やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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戸塚彩加は見守っている

side八幡

 

「という訳で、修学旅行の班決めを行いたい。」

 

海老名姫菜という女子生徒からの依頼を一応断った後のHRにて、修学旅行で行動を共にする班決めが執り行われようとしていた。

 

現在仕切っているのは担任の平塚センセイだが、どういう訳か、ドアの近くに織斑先生がいるんだよな。

 

監視って言うほどじゃないけど、まるで睨みを利かせる感じだったから、何と言うか怖い。

 

まぁ、別に俺がどうこう言うほどじゃないから、取り敢えず無視しておこう。

 

って言うか、海老名姫菜って一々呼ぶのまどろっこしいから、これから海老名さんって呼んでおくとするか。

 

それはさて置き・・・。

 

「班決めは男女混合の6人までで組むと良い、流石に部屋割りだけは別だ、不純異性交際は看過できんからな。」

 

それって、暗に俺と沙希の事を言ってんのかね。

沙希とそう言う関係って見抜かれるのは覚悟してたけど、流石にあの女教師に目を着けられたらロクなもんじゃないな。

 

「まぁ、宿泊先のホテルで、夜に異性の部屋に忍びこまなければ、俺達は何も言わないけどな。」

 

そう思っていると、先生が牽制する様に言葉を発する。

 

言い掛かりに近い面倒事を防ぐ意図が過分に含まれているが、夜遊びはやめておけと言っている様なもんだから、誰もその真意には気付かないだろう。

 

気付くとすれば、それは悪意を抱えた奴等だけだ。

その証拠に、平塚センセイは悔しそうに表情を歪めていた。

 

予想が当たったって事か・・・、何と言うか、嫌になるぜホント・・・。

 

「・・・、それでは、班を決めて後ろの黒板に書いておけ、しおりは後で配る。」

 

それだけ言い残して、平塚センセイは織斑先生とメンチを切り合いながらも教室を後にした。

 

何と言うか、思惑を知っている奴等から見れば、途轍もなく歪な物に見えてるだろうけどな。

 

それはさて置き・・・。

 

「沙希~、彩加~、組もうぜ~。」

 

これで心置きなく班が組めるってもんだ、言質は取ったから何を言われても知らぬ存ぜぬで通せば問題はないだろう。

 

なので、俺は最愛の彼女と、最高の親友を呼んだ。

 

この二人が居れば、何が起こっても楽しいに違いないだろうからな。

 

「良いよ、八幡。」

 

「僕も良いよ~。」

 

近くに来ていた沙希と彩加は二つ返事で了承をくれた。

 

それを見て、遅れまいとでも言うのか、大和と相模もこっちに寄って来た。

 

アイツ等、実は付き合ってるとかそんなんか・・・?

何となく距離が近い気もするし・・・。

 

いや、それを考えるのも野暮ってなもんだな。

 

「比企谷君、俺も入れてくれよ~。」

 

「あ、ウチも良いかな?」

 

「何時もの5人だな、勿論良いぜ。」

 

その申し出を、俺は二つ返事で快諾する。

 

この二人も、なんだかんだで友達って呼べるだろうからな、一緒に回ってみるのも良いだろう。

 

それに、もしもの時の為に、事情を知っているヤツが近くにいてくれた方が何かとやり易いんだよな。

 

「それじゃあ黒板に書いとくね、定員割れしてるけど、まぁ良いんじゃない?」

 

意見がまとまった所で、沙希が教室の後ろに在る黒板にメンバーを書きに動く。

 

俺が行けばいいのに、なんか悪いな。

 

だが、今はそれよりも話し合っておくことの方が多いだろうな。

 

「班行動だからな、何処に行く?」

 

大まかに行動範囲を決めておけば、はぐれても何とか落ち合えるだろうし、もしヤプールの侵略があっても意識しやすいからな。

 

それは建前としても、色々と楽しみなのも事実だ。

さてさて、何処に行こうか?

 

「映画村とか良いんじゃない?」

 

暴れん坊将軍とか見れるかな?

 

「ウチ、祇園行ってみたいな。」

 

祇園で沙希の舞妓姿が見れるのかな?

っていうか、めっちゃ見たい。

 

「僕は嵐山が良いなぁ。」

 

紅葉楽しみだね!

 

「けぷこんけぷこん、我は漫画ミュージアムが良いと思うぞ!」

 

日本のオタク文化の象徴、良いね!

 

・・・?

 

『・・・?』

 

「ムホホン?」

 

あれ、えぇと・・・?

 

まぁ、うん、その・・・。

 

『誰だお前ーーー!?』

 

「ムォォォ!?」

 

なんだこの無駄に声の良いデカいのはーーー!?

 

しかも何でショック受けたみたいにのたうち回ってんの!?

 

「ひ、酷いではないか八幡!!何時でも来いと言っていたではないか・・・!!」

 

「そうなの?」

 

その豚の妖怪みたいなヤツの言葉に、彩加が怪訝そうに俺に尋ねてくる。

 

いや、そんな約束してな・・・、あれ・・・?

 

「あ、あー・・・、思いだした、お前は確か・・・。」

 

そういやコイツ、奉仕部に居た頃に何回か尋ねて来てた・・・。

 

その依頼は、確か・・・。

 

「思い出した様で何より・・・!我は剣豪将軍、材木座義輝であるぞ!」

 

「あのチグハグな小説持ってきてた奴か。」

 

「ひぎぃぃぃ!!」

 

言い終わる前に言い切ってやると、またも寄生を上げてのたうち回った。

 

机と机の間で転がり回ってるのに、よくぶつからないよなぁ。

 

相模、気持ちは分かるが、そんなに引き攣った顔浮かべてやらないでくれ。

コイツ、半年前に会った時はもう少しましだったんだよ・・・。

 

「戻ったよー、って、なにこの猪八戒。」

 

そんな事を考えていると、沙希が黒板の方から戻ってくる。

 

「ブヒッ・・・!?」

 

おい、なんで豚っぽくなるんだよ。

俺達はあれか、ガンダーラ目指す一行かよ、2人ぐらいメンバー多いだろうけどさ。

 

って、そんな事はどうでも良いか。

今はこの場を何とかして纏めないとな。

 

「おい、ざい・・・、材木座、今まで絡んでこなかったのに何の用だ。」

 

「なんで言い淀んだの?我忘れられてた?」

 

そんな些細なこと気にすんなっての。

 

奉仕部と決別してから関わってないんだから、そりゃスパッと忘れる事もあるさ。

 

「良いから、なんでいきなり絡んで来たんだよ?」

 

だと言うのに、こんなタイミングで何故俺達の所に来たのかが分からんのだよ。

 

「だって、奉仕部に行っても無視されるし、八幡はいないし、美人さんとイチャイチャしてるし、我は入れないし、小説も読んでもらえないし、どの班にも入れないし・・・。」

 

あぁ・・・、確かに俺以外にはその手の話は通じそうにないなぁ。

 

っていうか、どの班にも入れないって、それは確かに辛いよなぁ・・・。

 

奉仕部に居なかったからとはいえ、コイツに俺達の内情なんて関係ないし、少し悪いコトしちまったかな・・・?

 

「え、材木座君って、小説書くのか!?」

 

おっと、そうでもなかったよ。

あんまり興味無さそうな大和が食いついた。

 

案外守備範囲広いんだよな、大和って・・・。

 

「ふ、ふひっ・・・!?」

 

「あー、大和、コイツの書いてる小説はだな、どっかのラノベから持って来てる様な設定ばっかりだぜ?」

 

キョドってるところ悪いが、事実は伝えてやらないと。

 

最初読んだときはルビの振り方が変だわ、異名が完全なパクリだわで突っ込み処満載だったんだよな。

 

まぁ、好きな奴には受けるって奴だろうが、まぁ冷静に見たら突っ込みたくはなるわな。

 

「あ、俺割とそう言うの好きだよ?中学時代は割と、アレだったから・・・。」

 

黒歴史掘り起こしてそうな気もするけど、まぁ趣味が合うなら言及しないでおくか。

 

そこらへんに水差すほど野暮じゃない。

 

「良かったらウチの班においでよ、ただし、比企谷君と川崎さんに迷惑掛けると怖いぞ~?」

 

そんな訳ないだろ。

いや、そんな事はあるか・・・。

 

「ほ、ホント・・・?」

 

大和の誘いが信じられなかったのだろう、材木座は俺達の表情を窺うように見てくる。

 

「ウチは別に良いけど・・・、静かにね?」

 

「僕は良いよ。」

 

相模と彩加は、少し呆れながらも受け入れる態度を示していた。

 

なんだかんだ、放置は寝覚めが悪いと思っているんだろうか・・・。

いや、放置し続けてた俺が言うのも何か違う気がするけどさ。

 

「あたしはどっちでもいいけど、邪魔だけはすんじゃないよ?」

 

「ふぁい・・・。」

 

ちょいと厳しい沙希の御言葉に、材木座はすっかりおとなしくなった様だ。

 

お前あれか、スケバンぽく見える奴は苦手なのか。

まぁ、大人しくしていてくれるんだったら、別に取り立ててどうこう言うつもりもないけどな。

 

まぁこれで色々な厄介事から逃れられる確率も上がったし、楽しそうならいいか。

 

人生で初めて、まともに楽しめそうな修学旅行なんだ、悔いが残らない様にしないと、な・・・。

 

そう思っている俺の心を読んだか、視界の端で先生は小さく微笑んでいた。

 

まるで、そうしろと言わんばかりに・・・。

 

sideout

 

noside

 

「へー、やっぱり仲良しメンバーで組むんだね、良い事じゃないか。」

 

「そうなんですよ、八幡と沙希ちゃん、すっかりテンション上がっちゃってて。」

 

「ははは、あの子たちらしいな。」

 

その日の放課後、彩加は喫茶店営業中のアストレイのカウンターで宗吾と談笑していた。

 

どうやら、宗吾に修学旅行の情報を流している様だったが、それが何の為なのかは分からなかった。

 

因みに、八幡と沙希は予備校があるとの事で、二人揃って予習の為に図書館デートするとの事だった。

 

「メンバー内でくじ引きしとくよ、流石に今度全員で出向いたら、一夏にマジ切れされそうだしな。」

 

「そうですかぁ、先生ってやっぱり凄いんですね。」

 

やり過ぎると一夏に何されるか分かったもんじゃないと肩を竦める宗吾に、彩加はからから笑いながらも関している様だった。

 

力を失っても尚、力を取り戻したメンバーを引かせる程の存在に、ある意味で彩加は憧憬にも似た感情を抱いていた。

 

本来の強さがどれほどのモノか、それを確かめてみたくなったのだろう。

 

「まぁ、褒められたもんじゃない事も一杯してきたからな・・・、で、これが頼まれていたモノだよ。」

 

その言葉に、宗吾は気取られない程度に渋面を作った。

 

過去にやって来たこと、力を着ける為に一夏がやった事が、心の何処かで引っ掛かっているのだろう。

 

だが、その気配もすぐに消え、話をそらすように懐から数枚のカードの束を手渡した。

 

一番上には、嘗て彩加が託されたガイアの力を宿したカードがあり、残りのカードもそれに近いモノであると推察できた。

 

どうやら、依頼していたモノを取りに来たついでに、修学旅行の件を話していた様だ。

 

「ありがとうございます、まさか本当に作っていただけるなんて・・・。」

 

「大昔にウルトラマンヒカリから教えて貰ったんだ、まさか応用できるとは思わなかったな。」

 

礼を言いつつ、彩加は手元に来たカードを見やる。

 

そこには彼が託された、ガイア、コスモスのウルトラマンカードと共に、何処かメカニカルなデザインの怪獣が描かれたカードがあった。

 

「Xにはウルトラマンの力をカードに収めて、それをロードしギンガのように使用する力があった、なら、ビクトリーのように怪獣の力も使えないか、っていう発想が出来る君の想像力には感服するよ、現に成功してるみたいだし。」

 

どうやら、提案自体は彩加が行ったもので、宗吾はそれを寸分違う事なく、オーダー通りに仕上げたようだ。

 

ウルトラマンカードを解析し、それを応用する事で怪獣の力をもコピーしたとでも言うのだろうか。

 

「怪獣をアーマーとして纏い、その力を再現する、その名もサイバーアーマーってか。」

 

『御力添え感謝します、エクシードは浄化の力でしかありません、浄化が効かない邪悪その物とも戦う為の力になります。』

 

宗吾の解説に、Xもまた感謝の言葉を口にする。

 

浄化の力を得たとはいえ、それが効かない純粋な悪に対抗するためには、彼ら自身の地力の底上げも必須となってくる。

 

故に、今回の協力は非常にありがたいモノだったのだろう。

 

「気にするな、腕を錆びつかせたとあっちゃ、一夏になんて言われるか分かったもんじゃない、良い腕ならしになったよ。」

 

気にするなと言わんばかりに、宗吾は肩を竦めつつ、自分のグラスに入っていた紅茶を一口啜った。

 

「だがまぁ、俺の想像だが次の修学旅行辺りでその力は使う事になりそうだな、沙希ちゃんにも幾つかスパークドールズを渡しておこうか。」

 

「分かりました、八幡には?」

 

「彼には一夏が何かと世話を焼くさ。」

 

そう言う宗吾の言葉に、彩加は思い当たる節があり過ぎて苦笑する以外なかった。

 

「あはは・・・、それじゃあ、僕はこれで失礼しますね。」

 

そろそろ用事があると、彩加は席を立ち、サイバーカードを自作したホルダーに収納した。

 

「あぁ、気を付けてな。」

 

店から出て行く彩加を見送り、彼はグラスを片付けつつも、懐から別のカードを5枚取り出した。

 

「俺達がしてやれる事って、なんなんだろうなぁ・・・。」

 

彼の手の中には、ダイナ、ネクサス、マックス、メビウスのカードと、もう一枚、トリコロールの身体を持ったウルトラマンのカードもあった。

 

最後の一枚を手に取り、彼は問いかけるように一人呟いた。

 

これを最後に託すべきか託さざるべきか、それを決めあぐねている様にも見えた。

 

自分達が歩いて来たのは、決して誉められない事も幾らかしてきた、そんな道だった。

 

一夏の力が戻り、この世界の災いが終わった後、また元の世界に帰るための旅に戻るつもりだった。

 

その道に、彼等を巻き込む事を、アストレイの総意とは別に、宗吾自身は是としていない。

 

だからこそ、そんな自分達が若い彼等に何を残してやれるか。

その答えが分からないからこそ、彼もまた悩むしかなかった。

 

何れ訪れる、別れの日に、悔いを残さないためにも・・・。

 

sideout




次回予告

修学旅行先でも、彼等の仲に変わりは無い。
しかし、それでも燃え上がるのが恋と言うモノだった。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は微笑んでいる

お楽しみに

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