やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡は迫られる 其の五

side沙希

 

「八幡!見付かった!?」

 

「こっちは外れだ!彩加と合流しよう!」

 

テレポートで学校を抜け出して、ムエルトさんの捜索に出たあたし達は、今だに彼を見付ける事が出来ていなかった。

 

騒ぎが大きくなってきている以上、身を隠すのも限界だと踏んでいたけど、読みが外れたか・・・。

 

いや、寧ろ、誰かが意図的に逃がしている様な気配がある様な気がしてならない。

 

誰か、なんて考えるまでも無いけど、そこから先を考えるのが少し嫌になるのも事実だ。

 

「八幡!沙希ちゃん!!」

 

「彩加!」

 

嫌な気持ちが高まって来た時、彩加があたし達に再度合流する。

 

だけど、彼も見付ける事が出来ていないのか、その表情は暗かった。

 

「全然見つからない・・・!と言うか、何処を逃げてるのかも分からないよ・・・!」

 

逃げ足に自信があるって事か・・・、だからあの時も、すぐに逃げたってわけね・・・。

 

だからと言って、こちらからアプローチできないのは勘弁してほしい、何せ、助け様がないもの。

 

「仕方ない、アレ使うか・・・?」

 

そう思っていた時だった、八幡が覚悟を決めた様に呟き、意識を集中させる様にきつく目を閉じていた。

 

「八幡・・・?」

 

一体何をするつもりなのか、あたしと彩加が心配しながら見守る前で、八幡の額には少しずつ脂汗が滲み始めた。

 

まさか・・・?

 

「くっ・・・!や、やっぱ気持ち悪いな、これ・・・。」

 

「まさか、ウルトラ念力使ったの・・・!?」

 

その尋常じゃない様子から、使う時は気を付けろと言われているウルトラ念力を使ったのかとも思ってしまうが、どうやらそうじゃないらしい。

 

「この街の中に在る音、全部拾える位まで聴覚を出来る限り鋭くしたんだ、場所、分かったぜ・・・!」

 

「な、なんて無茶してんだい・・・!」

 

ウルトラマンになったとは言っても、所詮あたし達は人間から一歩外れた程度の存在だ、そんな無茶な事したら身体はともかく、脳の方がどうなるか分かったもんじゃない。

 

彼氏が脳損傷で廃人とか、洒落にもならないから咎めようとしたけど、八幡の表情に余裕は無く、ただマズイことになっていると言わんばかりの焦りが見えた。

 

「ここから西に3㎞行った所で銃声が聞こえた、間違いないぜ。」

 

「銃声って、まさか・・・!」

 

銃なんかで撃たれる相手なんて、他に考え付かない。

 

「遠いけど、走るぞ!」

 

「「うん!!」」

 

だから、あたし達は迷うことなく走った。

 

友好的な異星人を、ただ異星人だからという理由で、地球人が殺めてしまうと言う惨い結果を回避させるためにも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「いたぞ!」

 

「侵略者め!逃がさんぞ!!」

 

八幡達が銃声がした方へ向かっているその時。

その銃声がした場所から更に少しだけ離れた場所にて、何十もの住人が、たった一人の者を追いつめていた。

 

住人達の表情には怒りの表情だけが見て取れたが、誰もがその異様さに、本質に全く気付いている様な素振りは見られなかった。

 

「ま、待ってくれ・・・!私は何もしていない・・・!何もしていないんだ・・・!」

 

堤防の端に追い詰められた異星人、メイツ星人ムエルトは必死に弁明しようとしていた。

 

撃たれた箇所からは血が止め処なく流れ、何か所も殴られているであろうことが窺えるほど、既に満身創痍だった。

 

宗吾に逃がされてからも追跡が続いていたのだろう、既に余裕はなく、ただ話を聞いてほしいと懇願するしか出来なかった。

 

「黙れ!お前を生かしていると怪獣を呼ぶことぐらい分かってるんだ!大人しくしろ!!」

 

高校生ぐらいの少年たちが、怪獣を呼ぶのはムエルトだと決めつけ、石を投げつけていた。

 

どれもこれも、明確な悪意と言うモノは無く、ただ雰囲気に流されているだけにも受け取れる辺り、非常に性質が悪かった。

 

「うっ・・・!」

 

その内の一つが頭部に直撃し、またも緑色の血が流れ落ちる。

 

最早、話し合いの余地はないと分かっていても、彼は地球人に手を出そうとはしなかった。

 

彼は分かっているのだ、自分が手を出せば、自分以外の異星人の印象をより悪くする結果にしかならないと知っていたから。

 

だが、それを知らぬ人間たちに、彼の想いは届く事は無い。

 

何せ、彼等はまだ歴史が浅く、異星の者との交流など無く、ただ怖いからという理由でしか行動していないのだから・・・。

 

無慈悲な迫害がエスカレートし、終わりが見えなくなったその時だった・・・。

 

投げ付けられていた石つぶてが全て打ちかえされた様に軌道を変え、一気に群衆へ殺到する。

 

「う、うぉぉぉ!?」

 

「イテェェ・・・!」

 

予想だにしなかった事態に、群衆は慌てふためく。

 

理解不能、そう表す事が容易い様子だったが、ムエルトには見えていた。

 

今、目の前に降り立った7人の鬼の存在を感じ取っていたから・・・。

 

「貴様等・・・、コイツになにした・・・?」

 

7人の戦鬼の筆頭、フルフェイスヘルメットで顔を隠した織斑一夏が、地獄の鬼の様に低い唸り声で問う。

 

その声には怒りの感情だけがあり、今すぐにでも打ちかかっても良いと言わんばかりの色があった。

 

彼と同じく、フルフェイスヘルメットで表情を窺えないが、アストレイのメンバーの雰囲気だけで相手を射殺さんばかりの殺意と敵意をむき出しに、拳を握り締める。

 

その気配を察知したのだろう、群衆の一部が後ずさった。

 

異様、まさにそうとしか形容できない雰囲気に、彼等は知らず知らずの内に呑まれていたのだ。

 

「俺のダチに手ぇ出したんだ、仇討と落とし前、着けさせてもらおうか!!」

 

そして、仲間を気付付けられた今、人間に危害を加える事に躊躇の無いアストレイズもまた、後ずさる群衆に落とし前を着けさせるべく駆け出した。

 

先陣を切った一夏が、群衆の戦闘にいた数人を、老若男女の区別なくなぎ倒していく。

 

やられた事に驚き、混乱の渦中に叩き落とされた群衆に逃げる暇さえ与えんと、セシリア達も飛び掛り、なるべく急所を避けた殴打を叩き込んで行く。

 

ある者はその場で昏倒し、またある者は漫画ばりに吹っ飛ばされて地面に叩き付けられて動かなくなる。

 

軍人として、ウルトラマンとして圧倒的なまでの力を身に着けた一夏達にとって、地球人の一般人程度、指先一つで屠る事など容易い事だった。

 

だが、それをしないのは、彼等の師とのアレコレがあるのだが、今は語る事では無いだろう。

 

「ムエルト!ここから早く逃げろ!!もうすぐ俺達の弟子が来る、彼等と共に行け!!」

 

一夏はムエルトへと向かう群衆を相手取りつつも、ここから早く逃げろと叫ぶ。

 

彼も感じ取っていたのだ、此処に猛スピードで向かってくる3つの光の存在に。

 

「お前を死なせる訳にはいかん、俺達、仲間だったろ?」

 

誰にも見られない様にスモーク加工したヘルメットバイザーの奥で、彼は微笑んだ。

 

一時とは言え自分達と共にいた仲間ならば、何が有っても護ってみせる。

それが、他と対立しても護り抜くと言う、彼等の信念だった。

 

「っ・・・!」

 

その言葉に呼応するように、八幡達が土手に現れる。

 

必死に飛ばして来たのだろう、肩で息を切らす様な様子も見受けられた。

 

「皆!!」

 

「よかった・・・!間に合った・・・!」

 

群衆の注意が一夏達に向いている隙に、八幡達はムエルトに駆け寄る。

 

ムエルトにつけられた傷と流れ落ちる血に、3人の表情は一瞬だけ驚愕と苦痛に彩られるが、それも一瞬の事、すぐさま頭を振って、ムエルトを庇う様にしながらも立ち上がらせた。

 

「早く逃げましょう!」

 

「先生達なら大丈夫です、だから早く!!」

 

自分達の師に絶大な信頼を寄せている3人は、群衆たちの方へ意識を向けつつも肩を貸す様にして闘争を図る。

 

兎に角生きて逃げる、それだけだった。

 

「し、侵略者が子供を盾にして逃げるぞ!」

 

「お巡りさん!早く何とかしてくれよ!!」

 

その行動を、ムエルトが八幡達学生を人質にしたと解釈した暴徒は、投げ飛ばされたり殴り飛ばされたりしながらも、何とかしてくれと叫ぶ。

 

暴徒と化した群衆の中には武装した警官の姿もちらほらと見受けられ、その全員が警棒や暴徒鎮圧用シールド、更には拳銃を所持し、何とかムエルトを捕えようとしているが、アストレイズの圧倒的な力による妨害により、それも困難を極めている状況だった。

 

だが、喩えそれが本来あるべきモノから歪んでいたとしても、それでも自身の使命を果たそうと、アストレイの妨害を、必死に潜り抜けた一人の警官がムエルトの方へ銃を構える。

 

最早警告は無意味と言わんばかりに、彼は引き金に指を掛ける。

 

「ッ・・・!いかん・・・!!」

 

それに気付いたコートニーが止めようと動くも、最早間に合わない所まで引き金は引かれていた。

 

「ッ・・・!!」

 

刹那、怒号と悲鳴が入り乱れる空間を切り裂く、一発の銃声が響き渡ったのであった・・・。

 

sideout

 

side八幡

 

「あッ・・・!」

 

ムエルトさんに肩を貸しながら走っていた俺は、銃声が耳朶打つ直前、何かに押されて道の脇に倒れ込む。

 

何が起きたのかと確かめようとした俺の目に飛び込んで来たのは、銃弾に貫かれた胸から緑色の血をまき散らしながらも、ゆっくりと倒れ込むムエルトさんの姿だった。

 

状況を理解出来ている筈なのに、思考がその結論を出すのを拒否しているかのように、俺の思考は真っ白な空白が生まれたかの様に停滞していた。

 

沙希と彩加も、銃声が聞こえた事でそれに気付いたのだろう、一瞬だけワケが分からないと言わんばかりの表情で目を見開くばかりで、声さえあげられなかった。

 

だから、俺達三人が動けたのは、ムエルトさんの身体が地面に崩れ落ちた後だった。

 

「「「ムエルトさんッ・・・!!」」」

 

呆然自失から立ち直った俺達3人は、脇目も振らずにムエルトさんに駆け寄って彼の身体を抱き起す。

 

「ッ・・・!このッ・・・!!」

 

銃声によって一瞬だけ喧騒が嘘のように静まり、コートニーさんの怒声が良く響き渡った。

 

その直後、何か硬いモノが折れた様な嫌な音が聞こえてくる。

恐らくは、コートニーさんが撃ったヤツのどっかの骨を圧し折ったんだろう。

 

だけど、今の俺達の意識は目の前の事で精一杯だった。

 

「ムエルトさん!まさか、俺を庇って・・・!!」

 

ムエルトさんの肩を担いでいたのは俺だけだった、つまり、あの銃弾は当初、ムエルトさんでは無く俺に向かってくる筈だったと言う事だ。

 

それを避ける為に、彼はまた自らを犠牲にして、俺を助けてくれた・・・。

 

「ッ・・・!ぎ、ギンガ・・・、あ、貴方は・・・。」

 

致命傷を負ったのか、彼は息も絶え絶えに、俺の肩を掴みながらも語りかける。

 

まるで遺言でも残すかのように、死に向かう間際のその表情には鬼気迫る迫力があった。

 

「貴方方は・・・!ティガのように・・・、彼等の様になってはならない・・・!」

 

「ッ・・・!?」

 

先生達の様になってはならないって、一体どういう・・・!?

 

その意味を問おうとしたが、それよりも先にムエルトさんは吐血し、どんどん意識が遠のいて行くのが見ていてわかってしまう。

 

「ダメだ・・・!意識をしっかり持って・・・!!死んじゃダメだ・・・!!」

 

「先生ッ・・・!早く・・・!早く来てくださいっ・・・!」

 

なんとか意識を引き戻そうと、どうにかして先生達を呼ぶために叫ぶけど、その甲斐も無く、俺の肩に置かれていた手が地に落ち、彼の身体は緑の血だけを残し、最初から何もなかったように消えた。

 

「「「ムエルトさんッ・・・!!」」」

 

護れなかった。

その事実が胸に突き刺さる。

 

「ムエルト・・・!そんな・・・!!」

 

「また・・・!また俺達は・・・!!」

 

漸く暴徒の波をかき分けた先生達が駆けつけるが、彼の死に目には間に合わなかった・・・。

 

先生でさえ膝から崩れ、嗚咽を堪えるように歯を食いしばり、怒りをぶつけるようにして地面を殴りつけていた。

 

予想はしていた、でも来て欲しくは無かった、迎えたくなかった結果に、俺は只、泣く事も公開する事も出来ないまま、何処か呆然と、魂でも抜けた様に竦む事しか出来なかった。

 

「くそっ・・・!」

 

「よくもッ・・・!!」

 

宗吾さんとシャルロットさんが、怒りにまかせて暴徒に向かって再び殴り掛かろうとしたところで、それは起きた。

 

突如として地面が大きく揺れ始め、川の方から大きな水柱が上がった。

 

「な、なんだぁぁぁ・・・!?」

 

群衆の中の誰かが、悲鳴にも似た叫びをあげる。

 

そうか・・・、ムエルトさんが死んだって事は、封印が解かれたって事か・・・。

 

水飛沫が全て落ち切った時、その怪獣は姿を現した。

 

大昔に生息していたと言う、海竜が怪獣化した様な姿の怪獣は、ゾアムルチというらしい。

 

「か、怪獣だぁぁぁ!?」

 

「う、宇宙人は殺したのに、何で出て来るんだぁぁ・・・!?」

 

ゾアムルチの唐突な出現に、群衆は大混乱に陥り、何処に逃げるか分からない状態になっていた。

 

だが、先生達に痛めつけられた事が効いているのか、逃げられない奴等も見受けられた。

 

運悪く、とでもいうべきなのか、ゾアムルチは人間の苦悶の声に聞こえる様な泣き声をあげて、動けない奴や、逃げ惑う奴等の方へと向かって行く。

 

「た、助けてくれぇぇ!!」

 

「助けてぇ!ウルトラマン・・・!!」

 

勝手な事を言うな。

あの怪獣を呼び寄せたのはお前達だろう。

 

そんな奴等を、俺達が救う義理なんて無い・・・!

 

ゾアムルチは泣き声をあげつつ火を噴き、逃げられなかった何人もの人々が悲鳴を上げながらも焼かれ、一瞬の内に命を落とす。

 

その凄惨な光景にも、今の俺は何も感じる事が出来なかった。

死んだのは、訳も知らずに彼を殺した奴等だったんだ、同情の余地はない。

 

しかし、なんて苦しげで、悲しげな声なんだ・・・。

 

まるで、彼の無念の叫びが聞こえてくるようだ・・・。

 

「ここまでだな、帰るぞ。」

 

そんな最中、先生はムエルトさんが倒れていた場所の土と、申し訳程度に残った血が付いた衣服の切れ端を拾い集め、それを持ち帰ろうとしていた。

 

身体は無くても、そこにいたと言う証のつもりだろう、彼等がやる事は、恐らく弔い・・・。

 

「彼を弔う、ここに用はもうないよ。」

 

その言葉に、アストレイのメンバーは怒りの表情から、仲間の死を悼む表情へと変わって行き、皆踵を返して店のある方へ帰って行こうとした。

 

もう、人間たちに見切りを着けている様にも見えて、俺は何とも言えない感情を抑えきれなかった。

 

助けたくはないけど、そのまま見過ごしてしまってもいいのか。

 

目の前で知り合いを殺されたとしても、俺は、どうすべきか決められなかった。

 

だって、彼の遺言は、先生達みたいになるなだったから・・・。

 

「先生っ・・・!あたし達は、どうすれば良いんですか・・・!?」

 

妹の恩人を殺された沙希は、涙で目元を真っ赤にしながらも、先生達に問いかける。

 

彼女も同じなんだ、戦うべきか、戦わないべきか、その答えが欲しかったのだろう。

 

だけど、アストレイのメンバーは何も答えないまま、姿を消した。

 

まるで、自分達で決めろと。

アストレイになるか、俺達の道を往くか、選べと言われている様な気がした。

 

その選択の先に待つのは、先生達との今後を決める事とになると、漠然と予想が出来た。

 

でも、俺には、俺達には何も、何一つ決める事が出来なかった。

 

結局、今の状況で、正解なんて何処にも無いと気付いていたから・・・。

 

sideout

 




※2017/9/20追記
ムエルトはスペイン語で死を意味します。



次回予告

逃げ惑う人間たちに迫る無慈悲な暴力は、それまでしてきた事への報いなのだろうか。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている

比企谷八幡は迫られる 其の六

お楽しみに

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