やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は迫られる 其の六

noside

 

「比企谷君達は、一体何処に行ったんだ・・・!?」

 

時は少し遡り、教師の目を掻い潜って学校から抜け出した大和は、南と共に先行した八幡達を探すべく、必死に走り回っていた。

 

しかし、思いつく限りの場所を探せど、一向に事件現場に辿り着く事が出来ず、ただ時間だけが過ぎていくだけだった。

 

「もう結構経っちゃってる・・・!急がないと・・・!!」

 

「あぁ・・・!」

 

既に数十分ほどが経過し、事件が何らかの決着を始める頃間と悟った二人は、焦りの表情を浮かべながらも、その足を止める事は無かった。

 

そうしなければならないと、無意識の内に感じていたから。

だから、彼等は走った。

 

そんな彼等の前に、それは姿を現した。

 

川の底から現れた、海竜のような怪獣、ゾアムルチが苦悶の声にも聞こえる鳴き声を上げながらも、街の方へと向かって行くのが確認できた。

 

「怪獣・・・!」

 

「あれは、まさか・・・!!」

 

それを認めた二人の脳裏に、確信に近い嫌な感覚が閃いた。

 

あの怪獣が、以前話に聞いた怪獣である事が、解ってしまったのだ・・・。

 

「ムエルトさん・・・!そんなっ・・・!!」

 

ムエルトが抑え込んでいた怪獣が現れたと言う事は、その彼が命を落とした事の証左でもあった。

 

故に、最悪の結末に陥ってしまった事を察し、二人の表情は翳った。

 

だが、落ち込んでばかりはいられない。

 

喩え何も出来なくとも、自分達にはこの一件に関わった責任と言うモノがある。

 

それを果たさずに何をするかと言わんばかりに、大和と南は互いに顔を見合わせて頷き、ゾアムルチが現れた方角へと走った。

 

きっとそこに、八幡達がいると信じて。

 

走る事数分、河川敷に辿り着いた彼等が見たのは、愕然と膝を着き、悲嘆の表情でゾアムルチを見る八幡と沙希、彩加の姿があった。

 

三人とも、今すぐ変身して怪獣と戦おうとする気配が微塵も無く、ただただ、膝を着いて絶望しているばかりだった。

 

「比企谷君!戸塚君!!」

 

「川崎さん・・・!」

 

何が起こったのかを確かめるため、二人は彼等に駆け寄りながらも問う。

 

「どうしたんだよ・・・!?ムエルトさんは・・・!?先生達は・・・!?」

 

此処に居るべきはずの者がいない事に、大和は血相を変えて八幡の肩を揺さぶって問い質す。

 

此処で起こった事を教えてくれと、何があったと・・・。

 

「ムエルトさんは・・・、死んだよ・・・、俺を、俺を庇って・・・ッ!!」

 

大和に気付いたのだろう、八幡は拳を握り締めて地面を力任せに殴りつけていた。

 

その威力により、地面は大きく罅を走らせて凹む。

 

「やっぱり、そうだったかッ・・・!」

 

最悪の事態になってしまった事に、大和もまた唇を噛み締めていた。

 

人間の勝手な行動のせいで、罪のない異星人が犠牲になる。

何と愚かで、何と悲惨な事か。

 

同じ人間として、大和はそれを悔やみ切れなかった。

 

「俺は、彼をこんな目に合わせた奴等を許せない・・・、だから・・・、俺は戦わない・・・、戦いたくない・・・。」

 

怒りと喪失感が一周した虚無が、今の八幡を支配しているのだろう、彼は何処か虚ろな瞳で呟く。

 

この街の住人の為に戦う気が起きないのだろう、彼は懐のギンガスパークを取り出す素振りさえ見せずにいた。

 

沙希も彩加も、彼と同様、変身ツールを取り出そうとすらせず、ただただ呆然と街が破壊される様子を見ているだけだった。

 

そんな友人たちの姿に、大和と南はかける言葉が見付からなかった。

 

人間として、形はどうであれ、彼等は罪のない者を護ろうとこれまで戦ってきた。

 

人間には太刀打ちできない災害の具現化とも取れる存在を、自分達が戦う事で抑え込んで来たのだ。

 

それなのに、人間は彼等を裏切ったに等しかった。

 

故に、自分達が戦う意味とは一体何なのか、本当に護るべきモノとはなんだったのか、戦うための理由を見失ったも同然だった。

 

「比企谷君・・・。」

 

その痛ましい様子に、南はただ押し黙る事しか出来なかった。

 

咎人である自分が、これまで街の為に、人間の為に戦った者達に何を言えると言うのだ。

 

言ったとしても、ただ中身のない、上っ面だけのモノになってしまうのではないかという恐れもあった。

 

だが・・・。

 

「比企谷君、君はそれで良いのかい・・・?」

 

大和はその空気を破る様に問う。

 

戦わなくていいのかと、それで満足なのかと。

 

「人間に失望したのは、俺も同じさ・・・、ムエルトさんの言葉に耳を貸さずに暴走して、こんな事態を招いてる、正直、自業自得だって事は分かってるさ・・・!」

 

八幡の肩を掴みながらも、大和は彼の目を真っ直ぐ見据えた。

 

自分の想いを、そして、彼の願いを八幡へ届けるためにも。

 

「だからって、このまま何もしないで良いのか・・・!?それが正解なのか・・・!?君はそれで満足なのか・・・!?」

 

大和とて、自分がいかに都合の良い事を言っているか、そして、何と綺麗事を言っているか、それは理解しているし、言うべきではないとも分かっている。

 

だが、それでも言わなければならなかった。

 

「君はそんな事、思っちゃいない筈だろ・・・!?俺を助けてくれた時、君は言ったじゃないか!!間違いを抱えて進めるって・・・!!」

 

何時の日か、八幡が自分に向けていってくれた言葉を、今を作ってくれた言葉で、大和は八幡に向かって叫んだ。

 

間違っても進む事が出来ると、誰かとそれを成せばいいと・・・。

 

「だから・・・!もう一度俺達人間にチャンスをくれ・・・!おこがましいのは分かってる・・・・!だけど、後悔したくないんだッ・・・!!ムエルトさんの想いを、こんな形で途切れさせないでくれッ・・・!!」

 

だから、チャンスをくれと。

そのために戦ってくれと、大和は街を、いや、人類を代表してウルトラマンに頼み込む。

 

虫の良い話だとは百々承知、だが、それでも彼はそうしたかった。

 

八幡達の根底にある、誰かを護りたいと言う純粋な想いを、人間の醜い事で汚す様な事を許せなかったのだ。

 

何せ、この街には、そんな醜い人間以外にも、八幡や沙希、彩加の家族もおり、その中にはムエルトが文字通り身を犠牲にして救った京華もいる。

 

彼が、ムエルトが遺した想いを、無意味にはさせたくなかった。

それが、大和が思う、自分自身が出来る唯一の行動だった。

 

「ッ・・・!」

 

ムエルトの想いを受け取っていた事に気付かされた八幡は、逡巡するように歯を食いしばりながらも、何かを覚悟した様に目を見開く。

 

そして、そのまま立ち上がり、懐からギンガスパークを取り出した。

 

「うぉぉぉぉっ・・・!!」

 

悔しさからくる悲痛な叫びと共に、八幡はギンガへ変身する。

 

『ショォォウラァァッ!!』

 

急降下しながらも放たれたドロップキックは、完全にノーマークだったゾアムルチの頭部に叩き込まれる。

 

その攻撃に意識が向いたか、ゾアムルチは怒り狂った様な鳴き声を上げながらも、ギンガへと迫って行く。

 

それを迎え撃つべく、ギンガは構えを取りつつも走り出し、飛び膝蹴りをゾアムルチの腹に叩き込み、怯んだ隙にラッシュパンチの嵐を叩き込む。

 

あまりにも苛烈な攻撃に、ゾアムルチも堪らずに後ずさった。

 

その瞬間に、ギンガはその場で一回転した勢いをつけ、回し蹴りを叩き込んだ。

 

そのあまりにも強烈な威力を前に、ゾアムルチは意識でも飛んだか、悲鳴を上げて倒れ込んむ。

 

その隙にと言わんばかりに、彼はギンガスパークを操作し、ギンガストリウムへと変身し、ゾアムルチの尻尾を掴んで大きく振り回す。

 

『オォォッ・・・!!』

 

勢いが最大になった所で、ハンマー投げの要領でゾアムルチを大きく宙へと投げ飛ばした。

 

『ウルトラマンネオスの力よっ・・・!!』

 

そして、血を吐く様な叫びと共に、ターンテーブルに描かれていたウルトラマンネオスの力を選び、必殺光線の発射体勢へと移った。

 

腕を大きく広げてエネルギーを溜め、十字光線として放つその技は・・・。

 

『ネオマグニウム光線っ・・・!!』

 

強力な光の奔流は宙に飛ばされるゾアムルチを追いかけて駆け上がり直撃、耐えられなかったゾアムルチは盛大な爆発と共に空の藻屑となった。

 

それを認めたギンガも、ゆっくりと十字を解き、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

その背中からは、ただ戦う事しか出来なかった自分自身と、状況を悪い方へと導いた人間への嫌悪が入り交ざった、物悲しい雰囲気が伝わってくる様だった。

 

尤も、それを理解出来る者がどれだけいる事かは、誰にも計り知れない事だったが・・・。

 

ギンガは人知れずに変身を解き、大和たちの下へと戻ってくる。

 

「比企谷君・・・。」

 

その痛ましい姿を見た大和は、泣きそうな顔で友の名を呼ぶ。

 

その声は弱弱しく、本当にこれで良かったのかと思い悩む様な色さえ入り混じっていた。

 

「何も言うな・・・、何も・・・。」

 

友の言葉に、八幡は顔を伏せたまま大和の横を通り過ぎ、只一言だけ告げた。

 

戦う理由なら在った、そう言いたいのだろうか・・・。

 

こうして、理解を拒んだ者達によって引き起こされた事件は、誰にも救いを残さないまま幕を下ろすのであった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ムエルト・・・、長い付き合いだったよな・・・。」

 

その後、アストレイの店舗近くの空き地にて、ムエルトの火葬が執り行われた。

 

遺体は無かったが、遺品を寄せ集め、彼の下へと送る意味も込めて、彼等は弔いを行っていた。

 

その様子を最も近くで見やり、一夏は寂しげに、悲しげにつぶやく。

 

長い間、仲間として過ごしていた者の死に、空いた穴が塞がらない、そんな悲しみだけが伝わってくる様だった。

 

アストレイのメンバーもまた、自分達やムエルトが気に入っていた、出所が定かではない酒を持ち寄り、彼を悼むために炎を囲んでいた。

 

「何時になるかは分からんが・・・、俺達がそっちへ行ったら、また馬鹿やって爺さんに怒られようぜ、あの時みたいに・・・。」

 

一夏は嘗ての、旅をしていた時の事を想いだし、杯に注がれ酒を一息に煽る。

 

苦しい時もあった、修行の果てに倒れた事もあった、人間たちに裏切られ続け、荒んだ事もあった。

 

だが、その苦痛の中でも、ムエルトや他の宇宙人との絆が、彼をここまで歩ませてきたのだ。

 

過去を思うその姿からは、表に出さないまでも、哀しみの感情だけが窺い知る事が出来た。

 

彼の家族もまた、そうやって生きて来て、そうやって悲しんでいた。

 

「何故・・・、俺は何もしてやる出来ないんだ・・・。」

 

その最中、一夏は拳を握り締めながらも、小さく吐き捨てる。

 

自分は一体何をしているのか。

今迄、誰も失わない為に戦い、そのために神にも等しい存在に頭を垂れ、教えを乞うてきた。

 

それなのに、今の自分はウルトラマンの姿を失い、戦う事さえ出来ない。

 

これでは、何の為に力を着けたのか、何の為に戦っているのか分からなくなるのも必然だった。

 

自分が十全に戦えたならば、ムエルトも死なずに済み、八幡や沙希も苦しまずに済んだはずだった。

故に、彼は己の無力を憎み、憤っていた。

 

「ティガよ・・・、何故俺の所に戻ってこない・・・、何故なんだ・・・。」

 

戻らぬ力、戻らぬ者への嘆きが口を突き、涙の様に流れ落ちていく。

 

力があったはずの自分自身の無力に、打ちひしがれながらも、彼はただ見守る事しか出来ないのだ。

 

そんな一夏の苦悩を分かっているからこそ、セシリアやシャルロットもまた、なにも言えずにいるだけだった。

 

この苦しみが解かれるのが何時になるのか分からないまま、夜は更けていく。

 

その苦しみと共に燃える炎と共に・・・。

 

sideout




次回予告

秋も深まり、冬の気配が顔を覗かせる頃、唐突にその依頼は持ち込まれる事となる。
それは、彼ら以外にも変化を齎す波紋となるのだろうか・・・。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

川崎沙希は語らう

お楽しみに

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