やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
「こ、この力は・・・!」
ダークルギエルを挟んで向かい側にいる先生の変身した姿に、俺は心臓が鷲掴みにされるほどのプレッシャーを感じた。
ウルトラマンに似ていながらも、光とは違う雰囲気を纏うその戦士の名は、ティガアナザー。
先生の本来の力に非常に似た、強力な戦士・・・。
だが、それだけで、いくらひよっことは言え、先生に鍛えられた俺がここまで震えるものか?
答えは否だ。
俺を怯えさせているのは、目の前にいる先生の存在そのもの。
一点に凝縮された、力の結晶が周囲にその存在感を示していたんだ。
『くっ・・・!紛い物とはいえ、ここまで力を取り戻していようとは・・・!』
『生憎、フルパワーじゃないが、今のお前を殺すには十分だろう?』
流石のルギエルも、その圧力に圧されているのか、一歩、また一歩と後ずさる。
先生が本調子じゃない様に、ルギエルもまだ完全には復活していないって予想は確定してるのか・・・?
だとすれば、今が好機、だな!
なんとかプレッシャーに耐え、俺もギンガスパークを取り出し、変身プロセスに入る。
『ウルトライブ!ウルトラマンギンガ!!』
俺もギンガに変身し、ルギエルの退路を断ちつつもその様子を窺う。
ここで先生の力、超えるべき壁とその高さを見極める・・・!
『弟子も見ている事だ、手早く終わらせたいが、授業もしなければな!』
動く!
そう思った時には、ティガアナザーの姿は掻き消え、ダークルギエルと拮抗状態になっていた。
ティガアナザーの拳を受け止めるルギエルの腕は、徐々に押し込まれる様にして引かれていった。
『(何時の間に・・・!?)』
全く目で追えなかった・・・!
ウルトラマンでさえ、追いかけられない速さだとでもいうのか・・・!?
『くっ・・・!貴様っ・・・!!』
『どうした?お得意の召喚はしないのか?』
なんとかそれを破ろうとしたルギエルだったが、彼はひらりと舞う様に躱し、回し蹴りをヤツの腹部に叩き込む。
その威力は凄まじく、ルギエルは線上にあった木を何本もおりながらも吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた。
なんて・・・、なんて威力だ・・・!
変身してたとしても、喰らったらタダじゃ済まないぞ・・・!?
『ちっ・・・、力が出し切れんか・・・、やはり、本命には及ばんな・・・。』
だが、先生はその威力に不満でもあるのか、顔を顰めて舌打ちしていた。
嘘だろ・・・!?これで100%じゃない・・・!?
等身大にしては破格すぎる威力を、物足りないとでも言うのか・・・!?
『貴様っ・・・!これでっ・・・!!』
『ダークライブ!ディゴン!!』
足掻きのつもりか、ルギエルは持っていたスパークドールズの幾つかを、と言っても同一の個体だったが、を召喚し、逃げようとしていた。
その怪物は、さながら空想上の半漁人の様な姿をしており、不気味な印象を受けた。
そして、それと同時に以前コルネイユが使っていたロボット兵も呼び出し、辺りを埋め尽くす。
『行けッ!ティガを殺せ!!』
ルギエルの指示に、ざっと数十体はいる戦闘員達は、一斉に先生の方へと向かって行く。
一体一体は大した事ないが、流石に数が多すぎる。
これは、フルパワーを出せない先生には・・・!!
そう思い、俺はギンガサンダーボルトを放とうと動くが、先生が気配だけでそれを制してくる。
『見ていろ、八幡・・・、これが、君が目指すべき力だ。』
それだけ言うと、先生はまるで力を溜めるように全身を震わせる。
徐々に、先生の身体に光と闇が入り混じった様なオーラが浮き上がり、激しさを増していく。
そのオーラは彼の腕に収束し、俺達が見慣れた様なL字型に組まれた。
『完全に消えてしまえっ・・・!!』
L字に組まれた腕から、途轍もない程の凄絶さを持った光と闇の奔流が放たれる。
それは目の前に迫っていた怪人達を一瞬で呑みこみ、それでも衰えないエネルギーは周囲を一瞬で焦土に変えてしまうほどだった。
『うぉぉぉ・・・!?』
あまりにも強烈なエネルギーに、俺はギンガハイパーバリアを咄嗟に形成し、その余波から逃れる。
余波でさえこれなのだから、俺がもし全力で防御に徹したとしても、まるで意味を為さない程に、その光線は強烈だった。
それに暫く耐えていると、漸く放出を止めたのか、光が徐々に収まって行く。
それが完全に晴れた時、俺の目がもう一度見開かれた時には、辺りにはティガアナザーと、地面に伏せるルギエルの姿しかなかった。
嘘、だろ・・・?
たった、たった一撃の光線で、何十体もの敵を消し飛ばしたって言うのか・・・!?
これが・・・、これが、先生の力・・・!!
『さ、流石は・・・、伝説の7本槍の一角・・・、あの大軍を消し飛ばすとは・・・、容赦のない男よ・・・。』
怪人達を盾にしたとは言え、ルギエル本体にも相当なダメージが通ったのか、奴は肩を押さえながらも立ち上がり、恨めしそうに吐き捨てる。
容赦のなさには俺もそう思わざるを得ないが、それは仲間や身内を破滅させる敵に対しての姿勢ならば、これほど頼もしく思える人もいないだろう。
俺は、そう解釈したい。
『ふん、大決戦では不意打ちを食らったが、真正面から戦えば負ける道理はない、観念しろ。』
先生はそんな様子のルギエルを鼻で笑いつつ、トドメを刺さんとどんどん近付いて行く。
その一歩一歩は、まさに死神の歩みにも等しく、敵を容赦なく追いつめる狂戦士の様な威圧感があった。
『だが・・・、如何に貴様でも、あちらの手助けは出来ようか・・・!?』
しかし、ルギエルも存外しぶといようだ。
すぐさまダークスパークに別の怪獣のスパークドールズを読み込ませ、沙希達の方へと召喚した。
どんな怪獣を呼び出すか何て知らないが、良い事じゃないなんてのは考えなくたって分かり切っていた。
『ルギエル・・・!お前・・・!!』
なんて事を・・・!!
アイツ等の近くには、何にも出来ない奴等が大勢いるって言うのに・・・!!
だが、俺がここを離れる訳にはいかない・・・!
どうすれば・・・!!
『何をするかと思えば、くだらんな。』
だが、先生はそんな事など気にもしていない様に、先生はルギエルに急接近、再び胴に蹴りを叩き込み、ルギエルを強制的に釘付けにする。
吹っ飛ばされた体勢を受け身を取る事で整えながらも、やられっ放しは性に合わないのか、ヤツは手から闇の波動弾を連射しつつ、撤退を計ろうとしていた。
『八幡、仲間を信じろ、友を想いつづけろ、それが互いの勝利を引き寄せるカギになる。』
しかし、そんなルギエルからの反撃を、まるで普通に歩くように躱しながら、先生は俺に教えを投げる。
そうだ・・・、俺達は、鍛えて来たじゃないか。
だったら、沙希だって俺を信じて戦ってくれていると信じる。
それが、俺が出来る戦いなんだ!
『はいっ!!』
だから、俺は戦う為に、ギンガクロスシュートの構えに入る。
此処でコイツを仕留めて、悪夢を終わらせる。
それが、俺の役目だと分かっているから・・・。
sideout
noside
「(さっきのとんでもない力の波動は、先生が・・・?)」
同じ頃、脇にいる戸部翔を庇いながらも戦況を窺っていた彩加は、唐突に現れた強烈な力の波動を感じ取り、その強大さに驚愕していた。
その源が、自身の師である織斑一夏が発したモノであると気付くのに時間は掛からなかったが、自分達とはまるで違う力の強大さに恐れおののくばかりだった。
「(これが、先生の力・・・、まだ本調子じゃないって聞いてるけど、これは・・・。)」
同じウルトラマンの力を持っていても、その力の差は歴然。
それ故に、恐怖する以外になかったのだろう。
「(いけない・・・、今は、そんな事を考えている場合じゃない・・・!)」
しかし、今はそれどころではないと自分に言い聞かせ、目の前で行われている戦いに意識を向けた。
現在、沙希が変身しているビクトリーと、姫菜が囚われているアントラーによる戦闘が行われており、その激しさは時間を追うごとに増していた。
ビクトリーの強烈な蹴りを、アントラーは外骨格の強度による純粋な防御力のみで耐え、ダメージが通らないでいる様だった。
それに焦れたビクトリーが、頭部よりビクトリウムバーンを放つが、それも無意味と言わんばかりに効力が内容だった。
「(あの外骨格は、純粋な強度も高いけど、光線を無効化する力もあるみたいだね・・・、生身でやるよりも、武器を使った方が良いよ、沙希ちゃん。)」
『(了解、気を付けるよ!!)』
テレパシーで手短に交信した直後、ビクトリーはその姿をビクトリーナイトへと変え、アントラーの大顎に掴まらない様に立ち回る。
伊達に鍛えている訳では無く、その速さは一級品で、アントラーの咢を躱しながらも的確に剣戟を叩き込んで行く。
「(このまま、何も無く行けばいいけど・・・。)」
このまま何も無ければ、浄化の力を持っている沙希だけでも戦闘を終わらせる事が出来る、彩加がそう感じていた時だった。
一夏と八幡が向かった方角から、闇の様なオーラが飛び出し、アントラーとビクトリーナイトの間で一体の怪獣の姿を取った。
相手に威圧感を与える黒い身体に、昆虫を思わせるフォルム、胸部や頭部の黄色く発光する器官が目立つその怪獣は、宇宙恐竜の名を冠する怪獣、ゼットン。
嘗て、ウルトラマンを倒した怪獣として、宇宙に名を轟かせた存在でもあった。
「新手が・・・!!」
新手の怪獣の登場に、彩加は歯がみする。
一夏が近くにいれば、その怪獣の大まかな特徴や弱点は分かる。
だが今、一夏は此処にはおらず、目の前の怪獣を召喚した、より厄介な相手をしているのだ。
故に、目の前に現れた黒い怪獣、ゼットンをどう対処するかに頭を悩ませた。
だが、それはビクトリーナイトも同じだった。
二体の強力な怪獣に挟まれ、どちらを相手にすべきか躊躇ってしまったその一瞬が、大きな隙となった。
ゼットンに気を取られた一瞬に、アントラーの咢がビクトリーナイトの腹部を捕え、その動きを阻害した。
その隙を逃さず、ゼットンは頭部より火炎球を発射、ビクトリーの胸部に直撃し、盛大な火花をあげた。
「ッ・・・!!」
親友の名を叫ぼうとした彩加だったが、翔が傍にいる事を思い出し、その叫びを呑み込んだ。
幾ら非常時とは言え、その正体を濫りに知られる訳にはいかないと、改めて自らを律したのだ。
だが、如何に律したとて、状況が好転するはずもない。
咢から逃れたと思いきや、すぐさま近付いてきたゼットンの強烈な水平切りに咽元を攻撃され、ビクトリーは背中から倒れ込む。
正に劣勢、そうとしか形容できない状況だった。
自分はどうするべきか。
此処で正体を明かしてでも友を救うべきか、それとも秘密と共に翔を護る事に専念すべきか、決めあぐねていた。
「戸塚君・・・!俺、如何すりゃ良いんだべ・・・!?」
「戸部君・・・?」
その時、翔は何かを堪え切れなくなったように、彩加に問うた。
自分は何をすれば良い、こんな所で見ているだけで良いのか。
言葉にせずとも、その眼と表情は雄弁に物語っていた。
「こんなん、答えでもなんでもねーべ!ただ暴れてるだけだべ!」
その言葉には、今の状況を受け入れないという想いと、姫菜の本当の想いではないと言う事を察知する様な気配があった。
どうやら、彼女が操られていると言う状況を理解し、それでいてどうするべきかを問いかけていたのだ。
「俺は、海老名さんに自分の想いを押し付けてた、でも、それって違うっしょ?」
「・・・。」
彼の決意を、彩加は静かに聞いていた。
今、その言葉に水を刺すべきではない、と・・・。
「戸塚君達が何だって別に良い、俺だって、戦いたいんだべ!」
彩加の正体に勘付いていながらも、それは二の次三の次、今すべき事をしたい。
その覚悟は、彩加も感じている所だ。
「・・・、分かった、僕と一緒に行こう、手助けぐらいなら出来るよ。」
彩加は腰元からエクスデバイザーを取り出し、共に行くように促す。
二人で同一のウルトラマンに成れるかは分からない。
だが、今はやるしかない。
囚われている者と、苦境に立たされる者を救うためにも・・・。
その時だった。
翔目掛け、一体のスパークドールズが勢いよく投げ渡される。
流石はサッカー部とでもいうべきか、翔はそれを咄嗟ながらも受け止める。
「こ、これは・・・?」
「それを使うといいさ、君にはその資格がありそうだ。」
困惑する翔に、何処からともなく現れた宗吾が彼を指差しながらも告げる。
その言葉につられ、翔がそれを見ると、ウルトラマンの姿を持ったスパークドールズである事が窺えた。
その戦士は、モノ言わずに彼を見詰めている様であり、覚悟を問うている様でもあった。
翔は、物言わぬ意志を感じ取ったのか、固唾を呑み込み、大きく息を吐く。
彼は気付いているのだ、これを使うと言う事は、巷を騒がせる巨人となって戦う事であり、命を懸ける覚悟を要されるというコトだと・・・。
「俺は・・・、俺は戦いたい・・・!海老名さんを助けたいんだべ!!」
だが、そんな事は関係ない。
この状況を招くきっかけを作ったのは自分の浅慮。
責任の一端があると言える。
だから、それを雪ぐためにも、自分が戦うと。
そう決めた彼に、此処から逃げると言う選択は無かった。
その覚悟を受け止めたか、そのスパークドールズは光の粒子となり、彼の身体と一体化していく。
戸部翔という男を、信じる者を救いたいという想いを受け止めた戦士が認めた瞬間であった。
「行こう、戸部君!!」
「OK!行くしかないっしょ!!」
その想いを受け止め、彩加と共に翔は変身プロセスを取る。
右腕を天高く掲げ、変身の意思を示すと、彼の身体を光が包み込み、その姿を巨人へと変えていく。
光と共に舞い降りる二体のウルトラマンは土煙を上げて着地し、ゼットンとアントラーを牽制する。
『俺の名は、戸部翔・・・!ウルトラマンゼノン!!』
光の戦士、ゼノンは今、護りたいと願う想いと共に、今、復活を果たした。
その先にある、希望を紡ぐために・・・。
sideout
次回予告
ウルトラマンとして覚醒した翔は、囚われし想い人へ語りかける。
それが届こうとしている時、ヤツは再びその姿を現した・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
神谷宗吾は立ち上がる
お楽しみに