やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている 作:ichika
side八幡
「おはよう。」
ムエルトの正体が町中に知れ渡って早数日、俺は朝食を取るためにリビングに降りた。
結局、あの一件の後に、俺達はムエルトを見付けられないでいた。
ニュースや新聞、聞こえてくる噂を聞いても、宇宙人や侵略者が捕獲されたと言う報せは無く、ただ不安をあおるだけの内容だけが聞こえて来るばかりだった。
先生達に事の動向を聞いても、返ってくるのは見つかっていないという返答だけ。
そこから先の話は一切なかった。
「あ、おはよ。」
そんな事を考えながらもリビングに顔を出すと、小町が朝食にあり付きながら手を振ってくる。
「おう、今日は早いんだな。」
「何時も寝坊してるみたいに言わないでよ・・・。」
軽口を叩きつつ、小町に向かい合う様に座りながらも、用意されていたパンと紅茶に手を伸ばす。
何時もの朝、何時もの食事の筈なのに、何処か雰囲気が異なっていた。
そこから暫くは、朝食を採るためにお互い無言となり、流れるテレビニュースの音だけがリビングに響いていた。
「・・・、これから、どうなっちゃうのかな・・・?」
そんな雰囲気を破る様に、小町が何処かおずおずと尋ねてくる。
小町にも分かっているのだろう、今の街の雰囲気が良くないと言う事を・・・。
「どうするん、だろうな・・・、というかどうすれば正しいんだろうな・・・。」
その問いに、俺は何も答える事が出来なかった。
結局、あの後一晩考えても答えは出なかった。
何せ、俺が出来る事と言えば戦う事だけだ、こんなにも色んなしがらみが絡んでくる事に足を突っ込む事なんて、今の今までなかった。
コルネイユの時みたいに、相手が人間じゃなくて、それも悪人だったから倒せたけど、今の事件に悪はあるのか・・・?
街の人の反応だって、俺にも力が無ければ、宇宙人がそこにいると分かれば何をされるか分からないと言う恐怖心を抱くに違いないから、理解も出来る。
しかし、だからと言ってその反応が正しいとは言えるはずが無い。
理由がどうであれ、その宇宙人は地球人の幼子を、正体がばれると言う大きすぎるリスクを冒してまで救ったのだ、それに対して、侵略者と言う言い掛かりはすべきではない。
少なくとも、俺はそう感じた。
そう考えると、俺がウルトラマンとして戦うべきなのは、一体どちらなのか、また分からなくなってきた。
「だけど、一つだけ分かってる事だけはあるさ。」
「それは・・・?」
「京華を助けてくれた恩を返す、そのためにムエルトさんを見付けて助ける。」
だけど答えは、俺が考える結論は至って単純。
ムエルトさんのから受けた恩を返すために動く、それで良いんだ。
「お兄ちゃんらしくない、捻くれてないシンプルな答えだね、ホント、変わったんだ。」
「今更、だろ?皆に変えて貰ったんだ。」
「そっか、そうだね。」
俺の答えに、小町はフッと笑って席を立った。
おっと、今日も学校はあったな、さっさと行くとするか。
俺は、信じたかった。
きっと、ムエルトさんは無事にこの騒ぎから逃られると。
人間は、そこまで愚かではないと・・・。
sideout
noside
「それで、何か分かったの・・・?」
その日の昼休み、八幡は科特部の部室にて昼食を取りながらも、成果を報告しあっていた。
集まったメンバーは、ウルトラマンについて知っている5人であり、一夏は何処か違うトコにでもいるのだろう、部室内に姿は無かった。
先程の南の問いに、彼等は皆、食事にありつく手を止め、一様に渋面を作った。
「何にも全く、足取りさえ掴めやしないね、目撃情報も無いと来た、お手上げだよ。」
沙希は全く得られたものがないと、タメ息を吐きながらも話す。
その言葉に、八幡や大和もまた、やっぱりかと言う様に沈んだ表情を見せた。
無理もない、彼等の師である一夏達でさえ、ムエルトの足取りを掴めていないのだ。
今だ学生であり、そこまでコミュニティの広くない彼等に、師以上の情報を集めて来いと言うのも酷な話だ。
「ただ単純に感心するよね、ムエルトさんの身のこなし、先生達の友人ってのも嘘じゃないみたいだ。」
「そこは疑わなくても良いだろ、先生のウルトラマンの時の名前知ってたみたいだし。」
大和の感心する様な言葉に、八幡はそこはどうでも良いと返す。
何せ、彼等が知らない情報を、それも一夏達が暗に認めた情報を知っていたのは、信憑性が高いと言う事は疑う余地も無い事だった。
「でも、それは兎も角、早くムエルトさんを見付けないと、取り返しのつかない事になっちゃうよ・・・。」
だは、そんな事よりも、彩加的に気がかりだったのは、この先に待つ展開そのものだ。
その言葉に、皆一様に苦い表情となった。
何度も、事件が起こってから幾度と考えて来た最悪の展開、それが現実味を帯び始めて来ている事に気付いていた。
何せ、町内だけでなく、学校でも異星人が侵略に来たと言う話が、尾鰭が付いて広まっており、中には自分が侵略者を討つと、取り巻きの前で豪語するモノまで現れる始末だ。
しかし、それだけで済めばよかった。
地元の警察まで、本当に侵略による破壊活動があると警戒しているのか、武装した警官が町内を巡回する様子も見られるなど、町ぐるみで雰囲気が日に日に悪化していった。
これでは、何がどう悪いのか断言できるものなどいない。
ただ、周りがそう言うから、だから怖い、だから排除しなければならないと流されている様な状況だった。
「俺達に、この雰囲気を変える力なんて無い・・・、ウルトラマン自体が公然と非難されないのも、まだ人間の味方って言う第一印象があるだけ、なんだよな・・・。」
彩加の言葉に、八幡は出来る事など今はないと、自分達もこうなっていたかもしれないと、苦悶の声で呟いた。
一体自分は何をどうするために、何の為に戦ってきたのか。
シンプルだったはずの答えさえ、その意味が本当に正しいのか分からなくなっていた。
その言葉に、誰もが何も言えずに黙りこくるしかなかった。
重苦しい沈黙が部室内に充満していたその時、突如として校内放送の開始を報せるチャイムが響き渡った。
『全校生徒に通達します、この地区に有害鳥獣並びに不明生物出現による警報が発令されました、生徒の皆さんは屋内待機してください。』
『ッ・・・!!』
その放送は、怪獣やそれに準ずる存在が現れたと言う証左に他ならない。
そして、今この街に現れたという確率が高いのは、メイツ星人ムエルトと、彼が抑えているゾアムルチだった。
後者はムエルトが抑えている限り現れる事は無いと分かっているが、八幡は窓の外を確認、巨大怪獣が現れていない事を確認し、それがムエルトの事であると確信した。
「マズイ・・・!何とか助けないと・・・!!」
沙希は血の気が引いた表情のまま叫ぶ。
このまま最悪の事態に陥った時、人間への怒りから師匠たちが何をしでかすか分からない恐怖に駆り立てられたのだろう。
「行くぞ!この際、テレポートでもなんでも使う!!」
「分かった!比企谷君達は先に行って!」
何としてでも助ける、その思いと共に八幡達ウルトラマン三人はテレポートを行う為に意識を集中し、大和と南は後から追うと部室を飛び出して行った。
「行くぞ!」
その掛け声と共に、八幡達の姿は部室から掻き消えた。
必ず助ける、そう強く覚悟決めながら・・・。
sideout
noside
曇天が支配する町内に、けたたましいサイレンが鳴り響いていた。
まるで何かを追う様に、一定の場所を回っている様な気配を窺えた。
「くっ・・・!しくじった、かな・・・?」
その追われている対象であるその男、メイツ星人ムエルトは肩を押さえながらも陰になる様な場所を選びながらも逃走を続けていた。
警官にでも撃たれたのだろう押さえた指の隙間から、地球人の物ではない、緑色の血が止め処なく流れていた。
「しかし、死ぬわけにはいかない、な・・・!あの人達を、また修羅にさせてはならない・・・!」
その表情に余裕は無い。
寧ろ、自分がここで倒れた後の地球がどうなってしまうか、それが怖いのだろう。
一夏達アストレイの7人が、本気で地球人類に愛想を尽かした時、それは彼が最も恐れる、ウルトラマンが地球を見限った証左に他ならないのだから。
そうならない為にも、自分はこの修羅場から逃げ切る。
生憎、逃げるのは得意と自負しており、それを活かしてでもと・・・。
「ムエルト!!」
そう思った時だった、今一番会いたくないと思っていた人物が、彼の目の前に現れた。
「ッ・・・!マックス・・・!!」
「助けに来たぜ!乗れ!!」
渋面を作るムエルトの想いに気付かず、その男、宗吾は肩を貸しながらも、飛ばしてきたバイクに向けて移動を始めた。
アストレイメンバーに共通する想い、それは、仲間だけは何が有っても助け出すという純粋すぎるものだった。
だが、助けてくれると言うのならば話は別だ、彼は何も言わずに肩を借りながらも、脚を引き摺るようにして逃げた。
「いたぞ!侵略者だ!!」
しかし、一足遅かったようだ、彼等の背後から暴徒と化した住人の怒声が聞こえてくる。
しかも、一人や二人では無い、何人もの気配がしているあたり、取り囲んでリンチ紛いの事を行うつもりなのだろう。
「チッ・・・!ムエルト、バイク運転出来るな?俺が足止めするから行け!!」
それに気付いた宗吾は舌打ちしながらも、何とか自身のバイクまで辿り着き、ムエルトを跨らせてエンジンを掛けた。
「マックス・・・!待って・・・!」
「後で説教なら受けてやるから、生き延びろよ!!」
彼を止めようとするムエルトを遮り、ウルトラ念力の応用でバイクを無理やり発進させた。
急に動き出したバイクを制御する事に必死になったムエルトは、何とかその場から逃れる事が出来た。
それを見送りつつ、宗吾は相手の戦力分析に入る。
主に向かってくるのは角材やら木刀、大型のシャベルなどを構えた一般人だったが、若干武装警官も混ざっている事が見て取れた。
普通ならば、これらを相手にするのが何の戦闘経験も無い人間だったら、まず命は無い。
だが、元軍人で現役のウルトラマンである宗吾には、それを下す事は容易い事だった。
寧ろ、殺さない様に手心を加える必要さえあるほどだった。
「さぁて、手加減忘れない様にしないとな・・・!」
戦士の目になった宗吾は、木刀を構えて向かってくる男との間合いを、その男が瞬きした一瞬の内に詰め、大外狩りの要領で倒す。
その際、男の手から木刀を奪い取り、試しに一振りしていた。
「な、なんだ・・・!?」
「侵略者の仲間か・・・!?」
「構わねぇ、やっちまえ!!」
その一瞬の行動に、暴徒たちは一瞬たじろぐが、すぐさま宗吾を敵と認識した様だ、ムエルトから意識を彼に向け、取り囲むようにして迫ってくる。
脳天でもかち割るつもりか、シャベルを振り下ろさんと迫る男に対して、宗吾は剣を使うまでも無いと竿の部分を左腕で掴みながらも捻り、男もろとも大きく回転させながら投げ倒した。
漫画でしか見ない様な、有り得ない吹っ飛び方だったが、宗吾にとっては茶飯事の事で、取り立てて気にする事では無かった。
「この、侵略者がッ!!」
侮蔑の言葉を吐きながらも、武装警官は宗吾に向けて銃口を向ける。
「ッ!」
それに気付いた宗吾は、角材を振って来た男の腕に狙いを定めて跳躍、直前に放たれた銃弾を舞う様に回避しながらも、空を駆けるかのように一気に警官との距離を詰め、木刀で銃を狙って振り抜き、警官の手から銃を弾き飛ばした。
「そんなもん使っても、俺をとっ捕まえるのは無理だぜ!いい加減、アイツの事は諦めな!!」
挑発しながらも、宗吾は一歩もそこから動こうとはしなかった。
最悪の事態を回避する、その一心で彼は、本物のウルトラマンが本来護るべき人間に刃を向ける。
分かり合えないのならば、自分達がその間に入る壁となる。
それが、お互いにとっての、本当の意味での幸せとなるのならば、と・・・。
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次回予告
ムエルトを逃がすアストレイメンバーの前に立ちはだかるのは、無意識の悪意か、闇の脅威か。
彼等が見る結末とは・・・?
次回 やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている
比企谷八幡は迫られる 其の五
お楽しみに