やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side沙希
「うぉぉぉ・・・!すっげぇ眺めだ・・・!」
清水の境内にやって来たあたし達は、そこから見下ろす京都の街並みに感嘆の声を漏らすばかりだった。
眼下に広がるその景色は、まさに圧巻で、あたし達の住む街とはまた異なったものだった。
「ホント・・・、凄いね・・・。」
語彙力が低下してる気がしなくもないけど、それぐらい感動するモノだった。
何せ、都会の色が混じる京都の町に、もみじやイチョウの赤黄が入乱れて、まるで絵画の様な彩りを見せてくれた。
あたし達の街じゃ見れない光景だったから、素直に感動してしまうのは無理もない。
「写真、撮っておこうよ、ほら、俺が撮るから皆は寄って寄って!」
感激していた時だった、大和がデジカメ片手に写真を撮ろうと勧めてくる。
まぁ悪い話じゃないし、こういう思い出作りには悪くないね。
「分かった、沙希。」
八幡に手を引かれると、何度されても嬉しくなっちゃうあたり、あたしも結構チョロいのかもしれないなぁ。
でもまぁ、ホントに嬉しいから、細かい事なんてどうでもいいや。
「ん、彩加と相模と、ざい・・・、ざい・・・、猪八戒も。」
「ブヒッ・・・!?」
だから、なんでまたブタみたいな反応するんだい・・・。
そこまで名誉なあだ名ではないから、普通に呼んでやりたいんだけどさ・・・。
「良いから早く来い、材木座。」
「八幡~!」
ちょいと辛口な八幡の対応に涙目になりつつ、材木座は写真のフレームに収まろうとする。
まぁ、大丈夫じゃないかな。
コイツ、案外打たれ強そうだし。
「撮るよ~、一足す一は~?」
『にーっ!!』
大和の掛け声に合わせ、全員が笑った。
それと同時にシャッターが切られ、フラッシュが焚かれる。
「撮れたよー。」
「サンキュー、今度は俺が撮るから大和が入れよ、相模。」
「比企谷君、ありがとね。」
大和からカメラを預かり、八幡は相模と大和のツーショットを撮るべく、二人を促していた。
二人が手すりに寄りかかり、少し体を寄せたところを見計らって、八幡は何にも言わないでシャッターを切った。
しかも連写モードにしているのか、次々にフラッシュが焚かれて、なんというかとんでもないことになっていた。
「撮れたぞ~。」
「「ホントに撮れてるの・・・!?」」
いや、気持ちは分からなくはないか。
今ので撮れてたらホントにすごいよね。
大和たちは勘弁してよと言わんばかりに、八幡から受け取ったデジカメのデータを見ていた。
「「うっそ・・・、撮れてる・・・!?」」
「嘘でしょ・・・!?」
あんな雑なやり方で撮れてるってどういうことだい!?
気になったので見せてもらうと、最初の方のポジショニングを決めているところは兎も角、最後の数枚はしっかりとカメラの方を向いて笑っていて、尚且つ背景もキッチリ綺麗に収まっていた。
すご・・・、どうやったんだろ?
「ふっふっふ・・・、どうよ?」
「どうやってやったんだい・・・?」
得意げな八幡に、大和は感心したように尋ねる。
まぁ、気になるのも無理はないか、普通は手振れとかピントが合わないとかあるだろうし・・・?
「これぞ俺の黒歴史№029、修学旅行の思い出よ燃え上がれだ!!」
なんでか、『ドヤァ・・・。』っていう効果音が聞こえてきた気がする・・・。
カッコよく言ってるけどアレだよね、リア充空間から早く逃げたいと言っているようなもんだよね・・・。
しかも、燃え上がれって、恋とか友情が更に熱くなれって意味じゃなくて、完全にリア充爆発しろって言ってるよね・・・。
まぁ、昔の事を考えたら無理はないけどさ・・・。
「比企谷君・・・、君だってリア充だろ・・・。」
「そうだよ?」
認めちゃったよ・・・。
「まぁ、撮れたんだからいいじゃないかな?次は比企谷君と川崎さんで撮るよ。」
「サンキュ、沙希~。」
そんなグダグダな場を取りまとめるように、相模が苦笑しながらもデジカメを大和から受け取り、八幡とあたしを撮ろうとしてくる。
それに甘えて、あたしと八幡は清水の寺をバックに撮ってもらうことにした。
あ、いいこと思い付いちゃったかも?
悪巧みしながら、あたしは八幡の腕に身体を寄せて、シャッターが切られるその瞬間を待った。
「それじゃあ撮るよ~、はいチーズ!」
今っ!
フラッシュが焚かれるその一瞬前に、あたしは八幡の腕を軽く引っ張って身体をこちらに寄せつつ、八幡の頬っぺたにくちづけした。
「「ヒューーーッ!」」
あたしがそれをやることを見越していたのか、彩加と大和がやるねぇと言わんばかりの声を上げた。
しかもいつの間に取り出したのか、携帯でカメラも撮ってるし・・・。
け、結構恥ずかしい、かな・・・?
いや、ぽかぽかして、嬉しいけど、ね・・・?
「さ、沙希・・・?せめて唇にくれよ・・・?」
「あ、そっち?」
結構大胆な事言ってくるなぁと思ったけど、頬がかなり赤くなっているのが分かった。
それを見て、あたしもまた頬が赤くなってしまう。
視界の端で、材木座が何か悶えてるけど、まぁ仕方ないか。
「つ、次行こうぜ・・・!」
やっぱり八幡も恥ずかしかったのか、一目散にどこかへ行こうとする。
そんな彼の姿をあたし達はおかしく思いながらも、やっぱり楽しいなとか思いながら追いかけた。
まだ、修学旅行は始まったばかり・・・。
sideout
noside
「御馳走様っ!いやぁ~、喰った喰った~!」
清水から出た八幡達は、近場に在った休憩所にて昼食を採っていた。
八幡は沙希が作って来た弁当に舌鼓を打ち、彼女が作り過ぎたと言っていた量を平らげてしまっていた。
無論、一人で食べたという訳では無く、南が大和の為に作って来た弁当や、、彩加と材木座が作って来た弁当のおかずと交換しながらだったが・・・。
その途中で、八幡と沙希の食べさせ合いっこや、大和と南の嬉し恥ずかし関節キスなどがあって、彩加がニヤニヤした様な表情を浮かべたり、材木座が吐血するなどいろいろあったが、そこは敢えて割愛する。
まぁそれは兎も角として、友と過ごす時間は、彼等にとって何よりの時間なのかもしれない。
「沙希の弁当は相変わらず美味いなぁ、作ってくれるのに感謝しないとな。」
「良いって、今日はちょっと張り切っちゃったし、それに、八幡が喜んでくれるならあたしは、それだけで嬉しいから、ね?」
褒めちぎる八幡の言葉に、沙希ははにかみながらも、彼のためなら苦でもなんでもないと笑った。
いや、事実そうなのだ。
八幡の為を思って作るからこそ、料理の作り甲斐と言うモノがあるのだ。
「沙希・・・、結婚して。」
「(プロポーズしたよこの人ッ・・・!?)」
そんな沙希の想いに打たれたか、八幡は彼女の手を握って愛を囁いた。
それを見ていた大和は、ドストレートなその言葉に驚きつつ、何処か呆れていた。
一体何を見せ付けてくれるんだと、相当羨ましく思っていたのだろう。
「勿論、喜んで・・・。」
そんな八幡に、沙希は頬を染めながらも頷いていた。
「(受けちゃったよこの人・・・!?)」
そんな沙希の行動に、南はマジかよと言わんばかりの感想を覚えた。
確かに好きな男子からの告白は胸が高鳴るが、そこまでいくほど純情ではいられない歳なのだ。
それを考慮しても、よくやるよと言うのが本音だったに違いない。
「ヌォォォォ・・・!わ、我には眩しすぎるゥゥゥゥッ・・・!?ノォォォォ!!」
そんな青春、と言うよりはバカップルの惚気に巻き込まれる形になった材木座が、頭を抱えてのたうち回って、通りかかる人々に白い目で見られていた。
まぁ、そういう青春風景とは無縁に近い存在だと自認している分、いざその場面を見せ付けられると、精神にクリティカルヒットしたのだろう。
「あはは、八幡と沙希ちゃんは仲良しだね~。」
「「(戸塚君、恐ろしい子ッ・・・!!)」」
そんな材木座を無視し、おにぎりを可愛らしく頬張りながらも笑う彩加の様子に、大和と南はおいおいと言わんばかりの感想を抱く。
フォローしてやれと思ってはいるが、それでもフォローしきれない部分も多々ある事に代わりは無い。
だから、彼等は憐れと思いつつ、内心で合掌するのみだった。
「あー・・・、それなら、近くの神社で願掛けしない?ほらここ、縁結びとか念願成就とか色々御利益あるみたいだし?」
そんな訳のわからない空気を察した南は、苦笑を浮かべながらも観光案内マップを広げ、現在いる場所から最も近い寺院に目を着けた。
そこは、主に縁結びを売りにしている事で有名であるが、他にも仕事運などを上げるパワースポット的な場所としても知られているらしい。
故に、八幡と沙希をここに連れて行っておけば、後は当人たちで勝手にバーニングラブしてくれるだろうと考えたのだ。
その推測は正しかったようだ。
「お、それ良いな、行しかないな。」
「だね、大志とかにも受験用にお守りでも勝って帰ろうかな。」
八幡と沙希は見つめ合いから帰還し、テキパキと移動の準備を始める。
自分達以外の事も、家族への土産の事も考えている辺り、周りが見えていないと言う事では無いのだろう。
まぁ、はた迷惑な事になっている事は否定できないが・・・。
「あ、ははは・・・、材木座君、行こうか・・・、後で漫画ミュージアムの方に付き合うよ。」
「か、忝のうござるぅぅ・・・。」
そんな二人の様子に苦笑しながらも、大和は今だに打ちひしがれる材木座の肩を慰めるように叩きながらも、自身も片づけを始めた。
あとで趣味が共有できる場所に行こうという辺り、相当に気を遣っている事が見て取れた。
そんな彼の気遣いに、材木座は涙目ながらも頷き、何とか精神を持ち直していた。
それほどまでに、今の空間のプレッシャーは、違う意味で胃に来ていたのだろう。
それはさて置き・・・。
片付けを終えた一行は雑談を交えながらも目的の神社まで歩き、何段もある階段を昇って境内までやって来た。
「ひぃ・・・、ひぃ・・・、も、ダメ・・・。」
運動不足が祟ったか、材木座は昇り切った所で息切れを起こし、膝を着いて肩で息をしていた。
「もう、だらしないなぁ・・・、そこのベンチに座ってて?」
そんな彼に苦笑し、彩加は持っていた水の入ったペットボトルを差し出し、近くのベンチを指差していた。
体力が戻ってから参拝すれば良い、そう言っているのだろう。
「す、すまぬ・・・。」
彩加に礼を言いつつ、材木座は足を引き摺ってベンチへと向かって行った。
満身創痍な彼を放置し、八幡と沙希はさっさとお参りに向かって行った。
鳥居をくぐり、近くに在った手水屋に行き、柄杓で手を清めていた。
「こういう作法って、調べなきゃわからんよな。」
「そうだね、正月にお参りするけど、正式なやり方ってあんまり分からないよね。」
などなど、分かるような分からない様な話をしつつ、八幡と沙希は連れ添って賽銭箱の前まで赴いて、賽銭を投げいれながらも鈴を鳴らし、柏手を打って願を掛けた。
暫く手を合わせて拝んだ後、二人は顔を上げて見つめ合い、互いに頷き合って賽銭箱の前から立ち去った。
「何お願いしたんだ?」
「ん~?八幡が教えてくれるなら、教えてあげよっか?」
何を願ったか聞いてくる八幡に対して、沙希は意地悪な笑みを浮かべながらも言葉を濁した。
教えてあげたいけど、普通は嫌だ。
そう言っているように見えてならなかった。
「俺か?俺は、沙希や彩加、それから皆が楽しくいられますようにって、そう願ったよ、あ、ついでに先生の力も戻りますようにって。」
彼女の口からその答えが聞きたかったのか、八幡は臆することなく伝えた。
彼の大切な人達と、楽しく過ごせる時間、それが彼には何よりも大事なのだ。
師であり、誰よりも慕う大人である一夏の事をついで扱いしてしまうぐらいに、彼は今、これまでにない幸福の中にいるのだろう。
「ふふっ、じゃあ約束通り教えてあげないと、ね?」
微笑みながらも、沙希は八幡の耳に唇を寄せ、囁いた。
「八幡と、皆と、ずっと笑っていられますように、ってお願いしたよ。」
「そっか、じゃあ、そうなろうな。」
「うん♪」
その言葉に、八幡は照れた様に笑いながらも、そうなりたいと強く願った。
喩えそれが、自分達以外にどう取られようとも、その道を進む覚悟を持って・・・。
sideout
次回予告
充実した時を過ごす八幡達だったが、忍び寄る影にはそんな事など関係なかった。
それが思うは、自身の利のみ・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
戸塚彩加は立ち上がる
お楽しみに