの世界を支える柱とも言っても良い。奴と戦い、これ以上神々が消滅すれば、この世界を支える柱は無くなってしまう。そうなれば、下界はおろかこの世界そのものが崩壊することになるのじゃ。故にワシらは奴を追うことを止めた。・・・・・・まぁ、神々が下界でその力を振るえばそれだけで、下界は崩壊するじゃろうがな」
なるほど・・・・・。
そう言うことだったのか。
だから、師匠達はロスウォードを追撃しようとしなかった。
師匠達が下界に降りてその力を振るえば、どのみち世界を崩壊させることになってしまうから。
ということは、結局は俺達だけでロスウォードを倒さないといけない。
「あいつを倒す方法はあるんですか?」
「何を言っとる。お主も薄々気がついとるじゃろ。――――イグニス。名を忘れ去られし神が創造した剣。それが鍵となるじゃろうな」
イグニス、か。
滅びの神の伝承に伝わる剣。
大昔の人間の魔族はイグニスを使ってロスウォードを封印したとされている。
「よく昔の人はあの剣を使えましたね。つーか、よくロスウォードを封印なんて出来ましたね」
「まぁ、奴にもワシらと戦った時の傷が残っておったしの。それに、先代の所有者はお主より使いこなしておったぞぃ」
マジかよ・・・・・
一体、どんだけ強かったんだ・・・・・・?
「ちなみにじゃが、そやつは魔族の者での。魔王はその一族から始まったのじゃよ」
「えっ!?」
「正確にはそやつの息子から魔王が始まったのじゃが・・・・・。それ以降は魔王の一族がイグニスを管理しておった。まぁ、誰もイグニスを使いこなせる者はおらんかったがの」
そりゃ、あんな剣を使いこなせる魔王がいれば今頃、人間は完全敗北してるよ。
それにしても、シリウスが持ってたのはそういう経緯だったのか・・・・・。
俺に託したのは美羽に託すなんて真似はしたくなかったてのもあるんだろうな。
危ないし。
俺なんて右腕焼かれたし・・・・・・。
俺がシリウスの立場でも絶対に渡さないね。
とにかく危ないから。
「俺がイグニスを使いこなせるようになるにはどうすれば良いですかね?」
「もっと強くなれ」
うわー、すごい意見だ。
最もだけど、ちょっと間に合いそうにないかな・・・・・・。
師匠は笑いながら白い顎髭をさする。
「まぁ、強いて言うなら剣との対話じゃな」
「対話?」
「一度、イグニスと対話してみるとよい。心を通わせるのじゃ。そうすれば少しはヒントが得られるかも知れんのぅ」
イグニスと対話、か。
考えたこともなかったな。
神器みたいな感じですれば良いのかな?
「よし、さっそくここで」
とイグニスを展開すると師匠に頭を叩かれた。
「ワシの家を燃やす気か!?」
あ、ダメですか・・・・・・。
じゃあ、どこですれば良いんだよ?
「あ、そうそう。ロスウォードが封印された場所って分かりますか?」
「禁断の海域じゃよ。ほれ、ダークテリトリーの三島に囲まれたあの海域じゃ。じゃが、それがどうかしたのか?」
「もしかしたら封印の跡が残ってるんじゃないかと思いまして。それを解析できれば少しは対抗出来るんじゃないかと」
「なるほど、倒すまではいかずとも多少の効果はあるかもしれんのぉ」
ダークテリトリー、か。
あの辺りって邪龍の類がいるから面倒なんだよなぁ。
とりあえず、先生にはそれを伝えるか。
ここから通信って出来るのかな?
「下界の者と連絡を取りたいのなら良いものがあるぞい」
「良いもの?」
「これじゃ、これ」
と師匠が短パンのポケットから出してきたのは、どっからどうみても携帯電話。
なんでだぁぁぁぁああああ!!!
なんでここにスマホが!?
おかしいよ!
絶対におかしい!
これも俺が情報源ですか!?
「とりあえず、これを使って魔法陣を展開してみぃ」
「は、はぁ」
と携帯を耳に当てて魔法陣を展開する。
すると―――――
『――――こちらアザゼルだ。イッセーか? どうした?』
おおっ!
ノイズが混ざって聞き取りにくいけど、先生と繋がった!
これ、本当に携帯電話じゃん!
あ、師匠がドヤ顔してる。
なんか、腹立つ。
「先生、聞こえますか?」
『ああ、ノイズが混じっているが聞こえている。おまえの師匠とは会えたのかよ?』
「ええ。で、ロスウォードの情報が手に入ったので、早いところ伝えとこうかと」
『マジかよ! でかした! さっそく聞かせてくれ』
「はい。まず―――――」
それから俺は師匠から得た情報を先生に伝えた。
先生達は直ぐに動いてくれるそうだ。
あと、しばらくは神層階に残ることも伝えておいた。
イグニスと対話をするためだ。
こうして、俺は師匠と少しの間だけど生活を共にすることになった。