やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side沙希
時は流れて、修学旅行当日。
あたし達は新幹線に乗るために東京駅への現地集合と相成った。
早い時間発の列車に乗るから、結構早い時間に起きる事になったけど、身体は何時もより軽く、心も何処か踊っている様だった。
らしくないって分かってるけど、仕方ないじゃないか。
何せこの修学旅行は、あたしの人生で初めて真っ当に楽しみに感じている修学旅行なんだから。
小学校の頃からボッチ経験者だったから、仲のいい相手と一緒に~、なんていう事は無く、ただ独りで予定に沿って動いていたに過ぎない。
そこに楽しさを求めろなんて酷な事、出来る筈も無かったね。
まぁ、その時は少ない小遣いで家族へのお土産を考えて過ごしてたから、退屈だけはしなかったかな。
それはさて置き。
そんな経験があるあたしが、初めて友達や彼氏と一緒に、それも遠慮することなく過ごせるんだ。
どんな事があるのか、どんなことをしようか、どんな思い出を作ろうか考えるだけでワクワクしたし、子供みたいに早くその日が来ないかとさえ思っていたほどだったよ。
だから、と言うべきだろうか、あたしは張り切り過ぎて弁当を作り過ぎてしまった。
普段から八幡への手作り弁当や、彩加達への餌付け用にそれなりには作ってるけど、着替えやその他諸々が入ったボストンバッグとは別に、弁当を入れるカバンを持ってくる羽目になった。
とは言え、弁当箱は捨てられるようにスーパーの惣菜に使われている様なプラスチックのモノを使ったから、帰りは荷物にはならないけど、少し重いかな・・・?
「沙希~、おはようさ・・・、ってなんだその荷物の量は・・・?」
家からの最寄駅に着いた所で、八幡とばったり鉢合わせる。
必要最低限の物しか持って来てないのは八幡らしいなぁと思うね。
「お、おはよ・・・、お弁当、張り切り過ぎちゃって・・・。」
「作ったなら呼んでくれよ、荷物持ちぐらい軽いからさ。」
あたしが苦笑しながらもカバンを見せると、八幡は優しく笑ってそれを持ってくれた。
あぁもう、そんなことしてくれたら、ますます惚れちゃうじゃないか。
ホント、大好き。
「ありがと、期待しててね?」
「沙希の飯は旨いからな、めっちゃ期待してる。」
ふふっ、嬉しいな。
そんな他愛もない事を話しながらもホームに着き、丁度東京駅の方面へ向かう電車が来たので乗り込んだ。
「あ、比企谷君おはよ~!」
「川崎さんもおはよ、二人とも仲良しだね。」
乗り込んだ同じ車両に、大和と相模がたまたま乗り合わせていた。
あんたらも、あたし達程じゃなくても仲は良いと思うけどね。
まぁ、そんな野暮ったい事は止めとこう。
「二人ともおはよ、早いね。」
友人とも呼べる二人に、あたしはとりあえずおはようぐらいは言っておく。
まぁ、色々話す事もあるし、打ち合わせもしておきたいからね。
通勤ラッシュ前の、ほんの少しだけ空いているスペースに集まり、取り敢えず予定を立てていく。
「とりあえず、京都に着いたらまずは清水が良いかな?」
「俺もそう思う、沙希は行きたいところとかあるか?」
相模の提案に頷く八幡が、あたしに行きたい所を聞いてくる。
あたしは八幡と一緒なら、何処へでも行きたいかな、なんてね・・・。
「うん、それが良いかな、調べてみたけど、銀閣は兎も角、金閣はかなり離れてるみたいだし、行ってみないとね。」
「流石は沙希、考えてくれてるんだなぁ。」
当たり前じゃないか、八幡と、それに彩加達とも一緒に行ける修学旅行なんだ、一分一秒たりとも無駄に何てしたくないんだよ。
まぁ、言ったら言ったで、大和と相模にニヤニヤされそうだから言わないでおくけど。
「あ、皆おはよ~!」
そう思ってた時だった、別の車両から彩加がこっちに移って来た。
人にぶつからない様にしながらも、少し早足でやってくるその様が、なんていうか天使みたいでホントに困る。
ホント、なんでそんなに可愛いのかね。
あたしと南っていうマジの女子よりも可愛いって、どういう事なの。
まぁ、慣れたと言えば慣れたけど、それでも少し悔しい、かな・・・?
「おう彩加、今日も元気だな。」
八幡は笑顔で彼を出迎えていた。
ホント、心を許した相手にはここまで良い笑顔になるんだよね。
独り占めしたいって思っちゃうのは、あたしのちっぽけな嫉妬なのかな?
「沙希ちゃんもおはよ、これ、宗吾さんから頼まれてたモノだよ、見つからないようにね。」
そう言えば、宗吾さんからスパークドールズが支給されるって話だったね。
まぁ、戦力増強には持って来いだし、ビクトリーにはそれが一番合ってるかな?
「おはよ彩加、ありがとね。」
彩加から幾つかスパークドールズを受け取り、あたし達以外に見付からない様にカバンに仕舞ってから、これからの事を考える。
新幹線では八幡の隣をガッチリキープした、肩にもたれ掛って寝たふりする事だって夢じゃない。
いや、寧ろ現実にしてみるのも悪くないね。
やばっ・・・、顔がにやけちゃう・・・。
「ムホホン!皆の者、おはようであるぞ!」
そう思っていた時だった、喧しいデカいのが割り込んで来た。
無駄にデカい声だ、聞いてて頭の中がぐわんぐわん揺れそうになるよ。
「電車の中ではお静かに。」
「ふぁい・・・。」
あたしの事が苦手だと聞いていたので、取り敢えず語調を強くしつつ注意すると、何とも情けない声で小さくなった。
これ、いい感じに使えばそこまで疲れなくて済むかも。
まぁ、何とかとムチは使い様、ってね。
「材木座君、取り敢えず旅館でそう言うのは聞くから、今は何処行くか皆で決めようよ。」
「や、大和殿・・・!!」
大和が超が付く御人好しで良かったね、木材屋。
アンタ等が楽しんでる間にあたしは八幡と彩加、ついでに相模と京華とハネジローの写真見て和んどくから。
まぁ、八幡もなんだかんだ面倒見良いし、その手の話に付いて行けると聞いている。
・・・、少し、すこーしだけ、あたしも手を出してみようかな、なんてね・・・。
初日の、それも出鼻からこうも穏やかな気持ちになれたんだ。
きっと、この旅は良い旅になる。
あたしはそう信じて疑わなかった・・・。
sideout
noside
「着きました、京都!!」
時間は飛んで、八幡達は予定通りに京都駅に到着した。
電車内では、八幡と沙希は隣に座って他愛のない会話をして盛り上がり、彩加と大和はそんな二人を優しく見守っていた。
最早、彼等の仲は語るに及ばず。
だから、彼等もそれを見守り、行き過ぎたらからかいと共に止めるつもりでいた。
そんな様子に、南はもう何も言わないと言わんばかりに苦笑し、材木座は居た堪れない心地になってしまっていた。
まぁ無理もない、南は兎も角、リア充空間は材木座にとって毒マスの上に立ち続けている様なものなのだ、さぞつらい事だろう。
「元気なこった・・・、俺は徹夜で疲れてるんだよ・・・。」
だが、そんな彼等に呆れるように、一夏は大きく欠伸をかいていた。
徹夜、と言ってはいる様だったが顔には疲労の色はなく、だが何処か気だるげな雰囲気が漂っていた。
「どうしたんですか・・・?」
「セシリア達の暴走を止めて来た・・・、説教し続けて一晩かかったんだよ・・・、お陰で、全く休めてないんだよ・・・。」
南が探る様に尋ねると、一夏は心底げんなりした様に話した。
どうやら、この修学旅行にもアストレイのフルメンバーで同行しようとしていたのだろうが、一夏が事前に察知し、その計画を一晩かけて阻止したようだ。
無論、非難轟々だったが、土産はキチンと渡す事を条件に、何とか大人しくさせる事に成功したらしい。
「まったく・・・、大志君と小町クンしかいないと言うのに、お前等があの街を離れたらどうなるんだと言いたいよ・・・。」
「あ、ははは・・・。」
そんな一夏のボヤキに、南は何とも言えないと言わんばかりに乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
だが、彩加以外の誰も知らなかったのだ。
アストレイの中でも、影の存在として屋台骨を支えてきた男が、騒ぎに紛れて既に近くに来ている事に。
「まぁ、時間も時間だ、景色のいいところで飯にしようじゃないか。」
そう言いつつ、彼は自分のカバンから観光用の地図を取り出し、一つ目の目的地への算段を着ける。
「走るか。」
「待って、何処まで走るんですか?嵐山?」
込み合うバスを嫌ったか、彼は自分の能力に物を言わせた移動法を試そうとしていた。
それに突っ込もうと八幡は慌てて止めようとする。
自分も出来なくはないが、それでも大和や南、そして材木座が着いて来れる筈もない。
何せ、数十キロの距離をたったの数分で走り切れるのだ、人間ではとてもではないが一緒にいる事など出来ないのだ。
「いや、俺は京都の外れに在る酒造までだ、京都駅から観光がてら歩いて行くのも良いが、時間が惜しいんだ、君達はゆっくり行くと良い。」
「いや、そりゃ時間は少ないですけど、バス待つ時間ぐらい・・・。」
「久々の京都なんだ、地酒の一本二本は・・・。」
『(て、テンションあがってらっしゃる―――!?)』
何時になく饒舌な一夏は、京都の酒に思い入れがあり、各地を回るつもりが見て取れた。
何時もの表情は崩していないが、それでもいつもに増して熱の籠った声でまくし立てる一夏の姿に面食らっていた事だろう。
「と言う訳で俺は行くぞ、連絡は何時もの手段で!」
そう言いつつ、一夏は人込みに紛れた瞬間に見えなくなり、彼等だけが取り残される事となった。
「ホッ!?織斑先生は何処に!?」
まだ一夏の事をただの人間だとしか思っていない材木座は、その一瞬の出来事に目を丸くし、辺りを見渡していた。
まぁ仕方ない、紛れて目が追えない訳では無く、忽然と姿を消した様なものなのだから。
「気にすんな、あの人はあんなもんだ、置いてくぞ。」
だが、一夏のペースにはもう慣れっこな八幡は、タメ息すら吐く事なく、最初の目的地までの道のりに歩みを進めた。
引率の役目を完全に忘れている一夏はこの際無視して、自分達の目的の為に歩く事にしたのだろう。
何せ、この地は京都。
千葉育ちの彼等にとっては未知の地であり、歩けば見た事も無い様なものなど幾らでもある。
だから、気にせずに歩くとしよう。
古都と呼ばれる京都の町を、彼等自身の目で見て、楽しむために。
「行こうぜ、まずは清水の舞台だ。」
八幡は沙希の手を取りつつ、微笑みを湛えて仲間達に促した。
人生で初めて、理由の無い悪意に晒される事の無い修学旅行を、大切な人と楽しむために・・・。
sideout
次回予告
仲間と共に歩く京都の町で、八幡達は青春と言うモノを噛み締める。
何時かそれが、思い出と成り果てても、今を生きていた・・・。
次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
川崎沙希は囁いた
お楽しみに